相談がある。
そう言って副部長を部活後に引き留めたのは、一年生の黒川だった。
皆が道具の後片付けをする中そう言われてしまえば断る術などない。いや、そうでなくとも彼の申し出を断るなど、出来ない理由が灰原にはあった。
汗の臭いがこもった野球部の部室で灰原と黒川は対峙する。
「……先輩」
灰原とそう変わらない身長の後輩が、言葉とは裏腹な不遜な態度で歩み寄る。そしてそのまま灰原のアンダーシャツに手をかけた。
「ッ!」
いまどき暑苦しいと忌避されるハイネックのアンダーの裾を強引に捲り上げられる。その下には野球部員らしく鍛えられた身体があった。しかしそれだけではない。汗ばんだその身体には麻縄が幾重にもかけられていた。
「こんな格好で部活やってたんスか。ハハ、すげぇ」
「これはっ、お、お前が……」
「下まで見せてくださいよ」
部活が始まる前、ひと気の無いトイレに灰原を連れ込んで身体を縛ったのは黒川だ。どの口でそれを言うのか、と灰原は思ったが、黒川は意に介するそぶりも見せず灰原のベルトを外しにかかる。咄嗟に嫌だと言いかけた灰原は、しかし唇を強く噛んでその言葉を飲み込んだ。
「……なんだ。勃ってたら面白かったんスけど」
つまらなさそうに呟いた黒川は、下着の上から灰原の股間を撫でる。ビクッと反応した身体をじっと見つめた彼は、まるで独り言のように呟いた。
「やっぱ、……邪魔っスよね、それ」
「……?」
「ま、切れば良いか」
独り言のように不穏な言葉を口にして一度離れた黒川は、端に置かれた机の引き出しからハサミを取り出すと、それを片手に灰原へと近づいた。
灰原は危険を感じたが、一歩、二歩後ずさったのみで何も出来ない。逃げるべきか、いやしかし、と戸惑っているうちに黒川は灰原の腰を掴める位置にまで近付いていた。
「帰り、ノーパンですけど良いっスよね」
ジョキン。
縄の下の下着にハサミが入る。
「お前っ」
「動くと怪我しますよ」
言いながら淀みなくハサミを進める黒川を前に、灰原は抵抗するなど到底無理なのだということを悟る。灰原には黒川の行うことをただ黙って受け入れることしか出来ないのだ。選択肢など、最初から与えられていない。部長である白瀬への邪な想いを知られてしまった自分は、秘密を守って貰うために黒川の言いなりになるしかないのだ。
黒川によってただの布切れにされてしまった下着が縄の下から抜き取られる。彼はそれをまとめてゴミ箱へと捨ててしまうと、灰原へ跪くように指示した。
「今日は後ろから挿れます。先輩、後ろからされるの好きっスよね」
好きなわけがない。そう思ったが、灰原は黙って床へ膝をついた。ベルトは外したままだ。
従順な姿勢を見せる灰原に、黒川は満足そうな笑みを見せた。そして楽しそうに灰原の背後へと回る。
どこに持っていたのか、黒川はローションで濡らした指を尻へと無遠慮に突っ込んできた。そして数回抜き差しされて形だけ慣らしたそこへ、黒川は己のペニスを無理矢理挿入した。
「う、ぐぅ……っ」
「もうちょっとエロい声出してくださいよ、先輩」
何度されても慣れない行為に思わず漏れ出た声へ黒川は注文をつける。
「ほら。先輩の大好きなチンポですよ」
無意識に逃げようとする灰原の腰を掴み、黒川は強引にペニスをねじ込んできた。
「嬉しいでしょ」
もがく灰原の両腕を後ろで抱え込むように拘束し、灰原の感じる痛みなど意に介さない様子で黒川は律動を開始する。
灰原の体内は黒川を拒むように閉じていたが、重力には逆らえない。自分の体重によって黒川のペニスをズブズブと根元まで受け入れる形となった。
「なんだかんだ言って俺に馴染んできましたね、先輩のカラダ」
「そ、んな、ことっ」
「だってほら」
勃ってますよ、と前を指の腹で撫でられ、灰原は愕然とした。律動を繰り返す黒川の動きに揺らされながらも、灰原は己のペニスが芯を持っているのを目の当たりにする。それは信じたくない光景だった。
「違う、違うっ」
「じゃあ縛られて勃起したってことになりますね。ハハ、どっちにしろ変態じゃないっスか」
ゴツゴツと奥を突かれ、灰原の鈴口からは透明の粘ついた汁が垂れ落ちる。コンクリートの床がその形に変色するのを、灰原は絶望に似た感情を抱えて見つめることしか出来なかった。
◆
そうして二十分ほど体を揺すられ続け、灰原は体力の限界を感じ始めていた。ただでさえ部活のあとなのだ。疲れ切った身体にはもう、この無理矢理なセックスに耐えられるだけの体力は残っていない。もはや灰原は抵抗することもできず、黒川に体を揺さぶられるがままとなっていた。
「先輩、サボんないでください」
「……っ」
「そんなんじゃ、いつまでたっても終わりませんよ?」
部室内には夕陽が差し込んでいる。もうしばらくすれば日は沈み、夜が訪れるだろう。
帰りが遅くなれば家族が心配するかもしれない。
そう思ったが、灰原の疲労は限界まできていた。
「……チッ」
煽りの言葉へ反応しなくなった灰原に、黒川は舌打ちする。そして苛立ちを隠すこともせず、彼は灰原の乳首を強くつまんだ。
「ナカゆるゆるスよ? ちゃんと締めてください」
痛みにみじかい悲鳴をあげた灰原の尻が締まる。ペニスがギュウっと包まれ、その感触に満足した黒川は、更なる刺激を与えるため、灰原の首筋に歯を立てた。
「うああっ」
良い声だ、と黒川は思った。ゾクゾクする。そう思いながら、指をかけたままだった乳首を捻り上げる。
「ひあぁっ!」
普段の澄ました顔からは想像もできないような無様な声をあげ、灰原は射精した。
◆
「先輩、痛いのが好きな変態だったんスね」
身支度を整えた黒川は、いまだ床に座り込んだままの灰原へと蔑みの言葉を投げ掛ける。
灰原は尻から精液を漏らしたまま、呆然として動かない。痛みで射精したのがそんなにショックだったのか、と黒川はおかしく思った。
灰原の体から解いた縄をナイロン袋へ入れたうえでスポーツバックにしまい、それを肩へかける。そのまま部室から出る前に、もう一度灰原へと声を掛けた。
「俺、痛みを与えるの、好きなんス」
それを他人に話したのは初めてだった。
灰原はのろのろと顔を上げ、扉付近に立つ黒川を見上げる。乱れたままのユニフォームの肩口からは、黒川が付けた歯型が生々しく残っていた。
「変態同士、仲良くしましょうよ。ね?」
少し笑いながらそう言うと、灰原の返答も聞かず、黒川は部室を出た。
残された灰原は再びのろのろと顔を伏せ、コンクリートの床を見つめた。恥ずかしさと情けなさと惨めさに涙がこぼれる。どうしてこうなったのか。
涙は精液が飛び散ったままの床へと落ち、同じように染み込んで床の色を変えた。
Radx26
2022-09-29 13:26:50 +0000 UTC