屋敷昴は、中野聡司に近付いて親しげに話そうとする人間が嫌いだ。
聡司の良さを分かっているのは自分だけで良いと常々思っている。なのに二年生の三学期に入ってから、聡司と会話を試みようとする輩がポツリポツリと現れ始めた。事あるごとに、自分と親友だという設定を吹聴していたのだが、それが浸透したからだろうか。聡司が自分に付き纏っているという噂が立っていた頃は当たりがキツかったというのに、と昴はやや呆れてしまう。
聡司が自分を好きだという噂は自ら流したものだったが、直接聡司へ注意という名の文句を言ってくる生徒が現れ出したので、昴は彼が親友であるという振る舞いを始めたのだった。しかしそれがまた、こうして裏目に出ている。
昼休み、聡司を呼び出した社会準備室で彼を待っている間、昴は幾度かため息をついた。
自分らしくない、と思う。こんなに上手くいかないのは初めてだった。どうも自分は聡司のことになると冷静になれないらしい。しかしそれもまた、楽しいのだ。聡司といると自分の新たな姿を発見できる。それはまるで、つまらなかった世界に鮮やかな色彩が広がるようだった。
◆
聡司には、昼休みの図書委員の当番を無理矢理交代させた。当日急に告げたのだから、恐らく別の委員に直接頭を下げにいったのだろう。そしてその相手は十中八九、後輩の佐々木とかいう奴のはずだ。
走ってきたらしい聡司が準備室の扉を閉める背中を眺めながら、昴はそう考えていた。だから、不機嫌な声を作って言ってやる。
「また、あの佐々木だっけ? アイツとイチャついてきたんだろ?」
「え、そ、そんなこと……」
「楽しいか? アイツと話すの」
振り返った聡司の体の両脇に手をつき、逃げられないようにする。そのまま扉の鍵を閉め、昴は聡司に深いキスをした。
唇を離すと、聡司は唾液を拭うこともせず、必死に言い訳を始める。そんな聡司に背を向け、昴は、持参してパイプ椅子に置いておいた袋からあるモノを取り出した。机の上に置き、ゆっくりと振り返る。
「これ」
言うと、聡司は口を開けたまま、そのモノから目を離せないとでもいうかのように、それをじっと見つめた。
「どうやって使うか、エロいオマエなら知ってるよな?」
口を閉じて唾を飲み込んだ聡司の腕を取り、引っ張る。バランスを崩して腕の中へ倒れ込んだ聡司の体を抱え上げ、机の上に乗せると、昴は聡司のベルトをゆるめてやった。
「す、昴くん、僕、イチャついてなんて……」
「んー?」
誤解を解こうと、聡司は必死に言葉を紡ぐ。しかしそれは昴にとって何の意味も無いことだった。聡司が他の男とイチャイチャしようがしまいが、あるいは聡司に落ち度があろうが無かろうが、今日はこれからコレを使うことは決めていたのだから。
スラックスを脱がせ、下着を下ろしても聡司は諦めずに説明を続けている。誤解を解こうと努力するくせに、逃げようとは一切考えていないのか、と昴は聡司の行動をおかしく、そして愛おしく思った。
「舐めろ」
遮るように言い、ソレーー通販で購入した遠隔式のローターを口元へ突きつけた。
「……っ」
「早く」
再び苛ついた声で言ってやる。すると聡司は諦めたように口を開き、昴の手にあるローターへと舌を伸ばした。
チュプチュプと湿った音を立てて聡司の口の中で濡らしたそれを、昴は聡司の尻の中へと押し込んだ。
昨日もセックスをしたためか、あまり抵抗感は無い。あまり大きくないサイズのローターを選んだせいもあるかもしれない。
「んっ、ん……」
口に手を当てて声を抑えながら必死に耐えている聡司の姿が昴は好きだった。聡司が自分のことを好きでは無いのは百も承知だが、己の嫌なことを昴のために耐え、受け入れるという行為は、最早愛といっていいのではないか、と昴は思う。恋よりも愛のほうが感情としては数段上だろう。ならば昴と聡司は既に互いを深く思い合っていると言っても過言では無い。
「今日は放課後までコレ挿れたままな?」
少しでも安心させようと昴が笑顔で言ってやると、聡司はピクピクと体を震わせながら謝罪の言葉を口にした。佐々木くんと喋って、ごめんなさい。涙の溜まった目で見上げられ、昴はどうしようもないほどの劣情を感じた。しかしそれを振り切るように言ってやる。
「だーめだって。……佐々木だけじゃねーよ、最近オマエが他の奴らとイチャついた罰、なんだからさ♡ んな軽い謝罪で許すわないだろ♡」
ローターを指が届く範囲での最奥に押し込み、昴は遠隔式リモコンを操作した。電源をオンにし、強度を上げていく。低い振動音が体内から聞こえるまで上げてやると、聡司は昴の腕にしがみついて甘い声をあげた。
可愛い。
そう思う。自分しか頼る者がいないようにしてやりたい。そうすれば聡司も昴を嫌いだのなんだのとは言っていられなくなるはずなのだ。これはその訓練でもあった。調教、と言って良いかもしれない。昴のために嫌なことを耐えてくれる聡司がどうしても耐えられなくなったとき、昴に助けを求め、甘えるための調教だ。
「我慢しような、聡司。……できる、よな?」
耐え忍ぶ体を抱きしめてやると、聡司は少しの沈黙のあと、うん、と健気に頷いた。昴はそれを見て、己の胸に温かい感情が広がるのを感じ、クラスメイトや教師や親に見せているいつもの作り笑顔では無い、心から湧き上がった自然で温かく穏やかな笑顔を浮かべた。
煉瓦
2022-01-10 11:33:03 +0000 UTC