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「おいおい、アラトぉ……らしくねぇんじゃねぇか?」
「はぁ……はぁ……、へっ、お前だって、負ける気はねぇんだろうが……!」
(お前もバリバリのインファイターのくせに。慣れねぇ戦い方でお前のほうが疲れてんじゃねぇかよ)
距離を挟み、かと思えば大胆に距離を詰めて一撃を見舞う。
ずっとヒット&アウェイを意識していたアラトであり、実際にそれは典型的なボクシングスタイルであるであるカイチに対して、ある程度は効果的であった。
問題は、アラト自身が先に疲弊を覚え始めたこと。アラトの策を看過した後、カイチはあえて誘うような動きをしてアラトに大ぶりの一撃を誘発させていた。
「ま、お前らしく戦ったら俺には勝てないから、策を練ってきたんだろうけどなぁ?」
「はぁーっ! はぁーっ! ……オラァッ!!」
「甘ぇ」
グボオオオォォォッ!!
「んがぁっ!!」
これなら、普段通りに戦ったほうがまだ勝てた。アラトが取り返しのつかない後悔に浸る間にも、カイチは迫ってくる。
そしてついに、アラトが距離を見誤る。カイチは目を光らせ、罠にかかった獲物を仕留めるがごとく、さっそく一撃を見舞った。
「好き放題してくれやがって。……ただじゃすまさねぇぞ」
「ぐっ……!」
拳が届く距離に入れば、こちらのものだ。すかさずステップを刻み始めたカイチを前に、アラトは戦慄する。
ドゴォッ!! グボオオオォォォッ!!
「くはははっ! お前が一生懸命グラウンドに持ち込もうとしてたってのは!」
ドガァッ!! ゴッ! グボォッ! ガッ! バキッ!
「ごっ! がはっ! ご、ぁぁ……ぐ、ぇぇ……っ!」
「殴り合いじゃ俺にかなわないって言ってるようなもんだろが!!」
右、左にと、拳の弾幕がアラトを襲う。アラトは必死にガードを固めるも、隙を縫ってボディなどを叩かれていく。
もはやアラトに策を弄するような余裕などないと見極めての一転攻勢だった。
アラトがボディの連打による息苦しさを嫌っては、またジャブが顔面を襲う。相手を術中に落とし込んでいたはずが、ここにきてアラトはカイチの完成されたテクニックによって振り回され始める。
「オラオラオラァッ! どうしたよ、アラト! 殴り返してみろよ!?」
ことカイチを相手に、ボクシングで勝負をするのは無理が過ぎる。それは下級年のほぼ全員の共通認識だった。十中八九、おちょくられてボコられる。アラトももう何度も経験した苦々しい展開だ。
「散々ビビってた俺の拳でたっぷり可愛がってやるよ!!」
(クソ……、くそくそっ! こんな、ハズじゃ……っ!!)
ガッ! バキッ! グボォッ! ゴッ! ドガァッ!!
「ははははっ!! このまま沈んどけっ!! アラトぉっ!!」
(さばき、キレねぇ……っ! いってぇ……っ!!)
グボォッ! バキッ! ドガァッ!! ガッ! ゴッ!
顔がはれ、意識がぼんやりと浮いたようになってくる。ジャブとはいえあまりに殴られすぎた。このままではKO負けは必至だ。
(このままじゃ、ボコられる、だけだ……っ!)
「はぁーっ! はぁーっ! ……ざっけんなぁ……」
「あぁ?」
カイチの拳がアラトの頬にはじけた、直後。アラトは一歩後ずさり、大振りながら拳を放つ。カイチはすかさず、身軽なステップで後退して避ける。
そして、アラトはファイティングポーズを固めた。カイチのそれと同じように、ボクサーに近い構え方だ。
「……上、等だ……! 殴り合いで、テメェに勝ってやるよ……っ! ボクサー野郎……っ!」
「……はっ。舐めんなよ、アラト」
気の利いたセコンドでもいてくれれば、冷静になれただろうか。だが、もはやアラトには状況を整理するような余裕はなかった。
殴り倒す。シンプルな喧嘩への熱意を胸に、アラトは涼しい顔で余裕を見せるカイチへと襲い掛かった……。
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