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紛争学園 体育館
チャイムが響き、授業が終了する。
軍立である神原学園では軍との連携も重視しており、現役の軍人が定期的に赴任して指導に当たることもある。本日も実際の現場を想定してより実践的な肉弾戦の授業が行われた。
上官のサポートの形で神原学園にやってきた現役軍人の男、「斧山 サガヤ」は、授業の終わりに冷たい声色で生徒を解散させながら密かに嘆息を吐いた。
自制が効かないほど短気なうえ、従順ではない年下が大嫌いなサガヤにとって、小生意気な青年が集まるこの現場はストレスしかなく。礼儀に欠けた生徒に辟易しては自室でサンドバックが潰れるほど殴り続ける毎日だった。
神原学園の卒業生ということで選出された身の上だが、自分が卒業した後の神原学園は想像以上に下がいきりだっており、上級年が下級年を統率する力が弱くなっているのをまじまじと感じた。
(あ~~、一人残らずぶっ殺してぇ)
数秒あれば蹂躙できるだろうか。現在ではそんな目で生徒を眺める毎日だった。もちろん、可愛げがあって気に入った後輩もいるにはいるが。
と、じっとこちらを見つめてくる生徒を見つけた。サガヤは嘆息を吐き、その生徒に近づいた。
「……おい、片つけが終わったら、もう戻れ」
「オッサンて、ぶっちゃけ強いんすか~?」
ビキッ……!
サガヤの頬に筋が走る。だが、生徒はそれを見越したようにニヤついていた。
わざと目立つよう体育館に居残っていた、ハネのつよい黒い髪をオールバックにまとめた青年、「諏訪 セイタ」は、指をくいと振った。
更にサガヤの頬に筋が増える。体格の差で言えば決して挑発を送っていい相手ではないはずなのに。
「……口に気をつけろ、あと、俺はお前らと5つしか違わねぇ」
「だったら、んなつれない態度とんないでくださいよ。俺、神原の後輩でしょ? 仲良くやろうや、なぁ?」
セイタは挑発を止めなかった。相手が講師だからとタカをくくっているというよりは……、講師だからと手が出せないでいるサガヤを見下しておちょくっている様子だった。
悔しければ、かかってこいと。暗にそう告げているのは、サガヤにもよくわかった。
「二度は言わねぇ。教官、それ以前に、年上にタメきいてんな」
生徒から喧嘩を売られるのは、ここにきて何度か体験した。自分が神原学園のOBだというのも知れ渡っているようだし、今更先輩面されるのを懸念しているのだろう。
本当に、プライドだけは一丁前の連中ばかりだ。自分も本当によく我慢していると思う。寧ろ自分を褒めてやりたい、とサガヤは今にも爆発しそうな自分を律し続ける。
「授業中、ずっと俺が見てたの知ってただろ? 教官の中じゃデカいけど、ぶっちゃけアンタ何も言わねぇから影薄いんだよな」
「…………」
「なぁ、軍人つっても、ホントは弱いんだろ?」
「……三度目だ。口の利き方に気をつけろ」
そう、相手は頭が可哀そうなだけのクソガキだ。何を言われたところで……。
「うっぜぇな。外から来た教官連中で一番若いテメェが、軍人の実力とやらを見せろ、つってんだよ、バカ」
「…………」
「神原のセンコーならともかくよぉ……、なんで外から来たオッサンどもにへこへこしなきゃなんねーんだよ。俺らに訓練つける、つーなら、俺らをステゴロで倒せんだろうな?」
そこまで言われて、サガヤは自分の頬から力が抜けていくのを感じた。
沸点を迎えると、いつもその感覚に襲われた。……こいつは死ぬ。ぶっ殺す。それはもう決まったことだ。
「死ぬか、クソガキ」
ガシッ。
セイタの胸ぐらをつかむ。弱いなりに気合を入れて着たのか、そこまでしてやり合う気だったのか。学ランに裸というなりで、自分の肉体を見せつけている。
そういえば、隣の奴と何か話してじゃれ合っていたっけか。教官連中に喧嘩を売ることを宣言していたのかもしれない。
よりによって、自分に喧嘩を売るとは……。生徒に格闘を教える立場の大人を倒すことが強さの証明になるとでも思っているのだろうか。……いや、そうに違いないか。
「はっ、何キレてんだよ。アンタ仮にも講師だろ? 大目に見てくれねぇのかよ……上等だぜ」
「…………、言い残すことは、それだけか?」
口数は少ない。だが、すでに吹っ切れたサガヤは、ままに服を脱ぎ捨てた。
「…………」
サガヤの肉体を目の当たりにして、それまで饒舌だったセイタの口が閉まる。
200センチ近い背丈に、無駄のない筋肉が詰め込まれているのはシャツの下からでもわかっていた。なにせ教官の中で一番デカいのだ。
だが、だからこそセイタにとって挑む価値のある相手だった。こいつを倒せば下級年の中で自分に逆らうものはいなくなるだろうし、目下のライバルであるアラトに大きな顔をさせることもないだろう。
「口ばっかとか、テメェなんぞに言われるまでもねぇんだよ。立場さえなけりゃ、今頃テメェは死んでるわ。
だからガキの子守なんざ嫌だったんだよな」
何かを諦めたような顔で、投げやりに言う。
思い出せば、軍に入ったころも同じようなキレ方をしてしまったっけか。冗談交じりか、ボールペンを頭に投げつけられただけで、俺は同期を……。
「はっ……、黄金世代か何だか知らねぇが、未だに先輩風吹かしてんのが気に入らねぇんだよ、ハゲ」
「オラ、こいよ」
口を減らさないセイタに、サガヤは顎を振ってこたえる。体育館の奥にはリングがある。
面を貸せと、そう告げる。セイタは不敵に笑って頷いた。
「お前ら馬鹿のしつけも仕事に含まれてんだ」
リングに上がれば、止まらないだろう。だが、悪いのはこいつだ。
「ようするに、自分より弱いやつに戦い方を教わるのが癪なんだろ? 半殺しにしてやっから、こいや」
「……ケッ、よそもんが。OBだからってウチででけぇ面できると思うなよ」
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jin
2021-02-13 09:54:36 +0000 UTCyukibou
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