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「う、うぅ…………」
全裸のまま、壁によって上半身と下半身を隔てられ、そして壁の向こうでは、見知らぬ誰かに嘲るように尻を叩かれ続ける。性器も無理やり反らされるようにして壁の向こうだ。
アラトは顔を真っ赤にし、頭を抱えてその屈辱に耐えるしかなく。
「随分としょげてんなぁ……? もうちょい頑固なガキかと思ったぜ。くく……」
「!?」
ふとして、薄暗い部屋に誰かが入ってくる気配を感じた。
古びたトレーニング器具やパンチバックなどが捨て置かれているあたり、ここは……おそらくは格闘技ジムの跡地か何かの廃墟。そもそもこんな真似を働いた誰かがいるだろうし、最初から人の気配を感じないわけではなかったが。
「テ……、テメェら……!?」
「訓練も終わったばっかだしよぉ……? そろそろ学園内の問題にも着手しねぇとって思ってさ?」
開け放されていた扉をくぐり、向こうからやってきたのは、試合の格好に着替えた二人組だった。自分に同じく、鍛えており無駄のない肉体美をしている。
アラトにとっても見覚えのある二人だ。……やはり神原学園の、中級年。果たし状を送ってきたのはこの二人なのだろうか。
「…………こ、こは、どこだよ……?」
「先輩様に向かって、なんだよその口の利き方は。……ま、いいか」
アラトが吐き捨てるように聞く。と、二人のうち、長髪で丸い目の整った顔立ちの青年が、相手が先輩だと知ったうえでのアラトの不遜な態度に悪態をつく。
「ここは俺らが根城にしているジムだ。チヅルちゃんとスパーでもして、かるーく体を動かす予定だったんだけどな。
ホラ、運動した後にはいろいろ溜まるだろ? 発散しようと戻ってきたんだよなぁ」
どこか陰気な顔つきをして、とげのように髪を逆立てた一人が、手を翻しながら言う。
そこで、アラトは自分がこんな屈辱的な目に遭っていることへの察しをつけた。
「…………俺をだましたのは、テメェらかよ……!!」
「はめんのは重かったぜ? ガキのわりにでけぇ図体してっから」
……アラトを不意打ちし、失神させて、この壁の穴にはめ込んだ。最初から罠だったのだ、自分をここに誘い込むための。
知ったアラトは眉間にしわを寄せて睨みつけたが、二人は全く意に介した様子もなく、へらへら笑い続けるばかりだった。
「……なぁ、俺ら真面目なセンパイ様が、テメェみてぇな風紀を乱すクソ生意気な後輩を放っとけるわけねぇよな?」
「テメェ……! 初めから、俺をリンチする気で……!」
「ようやく気付いたか、ドジで鈍間な、アラトくん……よっ!」
グボォッ!
意気揚々と話す長髪の方の青年が、アラトを殴りつける。そこから動くことさえもできないアラトは、呻きをこぼした。
「が、は……っ!」
グボォッ! ドボオオオォォォ!!
「くはははっ、言いざまだなぁ、この野郎!!」
「テメェはいつかシめようって思ってたからなぁ……? 下級年風情が、気軽にうちのテッペン取るとか、ほざいてんじゃねぇぞっ!!」
「調子に……のんじゃ、ねぇっ!!」
下半身は壁の向こうだ、だとしてもこのまま抵抗もせずに嬲り者にされるなんて耐えられない。アラトは拳を突き出した。
必死な抵抗がチヅルの頬をかする。その瞬間、チヅルは不愉快そうに目を細めた。
「はっ……こんなもんで……このアラト様が屈すると、思ってんじゃねぇぞ……! テメェらなんざ、このままでも十分だぜ、ぶっ倒してやるよ……」
「テメェ……っ!!」
「へっ……、ほらよ」
怒り心頭で一歩踏み込んだチヅルだが、殴り掛かる前に髪を尖らせた青年、ソウゴがそれを制す。そして、すぐ足元に転がっていた、アラトの持ち込んでいたグローブを放り投げる。
「つけたいなら、つけてもいいぜ? そのほうが屈辱的だろ?」
「けっ……!!」
アラトはせめて手だけで元、グローブを装着する。手慣れた動作で指を通し、カバーを手首に巻き付ける。……その瞬間。
……ドガァッ!!
「げは……っ!」
「っと……わりぃ、足が滑ったわ~」
アラトがグローブに目を落とすのを見計らったように、ソウゴは足を突き出してアラトの顔面を蹴り飛ばした。
ソウゴはすぐに足を戻す。アラトは呻きつつも拳を繰り出して反撃を試みる、が、やはり上半身を伸ばした程度で届く距離に二人はいない。
「うぐぐ……くっそ! もっと寄ってこいやコラァ!!」
「はっ! サンドバックがほざいてんじゃねぇよ♪」
「くはは、壁から生えた、殴ると呻くサンドバックとか、最高だなぁおい?」
二人は横目で目配せして笑いつつ、ソウゴはアラトの顔を踏みにじった。嘲るようにかかとでアラトの頬を潰す。
「がぁ、あぁぁ……! 汚ぇ、ぞ……っ! タイマンで、やれや……っ!」
「はっ、お前みたいな下級年が。そも俺らに勝てると思ってんのか?」
「テメェみたいなサルに、タイマンでも負けねぇよ」
グローブをつけた、とはいえ、アラトはもはや拳を振り回す程度しか抵抗の余地が残っていなかった。この体勢ではそれも無理はなく、二人はそれを見越していた。
「精々かわいがってやるよ……、オラ、もうすぐ後ろのほうにも誰か来るかもなぁ……?」
「はぁ……はぁ……、んだと……?」
チヅルが膝を折り、いわゆるヤンキー座りでせき込むアラトの顔を覗き込む。その言葉にアラトは目を見開いた。
壁の向こう……自分の目の届かないところで自分の体を隙にされる恐怖は、先ほどからずっと味わってきた。
「どうなってんのか知らねぇの? ちゃ~んと仲間呼んでやったよ。お前はそいつらのオナホになんだよ、よかったなぁ?」
「こんのぉ……後で、覚えとけよ……、テメェら全員、この俺が……っぁ!!」
グボォッ!
アラトが怒りのままに唸る。直後に、チヅルはアラトの顔面を殴り飛ばした。
「だから。口の利き方には気をつけろ、つってんべ。下級年のクソガキが」
「ドMなアラト君は、犯しながらのリンチにもよろこんでくれるよな? 折角準備したんだからよぉ、ぎゃははっ!!」
「ぐ、そぉぉぉ……っ!」
そして、……アラトはぞくと背を跳ねさせる。
こんな時に、いや、こんな時だからか。誰かが再び、尻を触った。そしてその下の性器まで。寒気が走るような感覚は、やはり、壁の向こうにいる誰かの正体がわからないからだろう。
(クソ……クソクソォッ……! このままじゃ、俺は……!)
逃げ出すことも、まして満足に抵抗することも叶わない。忌々しい中級年二人の嘲笑に、アラトはそれを睨みつけることしかできなかった。
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