以前描いたものとコスチュームが違っているところがありますが、この期にストーリー的にまとめたいと思うので気にしないで見てもらえると助かります。
とある学園都市の体育館でその試合は行われる。
-大空みぎり vs ビューティ市ヶ谷-
自分の欲求に忠実なみぎり、自分勝手の権化である市ヶ谷、プロレスという同じ土俵に立つ限りはぶつかる事は誰の目にも明らかだった。
普通に考えればベテランの市ヶ谷が圧勝する構図のマッチメイク…しかしSNSや匿名掲示板では多くの不穏な予想が流れる。
「新人のみぎりに、しかも得意のパワーで負けてしまうのでは」
市ヶ谷自身もそういった声があることを知っていただろう。
だから新人からの試合要求にも応える事にした。
自分が負けるといった声があることすら許せないのがビューティ市ヶ谷というレスラーであり、しかもそれが大半のファンから求められるものであったから。
「寸胴(祐希子とか南、ひどい)ばかり相手にしていて飽き飽きしていたところでしてよ!といっても今日は大きければいいというものでもない事も教えて差し上げますわ!」
沸き立つ市ヶ谷ファン。口だけのハッタリではない事を見事なボディが物語っている。声を張り上げる度に彫刻のように深く陰影の現れる腹筋。気にしているのか衣服で覆っているが膨らみのわかる肩と腕。その上体を支える見事な脚線美…。
しかし対するみぎりはより凄かった。市ヶ谷の時点で平均的な日本人女子の体格を超えているのに、身長も肩幅も筋肉量も遥かに上回っている。
「ふふ、大きいのが取り柄だったのに…超える相手が出てきた途端にそんな事言っていいんですかぁ?」
一気に場の空気が凍りつく。やっちまったとマイクを渡した事を後悔するMC、開いた口が塞がらない観客、固唾を呑む他レスラー達。
「その挑発で更に勝利の味が濃くなりますわ!!かかっておいでなさい!!!オーッホッホッホ!!!」
驚くべき事にベテランとして成長し始めた市ヶ谷は挑発に対してのキレ芸以外も身に付けていた。そしてそれは「ひょっとしたら予想と違う結果へ持っていけるのでは?」とファン達に希望を抱かせずにはいられないのだった。
試合開始15分ー。
パワーと体格の差は残酷だった。当然だ。地球上で物理法則に従う限りこれ以上に強いアドバンテージは存在しない。
みぎりの掴みや打撃を受け流しつつ戦う市ヶ谷だったが、あまりの攻撃と体自体の重さに次第にマットに這いつくばる時間が長くなっていった。
(ゼェ…なんて…ゼェ…パワーですの…ッ!!)
「いぎッ!」
「そろそろただ起こすのもつまらないですねぇ~」
ロメロスペシャルをかけに入るみぎり。新人から高度な技をかけられる屈辱から必死に逃れようとするも、剛腕と剛脚に絡め取られた市ヶ谷に為す術はなかった。
「ノオオオオオアアアアァ!!」
肩が、股関節が、腰が、メリメリと音を立ててストレッチされる。
大抵市ヶ谷が暴れ始めればロメロのバランスが崩れて技が解かれ仕切り直しになる。しかし今回は違う。みぎりの巨体により頑丈な基礎が出来上がったロメロスペシャルはいくら市ヶ谷が痙攣しようと全く揺るぎもしない。
ひとしきり揺さぶり満足したみぎりはダメージに悶える市ヶ谷を解放した。
「…ハァッ!チャンス到来!!ですわ!!」
折れそうな腰に鞭打ちながらも体勢を入れ替えヘッドシザース!散々みぎりの剛脚から受けた攻撃のお返しとばかりに市ヶ谷も脚力を披露する。
しかし市ヶ谷にもわかっていた。これは魅せる為のプロレスの試合。これで失神させても勝利ではない。あの挑発に応えパワーでねじ伏せなければ意味は無い…全てのファンと市ヶ谷自身がそう理解していた。
咳き込むみぎりを解放した市ヶ谷はその思考の余韻により僅かな間気が逸れた。パワーでねじ伏せる方法がとっさには思いつかなかったからだ。
首の太さによりさしてダメージを受けなかったみぎりはすぐに立ち上がる。
剛脚対決ならと言わんばかりに次の技を心に決める。もっともみぎりの場合はプロレスをやるよりも「悔しいから同じ"脚"で返してやる」という単純な理由だったが。
恐ろしい質量がボディに襲いかかった。肺の空気を全て吐き出してコーナーポストに釘付けになる市ヶ谷。一番近い場所の観客だけが黒い天井を背景に盛大に唾液が噴出されたのを見た。カエルのような鳴き声を上げてポストに抱きついた市ヶ谷に対し、みぎりは第二撃を繰り出す為に再び走り出した。
重奏のオーケストラよろしく低音の足音を響かせ…何故重奏?
「だりゃあ!!」
同時に走り出した市ヶ谷のラリアットがみぎりの首を捕らえる。
「ぶえ!?」
いかにみぎりと言えど市ヶ谷の全体重が乗った太い腕には耐えきれず倒れる。
これで巻き返しになるか!?と場の全員が思うものの、市ヶ谷の優勢はこれが最後だった。
流れからすれば当然で、その後はみぎりの剛腕による執拗な攻撃で市ヶ谷はグロッキー状態。パワースラムやチョップや張り手、筋肉の塊の剛腕によるフルコースで最後はポストに乗せてからのチョークスラム。
まず市ヶ谷が全身の筋肉をフル稼働して受けや返し、技を繰り出していたのに対し、みぎりは市ヶ谷からの攻撃に対して体力を使って防御していない。祐希子が思うように普段通りならパワーに物を言わせた戦いも出来たが、規格外の剛体相手では無理な話であった。
ダウンした市ヶ谷の背中へのエルボーを繰り返すみぎり。
もはや声を上げる事も出来ずに亀の子になり突破口を探す市ヶ谷。
市ヶ谷ファンのほぼ全員が敗北を覚悟していたが、他ならぬ市ヶ谷が自身とファンの為に負けるわけにはいかないと耐えていた。
ー今までの相手と違うー
みぎりにも奇妙な恐怖があった。ここまでしても精神の折れないレスラーは初めてだし、飄々とした表情でわからないだけでみぎり自身のダメージもかなりのものだった。結果的に相手が折れるのではなく、今回ばかりは折りにいかねば。
「いい加減に死んでくださいね~」
出したことの無い新技にみぎりファンはいきり立つ。
返せるわけのない巨体でのしかかり、剛腕で内蔵と背骨を押し潰し、剛脚で腕の自由を奪いながら首を締める…後にリバースグラウンドベアハッグと名付けられるフィニッシュ技を受けてとうとう市ヶ谷は力尽きた。
屈辱の失神KOではあったが、試合の流れから「本当に我を通す芯の強い女で、失神しなければ絶対に戦い続けていた」と結果的に市ヶ谷の名声が上がった。
本人がそれをどう思うかは聞きようがない。今日もトレーニング室にずっと籠もって出てきやしないのだから。