宝条院沙雪の任務失敗による死亡という話題は裏の世界へと大きな波紋を呼んでいた。それを信じることができなかった者達もいたが、時は無情にも過ぎていく。
だが、死んだはずの彼女は生きていた。
大妖魔メリディアーナの根城。地下のその更に最下層の奴隷管理室。
異様な重苦しい空気の立ち込めるその階にて沙雪は”管理”されていた。
幾人もの雌個体が管理されているそのフロアの右から三番目。扉には『宝条院沙雪』と書かれたプレートが掛けられている。
部屋のあちこちに様々な用途に使われる機械が所狭しと並べられていた。
そして、中央では何人もの妖魔が鋼鉄製のベッドを囲んでいる。
機械の数値を見比べ何かを書き込んでいる妖魔。興奮気味に鼻息を荒げ沙雪にねっとりとした視線を送る妖魔。にやにやといやらしい笑みを浮かべて時折妖しく声を漏らす妖魔。その表情は様々であったがいずれも欲望に満ちた目をしていることは確かだった。
視線の先にいるのはベッドに固定された一人の少女。
好奇の視線に耐えながら”宝条院沙雪”は拘束台に四肢を固定されていた。
メリディアーナが扉を開けば思わず咽返りそうなほどの濃い雌の臭気が鼻腔を突く。
「メリディアーナ様、ようこそおいでくださいました。現在与える刺激の違いでどの脳波に差が出るかを実験していましたが、丁度ひと段落したところです」
「ふぅん? 沙雪ちゃんは休憩中?」
「いえ、モルモットに休憩などというものはございません。常に苦しめることを意識し、私が休んでいる間は他の者が代わりに嬲っております」
メリディアーナが訪れたことにも気づかない程に追い詰められた沙雪は、ベルトで拘束台に繋がれたまま薄布一つ纏っていない姿だった。
時折空気の流れに愛撫されビクビクと痙攣している。口も開いたまま涎が垂れ流されていた。舌を突き出し「ぁ……ぉ……」と呻くような声を漏らす。
肥大化した乳首とクリトリスは常に勃起状態を維持されており、陰唇は薄く口を開け白濁した液体を垂れ流し続けている。
台の上は彼女の汗や愛液、涎等の体液が混ざり合った液体で生暖かい水溜まりが出来ていた。
その様子を確認したメリディアーナは部下に続きを促す。
「今にも狂いそうなもどかしさで碌に眠れてもいませんが、その僅かな睡眠時間にさえも常に満足できない刺激を与え続けております。夢の中では発散できない欲望に悶え、目が覚めればより昂った身体の感度に苦しみ、繰り返される実験に心身は壊れていく。この奴隷は人の身で我々妖魔に逆らった愚かしさの代償を支払い続けているのです」
沙雪は少しでも刺激を得るためにその身をくねらせ腰をカクつかせていた。
刺激を求めて……より正確に言うなら、拘束台と背面が擦れる刺激でオナニーをしているのだ。
そして、腰を揺らすのは揺れ動く空気の流れで刺激を受けるため。それはまるで空気とセックスしているかのような人にはあるまじき無様な有様だった。
「当初は絶頂を求めて泣き叫んでいましたが、今やその体力も残っておりません。常にうわ言の様に御許しを懇願しています。そして、メリディアーナ様の御言葉通り、心と身体は常に限界ギリギリを維持させ続けています」
周囲の報告を聞きメリディアーナはわずかに口角を上げると、部下に問う。
「今はどんなことをされてるのかしら?」
そして、ますます笑みを浮かべ実験台に近づいていく。
沙雪は四肢を拘束されている以外にも、何本ものコードが伸びた黒色の薄い金属製のバイザーで視界を覆われていた。
両耳にはヘッドフォンのようなものが固定されている。
メリディアーナがここまで近付いても気付かなかったのは視覚と聴覚が封じられているためだった。
「快楽による洗脳です」
「ああ、人間が魔界の情報と引き換えに提供してきた試供品ね」
科学力に関しては今はまだ人間の方が上手なのだろう。
妖魔はそこに目を付けた。退魔師を拷問し堕とすのに、科学ほど都合のいい分野は存在しない。
脳波の測定で感情や感覚、快楽、脳内物質の分泌量を読み取り、それらのデータを元に機械を用いることで生身では不可能な過酷で半永久的な責めが可能だ。
勿論誤って死亡させるなどといったミスは起こり得ない。
妖魔は優秀な退魔師を実験台とした詳細なデータを送り、人の身には危険な魔界の情報の一部を渡す。
これはそういう”取引”だったのだ。
そして、これに関してはメリディアーナにも意外だったのだが、取引の条件に宝条院沙雪を堕落させるというものも含まれていた。
これには取引を持ちかけた宝条院家の人間が関わっていたようだが、幾重にも偽装されているせいでさすがに依頼者の詳細までは分からなかった。
「人間は足を引っ張り合うのがよほど好きなようね」
とメリディアーナはくくっと昏い笑みを浮かべる。
沙雪は妖魔の接近にも気付かない。そして、時折身を震わせると確かに小さな声で「ありがとうございます」と口にした。
気配さえも感じ取れない程に衰弱した沙雪をメリディアーナは興味深そうに見つめる。
「今回の件で得をしたのは人間の科学者と私たち。宝条院家は揺れてるんでしょうね」
「そのようですね。この女の再捜索を願い出る者もいたようですが、今はそれどころではないようですし」
とはいえ――
「信頼していた宝条院に売られて、散々守ってきた人間の発明品に苦しめられるのは、面白い皮肉ね」
◇ ◇ ◇
沙雪は視界を封じられた世界の中で、コードからやってくる電気信号によってとある幻影を見ていた。
そこでは妖魔達が送り込んだイメージ通りの映像が再生されている。
映像の中の沙雪はメリディアーナに嬲られていた。
100以上のパターンの責めが繰り返されていく。
そして、責めだけではない、シチュエーションや恥辱を煽る衣装もその場面によって移り変わっていく。
その組み合わせは細かいものを合わせれば数千、数万にも及んだ。
無論沙雪にこんな記憶などない。全て妖魔達の作ったフェイク映像だ。
だが、その光景はあまりにもリアルすぎた。これまでの拷問によって録音した沙雪の音声を解析することによって、映像の中の沙雪の悲鳴は現実となんら違いのない現実感を沙雪に与えていた。
今現在の責めは乳首責め。シチュエーションは奴隷オークション。
大勢の妖魔の視線に煽られる中で双子の妖魔に装着された吸引機によって激しく責め立てられている。
『んほぅぁあぁぁぁっっ!? イグぅうッ!? イクゥウウゥゥゥッ!!!!』
映像の中の沙雪が乳首を扱き上げられ激しく絶頂した。
背を弓なりに仰け反らせながら、足先をぴんっと伸ばしたはしたない絶頂姿。その豊満な乳房がブルンブルンと激しく上下に揺れ、みっともなく滑稽なイキ顔を晒す。
羞恥心はシンクロし、いくつもの視線が突き刺さる感覚に、頭が沸騰する様な恥ずかしさを覚えた。そして乳首の芯から熱い疼きが湧き上がる、その疼きは切なく狂いそうなでありながらも強い快感となり、沙雪は悶え苦しむ。
直視に耐えられない映像だった。しかし、脳に直接、流し込まれている為、目を反らすことは不可能だ。そして、脳神経を通じて、その映像のシチュエーションの感情をリアルに体感させられる。
こんな無様な姿を自分が晒すはずがないと、沙雪は必死に自分に訴えていたが、やがてその記憶の境界も曖昧になってきていた。
自らが快楽に身悶える姿を見せつけられ、羞恥と屈辱に呑まれる沙雪。しかし、その感覚は強烈な快感を伴っていた。
脳が焼ける感覚と、乳首から押し寄せる灼熱の切なさ。それらはやがて怒涛の津波となって沙雪のオーガズムへの堤防を決壊させる。
脳の奥で何かが弾け、身体に猛烈な電撃が走った。視界が一瞬、真っ白に染まる。
ビクンッ! と震える肢体。ぎゅっともどかしそうに握られた指先、赤く染まった艶肌に、ヒクヒクと震える赤貝のような陰唇、その沙雪の全ての兆候が絶頂を意味していた。
だが――――
(うああ……そんな、また……っ)
脳がイッている、はずなのにイケない。
淫紋の影響だ。そこに満足感などというものは欠片も存在しない。確かに絶頂はしている。だが、その快感は脳に蓄積されるだけで、解放へと向かうことはない。
自らの恥ずかしい映像、耳から流し込まれる言葉、それらの感覚だけで脳イキさせられるという、あまりに特殊な環境下での通常あり得ない絶頂。その影響で、絶頂すればするほどよりもどかしさが募っていった。
イッているのに直後には絶頂前よりも切なくなってしまい、子宮がきゅぅぅぅっと引き絞られるような疼きを発する。
『またイッちゃいましたね』
溜まるもどかしさも普通の絶頂の比ではなかった。 頭の中で強烈な快感が爆発する、しかしそれは解放されず焦燥感となって頭蓋の中でグルグルと渦を巻く。
そのもどかしさは全身に広がり、身体中が耐えがたい疼きに包まれる。乳首やクリトリスは芯から疼きながらビクンと跳ね上がり、膣はうねりながら愛液をごぽっと吐き出す。子宮は身体の奥で心臓の鼓動の様に、痙攣と収縮を繰り返す。
脳イキと淫紋による強制的な絶頂の封印。その繰り返しにより、徐々に彼女の限界に近付いていっていた。
淫靡な音声による責めは、まるで耳から触手が侵入し、脳を直接掻き回され、犯されているような感覚だった。
纏わりつくような切なさ。身体中に蛇のようなもどかしさが絡みつき、彼女の精神が蝕まれていく。
沙雪からは見えないが淫紋はより複雑な模様へと変化し、より強く発光し、明らかな成長を見せていた。
ヘッドフォンから音声が流し込まれる。
それは沙雪の理性を朦朧とさせ、とある一つの命令を下す。
『お礼はどうしました?』
無理矢理絶頂させておいて感謝を述べろとこの声の主は言っているのだ。
抵抗していた沙雪だったが、それもほんの序盤の事。
この声に応えずに黙っていると彼女の尊厳を貶めるような抽象的なイメージが流し込まれるのだ。
映像の沙雪がアクメを迎える度に流される罵詈雑言。そして、人の尊厳をどこまでも堕とすような人格否定。
プライドを傷つけられ、本当にとんでもない悪事に身を染めたような罪悪感に包まれる。
同時に、悲しみ、自己嫌悪、恐怖といったあらゆる負の感情が押し寄せてくる。それは脳の感情領域に電気を流され、強制的に与えられる感覚だった。
堪らず沙雪は「ありがとうございます」と屈辱的な感謝を口にした。
「あ、あああ……っ」
すると次にやってきたのは幸福感のイメージ。
麻薬のような陶酔感。脳内物質が大量に分泌され、まるで十年来の夢が叶ったかのような多幸感を何倍にも濃縮した感情がじんわりと胸のうちに広がった。
疲弊しきった沙雪にその心地良さに逆らう気力は残されていなかった。
命令された卑猥な言葉を次々に口にする。
思考することなく、ただ復唱していく。
『乳首でイッちゃって、どうだった?』
「あっ、あぁ……き、気持ち、よかったです……」
『それだけ?』
「んはぁ……ぁ……ち、乳首、最高、でした……」
このような状態でなければ言うはずのないだろう言葉。
しかし、それを口にするとぴりぴりと乳首が痺れるのだ。脳に電流を流され直接乳首の快楽中枢を刺激されていることを沙雪は知らない。
新たに植え付けられたマゾ癖として、沙雪は快楽を感じている間は舌を突き出す。
無様に舌を出し、ヒクヒク震わせながら、沙雪は恥ずかしく、屈辱的な言葉を口にし続ける。
『あなたはなぁに? 退魔師?』
「あ……ぉ……私は、退魔師、では……ありません……」
こうして誇り高き退魔少女は命令されるがままの奴隷へと堕ちていく。
脳内に流し込まれた、卑猥な言葉のイメージをそのまま口にする。
「1●歳、の、くせに、107㎝の、淫らなおっぱいを持つ、ただの、変態●学生、です」
疲弊しひび割れた心の隙間に水が沁み込んでいくように、沙雪の心にあらゆる変態的な語彙が植え付けられていく。
それに違和感を感じる気力も思考力も、今の状態の彼女には残されていない。
「ど、どうか……私の雑魚乳首、シコシコ、してくだ、さ、いぃ……」
そして、再び映し出される映像のイメージ。
その中で沙雪はメリディアーナに媚び、何度も絶頂を迎えさせられていた。
甘く、蕩けた顔、その瞳にはハートマークが見えるのではと錯覚するような表情だった。メリディアーナに身体を擦り付け、涎を垂らしながら舌を出す。
その爆乳を揉みしだかれながら乳首を摘ままれ、クリトリスを扱かれる。映像の中の沙雪は心底気持ちよさそうに絶頂し、ブシュッと潮を噴いた。
自身の分身とも言える存在の痴態に絶頂欲が倍増する。
(うあ……なんで、恥ずかしい、のに、か、感じて……)
沙雪の乳首が疼き、陰唇もヒクつき始める。
羞恥は快感を増幅させ、催眠音声から与えられる屈辱が更に恥を上塗りしていく。
『恥ずかしい”から”でしょう?』
脳内で思ったことさえ全て感知され、逃れることの出来ない言葉責めをされる。
心の奥深くを抉るその言葉は、沙雪にとって抗えないものだった。
ぞくりと背筋を震わせ、「は、はい」と弱々しく恥辱を肯定してしまう。
一度認めてしまえばすぐだった。口に出すたびに鋭い快感が体中を駆け巡る。
「あぁっ……ああぁっ……」
もう何度目になるか分からない仮初のオーガズムをその身に受けた後、映像はいよいよ佳境を迎えていた。
『敏感過ぎ、感度高すぎ、マゾ、淫乱、度し難い変態女、恥ずかしいですね? そんな恥知らずだから――』
女の操る美声には何度となく翻弄され、惨めに絶頂をコントロールされてきた。
このまま魔性を秘めた声音と言葉を脳へと流し込まれ続ければ、また意のままに絶頂させられてしまう。
沙雪は意識を反らそうと試みるが、催眠装置から流れ込んでくる音声は彼女を逃してはくれない。
声の主は十分に間を置き、たっぷりと焦れさせて、ようやく彼女が次の言葉を待ちわびて耳を澄ませるように仕向けてから続きを口にした。
『宝条院にも見捨てられちゃう』
瞬間、最大の出力でイメージが流れ込んできた。
「あ、あぁぁああっ!?」
素っ頓狂な悲鳴を上げて沙雪は悶える。
幸福感の爆発。脳裏が真っ白に染まり思考が飛んだ。
快楽の濁流。大量の多幸感によって沙雪はほんの一瞬自分が誰なのかすら忘却した。
辛く、これまでの人生の意義すら否定されたような裏切りだったはず。
だというのに感じているのは幸福感。この矛盾は確かに沙雪という少女の心の核部分にヒビを入れた。
全てが停止し、無限とすら錯覚してしまうほど切ない絶頂の快感だけが世界を染める。
(な、なんで……)
頭の中は真っ白に染まり何も考えられないはずなのに、絶頂したことだけは認識できた。
沙雪は慌てて否定するように左右に首を振るが、音声は混乱した沙雪の理性を矢継ぎ早に揺さぶる。
『裏切られて嬉しい……宝条院に見捨てられたのに、こんなに気持ちいい……妖魔様に感謝しないと……嬉しい……嬉しい……幸せ……』
「あ、ああぁっ……いやぁ……」
絶頂しているのにイケない、最高にもどかしく苦しい、屈辱的で心が引き裂かれそうな感覚、なのにたまらない多幸感に包まれている。全てが矛盾した感覚。それは1●歳の少女の精神を根幹からバラバラにしていく。
『ありがとうの気持ちはどうしたの?』と問いかけられた。
素直にそれに反応する身体。支配された脳では、それに逆らうことはできない。
「あ、ありが、とう、ございます」
心と身体の歯車が一致しない。一つ狂うだけで、ここまで狂ってしまうのかという程に彼女は壊れてしまった。
繰り返される洗脳によって自我を壊されていく恐怖は尋常なものではなく、しかし、沙雪は心の何処かでそのことに対して幸福を感じていた。
そのことが恐ろしく感じられなくなっていく。
(て、抵抗……しないと、も、もう……)
だが、そこに囁かれる妖魔の甘言は沙雪の脳に染み込んでいく。
『さあ、あなたの望みはなんですか?』
「うあ、あ、もう、許しへ」
許しを請うた瞬間、流し込まれる人格否定。
美しい女の声が『違うでしょう?』と諭してきた。
「も、申し訳、ござい、ません」
思わず謝る沙雪に母体に包まれているかのような安堵の感情が流し込まれる。
感情の切り替わりが急激過ぎて沙雪の精神力はまるでボロボロと崩れるカステラの様に削り取られていく。
『あなたは何も望んではいけません。好きな時に、好きなように弄ばれるだけの快楽の玩具。妖魔に隷属するただのペットなのです』
咄嗟に抵抗を感じた沙雪の思考をノイズが邪魔をする。
堪らずその言葉を肯定してしまう。
「は、はい。私は、妖魔の玩具です」
『”様”は?』
「妖魔、様」
そして、また映像が切り替わった瞬間、沙雪の精神が崩壊した。
次に流れてきたのは妖魔のペットとなった沙雪のイメージだ。
徹底的に調教を経験した沙雪。幾通りもの記憶にない調教の蓄積が一瞬にして流れ込んでくる。
『さあ、あなたの望みは?』
「あひッ!? あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁぁあああっ!!?」
嬌声を上げ、涎を撒き散らしながら白目を剥いて吠える。
妖魔に逆らった沙雪がお仕置きをされている映像。フィアとルルに堕とされていたらという”もしも”の光景。
鞭で打たれ痛みで絶頂する。バイブで脱水症状を起こすまで穿たれ、どれだけ気丈に逆らっても乳首を弾かれたことで屈伏する。
過去に討伐した妖魔達の怨念に責め抜かれ、関わりのある人物たちから蔑まれ、少しでも面識のある様々な存在達から、幾通りもの拷問、責め、調教、教育を受け続けた。
何百通りの責め、何百時間の調教の記憶と映像が同時に脳内で再生される。通常ではありえない、脳に直接干渉するからこそ感覚。それは1●歳の少女の、いや、人間が耐えられる領域を遙かに超えた感覚だった。
「私の負けでひゅぅぅッ!! んふうぅ゛うッ! 休ませてぇ! もうゆるひへぇぇぇッッ!! 妖魔様! 妖魔様ァァァァッ!!」
沙雪は心の底から敗北を認め、自身の変態的な快楽にどっぷりと嵌りこんでいた。
脳は汚染され、完全なる白旗を上げていたのだ。
しかし、音声は彼女を許さない。無慈悲に、執拗に、徹底的に追い詰める。
『休ませて? 何を言ってるの? まだまだ足りないわね、もっとして欲しいって、心の底から思うようになるまで責め立ててあげる。あなたには嫌がる権利もないのよ』
映像は更に苛烈な責めへと変化する。
機械音声が沙雪の耳に流れ込んだ。
『堕ちろ、妖魔に服従を誓って敗北しろこのマゾ玩具!』
眉根をハの字に歪め「ひいいっ!」と情けない悲鳴を上げてしまう沙雪。
トドメとばかりに流し込まれるのは大量の絶頂イメージ。
各調教シチュエーションでの絶頂の瞬間を切り取った、何百回、何千回の絶頂のイメージが怒濤のごとく脳内に押し寄せる。
奴隷と化した沙雪の痴態は何度も何度もフラッシュバックする。脳内で激しく火花が散り続けた。
「ああああひゃぁぁっ! ああっ! やら、また! ああっ! ダメ、イク! ああっ、イケない、のに、またイク、イク! あああっ! ダメ! 壊れる! ああああぁぁぁっ! イケないのに逝くううぅぅぅっ!!」
もう、今の彼女にその屈辱を耐えるのは不可能だった。
耳から頭の奥に入ってくる音声に翻弄され、何度も絶頂する。
しかし、そこに絶頂感など存在しない。絶頂に辿り着いたかと思えばそれは幻で、すぐに次の頂に向けて走らされる。
『イケッ! イケッ! イケ、イケ、イケイケ、イケ、イケ、イケッ! 死ぬまでイケ! イキ死ね!』
「ああああぁあぁっ、おおおおぉぉおおぉぉっ! イグイグイグッ、あああああぁぁぁあああぁぁっ! イッ、イゲなひぃいいいぃぃぃっ! もういやああああぁぁぁぁああぁぁっ!」
『嫌がるな、感謝しろ、もっとイカせてくださいって言え、この快楽奴隷! ほら、ありがとうございますは?』
「ああああぁぁぁあぁぁっ! あ、あ、ありがとう、ございましゅうぅぅううぅぅぅっ、あっ、ああああああぁああぁぁぁっ!」
『そう、嬉しいのね。じゃあ、もっともっとイカせてあげる!』
「あがああぁぁっ、ぞ、ぞんなああああぁぁああぁぁぁぁっ! ああああああぁあぁぁぁぁっ!」
何を選んでも沙雪にとっては地獄だった、逃げられる選択など無い。脳の奥、心の中まで読まれて責め立てられる。
筆舌に尽くしがたい快楽と恥辱と苦しみの中、虚無的な絶頂をひたすら繰り返す。
イッてもイッても焦燥感が収まらない。それどころか余計に切ない苦しみが強くなっていた。何重にも絶頂を浴びせられ、脳が焼き切れそうになる。
イク寸前の快感が消えず、すぐにまた次の快感が襲ってきてしまう。
だが、すぐにもどかしくなってしまう。切なさが一瞬で極限にまで達する。一度、湧き上がった切なさは消えることなく、身体の中に蓄積し続ける、そこに更なる絶頂を浴びせられる。
底の空いた容器に延々と水を入れ続けるような無間地獄。
注ぎ込まれる快楽の濁流に飲み込まれ沙雪は既に上下すら分からない。
何も考えられない状態になったまま、彼女の意識は快感の海に消えていった……。
◇ ◇ ◇
「ハァハァ……ああ……」
ぼやけている沙雪の視界が徐々にはっきりとし、白い天井が目に入る。
いつの間にかコードの繋がった目隠しもヘッドフォンも外されていた。
「お疲れ様でした。沙雪様らしいとても無様な絶頂姿でしたよ」
そして、すぐ傍にはメリディアーナの姿も確認できた。
それを見て沙雪は「ぁ、うあ」と声にならない声を発する。
疲労もあり、酸欠に近い状態だった沙雪は思うように言葉を発せない。
「何か言いたいことがあるのかしら?」
目に涙を浮かべながら沙雪は眉根をたわめた。
「め、メリディ、アーナ、様……っ、ああ、もう、た、耐えられません。少しでいいんです……や、休ませて、くだ、さい」
「んー」
可愛らしくこてんと小首を傾げメリディアーナは悩んだそぶりを見せる。
そして、たっぷりと時間を置いてから答えた。
「まだまだ言葉遣いがなってないわね。甘えてるんじゃないの?」
メリディアーナの目配せに合わせて再び同じ器具が装着されていく。
沙雪は絶望した。もう一度催眠装置によって教育を施されてしまうのだ。
耐えられない。すでに自分の中で心の根幹さえも揺らいでいる状態だというのに。
「っ!? も、申し訳ございません! あああ、待って! 待ってください! いやッ、イヤァァァッ!!」
沙雪は半狂乱で泣き叫ぶ。
しかし、そんな叫びなど聞き入れられるわけもなく、再び彼女の頭部に催眠装置が装着されたのだった。
「あああああああああっ!! ごめんなさい! ごめんなさいっ、も、もう一度、もう一度だけ話させてください! 無理なんです! 妖魔様ッ! メリディアーナ様ァァッ!!」
そして、始まるのは地獄のような洗脳教育。
これまでの拷問のリプレイ映像。それに様々な虚偽を織り交ぜる。
更に先程までの催眠責めの反応や脳波を元に、新たなイメージを生成し、より的確で過酷で隙の無い責めが行われた。それらは沙雪の僅かな反応も反映し、一ミリでも強い快感と苦しみを与える様に常に更新されていく。
そして、映像の中で沙雪は堕ちていた。
妖魔に隷属する幸福を噛み締め、悦びに打ち震えているのだった。
無論耐える体力など残っていない沙雪は瞬く間に音声に翻弄されていく。
「ほへぇぁああああああああああっ!!!!? イクっ! イクイクイクイクッ! あああ!! まっでええええ!! イげない!! イケないのに、またイクううううううううううううっ!!!! イクっ!!? イクぅっ!! あああっ!!!!? イクぅうううううううううううううううううううっ!!!!!」
バイザーの下で白目を剥きながら絶叫する沙雪。
教育という名の拷問はまだまだ終わらない。妖魔の奴隷に堕ちた退魔師に休息などない――