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【限定/導入テキスト】後輩との関係(後編)

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こちらは後編なのでまずは前編をお読みください!

URL:https://kuroxnagi.fanbox.cc/posts/9230856

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 場面は切り替わって成宮宅のリビングに俺は通された。

 成宮とふたりきり――お互いにソファに座って向かい合っている状況。あれからどちらもだんまりで若干気まずい空気。眼の前の机には成宮が淹れてくれた温かいお茶が湯気を立てていた。


「さ、先程は……お恥ずかしいところをお見せしました……」

 

 沈黙を破ったのは成宮の方だった。

 髪を人差し指でいじいじしながら少し落ち着かない様子。

 

「あー……いや、急に来た俺も悪かったしな……」


「い、いえ……気にしないでください……。

 悪いのはスマホを部屋に置きっぱなしにした私で……」


 成宮はそれだけ言って押し黙った。

 なんだろうこの感じ……今日の成宮はいつに増してふわふわしている。

 地に足が付いていないような、自分を見失っているような、そんな様子だった。

 成宮とつるむようになってそれなりに経つが、あんなすさまじい剣幕の成宮ははじめてみたし。そして逆に今は吹けば飛んでいきそうな弱々しい成宮もはじめて……――?

 

「せ、先輩……どうかされましたか?」


 はっと我に返る。気付くと成宮が心配そうに俺の顔を覗き込んできていた。

 そうだ――いつもと違うと言えば今日の成宮はあのリボンを付けていない。

 日によって付ける場所はまちまちだがあのリボンが外されているところを俺は今まで一度たりとも見たことがなかった。

 

「今日はえらくスポーティーな格好しているな……髪型とかも」


「え、あ……さっきまで少し運動してて……

 あ、慌てて着替える暇なかったんですけど……

 こ、この格好どこか変でしたか……?」

 

「いや、良い! むしろ最高だと思う!!」


 サムズアップも欠かさなかった。

 成宮は恥ずかしそうにありがとうございます、と頬を赤くして顔を伏せた。可愛い。俺個人としての感想になるのだが女の子はちょっとむっちりしてる方が好き。

 

「じゃなくて……!!」


「ふぇ……ご、ごめんなさいごめんなさい……!!

 や、やっぱりどこかおかしかったですか!?」


「いや……そうじゃなくて、格好が変とか言う以前にだな……

 "いつもの成宮"をメ◯ガ◯風と称すなら今のお前は……

 孝◯室の隅っこで漫画でも描いてそうな……陰のオーラが漂っている」


「え……? あ……ああ……ああああああ!?」


 俺のその言葉を聞いて成宮の表情が曇った。必死に口をぱくぱくさせなにか言い返そうとしているが言葉が出てこない様子だ。

 

「な↑、な↑……げほっ……げほっ」


 長い沈黙があってやっと口を開いたと思ったら成宮が盛大にむせた。

 淹れてもらってまだ口を付けていなかったお茶を慌てて成宮に差し出す。いい感じにぬるくなっていたそれを成宮は一息に飲み干した。


「大丈夫か……?」


「すみません……もう大丈夫です。ふぅー……いきます。

 セ↑、セ↓、センパイったら一体何を言ってるんですかぁ?」

 

 ふぅー……と成宮が大きく深呼吸したかと思ったら次の瞬間いきなりスイッチが入ったみたいだった。その様子に流石の俺もどう反応して良いか困惑して言葉が出ない。

 

「私は至っていつも通りですけど……平常運転ですけど!!

 センパイの目が節穴なんじゃないですかぁ?

 レンコンはお節の中だけにしておいてくださいよぉ?」

 

 ところどころ声が上ずったりトーンを調整しているようでまだ変な感じではあったが……少しだけ俺の良く知っている成宮らしくなった。


「すこし"ぽく"なったが……大丈夫か……?

 バランスボールでもやってて頭ぶつけたか……?」


「そ、その……可哀想な子を見るような目をやめてもらえますかぁ!?

 この私がバランスボールなんかで怪我するわけないじゃないですかぁ?!

 ほら、いつもこんな調子で……!! あ、あれ……?」

 

 成宮は勢いよく立ち上がり、まくし立てるように俺にそう言ったかと思うとふらふらとよろけてそのまま床にダウンした。

 

「お、おい――!?」


「だ、大丈夫です……ちょっとだけ……立ち眩みが」


 駆け寄って床に仰向けで転がる成宮の顔を覗き込んだ。

 ふらふらとよろけるようにゆっくり倒れたので恐らく怪我はしていないだろうが……血の気が引いているのか顔色が悪い。


「本当に大丈夫か? 彩華さんにも戻ってきてもらうか……?」


「むー……ふたりのときにお◯市ちゃんの名前を出すのやめてください」


 成宮は拗ねたようにぷーっと頬を膨らませた。

 

「実はお正月太りしてしまって……今日はそれでご飯抜いてたので……

 軽い貧血だと思います……ちょっと横になってれば良くなりますから」


「そうなのか……それなら良いが」


 飯を抜くとか本当は良くはないが……大事じゃなさそうで良かった。


「枕代わりにソファのクッション取ってきてやるから……

 ちょっと待ってろ、って――」


「隙あり……センパイの膝枕!」


 立ち上がろうとするよりも早く成宮が俺の腰辺りに抱きついて頭を乗せてきた。

 そう言えば以前、俺が大変だった時に成宮に膝枕をしてもらった事があったなと思い返す。


「……こういうのもたまには良いか」


 若干の気恥ずかしさもあったが俺は立ち上がるのをやめ床に腰を落ち着かせる。こうやって素直に甘えてくる成宮もまたすこし新鮮だった。

 

「膝枕……なんか想像してたよりも居心地が良くない……ごつごつする……。

 センパイ……体勢を変えて腕枕を所望します……!!」


「調子にのるな……クッションぶつけんぞ」


「ごめんなさい、ごめんなさい……。

 このままで大丈夫です……むしろこのままが良いです……」


 あぐらの中心で嬉しそうに成宮は頭をごろごろさせている。やれやれ……。

 そういえば今の今まですっかり忘れていたが……コンビニで手土産を買ってきたのを思い出した。机の上にあるレジ袋になんとか手を伸ばす。

 

「ダイエットに運動をするのは良いが飯を抜くのはいかん。

 罰として肉まんを食え」


「あっつ!! くない……。ちょっと冷めてるけど……肉まんおいしい」


 2つ買ってきたうちの1つを成宮の顔に押し付けた。だいぶ時間が経過していたので少し冷めてしまっていたがよほど腹が減っていたのか成宮は美味しそうに肉まんに食らいついた。

 

「成宮、良くわからんが……なんか無理してるとかだったら相談しろよ?

 力にはなれないかもしれないが話を聞いてやるくらいは俺にもできる」

 

「はぁ……元はといえば……センパイが急に来るのが悪いんですからね。

 そういうのは私の担当じゃあないですか……?

 そのせいでリボンも部屋だしあれがないと調子が……はもう良いか」

 

「ごめんて……ちょっと急に予定が空いてな。

 年始にすこし電話で挨拶はしたが……成宮の顔が見たくなった」

 

「も~……そういうとこ……!!

 そんな事言われたら私も何も言えないじゃないですか……。

 でもお◯市ちゃんにあんな事言って大丈夫だったかな……後が恐い」

 

 成宮は俺の膝の上でガタガタと震えている。


「楽しそうにしてたから大丈夫だろ……たぶん。

 でも成宮があの人を俺に近付けさせない理由がちょっとわかった気がしたよ」


「ええ……センパイを取られるんじゃないかって恐かったんです」

 

「そこはもう少し俺を信頼してくれて良いんじゃないか……?」


 そういう軽い男に思われていたのなら俺も若干傷付く。

 いや……でも彩華さんが本気で俺を籠絡しに来ていたらどうなっていただろうか?

 たった5分程の邂逅ではあったが……時代が違えば男を唆し傾国させられるくらいの凄みのようなものをあの人から感じた。

 

「……違うんです。私は……私に自信が持てなくて……

 でもお◯市ちゃんは昔から可愛いし、勉強もできるし、愛嬌もあるし……

 何でも持っていて……センパイに私とあの人を比べられるのが恐かったんです。

 あの人は小さな頃から私の自慢のお◯市ちゃんで……」


 切っても切り離せない目の上のたんこぶのような人であった――と成宮は続けた。

 成宮が以前おなじような事を愚痴めいて話していたのを思い出す。あの時はまあどこの家でも良くある話かな程度に思っていたが……そこまで成宮に根深く突き刺さっているものとは考えもしなかった。


「……こんな私を見てがっかりしましたか?」

 

「ん……がっかりとは?」

 

 下を向くと成宮は横向き寝の体勢になっていてただぼんやりと虚空を見つめているようだった。その表情から感情を読み取ることはできない。


「センパイは"いつもの私"を好きになってくれたんですよね?

 だけど本当の私は……こんなんで……。

 あれは"私がそう在りたい"って演技だったんです……」


 ――成宮成実という後輩が俺には良くわからなかった。

 ふだんのあの飄々とした態度。先輩である俺に対し一応敬語ではあるが……小馬鹿にして遊んでいる節がよく見られる――低俗な言い方をすればメ◯ガ◯めいた言動や行動が目立つ。


「昔の私はそれこそ孝◯室の隅っこで本ばかり読んでいたし……

 いつもお◯市ちゃんの背中をずっと追いかけてました。

 センパイはそんな本当の私を知って……

 騙してたんだって嫌いになっちゃいますか……?」


 しかし思い返してみれば俺に対するあれらの態度も、絶対に一線を超えない……尖りきれない優しさのようなものがあった。時折見せる年相応の振る舞い、無邪気な笑顔を何度も見てきた。今まで点と点だったものが繋がっていく感覚――


「別にがっかりとか嫌いになったりとかそういうのは……誓ってない。

 最初わかりやすく"いつもの"とか言ってみたが……

 お前がいつも演じていると言うファッションメ◯ガ◯なるみやが」

 

「その言い方……某洋服屋さんみたいでちょっと嫌です」


「お前は今、俺のすべて(フルコーデ的な意味で)を否定したぞ……!?

 この立派なお宅をはじめて見た時から思っていたが……貴様セレブだな……!!」


「ち、違います! 別にあのお店を悪く言ったわけじゃ……!!

 あそこは素敵なお店です! 成宮家も御用達です……!!」


「お、おう……話が逸れた。

 いや……まあ俺はそういうジャンルの事はあまり詳しくないが……

 その演じていたというメ◯ガ◯風成宮もあれはあれで、

 そうじゃない時の方が多かったというか……?」

 

「そうじゃない時……ですか?」

 

「うむ。いまの成宮から発せられる育ちの良さとか優しさみたいなのが、

 時々まろび出ていたと言うか?

 まろ宮まろ実ちゃんだった事も目立っていたと言うか……」


「わざわざ言い直してまで人をゆるキャラみたいに呼ばないでください……!」


「きっと栗とかがモチーフの御当地キャラだな」


「はあ~……上手くやってたつもりだったのに……

 なんかそんな客観的に分析されると恥ずかしいんですけど!!」


「だから俺はそういうところ含めて成宮が気に入っている。

 だけどそれが無理をさせていると言うのなら、無理する必要はないし。

 成宮がやりたい事だと言うのなら別に俺は止めもしない」


 ふたりきりの室内。

 この後輩といる時は基本的に成宮の方が一方的にしゃべりかけて来るのでこういった静けさを感じる事はあまりなかった。他人といる時、沈黙が気まずいとかそういう事はたまにあるが今日この場に限って言えばこの静寂もそこまで嫌な感じはしなかった。

 

「そ……それなら……」


 意を決したように成宮が口を開いた。

 

「……もしセンパイが今の関係を続けても良いと言ってくれるのなら、

 今はまだすこし無理をしているかも知れないですけど……」


 慎重に次の言葉を選んでいるのか、その様子はとてもか細くたどたどしく見えた。俺は特に急かすような事はせずに黙って頷く。


「でもセンパイに出会ってからのぜんぶが、楽しくて……

 私がやりたくてやっている事ですから……このままでいたいです!」


 成宮の顔をじっと見つめる。成宮も俺の瞳をじっと見つめ返してきた。

 口の中にはまだ肉まんが残っているのか、もぐもぐとしていてなんとも間の抜けた感じではあったが……その瞳からは先ほどまで感じていた弱々しい様子や迷いのようなものはなくなっていた。

 

「お前の今の発言に嘘偽りがないことを誓うか?」


「……ち、誓います」


「成宮成実は病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も……

 先輩を愛し敬い慈しむ事を、誓いますか?」


「……ち、ち、誓います」


「今の録音したから今度俺に口答えしたらその場で流すかr――ぶふぁ!?」


 成宮が一瞬だけ頭を上げて、そのまま振り下ろしてきた。

 ごーーーーん、と俺の頭の中で去年の暮に聞き逃した鐘の音が聞こえた気がした。今年の終わりは休暇を入れて成宮といっしょに鐘をつきに行くのも悪くないな……。


「今のは先輩ジョークで笑うところだろ……!?

 ああ、くそっ……お前がこんなに石頭だったとは……

 おまけにそこを狙うのは反則だろうが……!」

 

「冗談でもやって良いことと悪いことがあります!

 よりにもよって誓いって……バカ……あほセンパイ……。

 調子にのった天罰(物理)……が下りましたね!!」


 成宮からの物理アタックに加えシンプルな罵詈雑言ってはじめてでは……?

 さすがにライン越えてすこし茶化しすぎたと成宮に謝罪する。

 しかし……最初に盛大にむせた時はどうなるかと思ったが成宮もだいぶ調子を取り戻してきたようだ。こう見えてエンジンが掛かるまでに時間を要するスロースターターなのかも知れない。


「まあ成宮がそう言うのなら……俺から言うことは特にない。

 せいぜい無理のない程度に頑張れ」


 ぽんぽん、と頭を撫でると成宮は嬉しそうに目を細めた。


「というか話の流れからして……

 成宮の成りたい理想形って彩華さんみたいなのと思ったが……

 なんでそれがファッション成宮みたいな――」


「あの……! ファッションで思い出したんですが私からもひとつ良いですか?!

 あそこは良い洋服屋さんですけど……

 たまには一緒に別のところにいきましょう! 私がコーデしてあげますから!」


 ふむ……今のは露骨に話を逸らされた気もするが……成宮も元気が戻ってきたみたいだし今日のところは良しとするか。

 

「いや……俺は別に服とか興味ないから良いかな……?」


「センパイはいつも私に変なコスプレさせてないで

 たまには自分にもお金掛けてください……!

 元は悪くないんですから……磨けばもっと光りますよ!!」


 今日、成宮成実の事がほんの少しわかったような気がした――と、そう思いかけて……何勝手にわかった気になっているんだって自分で自分の事を恥じた。


「あ……でもあんまり光りすぎてお◯市ちゃんとか他の女に……?

 それは駄目……やっぱり今のまま……ああでもお洒落なセンパイも見たい……!!

 私は一体どうすれば……?!」


 なんか成宮が俺の膝の上でごにょごにょ言っているが無視する。

 しかし良く良く考えてみたら自分の事ですら良くわからないのだ。

 バイト先で働く自分、他の友だちと接する時の自分、今ここでこうやって膝枕をしている自分……どれひとつとっても同じではない。

 どれもまた自分を形作るひとつの側面でしかない。

 成宮だってそう――今、俺にこうやって見せてくれている姿それも一部に過ぎない。だけれど変わらない事もある。それは俺が成宮成実の事を好きだと言うこと。

 ここまで辿り着くのに随分と遠回りをした気がする。

 今日は特にはちゃめちゃでどっと疲れた気もするが悪くない一日だった。

 願わくばこのままふたりの物語――関係――がずっと続くことを――

 

「あのぉ……センパぁイ……?」


「どうした? 今良いところだったんだけど」


「いい感じに締めようとしてるところ悪いんですけど……

 さっきから私の後頭部に……ナニか固いものが……」

 

「ああ……すまん。

 ずっと黙っていたんだが……お前の頭が動く度に……

 ポニテが俺の良いところにだな……」


「……ぎゃああ!?!」


 がばぁっと成宮は俺の膝枕から飛び起きた。

 良い雰囲気だったのにぃぃぃと、成宮は起き上がって頭を抱える。体調の方はすっかり良くなったみたいで安心した。


「今日はこのまま良いムードで一緒に晩ごはん食べようと思ってたのに……

 なんでセンパイはいつもそうなんですか……!」


 何の申し開きの余地もない……先程まで彩華さんの件やら何やらですこし真面目モードだったが……いい感じに緩まってしまった。

 久しぶりに会った成宮はいつも通り可愛かったし、健康的なへそだしスパッツ姿はそれはもう目に毒で。今も成宮の後頭部で揺れるひとつ結びや、ふだんは拝む事ができないうなじ姿。そんなのを見てナニも感じるなという方が無理だったのだ……。


「それじゃあ……元気になったところで、

 今度は成宮の肉まんを俺にご馳走してくれるんだよな」


「この数秒で今までの話が全部台無しですよ!!!!!」


「俺は成宮の肉まんって言いたいが為だけに、わざわざコンビニに足を運んだのだ!

 あれか、肉まんよりメロンパンやプリンの方が良かったか……?」

 

「ああもうどれも大好物ですけど!

 今の話の流れからだとどのチョイスも最低ですよ!!」


「クリームパンはふたりにはまだ早いかなって……?」


「もう知りません……!!!! 私はシャワー……浴びて来るんで、

 センパイはまずその手の肉まん食べながらテレビでも見ててください……!!」


 成宮は俺の横をすり抜けて風呂場にいこうとする――のを腕を掴んで制した。


「セ、センパイ……今は汗とか気になるから……後で、ですね……」


「いつもの成宮ならそんなの気にせず、

 『HENTAIなセンパイにはこれもご褒美になっちゃうかもしれないですね~』って

 顔面騎乗位でサービスしてくれると思うんだが?」


「し、しませんからね……!? 前から時々思ってたんですけど……

 センパイの"いつもの私像"って痴女か何かですか…!?

 というか微妙に似てるのが余計腹立つんですけど……!!」


「…………」


「え、してくれないの? みたいな哀しげな表情で見つめても駄目です……!!

 さすがの私でもゼ~~~~~ッタイそんな事しませんから!!!!

 ゼッタイですよ!?!?」


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