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白神子の猪(しらみこのしし)(ファイル配布あり〼)


その村は、豊かであった。

春には花が咲き乱れ、夏は遥かに青む山々、秋には稲穂が実りの頭を垂れ、冬はしんしんと純白の雪が降り積もる。人々は四季折々の豊かな実りを山の守り神へと捧げ、その恩恵を享受していた。


…そうであったのは、もうどれほど前であったか。ある時を境に山から金が採れるようになり、村は一層豊かになった。外界から訪れる新たな価値観に人々は実り豊かな山を切り拓き、自分たちの私腹を肥やす為に深い森を侵してゆく。

神への畏れ、穢れの忌避は今尚残れども、それよりも目先の絢爛へと目が眩んでいた。


中でも、今の村長(むらおさ)である猪隈(いのくま)家は率先して外界と繋がった。金の取引によってもたらされる価値観、知識…それらを用いて財を成し、切り拓いた山から採れる金細工をお上に献上すれは覚え良く、今や藩との深い繋がりまで持つまでになっていた。

しかしながら、その周りには悪い噂もまた多い。現当主である猪の男、猪隈金右衛門(いのくまきんえもん)はその権化とも言える男であった。商人との裏取引、藩の要人への袖の下、商売敵への妨害果ては兇手の差し向け…それに飽き足らず、六十を過ぎてなお大層色の盛んな金右衛門は気に入った街娘や下女、果ては奉公に来た男児までを無理やり手篭めにし、娘たちを孕ませるを繰り返していた。


ある時金右衛門は、山々の神を祀る神社の娘を手篭めにして孕ませた。罰当たりは承知の上、自らの欲のままに娘を攫い、座敷牢に繋いで欲望を迸らせたのだった。

そして十月十日が経ったある冬の朝、張り詰めた寒気漂う中で娘は亡くなっていた。その傍にて産声を上げるのは、臍の緒のついたままの瓜坊…男の赤子であった。金右衛門にも娘にも似つかぬ純白の毛並みに、紅玉のように美しい瞳の赤子を始めに見つけたのは、妊婦となった娘にすら欲をぶつけに行った金右衛門本人である。


金右衛門はといえば、娘に子が産まれたらすぐに殺して捨てる算段であった。子など邪魔なもの、これ以上血を増やすなど面倒が過ぎる…そう思うも娘は死に、赤子だけが遺された。

まだまだ楽しもうと思っていたところで先に逝かれてしまってはどうにも腹の虫が治まらない…そこで目をつけたのが、自身の子でもある白の瓜坊だった。


あの娘の子だ、さぞかし具合よく育つであろう。それにこの毛並みと瞳の神々しさ…囲っておけば、何かしらの益はあるやもしれない。

そうして、産まれたばかりの瓜坊は辛くも、自身の母を間接的に殺した自身の父の気まぐれで生かされることとなった。


それから十数年。瓜坊は座敷牢の中で育てられた。その存在は当主である金右衛門とその息子たち、世話役の男衆しか知らない。瓜坊もまた、自身が繋がれた座敷牢の部屋が世界の全てであった。その全ては手で触れ、音が聞こえ、香りが漂い、味がするもの。しかしながらその視界には薄ぼんやりとした動く何かしか映る事はない。


瓜坊の紅玉の瞳は、「もの」を映すことはなかった。



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今現在考えている小説の主人公。内容は割と昔の田舎のエグい感じのアレがあるかもしれないです。

9月更新出来なくて申し訳ないでげす!





白神子の猪


白神子の猪


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