美少女になってうろつきたいので書きました。
前回のは思っていたより希望を頂いたので、二月中頃の更新時に続きを書こうと思います。今回はJKの気分じゃなかったという性癖事情。
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「おおー……可愛すぎる」
姿見に映っているのは、せいぜい10歳程度の幼い女の子ひとりだけ。腰まで伸びたしなやかな茶髪は、くりくりっとした丸い瞳とあどけない顔立ちによく似合っている。
身体つきに起伏はほとんどないお子さま体型で、微かに盛り上がった胸元だけが性徴しているといえる。腰にくびれなどというものは一切なく、股間はつるつるでぴたっと閉じている。どこをどうとっても未熟だった。
俺が腕や脚を動かすと、美少女の手足が追随する。表情も、100%俺の感情を写し取っていた。
「すごい。まるで……本物みたいだ」
むろん――俺はこんな妖精のように可憐な美少女ではなく、ネットで手に入れた"皮"と呼ばれるアイテムを身に着けていた。
これは『他人になってみたいそこの君』などという煽りのネット広告を偶然見かけ、半信半疑ながらも注文してみたもの。俺はセール品となっていたこの皮を選び、それが先程届いたので試してみたら、ものの見事この姿となったのだった。
原理は不明。確かなのは、この少女は実在の人物ではない、工業製品として造りだされた容姿であることだけだった。
現実を残酷なまでに映し出す鏡の中にも、俺というつまらない男はいない。すっぽんぽんのまま自分の身体を観察して、感動に打ち震えるロリっ子だけを切り取っていた。
「……んぅっ、でもまだか」
乳首をつまみ、割れ目に指を差し込んでみる。しかし痛いだけ。身体の中まで完全に女性の、少女のそれとなっているようで、ちっとも開発されていないところまで再現しているようだった。
「まあいいか。それより……へへ」
俺は鈴が鳴るような声でつぶやきながら、部屋の隅にあった段ボール箱を開梱する。効果には疑念を抱きつつ期待があったのは嘘ではないので、この身体に合わせた洋服を準備してあった。
ブランドロゴの英字プリントがある、淡いパープルのうさみみパーカー。ややオーバーサイズのシルエットで、フードからだらんと垂れるうさみみがいかにも子供っぽい。
パーカーが中々のインパクトがあるので、下の黒いフリルスカートはシンプルめ。それに、膝小僧がわずかに透ける白いタイツを合わせる。
「か、可愛すぎる……っ」
顔がとてもいいことは分かっており、その優越感に浸るため外を出歩くとは決めていた。ただしあまり目立って犯罪に巻き込まれたりしても大変だと思い、ファッションのサイトも参考に比較的地味めにして街に溶け込めるコーディネートとしたつもりだった。
しかし、皮実物の容姿は通販サイトの写真よりずっと可憐。どんな服装だろうが似合い、アイドルと言われて一切の疑問がない特上の美少女だった。
出来栄えは完璧。シマエナガを模したリュックを背負い、ラメ入りシューズを穿いて、俺はアパートを飛び出した。
陽は高くも風はこごえる冬の終わりの昼下がり。
家を出ていきなり、股間を風が吹き抜けていく感覚にスカートを抑えてしまった。ひゅ、と大事なところが冷たくなり、体感温度がかなり下がった。
「やぁっ」
そもそも、スカートというのが頼りなさ過ぎる。タイツはぴったりしているから、かえって穿いているという感覚ともまた違う。過剰に歩幅が狭くなり、内股となっていった。
今日は、女の子の姿でうろつくことが最大の目的。電車でショッピングモールへ行き、女の子向けのファンシーショップや服屋を訪れてみる、という流れだ。
それなのに、先が思いやられる。俺はもっとこの美少女を見せびらかして回りたかったが、それも妄想の世界。実際に自分がローティーンの女の子として振る舞うのは、気恥ずかしさがまだまだ勝っていた。
ただ、今の俺が目を引く容姿だとは疑うべくもない。通行人はみな、俺に視線を送っていた。
正面から歩いてくるコートの女子高生二人組は、先に気づいた方が片割れをつつく。
「ねえあの子、可愛くない?」
「見かけたことないよね。アイドルとかなのかな」
と、楽しそうな声が聞こえてきた。黙った彼女たちとすれ違うまで、目が合って途切れなかった。その後も、すごいだのなんだのときゃぴきゃぴしていた。
これが美少女か。何をしなくても自己肯定感が高まるようでいて、まだ自分が女の子である倒錯感もあった。
近道のため公園を突っ切ると、ベンチで遊んでいる男の子たち。スマホやらゲーム機で遊んでいて、威勢のよい声が飛び交っていた。
外見の印象だけならこいつらと俺は同級生か、俺がひとつ上ぐらいか。そう、俺は性別が変わっただけではなく、子どもにもなったんだ。
俺はちらちらと周囲を見ながらも、近所の地下鉄駅へ到着する。ホーム階に上る階段は幅も高さも二割増に感じられ、自動改札でICカードをタッチする箇所が上からではなく横からの視点だった。
家でも多少ドアノブが高く目線が低くなっているとは思ったけれど、なんとなく膝立ちとかをしただけのような気分だった。こうやって歩いて通り抜けるものだとそれができないからか、まさに世界が大きくなったようだといえた。
感動しながら進んでいき、エスカレーターに乗って地下へ潜る。
ホームは電車を待つ人が多く、俺を見てくる視線も強く感じられた。道中のように通りすがることがないので、じっと俺を見つめている人も。
快速が通り過ぎた風圧で、スカートがにわかに持ち上がる。厚めの生地のおかげでぺろんとめくれることはなかったけど、髪はすごい舞い上がった。
少し待って、俺の乗る電車が停まる。乗り込もうと電車の出入り口前で待っていて、ここでも他人というガイドによって身長の差が意識させられた。
皮を着ない俺の身長は平均より少し上で、だいたいの人が俺より小さい。だが今は全く逆で、子どもと腰の曲がったお年寄り以外の大人っや若者はほとんど見上げる目線となっている。
無事乗車し、パーカーのうさみみフードやロングヘア、それにスカートを変に巻き込まないよう空いている席に座った。
今度は、横の小ささも実感する。左右の乗客との間に余裕があった。俺は太っていないものの、普段ならこんなことはなかった。ゆっくりできていいし、脚をまっすぐ垂直に立てて丁度いい。
……あー、いいなあ。家を出てからここまで、いつもよりちょっとかかって約15分の大冒険。極めて似ているけど全く別物、パラレルワールドにでも紛れ込んだ気分だった。
見える世界はもちろんのこと、ふとした時に襲いくる身体の感覚が違う。
ジュニアブラがずっと胸元を押さえつけていた。おそらくこのつるぺたボディーには不要ながら体験のため着用したもので、腹巻きをずり上げたようなものだろうが、硬めの肩紐の存在感は想像以上だった。
タイツも主張強め。脚を包みこんでくれている安心感はある反面、ぴったりラインが出ているんだろうなという気恥ずかしさも並行する。男でも防寒インナーはこんな感じといえばそうだが、その上にもズボンを穿いているものだ。
ショーツもそれ自体の感触がどうこうというより、タイツも併せ股間に張り付いている。狭い歩幅をひとつ刻むたびにチンポの不在を訴えかけてきているし、今座っている時にもチンポジの調整が要らない簡便さと引き換えの、ちょっとの喪失感。
靡くロングヘアや落ちてくる前髪も。機種変せずとも巨大化したスマートフォンも。小さすぎて失敗したと思っていたらぴったりだったシマエナガリュックも。全て新鮮だった。
それに、他の人から無遠慮にぶつけられる視線も。
女性からは概ね優しい目だろうか。中には刺々しい気配を感じることもあるけど、さすがにローティーンの女の子ともなると嫉妬や敵意はないらしい。
男からも幼子へ向ける慈しみのある眼差しと――他にもあからさまに色欲でもって凝視してくる輩も。
「……♡」
緊張感がほぐれてくる。俺が女の子として見られているというのは、自分が美少女である優越感と、元の俺とは関わりのない別人なのだから恥をかいても構わない気持ちのリバーシブル。
俺はスマホのインカメラで自分を写し、うっとりする。そうだ、今日の買い物ではこの姿に相応しいスマホカバーを買うことを目標にしよう。
もう羞恥心はほとんどない。ここからは、全力でショッピングを楽しむ女の子を演じるだけだ。
小さな身体では、乗り降りで混雑する人の波に抗えない。電車を降りた俺は、狭いホームを進み階段を上りきるまでも一苦労だった。
「ふう……」
改札を出た俺は、遠くからは、ストリートピアノの音色も聴こえてくる広間で周囲を見渡す。
この駅はそこそこ大きく、休日だけあってたくさんの人が行き交っている。電話しながら歩くスーツ姿の青年やゆっくり歩くおばあさん、小さな子どもを連れた家族やカップルなども。
都心部から少し離れた立地にあり、国内最大級のイベントホールや俺がこれから向かう大きなショッピングモールがあるなど住みよい街ではあるが、観光地でもない。外国人やキャリーバッグを転がしている人は少数派で、良くも悪くも普段着の街といった雰囲気だった。
そんな中で目立つのは、めいっぱいにおしゃれをした女性と、その対極にあるようなオタクっぽい男たち。みんな同じようなうちわやポスターの類を手に持っていたので、すぐそばにあるイベントホールをめあてにしているだろうことはすぐ察しがつく。案の定、調べてみると女性アイドルグループのライブが開催されるようだった。
一人でいる俺は、これから友達と合って遊ぶところなのか、一人でお買い物をするのか、それか仲間と待ち合わせアイドルのライブに参加するのかと、周りの人間は思っていることだろう。
ただ、アイドルちゃんたちは20歳前後で今の俺とは年齢層が違うが、全然俺の方が可愛い。そんな謎の自信が湧いてくる程度には、リラックスしてきていた。
「ふふっ」
顔がにやけてきた。男なら気色悪い薄ら笑いでも、みんなのハートを射止める笑顔になってくれる。俺は意気揚々と駅構内を出て、目的のショッピングモールの自動ドアをくぐった。
中央の入口から入ったエントランスは、大きな吹き抜けになっている。自販機やテーブルなどもあり、休憩している人々がよく見えた。
これだけ人が多いうえ各々で興味が散っていると電車やホーム、街中ほど視線は感じない。けれども俺をひと目見た者は、しばし見とれているのは挙動で分かった。
「さて……と」
俺はぱたぱたと歩いて、館内MAPの前に立つ。
このモールはたまに来るが、独身男性である俺が寄るのは電気屋や男性向け服屋ぐらいのものだった。これまで気にも留めず俺には全く無関係だったキャラクターのグッズショップやらキッズファッション店の名前を追うと、思っていたより数があった。
俺は手近にあり、このモールを訪れた時にも横目で見ていた雑貨店に狙いを定めた。
◆◆◆◆◆
俺が最初に入ったのは、アクセサリーショップだった。高級感やラグジュアリーさとは遠い、カラフルでポップな雰囲気を店全体で演出している。ヘアアクセサリーやキーホルダーが中心で、ピアスやネイルなどが少ないあたりも主なターゲット層がお化粧はまだな女の子であることが窺える。
実際、他の客は女児を連れた母親や、小学生ぐらいの女の子同士ばかり。店員も女性なので、敷地内に他の男性はいない――ただひとり、俺を除いて。
……早速、禁忌を犯している気分だった。ここで買い求めるものなんてひとつもないし、万一用事があったとしても、ただ男が居るだけでも不安感を与えかねないから通販で済ませるだろう。それだけの分別はあった。
「これ、裏がクリップみたいになってるのか」
こんな風に、商品を手にとってみるなんていう暴挙には出ない。この皮を着ていなければ。
ひとつひとつ眺めてみると、いちごのモチーフがついたヘアゴムやら、宝石風プラスチックにラメが入ったヘアピンなど。俺が小学生だった頃とそこまで劇的には変わっておらず、クラスの女子もこんなの着けていたなぁと記憶が呼び起こされた。
「可愛い」
俺はその中から、リボンのついたヘアゴムを取ってみる。移動中ずっと結わずにいた長い髪は風になびいたりして気になっていたし、味変という意味でもヘアスタイルを変えてみるのは一つの手だ。
やり方ぐらいネットで調べればすぐ見つかるだろうし、合わなかったとて後悔する値段でもない。試しに買って試してみることに、躊躇いはなかった。
「んー……よし」
俺は他の女児と同じく、店内をうろちょろしてから買うものを決める。小手調べということで、ピンクのハートがついた二個入セットのヘアゴムを選んだ。
――買うんだよな、俺が。本来の俺には不要のうえ、趣味を疑われるこんな代物を。姉妹らしき女の子二人組の後ろでレジに並んでから、変な気持ちになってくる。
この姿になってから、他人と会話をするのは初めて。声も見た目と一致する、声変わり前の少女のものになっているけど、自分だけが幻覚幻聴に見舞わているんじゃないかという、皮を着た直後と同じ恐怖があった。タイツの中で、しっとりと汗をかいた。
順番がやってくる。俺は品物を、レジのお姉さんの前へ置いた。
「おねがいします」
「はい、一点で429円だよ」
「えと……交通ICでお願いします」
「はーい……光ったらタッチしてね」
微かに声は震えただろうか。しかしお姉さんは冷静に応対してくれる。手早く小さな紙袋に収めて、レシートともに手渡してくれた。
「ありがとうございました~」
俺の懸念は杞憂に終わる。つつがなく会計を済ませ、俺は足早に店を抜けていった。
「まあ……そうだよな」
店員は客の望んだ品を売買しなければならないのは、俺が男だったとて一緒。考えてみれば普段の手続きと何も変わらないし、万が一俺が男だとバレたとして糾弾されるなんてことはあり得ない。
一人のお買い物で緊張しているのかな、お小遣いで買ってるのかなと想像するのが妥当だ。それに、あの店員のお姉さんはフレンドリーで、愛想だけではない笑みを浮かべていた。
「……ふ、ふふ」
嬉しくなってくる。何度噛み締めたっていい。俺はいたたまれない女装をしている男なんかではない、掛け値なしの本物の美少女だ。
また気が軽くなった俺はアクセサリーショップから悠然と立ち去り、次の店へと向かうのだった。
次にやってきたのは、せんいとりばー――公式略称〈せんりば〉という可愛らしいマスコットキャラクターグッズのファンシーショップ。
紅いリボンをつけた白猫をはじめ、レトリーバー犬やうさぎ、ペンギンにカエルなどキャラの種類は多岐に渡り、そのいずれもが長く愛されているマスコットだった。
こちらの店も性質上子どももいるが、高校生以上の女の子も散見される。モール外にいたアイドルグループのライブに来て、開始までここまで時間を潰しているらしい女性もいた。
あと、年齢層が上がったためかカップル連れもいる。もっとも男は女性側に付き合っているだけ、といった風だった。
まあ確かに、俺も元の姿だったらここに来ない。〈せんりば〉は他社キャラやグッズとのコラボと異様なまでに寛容で『仕事を選ばない』とまで言われているので、もし俺が好きなコンテンツとコラボがあったらその可能性はなくもなかったが。
ともあれ、さっきとはまた異なる趣きだった。どの商品にも少なからずキャラがプリントされていて、全体的にパステルカラー。アクセサリー以上に、ぬいぐるみのついたキーホルダーやぬいぐるみそのものらが多い。
ここでも少し視線を感じつつうろうろしていると、スマホケースのコーナーが目に飛び込んできた。
キュートな顔がふてぶてしくも居座っているものや、ツートンカラーでおしゃれかつ目立たないものなど。ある程度シリーズがあり、それぞれにキャラごとのラインアップがあるようだった。
「……おお」
ふと、高いところにある商品を見上げて気づく。ハナから子供向けのアクセサリーショップは、女児向けとして低めに陳列されていたのだ。
たとえば『子供向けショップの店の棚は高めか低めか』と問われれば低いと答えるだろうし、コンビニやスーパーでも子どもが欲しがる駄菓子や食玩は足元に並べられていることも知識として持っている。
けど、実際に子どもとしてその恩恵を受ける日が来るとは思ってもいなかった。俺は小さく感動していた。
俺はいちいち背伸びをしながら、目線より高いところにあるスマホケースを手に取る。それは尖った耳が特徴的な、黒いうさぎのキャラクターのもの。
全体的な色調や首掛け用の紐は、俺の着ているパーカーと同じ色合いのパステルパープルをしている。裏全体を窓と見立てひょっこりと顔を出しているような構図で、とても愛らしかった。
やはり男が持ち歩くには耐えない。しかし今の俺には、ジャストフィット。いい値段がするのも気にせず、俺はレジに持っていった。
俺はあえて、店員に話しかけてみる。
「あの、すぐ使いたいので袋捨ててもらっていいですか?」
「かしこまりました」
後ろに並んでいる人もいなかったので、俺はその場でゴツいケースからスマホを外し、可愛いキャラのケースに取り換えた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
俺が満面の笑みをみせてやると、レジの女性も顔が緩んだのだった。
その後も俺は、いくつかの店を渡り歩いていく。
次に立ち寄ったのは、キッズ服売り場。特定のテナントではなくモールとしての売り場のようで、衣類が幅広く取り揃えられている。
ここの客層はファミリーばかり。女の子の友達連れも見当たらない。ぽつぽつ一人でいる子も手荷物がないので、きっとそばに親がいる。このモール内には女児向けブランドの店があったので、おしゃれを求める子はそちらに居るのかもしれない。
はてさて、俺はいつもなら関係のない女の子の服を眺める。今着ているようなカジュアルな服から、フリルがあったりリボンの大きな女児女児した服も。フォーマルなワンピースはレディススーツとも異なり、どうしても入学式などが連想された。
他にも下着だって。まさしく今俺が穿いているもの――うっすらと白青ストライプの入った、インゴムタイプのショーツもあった。
俺は何か買おうと思った俺は、今晩からでも活用できるラベンダー色のパジャマを買った。上下ともに裾や袖がフリル満点、襟もリボンとレースで縁取られているやつ。
今着ているパーカーをネット通販で選んだ時もそうだけど、俺はどうやら紫系統の色が好きらしい。これも皮がなければ、まったく気づかなかったことだ。
続いて、隣接する学用品店。
さっきのファンシーショップとは異なる実用性重視の文具はもちろんのこと、絵の具に書道用品、縄跳びに紅白帽まで。学校でしか使わないようなものばかりだった。
中でも目を惹かれてしまったのは、ランドセルと防犯ブザー。ランドセルは俺が子どもの頃よりずっとカラーバリエーションがあり、デザインも様々。防犯ブザーに至っては、ほとんど普及していなかった。
もし俺が自分で選ぶのなら、水色にしようか。それか淡い紫か。俺は自分がランドセルを背負い、小学校に登校するところまで妄想する。
この店にもリコーダーやら鍵盤ハーモニカが置いてあったが、俺のものはすぐ男子に狙われるだろうな。
そして俺がやってきたのは、面積の広い家具屋。大人ならちょうどいいキッチンカウンターやテーブルを高く感じながら歩いていった俺は、ベッドコーナーで足を止める。
「おっ」
そこにあったのは、背が高くはしごで昇るベッドの下に、机や収納が一体になっているロフトベッドだった。これは特別憧れがあったわけではないものの、秘密基地みたいで俺が子どもだったらワクワクするだろうな、とは常日頃思っていた。
せっかくだしと、中学生ぐらいからは難色を示されそうな、白とピンクのお姫様風の女の子用システムベッドへ近づいていく。
しかし先客の家族連れがいて、女の子がベッドを試しているようだ。しばし待って、中々可愛い子が降りてきて、両親とともに立ち去っていった。
どうやら寝てみても大丈夫らしい。探してみたら『あそばないでください。こどもだけでは、つかわないでください』と注意書きがあった。
だがまあ気にせずイスに座ってみると、ちょうどいい高さ。机の上を賑やかす目覚まし時計や写真立ても可愛らしい。ここまで色々なお店を回っており、本来ここに置かれるだろう文房具やランドセルの実物が頭にあるので、想像をかきたてられる。
お花や蝶々のレリーフ、ロココ調といえばいいのかロマンチックな装飾もわざとらしかった。
俺はシューズを脱ぎ、スカートを気にしながらはしごをあがる。下からではよく見えなかったが、シーツや布団カバーもピンクの花柄で統一されていた。
「おぉー……」
ぽふん、とベッドに横たわり羽毛布団をかぶる。パイプやらダクト、蛍光灯のある無機的な天井を、華やかなベッドフレームが彩ってくれていた。
もし俺がこのベッドで毎朝目覚められたなら、幸せな気分になれる気がする。デザインだけではなく、こんなあざとくプリンセスな家具を使う資格のある少女であるという点が、なにより嬉しい。
――さっき買ったパジャマを纏って眠り、起きたらランドセルを背負って学校に行く。今は小学4年生程度だから……たぶんもうすぐオナニーを覚えてここですることになったりするんだろうか。
まあ、あいにく女の子となったのは姿だけなのでそれは叶わないのだが。どうせこれから毎日少女の皮を着て床に就くのは確定だし、思い切ってベッドを買ってみようか。なにもこのシステムベッドでなくてもいい。
そんな事を考えていると、瞼が重くなってくる。売り場で寝るのはまずい。常識人としての理性が勝り、俺はベッドから降りた。
「よっし」
ぱん、と頬を張る。
最近暗いニュースばかり目に付いて気分が沈んでいたけれど、今日だけでかなりリフレッシュできた。
俺は心身ともに軽い足取りで、モールを後にして帰宅したのだった。
mhrexm2
2025-05-25 02:25:37 +0000 UTC