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【支援者限定】好きな女の子と入れ替わった話

 入れ替わった女の子の身体、他人の家庭で生活したり着替えたりということを描きたくて作りました。

 ちょい尻切れトンボ気味ですが、あまりに牛歩となったのと下着やら精神描写が出来たので一旦満足。続くかどうかは反応次第です。


 続きました。

 https://gmnt-tsf.fanbox.cc/posts/9390494

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 とある高校、二年C組の教室の中は、いつもと変わらないざわめきで満ちている。窓の外から差し込む初秋の日差しは暖かく、眠っているやつもいた。

 かくいう俺も、机の上に広げた教科書そっちのけでスマホをいじっている。何をしているということはなく、ぼんやりとネットのSNSまとめ記事を辿っていた。

「……私、行ってくる! 先生、遅すぎ」

 気だるい空気を引き裂く、鋭い声。発したのは俺の隣、クラス委員長である和泉《いずみ》さんという女子生徒だった。スカートを翻してすたすたと歩き、勢いよく引き戸の扉を開く。

 明らかに和泉さんは苛ついている。それも仕方のない話で、もう授業開始時刻を回って10分も経過しても先生の姿はなく、しかし呼びに行こうというアクションを起こしたり気にする者は、和泉さん一人だけだったからである。

「もう、誰か一人くらい言い出すかと思ってたのに。ほら、長野《ながの》くんもいつまでもスマホいじってないで」

「はいはい」

 程なくして戻ってきた和泉さんは、俺のスマホにも注意してくる。真面目なのは大変素晴らしいことだと思うが、和泉さんが隣の席であるおかげで、熱心でない先生の授業中に机の下でスマホを触ることが出来ないという被害もある。他の男子や女子もやっているのに。

 もっとも先生への告げ口まではせず、和泉さん自身も没収沙汰にするつもりはないのは、譲歩できる点ではあるかもしれない。

「いいから。授業始まるよ」

 返事をしてからもぽちぽちとブラウジングしていたら、むっとした和泉さんが俺の手ごとスマホを机に押し込んできた。必然的に、柔らかい和泉さんの手が俺と触れ合った。

「……はーい」

「よし」

 和泉さんはその辺りを意識していない模様。俺がようやく教科書とノートを開いたことに満足して、にこっと笑った。

 ……可愛いんだけどなぁ、和泉さん。三つ編みに眼鏡というスタイルなど人を選ぶ要素はあるものの、顔の造形や体つきといったビジュアルは学校全体でも上位に入る。事実俺も一目惚れしていた。

 まあそれらを補って余りある口うるささと生真面目さに辟易し、クラス替えで一緒になってからの一週間で恋心も鎮火したのだが。恋人がいる素振りもない。あばたもえくぼ、とはならなかった。


 ある日の放課後。部活に所属していない俺は、教室に残りぼんやりとしていた。

 外で雨が降っていて、すぐ出発する気にならない。止む気配もなければ弱まる予報もない。天気がよくなる望みはないので、さっさと帰ったほうがいいことも頭で理解しつつも、自分の席でのびていた。

「ふー……きゃっ。長野くん、残ってたんだ」

 俺一人の教室へやってきたのは、和泉さん。額には汗の滴が浮かんでいて、セーラー服の胸元を扇いでいる。

 しかし和泉さんは恥ずかしそうに隠してしまい、顔を赤らめた。教室に人が残っていることを予想していなかったようだ。

 俺は気づかないをふりをしてやる。

「雨だから面倒くさくって」

「え、傘もないの? 貸すよ?」

「あるっちゃあるけど、どの道自転車だから」

「ああ……差しながらは危ないもんね。私も帰ろうとしてたんだけどなんか億劫になっちゃってさ。ふふっ、長野くんと同じ」

 口元に手を宛てて笑う和泉さん。上品な仕草に、俺はときめきがにわかに蘇った。

 和泉さんは隣の席に座り、深呼吸しながらノートや教科書を取り出し予習復習を始めた。隣は和泉さん自身の席だから他にないとはいえ、広い教室で二人隣り合っているとくすぐったい。

「暇なら、長野くんも勉強したら? 今日の練習問題の時も手こずってたんじゃない?」

 和泉さんはかりかりとペンを走らせながら、一瞥もせず告げる。それは一緒に勉強しようというお誘いではなく、無駄な時間を過ごしているんなら有益に使えばいいのにといったニュアンスを感じ取った。

 ……なんかすごい久しぶりに、和泉さんと世間話をしている気がする。俺が授業では不真面目なことが多くて注意されるばかり、他の時間で話すことも滅多になかった。

「えー」

「無理強いはしないけど」

 それきり自身の勉強に集中し、声を掛けてこなくなった和泉さん。俺は動画視聴を装って、横顔を眺める。

 やっぱり可愛い顔だよな。もしかして、学校以外で付き合うんならまた違った一面があるんじゃないか? どんな私服を着ているのかも気になる。ファミレスで何を注文するんだろう。

 不意に和泉さんへの興味が湧き出してきた俺は、何気なく尋ねてみることにした。

「ねえ和泉さん、部活は入ってなかったよね。休みの日って何してるの?」

 唐突だったからか、和泉さんは手を止め訝しむように俺の目を見つめた。けどすぐ表情は優しくなり、手元のノートに視線が落ちる。

「勉強。……っていうと思った?」

「いや、なんにも想像できないから」

「その言い方は失礼かも。私だって友達とか家族とお買い物に行ったり、ゲームして遊んだり。メイクの練習もするよ?」

「メイクか。和泉さん真面目だからそういうのしないと思ってたけど」

「逆逆。女子は高校出たらメイクが当たり前になっちゃうんだから、変なメイクだと恥ずかしいし色々不利になるんだって。大学に通うだけなら大丈夫だけど、バイトとかも考えたら必須だよ」

 和泉さんは少し嫌そうに語る。なるほど化粧が真面目、という視点はなかった。

「面倒?」

「うーん……面倒、かな。私も女の子ではあるけど、お化粧は義務感の方が強いって思う」

「義務感か。和泉さんみたいにそのままで十分かわいい子でも、マナーとかって話だしな」

「……は?」

 口が滑った。和泉さんの手から蛍光ペンがこぼれ、ノートに落書きをする。

「え、あと……ええと、肌綺麗だし、化粧映えするなって……いやそうじゃなくて」

「へ、変なこと言わないでよいきなり……私、可愛くないよそんなに」

「いや、可愛い……いや、あ」

 取り繕おうとしたら、かえって傷口が広がっていく。顔が熱い。和泉さんは耳まで真っ赤になっていて、小さな手が何度も開閉していた。

「ごめん、その……悪い。俺帰る!」

 俺は机の脇にかけていたリュックをとって、教室を飛び出した。

 なんで俺、あんなこと言ってしまったんだ? 本心とはいえ、明日から気まずくて仕方ない。

 和泉さんにしたって、あんなにわかりやすく照れるのは予想外だった。適当にあしらって、いいから勉強しなさいぐらい言うか、引かれてもおかしくないとばかり思っていたのに。

 でもよく考えてみたら、確かに俺以外には厳しくないかも。ツンデレというキャラクターは古いが、元を辿れば照れ隠しだったの可能性はある。

 いっそちゃんと告白するか……いや、そんな度胸が俺にあるか? 彼女が出来たことのない、童貞の俺に。

「……はぁ」

 昇降口、外履きのスニーカーに履き替えてからうずくまる。

 外の雨は雷を伴い勢いを増している。他の生徒はさっさと帰ったのか教室に居るのか、昇降口には誰もいない。戻って和泉さんにちゃんと話せと言われているようだった。

「……はぁ、はぁ。ちょっと長野くん」

「和泉さん」

 和泉さんが追いついてくる。その手には俺のスマホが握られていた。届けにきてくれたようだった。

「スマホ、忘れてる」

「ありがとう」

 ――瞬間的に、俺の頭が都合よく回る。あんな事を話し、時間を置かずまた会いに来てくれたということは。いや、まさか。選びかねる否定と肯定は、ルーレットのように転がっていた。

 スマホを受け取っても、和泉さんは中々立ち去らない。視線をいったりきたりさせる。爪先も泳いで、スカーフがやけに揺れていた。

「……雨、強いね。長野くん、この中帰るの?」

「そのつもり、だったけど」

「弱くなる保証はないけど……も、もうちょっと様子見てても……いいん、じゃない……かな、なんて」

 これって、そういうことなのか。流石にそうでもなきゃ、こんなこと和泉さんだって言うわけないよな。

 ――ちゃんと話そう。俺は拳を握りしめて、一歩進む。呼吸を区切りながら、言葉を搾り出していく。

「……あ、あのさ和泉さん。本当に、いきなりだし、そんな素振りもなかったけどさ。じ、実は……」

「……うん」

 乾く唇を噛み締める。和泉さんも襟を正して、潤んだ瞳が交差する。

「クラス替えで一緒になってすぐから、可愛いなって思ってて……でもやかましくてそういうんじゃないかなってなってたんだ。けど、今日勉強じゃないことも話したら、もっと知りたくなった、って……あの、変な意味じゃなくてさ」

「わかってるよ……」

 ドキドキが止まらない。前置きも尽きた。あとは、それを言うだけ。

「……和泉さん、いきなり……ってのは難しいかもしれないけど――」



 ――閃光と轟音。俺の言葉は音ではないなにかにかき消され、虚空に散った。鼓膜が破れたかのようにビリビリとして、視界も波打つ。身体を引き裂く痛みが駆け抜け、意識がなくなった。



 おそらくは落雷が直撃したか、音と光に気絶したのだろう。

 そして状況を把握しようとした俺は、すぐに気づく。自分が――セーラー服を着てスカートを穿いていることに。

「……え?」

「目が覚めた?」

 しゃ、とカーテンが開く。保健室のベッドで寝かされていたらしい俺の前に居たのは、俺自身だった。

「……ぇあ?」

「あなた、長野くんよね? 私、和泉」

 何一つわからん。訳の分からないことを言いながら、目の前の俺は手鏡を差し出してきた。

 鏡に映ったのは、和泉さんだった。眼鏡がなく、呆然とした表情の。もちろん名札も、和泉 小夜《いずみ さよ》と刻まれている。

 これ、あれか。ぶつかって身体が入れ替わるみたいなの。それが俺と和泉さんとの間で起きた、と。

 突拍子すぎて、取り乱す余裕もない。ただ、自然と手は掛けられていた毛布の下へと潜り込んでいき、スカートの上から股間を撫でた。

「ない……」

 大切な男の子のしるしがない。

「……どこ触ってるの」

「あ、いや……その……ごめんなさい」

「まあ仕方ないよね。私もそうだったし」

 はあ、と目の前の俺はため息を……いや和泉さんか、この俺は。多分これまでの言動や俺が和泉さんの姿になっていることを総合するに、他の誰かが和泉さんを騙っている可能性まで疑う必要はないだろう。

 和泉さんは俺の声で、軽くここまで何があったのかを話してくれた。

 俺の身体で目を覚ましたこと、混乱しつつも身体が入れ替わっただろうと推測したこと、和泉さんの身体となった俺を保健室まで運んで寝かせてくれたことなど。

 実際に、俺と和泉さんの身体が入れ替わっているらしいことも。

「――分かってくれた? なんて、私も全部解明出来たわけじゃないけど」

「まあ……」

 俺はベッドの上で膝を擦り合わせる。ざりざりとしたストッキングの感触や、下腹部からお尻全体を包み込む感触に気持ちがつんとした。

「戻るとしたら……また雷しかないよな?」

「そうね。けど狙ってできることでもないし、危険。そういえば、身体に痛いところとかない? 立てる?」

「多分……」

 俺は毛布を払う。裾の乱れたスカートや小さな足につばを飲みつつ、手を引かれながらベッドを下りる。足を入れたのは、和泉さんの上履きだった。

「……そっか、和泉さんの靴なんだ」

「靴だけじゃないでしょ」

「服とかは元々着てるやつだけど、靴はたった今自分の意思で和泉さんのを使うんだなって」

 委員会の集まりで、他のクラスの女子の席に座った時のように、他人の場所や物を使っているくすぐったさがあった。

 ベッドを正して、ソファに向かい合って座った。テーブルの上には、保健室の備品らしきペンが転がっている。

「さて……元に戻る方法を検証したいところではあるけど、現実的な方法ってあるかな? 私はぶつかるとか、電気流すぐらいしか思いつかない」

「他は、ないな」

「だよね。それに、身体が入れ替わりました~なんて言って、信じてくれる人居ると思う? 私ははいそうですかって受け入れられる方がやばい人な気がするんだけど」

 言い方は悪いけれど、和泉さんに同意だった。

「だから、今日はお互い身体に合わせて帰るしかない……よね」

「まあ……」

「あのさ、私……長野くんの身体で落ち着かないし、多分すぐは戻れないだろうし……私が本当に和泉小夜なのか自信がなくなっちゃって。私の家族とか家のこととか、まとめてたんだ」

 最初からずっと冷静で、道筋立てて話を進めてくれていたと和泉さんも、写経じみたことをして精神統一を図っていたようだ。彼女らしい。表情もいまは不安そう。メモを差し出す手も震えていた。

 ……だよな。俺は訊かれた通りに答えるだけだったけど、そりゃあ和泉さんだってこんなふざけた出来事に巻き込まれて、心細いに決まってる。

 てか俺、そうじゃん。それどころじゃなかったけど、俺が和泉さんに告白しようとした時に、雷が落ちたんだ。

 まだ言っていない想いを伝えなきゃ。

 俺はメモを受け取ってから、静かに立ち上がる。

「和泉さん、ありがとう。今更になったけど……続き」

「続き……? え、あ……そ、そうだよね」

 和泉さんは内股で小さくなって、顔を伏せる。

「ごめん、すっごく嬉しい。私、長野くんのことそんな風に想ってなかったと思ってたんだけど……口出ししてたのがあなたに嫌がらせしたかったんじゃないってのも、言われて気付かされた。あの、けど、元に戻ってから……長野くんの声で、聞かせてほしいし……私の声で、答えたい」

「……そう、だな。収まってからにする」

「でも、本当に嬉しい。ありがとう。心強い」

 顔を上げた和泉さんの鼻先は、赤らんでいる。俺の……元は和泉さん自身の手を握ってくれる。俺の手は大きかった。

「……じゃ、じゃあ今日は……もう遅いし、帰ろっか」

「そうだな……」

 それからしばし、俺と和泉さんは当面を切り抜けるために家庭のことを教え合う。明日は金曜日、お互い部活はないので一日だけ乗り越えられれば土日に入って、多少動きやすくなるはず。

 次に……身体のこと。和泉さんはズボンのポケットから手を出し入れして、目線を泳がせる。俺も手が届き好きにできる範囲にあり、黒いセーラー服の下に秘められている和泉さんの身体を意識させられた。

「お風呂とかトイレとか、お着替えは回避できないもんね。それに、な、長野くんだったら……見たり触ったりしてもいいんだけど、あんまりしないでね」

「分かってるって。そっちも、気を付けて」

「うん……じゃあ、そのぐらい?」

「だな。遅くなってもまずいし、そろそろ」

 和泉さんは自分のリュックを取ろうとしたので、俺は止める。これも逆だ。

「学校では注意しないと間違えるなこれ。あと呼び方も変えなきゃ」

「だね……私は長野くん、私は長野くん……」

 リュックを交換して、保健室を出る。鍵を締めて職員室に置いてから、事件が起きた昇降口にやってきた。雨はまだ降り、夜も近づいたので外は暗くなっている。

 俺は女子の列から和泉さんの出席番号を探し、スニーカーを探して履く。とんとんと整えながら見えるくるぶしや足首は、だいぶ細い。

「あれ、和泉さん……じゃないや、長野くんは?」

「お、俺はトイレに行きたいから……その」

 早速か。生理現象であって仕方ないし、いつかは来るものだとはいえ。

「わかった。じゃあ、長野くんも気をつけてね。じゃあ、また明日」

「じゃあな、和泉……さん」

 俺は長野くんから振り返って、オレンジの折り畳み傘を広げた。




◆◆◆◆




「おかえり、小夜。雨大丈夫だった?」

「まあね。ただいま、お母さん」

 地図アプリを頼りに、俺は和泉さんの家へ帰ってくる。取り立てて言う事のない一軒家のインターホンを鳴らして、母親に出迎えられた。

 和泉さんのお母さんは顔が似ていて、母娘だと疑う余地はない。今は俺がその娘になっていて、この人から産まれたのだとか猟奇的なところまで思考が伸びていってしまった。

 勉強すると言えば、邪魔してくることはないという。俺はその通りおばさんへ告げて、オレンジ色のスリッパを履く。俺の家より幾分か傾斜のある階段を上り、和泉さんの部屋へと進んでいった。

 一人になれて、緊張が解ける――なんてことはない。

 ここは、和泉さんの部屋。人生で初めて足を踏み入れる、同級生の女の子の部屋。

 家財や家電類、そのデザインも取り立てて言う事はない。シンプルな木目調やプラスチック製であり、家具屋の店頭に並んでいるものと同じだった。淡いイエローやグレーで統一されているシーツやクッションのカバーも、派手さはない。散らかってもいなかった。

 ただし、突然他人に見せることを想定していなかった生活感がありありと。デスクの上にある大きめのスタンドミラーの隣には、スキンケア用品やブラシなどの身だしなみグッズ。ベッドの上には部屋着であるグレーのスウェット、部屋の隅で畳まれている洗濯物の一番上はブラジャーやショーツ。壁にも私服のワンピースや上着などがかけられていた。

 女の子の部屋。きっと女友達を家に招いたとしてもここまでさらけ出さないだろう、和泉さんの日常が広がっていた。

 爆発しそうな心臓を抱えながら、デスクのそばへリュックを下ろし姿見の前に立つ。学校では小さな手鏡で見ただけだった――逆に普段見慣れている、全身がまるごと望む和泉さんが居た。

「……可愛い」

 俺のドキドキを反映してか、鏡の中の和泉さんは狼狽えながらも何かを期待しているような表情をしている。告白する直前の、和泉さんの顔でもあった。

 あれだけのことを言われて、まさか彼氏がいるなんてことはないだろう。ということは、みんな和泉さんの可愛さといじらしさに気づいていないこと。掘り当てたと言ったら失礼な表現だけど、俺しか知らない俺にしか見せていない側面があるのは、優越感があった。

 眼鏡を外しても、この距離ならぼやけることなく映る。極端に目が悪いといことでもなさそうで、眼鏡なしの方が俺は好みだった。

「……和泉、小夜」

 自己紹介のように呟く。これが俺の名前になるんだ。もし戻れなかったら、一生。

 いきなり気が遠くなる。

 昨日まで、和泉さん自身にもここまで特別な感情はなかったのに。今日、ほんのふとしたきっかけで強く惹かれ、突き進んでみたら応えてくれた女の子。

 もしかしたらこの部屋に来ることになって、準備していたものを持ち込んで、そういうことになったかもしれなかったのに。

 今は、俺がその和泉さんになっている。元に戻れたんなら、何も言う事はない。むしろ奇妙な体験を共有したのだから、関係は強くなってくれるはず。

 でも、そうじゃない未来が訪れる可能性だってあった。

 めまいがして、ベッドに倒れ込む。セーラー服の襟に残っていた雨粒が、顔を冷やした。

「……和泉さんはどうだろ」

 俺はポケットから和泉さんのスマホを取り出して、俺のアカウント宛てへメッセージを送る。こっちは帰宅して部屋に居る、そっちはどうか、って。

 返事はすぐ。雨で濡れてしまった和泉さんは、俺の身体でシャワーを浴びたという。股にある男のアレも、触って洗ったことが簡潔に書かれていた。

 夕食のあとには風呂に入ることを謝罪とともに送り『丁寧にお願い』とのリアクションを貰った。文面から、和泉さんの感情は汲み取れなかった。

 和泉さん、俺をの触ったんだ。学校でも立ちションをしたのか、それとも個室で座ってやったのか。俺のアレ、どう思うんだろう。これを本来の身体で受け入れることになるとか、そこまで考えてたりするのかな。

 俺もいつかは……ダメだダメだ。

 雑念を振り切って、俺もしっとりと湿気を吸ったセーラー服に手をかける。ワンタッチ式のスカーフを外して、前のファスナーを開く。中には学校指定運動着のTシャツを着ているので、その上からスウェットを被れば終わり。

 下も同じく。留め具を外してスカートを脱いだあと、手探りでズボンを穿いた。それからハンガーに制服をまとめて掛けて、まるっこいサーキュレーターの風を当てる。

 ……なんて冷静にやっつけたようでいて、この日常すぎる一連の動作の中でも和泉さんの身体に触れずやり遂げることは不可能だった。手元が狂って柔らかなバストを鷲掴みにしてしまい、ズボンをあげる時にはお尻に手の甲が当たった。ずり落ちてきていたパンストを整えたら、もろに食い込ませてしまった。

「はぁ」

 部屋に籠もっていると妙な気を起こしそうだ。ただ先送りにしているだけなのは分かっていたが、俺は和泉さんの部屋を後にした。

 両親の部屋、物置、座敷、トイレに風呂と洗面所。俺はそれとなく家を歩き回り、構造を把握しつつLDKへ。

 すでに食事は用意されている。俺を見たおばさんはすっと立ち上がった。

「小夜、お父さん遅くなるって。先食べちゃいましょう」

「そうだね」

「それとも、先お風呂入る? 身体冷えた?」

「平気」

 当たり障りなく、短い返事をする。おばさんは俺が娘と疑っておらず、てきぱきと残りの配膳やらをしてくれた。

 和泉さんの席はレモンイエローのランチョンマットに、オレンジ……というより山吹色の箸やら茶碗やら。家の中、家族間でもあまり使い回さない歯ブラシなどの私物は、父親が青色で母親がピンクや赤、和泉さんが黄系統と決まっているらしい。

 これらも毎日、和泉さんが使っているもの。少し塗装の剥げている箸や、茶渋の残るマグカップなど、使い混み具合のバロメータもなんだかくすぐったく思えてくる。

「学校どう?」

「いつも通り。テストあるから、そこに向けて勉強中って感じかな」

「頑張ってるね。お友達は、ちゃんと居るの?」

「うん。今日も雨で出るタイミング見てた時、友達とおしゃべりしてたよ」

 男の子の、とは言わない。少々ぶっきらぼうになってしまったが、努めて妙に広がらないようにしつつ、俺は母親と二人きりの夕食を切り抜けた。

「ごちそうさま。私、お風呂入るね……ふー」

「なに集中してんの」

「べ、別に」

 和泉さんの家には大きな食洗機があるので、皿洗いの手伝いはない。俺はすぐLDKを出て、和泉さんの部屋へと戻ってきた。


 ここからだ。部屋着はいま着ているものをそのまま着るのでよし。シャツも可愛い私服に目を奪われながらも、シンプルなグレーのものを適当に取った。

 しかし下着は――自分で選ばなければならない。

 帰宅してから和泉さんがメッセージで補足してくれたのは『最近胸が大きくなって新しいものを買ったけど、まだ古いのも整理しないで捨ててないからちゃんとサイズ見て着けて』とのことだった。

 型崩れとかもあるだろうし自分の身体とはいえ、相当に恥ずかしかったに違いない。わざわざ伝えるのは真面目さなのか。

「えーと……F65、か。けっこうこれって大きいよな……よし」

 俺は気合を入れてから、不透明なプラチェストの真ん中を引き出す。

 すると広がるお花畑。白地に淡い花柄、空色にレース、イエローのフリフリなやつにヌーブラなどと呼ばれるものまで。ほぼ全てが淡い色をしていて、俺は目を焼かれそうになった。

「うう……」

 俺はその中から、言伝があった通り『サーモンピンクのドット柄のやつ、これと今着けてるやつでローテしてるから』を手に取る。タグにある三文字のサイズ表示も合っている。これだ。

 さらに丸めて別けられているショーツの方からも、同じ色合いのものを探し出す。カップ表面を覆うメッシュの柔らかさや、ウエストゴムに縫い付けられたふわふわのフリルで、手が歓喜した。

 俺は顔に押し当て嗅ぎたい衝動を手なづけながら、お尻でばんとチェストを閉じる。

 両手にブラジャーとショーツを握りしめながら、俺はよろよろと崩れ落ちた。

「……お、お風呂」

 下着をシャツでくるみ小脇に抱えて、俺は部屋を出て、すぐUターン。今日分のお弁当箱も取って、おばさんに渡して一声かけてから洗面所に乗り込んだ。

 歯磨きから。俺は作り付けの洗面台に手こずり、三面鏡の両端の鏡そのものが開くと気付くのに数秒かけつつ黄色い歯ブラシを握った。

 歯ブラシはよりプライベートで、家族間でも普通共有しない。ひどく居心地が悪かった。歯磨き粉の味もいつもと違う。後ろにあるバスタオルも、毎日和泉さんが身体を拭いていると考えると以下略。

 けど、本番は次。一日のうちで最も綺麗な時に使うバスタオルとは真逆で、一日のうちで最も汚れを溜め込んでいる身体を、これから明かさなければいけない。

 スウェットはさっと脱いで、持ってきていた着替えにまとめる。時間稼ぎでしかない深呼吸をしてから、シャツを脱いだ。

「……うぉぉ」

 勢いで裸になって風呂場に入れば――なんて俺の計画は脆くも崩れ去る。下着姿になったところで手が止まってしまった。

 まあブラジャーを取り出すだけであんなすったもんだしていた童貞は、今まさに下着を身に着けた女の子が現れて涼しい顔でいられない。空色の無地で、光沢感のある素材がキラキラと輝いているのだ。

 制服姿で見るより大きかった和泉さんの胸には、谷間だって形作られている。真上からの視点は立派なもので、足元や下半身が隠れるのは知らなかった。

 ショーツもそう。黒いストッキングでリボンがぺたっと潰れていたり、シワが出来ていたりする。大したことではないのに、そういう状態になることさえ想像していなかった。

 これを脱いで? 裸になって? お風呂に入って? 洗う?

 和泉さんは全てやむを得ないとして許してくれた。しかし残念なことに、俺はまったく平常心で機械的に全てをこなせそうになかった。

 けど、足踏みもしていられない。俺はストッキングに手を差し入れ、丸めて脚を下ろしていく。皮を剥いたように、ナイロンがなくなったところから涼しくなった。爪先から抜いた後は、引っ張って伸ばしておきドラム式洗濯機の上に。あとで、ワゴンにあるネットへ入れることになる。

「……ふー」

 俺は続いて、背中に腕を回す。ブラジャーの仕組みぐらい、流石に分かる。肩甲骨の下あたりを辿って、背骨の上で厚く重なった生地をつまんで押し込み、左右に別ける。

 ぷるん、とカップの中で胸が弾んだ。弱くなった締め付けと緩んだストラップでは乳房を支えきれず、重量感が俺の胸元に襲いかかった。

 ゆっくりホック部を前に持ってきて、腕にストラップを走らせ抜くと――おっぱい。

「……和泉さんの」

 Fカップあるという、和泉さんのおっぱい。とても綺麗で、お椀の形を保って揺れている。アンダーバストや腋下には、ブラジャーの跡が赤く残っている。谷間の下の方にはあせもらしき赤い斑点があった。

 乳首は綺麗なピンク色をしていて、先端には孔らしきもの。乳輪も同じような色、乳首の直径と同じくらいで裾野が広がり、ぷつぷつした毛穴とともにグラデーションを描いて地肌と同化していた。

 ブラにも目が行く。今日は雨が降り湿度が高く蒸れていたのか、ブラジャーの裏には汗じみがあった。タグはE65とあり、指示よりワンサイズ小さい。

「やば」

 リアルな女の子の、おっぱい。俺はついに我慢ができず、手で包み込む。大切なところを隠せたようでいて、触れているぶん破廉恥さではこちらのほうが上になっている。しっとりと吸い付く手のひら、中指に当たる乳首のでっぱりが、ただ肉の塊とは違いおっぱいという構造の特殊性を伝えてくる。

 それに誤算もあった。一度視界から消えたものを再び露わにすることも至難の業。柔らかい胸から手を離したくない欲望と、けどまた直視することになるのも恥ずかしい。

「……ふ」

「小夜、バスタオルある……また大きくなったんだっけ」

「っ! あ、おっ、お母さんいきなり入ってこないでよ」

「そんな驚いたらこっちがびっくりするよ」

 おばさんが、洗面所のドアをがらりと開く。おっぱいを触っている俺の姿にバストサイズのチェックをしていると思ったらしい。

 みっちりとした胸を凝視するおばさん。女同士、それどころか母娘なのでなんの問題もない光景のはずなのに、実際にはクラスの男が娘のおっぱいを触っているということになる。気まずかった。

「私Eだし、もうお母さんより大きいね」

「うん……あ、バスタオルはあるよ」

「そう、ならいいわ。湯冷めしないようしっかりお風呂入ってね」

 短い会話を終えて、おばさんは出ていく。

「……ふー……」

 和泉さんのお母さんとの、何気ないやり取り。この身体が誰のものか、他人の目に誰と映っているのかを再認識させられ冷静さを取り戻せるかと思ったのは数秒、すぐ反転する。

 今の俺は、誰がどう見ても和泉小夜さん。肉体は正真正銘の本物とはいえ、母親でさえ欺いてしまっていた。

 悪いことは出来ない、という反省が強まる。本人の見ていないところでエロい行為をするなんて、薬品などで昏睡させレイプをするのと変わらない。自慰に及ぶ気にはならなくなった。

 それに今じゃなくても、近い将来に和泉さんの恋人として正々堂々と向かい合う日が来るはず。それがいい。

 100%性欲を排除できてはいないが、もっと強力な枷をつけることができた。裸になり風呂に入るのも、エロ目的ではなく好きな人を綺麗にしてあげるだけだ。

「よし……よし」

 気持ちがしゃんとした俺は、それでも助走をつけてからショーツのウェストゴムに手をかける。ぐ、っと下げていって、片足ずつ脱いだ。

 ――和泉さんの、アソコが晒される。

「……」

 逆三角形に整えられた陰毛と、頂点から走る割れ目。股間回りには剃り跡もあって、ちくちくとする陰毛が少しだけ生えていた。毛はどうと一切話さなかったけど、見たところ手入れした直後で当面はこのまま処理する必要はなさそうだ。

 そして……マン、マンコ。服も全て取り払うと、チンポが出っ張っている男とは逆に、内側に感覚が伸びている感覚もしっかり。もっとお腹の内側まで器官が詰まっていて、子宮や卵巣だって収納されていて妊娠できることにくらくらしてきた。

「うぁー……」

 さらに俺は見てしまう。脱いで床に落としていたショーツの裏側、股間が当たる部分を。

 円形で粘度の高い湿りに、ウェットでソリッドな白い汚れ。おりものや愛液とか言われるやつに、匂いのきついマンカスってやつ。これらも今、俺の股間に付着していて――

「変態じゃん」

 自分を戒める言葉も、和泉さんの声で再生される。期待していた以上に申し訳なくなって、興奮が打ち消された。

「ちょっと長野くん、私の下着持ってなにやってるの……そんな人だとは思わなかった」

 和泉さんのマネで叱り、悲しんでみる。

 棒読みだったが、とても効果的で完全に煩悩は吹っ飛んだ。そうだ、和泉さんを泣かせるわけにはいかない。

 心頭滅却。俺はワゴンにある円柱型ネットを取る。既にお母さんの肌色パンストや黒いブラジャーが入っているので、その中へストッキングやら下着を押し込んだ。

 ようやく俺は、入浴の準備ができた。


 ――この先も、髪の洗い方やアソコの洗い方も教えてもらっている。全て忠実にやり遂げなくても良いと言われていたが、それは手間ではなく理性の問題だろう。

 この先、元に戻れなかったらずっとこう。俺はいつになったら和泉さんへ告白の続きをできるのか不安に思いながらも、浴室へと入るのだった。

【支援者限定】好きな女の子と入れ替わった話

Comments

本当に良い作品です

mhrexm2

続編希望です!

ky

これからの方が もっと楽しみです。 続いてください。

丸井主将


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