XaiJu
ごみんと
ごみんと

fanbox


【支援者限定】男女が入れ替わって戻らない話

 えらくシンプルなタイトルですがいいのが思いつかなったのでこれで。

 元は非公開skeb依頼で頂いて作成していたもので、非公開の依頼は基本的に公開しないような心持ちでいましたが、それを積極的に喧伝していたわけでもありませんし、著作権は制作者に帰属するのも原則。納品から半年近く経過しましたので、支援者限定ではありますが公開とします。

 お話的にはごくシンプルな感じで、入れ替わり𝓗𝓪𝓹𝓹𝔂 𝓮𝓷𝓭.




=========================



「ただいま二ヶ月無料キャンペーン中でーす!」

 昼下がりの大型スーパー、入り口付近。俺は声を張り上げ、ウォーターサーバーの売り込み営業をしていた。

 立ち止まってくれるのは、30分やって1人いるかいないか程度だろうか。一応はこの店頭営業自体で契約を増やすというより、いまだ浸透してないマイナーなうちのメーカーを知ってもらう目的ではあるのだが、それにしたって興味を引いていなかった。

「……ふう」

 人が途切れたところで、俺は声をひそめる。自社製品であるウォーターサーバーで水を飲み、ため息をついた。

 大学を卒業し、今の会社に入って早6年。当時は病院などでよく見ていたウォーターサーバーが一般家庭にも浸透してきたあたりで、将来性があると思い選んだ企業だったのだが、全然流行らず。会社の業績は売上は黒字を保っているものの、ゆるやかな右肩下がり。

 俺だって元は企画や製品設計の部署に居たのに、人員整理に伴い営業となってしまった。人前で喋るのは苦手でないものの好きではなく、徐々にストレスを貯めている自覚がある。

「パンフレット……10部も減ってない」

 その日も決められた時間の営業を終え、社用車にウォーターサーバーやキャンペーンアイテムを入れて帰社。簡単な日報を書いて、帰宅した。

 俺は作り置いてタッパーに入れておいたカレーを食べる。弁当箱や食器を洗い、翌朝炊きあがるよう炊飯器をセットしておいた。洗濯物も、明日朝に作動するようタイマーを入れてから、風呂に入った。

「はー……疲れた」

 湯船に浸かりながら、ぼんやりと考える。

 残業等がないのは楽だし、給料も決して悪くない。しかし仕事と割り切っているからこそなんとか続いているだけで、なにかきっかけがあったら転職も視野に入っていた。

 家事なんかは結構好きなので、願わくは主夫というものにも憧れはある。もっとも恋人が出来たことのない俺には、もはや妄想の域と言わざるを得ない。

「寝よ」

 風呂からあがると、気力はゼロ。俺はベッドに潜り込み、眠りについた。


 翌日。このスーパーでの店頭営業は、今日が最後となる。しかし雨が強く、全くといっていいほど人がいなかった。朝から設営をしたのに、本当に誰も来ない。費用対効果はイマイチのまま、買い物客からの関心を惹き付けることができずここでの営業を終えることになるだろう。

 そして夕方、もう撤収の支度を始めようとした矢先だった。

「――あの、お伺いしてもいいですか!?」

 ぱたぱたと歩いてきた一人のやや小柄な女性が、声をかけてくる。

 淡いグリーンのブラウスに白いロングスカートという落ち着いた服装のわり、主婦にしては若く見え可愛らしい。助平ではなく身体的特徴として中々の巨乳で、一週間の営業中に見かけた記憶のない女性だった。

「実際どのくらいかかるのかな、って思って。全然使ったことないんですよ、ウォーターサーバーって」

 その女性は濡れた傘を片手に、ちょこまかと近づいてきてパイプ椅子に座った。掲示していたパネルも見比べながら、ハキハキとした喋りで尋ねてくる。

 俺は契約していただかなくてもと前置きし、実際の水を飲んでもらいつつあれこれとテーブル越しに説明をした。

「えっとですね――こちらのサーバーを設置して頂き――定期的にボトルが――という仕組みなんですね」

「へー、すっごーい。思ったより便利だし、お水も美味しい!」

 その女性はかなり人懐こく、元気いっぱい。話していて自然と笑顔になれる女性だった。まあ左手の薬指には指輪が輝いていたので、恋の一歩手前で想いは砕け散ったのだが。

「んー……あ! でも、こういうの勝手にやったら怒られるなぁ……ごめんなさい! 今度の土日、ここのスーパーにいますか?」

「いやー……実は今日で最後なんですよ。パンフレットはお渡しできるのですが」

「お水のサンプルとかっていただけたりします?」

「申し訳ございません。食中毒ですとか、そういう問題になったとき責任が取れないということもございまして」

 あからさまにしょぼくれていく女性。契約云々ではなく、この人の笑顔がしぼんでいくのがいたたまれなかった。

「わかりました……それじゃあパンフだけいただきます……ありがとうございました」

「いえいえ。もしご主人を説得できましたら、是非とも弊社をご利用いただければと思います」

 パンフレットを手渡すと、女性は立ち上がり踵を返す。楽しげに声を掛けて来てくれた時とは一転、とぼとぼとした足取りだった。

 雨の降りしきる外へと向かって歩き出して――


 女性は濡れた床で、つるっと脚を滑らせた。


「! っきゃ――」

「危な――」

 席を立っていた俺は、倒れそうな女性を反射的に支えようとする。しかしぶつかって、体重と勢いを受け止めきれず俺も床に倒れ込んだ。

 意識がまどろむ。呑気な店内BGMとアナウンスが遠ざかって、肌寒かった空気もなんだかぬるくなっていく。

 やがて曖昧だった五感が蘇った時、眼下に広がっていたのは倒れているスーツ姿の男――俺自身だった。

 そして俺の左手、薬指には結婚指輪がはめられていたのだった。

「……は?」

 俺とさっきの女性の身体が、入れ替わってしまった――俺は半信半疑ながらも、咄嗟にそう判断したのだった。



「――ごめんなさい! あたしのせいでこんなことに」

「いえいえ、こんな事になるなんて予想も出来ないんですから」

 目の前の"俺自身"は、頭を下げて謝ってくる。もちろん中身は、あの女性――文香《ふみか》さん。

 想像した通り、俺と文香さんは激しく衝突したことで、肉体と精神が入れ替わってしまったようだった。あのあとすぐ文香さんも目を覚まして、混乱しつつも何が起きたのかを察する。

 何度か頭をぶつけてみたものの、効果はなし。仕方なし、全く人のいないフードコート、飲食店からの死角となる位置に陣取った。


 俺は胸元の重さ、喉から出る声の可愛らしさに気を取られながらも、話を進めていく。

 最初こそ責任を感じていた文香さんは謝りっぱなし、気が動転していたもののすぐ冷静さを取り戻した。

 同じ方法で元に戻れるかを試すにはリスクを取らなければならない、なら他の手段を調べても遅くはない、差し当たってはお互い情報を交換して相手の生活を送る、というところまで具体的に話していった。

 正直、明るいふるまいから能天気と勘違いしていた文香さんは、非常に理知的で頭のいい人だった。一方でコミュニケーション能力も兼ね備えているのは第一印象と同じ、途中からはむしろ文香さんにイニシアチブを取られていた。

 何度か話を振り返りつつ、文香さんは話をまとめる。

「――なので、あたしは糸井《いとい》さんとして過ごして、糸井さんにはあたしとして過ごしてもらうしかないですよね、やっぱり」

「ご主人に明かすのは、だめなんですよね」

「絶対ダメです。あの人は絶対信じませんし、逆に変なこと言ってると思われて外出禁止になるかもしれません。あ、DVとかそういうのではなく、あたしのことをすっごく大事に思ってくれているので……えへへ」

「大丈夫です」

 俺の姿で照れまくる文香さんに、げんなりとする。その仕草が文香さん本来の肉体で演じられたなら良く似合っているのだろうが、28歳の男では――少なくとも俺は見て楽しいものではなかった。

 そんな愛し合う夫婦を引き裂くのも申し訳ないが、他にやりようはない。

「そうしましたら、身辺情報とか教えあいましょうか」

「ですね。あたしが仕事しなきゃないんですもんね」

「嫌ですか?」

「全然! 逆に嬉しいです! ほんとは結婚してからも働きたかったんですけど、あの人はちゃんと稼いでくるから家にいろって」

 のろけが挟まれる。ただ聞いているだけならまだしも、俺がその役になるというのが問題だった。

「……ちなみに糸井さんこそ、主婦できます? って言い方、ちょっと失礼ですけど」

「家事は好きですので。お昼はお弁当作っていますし、外食もあんまりしません」

「えー、すごい! お弁当かぁ……あたしより立派ですよ。お弁当なんて用意したこと、何回かしかありません。あ、ひょっとして奥さんの分も作っている……とかですか!?」

 なぜか盛り上がる文香さん。女性はいくつになっても色恋沙汰の話が好き、ということなのだろう。ましてこの性格なのだから。

「はは……独身どころか彼女もいませんよ」

「あ、ごめんなさい……」

「ごほん。他、やっていきましょう」

 咳払いで区切って、俺達は粛々と情報交換を進めていく。かつて文香さんは営業を務めていたとのことで、仕事の事はすぐ理解してくれた。他にも言葉の端々……は少々軽いものの、要点をすぐ抑えてくれた。

 文香さんの方は専業主婦。子どもはなく夫とマンションで二人暮らし。家事をしていればいいというのは、こちらも願ったり叶ったりだった。奇しくも俺達は、思惑が一致していた。


「――で、その……夫婦、なんですよね。夜ってどうしましょうか」

「あー……あはは、そうですよね」

 一通り話を終えたところで、触れにくい部分にも踏み込んでいく。流石の文香さんも俯いて、顔を真っ赤にする。

「その、なんていうか……あたしの方が性欲強いんですよね。気持ちとかじゃなく、ちょっとしたきっかけで火が点いちゃうっていうか……でもでも! こっちから誘わなければ、たぶんそういう雰囲気にはならないと思います。もし、求められた時は応じてあげてください……うう」

「わ、わかりました」

「どうしても我慢できなかったら……夫とでも一人でも、しても構いません。身体がその気になってしまったら耐えられないこと、あたしが一番よくわかってますから」

「……出来るだけ、控えます。その、俺も同じなので、無理しないでください」

 女性同士のおしゃべりならまだしも、こういう話を男にするのは恥ずかしいに違いない。誘わなければそうならないというのなら、俺も深堀りしなかった。

「……あ、あと。その時だけじゃなくいつもなんですけど、子どもみたいなあざとい仕草をしてあげると喜ぶんです。急にしなくなったら不審に思われるかもしれないので、ほどほどにしていただけると助かります」

「はあ……比喩や慣用句ではなくほっぺを膨らませる、みたいなことですか……?」

「そうですそうです! あと自分のことをお嫁さんって言ったりとか」

「な、なるほど……努力します」

 こちらの方が男としては辛そうだ。俺の姿で実演する文香さんを前に、俺は苦笑いをする。

「……以上ですかね?」

「はい。えっと……そうだ、SNSアカウントってあります? 通話履歴はたまに見られるんですけど、あのひと機械とかインターネットには疎くてSNSは大丈夫なんです。それとなく連絡しあえるかな~……なんて」

「ほとんど閲覧専用になってるやつは。あれは別に知り合いとかと繋がってはいないので、そういうことでしたら好きに使っていただいて構いませんよ」

「わかりました! あたしのも同じなので、ではゆるく現状を教え合いましょう」

 文香さんは俺のスマホを手早く操作して、文香さんのアカウントをフォローする。通知が飛んできたので、こちらからもフォローを返した。

 ただ流してしまったけれど、妻のスマホの通話履歴を見るのは夫として普通なのだろうか。そこはちょっと、怖かった。

「では……よろしく、お願いします。文香さんのお体とご家庭は大切にします」

「こっちもです。糸井さんの身体、ちゃんとお返ししますから!」

「また近いうち、会いましょう」

 そう言い合って、俺は先にスーパーから出ていく。雨は上がっていて、綺麗な夕暮れがビルの合間に浮かんでいた。




◆◆◆◆




「ただいまー……」

 控えめな声をあげて入る、初めての部屋。文香さんと夫の健喜《けんき》さん夫婦が二人で住む、立派なマンションの一室だ。

 エントランスからして上等だった。そして居室は広いリビングダイニングキッチン、その他に夫婦の寝室、客間まで。夫の健喜さんは大企業に勤めているエリートであり、それなりにいい家だとは聞いていたものの想像を超えていた。

 テーブルや椅子、ソファやテレビなどの家財もしっかりとした作りで、高価そうなものばかり。ただし少しばかり散らかっていたりホコリがあるのは、文香さんの不満を示しているようだった。

 これが今日からしばらく、俺の家。俺の住んでいたアパートとは大違いだった。

「着替えか」

 夫婦の寝室に入って、大きな姿見の前でつぶやく。

 映っているのは文香さん。ショートの茶髪にあどけない可憐な顔、全体的に小さな身体にあって際立つ巨乳。ブラウスにスカートのひらひらとした頼りなさとは対照的に、肌色のパンティストッキングやブラジャー、そしてショーツなどぴったりと覆ってくる下着類。

「俺、文香さんになったんだなぁ……」

 見た目はもちろんのこと、紡ぎ出される声も女性のもの。胸のせいか重心は少し前寄りな気がしてならないし、自然と内股になる女性の骨格さえ自覚してしまっていた。

「……あ」

 きゅうんと、お腹の奥が疼く。この身体は性欲が強く、中々自分でも抑えられないと文香さんは言っていた。その通り、身体がひとりでに盛り上がっていく。女性の身体となったことに興奮した俺の心を検知したらしい。

「……まず着替えなきゃ」

 オナニーをする許可は得ている。けれども、だからといって軽率に及んでしまうのは文香さんにも夫の健喜さんにも悪い。俺は我慢し、目を閉じながら服を脱いでいった。

 だが無駄な抵抗だな。この後服を着たり用を足したり、風呂に入る中で文香さんの裸を見ないことは不可能。俺は自分を説き伏せて、目を開いた。

「……おお」

 白地に花柄、レースや赤いリボンがあしらわれたブラジャーとショーツに、フラットな肌色のパンスト。胸だけが大きい以外のスタイルは良好で、くびれは細く手脚にも余計な肉がない。

 薄化粧をした可憐な顔は紅くなっていて、その通りに熱い。いや、身体中が燃え上がってきていた。

 すごく綺麗だった。俺の意思に反して、手が胸に伸びてしまう。

「ん……ぁっ」

 文香さんの胸はとても柔らかい。温かくてふにふにとしている。そして、同時に揉まれた感覚がやってきた。ブラの上部、カップで覆われていない部分を触っただけなのにとても敏感で、背筋がぴくんと跳ねてしまった。

 ――したい。きっと文香さんが淫らなのはこの身体が敏感なせいだと、俺は勝手に推測する。それは俺自身が欲情していることの釈明でもあった。

「ぁ、んん……っ」

 俺の手つきから、罪悪感と戸惑いが抜け落ちていく。両手で胸を包み、円を描くように揉みまくった。

 だが、そこで圧迫感が下腹部にやってくる。興奮したものかと思ったけれど違う、尿意だった。

「……こ、これは本当に仕方ないもんね。糸井さん、しょうがないよ」

 文香さんの声で口に出すと、たちまち心が軽くなる。俺は下着姿のままトイレにやってきて、便座を上げてから座ってしなければならないことに気がついた。

「濡れ、てる……」

 パンストとショーツに指を差し入れ引き下ろすと、銀色の糸がクロッチに引いた。重力に従い、便器の中に落ちる。よく整えられた陰毛の向こう、文香さんのマンコが愛液を分泌した証だった。

 俺が文香さんの身体に興奮したのに、発情しているのは文香さんの身体。俺が文香さんの身体に触っても、俺に感覚が返ってきて――

「……や、やべえっ!」

 倒錯感に、俺の理性がぷっつりと切れた。拙い手つきでブラジャーのホックを外して放り出し、直に胸を揉みしだく。乳首もとっくに固くなっていて、AVでみたように指先で転がすと凄まじい快感が走った。

「ぁんっ、ぁあっ、ふああっ!」

 その間に、俺はおしっこを漏らす。おしっこをする開放感はほぼ同じ、しかし男にはない心地よさがあった。出し切ってからも拭くことはせず、そのままマンコをいじり出した。

「ああんっ、んあっ、ああんっ、ぁぁんっ!」

 止まらない。俺は半端だったパンストとショーツを片手で脱いで、絡まったままショーツのクロッチを鼻先に宛てた。つんと酸っぱく生臭い匂いで、こんなフェロモンを俺が出したのかと思うとなお昂る。

 膣もマンコも気持ちがいい。恐る恐る入れた指は余裕で飲み込んで、二本も余裕で入った。実践経験ゼロ、知識だけでGスポットを探りあてると、全身がおかしくなりそうなほどだった。

 童貞だった俺は、胸を触るのも、マンコを触るのも、メス臭さをこの距離で受けるのも、全部初めて。あまつさえ男のセックスでも届かないだろう快楽を得て、あっというまに駆け上っていった。

「ぁあっ、んああっ、ぁああっ――ぁああっ!」

 俺はオナニーを始めて5分足らずで、絶頂してしまった。マンコから大量に潮を吹いて、全身を震わせ、絶叫をあげて。しかも快楽は長く尾を引いて中々抜け出せないのに、もう次の受け入れができる。

 文香さんの身体で何度もオナニーして、イきまくる。トイレから戻ったのは、1時間近く経ってからだった。



「ふー……」

 疲れた。後始末を済ませ、部屋着であるTシャツとショートパンツ姿になった俺はソファでゆっくりとしていた。

 確かに、この感度だったら自慰を許可するのも自然だ。文香さんはその性生活を話すことより、敏感さを明かすのが恥ずかしかったのだろう。

 ようやく落ち着いてきてから、文香さんのスマホを取る。夫の健喜さんからメッセージが入っており、そろそろ上がったから帰るとのことだった。

「ご飯作るか……」

 のっそりと立ち上がって、キッチンの冷蔵庫を開く。材料は十分。俺は元のアパートより充実した設備に胸を躍らせながら、夕食の支度を始めた。

 ほどなくして、がちゃりと玄関の扉が開く。

 ――夫が帰ってきた。文香さんから頼まれた通り、俺は料理する手を止めて出迎える。

「お、おかえり健喜くん」

「ただいま文香」

 文香さんの夫は、スマホの写真で見たよりずっとかっこよかった。背が高くスーツもきまっていて、顔も爽やかなイケメンそのもの。ついでに大企業勤めで、すぐ文香さんが専業主婦になっても余裕があるくらいには稼ぎもある。それで俺と同い年。

 少しばかり男としての劣等感が頭を出したけれど、どうにか押し込める。半ばやけくそで、健喜さんに抱きついた。いつも文香さんは、こうしているという。

 健喜さんの顔はぱっと明るくなって、背中を腕に回してくれた。身長差が30cm近くあるので背伸びをしながら何度かハグをして、最後に――ちゅっとキスをする。

 俺からすれば男同士、そういう趣味はなかったのだが、優しくハグされた安心感と、全てのスペックを上回られている男が相手となれば不思議と嫌でもなかった。自分が女性になっていることも、もちろん作用しているのだろうが……とも思ったが、どうやらそうでもない。

 恋人が出来たことがない俺にとって、男だろうとなんだろうと人肌恋しかったのかもしれないと、何度かキスをしてから気がついた。

「文香。そろそろいいかな」

「あ、ごめんなさい……健喜くんと会えたの、なんだか嬉しくって」

「寂しがり屋さんだな、文香は」

 結果、俺の方が離れたくなくて健喜さんに遠慮されてしまったので誤魔化す。文香さんはあざといことをたくさん言えばいいといっていた通り、ラブラブ夫婦にしたって歯の浮くようなセリフをぶつけてみた。

 これは正解だったようで、ご満悦の健喜さんからはまたキスをされた。

 俺は妙な気持ちになりながらも、キッチンに戻る。メニューはハンバーグとサラダ、スライストマトに白米と味噌汁。用意している最中に、スーツからスウェットに着替えた健喜さんがやってきた。

 食卓に並びつつある食事を見て、健喜さんは目を丸くした。

「今日、気合入ってるね。なにかあったの?」

 このメニューも、文香さんには珍しいレベルだったようだ。真新しいシステムキッチンにはしゃいでしまっただけで、俺としてはそこまで手間をかけたつもりはない。

 俺は文香さんの言動指南を思い出しながら、トレースする。

「ううん。お嫁さんが旦那さまのために、頑張ってご飯作っちゃだめ?」

 男ならばキツい言葉でも、やや童顔気味で声も幼く聞こえる文香さんにはよく似合っている。案外スムーズに言うことが出来た。

「まさか。ちょっとびっくりしちゃった」

「もう少しでできるからね、待ってて健喜くん」

 予告通り5分とかからず支度が終わる。俺は健喜さんと向き合い、いただきますをした。

「……ん、うまい。いつもと味付け違うな、文香。ちゃんと下味ついてるし、焼き時間もちょうどいい」

「うそ、そこまでわかるんだ」

「当たり前だろ。文香の料理、ずっと食べてるんだから。さてはレシピサイトとか見たな? あんまり変な動画とか見て影響されすぎないようにな」

 ハンバーグを食べた健喜さんは、得意げに褒めてくれる。俺はいつもの手順と分量で作ったものを、うまいうまいといってぺろりと平らげた。

 ひょっとして、文香さんはまだ働きたいと言ってたのは、家事があまり得意ではないというのも一面にあるのかもしれない。漠然とそんなことを考えながら、俺は健喜さんに同調しておいた。

 幸いなことにお風呂は別。このいちゃいちゃぶりからするとかえって距離があるように思えるけれども、風呂だけはゆったりとしたいのは夫婦の価値観として一致していた。

 俺も昼間に発散していたので、少しムラムラはしたもののオナニーすることなく入浴を終えられた。ケア用品の面倒くささや下着入れには狼狽えたぐらいで、問題もなかった。

 夜は健喜さんと少しおしゃべりをしてから、一つのベッドを折半する。向こうから迫ってくることはなく、俺が眠たそうにしているとみるとすぐ電気を消した。

 入れ替わったことで気疲れしていた俺は、何を振り返ることもできないまま文香さんとのしての一日を終えたのだった。


 翌朝。肉体の体内時計に依存しているのではないらしく、俺はいつもの時間に目が覚めた。

 5時半。トイレに行き、自分がネイビーのショーツを穿いていること、クロッチに非常にねばっこいおりものが付着していたことで、昨日の出来事が夢じゃないと突きつけられた。

 とはいえ、最初の慌てぶりが嘘のように問題なく過ごせている。むしろ旦那の人肌は心が落ち着いて、料理を美味しいと言ってもらえて嬉しかった。

「……そうだ」

 おしっこを済ませた俺は、キッチンを探る。うん、使われていないお弁当箱があった。材料もまだあったはずだし、俺がお昼にパスタを食べれば炊いたご飯の量も足りる。

「よしっ」

 あまり普段の文香さんからかけ離れた行動をするのもまずいけれど、まあこのぐらいならセーフだろう。俺は昨晩余ったハンバーグの種にチーズを入れて焼き、野菜炒めなんかと共に詰め込んでおいた。

「……ふふ」

 半分習慣のようなもので、健喜さんへの献身ではない。そう思いつつも、俺は健喜の反応が楽しみだった。


「あのさ、健喜くん。頑張る旦那さまにお嫁さんから贈り物があるんだけど……じゃん!」

 健喜さんが起きてきて朝食のあと、俺はおもむろにお弁当を差し出してみた。しげしげと眺め、健喜さんはいっそ心配そうな顔になった。

「文香、なにかあったのか? 隠してることない? 俺は怒らないからさ、言ってごらんよ」

 こうなる可能性も、頭の中にはあった。どのくらいの頻度で弁当を作っていたのかは知らないけれど、そもそも料理自体イマイチだった文香さんが、積極的にお弁当を用意するだけでも異常なのではないかと。

 けれども実際にそうなると、覚悟していた以上に悲しい。

「そ、そんなことないもん……昨日ハンバーグ喜んでくれたから、今日もって思っただけだもん」

 そんな拗ねるような言葉が、意識するでもなく口をついて出てきた。健喜さんははっとして、俺を抱きしめてきた。

「ごめんごめん。でもいきなりは驚いちゃうし、なにか変なの観たのかな? ってなるよ俺も。ありがとう、文香」

「もー……ぷんぷん、だよ」

「俺は、なにか悪い男とか怪しい女とかにそそのかされたんじゃないかって思っただけ。なにもないなら大丈夫」

 若干だけど、健喜さんの言い方には棘がある。文香さんが欠点として束縛が強いというようなことを挙げていたけど、その片鱗が見て取れた。


 その後はいってらっしゃいのキスをして、健喜さんを送り出す。仕事に行かなくていいのは精神的に楽で、掃除や洗濯にも身が入った。ついでに家中を見て回り、文香さんと健喜さんの結婚生活や接し方についての情報収集を試みたりもした。

「……あ」

 午後、お昼にパスタを食べてゆっくりしていた時に思い出す。そういや元に戻る方法、全く調べていなかった。まだ一日だけとはいえ、この生活が心地よくて忘れてしまっていた。

「まあ、有用な情報はないかな」

 スマホで調べてみたけれど、すべて映画や漫画の出来事ばかり。ぶつかって入れ替わるというのはパターン化されているらしいものの、元に戻れるかはバラバラ。期待できなかった。

 試しに俺の――文香さんに預けた俺のSNSアカウントを見てみると、さっそく何十件もの投稿。『牛丼屋に来た』だの『お風呂入った!』だのと、行動をいちいち記していた。

 まあ仕事をしたいと言っていても、大好きだと言っていた夫と引き離されて一人暮らしとなった。それは寂しくなり投稿しまくったとしても、叱ったりすることはできない。

 俺もご飯作ったら喜んでくれた、お弁当も作ったなどと平々凡々な投稿をしておく。ややこしいコミュニケーションながら、確かにこれは安全そうだった。

「……」

 急激に、むらっと来る。文香さんが歩んでいた人生を歩んでいる。26年間生きて来た肉体を借り受けている。

 その事実が破廉恥に思えたのだろうか。俺は服を脱いで、文香さんの身体でオナニーを開始した。




◆◆◆◆




 時間が過ぎるのは早く、もう一週間が経った。文香さんとあれからは会えていない。買い物で出かけたついで、探して見つけた電話ボックスで連絡をとったきり。

 文香さんは仕事を覚え、周りもいい人がたくさん居て営業の仕事が楽しいと言ってくれていた。やはり有能だったようら。

 こちらも飯が美味くなったと言われて訝しまれたことはあったけれど、本格的に浮気や不倫を疑われたことはないと伝える。

 初日に自慰を我慢できず、それから毎日してしまっている、けれども健喜さんとはまだしていないことも素直に話した。文香さんは『やっぱり、そうだよね』と言って、自分も早々に射精を体験したと恥ずかしそうに打ち明けてくれた。

 差し当たって戻る手段もなく、元々入れ替わりの舞台となったスーパーも俺の自宅や会社から近いわけでもない。SNSでぼかしながら近況を投稿しつつ、また機会を見て会うか連絡しようと言って、電話は終わった。


 暗い車窓、線に描く電飾の街並み。俺は文香さんと入れ替わってから初めて、電車に乗っていた。

 今日は外食にしようと健喜さんに提案されていて、仕事終わりの健喜さんと落ち合う約束をしている。少しお高いレストラン、と聞いていたので普段着ではなくエレガントな黒いワンピースを纏っていた。

 しかし背は低くヒールは不安定、自意識過剰でもなく男の視線を感じるのは案外に怖い。予定通りの時刻、予定通りの駅で降りた改札口、もはや見慣れたスーツ姿の健喜さんに会えるまで心細かった。

 俺は健喜さんの胸に飛び込み、手を繋いだ。

「健喜くん、寂しかった」

「こんなところまで引っ張り出して、御免な」

 なんて夫婦どころか付き合いたての恋人みたいな甘ったるい会話を交わしながら、二人でレストランへと向かう。少し前に健喜さんが同僚との付き合いで来店し、文香にも味わってもらいたいと連れ出したようだ。

 あらかじめ聞いていた通りのハイクラスさで、本当に接待や小金持ちじゃないと来れない雰囲気だった。金曜日だからか席は埋まっているのに静かで、他の客もまるきり慣れている様子。

 メニューはフレンチのフルコース。俺と健喜さんは口数少なめに料理を味わい、ピアノの生演奏も楽しんだ。


「健喜くん、今日はありがと」

「ううん、こちらこそ。今週ずっと毎日お弁当作ってくれただろ? ちゃんとお礼がしたかったんだ」

「もー、あたしは健喜くんのお嫁さんなんだから気にしなくていいのに」

 俺は健喜さんにぴったりとくっつきながら、夜の帰り道を歩く。文香さんの身体はそこまでお酒に強くないと聞いていたので、ワインは少しだけにしていたのだが、それなりに気分が高揚していた。

「だからだよ。料理もお弁当も、最初は少し驚いたけど俺のためにしてくれてるって分かったから」

「もー……」

 すごく、嬉しくなってくる。もちろん文香さんと健喜さんが夫婦であるというのは前提にある。けれども、料理をしたりお弁当を用意したことは俺自身の努力である事に違いはない。その点だけは、素直に受け取っていい部分だ。

「文香、愛してる。ここ一週間くらいで、また惚れ直した」

 愛してる。その言葉は俺自身に向けられたもので、本当の文香さんに対する冒涜のような気がした。

 そう分かっていても、この耳で何百回も聞いただろう殺し文句は、文香さんの身体をきゅんきゅんと甘酸っぱく疼かせる。ドレスとストッキング、下着の中にじんわりと汗をかく。

 まずい。健喜さんから逃れられない状況で発情してしまったら――明日は休日、後は帰るだけの夫婦が夜の街に居たら。

「あ、ありがと……あたしも、愛してる」

 それが文香さんとしての演技なのか、自分に惚れ直したと言った男へ心の底から捧げた想いなのか、その境界は溶け合っていった。

「それに文香……今週ずっと、我慢してたんじゃないか? 夜誘ってこないのも不安だったけど、俺を焦らして……たまには俺から、ってことなんだろ?」

「あ……っ」

 健喜さんは俺の耳元で、吐息をかけながら囁く。雑踏や車の騒がしさをすべて押しのけ、心の奥にまで忍び込んできた。

「だ、だって……毎日毎日するのはいいお嫁さんじゃないかな……って」

 自分でも何を口走っているのかわからなくなってくる。もう身体は、健喜に抱かれることしか求めていない。

「……うそ。溜まってる。あ、あのさ……今日は……いい、かな」

「最初からそのつもりだったよ」

 そう言って、健喜さんは俺の手を引いていく。入ったのはすぐ近くにあった――ラブホテル。ごくシンプルな部屋、大きなベッドに俺は押し倒された。

「文香……好きだ、愛してる」

「あたしも……健喜くん」

 うっとりと見つめ合って、キスをする。服が乱れたり汚れたりすることなんて気にせず、俺達は一つになっていった。

 お互い裸になって、至るところを愛撫し合う。豊かな胸を揉まれ、尻を撫でられ、マンコも舐められイかされる。俺だって負けないよう耳をねぶってチンポをしゃぶり、精液を全部飲み込む。

 体温は何度にも上り詰めていた。俺はとろとろのマンコを開いて、健喜さんを誘った。

「ねえ健喜くん……あたし、健喜くんとの赤ちゃん欲しいな……」

「文香……っ!」

「――ぁんっ、あぁんっ、ふあぁんっ、なあぁあっ!」

 生のチンポが入ってくる。オナニーとは比にならない快感と幸せで、身体がいっぱいになっていく。健喜さんの大きな体に蹂躙されているのも、自分が女性だと思い知らされて心地よかった。

 俺は一週間足らずで、本当に健喜さんのお嫁さんになってしまったらしい。女性のいちばん大切なところを出入りする凶悪なチンポも、俺の握りこぶしをすっぽり覆う健喜さんの大きな手も、眼差しも、声も、全てが祝福だった。

「文香……っ、中で……っ!」

「うんっ、いっぱい、健喜くんのちょうだい……っ、赤ちゃん産むから……ぁっ!」

 二人、同じタイミングで絶頂する。子宮にどくどくと精子が穿たれて、熱くなる。絶対受精した。俺と健喜さんの赤ちゃんができる。俺の丸い卵子に、つぷんと健喜さんが入ってきたイメージが見えた。

「……んっ、もっとぉ、あたし溜めちゃったから……っ!」

 でもまだ足りない。俺は健喜さんを求め続け、深夜遅くまで健喜さんとセックスをしまくったのだった。




◆◆◆◆




 その日、俺は朝から部屋の掃除をしていた。キッチンを片付け、ソファのカバーも洗っておく。今日は来客の予定があった。

「きた」

 インターホンが鳴ったので、マンションのエントランスを開けて中へ、そして俺と健喜くんの部屋へ。

「ふう……お久しぶりです、糸井さんっ」

「こちらこそ。文香さんのほうは……元気そうだな」

 やってきたのは、大きな段ボール箱を抱えたスーツ姿の男性。元の俺の姿で人懐こい笑顔を浮かべる文香さんだった。

「ご契約ありがとうございます! なんちゃってね」

 文香さんがこうしてやってきたのは、ウォーターサーバーを設置するため。元々文香さんと俺が巡り合ったのも、俺の仕事がきっかけだった。

 最初から文香さんと会う目的ではなかったものの、健喜くんからウォーターサーバーを置く了承を得たとき、出会った時に渡した名刺を頼りに連絡した結果、文香さんが来てくれることになったのだ。

 ウォーターサーバーの設置を終えてから、お茶を入れて一休みする。

「ふー……もう三ヶ月経ったけど、仕事はうまくいってるみたいですね、文香さん」

「まーね。最初はわかんないこともあったけど、もう慣れちゃった。営業での売上も伸びてきてるし、あと新製品開発に一枚噛むことになったよ~」

「すごいですね」

 文香さんが仕事をしたがっていたというのは、自宅に引きこもっているのが嫌なのではなく、単純に仕事が好きだということだったらしい。日々のSNSでも、仕事が楽しいような投稿が増えてきていた。

 営業という役回りも、愛想と話術、理論的思考など必要な能力を兼ね備えていた文香さんにぴったりだったのだろう。

「そっちは? 健喜くんに愛想つかされたりしてない?」

「大丈夫です。お弁当も作ってあげてますし、昨日だって……」

 ――たくさんエッチして、中に出してもらった。そう口を滑らせそうになって、飲み込んだ。

「あはは。そっか、してるんだ。いやいいよ、今のきみと健喜くんは夫婦だもんね」

「……すみません」

 あからさますぎて、文香さんには即バレた。でも、笑って許してくれる。

「実はあたしの方も部長さんといい雰囲気なんだよね。こないだも二人きりでご飯行って。勝手にごめんね」

「ぶ、部長と?」

「うん。あたし健喜くんの束縛が強いって言ってたじゃない? それは本当だって分かってもらえてると思うんだけど、あたしやっぱりそういう人が好きなのかも」

 部長と言えば30半ば、いわゆるお局様に片足突っ込んでいる女上司。仕事はできる美人であるもののキツい性格で、少なくとも俺は苦手だった人物だ。バツイチで、元旦那は愛が重いと言って離婚したと聞いていたが、まさか。

「ああいう人、なんか放っておけないんだよね。寂しそうで、自分がいなかったらだめそう、みたいな」

「まあ……わからんでもないですけど」

 今健喜くんと俺が別れるようなことがあったら、相当に彼は落ち込むに違いない。どういう経緯で部長の心に潜り込んだのかは不明ながら、文香さんらしい考え方でもある。

 沈黙。お互い言葉を失い、見つめ合った。

「……あのさ、糸井さん」

 がばりと立ち上がった文香さんは、俺の手を取る。

「あたしたちさ……も、戻らないほうがいいのかな?」

「……」

「だって元に戻る方法なんて見つからないし、お互いうまくいってるんなら……って」

 薄々俺も感じていた。元の身体に、戻りたくなんかない。

 好きな家事に一日を費やし、人妻として夫に抱かれる幸福は、元に戻っても代替が効かない。あるいはそういう関係性を望む女性を見つけ出せば構築できるのかもしれないが、だとしてここまで愛し合えるか自信はなかった。

 俺は紅茶で喉を潤す。文香さんは、俺の身体でもじもじとしていた。

「俺も、そう思っています。その……ごめんなさい、俺も健喜くんの事、女の子として好きになってしまって……離れたく、ありません」

「そっか……ううん、ありがとう、あたし安心した。健喜くんを取られちゃうのは複雑だけど……気づかれなかったんなら、負けちゃったってことだもんね。それに健喜くんが幸せでいてくれるんなら、それはあたしも嬉しいかな」

「それを言ったら、俺より文香さんの方が仕事出来てますから。戻って周りに失望されたくありません」

「糸井さん……」

 俺と文香さんは、手を取り合う。あるべき形ではなくとも、それぞれが納得するのなら。結論は出てしまったらしい。

「……じゃあ、やめよっか。元に戻るの」

「俺は異論ありません」

「――決まり。じゃああたしは糸井くんで、あなたが文香。そういうことにしよ。連絡取り合うのもやめ」

 軽い決断ではない。俺達が安らいでいるのは現在のみで、過去も未来も取り替えるということ。もちろんそれも覚悟したうえでのことだとは、確かめ合うまでもなかった。

 いつになく深刻な表情だった文香さん。しかしすぐににこっと笑って、手を繋いだままぶんぶんと振った。

「あと、最後に一つお願いがあるの。今はもうあなたが健喜くんのお嫁さんで、いけないことだって分かってる。けど、今のあなたも好き。だから、えっち……しない?」

「え、えっち……ですかっ!?」

 ぽん、と顔が熱くなる。淫乱なこの身体(たった今俺のものとして譲り受けたので、はっきりそう言わせてもらう)で、元の自分とセックスをする光景が脳裏に駆け巡って、マンコがじゅんとした。

 正直気持ちはわかる。元の自分と決別するならば、一度だけならしてみたいのは頷ける。

「け、けど……俺、もう健喜くんのお嫁さんなんですよ……!?」

 けれども、それよりも健喜くんへの操の方が大切に思えてしまった。文香さんがただ自分を抱きたくて、性欲を解消するために望んでいるのではないのも伝わっているんだけど、だからといって簡単には身体を許してあげられなかった。

「無理にとは言わないよ、もちろん。それに健喜くんがどんな気持ちであたしとしてくれてたのかってのも、ちょっと知りたいんだよね……」

 そう言われると弱い。俺は健喜くんを寝取ったも同然だし、妻として健喜くんの気持ちを少しでも知りたいというのは、言われてみれば俺も同じ。童貞のまま文香さんになった俺は、男の悦びを知らない。

「わかった。ただ今回本当に一回だけだし、ゴムはしてくださいよ。指切り、してください」

「すっかりあたしだなぁ……もちろん、夫婦を引き裂くつもりはないよ」

 俺はぷっと頬を膨らませて、小指を結んだ。それから客間に移動して、畳んであった布団をひく。お互い服を脱いで、裸で向き合った。

 文香さんはチンポは勃起させながら、俺の大きな胸やマンコを見つめる。元の自分の身体で、元の身体の持ち主である文香さんだとわかっていても、少し恥ずかしかった。

「あたしの身体、綺麗でしょ。それにとっても敏感で……濁してたけど、健喜くんとたくさんエッチしてたんでしょ?」

「はい……もう、毎日。ふ、文香さんこそ部長としたり、一人でしたんじゃないんですか?」

 俺は一歩近づいて、文香さんのチンポをぺたぺたと触る。ぴくぴくと、反応した。

「部長とはまだ。こないだ家に誘われたけど、糸井さんとのけじめもあって断っちゃった。まあ明日行くんだけど」

「あっ」

 文香さんは俺の胸を触る。この三ヶ月で自慰を重ねて見つけた弱点、知らなかった弱点も、的確についてきていた。

「んふ……っ、文香さん、上手……」

「元はあたしのだからね」

 すぐ、立ってられなくなる。文香さんの膝に乗って、背後から身体をいじられた。

「……好き。好きだよ、糸井さん」

「だ、だめ……っ」

 文字通りに耳元で甘く囁く、健喜くんもよくやること。身体が俺の意思に関係なく燃え上がるのに、男の人からいいようにされたくなってしまう。

「あたし、糸井さんのことも大好き。愛してる。じゃなきゃあたしの身体も、健喜くんも渡せない。糸井さん……ううん、文香はどう?」

「……好き、好きっ。大好き……愛してる。今だけ、恋人同士になろ」

 ごめん、健喜くん。言い訳はない。俺は俺の身体を、文香さんの心を求めてしまっていた。

 俺は身を返して、文香さんにキスをする。俺の唇はほんのり甘く渋く、存外に悪くない感触だった。香り立つフェロモンも、嫌じゃない。これならきっと、部長とうまくいってくれそう。

「……っぷ、っふ、っふ……ぅ!」

 裸で抱き合って、男女として貪り合う。すぐゴムをつけてもらって、健喜くん以外のチンポを咥えこんじゃった。

 一生懸命腰を振って、汗を流し、体中で交わり合う。

「ぁっ、糸井さんっ、糸井さんっ!」

「文香さん、好きっ、好きっ、大好きっ!」

「ぁっ――ぁあっ!」

「っくぅ、っふぅ……っ!」

 そして――文香さんと、同時にイった。ちゃんとゴムはしていたけれど、抜いてから文香さんは射精した。健喜くんとは違う攻め方で、俺も気持ちが良かった。

「……糸井くん。健喜さんをよろしくね」

「はい……任せて、ください……んっ」

 裸で抱き合いながら、俺達はまたキスをした。


 一回だけで終わり、始末は後回しにして服を着る。スーツ姿になった文香さんへしゅっと消臭スプレーを吹きかけて、玄関に立った。

「じゃあ、さようなら……ですね」

「うん。あたしはすっきりしたかな。よろしく」

「こちらこそ。父さんと母さんに孫の顔見せてあげてくださいね、たぶん俺には出来なかったことですし」

「あはは……」

 文香さんは笑いながら、言葉を溜める。

「これが本当に最後! デリカシーないの分かってるんだけど……聞いていいかな」

「はい、なんでしょう」

「あたしとするのと健喜くんと、どっち気持ちよかった?」

「……健喜くんのほうが、ずっとよかった」

「じゃあ安心だ」

 それだけ言い残して、文香さんは部屋を出ていったのだった。




◆◆◆◆




「これって確か、うちのやつだよな」

「そうだよ」

 ある休日の昼下がり、健喜くんと一緒にテレビを観ていると最近話題となっているウォーターサーバーが特集されていた。元々品質は良好で、ターゲット層を富裕層に絞り上等なサービスを展開したことで成功したとのこと。

「あ」

 インタビューが流れる。メーカー担当者として映像に登場した副社長は――かつての俺だった。

 声を上げた俺に、健喜くんが尋ねてくる。

「知ってるの、この人?」

「うん。うちに設置した時、この人が来てくれたの。4年前だから、スピード出世だ」

「へー……」

「嫉妬しないの」

 じとっとした視線を向けてくる健喜くん。ほっぺを押し込んで、俺も頬を膨らませて見せた。本当にセックスをしたことは、墓場まで持っていかなきゃないな。

「……ちょっと、こら、めっ」

 ただ嫉妬が収まらなかったのか、健喜くんは肩を抱いて、キスをしてきた。さらに、体中をまさぐってくる。

「んぅ……ふ、うっ……お昼だし、隣でさくらも寝てるんだよ……っ」

「二人目欲しがってただろ」

「こら、そうだけど……ぁ、んっ!」


 ――こうなった健喜くんは止められない。まあ俺は最近娘のことばっかりだったし、仕方ないか。そんなことを考えながら、あたしは健喜くんに抱きすくめられていった。

【支援者限定】男女が入れ替わって戻らない話

More Creators