私はいま、クラスメイトの前で股を開いてる。
つんとした臭気は私の失敗のもの。けれど、そこに水たまりはなく、代わりに背後の勉強机にずっしりとした小麦色の物体――使用済みの紙おむつを丸めたものが置かれていて。
「はい、新しいおむちゅですよー」
目の前の女子――城崎 あまねのその言葉は私をひどく赤面させ……尻に敷かれた幼児用のテープおむつの前当ては、ゆっくりと私のいまだに一本の毛すら生えない幼稚な股間部を覆い。
マジックテープの音がした。貼って、貼って、一度外して、貼りなおして。
「よし、完成! みゆったら、かわいい~っ」
そこにいたのは、一丁前に飲酒喫煙を繰り返す不良JKの峰岸 美雪ではなく、パーカーを着た赤ちゃんそのものだった。
なんで、こんな目に……。
きっかけは、些細なことだった。
「きょう、うち来ない?」
まぶしいほどの金髪をツインテールにした、まぶしすぎる笑顔が特徴の……いわゆる陽キャなクラスメイトであるあまねに話しかけられたのは、ホームルームが終わって帰ろうとした直後のこと。
……私は焦った。
帰りの電車でおねしょしちゃうかもしれないからと念のために穿いてきた、幼児用の紙おむつ。スカートの中のその感触を確かめて。
「だ、だめ!」
「おっ、みゆにしては女の子っぽい声だね」
「……なに? いつもは私が女の子っぽくないっての?」
ガンを飛ばして見せたら、あまねは「おーこわいこわい」と涼しげな顔で私のそばに近寄り、そのままハグしてきて。
「来なかったら、みゆのヒミツ、バラしちゃおっかなー」
耳元で囁かれた言葉。ドキッとした。秘密は数多くあるけど、どれも知られたらまずいものばかり。
それを知られるということは、すなわち社会的死を意味するといっても過言じゃない。
「……わかった。行きゃいいんでしょ」
「うん。よくわかってるね」
そうして私は、目の前の金髪についていくことになって。
「ねぇ、みゆ。おむつしてるでしょ」
清潔に整った女の子らしい部屋。そこで言われたひとこと。一気に顔が赤くなって。
「……なんでそう思ったの」
照れを隠すように聞くと、部屋の主であるあまねは微笑んで。
「お尻がふっくらとしてるから、ちょっと気になって」
「もう帰っていい?」
逃げようとすると、フードの部分をつかまれて。
「で、どうなの?」
「……してます」
「やっぱり!」
そのとき、下半身にツンとした感覚。
「……ごめん、トイレ行きたいんだけど」
「だめー」
「なんで、ちょっとヤバいんだけど。漏らしても……」
言いかけてはっとした。
「おもらししてもいいんだよ。だって、おむつしてるんだもん。……かわいくおもらししてるみゆ、見たいなぁ」
じわじわと、あまねは近づいてきて、私は後退り……膝に何かが当たり、そのまま尻もちをつくように座ると同時に、スカートがめくりあがり。
「あっ……」
ダムが、決壊した。
そうして、冒頭の状況。
「なんで、こんな事すんの……」
椅子に座りながら涙目になって聞くと、あまねはとてもうれしそうに、それこそ語尾に音符をつけるような感じで。
「だって、おむつしてるみゆ、とってもかわいかったんだもんっ」
「だからって……」
私はため息を吐いて。
「このことは、誰にも言わないで。恥ずかしいから」
約束させようとしたら、あまねは笑った。
「ふふ、そんな赤ちゃんみたいな恰好で言われても、説得力ないよ?」
「あっ……」
一瞬忘れようとした恥ずかしさがまたこみあげてきて……さっと立ち上がり、いまだに丸出しになっていたおむつを隠すようにスカートを直した。
「そういうところもとってもかわいいっ」
「それはもういい……」
私は目を逸らし。
「……でも、これからもわたしに付き合ってくれたら、言わないでおいてあげる」
あまねの言葉に、私は無言でこくりとうなづいた。
「これからよろしくね、みゆちゃん」
揺れる金髪ツインテールに、私は体を震わしたのであった。