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雪中アヤメ
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ヒューマンファームの日常風景

 休憩時間の終わりが近付いてきて、わたしは待ちきれずにうずうずしてきた。  あと少しだけ待てばここから出られて、また馬車に繋がれて遊んでもらうことができる。そう思えばわたしは、外からどう見えているかはわからないけど待ち切れない。  ここは大手アダルトグッズ製造業のミスト・スランバーが運営する大型マニアックフェチテーマパーク、『プロジェクト・ヒューマンファーム』。SMプレイの中でもいわゆるヒューマン・アニマル・ロールプレイ、それも家畜プレイに類するものに特化した挑戦的な施設だ。ペットプレイの区画を新設するとも聞いたけど、結局ここの畜舎を出たがりもしない大半の所属家畜にとってはあまりよく知らないことだった。  わたしはそこで馬、ポニーガールとして飼育されている。体裁上はあくまで労働契約だから人権を喪失したりはしていないのだけど、わたしたちの方がむしろ没入してしまっているものだった。当然持っている人間としての名前よりも、首輪に刻まれている「ベルフラワー号」というポニーとしての名前の方が自覚的なくらいだ。……もっとも、わたしとしては馬名として個性づけられているポニーより、番号管理がされている雌牛たちのほうがこの点では羨ましいけど。 「…………っ、ふぅ、ン」  わたしは今、休憩室にいる。体力を使う役目を果たせるよう、ポニーは休憩をおろそかにすることを許されない。この部屋の中には今も勝手に疲れないよう、何頭ものポニーが休息状態で拘束されていた。  向こうのすらっとした子は尻尾を通す穴がある椅子に縛り付けられているし、こっちの筋肉質な子は涼し気な薄布で簀巻きに。あの小柄な子は横向きに丸まったまま箱に収まっているし、わたしは上半身を前に倒した姿勢で柔らかいクッションに身を預けて吊られていた。  その休み方はそれぞれの好みだけど、わたしにとってはこれが一番よかった。柔らかいから痛くないし、脚が少し浮くから一番大事なところが休まるし。着けたままの馬具に変な力が一切かからないのもいい。それに、胸の部分はクッションが穴になっているから苦しくならないし……部屋の手前側に位置するから、たくさん見てもらえる。  実はこの休憩室、一面がガラス張りになっていて順番待ち中のお客様が見ることができるのだ。わたしのいる場所はその視線が集まりやすくて、それだけでぞくぞくする。以前参加したあるイベントのせいか、わたしは人間らしくなくなった姿を見られるのがとても好きになっていた。 「ベルちゃん、出番だよ。おいで」 「んっ……むぅん、うーっ!」 「やる気だね。じゃあ、こっち」  わたしは体はしっかり休めつつ、恥辱マゾの興奮はずっと味わうのがちょうどよかった。それが終わると飼育員さんが来て、拘束具を外してくれる。馬銜から垂れ下がる手綱を持たれたら、準備万端を示すためにお尻を振ってみせる。  そうすると手綱を引いてくれるから、合わせて外へ歩いていく。わたしは染み付いた腿上げのパッサージュで続いた。  ヒューマンファームのポニーガールにはいくつかの種類の仕事があって、それぞれ主に希望するものに就いている。もちろん途中で、または定期的に切り替えることも可能だ。わたしもせっかくだから全て順番に手を出している。  園内のさまざまな移動馬車や荷車を牽く、実用の馬車馬。畜舎と放牧区で馬らしい仕草をして見世物になる牧場馬。それからスタジアムで行われるポニーレースを走る競走馬と、アトラクションの一部として奉仕する体験馬だ。わたしは今はこの体験馬として過ごしている。  どの馬でも装備の基準は同じだ。全身を締め上げるボディハーネスと手綱付きの馬銜を携えたヘッドハーネス、それに腕と脚に嵌めたポニーグローブブーツ、お尻に挿入するか腰から垂らした尻尾。わたしはラバースーツは着ずに裸を見せたまま、前脚の拘束は休憩室の出入口でアームバインダーにしてもらっている。  水平まで腿を上げながら歩いていった先では、一頭立ての人力車に近い馬車と、二人組の女性客が待っていた。まずはまっすぐ立ち止まって、つんと立った乳首と濡れた股を見せながら鳴いて挨拶。 「こちら、本日お客様の担当をさせていただくベルフラワー号です。どうぞよろしくお願いいたします」 「んぅっ……!」 「おお……よく躾けられてるし、気持ちよさそうですね」 「よろしくね、ベルフラワーちゃん」  中には少しポニーの扱いが雑な人なんかもいて、そういう人の場合はすぐにまた休憩に回されてしまうのだけど……今回はそうではなさそうだった。代わりに明らかにポニーだけでなくマゾ女としても見られていて、向けてくる視線がどこか艶かしいけど、わたしはそういうのは歓迎だった。だから宛てがわれたのかもしれない。  サービスも兼ねて近いほうの、ボーイッシュな方の人に擦り寄ってみる。これはポニーに認められた媚びのひとつで、こうされたらお客様はポニーのことをマゾとして触ってもいいことになっている。二人がかりで撫で回したり、主張した乳首を転がしてくれたりして……あ、まずい。軽くイってしまう。 「ん、ゥっ!!」 「ベルちゃん、どうやらお客様のことが気に入ったようです。早速お乗りになってみますか?」 「そうします。……どっちからにする?」 「玲華にお手本を見せてもらおうかしら」 「わかった」  浅ましい幸福感でふわふわしているわたしを置いて、とんとん拍子でアトラクション開始まで進むことになった。どうにか気を取り直して所定の位置に立ったわたしのハーネスに、馬車の前方へ左右二本伸びた支柱からベルトを繋げていく。  玲華さまというらしいボーイッシュな方のお客様が背後に回って、馬車に乗り込んだ。この馬車は乗ると手元にポニーの操作方法が書かれた表示板があるから、それを見ながら動かす形になっている。 「お手元の表示のように扱っていただければ、ポニーはその通りに動きます。自意識の挟まれない乗り物の一部となったポニーを、是非ご堪能くださいませ」 「はい。ええっと……まずはこうか」 「んっ……!」  直前までぽわぽわしてしまっていたのは、むしろポニーらしさを演出する上ではよかったのかも、と思ったのは終わってからのことだ。わたしは調教で身についた癖で直立へ姿勢を正していたところから手綱を打たれて、考えるより先に体が動いた。  馬銜の両端から繋がっている手綱を、ぴんと張った状態から緩められて、改めて軽く引かれる。これが「進め」の合図で、わたしたちポニーはこれを受けるとほとんど無意識に歩き出してしまうところまでしっかり調教されていた。……この自分の固有性を失うほどの調教こそ、私が雌牛ではなくポニーになろうとした最大の理由だった。 「本当に動いた……」 「んっ、ふ……ぅ」 「じゃあ、次」 「んぅ」  ポニーは調教中に乗り手の気持ちを理解するためとして御者側もさせられるのだけど、自分が言葉にもしていないのに動作での命令ひとつで思い通りに動くのはどこか全能感を抱くものだ。本物の馬では違うのだろうけど、これが人間のポニーだからこそ支配が心地いい。意識的に従っている、従わされている屈辱的な存在が目の前にあるから。  手綱を左側だけ引かれたら、左への旋回。角度は馬車が詰まらない範囲内で、引く強さ次第で変わるように調教されている。  ポニーにとっては、こうして自分以外に体を操られるのがとても心地いいのだ。勝手に動かされている、まるで自分の体のリモコンがあるかのような感覚が、剥奪であり献上としてどうしようもなく興奮する。そういう感覚を持てるマゾでないと、ポニーガールは長続きしない。  馬銜ごと左に引っ張られるような感覚も、その強さも意識しない。体に染み付いているから、それに明け渡して委ねる。自分自身が他者のモノ、本物の馬にも失礼なほど何も考えていない馬車の一部、ただの道具になっている。それに興奮して、内腿をさらに濡らしてしまう。 「……どうだったの?」 「不思議な感覚だよ。車のハンドルみたいに、こう動かせばそう動くのが当たり前みたいな。何の違和感もなかった」 「は、ふ……っ、ぅ……」 「へえ……それでこんな興奮のしかたなんて、よっぽどの優秀なマゾ馬なのね。楽しみになってきたわ」 「うん。美紗希は特に気に入ると思うよ」  しばらく優しく乗り回されて、最後は手綱を引かれる。これに対してゆっくり、馬車が追突しないように減速して止まる方法も、ポニーには染み付いている。  ポニー冥利に尽きるような言葉を浴びながら興奮が収まらないわたしを見たもう一人こと美紗希さまは、玲華さまよりも幾分かサディスティックな視線を向けながら微笑んだ。 「じゃあ私もよろしくね、ベルフラワー号」 「んむっ……ぅ」  その美紗希さまが変わって乗り込んできた。騎乗ができたことの合図は、垂らされた手綱を軽く張られることだ。ポニーは後方なんて見なくていいし見えないけど、こういう細かいところで伝わるようになっている。  手綱を軽く打つと、ポニーの肩から背中にかけて鞭よりだいぶ軽い刺激がくる。これはポニーのもうひとつの歩き方、休憩室から出る時にも行ったパッサージュの合図だ。しっかり腿を上げて歩くとどうしてもウォークよりもだいぶ遅くなるけれど、実用的な意味のない大振りな動作は見世物らしくなって恥ずかしい。  この場では関係ないけど、パレードなんかでは前から見られたときに股を開いた様子を見られるという副産物もある。 「風を感じるのね、可愛い。そうやってこれだけで浸れるの、凄いわ。……だけど、ポニーにはちゃんと運ぶ力もあるんだったわね」 「んッ……!」  そのまま少しだけ歩かされた。背後から声が届くように、ヒューマンファームはドーム状のはずなのにそよ風が吹く。そう設計されているのだそうだけど、目的はもちろん家畜たちの肌に感じさせて屋外のように感じさせることだ。効果は少なからずある。  練り歩きには満足してもらえたのか、次の合図があった。ぺちん、と音を立てながら、右のお尻に打たれたという感覚が届く。ほとんど痛くはないそれは、早歩きを示すトロットの命令だ。これ以上の指示のため、御者席にはSM用の乗馬鞭が用意されている。  それまでの腿上げはやめて、少し前傾姿勢になって速く歩くように。実は園内の乗合馬車にはがっちりフレームバーで固定されていることもあって電動アシストがあるけど、ベルト接続のここの一人用にはないからポニーの速度がダイレクトに届く。こうして加速したときに御者に得られる感覚は、このアトラクションのアピールポイントであり人気要素だった。……玲華さまはやらなかったけど、大丈夫だっただろうか。 「わあ……いいじゃない、凄いわ。だけど、ポニーなんかになったんだから、もっと無様に人間やめたいのよね?」 「ふっ、ふ……むンっ」 「そうよね。……じゃあ、やりなさい!」 「ぅぐぅぅっ!?」  決まりとして、稼働中のポニーはお客様に話し掛けられても返答しなくていいことになっている。だけど、美紗希さまのこの発言はすごく刺さった。つい応えてしまうほどに。……その通りだ、わたしは人間じゃなくなりたくてここに来た。無個性な「何かの中のひとつ」になりたくて、厩舎にいるたくさんのポニーの一頭を選んだのだ。  美紗希さまはそのあたりが深くわかるサドだったようで、返答に嬉しそうに笑うともう一度鞭を振るった。今度は強めに、反射的に悲鳴が漏れてしまうほど痛く。だけどこれでも怪我や痣にはならないような鞭になっていて、わたしたちにとってはこの鞭さえ日常だ。わたしたちをただの乗り物へと貶めてくれる、設計通りの規格品のアクセルでしかない。 「凄い、凄いわ! とっても爽快!」 「ふっ、ふっ……んぐぅ、っ!」  キャンター。より強く地を蹴って、駈歩をする段階の合図だ。たとえば高校生が部活でランニングをするような、まめな人が日課のランニングをするような、そのくらいの長続きする走り方。  本当はこの上にもう一段階、両方のお尻を叩くことで命じられるギャロップという全力疾走があるんだけど、これは制御しきれない可能性もあるから体験では行われない。使うのはポニーレースのときくらいで、席の操作方法にも記されていない。  強めに打たれた鞭はけっこう痛いから、このくらいの駆け足はしないと痛みをごまかせない。繋がれたポニーは脚しか動かせないし、そういう躾けかたをされていた。あとは手綱を片方引かれれば旋回をして、両方が引かれるまで足は緩めない。  たまにこの状態のままさらに叩いてくるお客様もいるけど、美紗希さまはそうではなかった。わたしたちがこれほどの鞭は一発で満足なのだとわかっているのかもしれないし、必要以上の操作など乗り物には必要ないとわかっているのかもしれない。  実際、ポニーはもう打たれなくても何も考えずに走るしかない。頭を空っぽにして、手綱のハンドルに身を任せて、安全な曲がり具合さえ体に染み付いた通りにしか動かない。それでいいところまで調教が染み付いている。  …………ああ、気持ちいい。わたしにとってポニーは間違いなく天職のひとつだった。上手な乗り手のもとでキャンターまでしてしまえば、走りながら軽イキしてしまうくらいには。  ……少し苦しくなってきたくらいのところで、軽く手綱が後ろへ引かれた。美紗希さま、初めてとは思えないくらい本当に上手だ。疲れ始めると無意識に出る緩みを感じ取ったのかもしれない。  安全装置はあるとはいえ、自分で牽いていた馬車に追突される可能性はある。飼育員が乗る馬車にはあるブレーキも、お客様に急に踏まれると事故になるからここにはない。ゆっくり緩めていって、止まるまで自然な減速に任せていく。  ウォークの速度まで戻ったら、そこからは元の場所へ戻っていく。到着して強く手綱を引かれたら、そこで停止だ。 「ずいぶん走ったみたいだけど、どうだった?」 「思ってた以上に最高だったわ。プレイ自体は知ってたけど、ここまで良いなんて」 「さすがにフロアでは無理なのが残念だけどね。……ありがとうベルフラワー号、とても楽しめたよ」 「ふぅ、ふぅ……むぅんっ!」  これだけしっかり走れば、当然ながら息は乱れる。美紗希さまが降りてからも繋がれた位置のまま肩で息をしている間に、横からはとても満足気な会話が聞こえてきた。  わたしとしても幸せになる言葉だ。こうしてポニーをやっている以上、安くない入園料を払っているお客様を楽しませられるのが何よりだ。 「汗、拭いてあげましょっか」 「んっ……ぅ、ふぅぅっ……!」 「……へえ、今、愛撫なしで深イキできるんだ。凄い」 「ベルフラワー号は特に行き届いていて、ポニーの悦びで絶頂してしまうことが多いんです」 「最高じゃない、こんなの……ほら、ここも拭いてあげるからもっと脚開いて」  涼しめに空調の効いたドームの中で半裸とはいえ、ここまで走れば暑くもなってしまう。飼育員さんが手渡したタオルで浮かんだ汗を拭ってくれて……わたしはそこで、絶頂してしまった。ポニーの本分を果たせた悦びに満たされて、ぷし、と締めつけた膣から愛液を吹いてしまう。  こうしてノータッチでマゾイキできるのは、ポニーとしては好評らしい。お客様も見て楽しんでくれるし、飼育員さんや運営部からも好意的だった。おかげでわたしは優良馬として扱われている。 「さて、それじゃあ行こうか。ここまでで一番楽しめたけど、そろそろ他も行かないと今日中に回り切れない」 「そうね、向こうはまだだし。……じゃあベルフラワー号、またね」 「うーっ!」  そんな浅ましい愛液まみれの股も拭いてもらえて、わたしは興奮が収まらないままお客様方を見送ることになった。馬車から外されないまま、区画の出口へ向かう二人を見送る。  わたしは飼育員さんの確認を受けて、もう少し落ち着けばまだいけると態度で伝える。次の休憩までにもう一組、お客様を担当することになる。   ◆◇◆◇◆ 「あ、雌牛さん。一杯くれる?」 「ンム、ンゥ」  園内をゆっくり歩いていると、横合いから声をかけられた。  私はそちらに振り返ると声の主に近付いて、横向きになって身を差し出す。小柄なお客様のときは膝立ちになるけど、今回は立ったままだ。  お客様は私が背負っているものに取り付けられている紙コップを取ると横についている注ぎ口へ宛てがって、投入口に硬貨を二枚入れてボタンを押した。するとそこからは甘い匂いがする白い液体が流れ出て、ちょうどそのコップ一杯分で止まる。  何か話し掛けられたりしなかったから、それで成立だ。手を振ってくれるお客様に頭を下げてから、また元の道を歩き出す。 「……あの、あれ何ですか?」 「あれって?」 「ほら、あのタンク背負った雌牛さん? みたいな」 「ああ、あれね。……雌牛さーん、次こっちー」  ところがすぐにその道を歩いていた別のお客様の目に留まって、今度は疑問げに見られた。女性の二人組で、様子からしてそのうち一人だけがリピーターさんらしい。  私がやっていることを教えるためとばかりに呼びつけてくれたお客様のもとへ、蹄ブーツを響かせながら向かう。本当は「もお」と鳴きたいけれど轡でできないから、代わりに「むぅ」とでも鳴いてから今度は片膝立ちになった。  何度も呼ばれている通り、私は雌牛だ。何かの蔑称ではなく、本物というわけでもなく、ヒューマンファームの中の存在として。  以前はコンプレックスだった大きな胸だけを丸出しにする、足裏に蹄のついた牛柄のスーツを着て、頭には轡付きのベッドハーネスを着けて噛み締めている。首輪にカウベルをつけて、耳にはイヤリングの代わりに耳標を提げて、両腕はこちらも蹄付きかつミトン型で、邪魔にならないよう後ろ手に固定されていた。 「こういう雌牛さんって、あっちの牛舎にいるものなんじゃないんですか? 少なくともプレオープンのときはそうでしたけど」 「これは移動販売雌牛だよ。最近始まったサービスで、雌牛がこうやってタンクを背負って園内を売り歩いてるの」 「へえ……なんか、形だけなら野球場のビールの売り子みたいですね」 「発想はそれだったみたいだよ」  初来園ではなくプレオープンのときのことは知っているらしい小柄なお客様の言う通り、ここまでは牛舎に繋がれている雌牛の装いだ。だけど、今の私はもう一人が説明したように新しいサービスの最中。そのままだけど、移動販売雌牛と呼ばれている。  元々の雌牛の装いに加えて胴体にはボディハーネスを締め、それに大きめの機械を背負う形で取り付けてある。これは自分から搾っているミルクを貯蔵する小型タンクで、丸出しの胸の先についている搾乳器から直に溜まるのだ。  この格好で園内を歩き回って、家畜の姿を見せながら搾りたてのミルクを売り歩いている。上の人の思いつきの発想で始まったそうだけど、道中でもヒューマンファームらしい家畜を馬車馬同様に見ることができて、外に出荷する際は殺菌や加工が必要になるミルクを生で飲めると好評だった。生の牛乳は飲んではいけないけど、これは曲がりなりにも人の乳だ。  そして私たちからしても、より多くのお客様に見られて恥辱を感じられる上に移動販売の設備として牛舎とはまた違った尊厳破壊があって、しかも直接お客様の喜ぶ様子を見られるから歓迎だった。私は二日に一度も志願してしまうくらい気に入っている。 「ここからコップを貰って、代金を入れたら……」 「まるで自動販売機ですね。そういうモノ扱いにもなると……」 「んッ……ぅ、ふ……ンく」 「へえ、減ってきたら搾乳が強まるんだ。よくできてますね」 「直搾りじゃないのも管理されてる感があっていいよね」  背中のタンクが軽くなってきていたのは私もわかっていたけど、ここで二杯買ってもらったことで基準量を割ったらしい。その通りである程度減ると自動で搾乳が激しくなるから、搾られることには慣れている雌牛でもつい鳴いてしまう。毎回起こるものではないから、ある意味ちょっとレアでリピーターを誘う要素にもなっているのだとか。  そんな機構もあるのに常に少しずつは搾られているのは、練り歩いている最中も乳を出し続けているという惨めさを演出するためで……私はこれも好き。 「あ、美味しい。プレオープンのとき飲めなかったので赤ちゃんのとき以来ですけど、こんなに甘いんですね」 「私も自然なものは物心ついて以来飲んでないから、雌牛用の母乳薬が何か作用してるのかもしれないけどね」 「……あれ、なんでしょうこれ」 「ああ、それはチップボタンだよ。気に入ったら押してあげるもので、押されたら……」 「んっ、ぁ、んぅぅ……!」 「なるほど。こういうご褒美があるんですね」  ……そう。タンクの側面にはもうひとつボタンがあって、チップの要領でそれを押してもらえることがある。雌牛にはそれを強請ることは許されていないんだけど、いざ押してもらえるとさらなるサービスをすることになる。  これ、股に装着されている玩具の起動スイッチなのだ。押されると一定時間、クリや膣に振動が届く。私たちはこれを押してもらえるよう、そしてたくさん売り上げて飼育員さんにご褒美をもらえるよう、目の前に人参を吊るされた状態で売り歩くのだ。  搾乳とも重なったせいで、私はそこに跪いたまま絶頂までしてしまった。間抜けに腰をへこへこさせて、周囲の注目を集めてしまう。……ただ幸い、そのおかげでこの場での売上はかなりのものになった。  チップボタンもたくさん押してもらえて、半ばストリートショーのようになった場所からようやく離れてしばらく。予定外に時間がかかったから行くつもりだった寄り道は行けなくなったけど、牛舎に帰る道すがらにちょうど見つけたものがあった。 「……あ、移動販売来てるよ」 「おお、ちょうどよかった」 「ンゥッ!」  豚畜舎前に停まって出発時間を待っているところの乗合馬車だ。この手の馬車はある程度運行時間が決まっているから、こうして畜舎前の停留所では止まっていることがある。  早くに乗り込んでいたお客様は暇をしていたようで、通りかかると呼びつけてくれた。私は応じて後方の乗り口に向かったんだけど、どうやらその馬車は噂には聞いていた新型だったようだ。 「しかし、ここまでするんすねぇ」 「これだけあって豚を選ぶ子はそのレベルのマゾだってことだよな。こう書いてあることだし、ちょっとくらいは踏んでやろうぜ」 「なんかちょっと怖いっすけど……」 「ングッ、ブゥ……!」 「ほら、悦んでる。このくらいの強さでよさそうだな」  その馬車は靴を脱いで乗る形式で、床がラバーでできていた。左右に内向きに設置された長椅子型の席に挟まれて、中央部には人型の盛り上がりがある。  バキュームベッド馬車だ。一部の希望した豚の子が、床に設置されたバキュームベッドの中に囚われている。無様姿勢で固定されたまま、お客様に可愛がる程度の強さで足蹴にされている。馬車内に「優しく踏んであげてください」と掲示があって、乗務員の見守りのもとでこんなことになっているらしい。  恐る恐るお腹を踏み押しているお客様に構ってもらえて、興奮した様子で悶えている。……ほんの少し羨ましい気はするけど、私にはこうなるほどの勇気はない。 「ほら、雌牛さん。こっち」 「ンゥ? ……アゥ、っ」 「ンッ……?」  それを横目にお客様へミルクを出していた私だったけど、なにやら思いついたようで楽しそうな様子のお客様に手招きされる。馬車の中ほどに座ったまま出てこず、私に向かわせるつもりらしい。  もちろんそういうときもご要望に応えるのが私たち家畜なんだけど、何か意図がありそうだ。蹄で傷つけないよう、少しだけ砂のついた膝を別のお客様に払ってもらってから馬車の中へ膝立ちになった。  そのまま膝で歩いて、がに股になった豚さんの脚はお客様に支えてもらいながら跨ぐと……辿り着いたところでお客様に、そっと肩を押し下げられる。  さすがにわかった。私も一緒になって悪戯心が芽生えてしまって、そのまま腰を落とす。 「ンッ……?」 「それじゃ、一杯くださいな」 「ンァぅ」  私が股を下ろした先は、ちょうど仰向けになっている豚さんの股間のところ。明らかに足裏ではないものをおっぴろげた恥部に押し当てられて、豚さんは不思議そうな声を漏らす。  そのまま私は首謀者のお客様へミルクを買っていただいて、一口飲むまで待機。……周りのお客様ももうほとんどが理解している様子で、すっかり注目を集めていた。中にはよく見るために奥の席に移るお客様も。 「うん、美味しい。……それじゃ、チップをあげないとね」 「ンっ……ぁ、んぅぅっ!」 「ムグッ、ォ、ァッ!? ンゥ、ゥーッ!!」  ……そう。そのまま、チップボタンを押してもらった。  私はいつも通り、ご褒美の快楽責めを受けて喘ぎ浸るだけ。だけど、床の豚さんは違った。玩具などついておらず、快楽なんてもらえないはずで馬車の床になったのに、いきなり股間に強い振動を与えられたのだ。それも何も見えず聞こえない、バキュームベッドの完全拘束の中で。  あっさりイってしまったのか腰が跳ね上がってくるのを感じつつ、構わず座り込んだまま私も悶え散らす。悪戯の片棒は担いだとはいえ、私もヒューマンファームの家畜である以上どこで何をしていてもお客様の見世物だ。 「ふっ、ふっ……ン! ぁふ、ンゥ───っ!」 「ォッ、ンゥ、ゥ! ムグゥ、ゥゥゥッ!!」 「……お疲れ様。いいもの見せてもらったよ、ありがとね」  私がその場で思い切り仰け反ってイき果てると、床さんも同時に本気で悶え尽くしてがたがたと震えてみせた。……同時絶頂で不思議な連帯感を残して、チップのバイブがぴたりと止まる。  自分も自分で負けず劣らずの無様さだと実感しながらのろのろと馬車を降りると、見ていたお客様からは口々にお褒めの言葉を掛けられた。私はそんな惨めな扱いと身分に浸りつつ、馬車に礼をして離れた。……ずっと繋がれたまま声だけを聞いていた三頭のポニーが羨ましそうに見てくるけど、私にはどうしようもない。悪いけどグルーミングまで待つしかないだろう。  もっとも、それなりに響いていたようで……すぐにまた声をかけられた。列までできているからこの調子だと牛舎に帰るのは少し遅れてしまいそうだけど、売上は間違いなく過去一になりそうだ。

Comments

作り込んだというよりは、ずっとこねくり回し続けた結果肉付けが進んでこんなことに。あくまで趣味としてのSMを創作だからこそ限界まで突きつけた環境、便利でいいものです。ノンストレスに楽しむだけのハードプレイがあってもいいのだ。

雪中アヤメ

すごく作り込まれた世界観ですねー 状況だけを冷静に見るとハードな超拘束でなかなかすごいことになってるけど、家畜もお客も誰一人として不幸になってない、それどころか皆幸せなのが最高です(^.^)

瀬戸内わらび


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