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【先読み】まぞっこ動物園の飼育員のお仕事

「おはようございまーす」 「あ、おはよう優來ちゃん」 「先輩、当直お疲れ様です。変わりはないですか?」 「ええ。いつも通りで大丈夫よ」  私、優來は飼育員である。この春から就職して、動物の世話をして働いている。  ……んだけど、それは普通の動物園だとかではない。私が世話をしているのも、もちろん普通の動物ではない。 「あ、来週末だけど、ポニーレースで畜舎担当の子たちが駆り出されるから代わりに行ってくれる?」 「はい。レースだから、土曜日ですね。わかりました」 「悪いわね、こっちでポニーの世話もできる子、少ないから」 「いえいえ。いろんな子をお世話できるの、私も楽しいですから」  ここはミスト・スランバーが運営するマニアックフェチレジャー施設、ヒューマンファームの一角だ。ヒトペット広場に併設されている“動物園”で、私は働いている。  私はもともとどうにもSMプレイが、それもサド側として好きで。以前はあるSMショーパブでS嬢をやっていたんだけど、大学を出るにあたってパブから紹介される形でここに来た。  できればSMにかかわる職がいいなと思っていただけで、最初はペットプレイ……あるいはより広いヒューマン・アニマル・ロールプレイにはそこまで深い興味があるわけではなかったんだけど、いざやってみると楽しいのなんの。恥ずかしい格好で尊厳を奪ってみっともないことをさせるのはそのままに、より先鋭的で徹底的だから飽きがこないのだ。しかも明確なコンセプトと元になったものが存在するから、施す側もやりやすい。 「じゃ、着替えてきますね」 「はぁい。着替えたらとりあえず、そこにいる子を置いてきて。その後は、とりあえずパンダとシカをお願い」 「わかりました」  広義では風俗施設に入るヒューマンファームだけど、S役がボンデージのような扇情的な衣装を纏うことは少ない。広場からペットホテルでペットプランを選ぶお客様に希望されたときくらいだ。  私たち飼育員の制服は、まさしくそれらしいもの……つまり作業服だ。動きやすく丈夫な長袖長ズボンの一張羅に長靴。施設全体が大きなドーム状で、動物たちのために空調がなされているから気温は一定であり、それに合わせた見た目の割に薄手なものになっている。  動物たちはもちろん、一般的感覚からすれば凄い格好をしている。それに対してごく普通の作業服で世話をすることで、より際立たせるのが役割なのだ。あくまで見世物である以上、見られる本体である家畜や動物が主役なのは当然である。  裏の更衣室に入って着替える。ただ、ここは飼育員だけしか使わない場所ではない。先客がいたけど、少し待っていてもらった。  私が作業服になってタイムカードを切ってから、戻ってきてその子のもとへ。というのも、その子が今日最初の世話の相手だから。 「じゃあ、やってくからね」 「お願いします」  落ち着いた雰囲気の同年代くらいの子だけど、敬語は一方的。あくまで雰囲気出しとして、動物は飼育員を上に見ることになっている。  私が着替えている間は服を着たままだったけど、ちょうど今脱いだところらしい。全裸で自発的に、お客様には見えない場面だけど土下座してみせた彼女の前で、用意されていたラバースーツを広げる。内側にドレッシングエイドを吹きつけて、開いて示すと入り始めた。  ヒトイヌラバースーツに畳んだ膝を差し込むのを、肩を貸しながら見届ける。片脚が入ったらお尻を持ち上げるように支えつつスーツの口を下げて、もう片脚も。自然と四つん這いになるのをよそに、下半身の部分を順に整えていく。  続けて前脚も入れさせていって、ジッパーを首裏まで引き上げた。見世物にするものだから、ジッパーはほぼ見えないほど目立たなくなるつくりだ。……首輪はつけない。この子は飼い主プラン向けの貸しペットではないから。 「力抜いて」 「はい……ン、は……」  ヒューマンファームにはたくさんの動物になった人がいるけど、それぞれが受ける扱いは立場によって違う。家畜ともペットとも違って、この動物園に所属する子たちは責め立ても甘やかしもしないことになっている。たとえば今のような“着付け”では、家畜なら尻を軽く叩いたりして促すし、ペットなら具合を聞きながら優しくする。動物園ではどちらでもなく、ただ施していく中で違和感があれば自己申告だ。  そんな空気感もあって、たとえば腸内洗浄は事前に済ませてある。尻穴を晒すようにスーツに開いた穴を通してプラグをゆっくり挿入していくのも、どこか作業的だ。 「んぁっ」 「これでよし、と。……はい、あーん」 「あー、……っぐ」 「できた」  尻尾プラグはワンタッチで内側が膨らんで抜けなくなる仕組みだけど、それを起動するときも焦らしも予告もしない。そんなだからどれが好きかはけっこう個人差があるようだけど、その一方で複数の身分をローテーションする子もけっこう多かった。この子も確か、先月はペットのほうだったし。  最後に猫耳飾りを固定して人耳をそれとなく隠し、口枷を噛ませたら完成だ。スーツもそれらしい柄の、ヤマネコちゃんのできあがり。 「はい、乗って」 「ん、っ……」 「今日もたくさん見てもらってね」 「……♡」  展示エリアが事務所から遠い子もいるし、そもそも歩くことすら想定されていない種類もあるから、更衣室にはペットを載せる台車が控えている。ヤマネコは簡単な部類のつくりだからこそ遠めのエリアで、ヒトイヌのまま自力で歩くには難しいこともあって台車の出番だ。  天井がなく四方を鉄格子に囲まれた台車の入口を開くと、自分からとてとて歩いて乗り込んできた。事故防止のためにしっかり閉じてから、期待に満ちて蕩けた様子のこれ……“ヤマネコ”を所定の檻まで送り届けるのが今日最初の仕事だった。 「申し訳ございません、少々通らせていただきます」 「あ、すみません」 「猫ちゃんだ」 「出てきたとこかぁ」 「尻尾振ってる、かわいいー」 「見に行く?」  エリアを囲うように複数のスタッフ用の建物があって、外周の檻に入る子たちはそれぞれそこに繋がっている建物で準備をする。ヤマネコは内側の檻のひとつに入れるから、こういう子はメイン事務所で準備をしてからこうしてエリア内を横切ることになっている。  これがまた人目を引くものだから、見られたらラッキーな偶発イベントのように扱われていた。お客様に通してもらって進む間もやはり動物は見世物になっていて、人目を集めたヤマネコは誘うように尻尾……というかお尻を振ってみせた。それを見て惹かれた一部のお客様も後ろからついてくる。  到着したのは中央付近の、周囲を人間の胸元ほどの高さの鉄格子柵に囲われた区画だ。それが三分割になっていて、他の二箇所には別の子が入って過ごしながら見られている。……動物園はフェンスで仕切られているところも少なくないんだけど、入る動物たちからの強い要望もあってここでは全て鉄格子だ。  入口を開いて台車ごと入り、台車の入口を開く。ヤマネコは嬉しそうに出てくると、柔らかな芝に覆われた小さな丘に背を預けてごろり。……あれはペットの猫ではないから首輪もないし、基本的にここでは思うままに過ごしていることが求められる。その代わり猫砂なんてなくて、おしっこは区画内にある側溝にすることになるけれど。  ただ、定期的に周ってくる飼育員のほかに、ひとつだけ用意された仕組みがある。それがこれ……今スイッチを入れた機械で、30分から一時間ほどのランダムな周期でネズミのおもちゃが放出されるものだ。これは放置しているとぶるぶる震えながら動き回って煩わしいから、ヤマネコは積極的に捕まえに動くことになる。 「……あ」 「んっ! ……ん、ん」  ある程度ランダムだからすぐに出るとは限らないものだけど、今回は即座に飛び出した。それを見たヤマネコも目を輝かせて起き上がると、ネズミのほうへ四足歩行で近付いていく。  ネズミはそんなヒトイヌ歩行の半分以下の速度でしか動かない上に、察知して逃げたりはしないんだけど……動きは不規則だから、不自由な拘束でどうしても鈍重になってしまうヤマネコの懐からは案外するりとすり抜ける。今も捕まえようにも振り下ろされた前足を避けて柵のほうへ。 「……っ、んぐっ!」 「おお、捕まえた!」 「……あ、ずらして挟んでる」 「……ン、ぁ……んん……」 「気持ちいいんだ……ふふ」  時にはほんとうに振り回されて四苦八苦して、徐々に動きが小さくなっていくまで捕まらないこともあるんだけど、今回は比較的早かった。檻の近くでくるくる回りながら動かないネズミを、胴体をぺたりと伏せて地面と挟む形で捕獲してみせる。  ……そのまま少しずつ前へずれるように這う、意図ありげな動作。それもそのはずで、ヤマネコはそのまま下腹部のあたり、尿道口以外をラバーで包まれて食い込んだ割れ目で押しつぶすように擦り付けた。すると動力の弱いネズミは動けないまま、その振動がそのままヤマネコのおまんこに響いて甘い鳴き声をあげ始める。そんなさまが柵から近い位置で、しかもお尻を観客に向けてとても見やすい方向で晒される。  これはヤマネコに許された唯一のオナニーの方法だ。たまに来る飼育員に必死に媚びても恵まれるかどうか運次第なこれにとって、マゾ動物として展示されて溢れる興奮と恥辱を発散するにはこれしかないのだ。  だからヤマネコは、必死になって振動が弱まる前にネズミを捕まえるようになっている。これこそがこの展示の醍醐味であり、そうした旨を記した表示が柵にも括り付けられている。  檻の外で台車を畳んでいる間にそんな一幕があったから、私も運良く見ることができた。まだまだあのままのオナニーは続くけど、私はそれを尻目にヤマネコの檻を離れて事務所へ戻る。見て楽しい……もとい、世話を待っている動物は他にもたくさんいるのだ。  ヒューマンファームは目的としては性風俗ということになるから、ここも普通の動物園とは違うところがある。真夜中にもお客様が存在しうるから、夜間にも開いているのだ。……正確には、週に二度ずつ昼休園と夜休園がある。今日はどちらでもない日だった。  だから今のヤマネコのように朝から入る子もいれば、夜通し檻の中にいる子も少なからずいる。その中には仕事としてシフトで決まっている子もいれば、動物スタッフからお客様まで希望してプレイとして楽しんでいるだけの子もいる。というか、スタッフとして入る子は全体ではさほど多くない。最大母数は収容プランのお客様で、賄いというか社員優待的な形で自ら入る子がその次だ。  次に向かうのは、そんな動物園収容プランのお客様。最初にいたメインの事務所に戻って、裏から入った檻の中にいる。 「お待たせ。体調に問題はない?」 「ん、っ! ……んぅ」 「よかった」  ちょうどヒトイヌと同じ拘束で、笹を模した巻藁のようなクッションに身を沈めて休んでいた子に声をかける。胴体は裸のままラバー素材で後ろ脚全体と、前脚から鎖骨の上と首にかけてを覆われて模様のようになっているそれは、“パンダ”だ。  耳と尻尾もしっかりついているほか、装着しているゴーグルは視界を適度に暗くしてはっきりとは見えない一方で観客の存在は認識させるものだ。ヤマネコと同じくボールギャグはしっかり噛まされているのは、観客とコミュニケーションを取れない制限でありつつ逃げ道でもある。 「こっち、ついてきて」 「ん……ふっ、ふっ……」  どうやら私が来る前から笹に埋もれたままアピールしていたようだし、常連客には私たち飼育員の動きを見て次のイベントを予測したりついてくる人もいる。どうしても飼育員がいるところに動きがあるのは間違いないし。  そうした要因から観客が集まりはじめていて、人集りがさらに人を呼ぶ状態になりつつある前で、パンダは私の後ろを四つん這いでついてきた。飼育員の靴は足音がよく立つよう靴底が硬くなっているから、よくは見えていないパンダでも、目隠しされている動物でも音を頼りにできるのだ。  本物を参考にした、アナルプラグで固定された黒く丸い尻尾が揺れている。きっと恥ずかしいだろうけど、それを楽しんでいるようだった。  この子はそこそこ高頻度で通ってきている上に、動物園に来ることも多い常連さんだ。今回も就寝休憩を挟みつつも展示されっ放しの長時間プランで、今日の昼過ぎまでここにいる予定になっている。 「ここまで……いい子。可愛いね、パンダちゃん」 「んっ……うぅ、むうっ!」 「それじゃ、“座らせて”あげるから。力抜いてね」  最終的には鉄格子へお尻を向けて、すっかり濡らしているところを突き出すよう仕向ける。一際恥じらいつつも従ってくれたパンダにはさらに視線が集まって、小さな歓声も上がったことでパンダは私の胸元へ顔を押し付けてきた。それでも向きを変えないのが愛おしい。ここに通いつめるだけのことはある、素晴らしい変態羞恥マゾっぷりだ。  だけど、パンダは比較的楽な姿勢である一方で恥ずかしさはピカイチな展示だ。今でも充分響いているだろうけど、せっかく可能な限り本物と同じ模様にした顔や体を見せずに済ませるはずもない。  私に対して横向きにさせてから、お姫様抱っこの要領で持ち上げる。お尻を下にして抱えたら、床に用意されたあるものへ割れ目を押しつけた。パンダは期待と覚悟と羞恥で三等分された顔で見上げてくる。  そこにあるのは、竹……を模したディルドだ。見た目は斜めに切られた竹のようだけど実際は鋭くはなく、単に床から張り型が立っているだけ。  パンダといえばやっぱり、座った姿勢の印象が強い。それを再現して固定しつつ、ヒューマンファームらしいSM的な要素にもなっている仕掛けだ。挿入させながらゆっくり下ろしていくと、床に座り込む形で設置した。こうなってしまうともう、ヒトイヌ拘束では自力で抜くことも難しい。 「ん、ぁ……うぅっ♡」 「よし、と。そのまま後ろ足を開いてるんだよ」 「う、ぅ……」  実は全く同じ仕掛けが檻の中に二つあって、もう片方も昨日使っていたからそれらしい水分の跡が残っている。そちらを見れば、今のパンダがどうなっているのかわかる仕組みだ。  張り型のまわりは柔らかいクッション床になっているのと、座らせてからやはり笹のような柄の背もたれも添えるから身体的負担は少ない。だけど……そんなパンダを正面からも側面も見られるよう斜め向きにして、ある仕掛けを完成させると、パンダは真っ赤な顔をさらに赤くしてみせた。  股の両斜め前にあるジョイントに、細く小さな竹を模した棒をつけたのだ。パンダの後ろ足は開いたままそれの外側に追いやられているから、これで脚を閉じることもできなくなって接合部が丸見えになる。これがパンダの定位置であり、あまり動かない動物である本物以上に動作はない展示になっている。  とはいえ、見られるものは他の展示に負けず劣らずのものがあるし、扮している本人も楽しむ手段がある。 「…………んぁぐっ!?」 「ふふ、お客様にも可愛がってもらえて嬉しいね。たくさん楽しんで、楽しませてあげてね?」 「ぁっ、んぁ、ふっ……んむぅっ、んぅ♡」  この檻は外側にボタンがあって、それを押すと両方の張り型が振動するようになっている。だから外から一方的に責め立てることができるし、しかもそれがもう片方の張り型でどんな刺激なのか丸わかりだ。  おまけに、檻の中から見えないように貼り付けられた板の向こう側にあるボタンが、横にスライドするようになっている。パンダからすれば観客の所在はなんとかわかっても、どこにボタンがあるかわからなくて身構えるべきかどうかすら判別がつかない。  ボタンは押している間しか振動しないから、押してもらわないと簡単には絶頂できない。そんな形で、ただでさえ恥ずかしすぎる姿で愛嬌のある媚びをしないと気持ちよくなれない代物だった。  展示としてはこれで完成なんだけど、今は飼育員としての世話にもうひとつ。これまた笹を模したものをパンダの前足の先にくっつけて、その先端をボールギャグの隙間から中に差し込む。 「んっ、んっ……」 「お腹空いてたんだね。たくさん食べて、元気なところを見てもらおうね」  これは“動物の餌”で、パンダの場合は流動食……早い話がゼリー飲料だ。両前足、肘のところを体の前で合わせることで注入ボタンを押せるから、そこにある二つのボタンでゼリー飲料と水を注いで食事や水分補給とする。  ゼリー飲料のほうは一定量以上は出てこないけど、水は出したいだけ出せる。とはいえ……こんな格好で固定されたまま飲みすぎたらどうなるかは、想像に難くないだろう。足元近くにはちゃんと、それを受け止め流す排水溝も小さく存在しているし。  パンダの世話も終えて、みっともない格好で動けずただ観客に愛想を振りまくことしかできなくなったそれを置いて檻後方の扉から出る。なんでも施錠されたときにびくりと跳ねる子もいるとかで、そのとき扉を隔てている私は見たことがないけど可愛らしいと評判だ。  私はそのまま次の目的地へ向かう。大まかな管理と飼育員への指示は本部で受け持たれているけど、今日はまだ追加の指示はないから事前に言われていた三ヶ所目だ。  ふと見たら、太腿あたりに飛び散った水滴が大きめについていた。もしかしたら少し匂うかもしれないけど、動物たちにしてみればそれすら「自分が管理されているたくさんの動物の中の一頭である」と認識させるアクセントだと聞いたことがあった。このくらいで作業服を交換することもできないから、そう受け取ってもらえたほうがありがたい。  隣の棟に寄って用意してあるバケツを拾い、また中央部の柵エリアへ。ヤマネコとは少し離れた位置だけど、次の子もこちら側の配置だ。  こちらのほうは外周の半屋内檻と違い、明るく照らされて開放感がある。マジックミラーのようになったドーム自体がUVカット素材でできていて日焼けはしないけど、裸体やスーツ姿のような普通屋外には出ない格好で陽を感じるのはやはり輪をかけて恥ずかしいはずだ。しかも背後の壁もないから、視線のない安心感を得られる方向もない。  そんな青空の下が優先して割り当てられるのは、比較的動きの大きい動物。ちょうど前方に見えてきたシカもその一種だった。 「お待たせ。餌の時間だよ」 「! ……ん、ぁうっ!」 「ほら、焦らない。逃げたりしないから、ゆっくり立って」  これまたあまり見ないシルエットで、格好は畜舎のほうにたくさんいる牛や馬とも違う。あちらほど拘束そのものが厳しくはないけど、みっともなさはこちらの方が上かもしれない。  後ろ足に履いている太腿付け根までの蹄ブーツはそれらとほぼ同じものなんだけど、前足が異なる。多くは後ろ手に拘束されているそれらと違って、シカの場合はこちらも蹄のついた四足歩行だ。一見すると後ろ足と同じ長さになっているそれは、半分あたりから下は補助具だ。  手首の位置が肘にあたる前脚関節に位置づけられていて、アタッチメントの先に蹄がついてそれで四足歩行。代わりに本物の肘は曲がらないように内側に添え棒が仕込まれているし、二足歩行はできてしまわないよう腰周りに伸びきらないための固定があるから、脚と比べて胴体が小さいとはいえ案外それらしい動きをする。  ただ、この格好は疲れるし、杖のようなものとはいえ腰に負担もある。だから脚を折り畳んで休んでいる時間も多いんだけど……そこはヒューマンファーム。シカ用の休憩スペースは鉄格子柵にお尻を向ける形でしか落ち着けないようになっていて、今もまさしく丸出しに短い尻尾が生えたお尻が観客へ見せつけられているところだった。  待ち構えていたのか慌てて立ち上がろうとしてバランスを崩しかけたシカを支えて、ゆっくり立たせていく。一度立ち上がってさえしまえばあっさり四足歩行をしてみせる器用なシカは、柵の目の前にある餌入れに顔を突きつけてアピールしてきた。 「むん、っ!」 「はい、たんとお食べ」 「ぷは……あー、ん、む。はぐ、むぐ……」  この子、実はこの動物園の飼育員だ。どうやら家庭の事情か何かで家に帰りたくないようで、いつもヒューマンファームのどこかしらで許可を取り寝泊まりして住み込みのような暮らしをしている。畜舎にいる家畜たちはほとんどがそうである一方、スタッフ側がそうしているのは珍しい。……正確には、遊んでいく日は泊まるリバの子は多いけど。  動物の世話も大好きでありつつ、自分が動物として扱われるのも同じくらい大好きなのだとかで、どちらが仕事でどちらが社員優待的なものなのかわからないくるい頻繁に遊んでいる。今だって休みながらに尻をじっくり鑑賞されてしとどに濡らしていた変態だ。半日後にはこの顔で飼育員として園内に出るのに。  洗って伏せてあった餌箱を表向きにして、その中に餌を注ぎ入れる。鹿用の餌は緑色のペーストと軽く味付けした葉物野菜で、見た目は本当に草食動物の飼料だけどけっこう美味しい。  あくまで動物園のシカ扱いだから、馬のようなハーネスや轡はない。ただのバイトギャグを外してやると、すぐ目の前にできた人集りから視線を浴びながら嬉々として餌へ顔を突っ込んだ。レタスが咀嚼されるぱりぱりとした音が響いて、観客の注目がさらに集まった。 「ん、ん……あぐ、ふ……んむ」 「さて、今のうちに……」  一時的に外した涎まみれのバイトギャグは隣に吊るして、次にすることの準備。このシカはもう少しで展示時間を終えるけど、本人の希望もあってその前にちょっとした余興が組まれている。  浅ましくがっついて平らげたシカはそのまま一言も喋ることなく、私が戻ってくるまで動かずに待っていた。顔の下半分にペーストがべったりついた状態で振り返ったところに、ホースの先端から弱めに流れる水をぶっかけて洗い流してやる。……普通はもう少し丁寧にやるんだけど、本人の希望だ。  そこで一度バイトギャグを噛ませ直してやって、再びホースを手に取る。柵の前で横向きになって体を晒したシカに向けて、私はそのままぬるま湯をかけて全身を濡らした。 「洗っていくからね」 「んむ…………ン、うっ、ぁ♡」  家畜の水浴びのようにシャワーですらない水流をかけられるだけで悦ぶマゾシカをひととおり濡らしたら、バケツに入れて持ってきていたブラシで背中を軽く擦っていく。手で撫でるよりわずかに強い程度の柔らかいものだから、肌が荒れるどころか少しくすぐったいかもしれない。私はリバではないから、これを当てられたことがなくてわからないけど。  ここまでは真に迫ったようなプレイだけど……パンダがあんな感じだったように、ヒューマンファームは性倒錯の見世物だ。だから、こんなこともする。 「んぅっ♡」 「こら、じっとしてて」 「むぐぅ……ぁっ♡」  手首を返して、ブラシを胸に。シカの豊満な乳房に優しく擦りつけると、興奮を晒すようにつんと立っていた恥ずかしい乳首が刺激されて悶え喘いだ。よほど興奮して溜まっていたのかシカはたたらを踏んだけど、私は背中に手を置いて押さえながら構わず続けた。お客様ならともかく、好き好んで檻の中に入っているスタッフには情けなくお客様を楽しませる筋合いがある。  檻の外へ向けて手振りをすると、察してくれたのか観客はその場で屈んで見上げる形に。目の細かいブラシがだらしない乳首を優しく撫で回すさまが、これでもかと見せつけられることになった。シカの体はやや強ばって、意地悪な洗浄を前に快楽をなんとか我慢しようとしている。 「ほら、せっかく見てもらえてるんだから、ちゃんと立って見せる」 「ふっ、ふっ……ぅ♡ ひぅっ、んぉ♡」 「おかしいな、ぬるぬるしてる……もっとちゃんと洗わないと」 「んむぅっ!?」  ブラシの毛先で丹念に乳首をこねくり回して、みっともないマゾシカをじっくり責め立て辱めていく。水浴びとこのブラシを希望したのは昨日の自分自身なのだから、晒し者にされて喘ぎ散らしているのも本望だろう。この時間帯が仲間内でサドっけが強いと言われているらしい私のシフトなのも、わかっていたはずだ。  だけど、変態マゾシカが乳首イキしそうな気配をさせてきたら、そこまでだ。浅ましくみっともない、いくら虐めても悦んでくれる可愛い動物は、もっと盛大に責め立てなければいけない。切なそうに乳首をつんと立てたままでもわかっているようで、内腿を手指で軽く叩いたら自ら股を開いた。  みっともないがに股を披露したそこへ、特に敏感なクリトリスをざっくり目掛けてブラシを当ててなぞると、ずいぶん情けない鳴き声を漏らして腰を跳ねさせた。メスであることを喧伝するように、シカの展示でありながら角はついていない頭がとろけ顔で揺れている。 「ああ、そうそう。マニュアルだと、ここを……」 「んむぅぅっ♡ ぁっ、んぅ、ぉぐっ♡」  お尻の上から流水を伝わせて地味な刺激を与えながら、大きく割れ目をなぞる動きからクリトリスを探り当てて擦りつける動作へシフトしていく。本当に情けない、間の抜けた鳴き声で悶えながら、次第により充血したクリトリスが皮を脱いで飛び出してきたからそれを優しく撫で回すように。  マニュアルというのはアドリブだ、動物の洗浄で突起をブラッシングするようなマニュアルは、今のところはない。もしかしたら人気が出たりしてやらされることにはなるかもしれないけど。  もしかしたら顔を覚えてもらえるかもしれないくらい、情けない悶え方はどうやらもう充分のようだ。気付けば少しずつ増えていた観客は入り切らないほどになっていたし、展示にスタッフマークがついていたこともあって撮影までされている。  それこそ産まれたての子鹿のような、情けなく開いたがに股で轡を噛み締め涎を垂らし続けるシカにも、これでご褒美をあげることにした。ぐり、と軽く手首を使って、毛先で裏筋を擦り上げてやると……。 「むぐぅぅぅっ♡♡」 「……よし、と。こんなところかな」  激しく腰を跳ねさせながら盛大に公開絶頂してしまうシカを、ブラシを押し上げてついていくようにしながら支える。ほどほどの余韻で股間からブラシを外してやり、水流も逸らしたことでやっと絶頂が終わった様子だった。  もちろん股間のぬるぬるはさっきよりさらに増している。そんなものはあくまで雰囲気作りであり出任せだ。それに、これだけ洗ってもらったのにメスの匂いを尻からさせ続けるほうが、より恥ずかしいし。  ……本当はもう下げていい時間なんだけど……ちょっと頑張りすぎたのか、腰がかくかくしている。一度休憩スペースに送り届けて、近くの他の動物の餌やりをする間に休みながらまた晒し者になっていてもらおうかな。  ここまでのことはいつもするわけではないけど、こうした動物の世話が飼育員の日常だ。本当に楽しくて仕方ないし、ここに来てよかったと思う。まだぼんやりしているシカをよそにバックヤードへ餌を取りに行きながら、今日はまだ始まったばかりの業務を楽しみに指折り数えてしまうくらいだった。

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【先読み】モノになる悦びを知りに

 初めてヒトペット広場に行ってから、はや数ヶ月。すっかりハマってしまってもう三回も行っているけど、その一方で郊外も郊外にあるあそこはどうしても頻繁には行きづらい。それに風俗店として見るには安いとはいえ、交通費もあるし気軽に出せる料金というわけでもなかった。  だから他にももっと通えるところが欲しくなるのは必然のことで、いろいろ調べてみることにして……見つけたのが先日のことだ。ボンデージバーとか呼ばれる場所で、拘束具やプレイの体験をしながらお酒を飲めるらしい。あくまで体験したり見られたりするのは客のほうで、嬢と呼べるような存在が一対一で対応したりはしないから金額も良心的。他のお客さんに見られるという点も、ヒトペット広場ですっかり慣れているから気にすることもない。  似た形態のところだとイベント会場的な形式でやっているところも多いようだけど、目をつけた近場のところは普段からバーとして営業しているらしい。平時は体験はともかく、見られるかどうかは運次第のようだけど。  とはいえせっかくなら定期的に行われるイベントの開催日に行ってみたい。そう思って調べてみると、直近で私の予定にも合うのが今日だった。今はそこに向かっているところなんだけど、電車で数駅だから充分行きやすい部類だ。  そのイベントの日は、事前に予告した上でコンセプトをもって普段よりしっかり体験を募っているらしい。当日飛び入りも大歓迎とあったけど、せっかくだから予約もして行くことにした。  今日のイベントは『Bar possession』。ポゼッションプレイ、というものがコンセプトらしい。人を得意の位置に固定してしまう、拘束要素の強いプレイ……とのことで、前回開催時のものらしき予告時の写真では女性らしき人影がラバーに包まれて椅子にされていた。  私はペットプレイしか経験がないから、それにもハマるかはわからないけど……広場に初めて行ったときの経験もあって、挑戦には前向きになれていた。一応似通った、親戚的なプレイらしいし、試してみよう、と。  SNSアカウントでは、一時間ほど前に始まってさっそく盛況な様子が報告されている。そのアカウントに紐付けされている地図に従って繁華街を歩き、記された通りのところに到着すると……表には『Bar fetishism』と書かれた控えめな看板があるだけ。  あまり大々的には呼び込まず、調べたりして事前に知っている人だけに所在を知らせるような雰囲気だ。さりげないゾーニングともいえるこれも、好きな人が心置きなく楽しめるためのものなのだろうか。確かに私も、同じものが好きな人なら男の人には見られてもいいけど、全く興味も理解もない人には見られたくないからわかるというか。  表からは中の音や声は聞こえてこない。近くに立ち止まっているような人はいないうちに、意を決して扉を開くと……二重扉になっているらしい向こう側から、それらしい音が聞こえてきた。革やラバーが軋む音、男女問わず悶えるような呻き声、楽しそうな人の談笑や氷がグラスに当たる音……雰囲気のいい喧騒、というほどうるさくもなくて、ただ賑やかなくらいだけど。  身を滑り込ませるように外扉を閉めて、この仲間だけの宴を外に漏らさないように。まだ見てもいないのに、不思議と同好の士の連帯感と特別感を感じたのだ。それから改めて、内扉を開く。 「あ、いらっしゃいませー! 一名様でしょうか?」  その先に広がっていたのは、想像していた通りの光景だった。  広いスペースでさまざまに拘束……“変身”して点在している人たちと、それをバーカウンターやテーブルから穏やかに見守る人たち。変態性と安心感の均衡が取れた、期待そのままの空間だ。これなら私も、不安なく身を委ねられるかもしれない。 「は、はい。その、体験の予約で」 「ご予約の方ですね! 失礼ですが、お名前を……」 「登録してあるのは、サチ、です」 「サチ様、お待ちしておりました! 初めてのお客様とのことですので、まずは私、イヌイがご案内いたしますね!」  すぐに寄ってきたのは、どこか小動物的な所作の女性スタッフ。名札に“イヌイ”とカタカナで書いてある彼女だけど、大人かどうかもはっきり判別できないところがあってとても可愛らしい。ここで働いているということは、当然成人なんだろうけど。  そんなイヌイさんはサイトに登録しておいた名前を告げただけで予約の受理をしてくれて、そこで初参加の項目にチェックを入れておいたからかそのまま案内してくれることになった。 「えっと……最初は見学してからでも大丈夫ですか?」 「ええ! では、何からご覧になりますか?」  とてもいろいろなものがあるけれど、どれもどんなものなのかは知らない。そもそも似たようなジャンルで好きそうと感じたから来たけど、ポゼッションプレイについては詳しく知らないのだ。  素直に伝えるとイヌイさんは大丈夫だと言ってくれて、そのまま説明までしてくれた。 「ペットプレイはご経験があるんですよね? でしたら、けっこう似たようなものです。なるのがワンちゃんや猫ちゃんじゃなくて、家具やオブジェになるだけですね。こんなふうに」 「……それが、こんな感じの」 「そう!」  イヌイさんが指し示したのは、小物を置く“サイドテーブル”。椅子の脇に置かれていて、ちょっとしたものを置いておくのにちょうどよさそうな大きさの天板がある。  膝立ちになった人が頭までラバーに包まれて、両腕をまっすぐ前へ伸ばしている上に天板が固定された形だ。背中に添えられるように金属のポールがあって、そこに全身ががっちり固定されている様子なのと……腕そのものを支え固定するような横向きの棒も天板下に通っている。股下にも支え棒があるから、完全に力を抜いても崩れずに維持できそうだ。 「……これはですね、モノです。人間なんかじゃない、そこにあるだけのただのモノ」 「…………っ、ふ……!」  そんなサイドテーブルを、イヌイさんは強調するように「モノ」と言った。そこに尊厳など認められていないのはペットプレイでも同じだったけど……なんとなく察してしまう。大きな違いは、生き物としてすら扱われていないところだ。  ペットは飼い主にとって誰でもいいわけではなくて、個体ごとの個性を大事にされる。これはペットプレイでも同じ。しかしモノの場合、その個性さえ無視されてしまうのだ。  この全身どこを見ても露出していないサイドテーブルは、中身が誰であっても変わらない。それどころかむしろ、同じであることを求められてしまう。なにしろこれはサイドテーブル、量産品として使われるべき家具なのだから。  そうして完全に物品として扱われたサイドテーブルは、小さく呻いて興奮を垣間見せた。こんな扱いをされて興奮できてしまう存在なのだ。  それに、興奮のままに悶えたのかもしれないのに、こんな……天板に置かれた何かのリモコンが音を立てすらしない反応しかできていない。身を震わせることすらままならないほど、全てを剥奪されている。  口にはフェイスクラッチマスクの上で詰め物をされているような声しか出ておらず、目元はラバーの全頭マスクがつるりとしていておそらく何も見えていない。 「……確かに、モノ……ですね」 「でしょう? こういう、人間であること自体をやめてしまうのを楽しむのが、ポゼッションプレイなんです。……ペットプレイとはよく似ていますけど、ちょっと違いますよね」  ところで、このバーは大きく体験エリアと鑑賞エリアに分かれている。鑑賞のお客さんは体験エリアにもいるんだけど、鑑賞エリアはあくまで距離を取ってまったり楽しむ場所だ。  つまりサイドテーブルのようなモノは体験エリアのほうにある。けれど、これの横には椅子があった。 「これも?」 「はい! これもモチロン、ただのモノです。けっこういい椅子なんですよ?」 「う、ぅ……」  椅子ではあるし、椅子の形は間違いなくしている。ただ、明らかに人型でもあった。ちょうど普通の椅子に人型が座って、そのまま括り付けられているような格好だ。  深く腰掛けてまっすぐ伸ばした背を背もたれに預け、両腕はそれぞれ肘掛けに、脚は開いてふくらはぎを四脚の前二本に、各所をベルトでしっかり固定されている。ただ、股の間や太腿の外側、脇や首周りなどにふわふわのクッションが敷き詰められているから、まるで埋め込まれたようになっていた。  ただ、けっこういい椅子というのが言いたいこともわかる。近くには別の、クッションがなく人型がそのまま出ている椅子もあったから。  ……この二脚の椅子は今、クッションの有無という外的な要素で優劣をつけられている。それこそがまさに、これらに人としての個性や違いは一切認められていないことを示している。 「座ってみますか?」 「いいんですか?」 「もちろん! ここに置かれているモノたちはみんな、それらしい使い方をされることを望んでいますから!」 「ん…………」  触ることすら躊躇ってしまっていた私の横から、イヌイさんは着席を提案してくれた。……言われてみれば、座られたくないならわざわざ椅子になったりはしないだろう。ここでは他にもいろいろなものがあって、どれにでもなれるのだから。  頷いたつもりなのだろうか、椅子から肯定したような雰囲気の呻き声が聞こえた。埋め込まれたような頭の額部分までベルトが回されているから、首を振ることすらできないようだけど。  幸いにして着ている服に硬いパーツや飾りはない。そういうことなら、座ってることにした。  支えにしようと肘掛けに手を置いたら、跳ねようとしたような反応が辛うじて感じ取れる。つるつるでありながら摩擦の強いラバーの感触と、その奥から人肌の熱が感じられる。……このフロアが強めに冷房をかけている理由がわかった。 「ん、む、ぐ……うぅっ!」 「う、わ……なんか、不思議な感覚……」 「でしょう? コレはあくまでただの椅子ですけど、それでいて独特な着席感もするんですよ」  そのままお尻の位置を合わせて、体重をかける。もぞ、とわずかに動くような言い表しづらい感覚がして……イヌイさんのジェスチャーに従って背もたれに預けると、耳元から苦しげな呻き声が聞こえた。  まるで全身が微動するマッサージチェアに載せられたような感覚。女性なのだろう、胸の柔らかさも背中に感じる。動きを止めても時折音が鳴るものの、その声からはどこか気持ちよさそうな色が感じ取れた。  椅子として座られるの、気持ちいいのかな。ぐっと圧迫されて、人間さまに使われて、尊厳も何もかも奪われて……。 「……あの、これって」 「っ!」 「お好きにどうぞ!」 「では……」 「「んぅぅっ!?」」  そこでふと気になったのが、サイドテーブルに置かれたリモコン。上下三角を含む数個だけボタンがある、小さくシンプルなものだ。……私も性について何も知らないわけではないから、さすがにこれが何かはわかる。  許可が出たからON/OFFらしきボタンを押してみると……椅子とサイドテーブルが、同時に大きく鳴いた。そのまま止まることなくどちらも喘ぎはじめて、椅子については体を跳ねさせようとしているのも伝わってくる。 「んんっ、むぅ……っ、ふ!」 「……なるほど。ひとつしかないの、なんでだろうって思ってたけどま……両方なんですね」 「こちらはセットなんです。面白いでしょう?」 「ええ、まあ」 「んぁ、むぐ……ぅぅ、っ!」  どうやらこのひとつのリモコンが、椅子とサイドテーブルの両方に仕込まれたオモチャを同時に動かすように設定されているらしい。弱めれば一緒に落ち着くし、強めればどちらも悶えている。  イヌイさんはなんだかサイコパスのようにも聞こえる発言で同意を求めてきたけど、その通りで面白い。というか、これらはモノなのだからそう扱うのが正しいのだ。現にイヌイさんと私の発言、どちらにも反応しているし。 「……っ、んぅ、ゔ!!」 「……えっと、そうだ。他も見ないと。時間なくなっちゃう」 「サチさんは体験希望ですもんね。じゃあ、次に行きましょっか」  なんとなく両方が一度イったような反応をしたところで、スイッチを切った。本当にイけたかはわからないし、ちょっとズレがあったから椅子のほうは二度目へ肩透かしされているかもしれない。  だけど、私はむしろ体験しに来たから。まだふたつしか見られていないし、次に動くことにした。このふたつに私が体験希望の同類であることを聞かせたのは、わざとだった。  次に見に来たのは、オブジェのほう。家具と違って実用的な意味は付与されず、美術的な扱いをされながらただ見られるためのものだ。  たとえば……。 「胸像……」 「これが一番簡単で、楽でしょうね。その分初心者向け」 「といっても、この時点でけっこうぞくぞくきますけど……こことか」 「ああ、作品タイトル! いいですよね、これが美術品で、製作意図はあっても人格なんてないってわかって!」  ……なんとなくだけどこのひと、私より楽しんでいるのではなかろうか。解説するという体でモノたちに屈辱的な事実を聞かせて楽しんでいる、生粋のサドのように思える。  だけど、きっとそんなイヌイさんの言う通りだ。この胸像に限らず、ここにあるオブジェたちを何よりも貶めて、ポゼッションプレイたらしめているのはきっとこのキャプションボードだ。ただの特殊な形で拘束された人から、美術品である彫像まで一気に存在を貶めている。 「……『扉』」 「サチさんと同じ、今日が初めてな子なんです。それどころか、こういうプレイ全般の体験そのものが初めてなので……変態の扉を開いた、というか!」 「…………」 「初めての方に容赦ない……。けど、言いたいことは、わかるかも」  この胸像のキャプションボードは胸元の前、土台の上面に設置されているから、本人からも読むことができる。とはいえ文字は向こうを向いていて、自分に読ませるためのものではないとわかる仕組みだろう。  突きつけられたようにもともと真っ赤な頬をさらに赤らめて、『扉』はすっと目を逸らす。普通なら有り得ない向きで読まされるキャプションボード、案外強烈だったりするのかもしれない。  そんな胸像は、確かに作りそのものは比較的楽そうだった。胸の下までを収納して埋め込んだようにする土台から、裸の上半身が飛び出ている。両腕は横に揃えられているけど、中で何かしら拘束されているのだろうか。  顔もさほど隠されてはいなくて、目隠しもないから自分自身の作品タイトルを含む周囲を見ることができる。口にはボールギャグが噛まされていて、どうしても垂れてしまう涎は自身の乳房に垂れていた。そのまま流れ落ちた水滴の道が運悪く乳首を通ったらしく、濡れたままつんと立っているのが……なんというか、シンプルながら艶かしい。 「…………ぅ」 「どうです、案外いいものでしょ、胸像も」 「はい。最初は下半身が隠れてるのがって思ってましたけど、すごくいい」 「見せたいところだけを見せるのも芸術ってわけです」  さっきの家具のときもそうだったけど、もはや本物として扱っている会話だ。そんなものを叩きつけられるの、どんな気分なんだろう。……まあ、後でわかるんだけど。  そのまま二人で胸像を離れる。心なしか『扉』は胸を触ってほしそうでもどかしげだった気はするけど……だって、それは美術品だ。触ってはいけないだろう。  せっかくだから、オブジェをもうひとつ。 「こっちは……」 「ああ、これ。ふふ、挑戦的でしょ?」  目に留まったのは、ここまででも一番露骨な……品のないともいえるエロスを持った作品だった。  タイトルは『解放』。名前はシンプルだけど、これがまた、凄かった。 「ここまでする勇気は、私にはないかも……」 「これの素材にとっては、これこそが解放なんです。サチさんも、そんな感じのは覚えがありません?」 「ああ……それは、はい」  奥側も壁になって四方向がアクリルの、ディスプレイケースの形状だ。その中にオブジェとして置かれているんだけど……そこにあるのは、尻。奥の壁、というか箱から、仰向けかつ脚は上げられた形で尻だけが突き出ている。ちょうど壁尻を上下逆にしたような感じだ。  つまり、一番恥ずかしいところだけを丸出しにして晒している。アクリルケースの中で、完全に何も余計なもののない女性器とお尻の穴だけが展示されているのだ。このために整えたのか綺麗な無毛の縦筋が差し出されて、見られていることがわかっているらしくひくついている。だけど、そこ以外の部位は一切露出していないから、それが興奮なのか恥じらいなのかすらわからない。  ごく薄く開いた割れ目はしっとりと濡れて、その下端から尻穴を通ってテーブルに垂れている。これほど徹底的に個性も人格も否定されて、性器の形という個性こそ残されているものの普通見せないそれは個人の特定に何の役にも立たず、ただ見られて興奮しているという事実を強調していた。  確かにこれは、そういう美術品だ。だって、それ以外の何の役にも立たないから。あまりに無様で一見下品にすら見える、というか実際そうだとは思うけど、一方で不思議な魅力がある。 「…………すごい」 「だんだん、モノになる子の声色になってきましたね?」 「はい……そろそろ、我慢できない、かもです」  そこしか見せていないからかえって、思い切って晒せるのかもしれない。事実として私にはこの『解放』がどんな子なのか、全くわからないし。……だけど、そう簡単ではない。私には今これをやる勇気はない。  ただ、これが解放であるというのは、少しわかる気がした。こんなことを望んでしまう自分の奥底を、こういう形でなら解放できる。それを見てもらえて、楽しんでもらえるのはきっと幸せなことだろう。私も部分的ではあるけど、ヒトイヌになったときに感じたものだし……それを求めてここに来たのだ。  とても、心強く思えた。さっきまでは正直、ここでモノになるのが少しだけ怖かったけど……今は、早くなりたい。あれもこれも、そのくらい魅力的だった。    ───そして。 「…………っ、ン……」  私は今、モノになっていた。  既にあった家具もオブジェもひととおり見て、あれもこれも魅力的に感じて、モノを鑑賞する側としての楽しみもよく理解して楽しんだところで、それでも私はその惨めなモノたちの仲間入りを望んだのだ。  予想外でもなんでもなかったし、周囲に驚かれもしなかった。ここにはそういうマゾと、それを見たくて来ているサドしかいないのだから。さすがに服を脱ぐこと自体は人前では恥ずかしかったけど、モノになるにあたって邪魔になるもの全てをロッカーに置いて更衣室からフロアに出てくることは意外なほど難しくなかった。  この『Bar fetishism』にいる間は、私は人間である前にマゾなのだ。向こうにいるサド様とは別の存在だから、そうするのも当たり前。恥ずかしいし屈辱的だし思わず手で隠しそうになったけど、それら全部を引っくるめて興奮しているし、期待していた。 「ふ……っ、ぅ……」  あくまで望んでなっているし、こういうイベントはマゾがいないと成立しないから実は立場的にはやや強い。どれになりたいかは可能な限り希望を通してくれる。……本当に迷ったけど、今日なりたいモノはひとつに絞った。  サイドテーブルだ。ポゼッションプレイが初めての私でも負担的に問題なく、視線もほどほどに向けられるちょうどいいモノ。それでいて本当に屈辱的な、単体どころか主役にさえなれない付属品。貶められたい、という思いが強かった私にはぴったりだった。  形はさっき見たものと同じだ。頭まで全身をラバースーツで包んで人間らしさどころか生物であることまで否定されて、膝立ちでぴんと背筋を伸ばしたまま徹底的に拘束され自由をとことん奪われて、テーブルという家具としての新たな役目を押し付けられている。  ふくらはぎと膝の狭間あたりでポールを挟みながら両膝立ちになって、足首と膝を揃えたまま台座に固定。腰、胸元、脇の下、首元、そして額と何ヶ所にもわたってベルトで背中を通るポールへ縫い付けられていて、とてもではないけど身動きなんて取れない。仰け反ったり腰を揺らしたりさえできないほどの完全な拘束がここまで厳しいとは、動くこと自体はいくらでもできるヒトイヌしか経験がなかった私は知らなかった。 「んく……ぅ」 「ん、ん…………」  腕も正面へ真っ直ぐ伸ばして、それを真横に枝分かれしたポールに括りつけられて固定されている。掌を上にしたその上に天板を載せられて、そこにテーブルとして小物が置かれている。なってみてやはり、この形だと載せられた物の重さはよくわかる。  見ていて気付かなかったのは、ちょうど股下の位置にもうひとつ枝分かれがあったこと。短く突き出て上へ曲がった細めのそれは今、私のアナルに深々と突き刺さり責め立てている。人間家具にとっては尻穴でさえ、ついでに気持ちいいだけのただの固定具だった。  ……取り外しはできるらしいけど、私は尻尾で慣れていたし開発もされていたから固辞した。締め付けたり緩めたりで自分でも少し気持ちよくなれるし、身動きの取れない中で放置中も気が紛れるから、あってよかった。  そして当然だけど、サイドテーブルは椅子の横に置かれる。私の隣、ちょうど前方に横を向く形で、椅子として設置された子が呻いている。私よりほんの少し後に設置されたから、声色で女の子であろうことくらいしかわからない。顔も名前も性格も、どんな形の椅子なのかさえ私には知る手段も権利もない。許されているのはせいぜい、お互いの情けない呻き声を聞き合って、変態性とプレイの仕打ちを共有し慰め合うことくらい。  そんな子と二個一組の家具として設置されて、使われるためのものというよりは展示されている。向こうの方にはそれなりにたくさんのお客様がいてバーとして利用しているのに、この椅子に座ってはくれないし私にグラスを置いてくれない。それがなんだか、家具として、用途を設定されたモノとして屈辱だった。  だけど、ほどなく変化が訪れる。 「あ、コレからご覧になりますか?」 「はい。こういうのを見るのは初めてだけど、目を惹かれるというか」  聞こえてきたのはイヌイさんと、優しげな青年の声だ。どうやら私がさっきそうしてもらったように、初めての人に解説としてついているらしい。  今度はどうやらサド側のお客様の初体験のようだけど、それが私たちのところにきた。声の位置的にたぶん、私の斜め前、椅子の正面あたりから見てきているはずだ。予想通り全頭マスクには穴なんてなかったから、何も見えていない中での聴覚による想像だけど。 「これはですね、モノです。人間なんかじゃなくて、ただここにこう設置されているだけの、ただの物品」 「っ!?」 「ぅ……」 「……言われて反応しているようだけど」 「まだ完成して間もないので、少しモノらしくないように見えるかもしれません。木製品なんかも、使い込んで味が出るとか言うでしょう?」 「…………っ」 「ン……!」  私が聞いたときも、似たようなことを言われていた。そのときはただ想像でぞくりときていただけだったけど、いざモノとしてこの言葉を降らされてしまうとわけが違う。根本的な尊厳否定に思わず喉を鳴らしてしまって、固定ベルトも少しだけ軋んだ。椅子の子も似たような感じだ。  ところがイヌイさんは、私たちの不出来を許してこそくれたものの……さらなる強烈な追い討ちで、私は危うくイきそうになってしまった。私は今、木製のヴィンテージ家具と同列に扱われたのだ。ほんの少しでも体が反応して動いてしまうことさえあしらわれて、やがて馴染んでいくことを前提に紹介されてしまった。 「お座りになってみますか?」 「いいんですか?」 「はい! なにしろこれは、家具ですから。使われるのが役目というものです」 「じゃあ失礼して……これもちょうどいい」 「ん、ぐ…………!」 「ぁ……」  一度向こう側を経験したからこそ、この後どう展開するのかがなんとなくわかる。それを見越してイヌイさんがずらしてくるかもしれないから、過信はできないけど。  再度ただの家具であることを強調されて、確かに人間の女を素材にしていることは明らかなモノを使われる。向こうから苦しげな、しかし一方でとても気持ちよさそうな呻き声が聞こえたと思うと、私には何か軽く小さなものが置かれたことがわかった。……音と感触からしてたぶん、向こうから持ち歩いてきていたグラスだろうか。  グラスを支えるよう意識する必要すらなかった。重さや大きさはしっかりわかるくらい天板と腕が密着しているのに、どちらもぴくりとも動かないほど固定されているから私が支える必要はどこにもないのだ。何もしなくても安定するし、私がひっくり返そうとしたとしてもきっと少しかたかた鳴らすのが限界だろう。  口は詰め物までされて口枷に封じられているはずなのに、不思議なほど声が出てしまう。そのくらい興奮が激しくて、辱めに反応させられてしまっているのだと思う。もはや聴覚が許されていることすら不思議なほどの、放っておかれている間はアナルに咥えたただの短い金属棒を味わって認識を保つしかないモノだからこそ、たまの刺激には我慢がきかない。  さっきは熟成されていないからと言われたけど、たぶんこんなことが好きな変態マゾがなる家具は、いつまで経ってもこんなだと思う。これほど興奮させられて、辱められて、無反応でなんていられるわけがない。  ……興奮しすぎて、ひとつ忘れたまま浸ってしまっていた。 「……これは?」 「ああ、それですね。そこを押してみてください」 「「……んぅぅっ!?」」  そう、私に置かれたリモコンだ。シルエットを阻害しないよう、私は膣の中にリモコンローターを仕込まれている。椅子のほうは見ていないからわからないけど、似たようなものだろう。たった一個のローターで、しかも最初は弱振動だけど、徹底的に固定されて刺激を逃がす先すらない家具にとっては強烈だった。  一度発生した快感が逃げてくれなくて、ぴくりとも動かない体の端っこから跳ね返って戻ってくる。それがもう一度責め立ててきて、二倍になって、三倍になって。他に動かないからローターを締め付けてしまって、余計に刺激が響く。  だけど、これはご褒美だ。ずっと家具としてただ設置されて使われもしないまま、放置されてただ見られ続けて、触れるか触れないかのとろ火でじっくり炙られ続けていたところに、やっと気持ちよくしてくれた。  気持ちいい、すごく気持ちいい。さっきの言葉責めでは惜しいところで逃してしまったけど、このままならやっと、イけ─── 「びっくりした。仕込んであるんですね」 「ええ! 暗闇の中でただモノとして置かれて、身動きも取れずにただ使ってもらえるのを待ち続けている家具たちには、とってもキツい拷問なんです」 「それなら、許してあげたほうがよさそうですね」  ───止められて、しまった。  せっかく上ってきていた快感はそこで止まって、ゆっくり水位を下げはじめる。だけどそんなにもどかしくても、私は腰をみっともなく揺らすことすらできない。もうモノらしく止まっていようなんて意識すらできなくて、全身で必死にイかせてとアピールしたいのに。  届きもしない。もしかしたら直に触れている椅子ならと思っても、その椅子がどんな悶え方をしているのかすらわからなかった。察せられるのは、ソレも私と同じくらい焦がれて炙られてぐちゃぐちゃになっていて、イきたくて仕方ないであろうことだけ。  だけど、私たちの無様な懇願は意外な形で報われた。 「そうでしょうか? こんな惨めなオルゴール付き家具、いくらでも使い倒していいと思いますよ?」 「いえ。この二つは、ただの家具なんですから。眺めて使うだけで熟成したほうが、もっといいモノになるんじゃないかなって」 「「…………っ、ぅ……!!」」  イヌイさんについ、そうだそうだと思ってしまっていたけど。直後の言葉を聞かされた瞬間、私と椅子は同時に深く深く絶頂してしまった。  それでようやく気付く。私はとにかく、モノとして使われたいのだと。凶悪なはずの完全拘束ローターよりもさらに、家具だと言われて見られて使われるほうが気持ちいい。安直な快楽すら甘受する権利のない、女としてすら終わって捨てた本当のモノなのだと突きつけられるのが、一番気持ちよかった。 「なるほど、確かに。こんなこと言われて深イキする家具に、人間様とおんなじ快楽はもったいないかもしれませんね!」 「向こうも気になりますけど、こんな可愛い机と椅子は、何よりもまず使ってあげたくなる気がします」 「……よければ、ここで注文しても? 向こうのは後で」 「かしこまりました!」  しかもそのまま使ってくれることが確定して、興奮の止まらない私たちをよそにごく普通のバーとしての注文が追加される。深く座りくつろぐような音が聞こえて椅子からくぐもった甘い呻き声が聞こえた。  少しすると私に追加のグラスとおつまみの皿が置かれて、今度は私が満たされる番。やっぱり、テーブルとして使われるの、気持ちいい。まるで天板が性感帯になったかのような錯覚さえするのは、さすがに気分の問題だとは思うけど。  このままもっと使ってほしい。私たちをただの家具として使い倒して、私にもっと品を置いてほしい。そう思い始めるのには、時間はかからなかった。それからしばらくこのお客様は使ってくれて、しかし視線はろくに向けてくれずに向こうのオブジェたちのほうばかり見ていたようで……そんな自然で雑な使い方にこそ、さらに興奮してしまうのも無理からぬことだった。

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【先読み】ラバーワームで採取のついでに

「いらっしゃいませ、リエニス商会へようこそ!」  あたしは今日もいつも通り、商会本部を兼ねた本店でそんな挨拶をしている。最近はよく繁盛しているから、これを繰り返す回数も増えてきていた。  あたしはニア、リエニス商会の従業員だ。運のいいことに幼馴染のひとりの実家がとある新素材を発見したことで、人手が足りなくなった商会に雇ってもらえている。 「本日はどのようなご用件でしょうか?」 「その……例の新素材の服を見繕いたくて」 「かしこまりました。では、ご案内いたしますね!」  こうした商会でお客様を最初に応対することが許されている従業員は、フロアスタッフの中でも上の方の序列に位置づけられている。あたしがそうなれているのは半分はコネで、もう半分は時の運と努力の成果だと思う。  環境に恵まれたことはあったけど、それを含めてあたしはしっかりお客様に見られる容姿を磨くことにしている。それに加えて、接客のような人付き合いは昔から得意なのだ。とはいえ結局のところは、幼馴染から真っ先に拾ってもらえた古参であることと、彼女から信用されて商会の機密に触れるほど中枢近くに入れたことが大きいんだけど。  この日のお客様は初来店で、従者を連れた貴族家のご令嬢さまだった。必死に勉強して覚えたところによれば、あの紋章は西方に領地を持つ伯爵家のはずだ。これは逃すわけにはいかない。  あたしは失礼にならないよう気をつけつつ、一方で平民が貴族を気取った仕草などをしない塩梅で奥へ案内した。お客様がお求めの商品はウチの主力でありまだ独占できている新素材だから、商館の奥の方へ置いてあるのだ。 「こちらにございます。ご要望などはございますか?」 「そうね……懇意の侯爵家にお呼びいただいているから、どちらかといえばシックなもののほうが望ましいわ」 「かしこまりました。では……こちらのほうでいかがでしょうか」  あたしはご要望を受け取って、落ち着いたデザインのものを中心に数種類見繕った。部屋の大机に広げると、お客様が目を輝かせる様子が見える。  ……とはいえ、シックで落ち着いているのはあくまでデザインだ。実のところ、素材そのものの性質上どうしても目立ってしまう。  とはいえそれは織り込み済みだったのだろう、お客様はすぐにそこから三着ほど選ぶと、試着をご希望になった。それを手伝い、この場で精算まで担当するのがあたしの役目だ。  なにしろ、この素材でできた服は触感が独特だ。摩擦が強めだから着付けかたにも少しコツがあって、それを従者の方に教えなければならない。とはいえ、慣れたものだ。最近はこれのご注文が本当に多いから。  ……結局このお客様も、三着ともご購入になった。そこそこ値段はするのだけれど、やはり貴族女性のファッションに関する需要は計り知れない。  あたしとしては、この“ラバー”という素材は別に衣服には向いていないと思うのだけど……新鮮さに惹かれたのかそれとも美的感覚に触れたのか、さる若き公爵夫人が夜会で着はじめたことから流行ってきていた。その恩恵を怖いほど受けているのが、現在この王国で唯一ラバーを安定して販売できているリエニス商会だったのだ。  それもそのはず、ラバーというのは本来、ごく一部の魔物を討伐することでしか手に入らない素材だった。独特な形質をしていて応用が利きそうとはされつつも、産出が少なすぎて研究もろくにされてこなかったのだ。  リエニス商会はそんなラバーの安定供給に成功したから、ラバーの活用方法を自分たちで徹底的に研究している。その中のひとつとして図らずも需要を得たのが、衣服としてだったというわけ。……寒暖調節にも劣るし脱ぎ着も大変だし耐久性も低いし、どう考えてもいい素材とは思えないんだけど、なんだか着心地がいいのと貴族の流行りというだけでここまで売れている。あくまでパーティドレスを中心にだけど。  …………あたしに言わせれば、ちょっと恥ずかしいくらいなんだけど。そう思ってしまうのは肌に張り付いてボディラインを出しがちな素材性質のほかに、もうひとつ理由があった。  この日のあたしはフロア勤務はお昼までで、それ以降は交代で裏に引っ込んだ。入れ替わりで出てきた、あたしと一緒に拾われた幼馴染の一人はどこか色っぽく見える。時折そんな従業員がいて魅力的に見えることもまた、最近リエニス商会が人気な理由のひとつになりつつあった。  あたしは彼女がそうなっていた理由をよく知っている。なにしろ他人事じゃないから。 「副会長、ニアです」 「ええ、入って」  あたしは少し控えめに昼食を済ませてから、副会長室に入った。ここの副会長は商会長の奥さま、幼馴染のお母さまだ。あたしたちは本当によくお世話になっている。  この日の午後の業務は、この副会長の管轄にあたるものだ。……正直に言うと、これを女である副会長が取り仕切ってくれていて本当に助かっている。 「今日もよろしくね」 「はい。……どれが必要ですか?」 「そうね、一番と三番を半々でお願い」 「わかりました」  確認を済ませて、副会長室から奥に繋がる扉へ。ここから先は一部の例外を除いて男子禁制だ。商会長と御曹司が入れるタイミングも、副会長とお嬢……件の幼馴染がしっかり管理している。  そこにある階段を降りて、地下区画に入る。その先にはいくつか並んだ部屋があったから、そのうち入口横にある砂時計が斜めになっている部屋に入った。 「……よし、っと」  その中には今から行う作業に必要な設備が整っていて、あたしはまずそこで服を脱いだ。下着まで全部だ。もはやそれは当たり前になっているし、どちらにしろ男子禁制だから少ししか恥ずかしくない。  そうして裸になったあたしの他に、その部屋の中にはもうひとつだけ生物が存在している。全長三メートルほどある、巨大でふかふかした筒状のもの。上質なクッションのようにも見えるそれが、リエニス商会の秘密兵器。────ラバーワーム、という魔物だった。  ことの始まりは、小商会の跡取りとして勉強中だったご子息が、ある冒険者の友人に酒場で聞いた話だったらしい。  笑い話だ。不注意でラバーワームに飲み込まれて、仲間内で笑いものになってしまった、という。  このラバーワームというのは森のそこそこ奥に存在する魔物なんだけど、その一方で不思議なほど危険性がない。動きは鈍重で体も柔らかく、やることといえば口元にきた生き物を飲み込むことくらい。それも噛みさえせず丸呑みにして、消化するでもなくそのうち排出してしまう。  ただこのとき、ひとつ特殊な生態を持つ。その排出する生き物が、ラバーの膜でパッキングされて出てくるのだ。しかもその膜は内側から破ることはほぼ不可能で、外から刃物を当てることでようやく脱出できる。  彼は閃いた。そしてそのとき持ち帰られていたラバーの膜を譲り受けて、研究の末に有用な素材だと判断した。  そして彼は友人たちに、ラバーワームを生きたまま捕獲してきてほしいと依頼した。今ここに鎮座しているのは、そうして捕まえられてきたラバーワームのうち一匹だ。 「……ほんと、感謝よねぇ……」  その閃きこそが、あたしたちをこの商会に拾わせてくれた原動力だった。リエニス商会はそのまま、ラバーワームから採取することでラバーの安定供給を実現したのだから。  ……もはや説明は不要だと思う。あたしが今からやるのはつまり、ラバーの採取。わざとこの子に飲み込まれる行為である。  あたしは入口近くにあるハンドルを回して、外で繋がっている砂時計がまっすぐひっくり返るようにした。これが部屋が使用中だという合図であり、また砂時計が落ち切る頃にはラバーが完成しているということになる。  ハンドルを固定したあたしは、ラバーワームの口のすぐ前に脚を揃えて差し出した。そのまま寝転がって、あとは呑み込んでくれるのを待つ。  数秒と待つこともなく、爪先にラバーワームの柔らかな口が吸い付いた。 「…………ん」  少しくすぐったい。ラバーワームの口の中にある足首から先が、心地いい感触で締め付けられているのだ。  ラバーワームは一度食いついてさえしまえば普段よりは素早く動くし、獲物のことは離さない上に防御力は異様に高いから足首まで呑まれた時点で自力脱出は難しい。ここからは身を任せるだけだ。 「そのまま、お願いね……はふ」  実はあたしは、このラバーワームに呑まれる行為が好きだ。他の子がどう思っているかは知らないけど、あたしはとても気持ちいいから。恥を捨てて言ってしまうなら、自分でするオナニーよりよっぽど。  もう膝の上まできているから、両腕を揃えて体の横にくっつける。こうしておくのが一番楽な姿勢になるし、心置きなく楽しめるから。 「んぅ……ふふ」  部屋の中の声は外に漏れないから、あたしは声を隠す必要もない。脚を包む柔らかい締め付けをたっぷり味わって、時折そうして呑まれつつある自分の体を見て興奮するくらい。  きゅぽ、と音を立てるような感触で、少し自慢の大きさをしたお尻が飲み込まれる。もう手首もワームの口の中だから、あたしはこの時点で胴体をくねらせるくらいしかできない。  ラバーワームのほうはあたしがそんなふうになっているのをそもそも意に介しているのかどうか、どんどん引きずり込んでくるばかりだ。お腹も通り過ぎて、さも唇で食むような動作で胸まで。期待と覚悟を決めてそのままでいれば、すぐに頭まで上がってきた。  既に外から見ればけっこう情けない格好になっているけど、そんなものはまだまだここからだ。ずりずり全身を擦られながら、そのまま頭も呑み込まれていって……司会が真っ暗になってすぐ、頭のてっぺんまで生暖かい感触に包み込まれた。 「ん……ぅ、ふ……んん……」  ラバーワームの口の中はピンク色をしているけど、そとそも光が入ってこないほど呑み込まれているから何も見えたりしない。全身を柔らかくも強く締め付けてくる感覚が気持ちよくて、ついつい甘い呻き声を漏らしてしまう。  だけど、今回はここで悶えるのは我慢だ。……さっき聞いた「一番」と「三番」というのは、ラバーの硬さを三段階に分けた呼び方。つまり柔らかいものと硬いものを半々でと言われているんだけど、実はこのラバーワーム、出すラバーの硬さは飲み込んでいる間に獲物がどれだけ暴れたかで決まる。  だから一番の柔らかいラバーが欲しいときは、ここでじっと動かずにいないといけない。あたしにはちょっと大変だけど、排出された後の感触はこれも好きだから味わいたい。そのためには、ワームの中にいる間はじっとしていないと。 「はっ、はっ……んぅ……」  呑まれているだけで興奮してしまうあたしには少し大変だけど、なんとか耐える。そうしているとやがて、脚のあたりからまた新しい感触が広がってくるのがわかった。  締め付けたその姿勢のまま、呑み込んだものをその外側からラバーで包んでいくのだ。このパッキングの最中、ラバーが這い上がってくる感触もあたしは好きで、動かないでいることに難儀する。 「んむ、ぅ……んん、っ」  それもじっと耐えていれば、そのうち頭までラバーに包まれた。この素材は後で溶かして固め直すのだけど、素材として作られた段階では空気だけを通すから呼吸の心配はない。  強いていうなら、ラバーワームの内部の空気はどんどんえっちな匂いになってくるから、興奮してしまって困るくらいだ。もう自分で触ることもできない格好ながら腰を揺らしたくて堪らないけど、我慢、我慢……。 「ぁ……ん、っっ…………ぅ! んぅ、う……っ!」  しばらくそのままでいれば、今度は排出口から出されていく。爪先がラバー越しに外界に触れて、そこからはどんどん外に。ほどなく全身が、ラバー膜にぴっちり包まれたまま放り出された。  ここからもしばらくは品質が安定するよう寝かせる必要があるのだけど、一方でここまできたらもう動いていい。硬さは確定したから、心置きなく悶えていいのだ。 「んっ、ぁ、ふ……んぅぅ、っ! くぅ、ン……!!」  もはや頭の少し向こうで我関せずという様子に違いないラバーワームをよそに、くねくね悶えて遠慮なく気持ちよくなる。全身にぎちぎち音を立てながら擦れるラバーは、貴族令嬢がお洒落で身に纏うなんてあたしには信じられないほど気持ちいい。  もともとまるで大きなぬいぐるみのようでとても虫には見えないラバーワームと同じくらい、あたし自身が芋虫のよう。鼠蹊部のあたりまで密着してくるラバーが擦れて気持ちいいから、腕がなんの役にも立たない格好のまま腰を振る。そんな外から見れば無様すぎるありさまで快感を貪って……。 「んぁ、~~~~~~っ!」  がくがく腰を震わせて、盛大に絶頂した。お尻を思い切り突き出して、普段はその欠片すら出さないようなみっともないメスの声を漏らして。  それを最後に脱力して、ゆっくり余韻を味わいながら転がった。意識がはっきりしてきて、またじんわり楽しむくらいの感覚で腰を揺らしたりしているうちに、ドアが開く音がした。あたしはそれを聞いたら、無様な姿で転がったまま体にラバー越しの手が触れるのを待って、脚の隙間の小さな空間へ慎重にナイフが入れられるのを待つのだ。 「……よし、おっけー。今日は次が最後で大丈夫だよ」 「わかった。任せて」  これで、七回目。切込みを入れて開いたラバーを下から上に剥がしてもらって、次が最後の一回ということになった。  こうして都度ラバー膜を回収してくれるのは、あたしの幼馴染でありリエニス商会のお嬢様のシェナだ。あたしにとっては恩人であり、とても親しい上司ということになる。 「ニアが採るラバー、毎回質がいいしたくさん採ってくれるから助かってるの。他の子のより光沢が強いし耐久性もあるから、よく高級品に使ってて」 「そうなの?」 「うん。何か違いがあるのかなぁ……他の子もこう採取できればもっと質がよくなるんだけど、心当たりとかない?」 「いや、特には……」  そんなことを言われたけど、当然あたしにはわからない。あたしはただ言われた通りに採取しながらついでに楽しんでいるだけで、ラバーワームの生態やら教わった以上の扱い方やらは知らないのだ。  なんでも外から魔力を注いだりしてみても何も変わらないそうだけど、採取役による個人差は出るらしい。あたしは首を傾げるしかないけど。 「ま、何か思いついたら気軽に教えて。じゃあ、よろしくね」 「うん」  ラバーを持って出て行ったシェナを見送って、あたしはもう一度ラバーワームに爪先を差し出す。そのまま食いつかせて、頭まで呑まれるところまでは同じだ。  違うのはその後。今回は硬いほうのラバーを採るから、完全に包まれたらワームの体内で暴れる。 「んっ、ふっ、はっ……」  もう身動きは取れないから身をくねらせて蠢くだけなんだけど、こうするとラバーワームは獲物をしっかり捕らえるために出すラバーを硬く厚くする。獲物から魔力を吸い取って生きるにあたって、そうしたほうが吸いやすいけれどその分エネルギーを使う、らしい。  そのまま動いていれば、全身がいっそうきつく締め付けられる。こうなれば硬いラバーに変わった合図だから、あとは落ち着いていい。なにしろこれ、全身運動でさすがに疲れるから。 「ん、ぶ……んぅ、きゅ……」  ラバーの質以外は何一つ変わらず、やり方も同じだ。爪先から頭に向けてラバーの膜が張り付いてきて、ただでさえ締め上げられている体をコーティングされていく。  その膜が頭のてっぺんで閉じたら、しばらくそのまま。ささやかな魔力を吸い上げられてから排出……たぶん排泄だけど、外に出されていくから、あとは身を任せる。  後に残るのはもうこちらに興味なさげに室内を這いずるラバーワームと、ぎりぎり人の形をした真っ黒なラバーの塊だ。この状態であたしは、ラバーを寝かせるついでに堪能することができる。 「……ん、っ、ぅ……ふっ、ふっ……」  排出された直後はまだえっちな匂いが残っているから、それに浸りながら腰を揺らす。匂いがなくなってきたら興奮のままに身をよじって、拘束感とラバーの感触をじっくり味わうのがあたしには一番気持ちいい。  この硬いほうのラバーでは、柔らかいほうよりさらに身動きが取れない。伸縮性のある薄地のときはぐねぐねとみっともない伸び縮みができるけど、こちらのときは動こうとするとそれを防ぐような重たい感触で封じられてしまう。  どちらが好きかは……微妙なところだ。動けはするのにくねくねしかできない情けなさと、そもそもほとんど動けない拘束感による屈辱は、どちらも別の形で気持ちいいから。 「…………っ、ん……ふ……ぅ、!!」  ただ、イきかたは違う。暴れて悶えて激しくイく薄地に対して、厚地のときは重厚な拘束に固められたままじんわり静かなイくというか。どちらも捨てがたいから、二種類どちらにも需要があってよかったと思う。  腰を浮かせて深イき。そこから少し休んで落ち着いたら、今度は横倒しになって丸まったり……なんて考えていたところで、異音が聞こえた。  扉が開く音だ。確かに回収のためにこの部屋に鍵はないけど、まだ砂時計は半分にも到底届いていないはずだ。どうして。 「……やっぱり。実はそうじゃないかと思ってたんだ、ごめんね?」 「んぅぅっ!?」 「うぁ、かわいい……っ。……実はね、ニア。ニアのラバーは内側についてるえっちな汁が多いの、知ってたんだ」 「!?」  シェナだ。他に入ってきそうな人もいないしそうだろうとは思ったけど、やっている間に入ってきたのは今回が初めてである。……こんな格好を親友に見られるのは、さすがに恥ずかしい。  しかも、これで気持ちよくなっていることがバレていた。量ということは他の子もつけてはいるようだけど……そんなことより、つまり今はオナニーを見られたのと同じということになる。  だけどこの格好だと、出ていっても見ないでも伝えられない。シェナがどんな顔をしているのかもわからない。興奮していそうな声色ではあるけど、気持ち悪がれてすらいるかも……。 「ねえ、ちょっとお手伝いしてみていいかな」 「んぁ」 「私ね、よく妄想するんだ。みんながこうやってラバーに包まれて、転がされたままもぞもぞしてるところ」 「…………」 「待機室にいる時間のほうが長いからさ。すぐ近くでみんな気持ちよくなれてるのかなって……最初の頃に見学で見たラバーの塊で、興奮しちゃったから」  …………どうやら、そういう感じではなさそうだった。むしろあたしよりよっぽど熱に浮かされた様子で、わざわざ断ってから触ってきた。  ラバーの上から手で撫でられると、いやに敏感で気持ちいい。そんなことも初めて知ったあたしの跳ね方を見たのか、そのままカミングアウトしてくる。締め付け包まれて拘束されて興奮するあたしとは逆に、ソレを見て興奮することを。 「だけど、自身はなかったの。みんながラバーの裏につけてるおつゆは、そこまて多いわけじゃなかったから。といっても、私もどのくらい出てたらどのくらい楽しんだのかとか、わかんないんだけどね」 「……っ、ン」 「あ、気持ちいい? わかった、こう、だね……だけどね、ニアのはたくさんついてるの。べったり、楽しめてるんだってすぐわかるくらい。  だから、来ちゃった。ごめんね、先に行ったら楽しめないかなって」 「んぅ、ぅ……!」  優しく、鼠蹊部を撫でてくれた。思っていたよりずっと気持ちよくて、身をよじって悶えてしまう。シェナもそれがいいと気付いてくれたようで、そのまま指先を割れ目の上で往復させてくる。  つまり、あたしならこうしても楽しんでくれるかもしれないと、期待して遊びに来てくれたらしい。……シェナとは別にそういう仲ではないけど、かといってソレが嫌な仲でもない。  触って、遊んでいいよ、と伝えることすら今は簡単ではない。だから全身から力を抜いて、無防備に横たわってみた。全部委ねるよ、ってつもりで。  伝わったみたいだ。シェナはあたしの上体を起こしてきたかと思うと、もたれさせるような形で割り込んできた。あたしはそのまま背中を預けるしかない。 「ん、ぁ、っ……ぅ!」 「びくびくしてる……かわいくて、嬉しい。……もしかしたらラバーの質がいいのも、楽しんでるうちにえっちな汁が馴染むからなんじゃないかって、思ってて」 「……、ふっ、んぅ……っ」 「うん。だから、たくさん気持ちよくなってね。もっとよくなるかもしれないし……今のニア、すっごくぷざまで、かわいい」 「〜〜〜〜っ!?」  それでも少しだけ後ろめたさがあったあたしを見透かしたように、シェナは持論を話してくれた。確かにあたしのだけが良質で、あたしだけがラバーワームでオナニーしていたなら、そこに関係があってもおかしくはないけど。  それを免罪符にされたら、あたしはもう勤務中のオナニーがバレたことを後ろめたく思わなくていい。ただ、恥ずかしくだけなれる。……ああ、だめだ、シェナに外から、ぶざまなんて言われたら。  ……あたしは、盛大にイってしまった。腰ががくがく跳ねて、潮まで吹いてしまったことも、割れ目を厚ぼったいラバー越しに触れていたシェナには筒抜けだろう。  もしかしたら、そうやって優しく罵られることすら好きなのかもしれない。もともと惨めなありさまを自分で認識して興奮していた節はあったし、屈辱的な言葉を囁かれると頭の中がちかちかしてしまった。  素肌を一切露出できず、顔どころか髪すら無個性に包まれたラバーの塊になっている、尊厳のかけらもない無様な姿を楽しまれて、あたしは気持ちいい。余韻で跳ね続けるあたしの体を、分厚くて温もりのわかりにくいラバー越しにシェナは抱きしめてくれる。 「……いいんだよ、我慢しなくて。ほら、気持ちいい?」 「ぃうっ!? ……ん、ぁ」  余韻が落ち着いてきたそのタイミングを見透かして、今度は分厚いラバー越しだと主張もしづらい乳首を正確につまんでくる。いちいちタイミングも場所も完璧で、一番気持ちよくなれるような手管を熟知しているのではないかと思わされるほどだ。  もちろん新進気鋭の商会の娘に雑な色事なんてないはずだから……もしかして、一人で。  そうかもしれないけど、だとしたらあたしにとっては試練だ。的確な触り方でどんどん気持ちよくされてしまって、あたしはラバーによる完全な拘束で何ひとつ逆らえないのだから。  他の子たちはもう終えて上がっていたようで、結局二人きりでの戯れは砂時計が落ち切って少し経つまで続いた。腰が抜けたあたしがシェナの肩を借りなければ立てなかった様子は、見られずに済んで幸運だったと思う。  ……で。 「最高級品?」 「そう。例の、本当に飛び抜けて高品質だったから、需要が出ちゃってね。他の子たちにも遠慮せず気持ちよくなることは教えたんだけど……あの品質はニアにしか作れないと思うからさ」 「……まあ、そういうことなら」 「うん。必要なときは私が手伝うから、一緒に頑張ろ!」  ……あたしとシェナは、あくまで必要に駆られて定期的に、というには高頻度でああして戯れるようになったんだけど……それをどう受け止めたかは、もはや言うまでもないだろう。

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【先読み】土曜夜、ヒトイヌマッチングサービスにて

 毎週土曜の夜、私には習慣にして楽しみにしていることがあった。  大学生として以前より自由のきく時間が増えたからと、友人たちは学生の身分であるうちにと遊びを増やしていたりするが……私はちょっと出自のはっきりした家の生まれということもあってか、稽古ごとや独自の勉強が多いからそうもいかない。  その分、アルバイトをする暇もないからと、周囲からは羨まれる実家からお小遣いをそれなりにもらっているけれど……そこを知るまでの間は、お金のかかる趣味もなく使うあても多くなかった。身嗜みはしっかり整えていたが、そのくらいだ。  だが……最近は違う。その使い道である───『ヒトイヌマッチングホテル』に、私は今週も足を運んでいた。  名家といっていい環境としては珍しく……と言っていいのかわかるほどよその事情に詳しくはないが、私はお見合いのようなことはまだしたことがないし、今後するかどうかもわからない。女子校育ちということもあって、異性との恋愛も特に経験がなかった。  家の教育方針は案外緩いほうだ。「健全な付き合いの上で両親に紹介した相手にしか体を委ねるな」というくらいで、素直に受け取れば自由恋愛を禁じられてすらいない。だからといって、そう簡単にそれができるわけでもないのだけれど。  しかし、そうした一般的な付き合いを経験する前に、私はある種の抜け道に辿り着いてしまった。それがここだった。  ヒトイヌ……人間を人間らしい行動ができないような形に拘束してペットとして扱う、遊戯としてのSMプレイの一種。マッチングホテルはそれに特化し、客同士での交流に焦点を置いた、風俗施設の一種である。  名称の通りだ。人間の客とヒトイヌの客がそれぞれ登録して、互いの要望がある程度噛み合うようにマッチングがなされる。その両者が施設内の一室で引き合わされて、その場で遊ぶ。  特徴があるとすれば、まずは当然ながらヒトイヌに特化していること。それなりにニッチな嗜好であろうとは思うのだが、どうやらノーマルプレイどころかよくあるSMプレイすら取り扱う気はないらしい。  そして、会ってから別れるまでの間、ヒトイヌは人間に戻ることが一切ないことだろう。ヒトイヌと遊べるというよりは、ヒトイヌとしか遊べないのだ。 「では、こちらのお部屋でお待ちくださいませ」  私は人間側としてしか利用したことがないから、こちら側の流れしか詳しくは知らない。だいたいこんなところだ。  まず人間側がマニュアルによるサポートを交えた形で要望を出す。拘束具の材質だったり、プレイの内容だったり……たとえば、目隠し猿轡ありで愛撫OK、のように。予約でも当日飛び込みでもいいが、当然予約のほうが希望の相手と当たりやすくなる。  それに対して、ヒトイヌ側は要望の一覧から選んで応じる。こちらも予約、というか人間側の予約を見てそれに合わせて事前マッチングをしてもいいし、施設に来てから選んでもいい。そして準備エリアでスタッフの手を借りて要望に合った形でイヌになり、部屋に向かう。  互いにリピートを望んだ場合を除いて個人の特定や指名は不可能な一方、予約さえすれば自由度の高いマッチングも可能だ。その一方で相手も客だからか、この手の体験ができる施設にしては料金は手頃。特にヒトイヌ側はいくらでも通えるような価格設定になっていて、おかげでマッチングが成立する規模で回っている。  そんな中で、私は毎週土曜の夜に時間の余裕をもって予約して、いつも同じオーダーを出し続けている。問題ないと判断しているとはいえ顔を見られたくはないから、「目隠しまたは視界をぼやけさせるゴーグル着用」。性行為ではなくイヌとの遊戯、いわばペットセラピーのようなことを求めているから、「こちらへの奉仕や性行為なし、ペットプレイ主体」。それから「口枷あり、または人語禁止」だ。  これらはどれも、この施設をヒトイヌとして利用する客には人気のある条件のようだから該当者は多いらしい。それ以外には条件をつけず、毎回それぞれの相手が望むことを受け入れることにしていた。せっかくのマッチング施設だから、やはりさまざまなイヌと戯れたいのだ。  部屋のソファに腰掛けて、今回のマッチング相手が出していた要望を読んでおく。……どちらかといえば愛撫よりも犬扱いのプレイを希望、たくさん撫でてほしい、必要以上のくすぐりはNG……全体的に、人間であることを忘れて犬として甘えたい、といった様子だ。ヒトイヌとはいっても気持ちよくされたい子はやはり多い場だが、今回は基本的には本物の犬のように扱ってやるほうがよさそうだ。もちろん、その場次第ではあるが。  ……それから少しして、予定通りの時間、どうやら相手が到着したようだった。  部屋は何種類かあるが、今回はペット用品がひととおり揃えられた少し広めのリビングのような一室。私が入ってきた扉はやはりそれに則した形をしていたが、この施設の個室には共通してあるものが用意されている。  それが、扉と逆方向にあるペットドア。そちらの向こう側にある準備スペースから、ヒトイヌは専用の通路を歩いてくるのだ。  そこから聞き慣れつつあるヒトイヌの歩行音がしてきたから、出口から二メートルほど距離を空けて床に座って陣取る。そのまま待っているとほどなく、上開きのペットドアが持ち上げられてヒトイヌが出てきた。  革の拘束具にボンデージ衣装が最大母数ながら、胴体はさも人間のような衣服の子から裸の子までいて、拘束が縄でなされていることもある。しかし今回は、ラバー製のドギースーツだ。ぴっちり一体的に全身を覆い尽くして四肢を畳んでいて、露出しているのは胸の先端と股間部だけ。 「……っ、ふっ、ふっ……」  どうやら黒の尻尾はプラグで尻穴から生やしているようで、緊急時以外は外さないでほしいと要望に書いてある。大事なところだけをわざとらしく露出させられた衣装は恥ずかしいのか胸の先端をつんと立てていたが……最も目を引いたところはそこではなかった。  頭だ。私は目隠しを要望しているから、それか代用のゴーグルはつけている姿を見慣れているのだが……今回は普段見えている頬や鼻、髪まで全てが全頭マスクで包まれている。目隠しもそれで兼用されて、その上から犬耳とバイトギャグが取り付けられていた。  それらの影響で、体の大半が黒色に塗りつぶされている。だからこそ露出している恥部の艶めかしさが強調されていた。自分の姿は見ているだろうし、スーツには締め付けもあるはずだからさぞ恥ずかしいだろう。  今夜のイヌは、そんな徹底的なラバー犬だった。上級者でありよほどの変態なのだろう、口枷越しに漏れる吐息には恐怖はなく、むしろ深い興奮が見て取れた。今の自分の格好を、部屋のどこかにいるはずの相手に見られていることを実感しているのだろう。  ……いったい、どんなふうに感じているのだろう。何度見ても自分がイヌになりたいとは思わず、またそれが許されることもないであろう私にはわからない。 「……ルルちゃん、よね? よろしく」 「! んぅ、むぅっ!」  努めて驚かせないよう小さめの声で、要望とともに書かれていた相手の名前を呼ぶ。もちろんこの場でだけ使うイヌとしての名前なのだろうけれど、だからこそ反応する姿が愛らしい。  声でこちらの居場所がわかった様子のルルは、深く噛まされて口枷越しに嬉しそうな呻き声を漏らした。見えていないであろう顔ごとこちらを向いて、まっすぐ歩いてくる。前足が正座をした私の膝に触れると、利口なことに位置を合わせながら体を起こしてみせた。 「ふふ、いい子ね。たくさん可愛がってあげるから、楽しみにしていてちょうだい」 「あぅ、っ……ン、ふっ、ぅ……」  私はどちらかといえば、ペットは甘やかしてあげたいほうだ。もちろんイヌの好みに合わせるつもりはあるが、今回のルルは要望でも甘えたがりのようだったから問題ない。  肩を滑り込ませて前足を掛けさせる形にすれば、そのままもたれかかってくる。背中をそっと撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らしたから、肩甲骨からお尻のあたりまで何度もゆっくり撫で下ろしてやる。 「そう、そのまま委ねてくれたら嬉しいわ。ゆっくり、力を抜いて……」 「ん……ぅ……」 「ええ、上手。あなたはワンちゃんなのだもの、人間みたいな見栄なんて忘れてしまっていいのよ」  とても従順で、犬扱いに慣れている子だ。委ねていいと伝えてやるだけで、人間なら本来そうそう行わないような脱力した身の委ね方をしてみせた。これは間違いなく、そうすれば飼い主が支えてくれるとわかっている仕草だった。目隠しをされている状態で、それも相手の顔も知らない状態でそれをするのは簡単ではないだろう。  こういう子にはまず、私が自分の望む犬可愛がりをしてくれる存在だと伝えて、安心させてやるのがいい。すぐには尻尾や股間に触れたりせず、背中と頭をゆっくり撫で続けて……しばらくすると、とろんともう一段体から力を抜いてみせた。  ああ、可愛い。私はもともとヒトイヌを人間として見てなどおらず、こうした人間であることを投げ出した様子を堪能したくてここに通っているのだ。早くも高い満足感を得られてしまったが、もちろん夜はこれから。せっかくの可愛らしいわんこは、可愛がって遊んでやらなければ。  相手は口を塞がれたイヌではあるが、お互いに楽しむにはコミュニケーションが肝心だ。この子は次に何をしたいか、聞いてみることにした。 「ルル、何をして遊びたい? ボール?」 「うぅっ」 「お散歩かしら」 「あぅっ!」  私はここでそれなりの数のイヌたちと遊んできて、なんとなく肯定や否定のニュアンスはわかるようになってきていた。今の場合はひとつめの返事は「やりたいけど後で」、ふたつめが「それがいい!」だ。  まずは室内を散歩したいようだったから、私もそれに合わせた準備をする。その場で待っているよう命令してから、室内に置いてあったリード紐をルルの首輪に取り付けた。感触でそれがわかったのか、ルルは嬉しそうにお尻ごと尻尾を振ってみせる。 「じゃあ、ついてきて。短めに持っているけれど、うまく歩けていたらリードだけで引いてあげるから」 「んぅっ!」  イヌに飼い主の姿を見せない手段には、ぼんやりとした輪郭しか見えなくなる黒いゴーグルもある。それの場合は最低限動けるくらいには見えるようだから気にしないのだが、今回のように目隠し状態だと目の前に障害物があっても避けることすらできない。飼い主が誘導してやる必要がある。  だから本物の犬と違って、リードがぴんと張る程度には引っ張ってやる必要があった。無理やり引き回す気はないから、どちらに引かれているかわかる程度に強さを調節する。  そのまま、ゆっくり歩いて引っ張るのだ。イヌの脚の長さは人間の半分、歩幅は四分の一もない。そのイヌの四足歩行で問題なく追いつける、ほどほどの弱さの引きを保てる程度に。  なにしろ、そうするのが一番可愛らしい。強く引っ張るとその力に任せて引っ立てられる歩き方になるし、弱すぎると不安そうにおっかなびっくりの歩き方になる。私はイヌには気持ちよくイヌとして浸ってほしい。 「んぁ……はっ、はっ……」 「あんよが上手ね。その調子よ」  首輪を引っ張られるその感覚が、暗闇の中にいる今のルルにとっては唯一の道標だ。それだけを頼りに信じて、前を普通に歩く飼い主に続いて短い四つ足を前に動かす。こじんまりとしたイヌの背中を見られながら、普段ならなんてことのない行動が責めになる自身のありさまを自覚するのだろう。  それがどれほどの屈辱かはわからないが、少なくとも積極的に欲しがる程度には被虐心をくすぐるに違いない。ルルはとても楽しそうだ。 「こっちよ。ちゃんとついてきてね」 「んっ……あぅっ」  それを見ることができる飼い主も、イヌが嫌そうでなければついやりたくなってしまうほど支配感を得られるのが散歩だけれど、かといって何も考えずにできるほど簡単なわけではない。  イヌは人間ほど急な方向転換をしづらいから、障害物や壁は余裕を持って避けさせなければならない。それに左右や高さの角度、加えて引く強さもイヌに伝わって貴重な情報となるのだから、上手なイヌなら自在に操ることができる一方で余計な動きをすれば惑わしてしまう。そうなると視界がきかないイヌも飼い主に身を委ねにくくなって、プレイへの没入感が落ちてしまうのだ。  イヌは飼い主に可愛らしい姿や恥を晒して支配を受ける。飼い主はイヌが心置きなく身を委ねられるよう細心の注意を払って導く。きっとヒトイヌに限らないことなのだろうが、片方が自由を奪われてもう片方が操るプレイだからこそ、信頼関係が結べないと楽しみきれない。  だから、こうして楽しそうにイヌに徹して歩く姿は、飼い主へのご褒美でもある。……私は性行為をしに来てはいない体ではあるが、とはいえそれはイヌの性的な興奮も例外ではない。 「ねえ、わかってる? ルル、あなた今、床に『足跡』をつけちゃってるわよ?」 「っっ!? ……ぁっ、は、ふぅっ……!」  それを選んでいる理由は薄々察しがついているが、ルルは徹底的な犬扱いを望んでいる一方で股ぐらは丸出しだ。わざわざ綺麗に剃っている割れ目は隠れておらず、その内側から溢れてくるものを止める術もない。  点々と連なっている水滴のことを「足跡」と呼んでやると、犬らしさを好む子はよく喜んでくれる。根本的に羞恥趣味で、かつ「女である前にイヌ」と扱うつもりだと伝わるのだろう。ルルもわかりやすく興奮を強めて、涎と愛液という二対の足跡を少し大きくしてみせた。  目隠しされているイヌは、他のときに見ていない限りは部屋の広さすらわからない。全頭マスクを自分から被るようなルルなら普段からそうしているだろうと思ったが、横に引かれはじめてはじめて気づいた様子を見るに当たりかもしれなかった。それでも引かれるまで迷わずまっすぐ前を向いていたあたり、信用してくれていそうだ。  二度曲がったあとも障害物の避け方などで慣れることはできなかったようだが、さすがに四度曲がればわかった様子。どうせ見えていないのっぺりしたラバーの全頭マスクでそわそわと見上げてきたのは、ちょうど終着点に着いてリードを緩める直前のことだった。 「よくできました。とっても可愛かったわよ」 「んぅっ!」 「足跡は私が消しておいてあげるから、心配しないでね」 「ぅ」  恥ずかしいのだろう、足跡に触れるたびに目を逸らすような仕草で声を詰まらせる。顔のパーツは何一つ見えていないのに、顔も知らないルルの表情は手に取るようにわかった。  ラバーでつるつるの頭を撫で回していると、くい、と自分から顔を上げた。顎の下をくすぐってやると嬉しそうに喉を鳴らしてみせる。これも正解だったらしい。 「次は……餌にしましょうか」 「うぅ……!」 「ふふ、嬉しそう。準備するから、ここで待っていて」  要望には多くは書かれていなかったものの、『夕飯は食べずに行きます』とはあった。直接的でこそないが、意味がわかる飼い主にとっては露骨すぎるくらいだ。  この施設にはドッグフードも完備されている。人間にも食べられるどころか、人間用に栄養や味を調整された専用のものだ。それはつまり、餌やりがプレイとして想定されているということ。  顆粒状のものが入った袋とペーストが入ったパウチの二種類をルルの待つ床の近くへ運ぶ。座っていてもいいのに、ルルは四つん這いで立ったまま待ち遠しそうにお尻を振っていた。いつ飼い主に見られていてもいいように、自分からは見えていないからこそ常に犬らしく振舞っているのかもしれない。あるいは、単にヒトイヌ姿に浸るのがそれだけ好きなのか。  もう一度クローゼットと冷蔵庫に向かって、犬皿ふたつと水を取ってくる。見えない分音には敏感なイヌは、二度目の足音で察しがついたのかこちらを見上げてきた。可愛らしくお尻を振るのも忘れていない。 「どっちが好きかわからなかったから、ふたつ持ってきたけれど……」 「ん、ぅ……」 「でもねルル、餌が欲しいなら、イヌはご主人様を満足させなきゃいけないのよ」 「ぅー?」  犬皿に顆粒の人用ドッグフードを注ぐ音を聞かせる。やはり慣れていて味も知っているのか、お腹が減っているのか、口枷越しに涎が止められていない。だが私はこれみよがしに音を聞かせた上で、後出しで条件をつけた。  もちろん詭弁だが、どうやらルルはイヌであるとともに相当なマゾだ。餌の前であったとしても、飼い主に振り回されることを喜べるほどに。 「お利口なワンちゃんなのだもの。芸、できるわよね?」 「! あぅ、うーっ!」 「よろしい。じゃあ……お手。ほら、ここよ」  その証拠に、芸と一言告げたその瞬間に全身を震わせてみせた。目を輝かせたような錯覚すら感じられる。もちろんとばかりに鳴き声を少し大きくしたルルは、餌をお預けされたままでも芸そのものを楽しんでくれそうだ。  この芸は避けられない命令で、どちらにしろ従わなければ餌にはありつけない。ルルの口を塞いでいるバイトギャグを外すことができるのは私だけで、それをすり抜けて食べることは難しいから。その気になればどうにか食べられるかもしれないが、私が押しとどめる方が早いだろう。  ただ、そうして避けられない理由をつけた方が、イヌは喜んでくれるものだ。今だってきっと、芸なしの餌でも餌なしの芸でも、ここまではやる気になってくれていないと確信できる。  とはいえあまり待ち切れない様子だったから、すぐに始めてしまう。右の掌を差し出して「お手」を命令……ただ、これだけでは目隠しイヌにはどこに手があるかわからない。  もう片方の手で掌を叩いて、音を立ててやるとルルはそちらを向く。きちんと右の前足を乗せてきた利口なイヌに、そのまま命令を続ける。 「上手。次は、おかわり。もう鳴らさないから、きちんと位置を覚えてするのよ」 「ぅ……んっ!」 「さすがね。じゃあ次は、ふせ」 「んむ……っ」  一度把握した位置はなんとなくわかるのだろう。一度空振りしかけて指先に触れはしたが、その時点でおおよその位置は合っていた。すぐに置き直してきたから、それで充分だと伝えつつ褒めてあげる。  続けて伏せも命じると、迷わずその場でぺたりと伏せてお腹を床につけた。動作そのものは簡単なものだが、それに従うこと自体に意味がある。 「とっても上手だから、もうひとつ見せてちょうだい。ごろん、できるかしら」 「っ……!」  あまりたくさんやらせても焦れてしまうだろうから、今行う芸はあとひとつ。ごろん、つまり仰向けに寝転がってお腹を見せるもの。  やはりただ転がるだけだから、これも難しいものではない。だが……仰向けになるというのは、四つん這いでいる間はあまり露骨には見せずに済んでいるところを晒すことを意味する。  いくら顔まで全て隠して正体を徹底的に隠した無個性なメスイヌでも、やはり恥ずかしいのだろう。息を詰まらせて躊躇ってみせ、動くまでにその羞恥を噛み締め乗り越える十数秒を要した。それでもせかされたりお仕置きをちらつかされる前に動けるあたり、やはりルルはいいイヌだ。  伏せから四つん這いに戻ると、股をぐっと開きながら後ろに重心を寄せていく。やがてお尻が床につくと尻尾の付け根が床に干渉しないよう意識しつつ、おすわりの姿勢から前足を離した。背中をまっすぐ上へ伸ばして……腹筋を使ってゆっくり、そのまま後ろへ転がっていく。 「…………っ、ふ……ぅ」 「……とっても、いい子ね。ご主人様に自分から服従できるワンちゃんは、私も大好きよ」 「うぅ……!」  肩まで床につくと、勝手に丸まりそうと言わんばかりの動作をしながら、バンザイ。股も少し開いて、四つの脚をそれぞれ開いてみせる。  そうすれば、イヌの胴体が全て見える。ぐしょぐしょに濡れそぼっている綺麗な縦筋も、尻尾を健気に咥えているお尻の孔も、必要もないのに露出している胸のつんと屹立した先端も。  ひくついている。どこを見られているかもわからず、全てを見られている感覚になっているのだろうか。ラバーにぴっちり包まれて臍の位置もわかってしまうお腹も、なんとか息を乱さずに保とうと緊張を保っている。  そっと、そのお腹を撫でてみる。最初はびくびくと跳ねたが、すぐに落ち着いてくすぐったそうに上下動した。くすぐる気はないから、優しくゆっくり掌だけで撫でてやる。あなたは今、自分からイヌとして見知らぬ飼い主に服従しているのだと、囁いてあげながら。  鳴き声に色っぽさが少し増した。やはりルルはとにかく、自らの恥辱やそれを突きつけられることに反応するようだ。それでいて顔は誰よりも隠しているあたりが、倒錯的で可愛らしい。 「さ、もういいわよ。ごはんにしましょう」 「っ、むぅ!」  手を離して少し離れ、芸が終わったことを示す。軽く手を叩いて知らせると、達成感半分、名残惜しさ半分のように聞こえる鳴き声が返ってきた。それはさすがに、私の願望かもしれないが。  今度は横に転がり、前後に伸ばした四肢を立てるように四つん這いに戻った。その過程で突き出されるように晒されたラバーの尻と肌色の会陰が見えたが、そちらもまた魅力的だ。ヒトイヌのお尻というのはどれだけ見ても飽きない。  音の位置から推測してかほぼぴったりの位置に来たから、頭を撫で回してやってからパウチを開く。それを顆粒状の餌の上に回しかけてから、改めてルルの後頭部へ手を回した。  こういう子は口枷を外されたままでいることをあまり好まないことが多いから、外しながら構造を把握しておく。つけ直すのに手間取りたくないのは、私のこだわりだが……バイトギャグが口から離れると、涎まみれになったそれを追いかけるように舌が垂れた。そんなさまも少し犬らしい。 「はっ、はっ……」 「まっすぐ下よ。お食べ」 「わんっ! ……ん、あー、む……!」  位置を教えながら許可を出すと、元気な鳴き声が返ってきた。口が自由になっても自発的に犬鳴きをするのは、要望から予想通りだ。私の好みなタイプのイヌだった。  やはり餌皿の高さもおおよそわかっているのだろう。口を開いたまま頭を下げていくと、そのまま餌へかぶりついた。前歯とその裏側で餌を挟み掬い上げるようにすると、首は上げないまま唇を閉じて咀嚼し始めた。これも慣れている子のやり方だ。  私も確認のためつまんだことがあるが、この顆粒餌はクッキーほどの硬さと粉っぽさがある。フレーバーはいろいろあるようだが、今回はチキン味とパッケージに書いてあった。ペーストのほうはカレー味を選んだから、合わないということはないはずだ。  お腹も空いているのだろうが、美味しそうに食べている。前足を左右に開いてお尻を突き出しつつ、餌皿に顔を突っ込んでみせて、興奮をしっかり強めながら。ルルのことだから、そんな情けない姿をじっくり見下ろされていることはこれでもかと実感していることだろう。 「美味しい?」 「はっ、んく……わんっ!」 「よかった。おかわりもあるから、遠慮しないでたくさん食べてね」 「くぅん……!」  後頭部を優しく撫でながら問いかけると、もはや誰でもわかりそうなほど嬉しそうな返事が聞こえた。最初は少しだけあった恥による躊躇いがなくなってきた様子を見つつもうひとつの犬皿へ水を注ぐと、ほどなくそちらにも口をつける。少しだけ舌で掬うようにしてみて、難しいとわかっているとばかりに静かに啜りはじめた。  わざとらしく反抗的な子のときは誘われるまま、頭を押さえつけて食べさせるなんてことをすることもあるが……ルルは自分から積極的に恥ごと貪りにきている。見ているだけで充分だろうと判断して、片手で背中をそっと撫で下ろすだけにしておいた。耐え切れないとばかりにお尻を振ってくれたから、これで正解だと思う。  ルルは平盛りにした餌では足りなかったようで少しお代わりをしてから、尻尾をこれでもかと振って感謝を示してきた。これほど満足を伝えてくれるイヌは、これまででも初めてかもしれない。  さまざまなイヌと遊びたくてリピートを選んだことがない私でも、リピートもありかもしれないと思えてしまう。ルルは本当に魅力的なイヌだった。  それからもたくさん遊んで、もう深夜0時を回ってそれなりに経っている。今回の利用は翌日の午前中までとなっているから、明日の朝までは一緒にいることができる。  当然、この部屋で一緒に寝ることは前提だ。もちろん中止や切り上げは可能だったが……ルルのほうもその気はなさそうだった。 「そろそろ寝ましょうか」 「ぁうっ」 「どっちにしようかしら。一緒にベッドで寝る? それともケージに入る?」 「んっ、くぅん……っ」 「あら。甘えんぼさんね、わかったわ」  もちろんこの施設のベッドは汚しても問題ないが、その一方でイヌがベッドで寝ることは前提まではされていない。室内には大型犬サイズの檻が存在して、そこに入って寝ることもできるのだ。  どうしようもないマゾイヌはそちらを望むことも多いのだが、ルルは私と一緒に寝たいようだった。今日の中でも一二を争うほど甘えたな鳴き声を出して擦り寄ってきたから、私のほうも喜んで一緒に寝ることにした。あまり犬らしくはないかもしれないが、そこはあくまでプレイの満足度優先だ。 「しっかりもたれてきてちょうだいね」 「んっ……」 「軽い……さ、ベッドに行きましょうか」  ルルの顎を私の肩へ預けさせて、片腕を背中の支えに。もう片腕をお尻の下に滑り込ませて、そっと持ち上げた。ルルは言われた通りに体重を預けてきてくれたから、軽さも相まって運びやすい。  抱っこの時間はそう長くは続かず、ダブルサイズのベッドに二人……もとい一人と一匹で寝転がった。そこで一度離してやると、ルルは自分の好きな姿勢を取る。頭は私と同じ柔らかい枕に乗せて、下になっている前足は後ろ足方向に。上になっているほうは私の胸の下に被せるようにしてくっついてきた。後ろ足も似たような形だ。 「ふふ。ルル、今日はありがとう。明日も時間まで少しだけ可愛がってあげるからね」 「んぅ! あぅ、くぅ……」 「ええ。ルルも楽しんでくれていたら嬉しいわ」  私も向き合う形になって、全頭マスクに覆われてバイトギャグを噛まされた顔を見つめる。片腕を背中に回して緩く抱きしめ、一緒の時間をじっくり噛み締める。くっついてくるルルの股ぐらで寝間着が濡れることなど気にもしない。  とことんイヌであることを望んで、そのまま一夜ぶんの生活すらイヌらしく振る舞うことを選んでくれる可愛いヒトイヌのルル。この子のような子がいるからこそ、私もこうして楽しめている。それを感謝し、労る気持ちを込めながら、瞼とこの日はゆっくり幕を下ろしたのだった。

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【先読み】亡国王女のフレーム引き回し刑

 この国はもうだめだ、と。本来なら絶対にそんなことを考えてはならないはずのわたくしがそう思うようになったのは、いつからだったでしょうか。  魔族は凶悪な蛮族であり、必ず滅ぼさねばならぬ絶対悪である。わたくしもそう教わって育ちました。それが実は全くの欺瞞であると知ったのは、辺境領の貴族に半ば強引に実態を問うたときのこと。そのときわたくしは、それまでのことを恥じました。  始まりは……鳴り物入りで魔族討伐へと出発した、あまり態度のよろしくなかった勇者の訃報。魔王城から王都へばら撒かれた映像の中には、彼の同行者たちが見るも無惨な姿で捕らえられている様子ばかりが映され、当の勇者は遺骸を捨てたと一言で済まされていました。  それを受けて即座に口さがない噂や風潮を規制した王国中枢は、勇者の姿がなかったことを根拠に「彼は生存し逆襲の機会を窺っている」と主張しましたが……気付いているのでしょうか。もはや誤魔化しようとないとはいえ、王国最強と王自ら謳った勇者が少なくとも、完膚なきまでに敗北していると認めていることに。  わたくしはこれを見て、我が国のほうを疑いました。それまでの優勢との発表も、とても強硬な姿勢も。実態を知りたくて、魔国領にほど近い辺境貴族に話を聞いた結果が……ずっと負け続きでありながら魔国は攻めてはこないという事実と、魔族は中央が思っているよりもずっと紳士的で話が通じるということ。あまりの衝撃にあれこれ聞くに、もはや王都で聞く魔国や魔族についてのお話は、正しいもののほうが珍しいありさまでした。  わたくしは、できることを片っ端からやり始めました。話の通じる貴族を密かに味方につけ、気取られない程度にほんとうの情報を王都の民に伝え、王国中枢そのものが腐敗していることを知ってそれも押しとどめようとしました。  ですが、特に腐敗の阻止はうまくいかず……やむなく、事実を知った民の王都脱出、ひいては魔国亡命を支援するほうへ切り替えました。それに加えて。 「……ご苦労さま。あなたのおかげで、本当に楽になったわ」 「いえ……わたくしには、これが限界でした。ほとんどの民はいまだ刷り込まれたままで、貴族も大半が靡かず。あまりに強硬手段でしたが、あれしかなかった」 「あなたが頑張ってくれなければ、あのまま戦闘になっていたわ。数千の命を救ったこと、ちゃんと誇ってちょうだい」  わたくしは、王国民のほとんどがその存在すら知らなかった、魔帝陛下に内通しました。その存在を聞いたその瞬間、王国に勝ち目は万に一つもないと悟ったのです。  地方視察と称して、かなり無理をして魔王と顔を合わせて。どうにか取り次いでいただいた魔帝陛下に実態と王国の腐りようを直訴して、あまり乗り気でなかった魔帝陛下に、王国の征服を願いました。  ……せめて直轄地を中心に重税と圧政が行われたりしていなければ、わたくしもそこまではする気がなかったのですが。民のためを思えば、もはや心を鬼にするほかありませんでした。動き始めるまでは全く知らされてもいなかったものですが、この国の民衆は反乱寸前だったのですから。  辺境にも話を通し、先に投降する領も増えてきたところで、魔帝軍が進駐してきました。それが王都に到達し、結局ろくに説得を成せなかった王国軍が迎え撃とうとしたところで……わたくしは、生身で魔帝軍の目の前に飛び出して、この身を盾に降伏を強行したのです。腐敗している王侯貴族を除いて、王国民の命と生活を保証する、という条件付きで。  そうして王国は魔帝国へ併合されました。昨日、あくまで度を超えた悪政を理由に一部王侯貴族の公開処刑が行われて、自治領となった旧王国領の君主は王子……数少ない味方だったわたくしの兄へ引き継がれました。 「……それで、本当にやるの? 何もあなたが被らなくてもいいと思うのだけど」 「自分で蒔いた種です。これから主となる魔族への印象をいたずらにこれ以上悪化させるわけにはいきませんし……わたくしが行ったことは、国への大逆です。償わないわけにはいきません」 「……わかった。そんなあなただから、こうして国を受け取ったわけだものね」  そして今日は、王国を滅ぼした直接の主犯であるわたくしを罰する日。刑罰は既に決まっています。市中引き回しの上、人としての権利を剥奪。加えて旧王国領からの追放、です。  目の前に、わたくしを縛める拘束具が運び込まれました。金属でできた、体全体を固定するフレーム。……わたくしはそれを手で撫で、執行人となる元側近たちの手で衣服を脱がされながら、本音を口にしました。 「それに……」 「それに?」 「…………実は、少し興味があったのです。聖女たちの、あの映像を見てから」  ……あれ以降、映像を見た女性を中心に、かえってああした恥辱的な扱いに焦がれてしまう者が現れはじめました。なんでも魔族のあいだでは元より当たり前のもので、マゾ、という言葉で呼ばれるそうな。  そんなマゾに、わたくしも目覚めていたのです。……これは公には、絶対に秘密です。この身を犠牲にしての行動すべてが、茶番と化してしまいますから。わたくし自身への醜聞はいいとしても、民に「王女の我儘に付き合わされた」という徒労感を与えることは、少なくとも魔帝国のもとで実際に生活が改善するまでは許されないのです。  ……側近以外の者の前で裸を晒すのは、物心がついてから初めてです。ドレスも下着も、飾りやその他全ても取り上げられて、ひどく心許ない感覚に襲われました。  ですが、いつか政略結婚のためにと整えられ続けた身体。美にはそれなりの自信がありました。まずは絶対君主であり主となる魔帝陛下へ、両手を挙げて曝け出すことに。 「惚れ惚れするほど、綺麗ね。もらっちゃっていいのかしら」 「……ええ。大罪人の身柄ですから、邪魔でなければではありますが……」 「もらえるなら、逃がしたりしないわ。他の子にあげたりもしない」  罪人であることを示すため、昨晩のうちに綺麗に剃ってある子供のような女陰も。ほぼ触ったこともないおかげか綺麗な色を保つ乳房の先端も。不思議と嬉しくなるような褒められ方をして、それを表に出さずにいるのは大変でした。独占欲のようなものまで不意に向けられて、思わず目を見開いてしまいます。  それから、寝かされたフレームバインダーに自ら寝転がり、この日のために作られたぴったりのサイズのそれに姿勢を合わせました。すると、元側近たちがそれぞれの位置の拘束を施してくれました。ある者は悲しそうに、ある者は尊敬の眼差しを込めて。そして追放後もわたくしの世話役を続けるある者は、隠してはいつつも興奮を瞳に宿して。 「完成ね。痛いところはないかしら」 「問題、ありません……とても、恥ずかしいですが……」 「そう、よかった。……その恥ずかしさを自ら求めてしまう子も多いようだけど」 「…………まだ、わかりません……どきどきは、していますが」  全身を完全に拘束されてしまったわたくしの格好は、ひどいものでした。  胴体は首元と胸の下の二箇所を金属パイプに閉じ込められる形で固定されています。両腕は頭の横で降伏したときと同じ形になるよう挙げられ、二の腕と手首をそれぞれ拘束されているため肘を前に出すことすらできません。  極めつけは下半身。つるつるになってしまった乙女の秘所をこれでもかと曝け出すように、思い切り股を開かされています。それでいて見世物として運びやすいよう、そして形から視線を恥部へ誘導するため、膝は曲げて脚で菱形を作る形となりました。足の裏は合わせるように内側へ向けられており、この姿勢のまま床に降ろされたとしても自力で立つことすらままなりません。  これが、国を売り渡した裏切り者の罰です。王国始まって以来の恥知らずとして恥ずかしいところをこれでもかと晒され、魔族に屈した者として手を挙げた降伏のポーズを取らされて。そしてこのまま吊るされて、今から王都を晒し引き回されることとなります。  全ての王都民にこの恥ずかしい姿を見られてしまう、耐えがたい恥辱という形での尊厳剥奪。そうして始まるわたくしの服役は、二度と人間に戻らぬまま魔帝陛下の所有者として生涯続くのです。 「……それなら、行きましょうか。吊るすための舞台は用意してあるから、それがあるところまで運んでちょうだい」 「っ……は、はい……どうぞ、よろしくおねがい……します」  頭に、王族であることを示すティアラが着け直されました。もはや滑稽なだけのそれは罪人の身分を示すものであり、また落差を演出し辱めるものにもなります。  元側近たちに、魔帝陛下の従者の魔族も混ざって、フレームごと持ち上げられました。自分の関わらないところから感じる浮遊感は、今の自分がどうしようもなく無力であることを実感させてきて……不思議と熱を帯びてしまいそうな感覚を我慢しながら、舞台へ運ばれていくこととなりました。  制圧済で、わたくしの集めた貴族たちからなる暫定政府が詰めている王宮を運ばれていきます。ここにいるのはその全員が、わたくしの意図と行われることを知っている者たちですが……それでも、このあんまりな姿は人目を集めてしまっていました。  労るような視線ばかりなのが、かえって辛い。こんな惨めな姿で、これまでは絶対に晒したりしなかった王女の玉体を見世物にされて……ぞくりと、贖罪なら抱いてはいけない感覚に襲われているのが、申し訳なくて仕方ないのです。  かえってすれ違う魔族の目の方が楽でした。そちらは貴族のように自らの不出来を悔やむような反応しがたい色がない上に、聞いていた話の通りに紳士的で。しかもそれでいて卑猥なものとしては見てくださるものですから、心置きなく恥ずかしくなれるのです。  それらにはあくまですれ違って見えるだけで、まっすぐ通過することになります。王宮の正面玄関を出て、贅を凝らした広い前庭に。 「う、ぁ……」 「……どうかしら。恥ずかしいとは思うけれど……嫌? それとも、気持ちいい?」 「…………嫌でなければ、ならないのです。これは、わたくしが受けるべき処刑なのですから……」  暖かな日差しが、本来は浴びるはずのない胴体にも遠慮なく降り注ぎます。細く保っているお腹にまで陽の温もりを感じると、ありえないことをさせられているという自覚が強まって……それまで以上に、猛烈に恥ずかしい。  しかも、そよ風まで肌を撫でてきました。それがつんと立った胸の先端を舐め回す感触など、知らないでいるべきだというのに。  ……こんな返答をしているということは、当然。わたくしは、この恥辱を───気持ちよく、感じてしまっていました。マゾという概念を聞き及んで、興味を抱いてしまったときに薄々と感じていた懸念は今、わたくしのものとして実体化しています。  わたくしは王女でありながら、マゾだったのです。こんな屈辱的な姿で拘束されて外気に曝されることで、興奮できてしまうほどの。 「そうかしら。別に、それを楽しんでしまってもいいんじゃない?」 「い、いえ……そんな、それでは勝手に暮らしを変えられた民に示しが……!」 「償わなくていいと言っているわけじゃないのよ? けれど……こんな仕打ちを受けて、興奮している王女を見て、民はどう思うかしら」  しかしわたくしは、魔帝陛下のこのお言葉にはっとしました。わたくし自身は、己の罪を王女として償うことしか考えていなかったのです。  わたくしが無様な姿で晒されて、興奮しているともし知られたとして。民はきっと、こう思うに違いありません。あんな目に遭って喜ぶような王女、いや雌豚から解放されてよかった、と。  あくまでこの刑の目的は、王国を売り払いながらのうのうと生きている裏切り者を貶めること。それなら、王女だったその大逆犯は実は蔑むべきマゾ豚だったと、侮蔑という形で浴びることでも達成できるのです。  ……わたくしは、心と下腹の深いところにこびりついていた、ぞくぞくとした感覚を受け入れました。数人がかりで運ばれていたフレームが小さく揺れて、股から一筋の汁が垂れました。  これは、魔族の価値観ではむしろ可愛らしさとして歓迎されるものだそうです。ですがわたくしはこれを、王都民たちに拒まれるために見せつけに行くのです。  そのまま前庭の脇へ。わたくしの記憶では、確かここは……。 「……さあ、着いたわ。これがあなたの舞台よ」 「…………こんなものも、あるのですね」 「我が国では、ポニーガールは憧れの人気職業なのよ?」  そう、厩舎でした。今もその通りの扱いがなされているようですが、しかしその横に初めて見るものがあったのです。  普通のものと変わらない馬車に繋がれているのは、馬ではなく人。胴体をハーネスに引き絞られて後ろ手に拘束され、蹄鉄の形をしたブーツと馬銜の形をした轡を装着して、いかにも馬の代わりという様子をしています。  ところが、これ……ポニーガールは魔国ではむしろ引っ張りだこの人気職なのだとか。やはりなり手はマゾであるとのことで、そうした性質を当たり前に活用している魔国の文化の違いを目の当たりにすることとなりました。 「あなたの特等席は、ここ」 「っ……!」  そのままわたくしは、馬車の一番後ろ。乗合馬車なら出入口にあたる後壁の部分に、後ろを向く形で取り付けられることとなりました。  いざ固定されると、あくまで捕虜という感もあった手運びとは比較にならないほど、屈辱的。馬車の一部にまで貶められたような、とにかく晒すために用意された情けなさに浸されてしまいます。  しかもこれ、どうやら本当に扉を兼ねているようで。魔帝陛下とそのお付き、そして最低限のわたくしの世話役……先ほど興奮していた者の計三人が馬車へ乗り込むにあたって、わたくしはフレームごと横開きのドアとして動かされてしまいました。  その動きと浮遊感のみっともなさは相当なもので、しかも乗り込んだ三人はわたくしの背後だから、見ることも叶わない。恐ろしいほどの屈辱感と、息を呑むしかないほどの興奮が、わたくしを襲いました。 「このまま旧王都を一周するからね。亡国に幕を引いた王女の処刑、じっくり堪能なさい」 「は、い……この度は、申し訳ございません、でした……っ」  それから、お付きの魔族が御者として、手綱を振るう音が聞こえて。ゆっくりと馬車が動き始めました。馬として働くため鍛えられた魔族のポニーガール二頭は、馬車と四人を軽々と牽いて王宮の正門から外へ。  そうしてわたくしは、これまで王都だった都市の中を引き回されはじめました。  かぽ、かぽ……から、から。背後からはひたすら、ポニーガールたちの足音がします。異文化でありそれを受け入れる土壌のまだない旧王都ですが、それでもあの二頭は誇りと恥辱をもって歩いているのでしょう。自由を制限され歩くことしかできない存在が二頭だけで、四人分の重量を載せている馬車を問題なく動かしているのは、魔族の高い膂力に加えてコツもあるのだとか。  人族からすれば今のわたくしと同等となるほどの辱めですが、魔族からすれば簡単にはなれない花形職業。わたくしが馬として使役されるような未来は、来ないであろうことはわかります。それが歓迎すべきことかというと、わからないのですけれど。 「あれが王女様……」 「あんな目に遭って、大変だな……」 「悪いのは親や周りだったって話なのにね」  街中に出ました。街ゆく民衆はまずポニーガールに目を奪われ、おおよそ「話には聞いていたが実際に見ると……」といった様子の反応をしています。やはり異文化をすぐには受け入れられない様子や敗戦から目を逸らすさまが多数派ですが、思っていたよりは適応しつつある者もいるようです。  性的な目で見ているらしき声も少なからず聞こえてきますが……それに興奮しているのか否か、魔帝陛下が旧王都まで連れてきた御用ポニーは足並みを乱すこともありません。 「しかし……なんというか……こう」 「エロいな……」 「こ、こら!」  それを見ていた民衆が次に目にするのが、わたくし。馬車の後方に磔にされた王女の姿に向けられる反応はさまざまでした。  中央が教育してきた人間至上主義や、長らく続いてきた戦いに敗れたことを突きつけられて泣き崩れる者。度を超えていた圧政の打倒として歓迎する者、わたくしも被害者として受け止めて晒し刑を悲しむ者、そして思わずかいやらしい視線をわたくしにも向けてくる者……。  もちろんわたくしには向けられる劣情を嫌がる権利もありませんが、わたくしに対しては同情的な目を向ける者が妙に多かったことに驚きました。 「処刑前、ほとんどの罪人があなたを口汚く罵っていたのよ。民にとっては、あなたは悪政から民を解放した存在でもあるの」 「………そんな」 「お兄さんもあなたに繰り返し謝罪していたのよ。……そんなあなたをこうして晒すことには、融和政策として意味もあるのだけれど」 「わたくしは、そんな理由などなくここに晒されるだけのことをした、咎人だというのに……」  そうして周囲の反応を窺うことこそできていましたが、それはそれとしてわたくしの頭の中はぐちゃぐちゃでした。恥ずかしくて、仕方ない。  胸の膨らみに、剃られた股に、裸で開かされた全身に多くの視線が突き刺さるのが肌でわかります。思わずといった様子で目を離せずにいる青年も、見ていられないとばかりの老夫婦も、遠慮なくじろじろと見てくる中年の男も、顔を赤くしてちらちらと何度も見ては目を逸らす少女も。  わたくしはただ、佇んでいることしかできません。何も隠していない全裸を晒し、降伏を示す姿勢で固定され、恥を見せつけるために股を開いたまま。  ですが……。 「…………ぁ」 「あら。やっぱり、本当に素質があるのね。嬉しいわ」 「……っ」  もうひとつ、できることがありました。……股を、濡らすことです。  白状します。わたくしは、この状況で、羞恥で性的に興奮しています。あまりに屈辱的で恥ずかしいさまをこれでもかと見られて、ぞくぞくと妖しい感覚に襲われ続けているのです。それがマゾなのだというのなら、もはや言い逃れの余地はありません。  なのに。ついには何も触れていないのに湿っていた縦の筋から滴を垂らしてしまたのに、周囲の視線は変わりません。救いようのない変態だと喧伝しているに等しいのに、なぜか民はわたくしを蔑みません。 「どうして……」 「ここにね、こう書いてあるの。『媚薬投与中』って」  それはどうやら、わたくしの頭上に看板が用意されているからである様子。媚薬を盛られて資質にかかわらず発情させられているから、股から垂れる蜜も科されている辱めであると見えるようです。  もちろん、嘘。わたくしは媚薬など一切盛られておりません。こんな仕打ちを受けて、自分で発情し地面に水滴を垂らしているのです。 「どうしてそこまで」 「そのほうが都合がいいのもあるのだけど……一番は、私のペットなのだから、皆に愛されるままで私のものにしたいからね」 「…………お見逸れ、しました」  これは、わたくしの負けです。ここまで徹底的に尊厳を破壊しておいて、それでいつつ私情でわたくしの尊厳を保ったまま受け取りたいと。魔帝陛下はどうやら、思っていた以上の支配者気質であったよう。  わたくしはもう、彼女の思うままになることしかできませんでした。マゾ発情による粗相を庇われ、いくら乳首を勃てても自分のせいだと思われず、魔帝陛下による支配のものだとされながら、自分自身だけは突きつけられる。  もう、よくよく理解していました。わたくしはもはや、彼女の物になること以上の道を持たないと。 「恥ずかしい……」 「それは、晒し引き回しだけのものかしら?」 「いいえ。これから飼われることを、嬉しく思ってしまっている自分が……とても恥ずかしい」 「よく自覚できたみたいね。……ご褒美をあげようかしら」 「ひゃん!? ……魔帝、陛下……っ、そちらは、ちが……っ」  それを認めて、本当の服従宣言を行ったわたくしに、魔帝陛下は触れてきました。……尻の、孔。下手をすれば女陰よりも恥ずかしく、また屈辱的なそこを、遠慮なく弄り解してきます。  もちろん、制止などで止まるはずもなく。ひどく楽しげな声を聞き、その顔を見ることも叶わず、わたくしはペットとはどういうものなのか思い知らされることに。 「違うでしょう? 気持ちいいです、ご主人様、よ」 「ん、ぁっ……は、ぅ、…………きもち、いいです……ご主人、さま……」 「いい子ね」 「はぅ!? ……っ、ん、ぁ、ぁぁっ……!」  わたくしの身柄を受け取ることも当初は躊躇していたとは思えません。魔帝陛下……ご主人様は、わたくしに自らさらなる恥を晒すよう、それまでより大きな声で促してきました。  当然、意図がわからないわたくしでもありません。民に聞こえるよう放たれた躾の言葉には、応じる服従の言葉も民に聞かせなければなりません。……やはりご主人様によって無理やり辱められ、言わされているように見えるのでしょうけれど、そんなはずもなく。わたくしは本当に気持ちよくて、本心からご主人様に飼われ従いたいと思いはじめていました。  とはいえ、披露されたのはこの通り、恥ずかしい服従を強いられつつ、完全拘束晒し姿で尻を穿られて喘ぐ元王女の姿。媚薬と言い訳されたそれが、今後の魔帝国自治領のありかたを暗示していると見られることでしょう。  その中心に、片手間に尻へ指を挿入されてたらたらと愛液を垂らし続ける変態マゾペットがいたとしても、それは変わりないのです。 「気に入った?」 「…………はい」 「それなら、この格好のまま魔都まで帰るのもいいかもしれないわね。安心して、ちゃんとお世話はしてあげるから」 「……お、仰せの、ままに……」 「ええ。……戻ったらどうしようかしら。ティエラちゃんにいくつかやり方を聞いているのだけど……やっぱり最初はヒトイヌかしらね?」  そんなことを囁かれて、興奮のあまり膣を締めて愛液を噴き出すのも、これでもかと見られていて。だけどそれは、あくまで人々を守るために身代わりとなった王女の献身と受け止められて。  わたくしにとってはもはや、そのズレからなる罪悪感のほうが、よほど罰になっているのでした。

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もうとっくに痺れてるから……

  はじめに  本作は23年9月に投稿した魔法少女悪堕ちものの続きです。が、これを続き物にしてしまうこと自体がさらなる続編を前提にしてしまうので、次を書くのがいつになるか、そもそも書くのかが未定なうちは表に出せません。  とはいえ単体ではできているものを完全にお蔵に置いておくのも、ということで、ここに置いておきます。EXプラン限定ではありますが、これについてはいずれpixiv投稿がありうることをご了承ください。 ────────────────── 「小町ちゃん」  放課後になってすぐ、クラスメイトの桃瀬ひなたちゃんが声をかけてきました。ただ手招きをしてくるので、それに応じて席を立ちます。そのまま連れ立って教室を出て……いつもの空き教室へ。  わたしとひなたちゃんは同じ部活に入っています。部名は……まあいいか。なんでもいいんです、名前通りの活動なんて誰もしていないから。 「お、一年の二人だ」 「おつかれー。ま、小町はそんなに疲れてないかもだけどぉ?」 「柚、言い方。小町さんは特別任務を受けているんです、こちらには来られなくて当然でしょう」 「でもぉ、成果は出てないんでしょー? それどころか、最近は変身する機会すらないらしーじゃん」 「まあそうだな。その任務に行ってから、活躍らしい活躍は廃工場で囲まれてから脱出したくらいか? アタシならそんなの、そのまま返り討ちにして殲滅してやるけどな」  というのも、ここは魔法少女をしている子のカモフラージュのための同好会なんです。帰宅部ばかりで一緒にいると不自然に見えるからと、卒業した先輩……セレナさんが残していった全員幽霊部員の同好会。学校で唯一、魔法少女についての話ができるところです。  つまり、ひなたちゃんも魔法少女。そしてこの場にはさらに三人、学校にはあと二人います。二年生の二人は今日は来ていないみたいです。 「……セレナさんのことは、必ず見つけますから」 「小町ちゃん……」 「実際、セレナさんがいるといないとでは戦力も士気も、特に上の世代は違うわ。よろしくね」 「はい」  三年生三人組のうちひとりが、この朝霧雫先輩。生徒会長をやっているしっかり者で、彼女より下の世代はセレナさんよりも雫先輩を心のよりどころにしている人もたくさんいます。ひなたちゃんもその一人。セレナさん捜索は極秘任務ですが、このふたりには言ってあります。  一方で残り二人……後輩のわたしたちにも妙に小生意気に感じる態度をとる鴻巣柚先輩と、勝ち気で自分の基準をかなり強く持っている天童瑠香先輩のことはわたしは少し苦手です。嫌いではないんですけど、ちょっと話しづらいというか。 「雫先輩のほうは、大丈夫なんですか?」 「ええ。ちょっと小競り合いが続いているけど、ひなたちゃんもよく頑張ってくれているもの。次の“処置”の前には決着をつけられそうよ」 「……っ」  今この街を脅かしているディソナンツの怪人たちとは、雫先輩が中心になって戦っています。ひなたちゃんと、それから柚先輩がいっしょに行動していて、もうすぐアジト……あの廃工場よりも根本的なところへ突入できそうなのだそうです。  ただ、それよりも……“処置”という言葉に反応してしまいました。年に一度ほど後援会のもとでやるという、悪い力を抜くというあれです。実はわたしは、ゲネラルバスのアジトでその真実を聞いていました。 「ああ、“処置”のことが気になっているの? 二人とも、もうすぐ初めての“処置”だものね。……大丈夫、嫌なものではないわ」 「そう、ですか。それならよかった」 「そうなんだ……安心しました。ちょっと不安だったんです」  ……嘘です。たぶん。だって、セレナさんは「見知らぬ部屋に一人で閉じ込められて、そこにあるオモチャでオナニーさせられる」って。……いえ、離反しているセレナさんが誇張しただけで、本当はもう少しましなのかもしれませんけど。それでも、魔法少女くらいの女の子にとっては楽ではないはず。  それか───“それを隠しカメラで撮られていて、魔法少女姿でのオナニー映像を後援会に見られている”ということを、雫先輩も知らないだけ、なのかも。  でも、それで思い出しました。今のわたしは特別任務中だから後援会へ顔を出さなくていいですが、さすがに“処置”からは逃げられないでしょう。だけどわたしはそもそも、もう「メロディカ♪マーチ」には変身できません。  つまり……こうしてまだ後援会の知る魔法少女の振りをしていられるのは、その処置に呼ばれるまで。長くてあと一ヶ月だということです。ゲネラルバスのダークフォームとして戦う覚悟はできていますが……それまでに、他の魔法少女を救うためにできることはやっておかないと。  何より。ひなたちゃんのことは、できればそれまでにゲネラルバスに引き込みたいところです。こちらも恥ずかしいところをボスや幹部の人には見られますけど、あれは気にもされていないだけ。それはそれですこしもやっとはしますけれど……終わりかけの魔法少女をエナジー供給装置にするついでに犯すという後援会よりは、よっぽどマシなはずですから。  同好会での話はさほど長く続きません。それぞれ魔法少女としての活動があるので、すぐに解散になります。それからわたしは、セレナさん捜索活動……ではなく、ゲネラルバスのアジトへ向かいます。  「メロディカ♪マーチ」だったころは、適当な人目のない路地裏あたりで変身していたものですが、今はそうもいきません。ダークフォームは見られるだけで騒ぎになりますし、そもそもまだ存在そのものが明らかになっていません。少なくとも組織の態勢を整えて動き出すまでは、気取られないようにしないと。 「こんにちは」 「ああ、マーチちゃん。セレナーデなら第一研究室だよ」 「ありがとうございます。みなさんも頑張ってください」 「おう! ……いやー、真っ先にこんないい子が来てくれて、仕事が捗るってもんよ!」 「一応悪の秘密組織なんだけどなぁここ」 「ふふ。わたしもこう見えて悪い子ですから」 「いやまあ、悪い子には見えるんだがな」  そうでした。ちゃんとゲネラルバスのアジトに入ってすぐ、わたしの新たな姿に変身しているんでした。もともとのちょっと恥ずかしくてえっちな白のレオタードは、今はちょっとスタイリッシュで大人っぽい……悪堕ちっぽい紫色主体に変わっています。我ながら、見た目は悪い子そのものです。いえ、中身も悪い子なんですけど。  「ハーメルン・マーチ」。まだまだ研究途上であるダークフォームの、ふたつめの実例です。ほんとうはダークフォームを意図的に発生させる技術はまだないらしいのですが、セレナーデもわたしもどす黒い感情で自分から塗り替えたことでダークフォームになれているんです。  まだ魔法少女を攫……救っていくにはダークフォーム技術が不安定すぎるということで、いまはマスコット二匹とダークフォーム魔法少女二人を使って研究中なんです。ボスは自発的に加入してくれたご褒美とのことで、無理のない範囲で救いたい魔法少女の希望を聞いてくれると言っていました。  モデは入口でわたしを変身させてくれたあと、ヴィヴといっしょにいろいろ研究したり魔法界へのスパイ活動をするために別の区画に行きました。いっしょにいる時間は減りましたが、わたしのモデは同じ目的を持った相棒のままです。  教えてくれた開発部───ダークフォームが使うための新たな武器や道具、サポートしてくれる怪人や人形を作っています。集めるだけ集めて変身させて、あとはエネルギー回復と“処置”以外ほったらかしの後援会とはずいぶんな差です───をあとにして、第一研究室へ。  そこでは……セレナーデが磔にされて、なにやらコードを繋がれていました。ダークフォームは痛みと快楽がかかわっている可能性が高い、とまじめな研究結果が出たのが最近の成果なんです。  わたしはセレナーデに近づいて声をかけましたが……いつになくぐったりしています。すぐに気を取り直したあたりはさすがですが。  ちなみに、調教中に戻ってしまった呼び方は、ダークフォームになったときにセレナーデに統一しています。お互い、もうふつうの魔法少女に戻る気はないですから。 「セレナーデ。代わりましょうか?」 「……こんにちは、マーチ。代わるというか、マーチにも同じことをやってほしいんだ。何か見つかったらしいから、同じ波長が出るか確認したいの」 「わかりました。……その、セレナーデ」 「わかってるよ。私がやってあげる」  言っては悪いのですが、ゲネラルバスはだいぶ貞操観念のゆるい組織です。人目をはばからずセックスしたりしているというわけではないのですが、必要があるならえっちなことも平気でやります。それこそ、研究員がどれだけ見ていても。  わたしとセレナーデはその研究や実験をたくさんやっています。だからえっちなことを見られる恥ずかしさにも、かなりSMチックなことばかりさせられるのにもちょっとずつ慣れてきたところなのですが……実はわかってきたことがあって。  セレナーデはこういうのは普通の感覚です。自分の被虐にはあんまり興味がなくて、人をいじめたいとも特に思わないタイプ。そしてわたしは、どちらかというとサディストみたいでした。まだやる機会はないのですが、わたし自身が苦しむ映像を他人事として見るよう意識したら、ぞくりときたんです。  だけど……セレナーデはわたしに対してだけドSで、わたしはセレナーデに対してだけドMでした。ほかの女研究員がやるのに比べて、わたしの反応が明らかによくて……しかも、セレナーデのほうもすごく楽しそうになるんです。  それが嬉しくて、わたしはこうして実験台になるとき、二人いっしょにやられるとき以外は必ずセレナーデにいじめてもらっています。こんな恥ずかしいことをさせられているんです、そのくらいはわがまま言ってもいいはずですから。 「じゃあ……お願いします」 「うん。じっとしててね」  セレナーデの拘束を外すのを手伝って……十字架から背中が離れたら、同じところにわたしが収まります。両腕を真横に伸ばして、わたしの低い身長では届かないから持ち上げてもらって……手足のあちこちをベルトでがっちり固定してもらって、宙吊り状態。しかも脚は斜めに開かされてしまいました。セレナーデはまっすぐにしていたのに。  大の字に磔にされて、まったく身動きが取れません。……ただ、実はこんな感じになったのははじめてじゃなくて。「メロディカ」だったころ、ディソナンツの怪人にこういう捕まえ方をされたことがあります。あれは仲間と頑張れば脱出できましたが……もともとわたしたちを想定した実験用の拘束具、しかもセレナーデでもびくともしなかった金属です。あのときとはわけが違います。 「なんで、あし、ひらかせるんですか……っ」 「私の趣味かな。かわいいよ、マーチ」 「うぅ……っ、セレナーデの、へんたいっ……!」  試しに全力で暴れてみましたが、軋みすらしません。むしろそうして暴れるたびに、背中の金属磔がちょっと温かいことに気づいて、セレナーデの温もりを感じてしまって。  それをごまかすように恥ずかしい開脚拘束に口答えしましたが、セレナーデの趣味なら断れません。わたしはセレナーデの言うことならなんでも聞きたくなってしまうくらい弱い上に、ほかの子に無関心なセレナーデがわたしにばかりこんな変態性を向けてくれるのが嬉しくて仕方ないんです。 「そんなこと言っていいのかな? ほら、マーチの好きな食い込みだよ」 「うっ……へ、へんたいっ」 「お互い様だね。ほら、染みてきちゃってる」 「うぅぅっ……!」  わたしが生意気だからか、セレナーデはわたしのレオタードの下腹部のあたりを掴んで、ぐいっと持ち上げてきます。そうしたらすべすべのレオタードは簡単に股下を守る役目を捨てて、わたしのつるつるで恥ずかしい割れ目に食い込んできました。  さらには後ろ側も同じようにされて、お尻の肉が丸出しになりながら谷間にこれでもかと食い込まされます。当たり前ですが、足を開いてがちがちに拘束されているわたしにそれを直すことはできなくて……じんわり、レオタードを濡らしていってしまいます。  そう、わたしはこれが大好きです。セレナーデがレオタードはえっちで恥ずかしいものだって教えてくれて、それでじっくりいじめてくれたあの日から。セレナーデに可愛がってもらうのと、このえっちなレオタードが、どっちも好きになっちゃったんです。こんなことされるだけで、ちゃんとした言葉すら返せなくなってしまうくらいに。 「まあ、このくらいにしてあげるね」 「はぁっ、ぁ……く、食い込み、なおして……」 「やだ。……ほら、貼ってくよ」  実験前でみなさん見ているからか、軽くで許してもらえました。だけど、割れ目の両側までほぼ全部見えるようになってしまったレオタードは直してくれません。もしかしたら、ついでに羞恥が与える影響も実験するのかも。  震えながらうつむいてしまうわたしの体に、それがけっこう好きだとわかっているセレナーデと研究員たちが何かを貼ってきます。実物を見たことがないので確信できませんが、これは電極パッド……? 「じゃあ、始めちゃって」 「───あぐっ!?!?」 「今日は電気責めだよ。……こういうの、妙に強い人がいるから難しいんだけど……大丈夫? 痛い?」 「あっ、あっ……いたい、ですっ……つづけて、ください……」  瞬間、わたしの全身に瞬間的な痛みが駆け巡りました。体の筋肉が勝手に震えて、我ながら情けない悲鳴が出てしまいます。  電気責め……なるほど。わたしたちダークフォームは、ただでさえやたら強い魔法少女の体よりさらに強いみたいなので、実験のために痛みを与えるというのもけっこう大変です。これまではお互いにパンチしたり、首を絞めたりとちょっと魔法少女っぽくないことをして、ダークフォームの耐久力にはダークフォームの攻撃力、でどうにかしていましたが……。  どうやら体の内側を通る電気責めなら、ちゃんと痛くなるみたい。仮に足りなくても電圧を上げればいいので、たしかに都合がよさそうです。……それはつまり、わたしたちはこれからたくさん電気を流されるということなんですけど……。 「わたしは、ともかく……セレナーデが、興味ないことしないでいいように、やっぱりほかの子も、増やしたい……ですね」 「これ自体がそのための研究だから避けては通れないし、そのためなら私もいくらでも体を張るけどね」 「ちょっと、おちついてきた……あがっ!?!?」  ……痛い。魔法少女はきらきらしたイメージとは裏腹に、かなり痛いことをされるものですけれど……この電気責めは、そんな一年近くの経験の中でも、トップクラスに痛いです。  しかもぜんぜん動けないから、衝撃も逃がせないし……ボタンひとつで、いくらでも簡単に流せてしまいます。 「は、ぅっ……んぎっ!? ま、まっ……まだ、びりびり……あ゛っ!?!?」 「だめだよ、マーチ。これは実験だけど、戦いより痛くて苦しいくらいじゃないと実験にならない」 「わかって、ますけど……───っ!?!?」  わたしは今、ボタンひとつで面白いように跳ねて音が鳴るおもちゃです。時間をかければ体を走ったびりびりは消えてくれて、また次を受ける準備ができるのですが……流すほうは、そんなこと気にせずいくらでも流せてしまいます。  これは確かに、セレナーデがあんなにぐったりしていたのもわかります。なんでこのひと、こんなにあっさり元に戻っているんでしょうか。 「も、むりっ、やめて……」 「だめだってば」 「あぁぁっ!? やだ、も、びりびり、やだぁっ!?」 「……ふふ、かわいいよマーチ。もっと見せて」 「ふぎっ、ぃぃぃ!?」  わたしはそろそろ意識的には限界だったのですが、電流は止まってくれません。体に力が入らなくなって、涙でぐちゃぐちゃになりながらお願いしても続けられて、本気の悲鳴をあげてもセレナーデが浮かべるのは愉しそうな笑顔ばっかり。  ……これは事前に決めてあることです。ダークフォームの力は理不尽へのどす黒い怒りじゃないかと考えられているので、それを再現するために本当に限界を超えるまで責め立てられるんです。わたしたちはそれをわかった上で、どれだけ嫌がっても続けていいと伝えた上で、こうしてひどいことをされています。そういう覚悟をしています。  ……ことわたしの場合は、それのどこかに不純な興奮が混ざってしまっている、気もしますけれど。 「やだやだやだ、ぁぁぁっ!?!?」 「ほら、辛いでしょ? こんなことしてくる私たちが憎いでしょ? それを引っ張り出して」 「ぁっ、がッ……!? …………あ、あ……」 「あーあ。おもらししちゃった。魔法少女なのに、恥ずかしくないの?」 「ひぐっ、ぐす……うぐ、…………っ」  わたしたちがやるべきなのは、魔法少女と違ってマイナスな感情もたくさん感じて、出して、理不尽に対してちゃんと怒ること。実験だからといたいけな女の子二人を、恥ずかしいかっこうでたくさん電気拷問するような理不尽を、叩き潰せるような力を絞り出すこと。  いくら泣き叫んで、女の子の尊厳をだめにされても止めてくれない拷問にもがいて……ひときわ強い電流を通されると、全身の筋肉が言うことを聞かなくなりました。レオタードがじわじわと濡れる感触が広がって、脚に伝っていって……わたしは自分が失禁していることに、セレナーデの言葉で気づきました。  あまりの屈辱に本気ですすり泣いてしまって……でも助けてくれたセレナーデとゲネラルバスのことは、ここまでされても憎めなくて。やり場のない怒りが、こんなことをして力を見出さないと倒せない、だけど倒さないと平穏を取り戻せない、魔法少女後援会とディソナンツに向きました。  その瞬間、わかりました。掴んだといってもいいかもしれません。自分の中に溢れ出すどす黒い感情が、わたし自身にもどこから出ているかわかる形でモノになっていきます。 「来た!」 「成功だ!」 「……いや、これはもしかして」 「…………あは」  気持ちいい、と思いました。それまでとは……「メロディカ」の頃どころか、ついさっきまでよりも明らかに大きな全能感。それに身を任せたら、最大の目的のためならなんだってできそうな感覚。  わかりました。わたしはようやく、悪い子になれたみたいです。 「実はね、マーチ。どうやらマーチはこれまで、ダークフォームとしては未完成だったみたいなんだ。私のデータと比べても、明らかに欠けているものがいくつもあって……出力も足りていなかった」 「はい」 「だけど、何か掴んだみたいだね。……おめでとう、マーチ。これで立派な悪の魔法少女だね」 「はい。今なら、この力もうまく使えそうな気がします」  やっぱりわたしは、ここ数日は未完成なままだったみたいです。感覚も前とそんなに変わらななったくらい。だけど、今なら。これまでいっしょに戦ってきた魔法少女くらいなら、簡単に倒して捕まえられそうです。  問題は……。 「あの……わたし、もとのマーチのふり、できるでしょうか」 「無理かもね。その力、味わっちゃったでしょ? 私もそうなってからは、あんな綺麗な魔法少女の振りなんてしていられる気がしないよ」 「……同好会、行かないようにしたほうがいいですね。ロンドは……どうしよう」 「なるべく早めにダークフォーム技術を形にするか……できそうなら、先に抱き込んじゃうか。無理だったら、しばらく距離を置いておくしかないかな」 「……それか、すこし早めに行方不明になるか、ですね」 「できるだけぎりぎりまで発覚を遅らせたいから、最後の手段だけどね」  たぶん、わたしはもう、これまでのようなマーチの振る舞いは……もしかしたらこれまで学校でしていた小町のそれも、できない気がします。まだ準備ができていないのでやりませんけれど、ほんとうは今すぐにでもディソナンツのアジトをぐちゃぐちゃにしたいです。魔法少女後援会からエナジー装置にされた魔法少女たちを奪還したいです。  そんな凶暴な、悪い子になってしまったわたしを、動くそのときまで気取られないようにしないといけません。ひなた……「リズミカ♪ロンド」には悪いですけれど。 「……だから、これが覚醒の分で、こっちが……」 「だとしたら、このへんはどこからどこまでが……」 「あ、マーチさんは今回はもう大丈夫です。お疲れでしょうし、これ以上やるとデータが濁りそうですし」 「はい。……ね、セレナーデ。シャワーいきましょ」 「そうだね、おもらししちゃったもんね」 「…………だっこ」 「照れ隠し? いいよ、あまえんぼマーチ」  もう磔から外してもらっても足が立たないくらいびりびりにされていますし、ゲネラルバスは負担を考えてくれる組織です。これ以上は体がもたないのと、覚醒した力が渦巻いているいまのわたしではデータが正しく取れないので、今日の実験はここまでになりました。  いろんな体液でひどいことになってしまったので、同じくよく見るとくたくたのセレナーデといっしょにアジトにあるシャワールームに行くことにしました。おたがい大好きで、恥ずかしいところもいくらでも見せ合った仲ですから、もういっしょにシャワーくらいなんてことありません。  ……いじわるなことを言ってきた罰と、ちょっといまはほんとうに足ががくがくするので、セレナーデはだっこの刑です。セレナーデも疲れているでしょうけど、わたしにはわかっています。ぜったい、わたしのほうがたくさん責められました。いくらセレナーデでも、ここまでされて外された直後からぴんぴんしているわけありませんから。  魔法少女の衣装はいくら汚れてもすぐ元に戻る不思議な力がありますし、それはダークフォームも同じです。変身を解除する気もありませんけど、汚れたのは確かなのでシャワーを浴びたいのはほんとうです。  シャワールームでたくさんイチャイチャして、甘えて……それから、力を制御する練習をしないと。魔法少女にも怪人にも、たくさん使うことになるはずですから。

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【先読み】とろけてべったり甘えんぼかんがるーさん

「───お疲れ様。お水、いる?」 「いる……」  もう深夜そのものとという時間になって、私は裸のままダブルベッドに身を投げ出していた。  ここはパートナーである瞳さんの家だ。隣にいる瞳さんがベッドサイドに用意していた水差しからコップを差し出してくれたから、起き上がってそれにそのまま口をつける。 「侑依ちゃんはあまえんぼさんだね?」 「うん……あまえんぼだから、こんなこともしちゃう」 「あら……仕方ない子」  自分で手を使わずに飲ませてもらう形にしたら、瞳さんは困ったように笑ってくれる。私はそれが全然困っていないことをよく知っているから、コップがサイドボードに戻されたところを見計らって瞳さんへ抱きついた。  お互いに裸だし、このあと一緒にシャワーを浴びるから汗や汚れは気にしなくていい。涼しげな瞳さんと違って私は全身にうっすら汗をかいているし、お股のあたりはだいぶ情けないことになっているけど、瞳さんはむしろ抱き返して腰をぐっと引き寄せてきた。それが嬉しくて、私は脚を開いたままいわゆる「だいしゅきホールド」の形でくっついてしまう。 「……ねえ、瞳さん」 「なあに?」 「私のコレ、めんどくさくない……?」  私の体には、大量の縄の痕がついている。夏場こそ隠すのが大変だけど、これはもはや私にとって日常だ。というのも瞳さんは、それを職業にしつつも趣味でもこうして緊縛をするほどの縄師だから。私は週に一度か二度、瞳さんの家に上がって縛られている。  とても上手でぜんぜん痛くならないし、三十分ごとに解いて休憩しては違う縛り方をしてくれるから飽きないし、とても楽しそうに縛るから私にとってもすごく楽しい。私はBDSM的な意味では自覚的にはマゾというわけではないこともあって、それに合わせて縛ったあとは優しく可愛がってくれるし。  一方で私はというと、筋金入りの甘えんぼだ。そんなあまり名誉的でないことを自称するくらいには。昔から家族や友達に隙あらばくっつき抱きついて、からかわれはしつつもそれなりに愛されキャラでやってきた。  だけど大人になってきて、さすがにおおっぴらにそんなこともできなくなってきて。それでもどうしても物寂しさが拭えなかった私が偶然目にしたのが、緊縛SMだった。一見するとほとんど共通項もないように思えるそれに不思議と気を引かれて、試しにと体験会に足を運んでみて……そこで出会ったのが、瞳さんだった。 「そんなこと思ってるように見える?」 「見えないけど……瞳さんは縛るのが好きなだけなのに、重くないかなって」 「……侑依ちゃんはそうやって、嫌がられるかもって踏みとどまれるからこれまでも愛されっ子でいられてきたのね。だとしたら……それで離れようとするなら、こっちからしっかり捕まえておかないと逃げちゃうのかな」  縛られてみて、自分がそれに惹かれた理由がわかった。あくまで私が抱いただけの感覚だけど、ほどよく縄で縛られる感覚は、不思議と抱きしめられるのと似ていたから。全身に触れているのは人肌ではなく縄だけど、逃げられないほどぎゅっと抱かれているような錯覚すらあった。  その場で縄酔いまで起こしてしまって、他の参加者の前で痴態を晒してしまった私は、そこで受けた羨望と興奮の視線たちさえ気持ちよくなってしまって……最初に縛られた一方で最後に解いてもらったあと、こっそり瞳さんに誘われた。体験ではなく、もっと本格的に縛られてみないか、と。  最初はラブホテルだったけど、あまりに相性がよかったようでどんどんのめり込んで。瞳さんからしてもお気に入りになったようで、いつしか家に上げてもらえるようになった。最近では作品としての被写体になってほしいとまで言ってもらえて、今はそのためにダイエットしているところだ。  なんだけど……私はただ甘えたいだけで、縛られる感覚が抱かれて甘やかされているように感じるというだけ。そのまま本当に甘えてもしまっていて、体の関係にもなっているせいかそれに歯止めがあまり利いていないのが現状だ。  あくまで頻繁に縛られてくれるパートナーとして近づいたであろう瞳さんには、プレイと関係すらないそれは迷惑なんじゃないかと思ってしまったのだけど、それを吐露したら返ってきた答えは、より強くなった抱擁だった。 「めんどくさくも重くもないし、もっと甘えてくれていいのよ。侑依ちゃんを可愛がるのも、私は大好きだから」 「……そんなこと言われたら、ほんとに甘えちゃうよ?」 「もちろん、どんとこいよ」  私もここまで言われて遠慮を続けるほど鈍感じゃないから、それならもっと甘えていいかな、なんて楽観的な気分になっていた。それは間違いではなかったんだけど、一方で私には読み違えもあった。  だからこれは、抱えている欲に素直に吐き出しただけの言葉だった。瞳さんが叶えたいと思ってくれたらでいいや、くらいの感覚だったんだけど───それが瞳さんの心に火をつけたのだと知るのは、しばらく後のことだった。 「それなら……もっとたくさん、縛られてたいなぁ……。私の体のこと考えてくれてるのはわかるし、嬉しいんだけど……」 「縄は他の拘束具と比べても、体への負荷が大きいものね……注意は払っているけど、それでもこれ以上長くするとなると、負担軽減を考えないといけないかも」 「でしょ? 正直、多すぎるくらいたくさん縛ってもらえてるのはわかってるし……でも、かといって緩くされるのは本末転倒だから……んん、難しいな。ごめん、忘れて」 「……」  そしてこの先の展開を読めなかったことは、縛られて甘えることばかり考えていて瞳さんの気持ちを測り間違えていた私の怠慢だった。ミスト・スランバーという会社と一緒に仕事をしている、とくらいは聞いていたというのに。  そのミスト・スランバーが最近行っているあれこれを少しでも興味を持って調べていれば……こう、心の準備くらいはできたし、忘れてなんて言って複雑な顔をさせずには済んだだろうに。  後日、そのときは毎週の逢瀬よりずいぶん早い時間に呼ばれた。なんだろうと思いつつ、もしかして何か考えてくれたのだろうかなんて期待して瞳さんの家を訪れた私を待っていたのは、車を用意していた彼女の姿だった。 「……どこか、出掛けるの?」 「ええ。……そうだ、せっかくだし軽く縛られて行く?」 「いいの?」  どうやら今日の舞台はここではないらしい。普段と大幅に違うことをすることは薄々察していたけど、まだ返事をしていないから撮影ではないはず。わからないままガレージに入る。  どうやら先に縛ってしまっても大丈夫なところに行くらしい。緊縛ドライブと思うと興味が出てしまったから、私は二つ返事で欲しがってしまった。 「服の上からにする? それとも」 「は、裸から……が、いい。上から着せられても、いいから」  これまででなんとなくわかったことだけど、私は着衣よりも素肌を直に縛られるほうが好きだ。そのほうがぎっちりするのもあるけど、直接抱き締められているみたいで。……それに、恥ずかしくてドキドキする。  表から見た死角の位置に移動して、服を脱いで先に車へ積んでしまう。それから、ささやかな野外露出でぞくりとしてしまった私の体が、後ろ手の菱縄縛りにされていった。股下にもいつも通り、こぶ付きの股縄が通される。 「他の姿勢も考えたけど、あくまでついでだから普通に。いったんこれだけね」 「んっ……は、ふ」 「……可愛い。じゃあ、これ着せて……はい、助手席に乗って」  もう腕が使えない。足は自由なままだけど、そうとは思えないくらいの心細さと温かさを感じる。そんな私に暑くない程度の薄さのロングコートを被せて前を留めた瞳さんは、助手席のドアを開けて促してきた。  歩くだけで股縄が擦れて少し気持ちいい。席に座ってみると……これだけでもう、かなりの背徳感だった。外からはただの寒がりな同乗者に見えるかもしれないけど、実際は裸コートで縛られて車の中で興奮している変態だ。 「じゃあ、しばらくこのままね。ちょっと長いから、何かあったら遠慮なく言って」 「わかった……ん、ぅ」  シートベルトすら自分ではつけられない。全部お世話してもらって、これでもう逃げられない。……実際は嫌がれば中断してもらえそうだけど、まさかそんなもったいないことする気はないし。  背中とシートに挟まれた腕すら非日常感を演出していて、このまま縄酔いしてしまいそうだ。そんな中で瞳さんは運転席に回って、そのまま車を出した。 「……それで、どこに行くの?」 「ヒューマンファームって言うんだけど、知らない? 一緒にお仕事させてもらってるミスト・スランバーが作った、えっちな施設なんだけど」 「んん……瞳さんと遊んで、満足しちゃってたから。あんまり調べたりしてないかも……」 「嬉しいこと言ってくれちゃって。……そこは私たちがやってるのよりニッチなことがメインなんだけど、侑依ちゃんと試してみたいものがあるの」  車は郊外のほうへ一直線に走っていって、やがて人の少ない田舎道に出た。確かにけっこう遠いようで、途中では少し逸れた位置にある人気のないコンビニで停まる。そのまま縄を一度解かれて、今度はコートを一度脱いでから全身をシートへ縛りつけられるように縄をかけ直されてしまう。  普段と違う感覚に興奮してしまっている私に手ずから飲み物を与えてくれる瞳さんに、照れ隠しにこの後のことを聞いてみる。返ってきたのはなんだか妖しげな響きの施設名だった。人間牧場、だなんて、それこそSMチックだ。  私はそういう方面には手を出したことがないのもあるけど、瞳さんとの遊びで満たされていたこともあってあまり動いたりしていない。嬉しそうな瞳さんが体を隠すようにコートを被せながらさらに教えてくれたけど、私は「瞳さんがやってみたいことなら興味がある」くらいの感覚だった。  そのまま、今日は本当に体力がもつのか不安になるほど興奮しっぱなしでドライブが続いて、普段なら二度目の休憩になるくらいの時間が経った頃に車が停まった。どうやら施設の駐車場の片隅らしいんだけど……向こうにあった車と降りる人でいっぱいの駐車場からは少し離れている。  また解かれて車から降りると……今度は一言謝られたかと思うと、コートの上から縛り上げられてしまった。別にそれも充分楽しめるけど……大丈夫なのかな、こんな、外からも丸わかりな緊縛姿で。 「一応フード被っておこっか。……ああ、実は関係者扱いなの」 「そうなんだ……すごい。それに、大きい……」  瞳さんが、それも関係者扱いでやるなら大丈夫なのだろうと割り切って、施設を見上げる。……とても大きな施設だ。どれだけの広さがあるんだろう。  用意してあったスーツケースに私の服も入れて、二人で入口へ。……コート越しとはいえ縛られているのがとても目立つようで、入場待ちの列から大量の視線が届く。 「……ひとみさん」 「大丈夫、私が守るわ。……ほら、こっち。関係者用の入口から行けるから」  思わず瞳さんに擦り寄ってしまうと、片腕で抱いてくれる。向こうからの視線はなんだかいやに柔らかく生暖かくなった気がするけど、それに目もくれず瞳さんは列と別の扉へ進んだ。  不思議とぞくぞくする私も一緒に通されて、どうやら一般客は振り分けられるらしい受付も素通り。その先には……。 「な、なにこれ……」 「ふふ。ここがある意味、どこよりも業が深い場所。ヒューマンファームよ」 「こんなすごいところがあったなんて……」  これだけ縛られておきながらあれこれには疎い私にとっては、情報量の暴力に等しかった。すぐに目につく範囲だけでも、手足を折りたたまれた四つん這いで恥ずかしいピンクのぴっちりスーツ姿を晒してこちらにお尻を向けている子だったり、馬具を模したようなものをつけて拘束されたまま馬車に繋がれた子だったり。ヒューマンファーム、の意味はすぐにわかってしまう。  だけど、どうやら目的地はそちらではないらしい。それでも客がここで拘束されたりしているのは珍しいのか、まだ視線を浴びながら連れられて歩いていく。 「こっちはヒトペット広場。可愛くて情けないペットになった子を見たり戯れたり、自分もそうなったりして遊べる体験型のテーマパーク」 「……こんなのが、普通にあるなら。もうちょっとちゃんと、調べててもよかった、かも」 「今日はいきなりワンちゃんにならせたりはしないけど……試してみてほしいものがあるから、まずは向こうのホテルに行きましょっか」  併設されていたヒトペット広場、こっちが今日の舞台らしい。さっきのピンクの子……たぶんあれは豚なのだろうと今ならわかるけど、こっちにはあれと同じ拘束がたくさんいる。ついている尻尾から犬や猫だとわかるけど、それ以外らしき動物、ペットを模した姿もたくさんあった。  看板に見える動物園やドッグランの文字もだんだん気になってきてしまったけど、行き先はそちらではないらしい。もはや縛られているだけではあまり視線を集めなくなってきた中を連れられて、ホテルと呼ばれた建物に入った。 「ペットホテルをご利用ですか?」 「308号室で打ち合わせ済なのですが……」 「……はい、確認いたしました。こちらを」  ホテルと言っていたけど、正しくはペットホテルらしい。確かに場には即しているけど……つまりここでいうペットというのは、外にいたような犬や猫、のような格好で拘束された人間のことだ。  そう思えば、なんとなくわかってしまう。あれではないとのことではあるけど、平たく言えば私もまたここに来たマゾといえるから……きっと、私もペット、なのだろう。  やはり普通の客とは違う様子のやり取り。打ち合わせ済だそうで、今日の瞳さんは仕事かその伝手を使っていることもさすがにそろそろわかってくる。もしかしたらこの縄も、私もまた普通の客ではないことを示すちょっとしたマーキングなのかも。  エレベーターホールまできて、目の前のエレベーターが開くと……そこからは、やはりここに来てから何度か見かけた四つん這い姿の女の子が出てきた。見るからにぐちゃぐちゃに興奮していて、首輪から伸びるリード紐を同行している男の人に握られていて、お尻から生えた……さすがにもうわかる、お尻の穴に挿入されている尻尾を振っている。  犬の女の子が私を見上げてきた。やはり縛られているところを見てきて……ふにゃりと、まるで同類でも見るかのように微笑んできた。……それで合っているのかもしれないけど。 「……なんか、現実じゃないみたい」 「でしょ? 無理にこういうのを好きになれとは言わないけど、私はけっこう好きなの。人間として当たり前に持ってる尊厳や自由をぜんぶ失って、情けなくて愛らしいペットになって飼い主に甘えて……とっても可愛い」  言われて、思う。なんだかそれもまた、甘えん坊の私と似ているのではないか、と。  私が緊縛を好きになったのだって、大人になっておおっぴらに他人に甘えるのが憚られたからだ。ああいうペットたちの少なくとも一部が、普段は表に出さない甘えたを人間へ求めるために自らを貶めているのなら……それはとても、私が普段からやっていることに似ている。  大人の人間が他人に甘えるのは恥ずかしく情けない、望ましくないことだという通念はどうしてもある。だけどペットになるという行為が、「そもそも人間じゃないから」とそれをすり抜けて欲のままに甘えられる手段になるなら?  そんなことをぐるぐる考えてしまって……残念ながら長い廊下でそれ以上他のお客さんと出くわすことはないまま、308号室に辿り着いた。  瞳さんが受け取っていた鍵を開けて扉を開けると……ホテルの一室らしくありつつもあちこちにペットのための内装がある部屋の中には、何やら大きなゴムらしきものを広げたスタッフの女性が待っていた。  その人がこんな特異的な施設のスタッフだとはわかっていても、縛られた格好を見られるのは恥ずかしい。私はこれまでにこうしたところを見られたのは最初の体験会だけで、それ以外は全て二人きりだったから。 「道中でもこうしたことができる信頼関係、とても素敵ですね」 「あ、ありがとうございます……」 「侑依ちゃんは私のことを信用してくれていて。ありがたい限りですよ」  それでも何やら褒められて、さも当たり前とばかりに受け入れられたのは不思議と嬉しかった。挨拶は滞りなく済んで、その場で縄を解いてもらう。そのままコートを脱がされて、一度シャワーを浴びるよう促された。  いつも以上にしっかり綺麗にしてシャワー室から出てきた私を待っていたのは、置かれていたゴム……ラバーが大の字に広げられている様子だった。恥ずかしながらほとんど調べてこなかったこともあって、私はラバースーツというものが界隈にはあることくらいしか知らない。これがその系統の何かであることくらいしかわからなかった。  それから、瞳さんは湯浴み着のようで脱ぎ着のしやすそうなつくりの白地のシャツと、ゆったりしたつやつやのロングパンツに着替えている。 「えっと……たぶん、ペットみたいなことをする、んですよね?」 「部分的には合ってるけど、ちょっと違うの。侑依ちゃんはあくまで拘束されてるだけでいいのよ」 「ヒトペット広場なのに、ですか?」 「そういうモノのテストを兼ねてるんです」  裸のまま近づく私のことを瞳さんはいらやしい目で見てくるけど、それは慣れているしむしろどんとこい。ただ慣れないスタッフさんからの視線は、まるで普通に服を着ているときのように自然だったから気にならなかった。おかげで必要以上に恥ずかしがらずに済んでいる。  ただ、これからやることには微妙に要領を得ない。てっきり外で見たりすれ違った子たちのようなことをするのだと思って、意を決してそれを試してみる気でいたのだけど……。  ただ、確かに目の前にあるものは見てきたものと少しだけ様子が違う。二人がまずはそれの胸元にあたる部分にあるジッパーを開けて、中のぬるぬるした潤滑剤が薄く広げられた様子を見せてきた。 「これはまだ考え出されたばかりの、少なくとも私たちは同じものを知らないプレイなの。仮だけど、名前は“かんがるーさん”」 「カンガルー……?」 「これが嫌じゃなければだけど、まずは着てみて。手伝うから」  カンガルーというと、あのお腹の袋に子供を入れている有袋類だろうか。ペットという印象は全くないどころかむしろ強い印象だし、何よりこの真っ黒なラバースーツとは似ても似つかないけど……。  とはいえせっかくの機会だし、いざこうして見てみると興味も出てきたし、何より瞳さんが私にと勧めてくれるものを逃す気はない。言われるがまま着てみることにした。  ラバースーツとしてはやや珍しいらしいフロントジッパーが首から肋骨の下近くまで降りているから、そこから体を滑り込ませて……滑りをよくしつつもあまり感触のないローションに手伝われつつゆっくり足を通していく。手伝ってもらいながら皺を伸ばしていくと、独特で不思議な感触とともに肌に張り付いてくる。股下からお尻の後ろまで伸びるジッパーも、それひとつで恥ずかしいところが丸出しになるのだと突きつけてくる。  なんだか、これ自体も気持ちいい。ラバーの密着感を楽しみながら腕も入れて……そこで気付いた。手のところもミトン形状になっていて、指が開かないようになっている。そして手足の先端から、幅広の短いベルトがそれぞれ伸びているようだった。 「嫌な感じはしない?」 「大丈夫……むしろちょっと好きかも」 「そう。じゃあ今後はこういうのも使ってもいいかもね。……はい、このまま閉じちゃうわよ」 「あ、もしかしてこれ、これだけでもう自分じゃ脱げない……」  手刀のような形で開かなくなって、全ての指ごと手のひらを握るくらいしかできない。その状態で肩口を整えられながらジッパーに手をかけられれば、さすがに気付く。これは一人で脱げるようにはできていない。  実際に上げられていくごとに上半身も優しく締め上げられながら密着されていって、胸の膨らみもある程度出たまま閉じ込められてしまった。試しに手を首元に当ててみてもつまみはとても掴めそうにない、やっぱりこれ自体が拘束具にもなっている。 「四足歩行とかはしなくていいけど、かんがるーさんもペットではあるから……これ、つけましょっか」 「うぁ……は、い」  そしてダメ押し、首輪を見せられる。これまでより間違いなく自覚が増してしまっているマゾ心が疼いているうちに、他のペットもつけていた革の首輪をしっかり嵌められてしまった。  苦しくはないけど、ぴったり密着していて無視できないし……私には見えない位置だけど、たぶんラバースーツの境目を覆われてしまった。これだと首輪が外されないとスーツも脱げないのに、そんな首輪に、南京錠。かちり。 「鍵は私が持ってるから、私がいいって言うまで侑依ちゃんはこのままなのよ」 「っ……そ、それでっ……これで、何する……の」  私自身、こんなことでぞくりとするほどのマゾだとは思っていなかった。だから愉しそうな瞳さんを見上げて、自分でもびっくりするくらい浅ましく話を逸らすことしかできずにいる。  だけど、この“かんがるーさん”はここからが本番だった。着ているだけでちょっとずつ恥ずかしくなってくるぴちぴちのラバースーツ姿のままベッド縁に座らされた私の前で、瞳さんは膝立ちになって手を低めに広げてくる。  それが何を示しているか、これまでもたくさん瞳さんに甘えてきた私がわからないはずもない。促されるままに抱きついてしまうと……瞳さんの肩の上を通した両腕が、背中を抱え込むような形にスタッフさんの手で整えられた。 「ほら、脚も」 「そ、そこまで見られるのはちょっとはずかし……」 「はい、そのままにしていてくださいねー」 「え、あ、も、もしかしてっ」  私がどう抱きつくか、瞳さんはよくわかっている。腕を低く広げればよりくっつくために肩の上から被さることも、許されるならそのまま脚も股に挟むように絡みついてしまうことも。  促されてやるのはスタッフさんの前では恥ずかしかったけど、言われた通りいつも通りにしてみると……気付いてしまった。手足の先にある短いベルトは、こうするとちょうど繋ぐことができる位置と長さになっていることに。  腕を軽く引っ張られて頭まで前に突っ込む姿勢にさせられると、私の視界の真下でそれらが繋がれていく。しかしそんなことをされているのに私の体はむしろぎゅっとしがみついてしまって、強く抱きついて密着したままベルトで固定されてしまった。……そう、腕は抱っこ、脚はだいしゅきホールドの形で。 「これだけだとちょっと負担なので、袋をつけていきますねー」 「カンガルーって、そういうこと……これ、恥ずかしいよっ……!」 「そう。侑依ちゃんは今から、かんがるーさんのこどもになるの」  そのベルト、拘束具がしっかり繋がれてしまった後はもう、私はほとんど動けなかった。ぎゅっと引き絞ってしがみついたままにされているから、瞳さんとの間に隙間を作ることすらできない。  そのまま瞳さんに立ち上がられてしまった。私は宙に浮くかっこうになって、一気に心細くなる。ふらついて瞳さんを転ばせたくもないから、さらに自発的に抱きつくことになった。  続けて見せられたのは、透明なビニルの半円状のシートにベルトがついたもの。まさかと思う暇もなく、私の下半身を覆うように瞳さんの体に取り付けられれば、それがちょうどカンガルーの袋のように。だけど透明だから、私の恥ずかしい格好はどの向きからでも丸見えだ。  さすがにもうわかってしまう。私はカンガルーの中でも、袋に入れられる赤ちゃんのほうだ。こうやってママである瞳さんにしがみついて、くっついたまま甘えることしかできないのだ。 「……どう? 気に入ってくれるんじゃないかと思って、試しに連れてきてみたの」 「これ、すっごく恥ずかしくて……きもちよくて、くっつけて、すき……」 「よかった。このままたくさん甘えてね、私の侑依ちゃん?」 「うう、っ……!」  ここに連れてきて、施してくれて理由がわかった。これは確かに、この間私が漏らした欲を満たしてくれるものだ。身動きを取れないように固定しつつ、縄による継続負担のないラバーの拘束にして、しかも心ゆくまで密着して甘えることができる。というか、甘えることしかできない。  すっかり興奮してしまった私を抱えたまま、瞳さんはスタッフさんが用意してくれた車椅子型のカートに座った。これならこどもを抱きかかえるママも楽に動けるし、こどももママの膝にお尻を置いて楽にくっついていられるということらしい。背もたれもちょうど真ん中、手と足を繋ぐベルトと同じ高さに細くあるだけだから邪魔にならない。 「それから……」 「え、まっ、まって、そこあけたらっ」 「大丈夫よ。ローションは速乾性だから、もう乾いているもの。動くたびに摩擦でぎちぎちするでしょ?」 「で、でもっ」  さらには瞳さんは自分の袋の中に手を入れると、私の股下のジッパーを開けてしまう。後ろ側は袋に覆われているけど、前面は真っ白な瞳さんの服に密着しているのに。  白々しくうそぶく瞳さんだけど、今の私はそんなことをされたら……。 「あれ? 服が染みになっちゃってるわ」 「うぅぅっ……!!」 「恥ずかしい……ふふ、実はね。これはかんがるーさんの恥ずかしさのためのキャンバスなの。だから安心して、たくさん恥ずかしく塗っていいのよ」 「み、みないでっ……!」 「それは無理。これからたくさん、いろんな人に見てもらいに行くの。ヒトペット広場は、そういうところだもの」  触られてもいないのにとめどなく溢れては服に染みを作る私の愛液を、愉しげに指摘してくる。私はそんなありさまでもより強く抱きついて暴れたくなるのを我慢するしかなくて、止めることなんてできずに服を濡らしてしまっていた。  一応内側には撥水性のインナーを着ているようだけど、だからこそ染みは広がってしまう。それなのにそれを許容されて、かんがるーさんの役目とばかりに促されすらして。しかもこのまま、外に出て見せつけるのだと宣告されてしまった。  だけど、嫌がれない。本気で嫌がればやめてくれるとわかっているのに。私は本心では、このままあまえんぼの晒し者にされることを望んでいるようだった。  残って一度片付けをしておいてくれるというスタッフさんを置いて、瞳さんは電動カートを肘掛け部分にあるコントローラーで操作しながら廊下に出た。  ついさっきまでも縛られたまま裸にコート一枚で連れられていたとはいえ、同じ恥ずかしい衣装一枚だけかつ拘束でもこれはわけが違う。違うんだけど、考えるほど似ていることを突きつけられて「さっきまでの自分で望んだ姿も晒し者だったんだ」と実感させられてしまう。 「…………っ」 「どうしたの?」  私は姿勢的には後ろを向いたまま進んでいるから、通り過ぎたばかりの別室の扉が開いたことに瞳さんよりも先に気付くことになった。手押し車の荷台部分が檻になっているそれは、どうやらペットカートと並んでペットを運ぶ手段となっているらしい。人のようには動けないよう拘束されているのだから当然とはいえ、多くのペットは移動では自分で歩くことを許されずにこうして運ばれているのだとか。  恥ずかしくて顔を半分以上肩口へ埋めつつもじっと見てしまって、檻越しにそれが何であるかがわかった。逆バニー姿でM字開脚を強制する拘束を受けているらしいそれは、かなり過激なうさぎさんだ。猿轡越しに呻き声を漏らしながら顔を真っ赤にして、向こうもこちらを見てきている。 「う、ぅ」 「恥ずかしいね。だけどユイちゃん、恥ずかしいの好きだものね」 「ば、バレてるの……!?」 「私が侑依ちゃんのツボをわかってないと思った?」  背もたれが小さすぎるせいで、私がどんな形で拘束をされているかはむしろ後ろ……私からすれば前のほうから丸見えになっている。胸もお腹もお股も丸出しのうさぎさんにも、その檻カートを押す飼い主さんにもじっくり見られて、私がみっともなく抱きついたようでいて身動きが取れないことは丸わかりになっていた。  そこに他のお客さんがいることはすぐにわかったようで、瞳さんは振り返ろうともしなかった。だけどすぐにエレベーターホールに辿り着いて、下りボタンを押したところでカートごと振り返ってしまう。  というかなんだか、今の呼ばれ方、普段名前を呼ばれるときとニュアンスが違ったような……。 「かわいいうさぎさんですね。これから広場ですか?」 「はい。……そちらは」 「試作段階の“かんがるーさん”を試しているんです。見ての通りのあまえんぼさんなので、たくさん見てあげてください」 「はっ、う……」 「わかりました。……グミちゃんも気に入ったの?」 「むんっ……!」 「そっか。じゃあ、正式に出たらなってみようね」  瞳さんが面と向かうほうになると、私は背中を向けることになる。ラバーにぴっちり覆われた背中と、裂け目まで密着して形が丸わかりのお尻が晒されていて、私からは見ることもできない。こっちの方が恥ずかしくて屈辱的かもしれない。  わたしはそんな紹介までされても瞳さんの背中を叩いたりできるほどは手を背中から離せなくて、脚を開いて絡みつかされていることもあってただ抱きついていることしかできない。太ももが真横より上を向いて膝に座っている状態だから、腕に力を込めて浮かないと座り直すことすらできないし……それをしたら、一目でその情けなさがわかってしまう。  それから、うさぎさんがグミちゃんと呼ばれたところでわかった。ここではペットを人間とは違うものとして、それこそペットの名前を呼ぶようにするのが当たり前なのだ。私の場合は名前が短いのもあって、たまたま人のの前とペットの名前が同じにされているだけ。  しかも、この安全な施設の中でならそうして、普段の自分とペットとしての自分を重ねられるのも、私は喜んで興奮してしまうタイプだとも見透かされている。瞳さんは悔しいくらい私のことをよくわかっている。 「はっ、はっ……!」 「ふふ。グミちゃん、見て見られてきもちいいね」 「んくっ……!!」 「ごめんなさい、お見苦しいところを。この子ったら、見られるだけでイけちゃう恥ずかしい子で」 「可愛いじゃないですか。私のユイちゃんにもそうなってほしいくらいですよ」  エレベーターの中、ちゃんと鏡はあるのに瞳さんがそちらを背にしてくれないから、私だけお尻を向けたまま蚊帳の外で話をしている。きっとわざとだ、かんがるーさんはこうして一方的に見られるしかないのだと突きつけてきている。  だから二つの視線を浴びて、うさぎのグミちゃんの荒い吐息と鳴き声だけを聞かされて、私のほうもすっかり興奮させられている。くっついているから瞳さんには深呼吸が筒抜けで、だけどそうでもしないとそれこそ呼吸が浅くなってしまいそう。  グミちゃんは瞳さんに見られるだけで絶頂したのだと、聞かされるだけ聞かされて気になってしまっている。あの大股開きのつるつるおまんこから、触られてもいないのに愛液を吹き出したりしたのかな。そんな恥ずかしくてえっちで羨ましい様子が、もし私の背の向こうで起こっていたなら……私にとってはそうして見ることができないこと自体が、屈辱であり被虐そのものになってしまっていた。なれるかどうかは、わからないけれど。 「じゃあ、お気をつけて」 「ええ。お互い見せつけて回るわけですから、また会うかもしれませんね」  私はずっと入口のドアを見つめさせられる配置だったから、先に瞳さんがバックしてエレベーターを出る。その場でくるりと回って、檻カートを押して出てくる様子がようやく見えた。  無毛のタテスジをひくつかせて興奮を隠せずにいるグミちゃんと目が合うと、彼女はぞくぞくとした様子の嬉しそうな赤面顔で微笑みかけてきた。たぶん私も同じような顔をしていたと思う。  そのままエントランスに出てくると、そこにいたらしい数人の人たちがすこしだけざわつく。やっぱりメニューにないテスト中の新しいものということで、目立ってしまうみたいだ。  特に私のラバー尻に集中している気がする視線をよそにカウンターに寄ると、手配を待つ主従やただ見に来た人を見ることができつつ拘束を見られる私を無視して、受付嬢は何かを取り出したようだった。……と思ったら、わざわざ私にも見せてくれる。 「疲労や快適性はもちろんですが、お客様方の反応も見ていただきたいので……こちらをつけさせていただきますね」 「はい。お願いします」 「っ……!」  カートの見た目のバランスを崩さない範囲で目立つよう大きく作られた、カートに取り付けるのぼりだった。「かんがるーさん テスト中」と大きく書かれていて、私が何をされているのかこれでもかと宣伝するようになっている。  瞳さんは最初から知っていた様子で軽く頷くけど、私はあまりの辱めにさらにきつく抱きしめるしかない。こうして繰り返し羞恥心を刺激されるたびに、無意識でも意識でもとにかく抱きつくばかりの私の動作を突きつけられていた。抱きついて甘えることしかできない、というのは誇張でもなんでもなかった。  それにたぶん、私が言葉を失ってただ呻くばかりなのも見透かされている。もはや恥ずかしすぎて言葉を発することすら恥晒しになることも、だからいっそ猿轡が欲しいくらいなことも。  そのまま外に出てきた。ペットホテルはふれあい広場の端に隣接するように建っているから、そこはもうたくさんの主従や野良ペット、見物客などがいる広場だ。私には出てきたホテルと振り返ってくる人たちしか見えないけど。  ただ、これまでとは比較にならないほどたくさんの視線がこちらを向いたことはわかった。おびただしいほどの好奇や興味、興奮に羨望だ。不思議なことに不快な視線も、これだけ見られて不快感も全くない。 「たくさん見られてる。このままぐるっと回って、ユイちゃんのあまえんぼなところ、たくさん見てもらいましょうね」 「はっ……はっ……!」 「こんな人間として終わっちゃった辱めでぞくぞくできちゃうマゾなところも、興奮しすぎてなんにも喋れないところも、可愛くて大好きよ、ゆいちゃん」  私自身にすら体験会で同じ初心者に見られて縄酔いしたときや、全裸で開脚縛りをされたりして辱められたときくらいしか実感の機会がなかったのに。ほぼそのときの反応だけで私が羞恥マゾだと見抜いていたらしい瞳さんが、囁いてくる。それが「かんがるーさん」に相応しい甘やかしであることも突きつけられてしまう。  私、人間として終わっちゃったんだ。ペットとしてじゃないと満たせないマゾに目覚めて、今みたいになんにも喋れなくてもわかって満たしてくれる飼い主のもとじゃないと満足できなくなっちゃったんだ。  もともと私ばっかり好きになって大丈夫か心配になるくらい瞳さんのことが好きだったけど、これはもうだめだ。依存してしまう。どろどろに甘やかされて、瞳さんがいないとだめになってしまう。だってもう、人間の侑依として甘やかされているのか、ペットのユイとして可愛がられているのか、頭の中がぐちゃぐちゃでわからない。 「……あれなんだろ、見たことない……」 「……かんがるーさん、だって。新しいやつ?……」 「……あそこで拘束されてるのか。凄い格好だな……」 「……はずかしそー……やってみたいなぁ……」  もともと人がたくさんいるふれあい広場だから、四方八方からこれでもかと見られているし声も聞こえてくる。一部は私からも見えるし、人間ともペットとも目が合ってしまうし、だからといって逃げ場はない。抱きついて甘えるのが一番かんがるーさんらしくて恥ずかしいのに、私は他の行動を本当に一切取れない。  飼い主、あるいはママにくっついて甘えるところを晒されて、これでもかと見られている。そんな恥ずかしさが私も大好きになってきていたのだからもう救えない。人間には戻れない。 「……あの、首から下だけでいいので、写真いいですか……?」 「私はいいですけれど……ユイちゃん、大丈夫?」 「っ…………!」 「大丈夫みたいです」  挙句の果てには、写真撮影まで持ちかけられてしまった。ここは同意が取れた場合に限り撮影OKだから、私が承諾したら本当にこんな恥ずかしい姿が写真に記録されてしまう。  だけど、撮られたくなってしまった。ぎゅっとして、ぐっと股を押し付けただけで、それが伝わってしまった。もう顔を上げられなくて、ずっと耳まで真っ赤にして肩と首筋に埋めたままだ。  ……だけど今、気のせいでなければ丸出しのおまんこに擦れた服の布生地が、湿った大きな音を立てていたような……。 「っく、ぅ……!!」 「見ての通りテスト中で、宣伝も兼ねているので……ええ、この画角なら、SNSに上げちゃって大丈夫です」 「わかりました!」 「……ほら、ユイちゃんも見せてもらいましょ」 「ああ、どうぞ」  片腕で抱かれながら、誰とも知れず私からは顔を見ることもできない女の人の声に写真を撮られて、それだけで頭が真っ白になった。情けない詰まった声が漏れて、腰がびくびく震えて……瞳さんはたぶんさっきの願いが叶ったとわかっただろうに、それはすぐには言わないでくれた。  だけど、本当に首から下しか写っていないことを確認してかSNS投稿まで許可してしまって……しかも、その写真を私にも見せてきた。嫌な予感はしたんだけど、それをあっさり見てしまったのは間違いだった。ある意味でご褒美だったけど。 「ぁ、っ、────っ!!」 「気付いてなかったのよね、こんな恥ずかしすぎるところを晒されてたこと」 「そっか……そのくらい、見えないんですね」 「ええ。うちのかんがるーさん、可愛いでしょう?」 「はい。とっても」 「嬉しいのよね。かんがるーさん専用キャンバスをこんなに見事なアートにしちゃって、自分がほんとうに人間未満のはずかしいペットだって実感できたのが」  こうなること自体はわかってはいた。瞳さんがわざわざ着ていた白い服は、直に触れさせられて私のおまんこから溢れた蜜を染み込ませて塗り広げるためのキャンバスだとは理解ができていた。  だけど、ここまでだと思っていなかった……いや、改めて見せつけられた完成図が、私が想像できた範囲を軽く飛び越えていたのだ。シャツがべったり染みになって私が濡らした分を晒し上げるそれが、実際どれだけ恥ずかしいのかを。  シャツの半分以上が濡れてしまってもはや染みの形すらわからないそれが、今も遠巻きに見ている人たちに対しても「このかんがるーさんはこんな格好でこんなに濡らすド変態マゾペットです」とこれでもかと見せつけるのが、どれだけ恥ずかしいか。わかりやすいように斜めの画角で撮られているけど、もはや正面からですら丸見え。見えていないのは私だけだった。  それだけですらない。予想していなかったのは、お尻の穴の後ろまで開いていたスーツのジッパーのせい。かんがるーさん自体が恥ずかしすぎるから気を取られすぎていて、そもそもそれのせいで見せつけるようだったお尻が孔まで丸見えだったこと自体が今ようやく実感できたところだったけど……それ以上に、私を収めている透明な袋にまでべったり愛液が広がって水溜まりのようになっているのが、恥ずかしすぎた。 「おもっ、てたよりっ、すーばい、やばい……っ」 「ふふ。羞恥系のペットとしては大成功みたいね」 「…………っ」 「それに、あまえんぼさんにとっても幸せそうね」  そしてかんがるーさんには、それを受け止めて発散する術がひとつだけあった。飼い主兼ママに抱きついて、甘えて擦り寄り可愛がってもらうことだ。辱めの末に理性が耐え切れなくなったら、自動的に情けないあまえんぼになるように作られている。  そしてそれが幸せだから癖になる。ぴったりくっついて、自分が人として終わっちゃったことを突きつけられて、その唯一の逃げ道として飼い主へ擦り寄り媚び甘えることを覚えさせられていく。  これ、危険だ。ちゃんと面倒を見て飼ってくれそうなパートナーとしかやらない方がいいと思う。あまりにもマゾを刺激しすぎて、本能の一番奥のところを引きずり出されて人間未満のあまえんぼペットにされてしまう。  その代わり、そういう人に向けて恥をかなぐり捨てて媚びるには最高だろう。今の私は普段ならごちゃごちゃと考えてしまう強がりや遠慮を挟む余裕なんてひとつもないまま、とにかく瞳さんへ縋り付き甘えて幸せになることしか考えられていなかった。そうして己の全てを差し出して懇願して、それを受け入れてくれるなら……きっと、信頼できる人だろうから。

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夢の人間家具部屋での一日 EXパート

  はじめに  こちらは試験的に公開することにした、25年4月に先行公開した作品のおまけパートです。EXプラン専用のコンテンツとしてご用意しました。  また、現時点ではこれは後々の全体公開を行わない方向で考えております。こちらにてお楽しみいただけると幸いです。   ───────────────── 「ちょっとテストするので、苦しかったり痛かったりするか、逆に緩かったら言ってくださいねー」 「は、はい……」  一言断ってから、あたしは目の前の隙間にシャワーヘッドを押し込んだ。……正確には隙間なんてないんだけど。  あたしの目の前にあるのは、爆乳と言っても差し支えない大きなおっぱい。そしてそれの持ち主である胸出しラバースーツ姿の女の子だった。のっぺりとしたデザインのシャワーヘッドはその旨の谷間に挟まれて、しっかりホールドされている。  この子はシャワーホルダーだ。少なくともこれから一日、そういうことになる。乳房だけ丸出しになっているラバースーツを着て、その見事なモノを左右から硬い補助パーツで挟むように固定されたまま。  簡単にいえば、強制的にパイズリさせられているような感じ。今しているように、ここに男の人のアレじゃなくてシャワーヘッドを挟んで保持し続けるのが彼女の役目になる。 「大丈夫そうですね。それじゃ、固定しちゃいますよ」 「お願いします……っ」  挟まれた瞬間、目の色が変わった。その屈辱を理解して、自分が家具になっているのだと実感したのだろう。そこで興奮できない普通の子は、今このセットの中にいない。  あたしは壁に設置済みだった固定具を順につけていって、彼女を立ったままぴくりとも動けなくしていく。腕は気をつけにして、鏡の隣にしっかり固定した。あとは仕上げに本人希望の全頭マスクと開口マスクを被せて着ければ完成だ。 「よし、と。では、頑張りましょう」 「あぁ……っ」  それができたら、足元にあるバスチェアに引っかからないように気をつけながら浴室を出た。裸で丸まって椅子になった彼女ともども、このまま使用者を待つことになる。扉をあえて開きっぱなしにしておくとはいえ、浴室は出番が遅いから忍耐力が必要だろう。  すぐ外にあるバスマットも同じだ。これは左右で手首と足首を繋がれた形のうつ伏せで、インナースーツの上からバスマットの素材のスーツを着せられている。出番になったら心ゆくまで足蹴にしてもらえることだろう。  洗面所でじっくり堪能している様子の洗濯かごと、準備が大変だからとホスト側でありながら真っ先に設置された洗面台のミカを流し見しながらリビングまで戻ってくると、そこにはたくさんの裸またはラバー姿の女の子と、今まさに家具になりかけている子たちと、もう家具として完成して設置済みの子がいた。  かくいうあたしも全裸姿で、異様な光景に溶け込んでいる。人間家具ルームの設営は、まだまだ途上だった。  設営は深夜に行われている。本番の撮影が朝から、部屋主役のオリさんが起きたタイミングから始まるから。……ほんと、大掛かりな上にニッチかつ難しい撮影なのに、よくこんなに集まったよね。伝手のある施設と有料会員からしか募集していないのに、人数が集まりすぎてけっこう無理やり使うことになっているし。  洗面所と浴室はもう完成しているけど、リビングダイニングと寝室はまだ。参加者の中でも経験のある人やあたしたちミスト・スランバー内部の人員は、スタッフに混じって準備というか家具作りの手伝いをしている。まあ、裸かラバースーツだから一目瞭然で混ざれてはいないんだけど。 「よし、ダイニングテーブルはこれで」 「次は……ソファ作りましょっか」 「土台の子、こっちに並んでください」  ソファは二段構成になっていて、下段では四人が並んで香箱座りのような姿勢で固定される。ただこの四人、実は本番中にはあまり見えない。背面のほうから横並びのお尻が突き出ているようになるだけで、家具として使われているようにはあまり見えない背景だ。見栄え自体はかなり惨めになるけど、それもあって有料会員からの子と協力施設の新人が並ぶ。  そしてその上に人の形がくり抜かれたようなソファのセットが乗せられて、その形に合わせてこちらも四人の子が座る。埋め込まれたような格好になるラバーの人型を、さらにその上からところどころだけ拘束具を兼ねたクッションを重ねて完成だ。 「座ってみて」 「はい」 「ふッ……」 「ング…………!」 「大丈夫そうですね」  試しにあたしが座ってみて、普通に重そうな反応と興奮しか返ってこなかったから完成。八人がかりの贅沢なソファがリビングとダイニングを遮るように鎮座して、余波としては四人がかりのダイニングテーブルのうちリビング側を向いた子が見とれたような甘い声を出した。彼女の視界には今、ソファから突き出た四つのお尻が整然と並んで興奮に震えている。  確かにそこも、人の形が見て取れる座面側も、思っていた以上に見応えのあるソファが出来上がったけど、まだまだ準備は終わらない。ダイニングチェア作りはカナとメロさんに任せて、あたしは寝室のほうを見に行くことにした。  寝室のほうもなかなか凄まじい光景だった。入ってきて真っ先に出迎えるのが、全裸で全ての関節を直角に固定されて、しかも頭は見えない状態でラックになった女。股も180度開かされてあまりの羞恥にもう濡らしているけど、完成済のそれはあたしが触る余地はない。  今はベッドを作るところだったようだ。こちらは土台部分に人は入っていなくて、その上にエアマット型の極大バキュームベッドが置かれている。もう膨らまされているけど、まだ中身はない。 「……よし、そのまま足を下げて、そこに置いて」 「ふっ……ふっ……んぐ、ぅ……っ」  こちらはカナンさんとカノンさんがスタッフを手伝っていたのだけど、ちょうど枕を置くところが専用のスペースとして作られていて、裸の女の子が逆さになるように設置されかかっている。お尻を上に突き出す姿勢でもなるべく辛くないように、スペース内部は柔らかい上にしっかり形で固定するようになっていた。  そこに収まった子が足をぐっと下げて、まんぐり返しの姿勢になった。先につけられている、人間様の耳元で大声を出させないためのペニスギャグから呻き声を漏らして、前貼りで割れ目を完全に塞がれたおまんこが突き出される。そこに壁尻の要領の、柔らかいインフレータブルラバーの蓋をすれば……今回の家具の中でも特に恥ずかしい尻枕の完成だ。 「じゃあ、いよいよマットレスですね」 「互い違いになって、仲良くくっついて。自分たちが柔らかいマットレスになること、忘れないでね」 「はいっ……よろしくお願いしますっ!」 「どきどきする……」 「私たち、家具になっちゃうんだ……!」  揃って興奮が収まらない様子の、五人もの女性が次々に枕と反対側からラバーの隙間に入っていく。目立たないように長いホースを咥えて、それら五本はまとめられるから呼吸すらごくごく近い位置で共有することになる。  五人は所定の順番で互い違いになって、使用者が寝転がるのに直角になる向きでぴったりくっつきながら並んだ。まだ作り上げていないけど、もう見たことのない光景だ。また今度、この特大バキュームベッドは再利用できないかな。 「……手、繋いでみる?」 「やってみよっか」 「私たちは五人でひとつ、だね」  楽しそうだ。ぴったりくっつけていた手を自発的に繋ぎはじめて、よりひとつのモノらしくなっていく。この五人、枕の子も含めて六人は同僚の関係だから、同じ趣味で絆があるのかもしれない。  できたようだから、あとはバキュームベッドとして空気を抜いていく。気持ちよさそうな声が五つ聞こえて、やがて女体が五つくっきり浮き出た。それが落ち着くと、熱を帯びた呼吸音が一箇所から重なって聞こえてくる。 「試してみよう」 「んぁっ……!」 「「「「「ぅぐ……っ」」」」」  これもあたしが試してみることに。他にもホストテスターはいるのにあたしにばかり回ってくるのは、サドをしっかり兼ねているのがあたしだけだからだろう。  ベッドは思っていたよりもっと柔らかくて、ふわふわと浮いたような不思議な感覚だ。興奮もあって、正直これで眠れと言われたらあたしには無理だけど、本番のオリさんは睡眠状態のままここに運ばれてきて寝かされるから問題ない。  そして枕は……忘れられなくなりそうな、極上の感触。人のおまんこの感触を後頭部に感じたのは初めてだけど、ぞくぞくきてしまった。目が覚めて早々これを感じることになるオリさんが心配になるくらい。別に寝心地がいいわけではないんだけど、究極の征服感でサド心がおかしくなりそうだった。 「いけないいけない、浸ったら戻ってこれなくなる」 「そんなによかったの?」 「これを体感するのがあたしとオリさんだけなの、もったいないですよ」  このまま寝ていたらそれだけで満たされそうだから、慌てて起き上がって降りた。あたしはこれからマゾとして家具になるのだから、サド気分に染まりきったら困る。  心からの高評価だったけど、ベッドからは六つの興奮が聞こえてきた。まあ、家具の出す音に意味なんてないから、無視してしまおう。 「じゃあ、あとは二人ですね」 「うん、お願いね」  他の寝室家具も設置を済ませたら、最後はカナンさんとカノンさん。この2人はこのベッドの両脇に立たされて、ベッドライトになる。  まずは立ち位置につかせて、ワンバープリズンを膣に挿入して固定したら、全身をベルトで簀巻き拘束していく。土台ができたら、頭の上にオレンジ色のLEDを固定して回線も繋いだ。もちろんコードの保持も家具の役目で、ベルトの隙間に挟まれている。  最後に頭の上から、開きの大きいコップ状のカバーをつけた。間接照明でよくある、光をぼやけさせるためのものだ。台形のそれで顎まで被せて頭を剥奪したら、それで完成だ。  顔を覆われて視界を失い人格を否定された照明器具でありながら、全頭マスクも目隠しもされていないのがミソ。これで目は見えているのにカバーの内側しか見えず、自分が点いているか消えているかしかわからないのだ。そして顔は隠されているから、どれだけ恥辱に打ち震えても外からは見えない。 「「…………」」  すっかり役に入って物言わぬライトに成り果てた、もはやどちらがどちらかわからない二つのうち、入口から見て奥にあるほうだけ消して寝室を出た。たぶんこのほうが、対比て見栄えがすると思うから。  そうこうしているうちに、リビングの家具もほぼ設置が済んでいた。メロさんは顔に画面をつけられてPCモニターとなったままじっと佇んでいて、カナはまんぐり返しで肉花瓶となって二穴に花を活けられたまま顔を真っ赤にしている。どれだけ恥ずかしくてももう角度すら変えられないほどしっかり固定されていて、穴をひくつかせることによる花の揺れが余計に目立つありさまだけど。  これで最後。残るひとつは、あたしを材料にした家具だ。あたしとわずかな人数のスタッフだけで作れるように簡素なものだけど、あたしをこのメイキング映像の視点役にしていたのとキャラクター性が強いから最後になった。他の子をさんざん家具に貶めたサドがマゾに切り替わって同類に堕ちる展開、人気があるだろうとのことだった。 「ン……濡らす必要は、ないか」  いろいろ見て興奮したのはあたしも同じ、もうぐしょぐしょに濡れていたからカメラの前でオナニーする必要はなかった。  わざわざ口に出したのはメイキング映像のわかりやすさのためで、あたし自身はかなり自覚的に疼いているんだけど……自分で作っていくとはいえ、イくことは許されない。あたしもまた人の尊厳などない家具なのは、実のところ最初からのことだから。 「ん、ぅ…………ぁ」  用意は済まされている。リビングのローテーブル、PCの横に必要なものが置かれていた。そこにあった防水カプセルとUSBを拾って、カプセルにUSBを封入する様子をしっかり映しておく。本編と合わせて楽しんでもらえるように。  それから、その場で座ったまま股を開いて……カプセルを、あたし自身のおまんこに挿入した。なるべく深く、咥えて抱え込んでいることをじっくり実感できるように……それがこの後数時間の、あたしの唯一の感覚だから。  その上から、貞操帯を着けていく。自慰防止板の上からシールドで穴に蓋をして、金属製のTバックを身につけながらしっかり施錠して。もうあたし自身で触れず、今さら気が変わっても発散できなくなった。それを画面外のスタッフにいったん預けたから、これでもうあたしは人間に戻るまで絶対にえっちができない。 「では……お願いします」  仕上げだ。あたしは自分でオープンラックの下から箱を引き出して、蓋を開けてその中に入った。尻枕ほど極端ではないけど、あたしもまたまんぐり返しの姿勢だ。  手首は箱の頭側下の角あたりに、足首もそのすぐ内側に並んで固定具が用意されている。恥ずかしい姿勢を大々的に映されながら、ここからはスタッフに拘束してもらう。……この絵面は、本編には映らない。あたしは今回、股間しか映してもらえない。  その映るかどうかの境界線として、ご丁寧にへそのすぐ下あたりに体にぴったりの仕切り板が嵌められた。ここから下しか、家具としては必要ないということ。  さらにこの上から、箱の蓋を被せられた。それ自体がロックされても、天板に小さな鍵付き扉がついているからそこから開けられる。それを開けると見えるのは、下半身のほうだけなのだ。 「は、っ……んぅ、うぅ……」  全ての鍵を施錠されて、箱ごと動かされる。元々箱が置かれていた、オープンラックの下に戻された。これでもう、必要なときに引っ張り出さなければあたしは下半身すら出番がない。  それから少し物音がして、やがてスタッフたちは去っていった。貞操帯と天板扉の鍵はローテーブル、箱そのものの鍵はスタッフがスタジオ外まで持って行ってしまう手筈だ。  あとは向こうでオリさんがベッドに寝かされて、準備は完了。あたしたちは今からたっぷり、家具としての惨めなひとときを楽しみ尽くすのだ。

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【おしらせ】プランの名称変更と新要素について

 雪中アヤメです。いつもご支援ありがとうございます。おかげさまで励みとモチベーションになっておりまして、もうすぐまる二年の毎月更新となります。毎月一本以上を標榜して退路を絶っておかなければできなかったことだとは思います。


 本題に入ります。

 以前より支援プランには300円と500円の二段階を設定しておりましたが、不定期で500円プラン用の追加要素をと以前から考えつつもご用意できていませんでした。ここに手を加えます。

 というのも、25年4月先行公開の『夢の人間家具部屋での一日』のおまけパートの錬成に成功しまして、「これだ」となりました。今後は不定期にはなりますが、500円プラン専用の作品を投稿していければと思っています。


 つきましては、300円プランを「一年分先読みプラン」、500円プランを「一年分先読み+EXプラン」として名称を改めさせていただきます。

 今回のおまけパートは人間家具部屋のメイキングとなっております。ご興味がある方はプラン変更やご支援をご検討いただければ幸いです!



 下の方に書いてあるたまにやたら重要な情報が紛れ込んでいる注意事項


・作者は『小説家になろう』/『カクヨム』にも連載を持っていることもあり、執筆ペースとネタの都合でEXプラン専用投稿は不定期となります。毎月の更新を保証することはございませんので、ご了承ください

・EXプラン限定投稿については、現時点では全体公開の予定はございません

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【先読み】バキュームベッドとウラオモテ

「そういえば愛花、今週末なんだけどさ」 「うん?」  思えばそれが始まりだった。これを機に、私たちの妖しくも平穏だった夜は大幅に刺激が増したのだ。 「私たちがやってるようなプレイに、ものすごく興味があるって子たちがいるんだけど、その子たちに披露していいかな」 「え、人に見せるの!?」 「もちろん、こういうのが大丈夫だって確認は取ってあるよ。動画とかはもう見てて、やってみたいから直に見てみたいって女の子が二人」  私は今、ちょっと人には言いづらいエッチの趣味で見つけたパートナーと定期的に遊ぶ仲だ。もともと趣味のマッチングから始まった関係だったけど、最近は今のように遊ばない日でも一緒にお茶をしたりする関係になっている。  そんなパートナーのいつきに、そんな打診を受けた。ただ……私たちの趣味は、正直けっこうニッチだ。そうそう人に受け入れられるものではないと思うんだけど、この話によるとそれは大丈夫なようだった。  それに、その上で女の子同士のペアというのも珍しい。私たちのようなのが、そんな連絡を取れるような範囲にもう一組いたなんて。 「そういうことなら……わかった。そういう子には、そのまま入ってきてほしいし」 「ありがと。……ふふ、そんな布教みたいなことを言って。本当はまた見世物願望を満たせて楽しみなだけなんじゃないかな?」 「う、うるさい。いいでしょ別に」 「もちろん。だけど、愛花がそういう子だから聞いたんだよ」  ……ありがと、とはすぐには言えなかった。お互い嗜好は深いところまで明かしている仲で、よく合致しているいい関係ではあるけど、だからこそ勝てる気がしないのだ。それはいつきがサドで私がマゾだからというところに限らない。  それに、どうせ向こうはわかっている。いつきの言うところによれば私は隠し下手だそうで、見透かされたことへ無反応を試みても伝わってしまうようなのだ。毎回毎回、振る舞いに似合った王子様みたいな顔をにこにこさせながら、私が一番されたいことをしてくる。  私は拘束趣味のマゾなんだけど、それに加えて普通なら叶えられないはずだった困った願望があった。それがその見世物願望、飾られたり展示されて同好の士に痴態を見られて楽しまれたいというものだ。  ミスト・スランバーという私にとっては神様のような企業のおかげで、私はそんな願望を二度も満たすことができたのだけど、いつきの言う通りで今はそれに似た期待があった。誤魔化すにしても否定できないくらい、週末が楽しみになっている。  ……まあ、そんないつきだからこそ、私は他の関係を積極的に持つつもりはあまりなかった。SM博物館やバキュームベッド展示会は飛びついて参加したけど、家畜やペットとしてヒューマンファームに入っていないのはいつき以外と一対一になることに躊躇いがあるからだ。  恋愛関係だとかではないとはいえ、そのくらい特別視している相手に、しかも願望に合ったことを誘われたのだ。断る選択肢なんてなくて当然だった。  その週の土曜日。 「先に準備しちゃって大丈夫なの?」 「うん。インパクトを重視してあげたいし、問題なければうちで器具を貸して体験もするって話だから」  夕飯は早めにとって、夜というにはまだ早いくらいの時間帯。そのお客さんが来るのはもう少ししてからだそうだけど、私はシャワーも浴びて準備に取りかかるところだった。  見世物にするような拘束との話だったから、何かと思ったんだけど……目の前にあったのはバキュームベッド。ただ、新しいものだ。これまで使っていたものとは呼吸チューブの形が違う。 「わざわざ新品を使うの?」 「もちろん同じものを買い替えたわけじゃないよ、これまでのに不具合も出てないしね。だけど……よく見てみて」 「というと……え、あれ? なにこれ」  これまでは同じ真っ黒なバキュームベッドでも、ちょうど頭を入れる位置から垂直にラバーでできた呼吸管が飛び出た形のものを使っていた。だけどこれは違うようで、バキュームベッド自体の内側にある硬めのラバー管がシュノーケルのような形で上に伸びて外まで繋がっている形だった。  それだけのために新しくする理由もないだろうと思って、言われた通り見てみると……開いて中を見たところで違和感を覚えて、持ち上げるとわかった。 「これはリバーシブルなんだ。片面が黒、もう片面が透明のね」 「うわぁ……どこで見つけてくるの、そんな凄いの……」 「というわけで、今日はこれに入ってもらうよ。どっちがいい?」 「ど、どっちって……」  最近見かけるようになったエアマットタイプではなく、長方形のフレームの上下にラバーシートを張ったものなんだけど、黒ラバーは上面だけだった。床に接していた下面は色もついていない透明なラバーで、これだと中身がよく見えることだろう。  呼吸チューブの形の理由もわかった。両面で使えるようにどちらの面にも穴を開けず、中で咥えるところの向きを変えるだけでひっくり返せる仕組みだ。こういうものなとても映えそうなバキュームベッド展示会でも見かけなかったけど、本当にどこに置いてあったのやら。  だけど、いざどちらの面で入るか決めていいと言われてしまうと難しい。どちらも魅力的なのだ。  透明が表だと、背景が黒くなる以外は普通の透明バキュームベッドだ。だけど、そもそも透明なもの自体が私は初めてだから惹かれてしまう。  逆に黒が表の場合、上から見れば普通なんだけど、裏面がすごく無様なことになる。顔もおっぱいもおまんこも真っ黒なのに、背面だけ透明でお尻は丸見えだなんて。その状態で縦に吊るされて、ひくひくするお尻の穴を見られてみたい。 「…………透明なほうが表がいい、かな」 「わかった。じゃあ、入ってみて。チューブの調整は硬いところの付け根を半回転できるけど、そっちならそのままで大丈夫だよ」 「ぅ……それじゃ、お願い、ね」  しかし、私は透明バキュームベッドの誘惑に勝てなかった。展示会のときはいつきにも見せていないものを不特定多数に見られることを躊躇ったけど、ずっと気になっていたのだ。それに、変態趣味の先輩ということになるなら、マゾの状態でその子たちの顔を見てみたくもあった。  私の方は他の準備は済んでいたし、あとはいつきがやってくれる。私はさっそくバキュームベッドに入ることになった。まずは耳栓を兼ねたワイヤレスイヤホンを装着するけど、これをつけて外の声を聞かせてくれるかどうかはスイッチを持ついつき次第だ。 「ああ、いったんその向きのままでね」 「……うわ、そっか、そういうのもあるんだ……」 「せっかくの両面だからね、しゃぶり尽くさないと」  透明な方を前にするのだからと裏返そうとしたところ、いつきに止められた。それで気付く、この呼吸チューブなら顔を下にしても大丈夫なのだ。だから背面バキュームベッドができてしまう。  一気にイレギュラー感が増した気がしつつも、大人しく入る。女子の平均ほどである私の身長ならX字に手足を伸ばしてもなんとか収まる大きさだったけど、姿勢はいつも通り好きなものにした。肘を曲げて頭の横で手を開き、脚は菱形を作るように股を開く形だ。  いつもの九十度よりサービスのつもりでさらに開いて、かなり無様感が増す百二十度ほどの開脚にしてみる。上にも余裕があったから肩も真横より上げて、上側にも腕で四角形を形作ってみたところ、それを覗き込んでいたいつきは上機嫌そうに側面のファスナーを閉じた。……いつきは特に、無様姿勢が好きな傾向にあるから。 「…………ん、っ……ぅぅぅ……!」  チューブが上向きなのは、こういう姿勢をしても邪魔にならないようにだろう。しっかり舌根あたりまで管を咥えて、掃除機をセットされて空気を抜かれていく。頬には管が曲がってぴったり密着したけど、気圧で管が潰されたりはせずに保たれているから息は苦しくない。  圧縮され切るまでは動かず、バキュームの余波による振動が完全に収まるまでは自分で姿勢を保つ。空気弁から取り外される振動を感じてから情けない姿勢をやめようともがいてみるものの、全く動けない。角度も変えられないくらいがっちり固められていた。……気持ちいい。やっぱりこの感覚、好きだ。バキュームベッドは特にお気に入りのひとつだった。  しかし、今日は二人のプレイではない。このまま可愛がり好きないつきの手が私のお尻を撫でてくることもなく、しばらく放置されてしまうこととなった。  下向きになってしまうと光が入ってこないから、私からはほとんど何も見えない。視界の端の方が少し明るいだけで、指先ひとつ動かせないままマットの上に突っ伏している。潰れたカエルのような姿勢で、お尻を突き出すように上にして。  正直なところ、恥辱大好きな私にとってはこの時点でとても興奮するプレイだったけれど……時間感覚が保てるはずもない今の私が大好きな拘束単体に飽きるよりはずいぶん早く、玄関のドアが開閉したらしい振動が伝わってきた。  お客さんが来たようだ。私はこれから、マゾの見本として見られて遊ばれることになる。……少なくとも裏向きの間は、そのお客さんがどんな人なのかすらわからないままだけど。   ◆◇◆◇◆  わたしたちはもともと、SMにはさほど興味のないただのレズカップルだった。……というか、あまりよく知らないまま過ごしてきた。恋人の四葉ちゃんとはだいたい週に一度か二度、ただの貝合わせやシックスナインのような形で愛し合ったりして……おもちゃを使い始めたのすら、つい最近だ。  だけど、ふと見つけてしまった。後ろ手に縄で縛られた女の子が一方的に愛されたり、正座して舐めたりしている動画だった。どちらかといえば明確にネコだった私は、それにすっかり興味を持ってしまったのだ。  だけど、そう簡単にできるものではない。縄は素人が下手に使ってもうまくいかない上に危険なこともあるとすぐにわかったし、近くでの体験イベントは簡単には見つからなかった。大規模な展示イベントが少し前に終わっていたことを知ったときには、思わず天を仰いでしまった。  幸いそれ系に強いアダルトショップは近くにあったから、試しに手枷くらいは買ってみたんだけど……確かに興奮はしたものの、物足りないと感じてしまった。かといってそれ以上試すにはどんなことをすればいいかわからなくて……困っていたときに、四葉ちゃんの友達がそういうプレイをしていると聞いた。 「緊張する……」 「大丈夫よ、まずは見るだけなんだから。その間に気が合わなければ、やめておくこともできるんだし」 「でも、せっかくなら試してみたいもん……仲良くなれるかなぁ」 「ちょっとスカしてるけど、いいやつだから大丈夫。どんどん頼ってやっていいから」 「……うん、ありがと、四葉ちゃん」  そのひとに連絡して、パートナーとの拘束プレイを見せてもらえることになった。今はそのひとの家まで来て、呼び鈴を押したところだ。……そして、持っている拘束具をその場で貸して体験させてくれる、という話でもある。なんでも友達である四葉ちゃんが同じ趣味に手を出してくれると聞いて、舞い上がっているのだとか。  ただ、どうしてもやり方を知っているその人にレクチャーしてもらうことになるから、わたしは初対面の人の前でいろいろと見せることになる。それが嫌かもしれないからと、向こうから打診してくれたそれはわたしの意思次第ということになったけど……やってみたい、というのがわたしの本心だった。  だけど、もしも気の合わないひとだったら、さすがにわたしもちょっと怖い。そうならないといいな、ここの二人ともお友達になれたらいいな、なんて思いながら待っていたら、中から物音。  連絡は数日前からしていたから、片付けは済んでいるようで。ほどなく玄関の扉が開いた。 「いらっしゃい、四葉。それで、そっちが」 「ええ。私の彼女の鈴莉。私から取らない程度に仲良くしてくれたら嬉しいわ」 「取らないよ、パートナーはいるし。……いつきです。鈴莉さん、よろしく」 「よ、四葉ちゃんから離れたりなんてしないし、できないよ! ……えっと、はじめまして。よろしくお願いします、いつきさん」  現れたのは、王子様系といった様相の美女。いつきさんというそうで、どちらかといえばフェミニンな四葉ちゃんとはちょっと違ったタイプだ。四葉ちゃんが何年も友達付き合いをする相手だそうだから心配はしていなかったけど、優しそうな人だった。  そんないつきさんに連れられて家の中に入って、靴を脱いで中へ。ゲストスリッパを借りたところで、短い廊下の半ばにいたいつきさんが振り返った。 「それで、もうあの子には入ってもらってるんだけど……見せるのはアレでよかったんだよね?」 「ええ。この間言った通りよ」 「……え? アレ、って?」 「私もいろいろ調べてみてね、やってみたいものがあったの。それを伝えてて、見せてくれるそうだから……鈴莉、よかったら付き合ってもらえないかしら?」 「そう、だったんだ。……うんっ、わかった!」  わたしはぜんぜん知らない話だったけど、どうやらいつきさんと四葉ちゃんの間で見せてくれるプレイが決まっていたらしい。そしてそれは四葉ちゃんがやりたくて決めたものだと。  ……嬉しい。拘束プレイへの興味はそもそもわたしが言い出して、四葉ちゃんに付き合ってもらったものだった。それを四葉ちゃんが自発的に深掘りして、わたしにサプライズみたいな形で話をしておいてくれるなんて。わたしはちょっと、調べるにも臆病が働いちゃうタイプというか、広げながら調べて新しいワードを獲得するのが苦手だから。きっとどんなプレイがあるのか調べて、いろいろ考えてくれていたのだろう。  わたしもその話についていけるようになって、一緒に楽しめるようになろう、と決心したところで、リビングへの扉が開いた。寝室ではなくそこで、やっているというリビングで、わたしたちを待っていたのは……。 「…………ん、ぅ……」 「わ、ぁ……!」 「よかったら、近くで見てみて」 「は、はいっ」  なんというか、わたしの知らない世界だった。断言できる、臆病で行動力のないわたしじゃ、調べようとしてもこれに辿り着くことはできなかっただろう。  大きなマットレスの上に、黒い長方形の何かが置かれている。そこから女の子のうめき声がして、ぎちり、という音とともに黒いもの全体が少し上下に動いた。  なんとなくわかったのは、ソレこそがいつきさんのパートナーさんだということ。あの見たこともないものが、四葉ちゃんが興味を持った……たぶん、拘束具であること。 「これ……枠? みたいなのに、シートが張られれてる?」 「そう。金属の枠の外側に、ラバーシートを張ってあるんだ」 「すごい姿勢……っ。こんな恥ずかしいかっこうで、もしかして動けないの……?」  お言葉に甘えて近づいてみると、だいたいの様子がわかってきた。長方形の枠のようなものが外周にあって、それに合わせて黒いシートが張られている。そしてその中に、人の形をした盛り上がりがあった。真っ黒で少しわかりづらいけど、そうとわかれば恥ずかしいほどくっきりと体のラインが見えてくる。  どうやらうつぶせになっているようだったけど……とても、恥ずかしい姿勢だった。腕は肘が頭の横、手のひらは開いてほぼ頭の上。脚は大きめのがに股になっていて、どうやら閉じようとしているらしいのにほとんど動いていない。ぎちぎちと軋むような音がするだけだった。  ギャグアニメで潰れたときのような姿勢だけど……たぶん正面のほうから見たら、無防備で股を開いて、いやらしいことになっている。それがどうやら、動けなくなっているようで。 「呼吸経路だけ残して、中の空気を抜くんだ。そうしたら、大気圧で全方向からラバーシートを押しつけられて、全く動けなくなる。……真空パックってあるよね」 「ああ……そっか、あれって外から引っ張っても動かないですもんね」 「それを枠に固定して、パックそのものを平たく伸ばす。すると、もがいたり曲げることもできなくなるんだ。ラバーの摩擦もあるから中で滑って動くこともなくて、姿勢も変えられない」  解説してもらって、この子が動けない理由がわかった。四隅から同時に引っ張った真空パックは、確かに揺さぶったくらいではびくともしない。ふだんわたしたちは慣れて意識せずにいるけど、大気圧はとても大きい力だというし。  だとすると……わかってきた。これ、すごい。 「バキュームベッドというんだ。全身どこも動かせなくする完全拘束の中では手軽でありつつ拘束力も高いし、サイズ調整もいらなくて応用もきく。まっすぐ入ることもできるし、こうして他の拘束具では手間がかかるような姿勢にも自由自在なんだよ」 「いつきがこういう趣味があると知ったのと前後して、偶然見つけてね。……その、すごく可愛いと思っちゃって」 「おや。先に興味を持ったのは鈴莉さんだったと聞いたけど、変態の扉を開けたのは四葉だったのかい?」  聞いた限り、収まりさえすれば平面ならどんな姿勢でも取れてしまうし、体のサイズに関係なく入るだけでいい。それでいて、恥ずかしそうに必死に蠢いているはずなのに角度が全く変わらないくらい、ぎっちり拘束されている。  それに、真っ黒で中身がどんな人なのかよくわからないのに、それがなんだかぞくぞくする。まるで人間じゃないみたいで、肌が全く露出していないのもあってモノみたいだ。……わたしはただ拘束されることに興味があっただけで、そんな呼び名も知らない願望なんて思いついてもいなかったはずなんだけど。 「触ってみて。優しく、爪は立てないでね。敏感になっているし、ラバーは傷つくことがあるから」 「わ、わかりました。……こう、かな」 「んんっ!? ふっ、うぅ……!」 「そう、上手。ぴっちり肌に張りついているから、外から触ると独特の感触で鋭敏なんだ」  なんだか美術品みたいで気が引けたけど、触らせてもらえるらしい。もともとえっちの日は爪を切っていたから、今日はするとしても拘束プレイだから意味はないとわかっていても癖で切っていた。もちろん指は寝かせたまま、そっと手を伸ばす。  触れそうなのは、後頭部と背中、それからお尻。どこを触るか少し考えたけど、ここにいるのはこんな格好を見知らぬ誰かに見せてくれるようなひとだ。きっと、いわゆるマゾヒストという存在で、それも変態……わたしがこれから同類になるかもしれないモノだと思うと、手は自然とお尻に伸びていた。  まずは中指の腹あたりでそっと触れると……びくん。思っていたよりわかりやすくお尻が跳ねた。普通に素肌を撫でられるより敏感になっているらしいけど、タイツの上からなぞられるようなものだと思うと納得がいく。  それから、中指の第二関節、手のひらと順に触れさせていって……そのまま、手のひら全体でゆっくり撫でてみる。びくびく震えて、お尻に力が入るのがわかって……なんだか、かわいい。  ネコだと思っていたわたしにも加虐心が芽生えてしまう一方で、少し憧れも生まれた。パートナーがこんなふうになっちゃうところを見られるいつきさんは、きっと楽しいだろう。じゃあ、わたしがこうなったら四葉ちゃんは楽しんでくれるのかな? 「遠慮しなくていいよ。しばらくこのまま放置されてて、気持ちよくなりたいだろうから」 「じゃ、じゃあ……このあたりとか、気持ちいい……かな?」 「んっ……!」 「おお、鈴莉も大胆ね? じゃあ私は……こんなことしてる子なら、ここも気持ちいいんじゃない?」 「んむぁっ!? んっ、ぅぅっ!」 「さすがというべきかな。この子はそこも好きだよ」  想像してみる。こんな格好で、全身を撫で回すようにラバーに張りつかれて、指一本動かせないまま恥ずかしい姿勢で拘束されて、そのまま放置されていたら……どれだけ欲しくなっちゃうのか。どんなに気持ちよくなりたくても、この子は本当に何もできない。無駄とわかっていても後ろ手から股下に手を伸ばすような、意味のない抵抗すら。  そう思うと、股下のラバーシートぎりぎりを触ってあげたくなった。板のようになったラバーに遮られておまんこには触れていないけど、きっとこんなところに触られるのは恥ずかしくて、ちょっと気持ちいいはずだ、うつぶせになっておまんこにも乳首にも触れない以上、わたしにはそこしか思いつかなかった。  だけど、隣で膝をついた四葉ちゃんはもっと積極的だった。たぶんお尻の穴のあたりを指でつついて、ほぐすようにこねてしまっている。わたしのときとは比べ物にならないくらい、激しく反応して気持ちよさそうなうめき声を漏らしていた。  今さら気付いた、頭の上の縁にある呼吸孔から必死に漏らしている吐息が、すごく可愛らしい。それと同時に……わたしがこうなって、四葉ちゃんにお尻を触られるのを想像したら、興奮してしまった。恥ずかしそうで、お尻なんて触ったこともないわたしでもすごく気持ちよさそう。  少しそうして楽しんだところで、いつきさんが口を開いた。 「実はこれ、リバーシブルになっていてね。ひっくり返しても大丈夫なんだ」 「そうなの? じゃあ、もっとちゃんと可愛がれるわね」 「それだけじゃないよ。……まあ、見てみて」  そういうことで、ひっくり返してみることに。そうしたらあお向け、つまり体の前面が上になって、おっぱいもおまんこも触れるようになる。  いつきさんと四葉ちゃんが二人がかりで裏返しはじめたから、わたしも支えて手伝う。長方形の長いほうを軸に床につけたまま、そうして浮いたようになっても姿勢の変わらないバキュームベッドを逆向きに。 「……こっちは透明なのね」 「縁あって手に入ったものでね、恥ずかしいものだから嬉しそうに興奮丸出しで入ってくれたよ。裏返しの瞬間も楽しんでいたんじゃないかな」 「透明のバキュームベッドも調べたときには見たけれど……こうして直に見ると、壮観ね。人を支配している、って感覚がすごく強い……って、四葉?」 「あれ、どうしたんだい? そんな顔して……」  すると、表面は予想と違った。さっきまで見ていた裏面と違って、こちらは透明なラバーシートが張られている。  だから黒の背景に見事な女の子の裸体が磔にされていて、みっともない姿勢も、綺麗なおっぱいも、プレイのためなのか剃られてつるつるになっているおまんこも丸見えだ。  だけど、それを見たわたしには、そして向こうからも見えているらしいこの子にも、今はそんな場合ではなかった。 「…………愛花ちゃん?」 「ぁっ……ぁ、っ……」  だって、そのバキュームベッドに入っていた、いつきさんのパートナーというのは。  ……中学の同級生で親友だった、愛花ちゃんだったのだから。   ◆◇◆◇◆  不思議な体験だったけど、夢のような時間だった。  表面が透明なバキュームベッドとはいえ伏せられていたから何も見えず、耳栓イヤホンもオフのままだから何も聞こえない。そんな中でも鋭敏になった感覚はドアや歩きによる小さな振動や、気配なんかをしっかり感じ取れる。だからそこに見学の子たちがいるとわかって、見られているという実感が恥ずかしくて、興奮して。  そうしてどんどん疼いて、欲しくて仕方ないのに自分では全く気持ちよくなれない惨めさをひとしきり楽しんだところでお尻を撫でられて、期待を受け取ってくれたかのように会陰のあたりを撫でられて余計に恥ずかしくなって。さらには別の手がお尻の孔を撫で回してくれたから、危うくそれだけでイきそうになった。  それをどうにか耐えたら、いよいよ持ち上げられはじめる。裏返されるのだとわかって期待して、横向きに宙に浮いたような感覚と無力感を味わって……より恥ずかしい表面をたっぷりいじめてもらえると思ったところだった。  そこにいた二人のうち、片方に見覚えがあったのだ。中学時代に特に親しくて、高校が別になってからも時々とはいえ連絡を取って会っていた親友。見に来てくれるという人は普通に考えたら初対面だろうと、この場面では全く身構えていなかったけど……そこには確かに、鈴莉の驚き顔があった。  …………私は、イってしまった。接点は減っても親しかった親友にこんなところを見られた屈辱と興奮、それにもう元の関係には戻れないという絶望で。破滅願望なんて持っていないと思っていたけど、それでも私は透明なバキュームベッドの中でがくがくと股を突き出して絶頂した。  情けなく腰を揺らしながらゆっくり降りてきて、それでも自分から取ったいつも以上に無様な姿勢は崩れなくて、顔を真っ赤にしながらも表情を変えていない鈴莉を見上げて……友達を失うことを覚悟したところで、イヤホンから起動の電子音がした。 『……はい。愛花ちゃんとは、中学時代の親友で。わたしと違って、普通に楽しくしてると思ってたから……こんなふうに会うなんて思ってなくて、びっくりしちゃった』 『確かにまさかよね、友達のパートナーが彼女の親友だなんて……凄い偶然もあったものだわ』 『では、こんな姿の愛花を見て、鈴莉さんはどう思ったかな』 『すっっっごく、興奮しましたっ!』  いつきが聞かせてくれた、同時に気付いたらしい鈴莉との会話を聞くしかなかった私の耳に……鈴莉の、嬉しそうな声が届いた。  これには私が困惑してしまう。まさか鈴莉がこんなものに興じる変態だった親友を見ても、戸惑うどころか食い気味に興奮するほどの素質を持っていただなんて。……確かに冷静に考えれば、これをわざわざ見に来た時点で、二人ともそういう興味があったんだろうけど。 「う、ぁ……」 『あ、聞こえてる……?』 『うん。今、仕込んであるイヤホンに外の音を流し始めたんだ』 『……ねえ、愛花ちゃん。すっごく、かわいいよ』 「ぁっ……!?」  がくん。……私自身、自分がこんなに雑魚だとは思っていなかった。熱を帯びた表情の鈴莉に、バキュームベッド越しに晒された胸を揉まれながら可愛いなんて囁かれるだけで、また軽イキするだなんて。  私のみっともない痴態で、鈴莉が興奮してくれている。都合がよすぎて夢にすら見なかった光景だ。幸せすぎて、おかしくなりそう。たとえその鈴莉がもう他の人の彼女だったとしても、こうして触ってくれるのが気持ちよくて仕方ない。 『はは、興奮しているね。友達に受け入れられて、自分の恥ずかしい姿を見世物として楽しまれて、気持ちいいんだね。……うん、可愛いよ。誰にも渡したくないくらいに』 「ぁ……ん〜〜っ♡」  すごく、情けないと思う。続けざまにいつきに、親友への痴態でとことん興奮していることを楽しまれたら、今度は女として恥ずかしいほど甘ったるい声が出た。  だって、パートナーなんて言葉で誤魔化していたけど、私はいつきのことが好きだから。こんなふうに愛を囁くような言葉をかけられて、幸せにならないはずもないのだ。 『彼女持ちとしての見立てだけどね、いつき。その子、どう見てもいつきのことが好きよ。パートナーなんて呼んでるみたいだけど』 『……そうか、四葉の見立て通りみたいだ。それなら、そろそろちゃんと言葉にしないとね』  鈴莉の恋人さん……四葉さんには見抜かれていたようで、私が言葉を奪われている間にいつきに知られてしまった。けれど、このいつきの反応。期待して、いいのかな。  あまりにも爛れた、ロマンチックの欠片もない経緯でなし崩しになりかけていたところだったけど……ついつい目を泳がせていた反応は、強制的に中断させられた。 「んぁっ!?」 『その話は、愛花が喋れるときにしましょ。これ、使っていいんですよね?』 『ああ、そうだね。……うん、押しつけるのは少し優しくね』 『はいっ。……お互いこんな関係で、しかも二人ともネコで、あんまり遊ぶのもだけど……今はもっと、愛花ちゃんのかわいいとこ見たいな』 「んぅっ、ぅ、んむぅぅっ!!」  鈴莉がおまんこに電マを当ててきたのだ。それまで手で焦らすように優しく触られていて、途中でいろいろ挟まったとはいえ無様姿勢バキュームベッドで晒されていた私は、もう興奮と欲が限界に近い。そんな中で強い振動を、完全拘束の中で押しつけられて耐え切れるはずがなかった。  全部ひっくるめて、バキュームベッド全体をがたがた揺らしながら本気イキした私を、三人が楽しそうに見下ろしてくる。乙女としてもマゾとしても幸せで、どうやらバキュームベッドを体験もしに来たらしい同じ側の鈴莉にまで弄ばれて、あまりの興奮におかしくなりそうだ。  三人がかりでおまんこと乳首を徹底的に責め立てられて、本当に何度も何度もイき狂って、親友の目の前で透明ラバー越しにおもらししながら放心してしまったところで、ようやく出してもらえた。  開いてもらう間に全裸になっていた興奮顔の鈴莉に面食らったのも束の間、べったりひどいメスの匂いと汁に塗れた私を、鈴莉はむしろ自分の体に擦り付けるかのように抱きしめてくる。私もイきすぎてまだ力が入らない体で抱き返して、むしろこれまでより明らかに近くなった距離を噛み締めた。……なんか、すぐ向こうで「これからは四人で遊んでみるのも」、なんて話をされていた気がするけど。

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【先読み】夢の人間家具部屋での一日

『うぅん…………』  装着させられたイヤホン付き耳栓から、女性の唸り声が聞こえた。どうやら目を覚ましたところらしい。  だけど、私たちの意識はずっとはっきりしていた。だって……こんなの、眠れるはずがないのだから。 『ふぁ……』 「んっ」 「ぅぐ、」 「……っ、ぁ」 「ふぅっ、!」 「んぅ!?」 「ぁ……」  少女が起き上がると、別の五人分の呻き声。それに加えてひとつの寂しそうな声も聞こえた。……私はこのうち、呻き声のひとつだ。そしてその全てが、今の自分たちがどういう状況にあるのかを理解していた。実際に見ることができるのは、今起きたばかりの一人だけだけど。  私に感じられるのは、全身に張り付くすべすべのラテックスラバー生地と、それが全方位から押し付けられる気圧の感覚。体の形が恥ずかしく浮き出ているとわかる程度の自覚……つまり私は今、バキュームベッドの中にいる。エアマット型の、とても大きなものだ。  だけどそれだけではない。バキュームベッドでよく取らされるような四肢を開いた形ではなく、まっすぐ気をつけの姿勢で固定された体は……左右どちらの側面も、ラバーを介さずに温かく柔らかい人肌に触れていた。それどころか、手はちょうどそこにある隣の人と繋いでいる。バキュームベッドの中で。  形としては、五人が互い違いになって伸びたまま並び、全員まとめてひとつの大きなバキュームベッドに閉じ込められている状態。それが……今しがたまで寝ていた女性の下で、敷き布団代わりになっていた。 『……けっこう寝心地いいんだな、これ……』 「……ぅ」 「はっ……ぅ……!」 「んぐ、ぅ……」  並んだ私たちの上に横向きになるように寝ていたから、女性が上体を起こすと五人のうち胴体側にいた二人が楽そうになる。足側の二人は変わらず、そして中央の私は……苦しくて息が浅くなる。  ベッドの上に座った状態の彼女のお尻が、私の腹に置かれているのだ。外側に伸びている呼吸用パイプのうちひとつから、私の間の抜けた呻き声が漏れるが……女性はすぐにはそこから退こうとしない。  それは彼女にとっては事前にわざわざ言い含められたことだったし、私にとっては望むことだった。なにしろ私は、本当にどうしようもないマゾだから。特に苦しさで興奮するタチだから、今とても気持ちいいのだ。  彼女も「敷き布団の中央は体重を掛けて大丈夫」と言われているはず。でないといくらなんでも、そのまま片腕を胴体側の二人に置いてスマホを見始めたりしない。……その二人もまた、寝心地がいいと言われて興奮する変態だった。 『……ん、起きないと』 「んっ」 「ふッ……ぁ」 「あぁ……」 「んぅっ!」  女性が足を私が足を向けている方にずらす。私が腹筋に力を入れて耐えているのをよそに、足側の二人は寂しそうな呻き声。そのうち私の隣にいるほうは、途中で頭……というか顔を脚が擦れたようで甘いマゾ声を漏らしていた。  次に二つの苦しげな声……おそらく手が置かれた二人の声が聞こえたあと、私の腹にあったお尻が足のほうへずれていく。やがてそこからも完全に離れると、五人揃って名残惜しい吐息を漏らした。  最後に……ラテックスではなく、人間の素肌を手が撫でるような音。幸せそうに鳴いたのは、おそらく“枕”だ。枕になっているのは私たちが知る中でもとびきりの恥辱マゾで、なんとバキュームベッドの隣でまんぐり返しになっている。  拘束されて閉じ込められた箱から上に向けた尻だけを突き出して、そこに濡れないよう前貼りだけされた股を枕として使われていたのだ。さすがにあんまりなありさまと扱いだけど、幸せそうだった。尻だけ上だけど頭は肩より上の姿勢になっているから、辛くとも多少はもつのだろう。  …………女性はそのまま離れていく。その場には使われたままの、掛け布団代わりのタオルケットが無造作にかかったままの人間ベッドが残された。しかし完全に放置されたそれはなおも興奮が収まらず、余韻のみならずその場に存在するだけで楽しんでいる。  ……私たちは今、敷き布団そのものだ。家具としてベッドにマットレス代わりに置かれて、五人でひとつとなって悦楽に耽っている。枕も含めて、もはやそれは人間に使われている最中にすら限らない。  本当に、夢にまで見た天国のような時間だ。……こんなことになったきっかけは、あるひとつの企画によるものだった。   ◆◇◆◇◆  またミスト・スランバーが変なことを考えた。私の家族の会社だけど。 「フェチが一度は考えて、どう考えても実現できなくて諦めるやつじゃないですか」 「まあ、そっか……今なら割とできるのね……」 「施設もですけど、さては大規模企画AVに味占めてますね?」 「味占めてるよ。特に海外での売上が予想以上だったんだって」  シェアハウスに住まう後輩たちの反応がこれだ。無理もないと思うし、アナちゃんの推測は当たっている。  プロジェクト・ヒューマンファームは想定以上の大当たりを収めている。さすがに特殊寄りの性嗜好だと思っていたし、そもそもアダルト系の、ここまで性に奔放な施設が事業として成功するとは私ですら思っていなかったのに。大赤字にはならないように組んだから、あとはトントンになればいいなくらいに構えていたんだけど。  本場である欧米からの観光客も想像以上だったけど、国内への浸透が凄かった。もしミスト・スランバーがなければ、どのくらいこの国の性的文化に影響が出ているのやら。  牧場部分やヒトペット広場だけでもそうなのに、せっかくだからと撮影した企画系のAVをダウンロード販売したら飛ぶように売れた。ついでに有料会員がものすごく増えた。  運動会やフレームバインダーのテストはもちろん、ファームの様子を撮っただけのものや、バキュームベッド展示会を映像に残したものも。特にチェスが海外受けしたらしくて、「そりゃ味を占めるよね」と思ってしまう。  で、今回新しく企画されたのが。 「でも確かに、そういえば私たちはやってなかったですね、人間家具」 「ショーパブのを見て、こういうのもいいよねとは言ってたんだけどねぇ。そのうち作って会員動画にって考えてたら、上から来た企画書がこれ」 「人間家具でできた部屋での生活風景、って……漫画でも見ないですよ、リアリティなさすぎて」 「『どれだけリアリティがないものでも、実際にやればリアルになる』らしいよ」 「パワープレイすぎる……」  そう、部屋をまるごと可能な限り人間家具で作って、そこで人が休日を過ごす、という内容だ。ミスト・スランバーで人間家具を扱うのは初めてだというのに、いきなりそんなことをする。  ただ、私の立場からは否やは言えなかった。「人間家具用の商品を受注生産する」と、抱き合わせ企画化されてしまったから。……それに、「今のウチなら絶対に売れる」とは確かに私も思う。我が父ながら傑物だ。 「で……出演者どうするんです? チェスよろしく、かなり人数要りますよね?」 「黒百合の館とショーパブが手伝ってくれるよ。『ノーギャラでも押しかける』って」 「行動力のある変態団体がいっぱいあるのどうかと思いますよ」 「足りなければ、スウツペット企画のときの子達に誘いをかけようかなって」 「まあ、それだけあれば足りるか……一般募集したら収拾つかないですもんね」  人間役は私がやることになっている。そもそもが三択なんだけど、シノは一番目立つサドの立場には出たがらない。アナちゃんはというと、こちらは体格的にこういう動画の一人サドとして映えないのだ。  そんなアナちゃんを含む三人は、もちろん家具役としてオファーがある。本人が望まなければ強要はしないけど……。 「は? やりますけど」 「楽しみです」 「というかたぶん、あたし用のやつ思いついてる感じですよね。そういう顔してます」  この通りだった。そしてアナちゃんはまたしても大当たり、彼女はもう受けてくれたときの役柄が決まっている。  というわけで、私たちはまたしても大掛かりなSMロールプレイAVを撮ることとなった。……これ、一番大変なのは私だよね。演技には自信があるとはいえ。  ────そういう経緯があった。今は撮影日の朝、まだ起きたばかりだ。  さすがにずっと家具になりっぱなしは、いろいろな面で無理がある。昨晩はベッドだけ作ってそこに私が寝てから、夜中から夜明け前にかけてそれ以外をセッティング。ベッドや負担の大きい家具は、私が別室にいる間に一時解放して休憩をしたりするらしい。  私にはそれに干渉しないよう大まかな動きが指示されているし、撮影スタッフによるサポート体制も用意されていた。とはいえ、あのベッドはあと二時間はそのままだ。ベッドはそれを楽しめる子達……家具として実際に使われた経験のある黒百合の子達でできている。  楽しそうな呻き声を聴きながら洗面所へ。とはいえさすがに、水周りには人間家具は多くない。蛇口やら排水口、鏡なんかは代用のしようがないし。  それでも人目で異様さがわかるほどには置かれていた。たとえば歯ブラシやドライヤーを置く棚は、鏡を抱えるようにしつつその鏡の裏に顔を隠されてしまった子が担当していたり。 「ふっ…………、ぅ」  洗面台は透明な半球状の分厚いアクリルに排水口をホースで繋いで、それをボールギャグだけの素顔で裸のミカが支える形で設置されていた。仰向けになって四肢全てでしがみついたような格好のまま固定されている。  これだけの分厚さなら、そこに水を流しても少しの重量くらいしか伝わったりはしていないだろうに。透明な洗面台越しに私のことが見えてしまうから、意識しているのかもしれない。“使われている感”を出すためか、家具には視界が奪われていないものも存在するのだ。  そのまま顔を洗って……寝間着も脱ぐ。ついでに下着も脱いでしまって、洗濯かごには下着から寝間着の順で放り込んだ。その上にフェイスタオルも入れて、構わず全裸のまま洗面所を出た。私はサド側だけど、フェムダム要素のあるAVで女王様が裸体を晒すくらいは普通のことだ。  洗面台と似たような形の洗濯かごはちょうど顔にショーツが被さって悶えているが、気にしない。今は使われないまま置き去りにされた足ふきマットが、洗濯かごの横で疼いている様子もカメラに舐めるように撮られていた。  寝室に戻ってきて、二人組のハンガーラックから着替えを取る。まっすぐ伸びたただの柱にされて、首どうしを金属の棒で繋がれただけのシンプルなつくりだ、しかし向かい合わせの方向になっているから、自分と全く同じ状態の相方も、自分が使われている証の衣類も見せつけられている。おまけに片方はこれから使うショーツ、もう片方はブラジャーを頭に載せられていた。普通はそんなことしないだろうに。  下着姿になってからひとつずつ服を取っては空になったハンガーを戻して、ややラフな部屋着を兼ねた私服に。マスクギャグを着けたそれらは背中に添えられた支柱に固定されて、体を曲げることすらできない。  続けて隣にあった衣類掛けから小物を取った。撮影は暑い時期で、裸のものも多い家具たちが消耗しない室温だから上着はない。やじろべえに近い姿勢で支えに固定された衣類掛けも、裸にベルトのような小物がかかっているだけの姿だった。  ヒトイヌと同じ姿勢の背中にアクリル板を乗せたサイドテーブルも使って身嗜みを整える。あれも四つの脚自体ががっちり固定されているから、それに身を任せていれば辛くはない。頭が向こうを向いていて、カメラにアクリル板越しで丸出しの尻ばかりが映るから恥ずかしいだろうけど。  化粧台も洗面所の棚と同じく、鏡に胴体の大半を隠される形で人格を剥奪されている。これは使用者が整えていない顔を家具ごときに見られて恥ずかしい思いをしないためだ。この作品を見る人も、基本的には私に視点を移入するだろうから。  今もしっかり固定されたそれの視界は鏡の裏で塞がれて、音だけで想像をかきたてられているだろうけど……人間家具の魅力は人と家具の対比だから、私が恥ずかしくなっては魅力が減じてしまう。 「……よし」 「…………っ!」  昨晩使ったという設定なのか、サイドテーブルに妙に多く置かれていた小物をいくつかラックに戻す。全裸の女が肩と股関節を真横、肘は上、膝は下に向けて平たく固定されているという寝室でもトップクラスに無様な代物で、体を仕切り板として扱われている。三段になっているうち頭が位置する上段は、扉が閉まって見えない尊厳破壊の徹底ぶり。  さすがに恥ずかしいようで丸出しの股からは愛液が滴っているけど、それはあくまでただの家具だから触ったりはしない。板が据え付けられた二の腕と太腿にものを置くと、重みでわかったのか反応。しかし上級者なのか、それ以上の声は我慢してのけた。  ベッドが示しているようにマゾ反応はいくらでもしていい方針とはいえ、これはこれで見栄えがするから少し満足。頭に暖色のLEDと頭ごと覆うカバーをつけられ、本人は明るさ以外の視覚を奪われた間接照明を消して寝室を出た。  なるべく多くの家具を使うようには言われているけど、作れる家具は作っていることもあって朝から寝室の全てを使うことはできない。背景に徹したまま再びの放置が決まったものたちはいくつもあって、あるものは寂しげに私の背中へ意識を向け、あるものは散々使ってもらえたものたちに嫉妬を示した。  でも大丈夫。そのまま部屋に残ったカメラはカットを挟んでから、部屋中の家具をじっくり撮影することになっているから。  待機していた二つ目のカメラを連れて、私は続けてもうひとつの部屋……の前に寄り道をする。 「うぅ……、っ!?」  扉を開くと反応したのは、トイレだ。……といっても、黒百合の館の主がよくやる飲尿形式でも、ショーパブが人間家具展示会で置いていたまんぐり返しのおもちゃでもない。今回はマゾっ子を徹底的に家具にして、それで生活するのがコンセプトだから。  言い換えれば、「家具に扮している人間を陵辱すること」が目的ではないのだ。今回やりたいのは、「人間を極限まで本物の家具にして使うこと」。人間のおしっこを飲ませるのも、玩具責めで鳴かせる機能を持たせるのも、人間に対する責め苦だ。  では今回どうなっているのかというと……人間を便器の一部にしている、というのが近いものだった。全身を完全に陶器らしい白色のラバーに覆われたそれは、床に座らされて便器を囲うように脚を菱形にしている。小型の便器を抱えるような形だ。  そして縦長の楕円形になるよう板付きで固定された腕は、便器の縁の上に置かれている。今はその上に蓋もされていて、フードの形で顔出しになったラバースーツとやはりマスクギャグの顔が見えていた。 「……」 「っぐ…………ぅ、」  つまり、腕を便座にされている。便器の一部というのはそういうことだ。私は蓋だけを上げて、その便座に遠慮なく座った。しっかり重いだろうけど、その便座はちょうど肩が水平になるような高さに調整されている。人のお尻の重さだけを堪能できるはずだ。  上がった蓋が挟まっているから便器は使われている間だけ何も見えず、一方で自分が便器になっている証の顔は晒されてしまっている。蓋越しに聞こえる排尿音が腕の中に聞こえて、どんな屈辱が課せられているのだろう。私には想像がつかないし、少し気になる。  とはいえ構わず用を足して、トイレットペーパーを手に取る。……これも人間家具だ。白の壁紙と同じ色で溶け込むように壁へ固定されて、正座で後ろ手。腕を家具にしてもらうことすら叶わず、咥えさせられている猿轡から伸びた部品にトイレットペーパーが装着されていた。  便器を一段高くされていることで、それの目線は便座より低く調整されているから私の排泄シーンは真横からの太腿しか見ることができない。彼女はシンプルな完全拘束状態のまま、目の前で回るトイレットペーパーを見ることしかできないのだ。 「…………」 「…………ぅぅ」  便座はなだらかなコの字上に腕へ被さっているから、蓋を閉めれば流される水がかかることもない。頭上で手を洗われても何もできない便器が呻く中、用を終えたからトイレを出た。あの二人はあのまま仲良く屈辱を楽しむことなる。  廊下はさすがに映る機会も少なくて可哀想ということか、何もないから立ち止まらず通る。入ったのはリビングダイニング、こちらも家具だらけだ。  上を見れば、大の字にされた全裸が天井に磔にされている。乳首とクリトリスの一日電球が吊り下げる形で括り付けられているけど、あれは使われない予定だ。もう明るいから必要もないし、本人も曇らない限り使われないと聞かされてあそこにいる。愛液を垂らしてしまわないように前貼りもされていて、あれはひたすら固定された視界で他の家具と私を見下ろすだけだ。  とはいえ回線が繋がれてはいるそれを無視して、まずはキッチンへ。……短いバイブ音とともに小さな喘ぎ声がしたけど、これも後回しだ。キッチンには特に家具が置かれていないから、カメラはついてこない。 「よし、と」 「んぐッ!?」 「「「「ん……っ」」」」  適当にトーストを焼いてダイニングに戻ってきて、コーヒーとトーストを机に置く。もちろん人間家具で、これは四人一組で作られたダイニングテーブルだ。  腰をくの字に折り曲げて肘と膝は伸ばしつつそれぞれ開き、それをお尻どうしをくっつけるように合わせた四人の上に板を乗せている。もちろんあちこちに固定具が入っているから、がたついたりはしないんだけど……特徴が三つ。  寝室のサイドテーブルと違って、天板が木製だから上から見えない。人間の視点では木の板しか見えず、意識すらされないことを上からのカメラで強調されている。すぐに動いて真横からになったから、たくさん映してもらえるけど。  それから、固定具が縦にだけ入っていない。これによって乗せたものの重さは直に家具の子たちに伝わるようになっている。その上で軽いものしか乗せていないのは、ただの家具として使うだけで責めたりはしないコンセプトによるもの。  そして、四人のくっついているお尻。この中央には、十字ディルドとでも呼ぶべきものが上下ふたつ使われている。おかげで「ひとつのものにされている」という感覚は強いはずだ。  ……一方の椅子はというと、ダイニングに座る時間は短いからと厳しいタイプのものだ。土台の座面にあたる部分に背中をつけて、まんぐり返しの要領で胴体の上に太腿をくっつけて固定。真上に伸ばした腕とふくらはぎをまとめて固定し背もたれのようにしている。股が座面の端になるから、人間を汚さないようにラバースーツ着用。  もちろんこんな背もたれは飾りであって実用性がないからもたれないけど、代わりに短時間だけしっかり座ってやる。四つあるものの、私が座るのは強く希望してきた子と決められているから問題ない。 「「「「ん…………」」」」 「ふっ……ふっ……ぅぐ……」  ちなみにテーブルは長方形だから、四人の中でも体の開き具合が違う。短い辺を担当する子は三十度、長い辺は六十度だ。しかもこちら側の長辺は私の下半身が見えるから「使われている感」が強いだろう。代わりにカメラにはあまり映らない。  椅子に遠慮はせず、急いだりはせずに朝食を済ませた。気をつけるのは椅子を引くときに頭をぶつけさせたりしないかくらいだ。  ……部屋主役、予想していなかった大変さがある。こんな唆る反応をしていても、絶対に私はそれに反応してはいけないのだ。私もサドだから、それは案外意識させられることだった。  動画ではカットされるだろうけど、皿洗いはわざとゆっくり。生活音をしっかり鳴らしつつ、どの家具も使っていない状態で全ての家具を焦らす。それも今しかできないことだと思ったから。  片付けを終えて戻ってきたら、最初に触れたのはリビングのラックの下に置かれた箱だった。外見はなんでもない木の箱なんだけど、今回の企画で開発部が一番自信ありげだったのはこれだった。 「確か、ここに……っと」 「───ぁ、っ」  座るには少し低いくらいの箱をオープンラックの下にある空間から引っ張り出して、上面の半分だけ上に開くようになっている扉の鍵を開ける。蝶番式の片開きを開けると……中から現れたのは、小柄な女の子の少し上向きに固定された下半身。  中身からは空気が触れた感覚でわかったのか、切なげな声が漏れてきた。それはよく聞き慣れた、平均的な体格では入り切れないであろう箱に相応しい声。これはアナだ。 「ん……っ、ぁ、ぁっ……」  今回のアナの出番はこの下半身だけ、箱詰めからは出てこないし上半身側は見えもしない。寝室のラックと同じだ。  晒された下半身の、股間部分につけられている貞操帯に鍵を差し込んでロックを外す。腰ベルト部分は触れないままシールド部分だけを外して、自慰防止板も取り除くと……小さくつるつるで可愛らしい割れ目が露わになる。  私はそこに指を差し込んで、中に挿入されていたものをほじくり出した。甘い鳴き声は無視して、用が済んだらすぐに指を引き抜いてしまう。自慰防止板、シールド、貞操帯の鍵の順番でつけ直してしまえば、また切なげな声が漏れた。構わず箱を閉じて鍵をかけ、元の位置に戻してしまう。  あれは金庫だ。貞操帯によって膣穴をセキュリティにした、ああされて一番疼いている場所をむざむざ使われてしまう哀れな貴重品入れ。いわば家具の中ですら、存在価値が穴だけになってしまった存在だ。あんな大きな箱で、保管できるのはあの小さな穴に収まり切るものだけなのだから。  取り出したカプセルは内部に水気が届かないようになっている。仰向けで丸まってラッコのように保持させられているティッシュホルダーから一枚取って、表面の愛液を拭き取ってから開く。中身はUSBメモリがひとつだけだ。 「…………」  リビングにも寝室と似たローテーブルがある。こちらは上に置かれているのがデスクトップPCの本体とキーボードマウスと重いこともあって、あちらよりも完全に固定されている上に二人がかりだ。ヒトイヌ姿勢だけど、接続方式はダイニングテーブルと近い双頭ディルド。ただし天板はアクリルで上からも見える。  ではモニターはどこに置かれているのかというと、ソファから見てローテーブルの向こう側にあった。……正座拘束された女の、顔に固定される形で。化粧台や洗面所と似ているけど、こちらのほうが無様さは強い気がする。なにしろきっちりした正座かつ後ろ手で拘束されて、ぴくりとも動かず呻き声すらない。 「「っ、く……」」  そのPCを立ち上げて、USBを差し込む。中に保存されていた動画を再生しながら、ソファに深く腰掛けた。  言うまでもなく、そのソファも人間家具。三人がけの大きさで、中には座った姿勢で四人が横並びで埋め込まれている。上にクッションを挟まれているから少し分かりづらいけど、私が座った位置は一人目と二人目の中間あたりか。  ただ……そんな座面たちはまだマシだ。実はこのソファ、埋め込まれた座面の尻の下には丸まった姿勢の土台が四人埋め込まれている。  彼女たちは何も見えず、私の動きも大まかにしかわからず、座られているかも真下にいないとわからないばかりか、映像では存在を示す手段がない。おまけのメイキング映像でしか存在を認識されないのだ。それを望んだ、控えめだったり初体験の子が入っている。  そうした存在を認識すらされない子たちがいる一方、自身は耳栓をされながらスピーカーとしてモニターの両隣に設置された分かりやすい子もいる。あれも裸、背中を支えられながらM字開脚で固定されて股と腋にスピーカーをつけられていた。  そこからはモニターで流れ出した、ミスト・スランバーの過去のAVの音が流れている。部屋にいる全ての家具たちにとって、こんな状態で聞かされる好みのAVの音声なんて毒そのものだろう。  だが私はというと、見慣れたそれを流し見つつソファの隣にあったスマホスタンドで通知のバイブレーションを繰り返していた携帯を手に取った。……さっきバイブ音で喘いでいたのはこれで、これまたまんぐり返しで薄い防水ラバー越しにスマホを膣穴へ挿入され立てられていた。この姿勢、股間や穴を上にさせるのに便利だからか多用されている。  引き抜くと落ち着くも名残惜しそうなそれも、金庫を開けてまでチェスの様子が流したモニターやスピーカーも、その向こうでまたしてもまんぐり返しで二穴に花を活けられている人間花瓶も、私は見ていない。人間家具まみれの部屋で一度目の山場として落ち着いたのは、それだけある家具たちとAVを全て無視してスマホを弄る私の光景だった。

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【先読み】ぺんぎんさんは檻の中

 私はこれまで、とにかくへたれだった。マニアックな拘束SM系のジャンルにはずいぶん昔から興味があったのに、18を過ぎてもその界隈に手を出さないどころか、調べすらしない。漠然とそういうのが好きだと自覚して、妄想はして慰めているのに。  妙な後ろめたさを踏み越えることも満足にできなくて、ろくに知りもしないまま無為に時を過ごした。見る専用のアカウントをSNSに作るどころか、他に誰が見るわけでもないスマホの検索履歴に残ることすら躊躇っていた。  そんなありさまのまま四年経って、社会人になってもまだそんな自分でも恥ずかしいほどのピュアは変わらなくて。さらに二年経って、職場には後輩も入ってきた。……転機はそんな秋口の昼休みだった。 「そういえば、前言ってたヒューマンファーム行ってきたんだけど」 「お! どうだったの?」 「めちゃくちゃよかった。私みたいなのにとっては、ちょっと遠くても通う価値あるとこだったよ」 「へー、やっぱそのへんはミスト・スランバーってことなのかな」  給湯室に食後のお茶のためのお湯を取りに来たところで、今年入ってきたばかりの新人の子たちの話し声が聞こえたのだ。反射的に入口の手前で止まって様子を窺ったけど、正解だった。すぐに私でも名前くらいは知っているアダルトグッズメーカーの名前が聞こえてきて、あまり表立ってする話ではないとわかったから。  となると、その前の「ヒューマンファーム」というのはそれに関係する単語だろう。人間牧場、と聞いても、漠然と興味があるだけで何も知らない私にはよくわからない。 「馬とか牛とか見てきたの?」 「そっちもひととおり見てきたんだけどね、最近併設されたヒトペット広場が凄くて」 「あ、なんか聞いた。ペットプレイ専用のマッチング施設だっけ」 「うん。しかもそれだけじゃなくてね、オープンな遊び場も兼ねてるの。人前でも遊べるし、フリーの子は普通に出歩いてるし、それどころか展示まであってね」 「へえ……そりゃ確かに、他のところじゃ絶対できないね」 「私はマッチングなしで見て回っただけだったんだけどね、それでもとんでもなかった。次は予約入れてこっかな」  ……正直、言っていることの大半はわからなかった。だけど、いかがわしいことの話をしているのだとは察しがついたし、それも一般的な行為とは程遠いことだとくらいはわかった。馬とか牛とか、人前とか展示とか、そういう場面でふつう聞くはずのない言葉がいくつもあったから。  この時点ではそれが私の興味に含まれるものなのかすらわからなかったけど、妙に気になって仕方ない。それに……後輩の可愛らしい年下の子が、こうして人目につかない場所とはいえ平気でそんな話をしていることに、触発されてしまったのだ。それに引き換え私は、このまま何も知りすらしないままでいいのか、と。 「……あ、雪下さん。お疲れ様です!」 「お疲れ様。ちょっとこれ借りるね」 「はい、どうぞ」  私は足音を消して無人の廊下を少し戻ってから、話の切れ目を見計らって給湯室に入った。私より少し背の低い二人の後輩たちの邪魔をしたことを少し後ろめたく思いながら、お湯だけ取って踵を返す。  後ろから「……雪下さんって、ああいうの興味あるかな」「ないと思うよ。私たちと違って、清楚そのものだし」という声が聞こえる中……それを聞き流しつつ、手元のスマホで「ペットプレイ」と検索をかけた。  そこには当然とばかりに、私が漠然と求めていたものが並んでいた。 「ヒトペット広場へようこそ。飼い主プランとペットプランがございますが、どちらのプランをご希望ですか?」 「ペットプランで、お願いします」 「かしこまりました。では詳細をお伺いしますので、四番の控え室にどうぞ」  ずっと調べすらせずにいたのは、実家がとても厳しくてほんの少しでも性を想起させるものに家を出るまで触れられず、そのせいで奥手に振る舞ってしまうのが染み付いていたからというのが半分。一人暮らしを始めてそれから解放されてから、そういうものに触れてしまったら止まらなくなると自分で確信していたのが半分だった。  ただ、もう我慢がきかない。どうせ誰も迷惑しないのだから、触発されてしまえばもう流されるままだった。いろいろ調べて、ヒューマンファームが相当ニッチな立ち位置だと知って、それでもそのまま惹かれてしまったから来ることにした。ペットプランにしたのは、自分はそちら側だと漠然と感じたからだ。 「でははじめに、お客様をペットとしてお呼びする際のお名前などがありましたら、ぜひお教えください」 「えっと……じゃあ、ユキ、と」 「ユキ様ですね。ではさっそくですが、コースにご希望はごさいますか?」 「その……実は、決まってないんですけど……動物園がいいな、とは」 「なるほど、かしこまりました。でしたら、一度このままご覧になりに行かれますか?」 「よければ、はい」  そして今回、私はやりたいことが漠然とだけあった。それが、特定の飼い主プランの人やスタッフさんと遊ぶのではなく、「動物園」と呼ばれるエリアでただ見られてみたい、というものだった。  本当に初めてで、一対一は不安なのもあるけれど……私は学生時代からずっと、高嶺の花扱いで遠巻きに見られることが多かった。友人は人並みにいて一人ではなかったものの、知らない人や近しくない人の視線は距離を置いて浴びることに慣れていたのだ。だから、それと似たもののほうが、私はむしろ慣れやすいのではと考えた。  調べた限りでは、ヒトペット広場の動物園はそれこそ本物を模したものらしい。似たような雰囲気の区域で檻を隔てて、動物風の拘束を施された子が入り檻の外から見られる。基本はそれだけだ。  一部の種類の場合、他にもできることが多少あるようだけど、主題は「見てもらうこと」。それも、恥ずかしい姿を、動物……それどころか、展示物として。 「……すごい。こんな、夢の中みたいな」  ここに来た以上、いいと思ったらどこまででものめり込んでしまいたいと思っている。施設に求めているのは、私の場合は無知をカバーしてくれる対応や雰囲気だ。  その点、一度見る側として入場しておいたのは正解だった。なにしろ、ここでは当たり前として扱われていることはどれも私にとっては好奇心を触発してくるものだったから。  道中で四つん這いになり、ペアになっている人間にリードを引かれている子も。カートに載せられて少し目立ちながら移動している、どの動物なのかぱっとわかる姿の子も。動物園エリアに到着する前の道中ですら、それだけで私の人生をいくらか変えてしまうようなものばかりだった。  動物園に入ればそれはもっと顕著だ。蹄のようになったブーツを履かされて、腕にも同じ形になった細長いパーツをつけられて脚を伸ばした不安定な四足歩行をさせられている“しかさん”も。腕の入った翼の先端を定期的にワイヤーで巻き上げられて、動けない裸体を晒される“みみずくさん”も。  それ以外にも、発想力に満ちたものからどこか無理があるものまで、さまざまな動物がいた。それら全てが共通していたのは、対象に性的で強烈な羞恥、または尊厳の破壊を与えるものであることだった。 「……っ、ふ、ぅ……」 「…………かわいい」  そんな中で、見つけた。不思議と私が「なりたい」と心から思ったのは、“ぺんぎんさん”と看板を置かれた展示だった。  たぶん、骨格を参考にしたのだろう。踵とお尻がくっつくほどぴったりと畳まれた脚を胴体ごと固定されて、しかしそのまま足の裏で立っている。歩幅はこれでもかと小さく、頑張って歩いているのに足の裏ふたつぶんあるかどうかの一歩はあんな姿なのに微笑ましくさえある。  その一方で、とても卑猥だった。そもそもが性的な、SMプレイの延長線上にあるのは確かなのだろう。ちらちらと見えてしまう股は隠す手段がなく、お尻の辺りからは尾羽を模したような飾りが伸びている。口についている嘴がどう作用するのか、そもそも喋れるのか自体わからないものの、漏れる吐息に意味にある響きはない。  可愛らしくて、恥ずかしくて、目を惹く。あれで見られて、遠巻きに見て楽しまれるなら……比較的、これまでにも私が受けてきた扱いに近そうだ。個人差はあると思うけど、そういう扱いなら私はあまり苦ではなかったから。 「……あの。私、これを受け取っている者なんですけど……」  一応もう少し考えたけれど、やっぱり他にないと思った。私は近くにいる“飼育員さん”に声をかけて、動物園希望のペットプランであることを示す印を見せた。  同じようなことをする人は少なくないようで、戸惑われることもなくバックヤードへ案内されることになった。準備は全てそこでしてくれるらしい。  動物園は主に中上級者に人気で、また受け入れられる数の多いやりやすい遊び方だった。現にただでさえ安いペットプランの中でも、特に料金が割安になっているらしい。充実しているほど飼い主プラン向けのサービスが増すから、それも頷ける。  ここでしかできないことだからリピーターも多い、らしい。そんな、他のところの職員さんよりもややフレンドリーな職員……飼育員さんたちの話を聞きながら、荷物を預け細部を詰めていく。“ぺんぎんさん”ひとつとっても、好みで選べる部分はなかなか多かった。 「じゃあ、さっそく始めていくからね」 「はい、お願いします」  直前まで丁寧語だったスタッフさんが、砕けた言葉遣いに変わった。それはお客様から飼育物に対する扱いに変わったのだとすぐにわかって、少しぞくぞくする。  手の空いている飼育員が二、三人ほど詰めている控え室の、動物がいられるように整えられたスペースで、まずは裸になった。個室で“変身”することもできるとのことだけど、私はとことん雰囲気を味わいたくなっていた。これも経験不足だからこその怖いもの知らずなのだろう。 「まずはこれ。ポーズは取れる?」 「見てきたので……これで?」 「もう少し脚を開いて。でないと歩けないから」 「は、はい……うぅ、恥ずかしい」 「それが欲しくて来たんでしょ?」  その通りだから何も言えない。きっと慣らしてくれているのだろう、言い逃れは許されないようだ。  最初に指定されたのは、ぺんぎんさん特有のポーズを取ることだった。しゃがんだ姿勢から膝を上に向けて、しっかり畳んでふくらはぎと太ももの裏、太ももの裏とお腹をくっつける。  この時点でなかなか恥ずかしい姿勢なのだけど、自然にまっすぐにしていたよりも少し足を開かされた。よりはっきり股間が見えてしまうけれど、足どうしを離さないと歩きづらいらしい。  この状態を固定するために拘束具をつける。ベルトというよりはカバーのような幅広の、薄く丈夫な革の素材だ。これは少々無理のある姿勢での拘束を、少しでも負担少なくするためのものらしい。  腰の後ろまで覆われて、本当に全く脚を伸ばせなくなった。もちろん膝を胸の下から離すこともできず、まだ腕は自由とはいえ無力な姿勢から動けない。 「次はこれ。しばらく身を委ねていてね」 「わかりました……」  もっとも、実のところぺんぎんさんの必須パーツはこれだけだ。あとは何らかの形で手は使えないようにされるだけ。だからこの専用拘束具を晒すパターンもあるところだけど、私はそうしなかった。  複数人がかりで持ち上げられて、コンパクトになった全身をラバーに包まれていく。ぺんぎんさんスーツとでも言うべき専用のラバースーツは、この姿勢のまま上から全てを包み込んでしまう特殊な形状だった。 「……少し、楽になった気がします」 「ある程度、姿勢補助機能があるからね。その代わり、余計に人間っぽくない格好に馴染んじゃうけれど」 「それは、はい……それに、食い込んで恥ずかしい……」  胸からお腹、股下にかけて楕円形に白くなっていて、背中側は黒の模様。それに、畳まれた脚はまるでないものかのようにスーツの内側に飲み込まれていて、外からは凹凸だけしかわからない。ゆったりしたセーターの内側に体育座りをした脚を入れたときの見た目に近い。  それ以外でどうしても気になってしまうのは、そこだけ薄くなっているようで股の間に食い込んで縦に筋を作っているところ。これでも穴あきで丸出しの選択肢は選ばなかったのだけど、それでも強調されてしまっている。ペンギンは卵生でおっぱいがないからか、胸はそうならずに膨らみが見えているだけなのに。 「腕……羽のほうは大丈夫?」 「はい。動かないです」  そして腕。板のようなものを仕込んで曲がらなくするだけで羽としては普通に動く形もあるそうだけど、私はより拘束されたくなった。まっすぐ下ろすよりやや後ろ手の位置に伸ばしたまま、胴体にくっつけたまま固定されている。手首から先は指を伸ばした形のミトンになって外側へ向いていて、床につけて歩くことができる。  足もペンギンっぽい形にはなっていたけれど、こちらは動きやすさは変わらなかった。これ以上不便にしたら、もう動けなくなりやすいのだとか。 「あとは……失礼」 「んっ……ぅ、はぅ」  要望したのはあと二つあって、ひとつがこれ。尾羽つきのアナルプラグだ。ペットプレイをあれこれ調べたとき、尻尾プラグには少し憧れを持ってしまった。ぺんぎんさんを選んだときには一度諦めかけたものの、同じようなものがあって安心したくらいだ。  事前に少しだけ開発してきたそこを、軽く解してもらって挿入される。ぞくぞくする異物感をきゅっと締めつけると、尾羽が床に寝かされて触れる感覚ははっきり伝わってきた。 「最後にこれね。準備はいい?」 「お願いします……ぁ、ぐ」 「はい。それじゃ、時間になるか、異状を感知するか、檻の中の中止ボタンが押されたら迎えに行くからね」  そして最後に、嘴。頭は特に多くのオプションがあって、中には全頭マスクどころかペンギン風のスウツマスクまであったけれど、私は頭はそのまま出すことにした。その一方で、顔の下半分は隠す嘴マスクはつけることにしている。  上顎と下顎にそれぞれマウスピースのように固定する形式なんだけど、舌は固定されているし嘴どうしが当たって完全には口が閉じないようになっている。猿轡というほどではないものの、ふんわりと言葉が不明瞭になる程度のものだ。普通には喋れない要素くらいは、ペットになった実感として欲しかったのだ。  ひとまずこれで完成ということで、そのまま抱え上げられて輸送カートに載せられた。運んでもらって、ぺんぎんさんの檻に入れられるのだ。  なすがままの無力感、高揚と緊張、それに尾羽の重量がお尻にかかる刺激も。いろいろなものが混ざり合って、私はこれまでの人生で間違いなく一番どきどきしていた。  ……外に出てきた。見知らぬ人の前で裸になり、恥ずかしい格好で自由を失った時点で手遅れではあるけれど、いざ屋外に出てくるとまた違う感覚が襲う。ここはヒューマンファームのドーム施設の中とはいえ陽光は差しているし、時折弱い風も吹くようになっているからそれがラバースーツ越しに当たる。  しかも、人目がこちらに向いてくる。まだ檻に入ってもいないものの、通っているのは動物園の通路だから当然だった。 「新しい子ですか?」 「はい。ぜひ見てあげてください」  中には声をかけてくる人もいた。その度にじっくり見られて、私のことを飼育員さんが応対する。狭いカートの中では立っていることしかできない私にとって、近距離から遠慮なく届く視線は屈辱に満ちたもの。  ただ、それがとても甘美なことにも早々に気付いてしまって、やっぱり私のようなのはここに来て正解なのだと実感する。なかなか視線を上げて目を合わせたりはできないけれど。 「はい、ここ。自分で入れる?」 「ぅ……」  すぐにぺんぎんさんの区画に到着したけれど、その頃には檻の前に人集りができていた。なんでも新しい動物が入るときには告知があるそうで、それを知ったお客さんが集まったらしい。  私は結局ある程度調べてわかったことしか知らないまま来ているけど、常連は違うのだろう。気軽に来ては見るだけ見て帰る人も少なくないそうだし。とにかく今大事なのは、私の惨めなところを見るために十数人は集まって、客同士で話に花を咲かせながら今か今かと待っていたこと。その集まりがさらに人を呼んで、私たちが到着したときには軽い歓声すら上がった。なんだか本当に動物園みたいだ。  檻の入口を開けられて、そのすぐ手前に下ろされる。抱えたまま入れることもできるだろうけど、そこに自ら入ること自体が見世物になるのだとすぐにわかる。同時に、こうなることを強く望んだマゾであることの喧伝にも。  どういうわけか尾羽は緩く持たれたまま、言われた通りに歩みを進める。体ごと左側を前に出して、足の裏で踏み出す。窮屈な姿勢で不安定になるのを、お尻の後ろにちょこんとついた手……羽で支えたまま。  一歩歩くだけで、背後から歓声が聞こえる。スーツの中でがちがちに縛られて、その一歩は50センチもないのに。 「ふっ……ふっ……」 「がんばれー!」 「もう少し!」  ゆっくり、ゆっくり前に進んで、それを大勢で見守る。励ますような声まで出るさまは、まるで生まれたばかりの動物の赤ちゃんが初めて立ったり歩くのを見守るような。  それが自分に、仮にも成人した人間に向けられているのは、なんと惨めなことか。だけど、それに相応しいようなありさまなのも確かだった。進んでいるのがどうにかわかる程度の、当然のように本物のペンギンよりも遅い歩みだ。コツがわかってきて、しっかり掌に体重を乗せてもそのくらい遅い。  そんなところを、後ろ姿をじっくり眺められて応援されている。スーツの内側にまとめられて動かない腕も、つるりとしたラバースーツに包まれて形をさらけ出したお尻も、そこから生えて構造が丸わかりの尾羽も。  前を見れば、二羽いる他のぺんぎんさんもこちらに注目していた。片や嬉しそうな、片や熱を帯びた視線の二羽は、果たしてそれがつい数十分前に熱視線を浴びせて目を合わせた女だと気付いているだろうか。仲良くはしてくれそうだけど……同類とはいえ、恥ずかしくて仕方ない。今は後ろからたくさん見られているけれど、卑猥なのは前のほうなのだ。  やがて……完全に檻の中に入って、飼育員さんが尾羽を離し床に置いたところでより大きな歓声が沸いた。それまでにもどんどん増えていたらしい観衆が、それでさらに増えていく。こんな一大イベントが、この動物園では毎日何度も起こるらしい。  見世物になっている、という実感が強まっていく。私の普段とは似ても似つかない姿が、良識ある観客たちによって人間ではないものとして、娯楽として消費されている。恥ずかしくて……ぞくぞくする。 「っ……! ぁ、っ」 「じゃあ、メタちゃん、あとはよろしく。レイアちゃんも、ユキちゃんと仲良くしてあげてね」  がしゃん、という、軽くも何が起こったかわかりやすい音が響いた。振り返るとやはり、今しがた入ってきた檻の扉が閉められている。そのまま南京錠と、さらに鎖によってしっかり施錠されていく。  閉じ込められてしまったのだ。こんな、身を隠す場所なんてほとんどない、たくさんのお客さんが通りかかる檻の中に。私は今から、ただ恥を晒し鑑賞されるための存在なのだ。  …………それを自覚した瞬間、触れられてもいない股の奥がひどく熱くなって。実感だけでイってしまったのだと、遅れて気がついた。つい昨日まで一人遊びしかしたことがなかったのに。  さすがにそれだけで背後からさらなる反応はなかった。単に震えただけで大きな声は出していないから、気付かれずに済んだようだけど……それはあくまで背後の話だ。  前方にいる二羽のぺんぎんさんは、どうやら気付いてしまったようだった。片方は微笑ましげに、もう片方は恥ずかしそうにこっちを見てきている。  どう接すればいいのかもわからなければ、どうなら交流しようがあるかもわかったものではないのだけど、まずは近付かなければ仕方ない。  どうせ動けないこともあってか奥行きはさほどないけれど、見物客の数を取れるようにか横にはやや長い。まずはそちらへ、恥ずかしいのは承知で近寄ろうとしたのだけど……。 「ひぅっ!?」 「あー……」 「ん……」  実はここまで、飼育員さんが特に気をつけてくれていたことがあった。……尾羽だ。つけるときもわざわざ優しく置かれていたし、たった今檻の中まで歩いたときにはわざわざ持たれていた。それがどうしてなのか、考えが回っていなかったのだ。  長い尾羽はアナルプラグに直に繋がっていて、ぺんぎんさんのお尻がとても低い姿勢ではそれが床についている。そのまま歩いたりすると、つまり引きずることになるわけで……その感触は、深々と咥えている肛門に直に伝わってきた。 「んっ……ぁ、ぅ……」  刺激はとても大きなものというわけではないけれど、ただでさえ不慣れな異物感がひたすら強調されるし、軽めとはいえこれだけの人目の中で快楽を与えられるのは相応に恥ずかしい。それに私は今、観客に背を向けているわけで……たぶん、全部これでもかと見えているのだろう。  様子を理解してか他の二羽は、苦笑気味に気遣ったり自分のそれに意識が向いていたり。とはいえ、結局このまま歩かないと何も変わらなくて。恥を晒し我慢しながらなんとか二羽のすぐ近くまで辿り着いた。 「よおひく、おえあいひあふ……」 「あぅ、んぁぐ。んっ」 「ん、んっ……」  二羽のうちレイアと呼ばれていた、どちらかというと余裕のない反応をしているほうは、どうやら私と同じペットプランの子だった。とはいえある程度慣れているようで、スーツは着ずにあの拘束具だけで裸は丸出しだ。見せつけるようになっている大切なところは、これも慣れなのか綺麗に剃られている。  腕も私と同じような形で拘束されて、手首から先はペンギンの羽らしい形のミトンに包まれている。嘴はなく、代わりにハーネス付きのボールギャグを嵌めていた。  もう一羽、メタさんは私と近いスーツを着ているものの……股間のあたりだけ開いていて丸出しだった。その上で比較的落ち着いているのだからよほど慣れているのだろうけど、とはいえ興奮は強めているようだからやはり同類だ。  ただ何より目を引くのは、鎖骨の下あたりについている印字だった。横書きで遠目にもわかる程度の大きさで、「飼育物」と書いてあるのだ。つまり彼女はたぶん、私たちのような客ではない。どちらかというと牧場エリアの家畜たちに近い、この施設で生活しているモノなのだろう。……屈辱的であろうその印は、少し羨ましくもある。  後から知ったところによると、見本役と希望者がいないときの最低限の見世物を兼ねているらしい。日替わりでいろいろな動物を巡っているから、それもまた常連の楽しみなのだとか。 「っ!?」 「んふ。……ん、っ」 「ぅ……?」  レイアちゃんは私より少し上手に歩いて寄ってきて、私と頬を合わせて擦り寄せてくる。その仕草は動物っぽくて可愛いものだったけど、それでまた自分も同じだと気付かされるよう。だけど、この頃にはもう私も動物扱いを楽しめるようになってきていた。  情けない見た目の交流でお互いの姿に興奮していると……ぱしゃり、と檻の外からアナログ質なシャッター音が響く。今のところ客による撮影は禁止のはずだったけど……メタさんに促されて振り返ってわかった。  飼育員さんがインスタントカメラを向けてきている。それで私を撮って、出てきた写真を何かに貼り付けていた。  それから、それ……薄いプラカードらしきものを一度こちらに見せてくれる。それを見てみると。 「っ!?」  ぞく、と。これに反応してしまうのは、この辱めを自ら望むマゾとして仕方ないことだったと思う。だって、それは私をどうしようもなく人間から遠ざけて辱めるものだったから。  動物園にはよくある、その動物の説明をする看板だ。中でもそれは、パンダやイルカのような個体ごとのキャラクターを売るタイプの動物で行われる手法。ぺんぎんさんとしての私について、個別で紹介するものだった。  私は一度目に入った時点でそのまま目を奪われていたから、すっかり見落としていたのだ。二羽の紹介は檻の端にあったのに、気付かないままここに入った。そして自分もそうして晒されることを、ここまできてようやく知った。  言うまでもないけれど、見落とした私のミスだ。それに、「何らかの形で園内に向けて、プラン内で登録した情報が公開されることがあります」とは規約にあった。それは期待すらしたのだ。ただ、心の準備ができていなかっただけで。 「あっ……」  それがよくなかった。動揺の結果として、手が滑ったのだ。拘束姿勢の中で楽をしようと、二羽もしていた後傾気味の姿勢をしていたところからそうなったら、どうなるか。  私はそのまま仰向けに転んでしまって、股間とお尻を檻のほうへ向けることになってしまった。 「っ……~~~っ!?」  とんでもなく、恥ずかしい格好だ。ただでさえ格好や扱いは恥辱的なもので、今はまだ見届けに集まった人たちが散っていないのに。人間としてのえっちなところを突き出すような姿勢で転がってしまって、他の二羽と違ってラバー越しとはいえ食い込んでいるそこを見せつける状態になっている。  しかも、尾羽はお尻の下敷きになりながら引っかかってしまっている。そのせいでアナルプラグが途中まで見えて、ちょっと気持ちいい上に孔が拡がっているところまで丸見えなのだ。当然、観客の目はこれでもかとそこに向いている……はず。私にはそれを見ることすらできず、視界には天井と二匹の顔しか映っていない。  すぐに立ち上がろうとはしているけれど、それも上手くいかない。うまくいかない。畳まれた足は床まで届くわけがないし、腕は背中にくっつけて固定された上で下敷きになっている。どれだけ頑張っても体を少し揺らすくらいにしかならないし、腕がストッパーになって横に転がることすらできない。  みっともない、無様な状態だ。それを、たくさん見られている。楽しんでもらえている。覗き込む二羽もまた、面白がって助けてくれない。……それがどれだけ私の欲を満たしてくれているか、きっと二羽には筒抜けだろう。隠すこともできなくなった興奮の吐息も、真っ赤になって涙目な顔も、全部見られているのだから。  私だって、もっと惨めになりたくて無駄な足掻きを続けているのだ。どうにもならないことなんてわかっているのに、情けないところをもっと見られたくて。  ぺんぎんさんが単に不自由で愛らしい歩き方しかできないだけでなく、いかに無様で見る者を楽しませるモノであるか。私はさっそくとことん味わって、元々尖っていた性嗜好をこれでもかと歪めることとなった。  ……ずっとそのままとはいかないこともあって、私が疲れてじたばたをやめると二羽は助け起こしてくれた。とはいえみんな拘束状態だから、背中に体を滑り込ませたり滑らないよう足……ではなく悪意に満ちたレイアちゃんによって股を押さえつけられたりの四苦八苦をこれまた見世物にしながら。  ……癖になりそうだ。夜までか翌日までかはまだ決めていないんだけど、どうしよう。

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【先読み】魔王様の戦利品紹介コース

 王国が始めた戦争は、だんだんと劣勢になってきていました。  それを疑う余地はもはやないでしょう。鳴り物入りで出立した勇者たちは、やがて魔帝国が流布した映像の中で尊厳の欠片もない姿に貶められ……必死ささえ感じられた街での戦果喧伝は、やがてめっきりなくなりました。もはや伝える戦果すらないのでしょう。被害のほうは全く伝わってきませんが、どれだけ減っているのやら。  これを受けて、当初は起こらなかったことが発生し始めました。……国境を接する辺境都市の、投降です。受け入れない者を王国側へ追い出して、街ごと前線の補給基地として明け渡して、民の生活を守ろうと。  中央では信じられないようですが、辺境に行けば行くほど人間至上主義は薄れ、胡散臭いものとして扱われています。理由は単純、魔族が別に凶暴でないことを知っているから。魔族の存在そのものを穢れ扱いして前線の雑務を現地に丸投げしているので、捕虜交換にすら関わらない中央はそんなことすら知らないのです。  ですが、その投降で守られるのは、あくまで民の命と生活。普段民の上に立っている貴族はそこに含まれません。このようなときに責任を取るのが、貴族というものの役目だと。私は辺境では珍しくないまっとうな貴族である父から教わって育ちました。  ですので、投降地域の未婚の貴族令嬢である私は、人質として真っ先に魔帝国へ身柄を送られることとなりました。私もずっと覚悟していたことですから、こうして素直に魔王城まで護送されてきたのです。  ───ですが。 「なるほどのぅ。となれば余計に、人王国と十把一絡げにするわけにはいかぬの」 「ご配慮、痛み入ります。我々も事ここに至っては、王国中央を同胞とは考えておりません」 「うむうむ、ようわかった。なに、心配いらぬぞ。魔族はそもそも人族を敵視などしておらぬ、占領下でも危害は加えぬと約束しよう。仮に殺しでもやらかすような輩がおれば、一発で床の下行きじゃ」  この身の全てを民の安寧のため売り渡そうと魔王城へ入った私を待っていたのは、上機嫌な魔王様による歓待のお茶会でした。  魔族が人族よりも性に奔放であることは、捕虜と関わっていた辺境の民は知っていました。ですので裸同然で拘束され職業として街を行き交うポニーガールも、幸せそうに四つん這いでショーケースに入ったヒトイヌも、今こうして腰を浮かせると寂しそうに呻く欲と願望に満ちた家具たちも、いざ目にしても受け入れることができました。  その一方、中庭やこの部屋に飾られた、映像通りの勇者一行だったモノも、罪状とともに廊下の床に飾られたまま取り出される気配もなさそうな元魔族たちも、そういうものだと受け止めるに至りました。特に床のほうを見てからは、この魔王様は本当に種族にかかわらずこうした処置をするのだと納得がいったほど。  ですが、だからこそ。年単位で続く戦争の責を負う貴族として、私も戦利品となり償わねばならないと思っていたのですが。 「寛大なご差配に感謝を。あなた様のもとであれば、私も敗戦の証となることに不満もございません」 「じゃから、そうはせぬと言うておるじゃろうが」 「どうしてでしょうか? 私は投降した街の人質の身、生殺与奪の権利は魔王様にございます」 「どうしてはこちらのセリフじゃ。こうして心地よく話もでき、妾の知らぬ話もしてくれる聡明な娘を、あんな愚物共と同じようにする理由がわからぬ」 「魔帝国へ楯突いた罪は貴族が被るものです」 「辺境と中央は同胞ではないと言うたではないか。妾に言わせれば、おぬしの街は既に分け隔てのない魔帝国の仲間じゃ」  どうやら魔王様、私を所有し緒戦の勝利と併合を大々的に誇示するおつもりがないようなのです。私を客間に置いてもてなし、友人として扱うとしか宣告されていません。  それでは魔帝国やその民は溜飲が下がらないのではないかと問いますが、そうした落とし前は王国中央につけさせるとのこと。遠からず王都も落ちるだろうとは私も思いますが、私の一世一代の覚悟は透かされる形となりました。 「では、あのドアベルと時計は先に降った領地の令嬢ではないのですか?」 「そう思っておったのか? あれは自ら望んでモノになるためわざわざ亡命してきおった、ただの飛び抜けたマゾじゃ。むしろあやつらが満足するような仕打ちが城になかったせいで苦労させられたほどなのじゃぞ」  こうは言いつつも私も扉の横に突き出たドアベル代わりの尻や、その裏側にあたる室内に飛び出た時計代わりの下半身のようにされるのだと思っていたのに。入室時に叩かれ情けなく鳴いたそれのようなモノが、私の末路で責任の取り方だと思っていたのに。いざ種明かしされてみれば、それらはただの変態の願いを手ずから叶えた優しい魔王様の証でしかなかった、という落ちです。  本当に、私の覚悟はなんだったのでしょう。……とはいえ、これでそのまま引き下がることはしづらい理由もありました。 「ですが、私が無事に街に戻ってしまえば、突き返されたのだと民が不安になってしまいます。この身は街を認めていただく担保のようなもの、どうかお納めくださいませ」 「……やはり辺境の民はできておるのぅ。全く同じ食い下がり方をしたのが、お主で三人目じゃ」 「でしたら」 「安心せよ、城内に居場所を作ってやる。帰れぬなら住まうとよい」  なんだか、本当に敵わないのだと痛感させられる結果に落ち着きました。これでは新たに迎えた街のため、魔王様が一肌脱ぐ形となっています。恩を返すはずが、さらなる恩をいただいてしまっていました。  なのに、それを返すことはやはりできないのです。もどかしい一方、他ならぬ魔王様がそれを最善としていることも確か。であれば捧げる身の私は、それが私にとって楽すぎようとも、魔王様がお望みのものを捧げるほかありませんでした。前の二人というのもきっと、同じように言いくるめられたのでしょう。  いわば私は魔王様の息抜きや楽しみの助けとなる役割を求められることになったことになりますが、そうなれば自然と魔王様の本当に好きなものをお見せいただきお付き合いすることになります。  これほど温厚で寛大な方ですから、接待と思えば中央の貴族よりよほど楽というもの。いわんや開口一番に褥を要求し断れば露骨に態度が悪くなった勇者をや、というものです。  あくまで見せるついでにご自身が鑑賞するほうが本題ですから、私は露悪的な反応さえしなければ問題ないほどです。「興味がなくとも構わぬ、気が休まらないというなら付き合ってはくれぬか」だなんて、投降勢力からの人質には優しすぎる気がしてなりません。接待において何も知らず興味もないものを見せられるなど当たり前そのものだというのに。  ただ……いざ向かおうというところで、魔王様の表情が少しだけ硬くなった気がしました。直後、控えていたメイドの一人が手招かれます。 「あまり大所帯で動いても落ち着かなかろう。シィというのじゃが、ここからはこやつだけを連れていく」 「…………シィ、と申します」  その理由はすぐにわかりました。呼ばれたメイドは狼人のようでしたが、明らかに私に対して態度が硬い。というより、怯えています。そういうこと、なのでしょう。  私は両手を後ろに回しました。 「シィさん、ですね。私はフェリシアと申します」 「フェリシア、さま」 「どうか敬称は抜きで。魔王様お付きのメイドにへりくだられるような身分を、今の私は持っていませんから」 「わかりました、フェリシアさん…………ぇと、な、なんですか」 「気が収まらなければ、この頬をお打ちになってくださいませ」 「はい!?」  彼女はおそらく王国出身、それも亜人としてひどく扱われた経歴なのでしょう。魔王城には人間も所属しているようですが、それでも初対面の人間には怯えてしまうほどに。  ならばとまずはその怯えの分を、叩いて解消していただこうと思ったのですが……うまくいきません。 「どうして!」 「民の行いの責は貴族にございます」 「その話はもうよい、シィはそれで叩くような性格もしておらん。……シィ、妾はこやつを客人と遇するが、とはいえ身分はお主ら直属とほぼ変わらぬ。シィが虐められれば妾が守るが、それでもまだ怖いか?」 「……いえ。変な人だけど、悪い人ではない、と今わかりました」 「ならよい。……フェリシア、お主もあまりその奇行はするな。見上げた態度じゃが、少なからず異様じゃ」 「は、はい。……異様、でしたか」  気味悪がられてしまったようです。ノブレス・オブリージュ、という、中央では廃れて久しいと聞く貴族の務めを果たすなら今、と思っていたのですが……。  ともかく、警戒は解いていただけたようです。仲良く、とまでは望まずとも、私が近くにいても余計な警戒をしていただかずに済むところまで信用いただけるといいのですが。 「まずは軽いものにしようかの」  執務室にもなかなかの……面食らってしまった反応を伏せるのに苦労したものがいくつも存在していましたが、どうやらそれらは後回し。魔王様は比較的受け入れやすいものからお見せしてくださるようです。  城の入口にほど近い大食堂、今は落ち着いている時間帯のホールは、よく見れば給仕の多くが人間の女でした。ただし、その中で自由に動ける姿の者は少数。 「あれはごく軽い刑……もはや刑ですらないかもしれん。拘束は刑期中ずっと外れぬが、そうである以外は普通に働いておるのと変わらぬからな」 「こちらの拘束労働刑は、主に荷物持ちやほぼ何もせず投降した者などが処されます。本来は私もこの刑を受けるはずだったのですが……」 「あれにするのは、少なくとも魔帝国領へ自ら来た者だけじゃ。無理やり連れて来られただけのシィに罰を与えなどせん」  共通しているのは、素肌に直接拘束具を施されていること。ただし長い鎖枷をつけられているだけで普通の歩き方ができるものから、後ろ手で胸を張らされたまま腕を一切動かせないものまでまちまちです。  物を持てないほど縛られた者の場合、首輪などから体の前へ斜めにトレイを吊るされて、そこに置かれて運ぶようです。最低限の労働はできる範囲内で、不自由と屈辱を与えて眺めることを罰とするもの。  どうやら「無罪放免とするにも違うが、尊厳を奪うほどではない」という微妙な罪状の者が科せられるもののようです。軽い分これの有期刑で許されるのならと諦めがつくのか、全体的に従順な様子でした。軽い拘束の子が厳しく縛られた子の世話をしたりと、仲睦まじくすらあります。 「お待たせいたしました……」 「お疲れ様です。辛いかもしれませんが、頑張ってくださいね」 「いえ、こんなことと、ちょっと恥ずかしいだけで済むなら……軽すぎるくらいですから」  大きめの金具ひとつで繋がれた両脚による小刻みな歩みで、辛うじて恥部を隠しながら体に柔く食い込む全身の拘束ベルトを服代わりにした少女がこちらに。胴の前につけられたトレイに魔帝国のお菓子が置かれています。  どこか、可愛らしいと感じてしまいました。それも刑を受け入れて償っているからかもしれませんが、近付けてきた頭を気付けば撫でてしまいます。それで目を細めて、ほう、と息を吐くあたり、彼女がここでどう可愛がられているのかがわかるというものです。 「……魔王様。彼女たちは、夜もこのままなのですよね」 「うむ。むしろそれがここでの躾じゃ」 「では……たとえば大浴場で鉢合わせたりしたなら、世話をしたりは」 「好きなだけ可愛がってやるとよい。有期刑は明ければ同じ魔帝国の民じゃからの、仲良うするのが一番じゃ」  不思議なものです。そんな趣味も経験もなかったというのに、拘束されて生活にある程度の不自由を持つ彼女たちを構いたいと思ってしまいました。貴族令嬢としては、他者の体に触れること自体がはしたないはずなのですが。  今夜は目の前で目を輝かせる少女を誘って入浴を共にしよう、なんて。それを決めて楽しみにすること自体、昨日までは想像すらつかないものでした。  そのまま魔王様に連れられて次の場所へ。廊下を行き交う魔族、時折人間の方々と挨拶しながら歩いて辿り着いたのは、「一時戦利品展示場」と記された扉の前でした。 「ここに置いてあるのは、解放の予定がある戦利品じゃ。危険思想がなかったり、軽い罪状の者はこちらじゃな」 「やはり人間至上主義の有無は重要ですか」 「それ自体が罪というよりは、思想が色濃い輩を有期刑にすると考えを改めてくれぬのじゃ。後に野放しにしてから、ほとんどが再犯しおってな」 「なるほど……終わりの見えない刑で心を折らなければならないと。……我が身と同族ながら、反吐が出ます」 「対等でよいのじゃがのう」  この「対等でもいい」という発言がいかに慈悲に満ちたものであるか、わからない王国民が特に中央にはあまりに多いのです。ただ逆侵攻に乗り気でないだけで、いざやる気になればどうなるかは、辺境にいれば肌身に感じるところなのですが。  室内に入ってみると、いくつかの種類に分けられた展示になっていました。たとえば、すぐ足元には執務室前の廊下と似たような床飾りがあります。名前と罪状が表示されつつ無様な姿勢で固められているのは同じで、違うのは刑期も記されていること。隣の封入日と見比べれば、あとどのくらいで許されるのかもわかるようになっているのです。  実際には触れたりしないとはいえ足蹴にされるようで、靴裏を見る羽目になったりせっかく晒した恥を見向きもされなかったりと屈辱は相当なものでしょう。実際にこの部屋の中では重い刑罰であるようで、入れられたばかりのものは魔王様に付き従っているだけの私にまで反抗的な視線を向けてきています。 「床の次に重いのは、これじゃの。好きなだけ触ってよいことになっておる」 「……これも、なかなか。一度軽く心を折っておく必要はあるもの、ということですか」 「うむ。やはり認めたがらぬものを認めさせることの労力は、受け入れておるものとは比較にならぬのでな」  次に案内していただいたのは……いやにポップな看板で「フレームバインダーコーナー」と示された区域。気軽な見世物として扱ってやることでプライドを砕く効果なのでしょうか。  専用の形状をした金属パイプフレームに全身を開いた形で固定されて、ずらりと並んでオブジェにされています。通路を挟むような形で設置されているので、全ての展示品の正面に別の展示品がある格好です。姿勢にはいくつかパターンがあるようですが、後ろ手で済まされている方が罪が軽く、降伏を示すように手を顔の横まで挙げさせられているものの方が厳しい処置のようです。  とはいえ、ここに飾られているものの罪状はほとんどがちょっとしたこそ泥程度のもので、重くても捕縛時に暴れて怪我をさせたくらい。もっと重くて反省がなければ、この程度では済まないのでしょう。  ゆっくり歩きながら近くのそれの股ぐらを気紛れに撫で上げたりしながら進む魔王様について行くと、奥の方には刑期明けの近いものが集められていました。そのほとんどが手前のものと違い、悔しげどころか飾られ固定されて見られることが嫌ですらなさそうなのは気のせいでしょうか。 「そのうち、こやつらは立派なマゾに熟成される。諦めきった心の隙間に芽生えたり、現実逃避の先がそれしかなかったり、単に良さに気付いたりと様々じゃがな」 「……このように。お楽しみいただけるかと」 「ぁっ……おねがい、さわってくださいっ……!」 「……この処置の有効性、よくわかった気がします」 「実際、ここまで育つとただの魔帝国民となる者は少なくての。大半が自らペットショップや家具店へ身を売ることとなる。……フェリシアも気に入ったのがおれば、持っていってもよいぞ?」 「い、いえ……そのあたりは、魔帝国の文化をより知ってからにしておきます」  気のせいではなかったようです。シィさんが近くの展示品の股下へ指を添えると、それは自ら擦り付けようと腰を振りはじめてしまいました。といってもフレームは体を完全に固定していますから、フレームを少し体に食い込ませてまで動こうとしても、擦ることができるのは指先にも満たないほどの距離だけ。  来室者が自由に触れるということは、裏を返せば触られなければ何も起こらないということで……なるほど、必死なのも頷けます。もう吹っ切れたものばかりなのか、このあたりは誰もがシィさんを見るだけで割れ目をひくつかせる始末でした。人間、それも貴族である私が自由の身のままついて歩いていることに疑問も向けずアピールを欠かさないあたりは、もはや滑稽ですらあります。  ……そんなモノたちのありさまを見て、初めて感じたものがないといえば嘘になります。ですが……半端な理解のまま受け取ってしまって、誤った扱いをして苦しむのは彼女たちなのです。ここの文化がわかるまで、手を出すのは悪手でしょう。  そう断った私を面白そうに見てから、魔王様はあっさり区画の外へ出てしまいました。シィさんは結局最後まで指を動かさずに当てていただけで、残念そうな吐息に振り向きもせず続いていきます。私は、ここでは触れないままでした。  最奥部には他にない独特な展示方法がいくつか。なんでもこの展示室の他のものにされかけて、それならと自分から別のものを選んだものたちだそうです。  資質あり、聞き分けありとして厚遇されているようですが……たとえばテープで全身ほぼ隙間なくぐるぐる巻きにされて転がされている物体は、今の私には手厚く遇されているようには見えません。どうやらこの方面は、私のこれまでの認識以上に奥深いものがあるようです。  それを経て……フレームバインダーとは反対側の壁際。掛けられてずらりと並んでいるのは、真っ黒な四角形から人間の体の形が浮き出たようなものでした。  立体的な絵画にも思えるようなこれはバキュームベッドというようで、やはり名前と罪状と刑期が付記されています。その表示が美術館の作品名のようになっていて、しかも額縁に入れられているのはきっと魔王様の趣味でしょう。 「これらは深く反省しておったり、危険思想は持っておらぬがそこそこ重い罪を背負っておる奴等じゃ。ぴくりとも動けず、何も見えず外から隔絶されたまま、無様な絵画として敗北と刑罰を噛み締めておる」 「もはや完全に、人には見えませんね。呼吸音が聞こえなければわからないかもしれません」 「不思議なものでな、仕組みはフレームよりもよほど簡単なものじゃ。膜二枚から空気を抜くだけで、これほど動けなくなるらしい」  当然ながら全身は本当に一切露出しておらず、頭頂から爪先まで黒い膜に覆われています。無個性そのものに貶められモノにまでされてしまっている手酷い扱いですが、解放後に顔を知られていないという温情もあるそうです。  姿勢は直立からフレームに似たものまで様々。収まりさえすればどんな姿勢でも取れるそうで、一部にはより恥ずかしいポーズを取ることで刑期の短縮をしていたりする様子。口元からは呼吸用の短いチューブが伸びていて、これを短時間塞ぐような戯れが想定されているとのことでした。  付記を読んでみると、不意打ちや捕虜となった魔族への陵辱、単に重症を与えたなど確かにフレームよりも重い罪が並んでいます。ただ、ここにいるということは更生の余地ありと判断されたということ。犯した罪を悔いる者や魔族への蔑視はない者が、許されるまでの日々をひたすら恥を晒し尊厳を奪われながら噛み締めて過ごしているようでした。  ……目についたのは、「魔帝国市民への脅迫」という罪状。物理的な被害は一切起こしていないこれがひときわ目立たされ注目を集めるようにされているのは、やはり魔王様が民をよく大事にしていて、そこが逆鱗だからなのでしょう。  次がこの部屋の中では最後。罪状も軽く反抗の素振りもない、この部屋の中では特に平易なものが並んでいるようです。 「とはいえ、人間にとっては罰に充分なものであるようじゃがの」 「……そうでしょうね。軽いといっても、拘束給仕とは桁違いかと」  そもそも給仕をしていた子達があちらにいる理由は、「尊厳を奪うほどの罪ではないから」。いくら軽くとも、ここにいるということはそんな慈悲の対象外ということです。  あくまで尊厳の踏み躙られ方が浅いだけ。他と違ってまともな姿勢、具体的には脚を閉じることを許されているだけで、痴態を晒され飾られることにはなっています。衣服を許されず裸を強いられている、くらいは当たり前です。  その上でやはり自由を奪われているのですが……その奪い方というのがそれらのほぼ唯一の共通点でした。……露出させられた股の間に、床から垂直に伸びた棒の先端を挿入されているのです。 「……ほれ、お主。コレがどのようなものか、こちらの客人に説明せよ」 「は、はいっ。……その、爪先立ちになっているので、自力で抜くことができなくて……ここから一歩も動けません。ですので、こうしてそれ以外に何も制限されていなくても、逆らうことができないん、です……」  説明役にと魔王様が指名したのは、そんな串刺し設置刑の中でも特に軽い処置となっている少女でした。罪状表記によると、仲間を即座に制圧されて何もできずに投降した癒し手とのこと。今も隣にいる仲間の一人に「侵攻に反対していた」と庇われ給仕で許されかけたところを、自分も仲間と同じ目に遭わないと合わせる顔がないと固辞したと。  そんな彼女、経緯もあってこの部屋で最も刑が軽い一人のようですが、そうなるとラバースーツの着用を許され、そのうえ棒以外の一切の拘束をされていないという緩さでした。極薄のラバーごと挿入されているようで、接合部も露出していませんが……これはこれで艶かしいような。  それでも恥ずかしいのは無理もないことでしょう。魔族にとってはさしたる罰にもならないようですが、貞操観念には文化の違いがありますから。素肌でないだけで、体の形も挿入の様子も丸見えで晒し者にされていることには変わりありません。  言われて目を向けると確かに、台座にかかとを置く形状が用意されていました。既に伸ばした状態でしっかり挿入されている以上、掴まるものもなければこれですら抜け出せないのでしょう。 「こうして棒に穴を串刺しにされておると、棒がつっかえて動くことができん。かといって抜くこともできぬのでな、これ一本で人は無力化できるというわけじゃ」 「……そんな仕打ちを、自ら受けていると」 「自責思考はフェリシアと似ておるな。……こやつらの一味は積極性に差があってな、リーダー格ともう一人は別室じゃ。最後の一人が橋渡しをしておったようでな、そやつはバキュームベッドにおる」 「中央の冒険者は無鉄砲だと思っていましたが……こう見ると、個人差は激しいのですね」  隣にいるのが、その庇った仲間。こちらは串刺し設置の中では拘束が厳しく、守備隊に小さくない手傷を負わせた罪を可視化されています。肘を直角に曲げた後ろ手で革拘束に固定され、脚も棒を挟む形でぴったり閉じて束ねられていました。ボールギャグで口も塞がれて涎が垂れていて、視覚を残されているのは果たして温情なのか罰なのか。  脚もかかと置き場がなく……見ればそのさらに隣には、誰も設置されていない台座がありました。爪先立ちで膣の奥ほどまである柔らかい部品が先端についていて、上から触ってみるとぐにゃりと潰れます。つまり、かかと置き場は拘束ではなく支えで、なければこうして深々と奥を圧迫されるのでしょう。  ただ、二人の解放予定は同日でした。聞けばやはり、給仕と串刺し設置刑の差額分を隣から引き受けるような形で本来の刑期より短縮されているそうです。  そして女ばかり五人組だったうち、一人がバキュームベッドに。捕縛後に反省はした上に魔族蔑視はなかったものの、守備隊の一人に重傷を負わせた罪を素直に受け入れたとのことでした。そちらを見に戻ると……感じられるらしい視線の気配に震え、びくびくと跳ねながら食い込んだ縦筋をひくつかせていました。  やはり同日予定だった解放後は、彼女を二人で慰めることになるのか、それとも三人揃って欲を発生させるのか……。 「人間はこうした仕打ちに不慣れゆえ罰は与えやすいのじゃが、更生の余地がある者ほど感受性が豊かでのう。こうした刑を与えると、大半がマゾになりおる。これからは魔帝国の仲間となるのじゃから、シィのようにサドも増えてほしいのじゃが」 「……もしかして、私をこうして服役させずに見せて回っているのは」 「期待しておるぞ」  ……つまらないプライドでこの場では言いたくありませんでしたが、目論見は見事に成功しているようでした。 「というわけでな、見せたかったのはあの部屋までじゃ。楽しみを芽生えさせる余地があるのはここまでじゃからな。……しかし、残りから目を逸らさせるのも違うからのう」  打って変わってあまり気乗りしない様子になった魔王様が次に連れてきてくださったのは、すぐ隣の「戦利品保管室」なる部屋。第一と第二があるようで、まずは第一保管室から。  想像に容易かった通り、ここは一時展示場とは違い許される予定のないモノの処分場であるようです。何かの気紛れや目掛けがなければ一生そこから出られない、事実上の極刑なのですが……それが二部屋用意されている理由を、私はすぐに理解することとなりました。 「これは……」 「第一保管室は、更生の余地が薄いもののそれだけのものたちの置き場です。非常に多く、ひとつひとつを作品にまで貶めるほどの熱量もなく……このようになっております」 「ここに収容される者は皆、悪趣味だと、我らのやり方を醜悪だと言いおるな。そうして怯えながら壁の中へ消えていくのじゃ。それを言わず留められる者も、有期刑にしてやれるほど恥やプライドを捨てて許しを乞える者も、ここにはおらぬからな」  いやに分厚い壁が扉の横にあると思えば、その先にあったのは見渡す限りの人の尻。安直に壁尻と呼ぶらしい、本当に尻だけが壁から突き出て残りを収納されてしまったモノたちが、所狭しと四方の壁を埋め尽くしていました。分厚い壁はその中に人の体が埋め込まれているせいであるようです。  私たち、魔王城に侵入者以外として入っている人間に、それを悪趣味などと罵る権利は存在しませんが、とはいえ確かに人間の感覚とはとても掛け離れた代物ではあります。一時展示場には亡命してきた人間や獣人の姿もありましたが、こちらの来客は全て魔族。それも淫魔が大半です。 「ここへ収容されたものが部屋を出る術は、ふたつしか存在しません」 「ひとつはああして、訪れた淫魔に買い上げられていくものじゃな。もっとも、質の低いものを二束三文で、ジャンクフードとして持っていくだけじゃが」 「ああして買われていったものの末路は、ろくなものではありません、詳しくはお話を避けますが、ここに収容され続ける方がましでしょうね」  どうやらそれぞれに時価がつけられるようで、半ば販売場の様相を呈しているようです。買われていくのは安いものばかり、つまり何の素質もない屈辱に震えているだけのもの。淫魔たちは「乾き物」と呼ぶようです。理由は……言うまでもないでしょう。  それを術で無理やり発情させて精気として吸うのが、淫魔にとって格安の食料であるそう。ただし無理をさせているため壊れやすく、また高級食材であるマゾで乗り気な人間との味の差は歴然だそうです。 「もうひとつは、妾に目をつけられることじゃ。要因は……もはや言うまでもあるまい」 「マゾとなること、ですね」 「うむ。……もっとも、数は少ないがの。はじめから素質が少しでも見えれば、反抗的であっても家畜で済む。お主を乗せてきた馬車のポニーがそれじゃ」  私にも見分け方が少しずつわかってきました。ずらりと並ぶ尻のうち、女……もはやメスと呼ぶべきかもしれませんが、そちらが並ぶ方を見ます。その中にいくつか、剥き出しの秘部や尻孔をひくつかせたり、湿らせているものがあるのです。  魔王様はそれらの尻肉を順に平手打ちしていきます。声は届かないようで乾いた音が鳴るだけですが、そのうちさらに一部は確かに他と違う反応をみせました。私にさえ明らかに興奮しているとわかるそれらの肌に、魔王様は担当者にシールを貼らせます。「試験予定」というのはつまり、ただの尻ではなくマゾとして使い物になるかの試験なのでしょう。  ……魔王様の言葉の通り、私は領都からこの魔王城までを馬車で連れてこられました。それを牽いていたのは人王国でよく見かける馬ではなく、馬具を身につけ馬扱いをされているポニーガールでした。  二頭とも人間で元は冒険者だったようですが、屈辱的な身分での人王国への帰還でも興奮を隠すこともできず、走るだけで絶頂しているほどでした。最初は反抗的だったそうなので、やはり魔王様の目利きは凄まじいものがあるようです。  ここはその目に掛けられなかったものの墓場。それでも絶望的とはいかないほどの数、保管の日々の中で目覚めるとなれば……なるほど、人間の感受性というのも確かに。たとえ逃避からなる羞恥興奮の発生だったとしても、立派な生存のための適応ですから。  第一保管室は、そんなどうでもいい者たちの処分場でした。数はとても多く、一時展示場の囚人たちは恵まれた上澄みであることを教えてくれるほど。  ですが、保管室はもうひとつありました。雑多な保管でありつつ恥辱だけなら一時展示場以下だったそこでもなく、さりとて更生と解放の余地を見込まれない者の場所。それはすなわち……。 「第二保管室は、またの名を永久懲罰室とも呼ばれます。刑罰としての等級は、床飾りに次いで上から二番目」 「……勇者一行よりも厳しいのですか?」 「あやつらは、妾は一時展示場でもよいと思うておるのじゃ。むろん危険思想を捨て更生すればの話じゃが、あくまで図に乗った愚物に従って戦っただけじゃからな」 「では、特殊展示となっているのは人王国に映像を回すため」 「それと、城の配下の溜飲を下げさせるためじゃな。あやつらに負けて大怪我をしたものも多いゆえ、徹底的な尊厳破壊はどのみち必要じゃった」  永久懲罰室。また凄まじい言葉が聞こえました。解放の余地は一切なく壊れても埋められ続ける床飾り刑の次で、この名前ということはやはり、二度と出ることは叶わないのでしょう。精神的苦痛も含めて、勇者はあっさり処された死刑よりもさらに上ということになります。  その勇者は処刑済と王国に出回ったある映像で言及されていましたが、この永久懲罰室でも床飾り刑でもない辺り、やはり魔王様は特別な醜悪視はしていないようです。それどころか、現在展示場外に設置されている残り四名に至っては有期刑のつもりだと。  兼ね合いや必要で特別な扱いはしているものの、人間至上主義くらいなら慣れたもの、ということでしょう。我が同族のことながら、どこまでも救えない。 「こちらには主に、魔王様の逆鱗に触れたものが保管されております。文字通り永久に、終わることのない地獄で苛まれながら」 「たとえば……そうじゃな。これじゃが。元はただの密偵じゃ。であったがこやつは、妾の目の前でシィを罵倒しおってな」 「……獣人蔑視ですか。中央では本当に多いと聞きますが……」 「うむ。……まあ、それだけならポニー程度にしてやる手もあるのじゃが、面白くもない奴じゃったから処分した」 「……フェリシア様をお乗せした馬車のポニーは、私を奴隷として連れてきた人間でした。魔王様にマゾを見出されれば、居場所が変わるのです」  つまり、更生の余地なく、重罪を犯した上で、魔王様に悪く思われ、さらにマゾという名の面白味も見出されないことでようやく送り込まれる地獄であると。その上二度と解放も介錯もないとなれば、広い部屋にまだ少数なのも納得がいきます。第一保管室は使い潰されれば終わりであるだけ、まだマシだということでしょう。  魔王様が示したのは、入口付近に吊るされていた黒い板でした。どうやら額縁にも入れられずにただ置いておかれたバキュームベッドのようですが、姿勢は一時展示場のがに股よりもさらに無様な、潰れた蛙のようなもの。おまけにあちらにはあった呼吸用の短いチューブすらありません。 「これは生き物ではございませんので。生命と精神は魔法にて維持されておりますが、呼吸をするような権利もないのです」 「……なるほど」  同じ拘束と無個性具合でも、これほどの差が生まれるものなのかと、私は面食らってしまいました。見事に大事に飾り立てる額縁もなければ、ただ吊るされただけのそれはいくら惨めに揺れても止まることもできず。あちらでは作品名代わりに主張してもらえていた名前や罪状も、裏面にひっそり管理用に記されているだけ。  挙句の果てには、呼吸の権利自体がない。その分すら魔法で維持される一方、鼻も口も穴のないラバーシートで覆われたままです。一時展示場のバキュームベッドは水分と流動食をチューブから与えられるそうですが、こちらはそれももちろんなく。  ただひたすら、定期的な外刺激もなく時間感覚は失い、不定期に清掃やメンテナンスを行われるだけで立場は知らしめられ、さりとて心を壊すことすら許されない。なるほど、地獄です。とてもではありませんが、想像もつきません。 「ですので、多くの展示物は外の誰かに触れられることを好みます。それが唯一これらが感じることができる刺激であり、罪を悔い続ける永劫の屈辱の中で気分転換の余地になるものですので」 「んぁっ、んむぅぅっ!?」 「……これは処理直前に股を拷問されておりましたので、当初は股を触られると嫌がっておりましたが……もはやそれを選ぶ余地もないのでしょう」  そうなってしまえばもう、どんな外的刺激であっても欲しいのか……下品な彫像に成り果てた姿の恥部を雑に触られるだけですら、歓迎するようにびくびくと跳ねて悶えるほど。拷問のトラウマさえ保っていられないようです。  試しに他の展示物、同様に全身をラバーで覆われ、上と下を繋がれ柱になってしまったモノに触ってみると……一度驚いて体を引いたあと、すぐに掌へ擦り寄ってきました。なるほど、こうなってしまうほど刺激が欲しくなると。 「お゛っっ!?!?」 「ふむ。確かに、生き物であることすら許されない展示物にしては、少し面白いかもしれません」 「じゃろう? 妾はここを気に入っておる。玩具部屋としてじゃがな」  つい、がら空きだったそれのお尻を思い切り叩いてしまいました。突然の痛みに情けない声で鳴いて……しかし見たところ、それだけで絶頂したような。そのまま残る痛みもじっくり噛み締めて味わっているようです。そんな苦痛すら、普段は得られないものだから。  それきりで離れて、もういないとも知らずにしばらくわずかな可動域で媚びるラバー柱を見ていると、少しわかってしまいました。これは確かに、他に使い道もなければ安易な終わりを与えたくもない愚か者で作るにはちょうどいい玩具かもしれません。 「しかし、やはりフェリシアはサドに向いておると思うぞ」 「……はい。私も、もしかしたらそうかもしれないと思い始めています」 「ぅぐ、ぅっ、!?」 「……私よりずいぶん、自覚が早い」 「シィは自覚してからも意地を張っておったじゃろ」  今度は椅子があったので、それに座り背もたれに体重をかけてみました。ちょうど空気椅子の姿勢のお尻のあたりから残り二本の脚を生やして、腕を肘掛けにしたようなものです。頭は全頭マスクで覆われていて、首から下は裸のまま全ての関節を固定されています。  背中を預けるほどに苦しそうに、しかし嬉しそうに呻くそれが楽しく感じてしまいました。もはや認めないわけにもいかず、どうならサディストの楽しみ方を私はできているようだと伝えることに。 「がふっ!?!?」 「……魔王様。後日、いろいろご教授いただくことはできるでしょうか」 「うむ、いつでもよいぞ。大歓迎じゃ、いくらでも来るがよい!」  全身を透明なフィルム包まれて太いザイルで吊るされ、やはり頭は全頭マスクに剥奪されたサンドバッグを強めに殴り飛ばしながら、魔王様にお教えいただく約束をいただきました。手間でもあり、とても名誉なことだと私にもわかりますが、むしろ魔王様のほうが嬉しそうなほどです。  そうと決まれば……まずは今日の大浴場で拘束給仕の子達に触らせてもらいながら、この魔王城の文化に慣れるところから、でしょうか。

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【先読み】へびさんペットが可愛すぎて

 最近はSNSに、「ヒューマンファームに行ってきました!」という投稿がひっきりなしに流れてくる。その投稿主は以前から何かしらの活動をしていた人たちから、これを機に思い切って写真を載せてみた初心者までさまざまだ。  特にそれはヒトペット広場がプレオープンしてから一気に増えた。明確に『ペットプラン』がメインの片割れとなったことでより体験もしやすく、家畜を見る以外にも気軽に楽しめるようになったのがいいのだろう。先日なんか、そこでヒトイヌ体験オフ会をしてきたというフェチ系絵師たちのレポートイラストが流れてきていた。  そんな中だったけれど、私はそれを見て楽しむばかりで未だにヒューマンファームへ行ったことがなかった。行ってみたいとは思っていたんだけど、どうにも踏ん切りがつかなかったのだ。  私はどちらかといえば、少なくともその手の……ペットプレイ的な趣味の中では、おそらくサドの方だ。流れてくる写真や動画を見ても、「なりたい」よりも「可愛がりたい」が必ず先にくる。けれど……牧場で家畜を見るだけというのは物足りなそうで、さりとて飼育員になるのは少し違うというか。好みのどこかには触れているけれどど真ん中ではないということで、結局牧場に行こうとはならなかった。  最終的に私を突き動かしたのは、プレオープンも後半に差し掛かったヒトペット広場のほうだった。それも、よく話が流れてくる“いぬさん”や“ねこさん”ではなく……。 「ヒトペット広場へようこそ。飼い主プランとペットプランがございますが、どちらのプランをご希望ですか?」 「飼い主プランでお願いします」 「かしこまりました。当園飼育のペットとお客様同士のプレイをお選びいただけますが……」 「そうですね……とりあえず、客同士で。見つからなければ変えることってできますか?」 「はい。お客様番号をご提示いただきつつ管理センターにご連絡いただければ、その際に変更いただけます」  ヒトペット広場のゲートで受付を進める。初期に流れてきた体験レポートと異なるのは、客同士でここの設備や装具を使ってプレイすることができること。プレオープン直後から要望が多かったのと、想定以上の客入りでスタッフの手が足りなくなったことで試験運用中らしい。  私は一応どちらでもよかったんだけど、ここ所属のペットよりも体験に来るお客さんの方が素で甘えてくれそうだと思ったから選ぶことにした。……ペットプランならここで詳細を詰めるために個室に移るけど、飼い主プランの場合はこのままカウンターで済ませることもできる。個室で要望することもできるようだけど、そうするほど時間も手間もかからない。 「ご希望のコースはございますか?」 「はい。……これでお願いします」 「かしこまりました。現在は……待機中の子はいないので、見つかり次第ご連絡させていただきます。こちらをお持ちくださいませ」  当然ながら、客同士を選んだ飼い主プランとペットプランの間で一致が起こらないとプレイが成立しない。基本的にどちらかが待つことになるわけで、今回は私がしばらく待つことになった。受付の人がここで気にする素振りもないあたりからもわかるように、けっこう客同士のバランスや成立率はいいらしい。  渡されたのは動物の柄が描かれた、小型の通信タイマーのようなもの。デジタル数字が表示できる画面には「1」と書かれているから、同じ条件で先に待っている飼い主プランの客はいないようだ。  これを持ってそのまま園内に入る。ペットプランなら入園前にさっそくペット姿になるのだけど、飼い主プランなら気楽なものだ。実際の動物園のふれあい広場のような入念な手洗いと消毒は必要なものの、来たときの格好そのままで入ることができる。  その足で、まずは園内のふれあい広場に向かってみた。ここは他の客やペアと遊ぶこともできたり、中には最初からそれ目当てで野良ペットとして入ってくる客もいたりと退屈はしないで済む。一応、先に客同士を希望して待機になったペットプランの客は檻の中で待つかここにいるかのどちらからしい。 「んっ、あぅっ!」 「ん? どうしたの……ああ、撫でてほしいんだね」 「あぅぅ……っ」  今回は軽く見て回るだけのつもりだったけど、気付けば足元に野良犬がいた。ヒトイヌ拘束で開口具とアナル尻尾をつけて、舌を出して鳴きながら体を擦りつけてくる。  頭と裸の背中を何度か撫でて、二度三度とボール遊びをしてあげたら楽しそうにしていて……不意に首から提げたタイマーが鳴り出して、慌てて四つん這いのまま管理センターのほうを向いた。どうやらこの子も待機中で、相手が見つかったところらしい。  園内にはペット用の輸送レールが存在するから、それに乗る手伝いをしてやる。感謝を示しているのかしきりにお尻ごと尻尾を振りながら離れていくその子を見ながら、私も別のところを見に行くことにした。  ドッグランを見に行くのもよかったんだけど、たった今かわいい犬と遊んだばかりだからかふと気が変わった。向かった先は、動物園と銘打たれているエリアだ。  そんなに気取ったものではないけれど、確かに動物園っぽい檻が並んでいる。それぞれの中に動物に扮した人間が入っていて、その多くはもっと見てとばかりに檻の近くまで来てアピールしていた。  最初からここに入るつもりでペットプランを選ぶこともできるらしいし、その場合は他ではなれない動物になることもできるらしい。確かに檻の中には、コースにはなく拘束方法は『ねこさん』と全く同じである『らいおんさん』だとか、ポニーガールの装備全てが白黒の縦縞になっている……正直それは違うだろと突っ込みたくなる『しまうまさん』だとかもいた。  もちろんコースが存在する動物もいたり、複数個体の同種が同じ檻の中で戯れていたりもする。明らかに他と異なる、コツが必要そうな動物は実際に飼育されているヒューマンファーム所属だったり、他にも体に『飼育物』と書かれた身も蓋もない飾りがつけられた個体が他の子を手助けしたりしている。  これだけでもいくらでも見ていられるかもしれないほど充実していて、ちょっと予想以上だったけど……もう少し見ていこうと思った矢先、私が持っていたタイマーが鳴った。思っていたより早く、相手が見つかったらしい。  いくつかある管理センターのうち一番近いところに向かって、そこでタイマーを差し出す。そこで「ひとまずペットホテルへ」と言われたから、整理札を受け取ってホテルへ。  客同士だから擦り合わせることはいくつかあるけど、落ち合う場所はペット側指定がセオリーだ。二人きりじゃないと嫌な子も少なからずいるから当然だろう。 「では、こちらのお部屋へどうぞ」 「はい」 「また、お相手の方からのご要望ですが……『第一希望はラバースーツ。少なくとも金具などのついていない、できれば凹凸の少ない服装でいてほしい』とのことです」 「わかりました。ラバースーツでいるとお伝えください」  どうやら相手はまだ到着していないようだから、先に指定の部屋に入って待つことに。いよいよだと実感して、柄にもなく期待が強まってしまう。  お互いの服装や装備も擦り合わせの対象だけど、私は事前に相手側への要望は伝えてある。それにこちらの服装にもこだわりはなかったから、要望にはなるべく応えるとも示してあった。ラバースーツのご注文だけど、この機会だしちょうどいいだろう。  部屋に入って荷物を置き、手空きだからと手伝ってくれた……キャットスーツに猫の尻尾が生えたままのスタッフさんの手を借りて、シンプルなラバースーツへと着替えていく。どうやら相手の子は応えてくれたときの理想はしっかり形にしておいたようで、ラバースーツの種類も示されて選ぶ必要がなかった。シンプルかつやや薄手で、股間にはジッパーのあるものだ。 「あ、到着したみたいです! お入れしますね!」 「はい。お願いします」  暇そうだったからついでに室内のものやこの後の遊び方を猫スタッフさんに聞きながら待っていると、相手が到着したとの一方が入った。すぐに扉を開けて入ってきたのは、大きな柵付きの台車に乗せられた……細長い黒ラバーの物体。  カートが止まって出入口の扉が開くと、自分から……まるで尺取虫のような動作で降りてきた。まさに私の希望通り、既に目に見えて興奮している様子のその子は。 「『へびさん』のナミちゃんです。可愛がってあげてくださいね」 「はい。……よろしくね、ナミちゃん」 「ん、ぁーっ……!」 「へびさんは何もできませんが、本プレイは両者の合意のもと行われるものです。本気で嫌がっていることを行いすぎないようお気をつけください。開口具はこちらとこちらのボタンを同時押しすることで外すことができますので」 「あぅ、ぅっ!」 「……あんまり外されたくないみたいですね。事前に『たくさんいじめられたい』とご希望の子なので、あまり遠慮の必要はないのかも」 「なるほど」  私が希望したペット、この『へびさん』は、ヒトペット広場の収容種の中でも特に何もできないペットの一種だ。だからこそ意思の確認は綿密にやるよう注意書きがあったのだけど……ナミちゃんは「大抵のことは受け入れるから、開口轡を外さないで」というスタンスだ。開いた口の中と外にあるボタンを両方押さないと外れないデザインも、自分で選んだのかもしれない。  ともかく、そういうことなら可愛がってあげよう。せっかくのペットプレイなのだから、拙いコミュニケーションも楽しむべきというのは私も同じ思いなのだ。  プレイが成立した、あとは二人きりでということか、台車を押してきた人と猫スタッフさんは出ていった。……猫スタッフさんは後ろ足をベルトで畳んで縛られて、猿轡とミトン手袋で猫に戻ってから台車に乗っていった。とても鮮やかな作業で、私はものの数十秒で人間がペットに変えられる様子を見せつけられた。 「……じゃあ、一緒に遊ぼうね。私はユウキ、よろしくね」 「あぅ」  まだ少しだけ残っている距離を、自分から這いずって詰めようとしてくるナミちゃん。へびさんらしく腕も脚もない姿だから、どうにか頑張って一本の線になった体で床を這いずって動くしかない。  ほんの三メートルほどの距離を動くのにしばらくかかって、こつん、と私に額が当たると呼吸を荒くしながら嬉しそうに鳴いた。想像してはいたけど、思っていた以上に可愛い存在だった。  そこから手で抱き上げてやると、ナミちゃんのへびさん姿がどんなものなのかわかってくる。とても無様で、非人間的で、被虐に満ちた素晴らしいペットだ。  全身はほぼ全く猶予がないボディサック状のスーツに包まれながら締め付けられていて、その素材である厚ぼったいラバーに全身をほぼ包まれている。ひっくり返してみるとよほどぴっちり張り付いているようで、胸の形も丸わかりだった上に股間のあたりには三角の窪みができていた。そことお尻には、ほんの申し訳程度の小さなジッパーがついている。 「嫌だったら、尻尾を床に三回だけ叩きつけて止めるんだよ」 「あぅ……!」  頭の方はというと、スーツがそのまま続いて全頭マスクのようにつるりとした無個性なものになっている。開いているのは口元だけで、そこだけは打って変わって思い切り晒されていた。大きめのシリコン製リングギャグを噛まされて、中でぬらぬらと艶かしい舌が揺れている。  抱きしめてやると……それまで何も見えずに心細かったのか、くたりと脱力してもたれかかってきた。セーフワード代わりの動作にも理解はしたようだが動くことはないまま、もっともっととばかりにぐっと体を押し付けてくる。  もしかすると、あまえんぼさんなのかもしれない。一体型で目隠しにもなっているから、へびさんになった瞬間から何も見えていなくて飼い主が恋しいのかも。そうだとしたら嬉しいな、と思いながら蛇の生態を思い出した。  視力は退化しているものが多く、熱と音で周囲を探る生き物だったはずだ。ちょうどこの子のように。 「んっ、ん……っ」 「ん……? どうしたの、ナミちゃん?」  そうして抱きしめたまま背中を撫でていたんだけど……どうにも落ち着かない様子。いくら優しく撫でてやっても大人しくならず、必死に体を擦り付けてくるような動作をしている。  まるで、いくら撫でられても足りないような。少しの間は撫で足りないのかと思って、ベッドの側面に背を預けて両手で撫で回していたんだけど……やはり、妙に反応が鈍い。お尻の丸みを撫でているのに、そこが跳ねすらしないことがあるのだ。目元も隠されて敏感になっているはずなのに。  ただ……触り観察しながら少し考えて、その原因はわかった。 「もしかして、ラバーが分厚くてあんまりわからない?」 「! あうっ!!」 「やっぱり」  外から触ったこちらが感じる、ナミちゃんの熱も鈍いというか。それに、どうにも触れた感じがかなり分厚く、口元のあたりの境目を見てもそうらしい。  つまり、このへびさんスーツはラバーがかなり分厚く作られているから、外から触れられた感触すらあまりはっきりとは感じられないのだ。それこそ軽く撫でた程度だと、お尻のような元々鈍い部位はほぼ全くわからないくらい。  これは設計ミスでも選択ミスでもないだろう。そういう、触覚すら奪ってしまう拘束として作られて、予定通りの性能をしっかり発揮して、そしてナミちゃんは選べるへびさんスーツの中から望んでこれを選んだのだ。  では、どうして? 言うまでもない。そうして奪われて奪われて、制限された感覚だからこそ、わかるところが敏感になって愛しくなるのだ。だから私がしてやるべきなのは、敏感なところを可愛がってあげること。  だけど……だとしたら、股間やお尻のジッパーを開いてしまうのは期待外れというものだろう。最初から開いているならまだしも、そうでないならこれはあまり使いたくない機能のはずだ。だから……。 「……」 「ぁっ……んぁ、ぁっ……!」  私は、ナミちゃんの開かされた口の中へそっと手を近づけて、そこで揺れる舌へ指先を触れさせた。すると……驚いたように一瞬引っ込んだそれは、すぐに戻ってきておそるおそる触れてくる。感触で指だとわかったのだろう、やがてぺたりと舌を押し付けてきて、そのまま舐め始めた。  どうやら正解だったらしい。それ以外のものをほとんど感じられない孤独なへびさんは、唯一与えられた指先へ甘えるように舐めまわしている。形を確かめるようにぐるりと舐めて、それから指の腹に対して触れさせるように。  つまり、今のこの子にとっては、こうして舌で触れて縋っている指先の感触こそが、世界の全てなのだ。しかも能動的にしっかり動かせるのも舌だけだから、ひたすら舐めて甘えるしかない。犬が撫でる手に頭を押し付けてくるように、人が繋いだ手をぎゅっと握るように。  そんな、無力な存在。可愛くないわけがない。ぺろ、ぺろ…………。 「んっ……あぅ、はふ……」 「よし、よし」  開口具を噛まされているから、これだけ口で甘えるしかないというのに吸い付くことすらできない。へびさんにできるのは、温もり求めて「そこにあるはず」と離れればわからなくなってしまうような、微かな外界との繋がりに舌だけでひたすら甘えることだけだった。  それに集中させてあげたくて、その場であぐらをかいてそこにナミちゃんを座らせる。そのままもたれさせて、姿勢維持をさせずとも舐めていられるように。頭を撫でているのは私の自己満足だけど、微かに伝わってはいるのだろうか。より甘ったるい鳴き声を出しながら自分から顔を寄せて、舌の付け根も使って少しでも多く感じられるようにしてきている。 「かわいい。とってもみじめで、かわいいね、ナミちゃん」 「ぁっ……!!」  それから、耳元に口を寄せて、舐めさせながらに囁くには少しだけ大きめの声で可愛らしさを褒めてあげた。こんな姿で甘えたいような変態さんだから、やっぱり惨めさや情けなさを自覚させながら褒めるのが一番響くはずだ。……耳元も厚めのラバーで包まれているようだから、これまでも辛うじて聞き取れていたようだとはいえ伝える声もはっきり。返事がしっかりしていたのは、そんな音量でも伝わっているとアピールするためだったのかもしれない。  ぞくぞく、ぞくぞくぞく。案の定深く深く言葉が響いて、それで絶頂してしまったまぞへびさんを、先回りして片腕できつく抱き締めてあげた。少しでも動けないほうが快楽を逃がせなくて、より気持ちいいはずだから。じっくり体内で反射させて、快楽をたくさん感じてほしい。 「ほら、もっと舐めていいからね。舌先以外ぜんぶ奪われちゃったかわいそうなへびさん、たくさん甘えてかわいいとこ見せて」 「はっ、はっ……んぁぅ……っ!」  ところが、ナミちゃんの方がうまく身をよじった。どうやら人間のような座り方をしているのが気に入らなかったようで、わざわざ少し大変ながら蛇らしいうつ伏せに戻ってみせる。  そういうことなら、へびさんらしい姿勢でいさせてあげることに。それこそ蛇に餌をあげるように片手を床の近くまで下ろして、もう片手はやや強めに背中を撫で下ろしていく。  どんどん自分のありさまを自覚して興奮を強めるナミちゃんが可愛くて仕方ない。外から自分がどんなふうに見えているか想像したのだろう。分厚いラバーに包まれて体を事実上失ったようなものである姿が、今更になって興奮をくすぐったのが手に取るようにわかる。貪るように舐め方が激しくなったから。  そうしてしばらく与えられていた指ばかり舐めて、普通なら無意味な愛撫にも奉仕にも満たない行為で興奮を繰り返していたナミちゃんだけど、さらにもう一度指舐めだけで絶頂してみせたところで動きを変えた。  指を口から追い出すことすらできない様子を見せつつも、指を舌先で持ち上げたりして誘導しながらするする。私の体を登るような動作を経て、ベッドの上へ登ろうとして……そこで止まってしまった。このへびさんはもはや、そこにあるとわかっているベッド程度の段差すら、うまく頭を乗せてもなお登れないのだ。たぶん胴体の厚手ラバーが硬くて、あまり背筋を反らすことが難しいのだろう。  持ち上げて載せてあげる(身長もとい全長は平均よりありそうな割に、ラバー込みでもけっこう軽かった。スーツに包まれた今の見た目以上に細いのだろう)と、嬉しそうに手の甲を見つけて舐めてくる。やはり感覚が鈍いのだろう、こういうときに頬擦りを位置確認にしか使わずに必ず舐めてくるからわかる。  頭の動きで促された気がしたから私もベッドに上がって……ベッドボードにもたれかかった。するとナミちゃんは私の爪先を見つけるとそっと舐めて、尺取虫のように這ってこちらに来た。べったり私の胸元へ顔を埋めると、そこから下に下がっていき……私のラバースーツの、股間部のジッパーをぺろぺろ。  そんなことをされれば、この子が何をしたいのかは伝わってくる。私もちょうど気分だったから、開口具のせいで取っ手を咥えることすらできないナミちゃんの代わりにそれを下ろしてあげた。ラバースーツにできた隙間から、興奮ですっかり蒸れた秘部が露出する。 「ふふ、いいよ。気が済むまで舐めて」 「はっ、ぁ……あぅ、っ!」 「んっ……そんなに、がっついちゃって」  ナミちゃんは嬉しそうに舐め始めた。手も使えなければ唇すら使えず、本当に舌一本でやるしかないからどうしても拙いけど……それで必死にしゃぶりつきながら舐めてくれるのはとても興奮するし、なかなか上手なものでしっかり気持ちいいし、何より見下ろせば可愛まぞへびさんの情けない姿が見えるのはとても壮観だった。  この子を自分の好きなように可愛がれている、という、とにかく征服欲が満たされる感覚が堪らない。今だってこんなに必死に、自分からおねだりしてまで舐めてくれているのだ。こんなの、奉仕の快楽そのものよりも興奮の方で。 「ん、イく……ちゃんと、受け止めて……っ、~~~ッ」 「あぅ、っ……!」  ごくん、と、確かに溢れた愛液をうまく飲み込んだ音がした。膣内へ潜り込んでいた舌を引き抜いて、突き出した舌で窪みを作って、そこに液体を溜めて見せてくれる。何も命令していないのに、何も見えていないまま、唯一の外界と触れ合う手段である舌を使ってそんなことをしてくれる子なのだ。  私は頭をたくさん撫でてあげながら、飲み込む命令をしないまま自分でジッパーを閉じた。それからその位置に留まらせつつ、自分の体をそっとナミちゃんの隣に滑り込ませて……。 「んっ」 「んぁっ!? ……あぅ、ぅ」 「ふふ、いいの。このまま、イチャイチャしよ」 「あぅ……んっ、ぅ、あ」  まっすぐなへびさんの体を全身で抱き締めながら、まだ愛液を蓄えたままの唇を奪った。逃げようとするナミちゃんを捕まえて下がらせず、舌を絡めて愛液に触れる。……といっても、守るような動きをしたあたり欲しいようだから奪いはしない。代わりに、私の唾液を混ぜてあげる。  健気で可愛いへびさんにご褒美だ。そんなにご主人様の味が欲しいなら、いくらでもキスし続けてあげることにした。厚ぼったいラバースーツ越しにもわかるくらい抱き締めながら、開口具で抵抗できない口の中を蹂躙してやる。 「……っ、は。まだまだ時間あるけど、どうしよっか」 「……ぅ」 「ん、わかった。もうちょっと、二人きりね」  唾液を交換して飲み込んだ後、断続的にキスを続けながら一緒に寝転がって戯れる。強めに尻を揉んであげたりしていると、腰をぐっと押し付けてきながら胸元は甘えるように擦り付けてきた。たぶん、お尻のジッパーを開けていいということだ。  コースの時間はまだまだ、実は明日の昼まで残っている。私はともかくナミちゃんも最大時間らしいから、基本的にはへびさんのままずっと一緒にいることになりそうだ。  だから途中でペットランにでも行って、他の子と這いずり競走でもしてもらおうかとも思っているんだけど……甘え上手なナミちゃんはまだまだ、できる甘え方とイチャつき方を全てするまでこうして戯れていたいらしい。そういうことなら私も、心ゆくまで最高のペットを堪能するとしよう。

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【先読み】駅前のオブジェは秘密の舞台

 この街には、一部の人間しか知らない秘密が存在する。……なんて言ってしまうと胡散臭いものだけど、これは嘘ではない。本当にそう言えるものはあるし、私もそれを知っている。  だけど、噂としてとはいえ普通の女子大生でしかない私でも知っているようなものだ。何も陰謀だとか闇だとか、そんなものではない。秘密の組織、ならさして間違っていないかもしれないけど。  その現場は、市街地の中心にある末糸駅の駅前広場。待ち合わせ用に噴水だとかモニュメントが置かれているような場所なんだけど、ここは少し特殊だ。というのも、ここに置かれているオブジェは屋根とガラスケースに守られているばかりか、よく入れ替わるのだ。  しかもローテーションしているというわけでもなく、中には一度見たきり何年も再び見ることができないものもある。素材もデザインも一度に置かれる数もまちまちで、共通項はせいぜい体の形を隠さない格好の女性型の等身像であることくらい。わかっていることも、作者が「栃谷円玖」という地元出身のそこそこ有名な芸術家であることと、彼の大型立体作品はここ以外では陸路で運べる範囲の展覧会に不定期でしかお目にかかれないことだけだ。  趣味で作り続けているものを市が飾らせてもらっているのだろう、とくらいしか言われていないし、その酔狂さを含めて底空市七不思議に数えられたりもする。とにかくかの地元の星が習作でも出し続けているのだろう、くらいにしか思われていない。  裸像ではあるから思春期の男子あたりはちょっと目を逸らしたり、それを茶化したりなんてものは日常風景だ。だけどそういう芸術は昔からあるし、別に下品なわけでもないそれにケチをつけて「お前がそういう目で見ているだけだろう」と言い返されているのもごく一部のつまらない活動家くらいのものである。  そんな駅前のオブジェこそが、秘密そのもの。この街でちょっと性嗜好を拗らせた人が生まれやすい理由のひとつでもあり、私のように一部の物好きが引っかかる誘蛾灯だった。  ある日の夜半過ぎ。この日私は、終電から30分ほど経っていよいよ通行人は一人もいない駅前広場に足を運んでいた。  早く来すぎるなと厳命されて指定された時間範囲ほぼぴったりに到着した私の前に姿を見せていたのは、オブジェの近くに停まって荷台の扉を開けたトラックだった。それに乗ってきたのだろう数人の作業員は、ちょうどオブジェを囲むガラスケースの一面を扉のように開いたところ。 「すみません、“次”で来た“A”なんですけど……」 「Aさんですね。現在取り外し作業中ですので、しばらくお待ちください。台座の外でしたら、ケースの中から見ていただいても構いませんよ」 「ありがとうございます。邪魔にはなりませんので」  作業員が許可してくれたから、お言葉に甘えてガラスケースの中へ。その中には直径がケースの一辺の半分ほどだろうか、オブジェを載せる円形の台座がある。それに乗らないようにしながら、オブジェとその取り外し作業を見学することにした。  今回そこにあったのは三体の、いずれも石像。モチーフはゴルゴーン姉妹のようで、うちひとつは蛇の髪をしっかり強調していた。残る二つも一つほどではないものの半異形の美しい女のデザインで、二対一で向き合う配置になっている。 「……あの、Aさん、ですよね?」 「はい。あなたは」 「Bです。その、よろしくお願いします」  そんな石像たちは、かなりしっかり台座に固定されている。石の重みを支えるためか少し特殊な形をしている留め具を一つずつ取り外していく様子を見ていると、それが二体目に差し掛かったあたりで入ってきた女性に声をかけられた。これの参加者は名前は出さず、こうしてアルファベットを振られて呼ばれることになっている。  …………いつだったかは覚えていないものの、どこかで見たことがあるような気がする。学校の先輩か後輩かもしれないし、前に足を運んだ展覧会や博物館にでもいたのかもしれない。ここに来る人はその多くが私と同じ趣味を持つ近い世代だろうから、そのどちらかの可能性は高い。  なんであれ、仲良くしておかないと困る間柄となる存在であり……仲が悪くなることはそうそうないだろう相手だ。いろいろと共有しておくことに否やはない。 「すごい、ですね……」 「はい。知ってはいても、こうして見ると魅入るというか、言葉がなくなるというか」 「これから私たちも、こうなるんですね」  ……そう。私たちは今、これからこの石像たちのようになるためにここに来ている。そしてそれは、多くの市民が意識しないようにしている、性的な意味を持った目的においてだ。  秘密の内容。この駅前のオブジェは、本物の人間が入っているのだ。それも、特殊な興奮を得るために。  この街にはアダルトグッズメーカーであるミスト・スランバーの本社がある。詳細こそ伏せられているものの商品表示には確かに底空市の名前があるし、繁華街には直営店だって構えられている。開催期間が後半に入ったところの『SM博物館』だって、少なくとも初回はこの街で開かれているのだ。  応募がミスト・スランバーの会員サイトからだったから、これに関わっていることは間違いない。そうでなくとも確信しているところだ、オブジェ化によるポゼッションプレイなんてものを大々的にやるのはあの会社くらいのものなのだから。 「えっと、前の人はどれでしょう?」 「最近人気が増してるとは聞いてたけど……三体ともですね。ほら、目のところを見たら」 「ああ、そこで見分けるんですね。……でも、そっか。例の博物館とかも、ありましたもんね」  その拘束博物館はもともと好事家や元々興味があった人向けに開催されたものだったんだけど、段々口コミが進んで偏見がない人や興味を持った人の入場も増えているらしい。会員サイトにある会員数カウンターも増え続けているのは、『ヒューマンファーム』の影響もあるのだろうか。  それもあって、以前は数体あるうちの一体だけであることが当たり前だった“中身入り”が、最近は全てになっているのが当たり前なのだ。像の瞳の部分がガラスレンズになっているのが中身入りの証で、今回も三つの像全てがそうなっている。  そうして話しているうちに、全ての石像がトラックに積み込まれた。これからあの三体は中身を取り出されるか、あるいは展覧会に持ち込まれて展示される。  そして私たちは……一緒に工房へ向かって、そこで代わりに駅前に飾られるオブジェへ姿を変えることになる。私も、隣のこの子も、それで興奮することができるだけの興味を深く奪われてしまっているのだ。オブジェに閉じ込められて数日間も展示されることを、自分たちから強く望んで応募したほどに。  別で送迎の車を呼ぶことはできたとのことだけど、私たちは自分たちから望んでトラックの荷台に乗り込んだ。今はとにかくこの石像たちが気になって仕方ないし、言ってしまえば焦がれているのだ。  しばらく前に体のサイズを隅々まで測ったのはミスト・スランバー直営店のバックヤードだったから、工房に行くのは初めてだ。それに私たちが何になるのかはまだ知らない。ときにかっこいいヒーロー、ときに敗れたヴィランになるところだけど、少なくとも駅前で芸術作品として見られるようなものであることに違いはないから心配はしていない。 「到着しました」  トラックが止まって荷台が開いたところで降りる。その先は広い工房に直接繋がっていて、作品をそのままトラックへ載せられるようになっている形だった。  私たちは中でもロッカールームのような小部屋へ促されて向かうと、持ってきた私物を全て預けて……言われるがまま、服も全て脱いだ。それも当然だ、オブジェの中には服を着ては入らない。それに私たちはそもそも、えっちなことをするためにここに来ている。  完全に何一つ持たず身につけていない生まれたままの姿で工房に戻ってくると、石像は三つとも工房に下ろされた上で作業員さんは女性しか残っていなかった。力仕事でもあるから男性作業員に運ばれることくらいは覚悟していたけれど、素肌が隠れるまでは場を外してくれるらしい。  裸でも過ごしやすい室温の工房では、石像が開かれているところ。外からはとてもではないけれど見抜くことなどできないほど違和感なく消された継ぎ目が専用の工具で開かれていくと……中からは肌色、ではなくラバースーツのようなものが出てきた。 「ん、ぅぅ、っ……!」 「…………すごい」 「あんなふうになってるんだ……何日もあのままなら、そりゃそうだけど……」  ……少し開いたところで止まって、ラフな装いの女性が隙間に手を突っ込む。お尻のあたりで何かを探り当てたようで、支えながらさらに開いていくと……くぐもった嬌声とともに、何やら弁のようなものがお尻の穴から抜けてきた。  そのまま背中からお尻、足の後ろ側までにかけてが剥がれて、中身が背面だけ露わになる。まだ腕は固まっているから動けないようで半分埋まったような状態のそれを見ていると、別のスタッフさんに声をかけられた。 「お待たせいたしました。お二人とも、まずはこちらを」 「あっちも着ているみたいですけど……これは?」 「長期拘束用のインナースーツです。肌擦れや老廃物、筋肉の維持まで全ての機能が集約されているので、ぴったりのサイズを貸し出しということにはなりますが」 「そっか、そんなのあるんだ……てっきり低周波パッドか何かでどうにかしてるのかと」 「だとすると、とんでもなく高そうですね……どっちにしろ貸し出しじゃないと無理そう」  手助けと手解きを受けながらインナースーツを身につけていく。着用感はとてもよくて、拘束博物館で試着したラバースーツに似ているようでものが違う。まだ機能は動いていないのだろうけど、それでもずっと着ていられそうだ。  口の穴を広げて入る方式で一切の継ぎ目が存在しないそれを首まで着て、全身にぴっちり張り付きながら恥ずかしいところだけ穴が空いているそれを堪能していると……あれこれと石像の内側にあったらしい管を全て外し終えた中身の一人、メドゥーサ役の人が同じ格好で頭部分だけ脱いで数日ぶりに顔を出した。 「……なんでこんなところに」 「こっちの台詞よ。まさか同じ趣味だなんて思わなかった」 「ほんとに……ま、そういうことだから……その、終わったらまた話しよ」 「ええ。これまでにも増して面白い話ができそうだし」  それが見知った顔、それどころか友人だったからもう驚きだ。向こうは石の中の時点で驚き終えていたようだったし、この場では名前を出さないルールだから最低限の会話で済ませたけれど。  残り二人は見る前にこちらが頭まで被ってしまったけれど、知らない顔だった。何事もなくスルーして、相方となるBさんと一緒に入れ替わりで工房の中央へ。そこにあるのは……二体と呼ぶには一体化していて、一体と呼ぶにはそれぞれに個性がある、躍動感のある金属像だった。 「はじめまして。栃谷円玖です」 「若い女の人、だったんですね。てっきりお年を召した方だと」 「名義での活動は20年を超えていますからね。……公表していませんが、実はこれは半ば共有された名前なんです。作品はもう一人……師匠と一緒に作っているんですよ」  さっき中身まで触って取り外しの処理をしていたのは一人だけだった。その人、思っていたよりずいぶん若い女性が栃谷円玖、正確にはその片割れであるらしい。  私としては、少しほっとしたところもあった。覚悟していたとはいえ恥ずかしいところも格好も何もかも晒す相手だ、やはり壮年の異性よりも歳の近い同性のほうがいいのは自然なことだろう。 「お二人が“なる”作品ですが……アメノウズメとアマテラス、その金属像です」 「やっぱり。……だけど、こっちはかなり大変な姿勢じゃないですか?」 「像の外身が支えてくれるので、こう見えて楽なんですよ。私も実体験しているので、ご安心を」  日本神話の有名なシーン、天岩戸に閉じこもった天照大御神を連れ出す場面だろう。あえて岩戸の前でどんちゃん騒ぎをして、踊りが得意な天鈿女命は裸踊りまでして気を引いたという。……確か覗き込んだ天照大御神を引っ張り出したのは他の力自慢の神様だった気がするけど、そこは省略されているようだ。二人が直接手を繋ぐことで当の岩戸も洞窟もオミットされている。  連れ出されたアマテラスはイメージ通りの衣服を纏ってはいるものの、前が開いている上にひどく乱れていてあちこち丸見えになっている。原典で裸ではないものを下品にしない範囲で、裏の目的を果たす過不足のない塩梅だ。  一方のアメノウズメは、ほとんど裸。それはまあ、裸踊りをしているのだから当たり前なんだけど、ストールのような形の羽衣を肩にかけているだけ。極薄の金属板がバランスを取りながらたなびいていて、体のラインも一切隠れていない。おまけにバレエのように片脚を膝の高さまで上げていて、隠すどころか見せつけるように体を開いている。 「えっと、どっちがどっち、なんですか……?」 「アメノウズメがAさん、アマテラスがBさんです。……ご希望通りに、なっていますよね?」 「…………はい」 「わ……」  ……そう。いざ目の当たりにして、割れ目まで描いてこそいないもののこれでもかと再現されたそれを見て、私はすっかり期待している。そもそも希望を取られたとき、これでもかと恥ずかしいようなものでもいい、なんてわざわざ答えたのは私のほうなのだ。  まさかここまでしてくれるとは思っていなかった。こんな徹底的に見せつけるような姿にされて、どう感じてしまうのだろう。 「本作は二体でバランスを取るように設計されています。ですので、まずはBさんから入っていただきますが……よろしいですか?」 「は、はいっ」  なんでも私が先に入ったら少し不安定になる可能性があるとのことで、まずは比較的ちゃんとした立ち姿のアマテラスのほうから。やや前傾姿勢だけどこのくらいなら問題ないようで、分解された金属像の前半身の部分に体を嵌め込んでいる。複雑でない腕の形をしているものの場合、前後の2パーツで構成されている様子。  あえて像の前半分越しにしか見ないように向かい側にいて……それでも聞こえてしまったちょっとした水音に想像を掻き立てられながら、順番を待つ。実際に見えたのは、目の部分に存在する穴からBさんの目元が覗いただけなんだけど……その小さな穴でもわかるくらい、興奮と快楽と羞恥がごちゃ混ぜになっている。  少しして……私服に戻った前の三人が戻ってきて、どこか微笑ましげに見てくる。中でも友人は私ばかり見てくるけど、むしろ構わなかった。同じ変態嗜好の仲間だし、経験者が変な侮蔑なんて向けてくるはずもないし。 「……では、Aさんもこちらに」 「はい…………中身、こうなってるんですか」 「ええ。これは取り外しが可能ですが」 「……そ、そのままで」 「気にしないで。私たちも全員そのままだったから」 「私が言うのもだけど、それはそれでどうなの……?」  いよいよ私の番だ。繋ぐ方の親指だけ別パーツなもののアメノウズメも大きくは前後2パーツ構成のようで、後ろの部分を開くと……中身が見えて、思わず言葉を失う。  全体的に、外からは考えられないほど仕込みが多い。頭の部分には呼吸用の穴が目立たないように用意されているだけでなく、緊急用なのか口に合わせてごく短い酸素チューブもある。もうひとつあるチューブは水と流動食のもののようで、使うときだけ口を閉じて咥える仕組みだ。  股間部もいろいろ用意があって、導尿カテーテルと……膣用のバイブが仕込まれていた。これは外せるらしいけど、それが一切動けない中での気紛らわせになるのはわかる。私は恥ずかしながら一人遊びで膜を破ってしまっているから、外す理由もなくもってのほかだった。  ……けど、これをこの場にいる誰も外していないのは、さすがに爛れているような。見ればBさんも目を逸らしているし。  振り返ると後ろ側にも仕込みがあった。さっき外すのを見た弁はどうやら排泄用の機構で、これを含むいくつもの管がうまく像の中を通されているらしい。  ヒアリングのときに少し弄っていると正直に答えてしまったからか、現時点でも指二本分ほどの容赦のない太さになっている。 「ではカテーテルを挿入しますので……ここに、ほんの少しだけ隙間を作れますか?」 「はい……ん、ぅっ」 「少しそのまま……」 「ぅあ、っ、ぁ…………」  そのままにしたバイブへ自分から挿入していって、拳が滑り込める程度の隙間を作って止める。興奮はこれでもかとしていたからもう濡れていて簡単に入ったけど、それを見られるのが恥ずかしい。  念のため改めて消毒されたカテーテルが尿道に入ってくる。しっかり膀胱まで入ったようで、全く止められないまま抜けていく独特の屈辱感を感じた。これに耐えられるほどの変態が、数日おきに交代できるほどこの街にはいるらしい。  合図でそのまま隙間をなくして、深くまで挿入しながら像の裏に密着した。会陰のあたりまでぴったり嵌め込むと自覚していた以上に動きが封じられて、この時点ですらもう不思議な心地よさがある。 「では、閉じ込めていきますね。事前にお伝えした通り、解放は一週間後です」 「はい……」 「では、いってらっしゃい」 「ん……ぅ、は、ぁぁっ……!」  腕もぴったりの形に合わせて……やや下寄りになっていたおかげで乗せやすかった片脚もしっかり添える。スーツがどんな仕組みで助けてくれているのやら、腕は心臓よりはやや上にあるのに全く疲れない。  確かに言われた通り、無理なんてしていないように楽に感じる。身を任せることも難しくなかったから委ねていたら、後ろ半分が近付いてきた。私をこれから一週間、彫像の中に閉じ込めて完全に拘束してしまう残酷な美術品だ。  栃谷さんが優しく解してくれたけど、来る前に気が逸って自分で解していたからお尻の穴はもう柔らかい。ゆっくり像ごと押し付けられた部分は強烈な異物感ごと挿入されてしまって、外側どうしが完全にくっついた。音が聞こえなくなったことでそれがわかって、試しに体を動かそうとしてみても一切手応えがない。そもそも可動域がないから、内壁を押すことすらままならないのだ。  最後に右手の親指も固められて、これでほぼ完成だ。私は自力では本当に何もできない、ただの金属像へと貶められてしまった。  ………反射的に浸ってしまったのは、ほんの数秒のこと。気付いたのは目の前、アマテラスから覗くBさんのぽうっとした視線だった。  それで自分が穴を締め付けながら楽しんでしまっていて、たぶん陶酔すらしていたのだと気付いた。直後、視界内に割り込んできた栃谷さんがアマテラスの目にガラスレンズを嵌め込んでしまって、辛うじてわかっていたBさんの表情が読み取れなくなる。  それがどういう意味か、自分も同じことをされるのだと気付いてぞくりとしているうちに、私の目元もレンズで覆われた。といってもほとんど視界に影響も度もないようで、ただ外から見えなくなるだけらしい。  もう最後まで見ていた三人がどんな反応をしているのかも、いつ帰ったのかもわからない。ただ固定された視界だけが与えられた状態で栃谷さんとスタッフさんがしばらく動いて、やがて男性作業員も入ってきた。つまり私たちはもう、外に出して見せられる状態なのだ。こんな拘束感と密着感と異物感に襲われっぱなしで、この姿を美術品として見られ扱われているとわかるだけで興奮が止まらないのに。  しかしもはや私たちはただのオブジェ、身体の自由はなく動かす権利は外の人間にある。要領よく大きな台車に乗せられて、斜めになりながらトラックに載せられて……荷台に閉じ込められると、走り出すのが体感でわかった。もう工房を出て、展示場所……あれだけの人が往来する駅前広場へと運ばれるのだ。 『設置が終わったので、説明させていただきますね』 「は、はい」 『はひっ』 『今行っているように、像の中には通話機能があります。耳の部分にスピーカーが、口のあたりにマイクが。防水仕様ですのでご安心を。……加えて、手の部分にスイッチが仕込まれておりまして、お二人の離れている方の手の親指にスピーカー、人差し指にマイクのスイッチがあります。いずれも誤操作防止のため、爪側に』  しばらくして、まだ始発には余裕がある時間。無人の広場へ設置が済んで、周囲に屋外の景色と夜空が広がったところで耳元に声がした。  肌ひとつ出せない中なのに開放感に苛まれながら、話を聞いて気付いた。私はここまでも、異物感と興奮、それから晒された実感で喉を鳴らしてしまっていた。 「……もしかして、聞こえてました?」 『は、はい……それ聞いて、私も興奮しちゃってて……』 『申し遅れましたが、デフォルトではオンになっています。……また、中指には広場の環境音スピーカーのスイッチもあります。お好きにご活用を』 「は、早く言ってください……」 『ごめんなさい、Bさんが聞いていたそうでしたので。……ただし、音声はお互いにしか、連絡中を除いて私にも聞こえませんのでご安心ください。また、小指にはこちらへの連絡ボタンがありますので、何か困ったことがあれば長押ししてください』  ……恥ずかしい。全部聞かれていたわけだ。Bさんがそれを楽しんでいたようなのが救いだけど……。  それにしても、案外いろいろ操作ができるらしい。二人で気を紛らし会話もできるのなら、孤独に心がおかしくなることもないだろう。Bさんとは、ちょっと気も合いそうだし。 『それから……水は起きている間にチューブを吸うと出ます。食餌は規定時間に用意されて通知しますので、同様に。起きているかの判別は、目が開いているかのセンサーとバイタルにて行います』 「わかりました」 『事前告知の通り、詰まり防止のため後ろの排泄は管理させていただきます。腸内洗浄を伴いますのでご了承ください』 『ぅ……はい』 『最後に、繋いでいる方の手にもボタンがあります。何が起こるかは、押してみてのお楽しみということで』  立て続けに使い方を説明されて、通信が切れた。本当に長時間こうしているために快適に作られているようで、至れり尽くせりだ。……排泄のしかたは、こうなるのも仕方ないし。  そこまでして、人を動かぬ彫像に変えてしまうことに情熱を注いでいる。そして私たちは、わざわざ本気で応募して一週間を費やしてそうなりたがった。そんな、非日常だ。それが堪らないのだ。  そうして、二人きりになった。ガラスケースも閉じてトラックが去っていき、お互いに通話を切る気もないまま。 「……えっと、その」 『た、試しに……環境音、つけてみますか?』 「! ……そう、ですね」  お互いに、ぴくりとも動けないまま見つめ合う状態。手は繋いでいるものの金属板で遮られていて触れられず、しかし温度は感じる。これから一週間も唯一の仲間である上に同じ変態趣味だとまでわかっていても、少しだけ気まずい。  ここまでは外側に気を散らすものがあったものの、今からは基本的に一切の変化がない時間がひたすら続く。今やミスト・スランバーが会員経由で募集しているものには他にもヒューマンファームやヒトペット広場、それに不定期開催の各種展覧会もあるのだから、その中でわざわざこのオブジェを選んでいる時点でいろいろと分かりきっている、というか。  だからこそ、どう話せばいいかわからない。たぶん、仲良くなれる子だとは思うんだけど……と、ついていると思っていなかった通話やいろいろな機能に翻弄されていると、Bさんから提案された。確かにそれでどうなるのか私たちはまだ知らない、試しにつけてみることに。  それが過ちだった。 「…………っ!?」 『う、ぁ………!』 「こ、これやばいかもっ」  聞こえてきたのは、それまでの閉じた空間とはまた別の静寂だった。こんな深夜の広場の中央、電車すらない時間とはいえ、無音ではないのだ。時折吹く風の強弱が、ガラスケースと金属像でそれすら味わえない私たちの現状を突きつけてくる。微かな虫の鳴き声が、人間以外は活動している屋外だと知らしめてくる。遠くに聞こえる車の音が、広場からは距離があるとはいえ活動している人もいないわけではないと気付かせてきた。  そして、自覚してしまった。私はそんな場所のど真ん中で、たった金属一枚越しに、しかもこれでもかと誇示するかのようなぴったりそのままの形で、踊る姿勢の開いた股を晒している。お尻のあたりはまだチューブのカモフラージュでマシだけど、前の方は少し視線を下げればもろだ。……いや、たぶん私が見たからバイアスがかかっただけで、実際は駅前に飾っても大丈夫な程度の表現なんだけど。 「い、いったん止めましょ」 『そ、そうですねっ……』 「……は、ふ……私たち、これから一週間、このまま……?」  慌てて環境音スピーカーを切った。けど、そうして外が思っていたより身近なことは自覚してしまったから、とてもじゃないけれど元通りの意識には戻らない。自分では確認できない後方に視線があるように思えてならないし、空気が肌を撫でているような有り得ない錯覚がある。  そして二人のスピーカーマイクはオンのままだから、一緒に同じ興奮を味わっているのもわかってしまう。目の前にある、入る前に見たときよりもだいぶ恥ずかしそうに見えるアマテラスの中にも、同じ感覚があるのだと想像がつく。  ……私たちは、そうまでわかって何もせずにいられるわけではなかった。そもそもの話、忘れられなくなるような非日常の快楽を求めてこんなふうになっているのだ。 『…………その、私……普段はなるべく、つけたままにしようかなって』 「私も。昼になったらたくさん見られるんですし、慣れなきゃいけない、ですし……こういうの、好きかも、だから」  だから私たちは、示し合わせてつけ直した。昼に向けての慣らしでもあり、……自分の欲を満たすため。  また音が聞こえて、びくりとすらできない金属固めにまた興奮が重なって……耳元にも小さく漏れた声が届いて。たぶん私も似たようなものを出していた。  だけど、そんなものは本当に最初の戯れでしかない。私は、そしてBさんも気になっていたものがあった。 『……ところで、なんですけど。……残りのスイッチ、なんなんでしょうね……』 「さあ……押してよさそうなこと、言ってましたし……試してみます?」 『そうですね。ちょっと怖いけど……』 「じゃあ、先に押してみますね」  むしろ積極的に押してみて、といった言い草だった。それでいて作用を説明されないということは、少なくともわからずに押しても大丈夫なものだとは思うけど。少なくとも腸内洗浄の強制起動とか、外との通信とか、そういうのではないだろう。  もう片方の手もそうだけど、握る方に力を込めても大丈夫なようにボタンは爪側。実際は全く動かない右手の人差し指を、伸ばす方向に押してみると……。 『ひゃうっ!?』 「えっ?」 『ん、ぅぅ、ぁ……なんか、バイブが、震えだして……っ』 「あ……まさか、このボタンって……」 『……は、ぁ……止まった……』 「やっぱり。……せ、性格悪い」  耳元にBさんの、これまでより明らかな嬌声が聞こえた。どう聞いても喘いでいるし、ほんの僅かにだけどバイブ音もした。  本人も言った通りのことが起こったようで……もう一度押すと、止まった様子。つまりこれは、 「お互いの手に、お互いのバイブのスイッチが用意されてる」 『そ、そんな……っ』  という、ことだ。私の人差し指にBさんのバイブが繋がっているということは、きっと逆も同じだろう。それはつまり、お互いがお互いの快楽の権利を握っているということ。オナニーなんて許されていないし、一方で相手をひどい目に遭わせる権利だけがある。  発生するのは、とても理不尽な相互服従だ。欲しければ恥を忍んで頼むしかない。相手の弱みを握っているけど、同じものを握られている。私たちは今、どこまでも尊厳のないモノなのだ。 「しかも、まだスイッチはあるから……他のも、試してみます?」 『そう、ですね……小指の、押してみますよ』 「お願い……っひぁ!? ちくび、きて……っ、」 『え……仕込まれてたん、ですか』 『は、ぁっ……そう、みたい……』  Bさんが小指を動かす。動いたのは……ぴったり密着した胸の膨らみの先端だった。全く気付いていなかったけれど、どうやら仕込まれていたらしい。しかも振動はほぼそこにしか感じないから、緩衝材か何かで隔離された上で。  すぐに切ってもらえたのだけど、思っていた以上。本当に動けなくて、そのせいで全く快感を逃がすことができないのだ。振動そのものは普通のローターと同じくらいだと思うのだけれど、感じるものと快感の溜まり方はその非ではなかった。  凶悪だ。自分で玩具を使ったときにはできる心の準備もないし、意思疎通したとしてもタイミングがずれるから、無意識で減衰されずにダイレクトにくる。それに、欲しがらないともらえないだけじゃない。相手を快楽地獄に突き落とすのも簡単なのだ。  …………それで、なんだけど。Bさんは小指を押した。人差し指と小指がそうということは、たぶんその間にあるものも同系統だろう。これはもう、試してみるしかない。私の予想だと、残り二つはそれぞれ二箇所のどちらかだ。 「……中指、押しますね」 『じゃあ私は薬指を……せーの、で』 「わかりました。……せー、のっ」 「んぃっ!?」『っんぅ!?』  たぶん、深夜テンションと半端な快楽でおかしくなっているんだと思う。ひとつずつ試せばいいものを、どちらからともなく妙な一体感が生まれて一緒にやりたがってしまった。  せーの、で……お尻の穴を拡げているプラグのうち、括約筋を受け止めている柔らかい部分が震えはじめた。自分で弄ってしまって既に性感帯になっているそこをダイレクトに刺激されて、かなり情けない声が出てしまう。  聞こえたのも含めて、これで四箇所……残っているのはたぶんクリトリスまで、ひととおり判明した、はず。だけど、不思議とすぐに止める気になれなかった。目の前で視覚的にだけは変わらない様子のアマテラスを見て、このままただ聞こえるだけのBさんがめちゃくちゃになるのを聞きたくなったのだ。  向こうも同じだったようで、私のアナル責めも止まらなかったし止めてとも言われなかった。それをいいことに、私たちはそれを止めないまま……あろうことか、 『は、っ……ぁ、クリ、すごい……っ』 「んぅ、ぁ……おしり、きもち……ぉっ!?」 『んへ、へ……Aさん、かわい……ひぁ!?』 「すご、すぎっ……けど、ほしかったん、でしょ……っ」 『はい……っ、ぶるぶる、いい……っ』  後から恥ずかしくなるくらい、お互いにわからないところの実況までしながら楽しみ合っていたところで、不意に私の膣内のバイブまで震え出した。二穴同時に犯され始めた私はもう溺れるしかなくなるくらい気持ちよくなりかけたところで、反撃。  私の反応を楽しんでいたところに乳首責めを追加されて善がるBさん。だけど、欲しがったのはバレバレだ。私と対照的に突起責めで嬉しそうに喘ぎ散らして、私へ媚びるような様子にすらなってきた。……私も似たようなものだけど。  こうなればもう、止めるなんてそんな無粋なことはない。もう少しで絶頂できるとわかっていて、それが欲しいのに相手から取り上げたりなんてできないのだ。そうすれば確実に仕返しされるから。  だからそのまま、さすがにまだ怖くて三つ目は押せないまま続いて。 『も、いきます、っ……いく、いくっ……!』 「わたし、も……ン、! いっしょに、ぃっ……」  またしても小っ恥ずかしくなるくらいお互いに媚び合って、いくら力を込めても形なんて代わりもしない繋いだ手を握り合って、全く同時に情けないマゾ絶頂を交換したのだった。  ……目が覚めた。  どうやら眠ってしまっていたらしい。仮眠はしておいたとはいえ設置は深夜だったから、無理もないのだけれど。  昨晩は遊び終えた時点で玩具は切っておいたし、時計は互いの視界に見えるものがあることを確認済。大胆な姿勢で固定されたままの体を再確認しながら、ゆっくり目を開けると……。 「…………っ!」  ガラスレンズ越しの目に映ったのは、すっかり明るくなった空と……ケースの外から囲んで眺めてくる、たくさんの人間たちだった。  時刻は午前八時前、ちょうど人通りが多くなってくる時間帯だ。通勤や通学で通りかかる人々はその多くが、新しく設置されたオブジェを見ている。もちろん、ほとんどがその中身なんて知りもしないまま。  深夜に無人の広場で屋外を感じたときなんて比べ物にもならない。恥ずかしいことをしているという自覚がある中で向けられる目は、あまりにもそれまでと別物だった。  しかもその視線の中には、そうそう卑猥なものを見る目すら混じっていない。もはやこのオブジェは駅のシンボルでしかないから自然に受け入れられているし、あくまで美術品だからいやらしい見方をすること自体が恥ずかしいという認識なのだ。……私のように、これで変なところが目覚めてしまった思春期の男女は少なからずいるのだろうけど。  中でも一番響いたのが、こちらを見てすらこない背中だった。オブジェを守るガラスケースは開く面を除く三方はベンチで囲われているから、そこに座っている人たちは中からは背中しか見えないのだ。  実感させられる。私たちは美術品であると同時に、待ち合わせのための目印でしかないのだと。気を惹かれなければそもそも目に入れることすら目的とされないこともある、他の駅にある大時計やモニュメントと同等のものでしかないのだと。 『……あ、起きました……?』 「はい……っ、これ、すごい……」 『ほんとに、癖になっちゃいますね……気持ちよすぎ……』  私たちは互いに中にいるとわかっているけれど、当然ながら見掛けは外からは絶対にわからないようにできている。互いがどんな状態なのかも、目元からすらガラスレンズでわからないから、意思疎通には声を聞くしかない。  休むときはどちらからともなくマイクとスピーカーを切っていたから、起きたことは微かな接続音でわかったらしい。先に起きていたBさんと同じ興奮を共有して、中でも何が良いかまで一致したことを嬉しく感じる。 『真夜中の雰囲気もいいけど、朝方もすごく……なんにもできないのに、いつ休めばいいのかわかりません……』 「一週間しかない、んですもんね……。…………環境音、つけよ」 『あ、私も』  駅が動かない深夜の静寂も、活動的な時間の中も、どちらも独特な良さがあった。もちろんこんなことがわかるのなんてこれを経験した変態くらいのものなんだけど……一週間という完全拘束には長すぎるくらいのはずの期間が、惜しいほど短く感じる。  ただ、まだ味わい切っていない。まずは二人のスピーカーをつけただけで、環境音はオフのままなのだ。それを、つけてみる。Bさんも待っていてくれたようで、一緒に。 「あ、っ」 『やば、いく、っ……!!』 「…………っ、は。触ってもないのにイったの、初めてかも」  二人の反応は同じだった。……ただつけて聴いただけで、脳イキした。  なんてことのない環境音、ただの駅前の喧騒だ。だけど、だからこそ。ここの周りの音だとわかったからこそ、だめだった。  見るだけではあくまでどこか隔絶されていたというか、別世界のような感覚と安全さがあったけれど。音までしっかり聞いてしまったらわかるのだ、私たちは本当にこんな普通のところで晒されていると。  非日常にとらわれるのも気持ちよかった。だけど、日常の中に人間でないものとして溶け込むのはまた別だった。そんな異常な状態にはもう、考えることすらできずに絶頂するほどだった。  ……本当は、すぐに玩具をつけてみることも提案するつもりだったけど。少しだけ感覚を空けよう。でないとおかしくなりそうだ。  だけど、何もしないでいるわけにもいかない。オブジェとしての楽しみもまだ味わい切れていないし、きっと飽きることもないけれど……やらなければいけないことがある。 「えっ、と……これ、咥えれば、いいんだよね……」 『確かそのはずで……んっ』  私たちは深夜にオブジェの中に入って、もう朝になっている。一応来る前に軽く食べては来ているけれど、それでももうもたない。  食餌の準備はできている通知は来ていた。試しに口元にある短い管を、唇を前に伸ばして咥えてみると……それを検知して管が伸びてきて、流動食が流れてきた。程よい塩気で思っていたより美味しく食べやすい……というか、カレー味だ。  どうやらそこまで快適に作られているようで、朝カレーと洒落こんだ私たちだけれど……これもまた罠というか。完全拘束で流動食を流し込まれるという管理されている実感は、私たちのようなタイプのマゾにはよく効く。会員サイトではもっぱらアナさんの動画が好きだったのもあって、似たことができているのは夢のようだ。  それを、駅前の往来の中央でやっている。行き交う人々、見ている人々の誰も、私たちが像の中で惨めに餌を啜っているなんて知りもしないだろう。……同じ経験のある仲間を除いて。それがまた、背徳感になる。 「……食餌まで、こんなに……」 『んく……もう私たち、ずっと興奮しっぱなしなんじゃ……っ、ぐ!?』 「え、っ……い、いま、きちゃ、っ……!」  食べ、というより飲み終えると一度口を離して、戻っていったチューブを再び咥える。今度は水が出てきて、いつでも飲めるのも聞いていた通りだった。  それで口を整えて、落ち着いたかと思いきや……プラグに犯されっぱなしのお尻に、人肌くらいの液体が流れ込んできた。確かに腸内洗浄を含めて排泄は管理されると聞いていたけれど、食餌の興奮から戻ってくる前にされるなんて。 『ふ、ン、ぐ……ちょっと、くるし……』 「はっ、はっ……ちょっ、と……?」 『ぁっ……そ、その。私、自分でやってる、から……』 「…………かわいい、っぐ!? きもちいの、ぜったいわかって、やってるっ……!」  プラグは普段は閉じているようで出せないから、注がれた分だけ腸内に溜まっていく。しかも金属像に完全にぴったり包まれているから、お腹を膨らませることもできなくて苦しい。おそらく結腸より奥までどんどん流れ込んできているのを堪えていると、Bさんが私の感覚と異なることを言った。  普段から浣腸オナニーをしているから、慣れていて耐えられている、と。……かわいいと思ってしまった。こんなプレイに応募している時点で手遅れとはいえ、可愛らしい顔と声と様子をしているのに、私よりも変態だなんて。素直に尊敬してしまう。  ……その間も、浣腸液の注入は止まらない。マゾでないと音を上げそうな量を注がれてしまって、これでも興奮してしまう変態であることを見透かされているようで恥ずかしい。  実際はそう大した量ではないのだろうけど、閉じた空間でのそれはかなり多く感じて……数分後、プラグが開いたことで勢いよく出してしまった。薬液はしっかり浸透したようで、全てするりと抜けていったような感覚に襲われる。  …………空気ではなく像を介しているはずだから、この排泄音は自分のものだけであるはずだ。そう思いたい。  それからは、ひとまずゆっくりできる時間があった。たとえば、浣腸はおそらく一日に三回あるだろうと二人で予想をつけたりとか。こまめに出させないと排泄物が溜まって、隙間のないオブジェの中ではどんどん苦しくなるだろうから、と。  そうとわからないとはいえ公衆の面前で食餌も排泄も晒された余韻に溺れ、それが落ち着いてきてもそもそもオブジェ姿を晒されていることへの興奮は収まらず、気付けば9時も回って人の数は減ってきていた。この駅はすぐ近くに大学があるから、そんな時間になっても安心できないし……むしろ知り合いを見つけてしまったり同士に見られたりする可能性が上がるのだけれど。  お互いに知り合いを目にしてしまってそれぞれ意識させられたり、気のせいでなければ直営店で見覚えのある少女にじっくり鑑賞されたりして午前中が過ぎ去る。……たぶんさっきの子、直営店で看板犬をやっていたコムギさんだよね?  朝が少し遅かったからか、やがて遅めの2時頃に食餌の準備ができる。6時間は空くようになっているのだろう、と当たりをつけつつ飲んで……予想通りまた腸内洗浄されて。やはり時間割のばらつきでなかなか絶えない大学生たちに絶え間なく見られながら、私たちは昼寝へ落ちていった。動けなくてやることもないし、糖分が体に入ったし、ゆうべは設置であまり寝ていなかったから。  とはいえこんな刺激的で恵まれた環境で、何時間もぐっすり昼寝できるわけもなく。そろそろ夕方という頃に目が覚めた私たちは……。 「……あんなに、発散したのに」 『仕方ない、ですよ。ずっと煽られ続けてるし……』  昼間でもなくならない人通りの中、すっかり発情してしまっていた。深夜に、朝方に、あれだけイって発散したのに、半日でこのざま。性欲がぜんぜん収まらない。  だけど、確かに仕方ないのだ。そもそも恥ずかしくて興奮を誘う仕打ちの中に常に囚われ続けている上に、それを駅前広場という特に人通りの多い場所に設置されて見られ続けている。こんな環境、興奮するなという方が無理があった。 『…………つけて、もらえませんか……?』 「ん……私にも、ください。一緒に……ひぁ」  ただ、だんだん分かってきてしまっている。そんな中ですら、一番恥ずかしいのはお互いに玩具をねだることだった。同じ趣味で興奮がわかるからこそ、わかる相手に欲しがるのがいやに生々しい。ねだる側ももちろん、ねだられる側もどのくらい溜まっているのかが容易に想像できて。  だけど、わかる分だけ自分の方は好きなだけねだってほしいという気持ちにもなる。逆だと恥ずかしすぎて我慢したくなるのだから、やはり本当に性格が悪い仕掛けだった。  それでも我慢できなくて、切り出してくれたのをいいことに私も欲しがって……待ち切れないとばかりにクリのローターをつけてくれる。私も負けじと膣のバイブをつけて、そのまま私はアナルプラグ、Bさんは乳首ローターを追加してきた。ちょうど深夜の真逆となる形だ。  我慢なんてきくはずもなく、喘ぎ声を交換しながら貪り合って、相手の性感帯を直に弄ってあげているのと似たような錯覚を感じながら気持ちだけでも繋いでいる右手をまた握って。だけど、そうして登っている最中に、つけっぱなしにしている環境音から聞こえてきた。 『あ、今日から変わってるのね』 『すごいポーズだね……そんなに見られたいんだ、二人とも仲良くなれそう』 『今回の可愛くて好き。中の子もかわいいんだろうなぁ』 『採寸のとき見ましたけど、かわいかったですよ』 『へっ、』 「も、もしかして、動画のっ」  聞き覚えのある声たちだ。ひとつを除いて、会員動画によく出ている三人のマゾの子。中でも憧れのアナさんから仲良くなれそうなんて言われてしまっている。  そのくらい大胆なポーズだと実感させられる。……私ので感覚が麻痺しているけれど、膝立ちのBさんも股の開き具合はなかなかなのだ。  そんな三人だけでも、それこそ推しに見られたような感覚なのに。それで見られたのがこの金属像姿な時点で、常人は一生味わうことのない感覚に曝され続けているのに。  やはり最後の一人、さっきも見てきていた少女は看板犬のコムギさんだった。彼女になら採寸を見られているから間違いない。……あのときは向こうがヒトイヌで、恥ずかしさは逆だったのだけど。  だから、中身まで完全に認識されている。その恥ずかしさは、ちょっと他の比にならなかった。 『……じゃあ、そのまま存分に楽しんでね』 『あたしもまたやりたいなぁ、これ』 『私も。頼んだらまた出してくれないかしら』 『よかったらまた来てくださいねっ。サービスしますから』 『……だ、め、いく、いっちゃう、いく、いくいくいく』 「ぁっ、……ぁ、うぁぁぁ……!」  さすがに、だめだった。最後の最後で舐めていたのだ。完全に覆い隠された彫像の中で、中身まで見透かされて見られるのは。あまりにも、恥ずかしすぎる。  そして私たちは、それが大好物だったから。深く深く絶頂して、それでも収まらずに玩具を止めないまま貪り続け合ったまま……また明日も見に来てくれないかと、本気で願ってしまっていた。

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ヒトペット広場のカートから

 本当に満たされるのだろうか、と溜息。期待半分、不安半分だった。  私は元々むっつりの自覚があって、それも拗らせてしまったのかあまり普通でないものに興味を持ってしまっていた。具体的にはいわゆるSMプレイに興味を惹かれる傾向にあったんだけど……そこからが私の面倒くさいところだった。  SMというか、主従関係のようなものには憧れるのに、厳しくされるのはあまり唆らない。恥ずかしいのは好きなのに、痛いのは少し苦手。……自分でも好き嫌いがひどいと思う。  だけど、何も自分がそうだからといって、プレイ相手以外の付き合いまでぴったり趣味が合う必要はない。SNSで知り合った何人かの仲間たちとはそれぞれ少しずつ趣味が違いつつも、お互い妄想やら猥談やらを時折楽しんでいた。  風向きが変わったのは、ミスト・スランバーが郊外に『プロジェクト・ヒューマンファーム』を設立してからだ。人間を家畜として飼育して遊びつつ、それを見世物にもしてテーマパークとして成立させるというもの。最初に聞いたときには上手くいくと思えなかったものだけど、いい具合に軌道に乗っているというのだから驚きだった。  それ以来、そういう家畜プレイ……馬や牛なんかの扱いが好きな人たちは、だいぶ様子が変わった。一部は本格的にそこで家畜として過ごしているようで、仕事扱いとなるらしいそれの休日以外にはそもそも来なくなった。そうでない人でも、時々アルバイトとして家畜になったり、客として何度も見に行ったりしていてその話をよくするように。  だけど……私は話を聞いたり姿を見て楽しむことはできても、自分がそうなりたいとは微妙に思えていなかった。少しだけ、違うのだ。私がなりたいのは家畜ではない。  そう思っていた人は、もしかすると多かったのかもしれない、ヒューマンファームが開園してから半年ほど、新たな風が吹くことが判明した。  私はヒューマンファームの敷地内、“牧場”の隣にあったエリアを訪れていた。ミスト・スランバーが告知した『新プロジェクト』の舞台がここなのだ。  これのプレオープンが行われると聞いて、私は迷わずチケットを取った。もしかしたら、ここが期待通りの場所だったら、私の趣味も満たされるかもしれない。その期待が強くある。  プレオープンは通常通りのオープンに備えて、不備があっても気にしない人向けに仮開園を行う期間なのだけど……ここではそれに加えて、グランドオープンに向けてまだ“足りない”ものを募集する場でもあった。それは前提情報さえ知っていれば、どんなものを求めているのかはすぐにわかる。 「……よし、行こう」  この区画……『ヒトペット広場』にはいろいろと区域と用途があるけど、大きく分けると二種類の楽しみ方がある。ひとつはペットと戯れること、そしてもうひとつはペットになることだ。  戯れるほうは比較的想像しやすい。一緒に遊んだり、散歩したり、お世話をしてやったり、躾をしたりする。その対象がヒトペット、つまりそれを望んだ人間であるところだけは特異的だけど、その上で楽しみたい人は求められることは本物の犬猫に対する扱いと同じだ。  こちらの想定客層はたぶん、自分と同じ人間が自分より明確に不自由な下の立場に置かれているのを見て、それを操ることができて楽しめるサディストたち。一応着ぐるみの用意もあってえっちなことを前提にしない、動物アレルギーの人が本物のペットとのような戯れを疑似体験する使い方もできるようだけど……そういう人たちはきっと、ここの情報を聞きつけてここまで来ることが難しいと思う。  そしてペットになるほうは……訪れた客こそが、ペットになって楽しめる。いくつもの種類から選んで、一般人が揃えるには骨が折れるような器具もある環境下で、思う存分非日常的な遊びに耽ることができるのだ。  私は今日、こっちを試しに来ていた。 「ヒトペット広場へようこそ。飼い主プランとペットプランがございますが、どちらのプランをご希望ですか?」 「……ペットプラン、で」 「かしこまりました。プレオープン中はご指名はできませんので、ご了承ください。……では詳細をお伺いしますので、3番のお部屋へどうぞ」  少なくとも多くの一般客にとって牧場エリアはただテーマパークとして楽しむほうがメインだけど、こちらは基本的には一対一での接客となって風俗店のような形態を取る。かなり性質が違うこともあってエリアの入口はゲートで一応仕切られていて、二つのプランのうちどちらを選ぶか、あるいはそもそもヒトペット広場に入ることに間違いはないか、まずは受付の人が応対する形になっていた。  ただ、ここはあくまでゲートだから本格的にサービス内容を決める場所ではない。どちらのプランで入場するかだけを決めて、具体的なことはそれぞれ個室対応になる。……まあ、相当恥ずかしい内容も飛び交うものだから、閉じた空間で話ができるのはとてもありがたい。 「改めまして、お客様を担当させていただきます津島と申します。よろしくお願いいたします」 「よ、よろしくお願いします」 「さっそくですが、お客様のことをお呼びする際のお名前などがありましたら、ぜひお教えください」 「……ペットとして、ということです、よね?」 「はい。……とはいえ、人間としてのお客様のこともそうお呼びすることもできますが」 「じゃあ……ペットのときだけ、サチと」 「かしこまりました」  個室で迎えてくれたのは優しそうなお姉さんだった。思っていたよりも普通の服装、というか受付さんと同じ制服だけど、資料ではいろいろな衣装があったはず。それも客に合わせて着替えるのだろうか。  まずはサービス、というかプレイの内容を擦り合わせるところからなんだけど……いきなり奥の方にぞくりとくる思いだった。私の心の準備が足りないだけかもしれないけど、あくまでコース選択だけだった受付と違って、私がこれからペットになることを前提とした会話だから。「人間としてのお客様」のあたりで、こう、思い知らされてしまった。  とはいえ、これは用意してきていた。本名の一部を切り取って捻ったものを伝えて、そのまま進めていく。 「まずは、どのコースをご希望になるかを決めていきましょう。こちらに一覧がございますので、ごゆっくりお選びくださいませ」  当然といえば当然なんだけど、なれる、または触れるペットにはいくつも種類がある。それ自体は事前情報で知っていた。津島さんは最初にそれらの一覧、つまりメニュー表を渡してくれた。  さまざまな動物の名前が、牧場よりもライトに楽しめることを強調するためかひらがなで書いてある。横には参考になるような写真も添えてあって想像しやすい。  たとえば、定番といえば定番の「いぬさん」と「ねこさん」。ミスト・スランバーの動画会員なら見覚えのある「うさぎさん」に「へびさん」もあるけど、訓練が必要ということなのか「いるかさん」は用意されていない。  牧場にも家畜体験は存在するのだけど、もっと軽く、または格好だけでも試すことができるらしい「うまさん」「うしさん」「とりさん」「ぶたさん」。それ以外にも、ミスト・スランバーを見ていても初めて見るものもいくつもあった。「かんがるーさん」とか「ぺんぎんさん」とか、凄い発想だ。写真を見てもよくわからないのに、興味は惹かれてしまう。 「……正直どれも興味あるんですけど、完全に初体験なので……『いぬさん』にします」 「かしこまりました。『いぬさんコース』ですと、こちらの場所でお楽しみいただけますが……」 「とりあえず、『ペットホテル』でお願いします」 「ペットホテルですね。時間内であれば途中変更が可能ですので、いつでもお申し付けください」  ヒトペット広場にはペットプレイが最大限楽しめるよう、けっこうたくさんの区域が存在する。シンプルに個室で担当の“飼い主さん”と二人きりになれる「ペットホテル」はもちろん、他のペットや飼い主プランの人とも戯れることができる「ふれあい広場」、檻の中に入ってただ見られることができる「動物園」、特殊な環境と格好で運動できる「ペットラン」などなど。  たぶんスタンダードなプレイは経験がある人やチャレンジャーな人はいろいろな組み合わせで遊ぶのだろうけど、私は初めてな上に正直ビビりだから一番普通なものにしてしまった。……他のものも、興味はすごくあるんだけど。 「移動はいかがいたしましょう?」 「……せっかくなので、ペットカートで」 「ペットカートですね。……ではさっそくですが、この場でペットに変身なさってしまいましょうか」 「はい、よろしくお願いしますっ」  ここでは先にペットになってから移動することも、人のまま目的地に向かってから違う姿になることもできる。中でもペットになってからの移動法には種類次第とはいえいくつか種類があるんだけど……せっかくのヒトペット広場だから、そのくらいはしっかり楽しみたいと思った。ペットカートに乗せられて広場を横切ることができるから、それにしてみる。  ただ、そうするということは、ここでもうペットに、「いぬさん」になってしまうということ。私は一度深呼吸をして、アブノーマルなプレイに飛び込む覚悟をした。  まずは「飼い主さん」の服装を指定できるのもここの特色だ。制服のままということももちろんできるけど、他にも牧場でも見かける飼育員の作業服やSMチックなボンデージ衣装もある。  だけど、私はそこで普通の洋服をお願いした。あくまで普通のペットとして、普通の飼い主に飼われるようなことをしたいとずっと思っていたのだ。  普通のものだから着替えもすぐに終わる。季節に合わせた普通の、それこそ牧場エリアや飼い主プランの客に紛れるような服に着替えた飼い主さんは、胸元に小さな名札があったりはするものの遠目には見分けがつかない。  だからすぐに私の番になった。ペットになる以上、少なくとも人間の普通の服なんて着ていることはできない。まずは、脱がないと。 「…………脱げました」 「では、お洋服はこちらでお預かりしますね。人間にお戻りになる際にお返ししますので、ご安心ください」  そして……コースによって種類数にブレはあるけれど、ペットにも着るものや着けるものはいろいろ選べる。中でも「いぬさんコース」は選択肢が多い。  今回はここもシンプルに、裸に首輪と革のヒトイヌ拘束具にした。たくさんあるオプションからは、耳と尻尾は選択して……とりあえず、それだけ。そんな格好で広場を通るのに顔をそのまま出すのは少し勇気が必要だったけど、ここには趣味の近い人しかいないのだ。それに同行者以外の写真撮影は、許可マークのついている客に限られる。私はそれをつけるつもりはなかった。 「順にお付けしていきます。こちらに四つん這いになられて、なるべく力を抜いていただけると幸いです」 「はい……」  室内に用意されたマットの上に、裸のまま四つん這いになる。……お尻も突き出してしまっていてこれだけで恥ずかしいけれど、これはただの準備。それに、今日はとことん恥ずかしさを楽しみに来たのだ。  四肢をひとつずつヒトイヌ拘束具に畳んで固定してもらう。手と足も袋に入れられて、背中でクロスした形でベルトどうしを繋がれてしまったから余計な可動域もない。……慣れた手つきの津島さんの手で、たった数分であっさりできてしまったけど、もう私は二本足で立つことすらほぼできない。ぎちぎちと鳴って固定してくる拘束具が、もう始まっているのだと伝えてくる。 「お尻も失礼いたします」 「ん……っ、は、ぁっ……!」  頭には犬耳のカチューシャを装着されて、丸出しのお尻のほうへ回られる。恥ずかしいところも全部見えているだろうから暴れ出したくなってしまうけど、これも自分で選んだオプションだ。  希望すれば腸内洗浄までサービスしてくれるそうだけど、私はちゃんと来る前に綺麗にしてきた。一人遊びだけど最低限触ったこともあったから、解せば初心者向けの細いプラグはあっさり入ってくる。  とはいえ、お尻にモノを入れたのは初めて。思っていた以上の異物感に身動ぎが止まらず、落ち着くのを待ってもらうことになってしまった。  なんとか慣れ……てはいないけど受け止められるようになってきたから、尻尾もいったん完成。津島さんは正面に戻ってきて、貸し出し品の首輪を見せてくれる。ただし外側ではなく、首に触れる内側を。 「こちらを締めている間、お客様はいぬさんのサチちゃんとなります。また、セーフワード以外の言葉ではお止めいたしませんのでご注意ください。……セーフワードについては、ご希望があれば」 「いえ……特には」 「では、『ウェイト』とでもいたしましょうか。お覚えになっておいてくださいませ」 「わかりました…………っ、ん」  このタグ付きの首輪がペットの証で、人間のお客様であるかペットであるかを区別するものとなる。これを嵌められている間、私はペットとして扱われる。遠慮のない言い方をしてしまえば、人権も尊厳も一時的になくしてしまうことになる。  それを承知の上で、セーフワードを覚えてから私は首を差し出した。津島さんはそこにそっと首輪を巻き付けて……びったり密着するところで、装着して留めてくれる。 「……サチ、苦しくない?」 「ん……わん、っ」 「よかった」  途端、津島さん……ご主人様の雰囲気ががらりと変わった。さっきまではどうしても丁寧さが先行するスタッフさんだったけど、今はプライベートな愛犬に対する飼い主の女性だ。  首輪の外から首筋を撫でながら具合を聞いてくれる。私は最初から心の中で決めていた通りに、人間の言葉を使わずに答えた。それが伝わったのだろう、ご主人様は優しく頭を撫でてくれた。 「じゃあ、ペットホテルに行こうね。このカートに乗って行けるから、安心して」 「わ……わんっ!」 「おお、乗り気だね。これ、楽しみ?」 「わふっ」  ペットカートは本物とよく似ているベビーカーに似たもので、大型犬用とばかりに人間でも乗れる大きさ。どうやら乗せやすくする補助具はあるようだけど、今は取り外されていた。  腋の下に手を差し込まれて、抱え上げられて載せられる。私は女の中でも軽い方だとは思うけど……それでもこんな持ち上げ方をするほどではない、と思っていたんだけど。何かコツとかあるのかもしれない。  ふかふかのシートに座って、意外と広い中でくつろいでみる。シートは撥水性のようだから、びしょびしょになった股を触れさせても大丈夫そうだ。 「……わ、ぁ」 「なかなか独特な景色でしょ。このまま運んでいくから、大人しくしててね」  前方以外はひさしで覆われていて、外を認識できるのは前だけ。その前もこんな格好で足が地についていない上でけっこう高くて、自分が行動の自由から離れていることを実感させられる。まさにカートの上という感じで、車椅子のような人が乗る前提のものとはあまりに違う。  しかも柵のような扉を閉じられたから、もう飛び降りることすらできない。そのまま動き始めると、私は運ばれているんだ、という実感が強まってきた。……これ、癖になりそうだ。  私物を下段に載せてもらって、ペットカートを押されて外へ出る。さっき人間として歩いてきた廊下をこんな格好で進んでいるというだけで、なんだかクラクラしそうだ。  後ろからは足音と、息を飲むような気配。他の客が通りかかっているようで、しばらく同じ方向へ歩いていた。私そのもののことは見えないにしても、ペットカートに乗っている客がそこにいることくらいはわかっただろう。  途中で脇の扉が開閉する音がして足音はひとつになったけど、お互いに顔も声もわからなかったその人はここでどんなプレイをするのだろう。想像してもわかるはずはないけど、向こうは向こうで楽しめたらいいな、とも思う。 「あ、っ……」 「こんな場所でも、人のいるお外で恥ずかしい格好するのはやっぱり違うでしょ。でも大丈夫、ここではこれが普通だからね。心置きなくみじめになろうね?」 「ぅ……! わ、わん……っ」  やがて建物の外に出て、一気に視界が開けた。薄いひさしが太陽に照らされて、裏側からも明るくなったのがわかる。……外から中は見えない透明なドームの中とはいえ、頭も体もここは外だと感じてしまう。  しかも、前方には広場があって、そこには人もたくさんいるのだ。それどころか、私と同じかもっと恥ずかしい姿をしたペットたちも。ペットカートも、悩んでやめた他の運搬手段もちらほら見える。本当にここは、これが当たり前なのだ。  もじ、と腰を揺らしてしまったのは、ご主人様に伝わるのだろうか。でも、我慢できなかった。あまりの背徳感にうずうずしてしまって、割れ目とシートの間ですら明らかな水音がしているくらいだから。  しかもそよ風まで裸体に感じて、ぴんと硬くなった乳首を自覚させてくる。人工の風らしいけど、これがまた本当の屋外のように感じる原因のようで。 「こんにちは。そちらは……」 「ああ、こんにちは。うちのペットで、サチといいます。……ほら、ご挨拶は?」 「わ、わんっ……!」  実はこの移動中にも選択できる要素がある。共有スペースにいる間、他の客やスタッフが声をかけていいか、というものだ。  私は可の表示をペットカートにつけているから、通りかかった他の客らしき人が話しかけてくれた。……ペットとしての痴態をミスト・スランバーのチェックを受けている似た趣味の男性客に見られるのが嫌なら、カートの前方も閉じるようにお願いしている。どうせ今の私はペットだ。 「可愛い子ですね。今日はどちらへ?」 「初めての子なので、このままペットホテルに」 「なるほど。……たくさん楽しんでね、サチちゃん」 「わん……っ」 「んぐ、ぅ……」  よく見ると手には足元へ繋がるリードを持っている、男子大学生くらいの人。優しそうというか、なんだか慣れた感じの態度だった。おすわりのような状態の私にも目を合わせて、恥ずかしがりもジロジロ見たりもしないでくれたから、ぐっと頭を差し出してみる。……優しく、まさに犬にするように撫でてくれた。  足元にいるのはどんなペットなんだろう。高さがないということはうまさんやうしさんではないだろうけど、それ以上は猿轡をつけているらしいことしかわからない。だけど向こうからも、鳴き声で犬とはわかるにしても私のことは見えないのだ。  お互いにペットだからこそ情報が得られない。そんな細かなところで「飼い主と違う存在なんだ」と突きつけられている。それが深く刻み込まれただけで、こうしてペットカートを使ってよかったと思えた。  それからもたくさんの人にカートを見られて、何人かには声をかけられて、カートの中まで見られたりもしながらゆっくりと広場を横切った。私が癖になっていることを見抜いてくれたのか、わざとらしくゆっくり、遠回りの散歩道に沿って練り歩いてくれたのだ。  次があったら絶対、もっと見てもらえるようなものにしようと心に決めて。やっとペットホテルに着いた頃には、愛液の垂らしすぎで水をねだってしまうほどだった。だけど断られてしまう。 「部屋に着いたらあげるから、いぬさんらしくできるようにちょっとだけ我慢しようね」 「……? あ、わんっ!」 「いい子」  すぐに意図がわかって、勢いよく返事をしてしまう。がっつきすぎかとも思ったけど、ご主人様はたくさん頭と頬を撫でてくれた。道中で私が撫でられるのが好きらしいと気づいてくれたらしい。  そういうことなら、わたしも“いぬさんらしく”したい。だから部屋の中に着くまで待つことにして、ペットホテルのロビー。 「いぬさん用を一部屋お願いします」 「はい。206号室へどうぞ」  ペットホテルといっても飼い主と一緒に入るものだし、そもそもそのペットもヒトペットだ。ある程度ペット向けに内装などを用意されている一方で、大枠の作りは普通のホテルのよう。……生々しいことを言うようだけど、これだけなんでもあるのに今回の私のコースだと性風俗にしてはやたら安い。原則本番なしとはいえ、それで回るのなら私たち客にとってはありがたいことこの上ない。  待機スペースで戯れるペットたちを横目にロビーを抜けてエレベーターホールに。……なんとそこにはオブジェとして設置されている子がいたんだけど、これ、どうやら特殊コースの客らしい。見とれているうちに目が合ってしまって、そのまま見つめあってしまった。  ペットカートは階段を上れないから、二階でもエレベーターを使う。居合わせたこれまた他の客、開脚拘束でぴょんぴょん跳ねる“うさぎさん”と一緒にエレベーターに乗り込んで、二階で私たちだけが降りた。  そこからはさすがに静かだ。部屋は防音になっているから、使われている部屋でも漏れ聞こえてきたりはしていない。そのまま206号室に入ると、土足禁止の室内への玄関部分でペットカートが止まる。私は靴を脱いだご主人様の手で上がり框の上に降ろされた。 「こっちだよ。ここからは自分で歩こうね」 「はふ……わんっ」  カートの中を拭き終えたご主人様にリードを握られると、思っていた以上に高さに差があるのを感じる。縦に伸びているリードの分、これが飼い主とペットの差なのだと思うと、どうしてもぞくりときてしまう。  慣れない四足歩行でそこから歩くのも、想像なんかとは比べ物にならないほど屈辱的。それがまた興奮を誘って、もっとされたくなるのだ。どうしても遅くなってしまうのを、ご主人様はじっくり待ってくれるから余計に。 「ラストスパートだよ。ここまで来れたら、ご褒美」 「わぅ……っ! わふ、くぅん……!」  部屋は普通のラブホテルにある程度似ていて、ところどころがペット向けになったようなもの。そんな部屋の入口に私を置いてリードから手を離したご主人様は、棚から餌皿を、冷蔵庫から水を取り出して注いだ。それを床に置いて、その奥に座って腕を広げる。  つまり、あそこまで自力で歩けば、いぬさんらしく皿から水を飲むことができるのだ。欲しくてたまらなくなってしまった私は、間抜けさなんてお構いなしに恥を晒して歩き始めた。だって、それが一番気持ちいいんだから。

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お嬢様のリハビリはラバー人形で

 この伯爵家のお嬢様が誘拐されたのは、今からちょうど一年前のことだった。  街に出掛けた際に、内通していたメイドの手引きで伯爵家を恨む者に攫われてしまったのだ。  幸いその日のうちに救出された上、貞操は汚されていないとすぐに確認された。服の上から縛られていたのと……半日以上そのままにされていたせいで失禁してしまっていたからわかったのだが、後者は禁句とされている。  伯爵閣下の対応は素早かった。お嬢様が姿を消した場所を目撃情報から即座に割り当てると、街の全兵力を的確に使って半日で見つけ出したのだ。救出に成功すると下手人を全て捕まえて拷問で情報を引き出し、全員を火炙りで公開処刑することで怒りを示した。お嬢様の受けた理不尽な恐怖と奴等の筋のない逆恨みによる凶行、貴族への重大な反逆を思えばこの国ではやり過ぎな刑罰ではなかったが、何よりも再発防止のためだったのだろう。  内通したメイドはさらに悲惨だった。吐く情報もないのに屋敷内の目立つ場所でひたすら拷問を与えられてから、朽ち果てるまで正門横で晒し者にされた。……これは恐らく、使用人への見せしめであり脅しだろう。裏切ればこうなるぞ、という。代わりとばかりにその月から給金が増えたから、伯爵閣下に人の心がないわけではないのだ。  ただ……それでも、お嬢様の受けた被害は深刻だった。蝶よ花よと育てられつつも聡明で優しいお嬢様にとって、信じていたメイドに裏切られたのは余程堪えたのだろう。人の姿を見るだけで悲鳴をあげるだけならまだまし、震えが止まらなくなって立っていられなくなったり過呼吸になったりして、まともに生活も送れなくなってしまった。閣下はそれでも生涯伯爵家で面倒を見ると、貴族の慣例を無視してまで愛娘の安寧を優先したが。  当初は部屋の前に食事を置いて去るだけという、貴族令嬢が受けるはずもないような扱いしか取りようがなかったが……しばらくすると、お嬢様が恐れるものがわかってきた。  大きく分けて、3つだ。  ひとつは男。攫われて監禁されていた場所で、主犯の男たちに余程怖い目に遭わされたのだろう。扉越しに父と兄に謝罪するお嬢様の声色は、あまりにも痛々しかった。  ひとつはメイド……というよりは給仕服や、何かを隠すことができるようなゆったりした服だ。それを着ていない女が相手なら、本当に多少ではあったがましになっていた。恐らく件の裏切り者が、給仕服の裾あたりからナイフでも取り出して突きつけたのだろうか。  そして最後のひとつ……最も対策が難しかったのが、人の顔。お嬢様は今、他者の顔を見るだけで恐怖を抱いてしまう状態だった。  故に、屋敷では現在、とある対策を取っている。 「エメル、用意はできていますね」 「はい。よろしくお願いいたします」  使用人用の作業室で、私は給仕服を脱いで全裸になっていた。そのまま隠すことなく足を肩幅に開き、腕も斜めに広げて、指も開いている。  私の目の前にいるメイド長は、そのまま私の左の手の甲に真っ黒で柔らかいものを触れさせて、魔力を流した。するとそれは肌の表面を薄く覆うように広がっていき……腕全体を黒く包むと、そのまま胴体へ。  右腕や脚といった他の四肢はもちろん、そこそこあると自負している胸も、最近は特に細く保つよう意識している腹も、それどころか空気に曝しているのも恥ずかしい股まで、全て同じように覆われていく。それは頭すら例外でなく、やがて髪も全て内側に納めた上に頭頂まで素肌を隠してしまった。  これは本来なら重犯罪者や魔術師の捕虜などに使うための拘束具だ。起動すると対象を完全に包み込んでしまって捕らえ、起動時に込めたものと同一人物の魔力を再び注ぐまで極小の檻であり続ける。  今は何にも触れずに全ての関節を開いているから包まれただけだが、対象に触れている床以外のものは巻き込む上に関節を閉じていたらまとめて包んでしまうから普通は動けなくなる。おまけに魔力は通さず、包まれていると魔術も使えない。  例外は二つだけ、口と目だ。尋問にも使うからか口は包んだ時点では開くようになっていて、目元には小さな穴が空いているのか視界は狭いものの確保されている。おかげでこうして開いて身につければ動けるから、本来の用途でない使い方をしているのだ。 「よし。……では、終わったらここに戻ってきて私を呼びなさい」 「かしこまりました。行ってまいります」  ……そう、お嬢様だ。全身を何かを隠したりする余地などなく包み、顔もすっかり隠してしまう上に魔術も封じられているこれは、絶対的に無力かつお嬢様の恐怖を刺激しないのだ。  これを見出して以来、お嬢様に気に入られていた一部のメイドが持ち回りでこの“ラバー梱包具”を身につけてお嬢様のお世話を行うことになっていた。私もその担当の一人として、三日に一度ほどこの姿となりお嬢様の部屋へ入っている。  あまり人数がいるわけでもない上、伯爵閣下が無理を言って取り寄せたラバー梱包具は本来一般には流通しないからひとつしかない。だからそうやすやすと脱ぐわけにはいかず、少なくとも夜まで、お嬢様の気分次第では朝までこのままだ。  用意されていたワゴンを押して廊下を進む。……必要な事だから平然としろとは言われているものの、こんな体の形をそのまま出すような格好が恥ずかしくないわけがない。裸とさして変わらない、それどころか下手をすれば裸よりも恥ずかしい格好で、しかも上に何かを着ることもできない。その上頭まで完全に包まれて、顔立ちも髪も奪われているのだ。……元が犯罪者や捕虜用の拘束具だから少し締め付けが強めになっていて、恥部の筋にも食い込んでいるから余計に。 「お嬢様、朝食をお持ちしました」 「……エメルね。例の、着てるなら入って」 「はい。失礼いたします」  だが、お嬢様のためだ。私はお嬢様のために生きると事件よりずっと前から決めているから、そのためなら、お嬢様以外の誰に見せるわけでもない以上はいくらでも耐えられる。  お嬢様のお部屋をノックすると、声が返ってくる。まだ梱包具を身につけているかを確認するほどの怯えが健在だが、それさえあれば明るい声も出るようになってきたのだから着実に改善はしている。 「どうぞ」 「ええ、ありがとう」  そのまま室内のテーブルにつくお嬢様に、持ち込んだ朝食を給仕。全身に与えられる密着感は意識させられ続けているが、それ自体にはもう慣れている。それでも羞恥は消えず、むしろ悪い慣れが進んでいる自覚はあるが。  お嬢様が求めたわけではないが、担当を回しているメイドたちで決めたことがある。なるべく余計な動きをせず、無防備な姿を見せ続けてお嬢様を安心させ続けよう、というものだ。たとえば食事中なら今のように、じっと直立して両腕を下腹の前、浮き出ている臍と割れ目の間に重ねておく。手を見える位置に置き、隠せる恥も全て晒す忠誠の姿勢だ。 「…………」  当然、恥ずかしい。お嬢様が上品に料理に口をつける間、ずっとこうして見世物のように静止しているのだ。まるで彫像のようだと自分でも思う。ただでさえこの格好は、人としての尊厳を全て奪い去ってしまっているのだ。  しかも慣れてきて以降は、お嬢様も遠慮なくこちらを見るようになっている。それこそ美術品を楽しむように、女体の全てをじっくりと。外からは中身の目が見えないようになっているのが、気を楽にさせるのかもしれない。 「……ご馳走様でした」 「お下げいたします」 「ええ」  お嬢様のこの言葉が、再び動いていい合図。あくまでお嬢様を安心させるため私たちが勝手に作った制約だが、それすら守れないようでは伯爵家でお付のメイドなどやっていられない。  空になった食器を下げて、それを乗せたワゴンを部屋の外に。廊下に置いておけば、あとは担当の者が片付けてくれる。  これが一日の始まり……そう、まだ始まったばかりだ。お嬢様につきっきりで行う生活とリハビリのお手伝いも、私には、そして恐らく他の二人にとっても、とても恥ずかしい一方で癖になるような梱包具によるいつもの体験も。  生活とはいっても、今のお嬢様に本来普通の貴族令嬢の生活を送ることは難しい。できるのはせいぜい敷地内とはいえ庭を散歩することやお茶、そしてお嬢様はほとんど終えてしまっているお勉強くらいのものだ。領内の視察や許嫁との逢瀬などもってのほか、パーティへの参加なども当然できない。  その分空いてしまう時間を、お嬢様は積極的にリハビリに使う。このリハビリというのは、少しでも元通りに過ごせるように訓練することなのだが……根本的な三つの問題は何度も緩和しようと試みては失敗していて、まだその時ではないという結論が出ている。  では何をするかといえば、安全な格好をしたメイドと触れ合うことだ。せめてもう一度人肌に慣れたり、メイドが自分の思う通りに動くことを確認して他者を信じられるように試みる。  その方法は共に考えたことで多岐にわたるが、お嬢様と三人のメイド、全員がわかっていて目を逸らしていることがあった。……このリハビリは全般的に、とても背徳的で卑猥だ。  だが、誰も止めなかった。お嬢様を安心させるため監視など一切なく、いくらでも支配し生殺与奪を握れてしまう拘束がなくともメイド三人はお嬢様にその身と忠誠を捧げているから。 「……エメル。そのままこちらにおいで。恥ずかしいでしょうけれど、ご主人様の命令だもの。できるわよね?」 「……んん、っ」 「そうよ、そのまま……いい子」  お勉強と何の変哲もないボードゲームで午前中を過ごした昼過ぎ、昼食を終えてから行っているこれはそのうちのひとつだ。腕と脚を畳んで梱包具にお嬢様が魔力を流し、半分の長さになってしまった四肢を四足とする。そのままメイドに犬のように振る舞わせる遊戯だ。  部屋の隅でそう拘束された私は、四本の短い脚で立ち上がってベッドに腰掛けたお嬢様へ歩いていく。拙い足運びも少し慣れてきてしまっているほど、何度も繰り返している行為だ。 「ふっ、ふっ……」 「その調子。焦らなくていいわ、あなたがわたしの言うことを聞いていることだけが大事なのだもの」 「ん……っ、ふ、ぅ!」  口のところも閉じられてしまっているが、鼻にも孔が空いているのに加えて口許にも穴は残されているから呼吸は問題ない。ただ、口が開かないせいで言葉は発することができず、呻き声しか出ない。  不格好な犬の出来は悪い。必死に歩いてもひどく遅く、梱包人形どころではなくなっている強烈な恥辱に打ち震えて意識が被虐に染められている。尊厳を粉々にされて、人未満の犬の行動を強いられて……それでどうしてかぞくぞくと湧き出る興奮の中にいる。当たり前に行使される主人の権利としてだけでなく、辱められること自体に従いたくなっている。 「よくできました。エメルは人間なのに、こんなみじめな命令をされても従えて……自分のことよりもご主人様を優先できて、偉いわ」 「んうっ……ぅ、ふ……!」 「あら、甘えんぼさんなのね。ふふ、いいわよ。たくさん撫でてあげる」  他の二人も聞くに似たようになっているようだが、果たして私たちはどうなってしまったのだろう。メイドとしての仕事をお嬢様に褒められるより、このように決して清廉でない遊戯で、本当は人として恥ずかしいことを突きつけられながら認められるほうがよほど嬉しいのだ。  潤んだ目もお嬢様には見えていないだろうに、我慢できずに擦り着いただけで甘やかして撫でてもらえる。……お嬢様もお嬢様で、私を辱めることを妙に楽しんでいるように思えてならない。 「それじゃあ、もっと恥ずかしいことをしましょう。従って、くれるわよね?」 「っ! んぅ!」 「ありがとう、わたしは幸せ者ね。……はい、お手」  遊戯はエスカレートしていく。先日まではこのリハビリは、犬として歩き近寄って擦り寄るだけで終わりだった。だが今日のお嬢様は違った。ベッドに腰掛けたまま少し前傾すると、自身の膝の前に掌を差し出す。  今の格好でそんなことをされて、これが何かを理解できないほど鈍くはない。……犬の、芸の躾だ。私は今、従い這うばかりでなく、人を楽しませる仕草でさえ犬になることを求められている。  …………私は、そっと片方の前足を挙げた。途方もない屈辱を表情の見えないマスクに隠されたまま、“お手”をした。拘束されていてそうとしか動けないから、では言い訳できないような恥を晒す。  そもそもこの国において貴族とは、平民が従うことを当たり前とされている存在だ。その分だけ責務はあるのだが、全ては紐づいているからどこかが狂えば齟齬が出る。  お嬢様は誘拐という形で平民に大きな反逆を受けて、その関係を信じられなくなっている。そうなれば貴族として国と民のために尽くす理由すら失われてしまうから、そこの矯正は急務だった。これもそのために、私を平民の象徴に仕立てて、どんなことでも従うそれに触れることで認識を取り戻そうとする行為なのだ。……荒療治なのは、承知の上である。 「おかわり」 「……っ」 「じゃあ、おすわり」 「ぅっ……」 「……それなら、ふせ、できるかしら?」 「ぅぐ、むん……!」  そこからは立て続けだ。私がそんな惨めな芸すら迷わず従うとわかったお嬢様は、もう止まる必要がない。私は逆の前足を出して、後ろ足を寝かせて尻を床につけて、しまいには床へ全身で這いつくばった。命令だからと、格好だけでなく姿勢も、意思も人間であることを捨て去った。  だが、止まれないのだ。こんな簡単な芸をこなすだけで嬉しそうに破顔するお嬢様に、私は心酔している。ただでさえそうなのに、従うことも、結果として起こる屈辱も、子供の頃からメイドとして尽くしてきたせいで本物を知らない私の子宮を疼かせる。普通なら有り得ないはずの浅ましい興奮と、仄暗い悦びが不自由な全身を巡っていた。  それがどれだけ致命的かを私はまだ知らないが、それを考えるよりも先に多幸感が思考を押し流す。起き上がって抱きつくことを許してくださって、ラバー膜の体を撫で回してくださったお嬢様の瞳にも、同じ色がある気がした。 「ワンちゃんもとても可愛くて名残惜しいけれど……」  そのまましばらくただ戯れてから、お嬢様はそう呟きながら犬拘束を解いた。床でただの四つん這いに戻った私は、ひとまず立ち上がって黒人形、もといメイドに戻る。だがもはややることもない昼下がり、夕方にも差し掛からない頃合ではまだ時間が余っている。  それを確認したお嬢様は、私にベッドへ寝転がるよう指示した。その時点で、なんとなくは次に何をされるか想像がつく。私は言われた通り、ベッドの中央に仰向けに寝た。四肢は全て伸ばして体の横につける。 「お昼寝をしましょう。エメル、あなたは抱き枕よ」 「かしこまりました……んっ」  お嬢様が外側からひとつひとつ触れていくと、四肢のラバーが隣接したところと接着して離れなくなる。それを繰り返すと、私から可動域は再び失われた。今度は腕は一切曲げられず、脚は開かなくなった一本の棒だ。  そしてほんの少しの間だけ開いていた口元も、またすぐに閉じた。抱き枕は喋らないからだ。さらに……必要ないからと、目元に空いている小さな穴も一時的に塞がれた。私は視界を塞がれて暗闇に落とされ、感触だけが世界の全てになる。 「……ん。あたたかくて、柔らかい」 「んっ……ぅ、ふ……」  お嬢様はそんな細長いラバーの塊と化した私に、全身で抱き着いてくる。遠慮なく密着して頬擦りまでするお嬢様の感触が、目隠しのおかげでどんな姿勢かすら手に取るようにわかる。本来ならば貴族令嬢がしてはならないはしたない姿勢だが、今は誰もそれを見る者がいない。  ラバー梱包そのものはとても薄いから、柔らかいのは当然だ。私の素肌の柔らかさがほぼそのまま出ていて、あちこち触れられて反射的に動いてしまう反応すら楽しそうに押さえ込まれている。しっかり谷間まで張り付いて二つに分かれた乳房に顔を埋められて、堪能されている。 「……わかっているのよ。人間がほんとうは、こんなに温かいものだとは」 「……」 「だけど、まだ。まだこれだけなの。……少しずつ、慣れていくから。手伝ってちょうだいね」 「むんっ……!」  私は物扱いされることに興奮していて、お嬢様はこうすることでようやく得られる人肌の温度にご満悦。いわば互恵関係ともいえる。……これ自体が本来少しでも早く脱さなければならない治療だとは、互いにわかっている。  だが……お嬢様はどこか、心の傷が癒えて今の楽しみがなくなることを惜しんでいるように思えてならない。そうだとしたら、少なくとも私は。 「それでね。……一歩だけ進もうと思うのだけど……まだほんの少し怖いから、勢いに力を借りることにしたわ」 「……?」 「そのまま待っていてちょうだいね」  それでも進むことはやめないお嬢様は、私たちの誇りだ。そんなお嬢様が進むというのなら、私は何をしてでも力になりたい。そう思っていたのだが、お嬢様の感触が離れていっても私は抱き枕のままだった。  少し離れたところから……衣擦れの音が聞こえる。部屋着から着替える必要もない室内の昼下がり、それが指すことはひとつだった。 「そのまま動かないでね」 「……!?」 「そのままよ……えいっ」 「んっ!?」  まずは、私の拘束が解けた。それどころか、ラバーが上へと引いていく。それは首まで下がるとそこで止まって、本来ならばメイド長でないと解除できないはずのそれはただの全頭マスクになる。……これほどの目に遭って後遺症で屋敷に篭っているが、それでも純潔が残っているというだけで未だ縁談がなくならない理由。お嬢様は卓越した魔術の才と実力を誇るのだ。本来なら部分的にとはいえ解けてはならない厳重な拘束具を、こうして操れてしまうほどには。  そうして首から下だけが裸になった私が、命令通りに気をつけの姿勢を崩さないことを見届けると……お嬢様はそこに、先程と同じ姿勢で直に抱き着いた。両腕は私の肘を抱え込むようにして、脚はお世辞にも淑やかとは言えない曲げ方で私の腰を左右から掴んで、頭は私の胸に埋めて深呼吸。  ただ私にもわかる、何よりも重大な要素があった。───お嬢様も、裸なのだ。胴体には誤解しようがないほど温かく柔らかい小柄な少女の裸体が、速い鼓動ごとこれでもかと押し付けられている。 「……エメル。これからしばらくの間、わたしとあなたはひとつのモノよ」 「んっ!?」 「やってみたかったの。……大丈夫よ。術式はエメルにかかっているから、わたしは内側からでも操作できるわ……ひゃ、んっ……これ、案外……いい感触、なのね……っ」  そしてお嬢様はそのまま、一度首まで下げていたラバー梱包を下げ直した。再び私の足先まで全て包むように、自身を巻き込んでしまいながら。  私の体とともに完全にラバーに取り込まれたお嬢様は、本当に操作ができているようで呼吸孔を作った。私の胸にも空気が当たって、生々しくわかってしまう。やがてそこには、人が二人封入されたラバーの塊がひとつだけ残る。  お嬢様は肌を撫でるラバーの感触に気に入ったようだが、この梱包は密着しているものの隙間にまでは入ってこない。ぴったり密着しているお嬢様と私は、互いに触れ合う体温を全く余さず伝え合うこととなっていた。 「……ふふ。ここ、ぬるぬるじゃない。膜に包まれて、犬になって、興奮したの?」 「……っ、んぅ……ぅ、っ!」 「大丈夫よ、責めているわけではないの。……ほら、わかるかしら? わたしも、濡らしていたの。あなたの恥ずかしい格好を眺めて、あなたを犬にして」 「……!」 「わたしたち、おそろいね」  そんな中、特にまずかったのが、股の間。まさかこんなことをされると思っていなかったからお嬢様に知られる用意はできていなかったが、梱包と拘束、犬や抱き枕として扱われることで明らかに普通でない痕跡を残していた。お漏らしとすら思えるほどの愛液を溢れさせて、ぐちゃぐちゃに濡らしていたのだ。  それを指摘するお嬢様だったものの……わかってしまった。内側ではなく、外側から。上から垂れてくる液体が、そこに混ざり合う感触が。  お嬢様も、垂らすほど濡らしていた。それがどれだけ嬉しかったか、お嬢様もわかったのかもしれない。自身もきつく梱包されてほとんど動けないまま、甘えるように抱きしめてくるお嬢様は会心とばかりにはにかんで────。  たったひとつ、悪かったのは。二人まとめての梱包では完全でなかった拘束の緩みが、お嬢様が腰を揺らすことだけは許してしまったことだった。  くちゅ、くちゅ。ゆっくり少しずつ、味わうように始まった卑猥な水音は、やがて速くなり止まらなくなって、ついには夕暮れが過ぎて夕食のワゴンが届くまで続いた。私はもう、その間に何度絶頂したかを覚えていない。最愛のお嬢様が私の乳房に、甲高く幸せそうな嬌声を何度ぶつけたかも、残念ながら。

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もっといろんなおにんぎょうあそび

 かしゃ、と目の前から音がする。  向けられているのはスマホのカメラだ。最近はそんなに必要なのかというほど高性能化したそれで、私は何枚も撮られている。  だけど、私は動かない。ぴくりとも。……三脚で立てられているビデオカメラが記録する映像はほぼ全く動きがないけど、それでいい。それを撮っているのだから。 「…………」  私の身分を述べるとすれば、どうなるのだろうか。住み込みのアシスタント、ということに表向きはなっているけど、基本的には何の手助けもしていない。というか、できないようになっている。  言葉を選ばずに言うなら、人形だ。私は人間ではなく、目の前の若い女……ご主人様のお人形さんである。自由なんてなく、勝手に行動することは許されない……現代的価値観に限らず、人の扱いとしては異常とも呼べる立場。私はそんなものに、互いの強い希望のままになり続けている。  乱雑に分類すれば、私はマゾヒストだ。ただ何でもされたいわけではなくて、痛いのや苦しいのにはさして興味がない。やりたいと言われれば程々にはやるけど、私のツボは少々マニアックなところにあった。  それが「お人形願望」とご主人様が呼ぶもの。飾り付けられて、人形のように動かず、可愛がるためだけの物品として扱われるのが好き。きっと拘束や束縛だったり、尊厳剥奪だったり、好き勝手に扱われる支配だったり、そういういろんなものが重なったものなのだと思うんだけど……アニメで女の子が魔法で人形に帰られてしまうシーンで目覚めたからか、完璧にハマったのがこれだった。  それとは関係ない紆余曲折もあったんだけど、最終的にはかねてからの旧友とパートナーと呼べる関係に落ち着いた。そんな旧友であり今はご主人様と呼ぶ人物は、同性愛は今どき市民権を得つつあるとしても、他者の全てを支配したいという少々困った監禁欲をどうにか創作物で紛らし続ける我慢の日々を過ごしていたらしい。好きな作品が共通したところから運よく互いの嗜好が大部分噛み合っていたことに気付いて以来、私の生活があまりうまくいっていなかったこともあって案外あっさり今の生活が始まった。  具体的には、週に五日は起きてから寝るまでずっと人形として自由を失い預けて、全てを支配された人形としてお世話されたり放置されたり、遊ばれたりする日々。週二日の休息日で人間らしさを取り戻しているのは慣れ過ぎて嫌にならないようにだけど、その間もご主人様こと紗綾から離れる気はない。それがまた紗綾を満たすようで、今ではべったりのカップルなのは私としても満更でもない。  人形へのなり方は様々だけど、ご主人様の好みとして「絶対に逃げ出せない籠の鳥」のようなものがあるようでがっちり拘束されるのはいつも共通していた。何もできない無力でかわいいだけの存在に貶められることは私の嗜好とも噛み合っていたから、それに嬉々として従っていたんだけど……今日は違った。 「…………」  写真の手を止めたご主人様はスマホを片手で持ったまま、投げ出されたままの私の手を甲のほうからそっと掴んだ。するとその手は何の抵抗もなく、腕自体の重量ぶんだけの負担を掴んだ手に伝えながらあっさり持ち上がる。そうして浮いてもどこにも力が入っていないまま、ぷらんと指先が垂れ下がっている。  ……そう、私は今、拘束されていない。なんとも珍しく新鮮なことなんだけど、今日の人形姿は物理的には一切制限されていなかった。  私は今、真っ白で肌色が透けない程度には厚手の全身タイツで頭まで包まれて、その上から可愛いけど普段着にはしづらい甘ロリを着せられている。加えて頭には白のセミロングという現実感のないウィッグを着けられて……だけど、それだけだった。  あとはただクッションに包まれるような配置でソファに座らされて、全身から全ての力を抜いているだけ。力を入れるなという命令だけで拘束は何一つされず、一方で素肌は一切露出されない上に、顔は真っ白な無地になったことで確かに人形っぽい見栄えになっている。 「…………」  掴んだ手に何度か腕を振らされて、そのままの勢いでぽいと投げられる。その間も力は抜いたままで、されたままのものを受け入れて座面に手を投げ出した。さながら、糸の切れた操り人形のように。  それを見届けたご主人様はとてもご機嫌な表情で、自分は普段着のまま人形の私を持ち上げた。腋の下に手を差し込んで、小柄で体重もない私のことを軽々と。急激に近づいたから全身タイツ越しにご主人様の至福の表情が見えて……下着は一切着けていないせいで直接触れている布地が敏感なところに少し擦れた。  だけど、私は力を入れすらしない。人形化といってもいろいろあるけど、今回はこんなふうに動かされてもだらりと垂れ下がった姿を表現するのがいいと思ったから。それなら、ちょっと気持ちいいくらい我慢して当然だ。人形なのだから。  ご主人様は私をそのまま横倒しにして……わざとスカートが大きく捲れるようにした。するとその中身、タイツに覆われ白くのっぺりとした股間部が露わになる。 「…………っ」  ……さすがに、恥ずかしい。だってそこには、それが人間の女であるたったひとつの表れである、水気の染みがはっきりとできているのだから。  こんな扱いをされて濡らして、自ら人形扱いを受け入れ力を抜いているのが目の当たりにされたのだ。恥ずかしくないわけがない。だけど、それを含めてこの“作品”は完成するのだと、私にもわかってしまった。  私はそのまま力を入れず、なされるがままに寝かされた。ソファに収まりきらず溢れるように落ちた片腕も引き戻さず、くたりと寝たままになった。心臓は高鳴っているし染みは広がっているけど、それも無視してただ動かずにだけいる。  できる限り呼吸も目立たないように努めている私をだらしなく緩んだ顔で見下ろしたご主人様は、一度足音を立てながらカメラの向こうへ去っていき……今度は足音を消して戻ってくると録画を止めた。  だけど、私はまだ動かない。私が人形なのは撮影のシチュエーションでの演技ではなく、ご主人様と私の深く浅ましい欲望が絡み合った幸せな日常によるものなのだから。 「おお、今回はだいぶ伸びてる」  私たちは最近、自分たちの趣味として行っていたプレイを少しずつ外の同好の士にも発信するようになった。  SNSで活動用のアカウントを作って、そこで写真や動画を投稿しているのだ。ご主人様の普段のほうのアカウントとは完全に切り離して、事実上の私のアカウントとして。といっても本当に日常でこんなことをしているというのも悪目立ちするから、公開するのはほんの一部。たまにカメラ付きで遊ばれたり放置されたりして、尺もある程度までカットした上での投稿だ。  その内容は私たちのプレイの中からさほど選り好みしないから、人形プレイという以外はある程度雑多になる。露出していたりいなかったり、玩具があったりなかったり、顔も覆われていたりメイクだったり。ただ傾向としては拘束されていることが多いけど、それも今回は例外だった。  だからある程度抑えられているときと露骨なエロのときの差も激しいんだけど、どうやらどちらも受け入れられているようだった。だからもはやどれが特に気に入られて伸びるかなんて私たちにもわからない。 「ま、うちの人形かわいいもんね……いい匂いまでするのは、みんな知らないだろうけど」 「ん…………」  それはご主人様が楽しむためと言ってわざわざ別の、自分のより高いシャンプーを用意しているからだろう、とは思うけど、口は開かない。猿轡はあれば楽しむし好きだけど、なくてもなるべく喋らないのが人形だ。  私は今、ご主人様の膝の上に置かれて抱かれながらそのアカウントと支援サイトの様子を見ていた。ラバーのボディサックに閉じ込められて、芋虫同然になってしまった体からそれでも力を抜いている。 「まあ楽しんでくれるのは嬉しいけど、あくまでお裾分けだからね。まいは私のものだし」 「ぅ…………」  私にはその独占欲は心地いい。人形として扱うだけなら見た目的には必ずしも拘束が必要なわけではないのに、ご主人様が好んで身動きを封じてくるのはその溢れる独占欲の表れだ。  もがいて確かめて楽しむか、拘束がなくても変わらないような脱力にするかはその時次第だけど、私はどちらも好き。何もかもを支配されて可愛がられる一方で、ご主人様にとっても何より大切なものであるのが幸せだった。今も私の後頭部に鼻を押し付けて吸っているご主人様に、ぴっちりしたラバーを楽しみながら身を委ねている。  画面に並んでいるのは、たくさんの私の痴態たち。玩具地獄に必死に喘いでいたり、自分から人形を演じていたりと方向性はさまざまだけど、どうやらこういうのが好きな人は相当数いるらしい。まだ始めて幾ばくもないのにフォロワーは五桁に届き、支援サイトも尺の長いものがあるだけで大半が無制限公開と内容は変わらないのに順調に支援者が増えている。  中にはその界隈では有名なニッチ系イラストレーターや他のフェチ動画投稿者の名前も。この絵師さんだって、表垢でご主人様の本来のアカウントと交流があることなんて知る由もないのだろう。  それどころか某アダルトグッズメーカーの会員サイトで動画を出している面々も揃ってフォローしてきているのだ。これにはご主人様も製品を動画に映して媚びていた。 「嬉しいねー……こんな形でも、認められるのは。私たち、もう本性では人間社会に溶け込めないと思ってたけど」 「んっ……ぅ、ふ……んぅ……」  そんな人々に、たくさんの人たちに、私は人形として見られている。楽しんでもらえているし、中にはきっと私を見て自分を慰める人も少なからずいるはずだ。  願望や欲に素直に生きていくことを一度は諦めた私たちが、好き者たちにとはいえ受け入れられている。それはどうしようもなく嬉しかった。  別に私たちとて、厳格に人形扱いを守り抜いているというわけではない。今だってご主人様は、ふつう人形にはやらないであろう動作で私のラバー越しの胸を揉んでいるし、そんな幸せな感触に私は耐えられずにびくびくと震えている。  我慢できずに硬くなった乳首が薄くローションを纏って、ラバーに擦り付けられ続けているのだ。単純に女としての快感が響いて、疼いて腰も動いてしまうのは仕方ないこと。だから私たちの線引きは、「意識的に動かないこと」や「わざと喋らず、なるべく声も我慢すること」くらいの緩いところにあった。 「ほら、これとかいつもよりだいぶ。スカート捲ったところをショート版ではカットしたのが良かったのかもね」 「……っ」  最新の、拘束なしの白マネキンのSNS動画を見ながら、ご主人様は私の股のあたりを上からなぞった。私は思い出してしまって顔を赤らめてしまったけど、口は開けない……いや、開かない。  動いてはいけないのをいいことに、ご主人様はあのとき私のスカートを思いっきり捲り上げたのだ。素肌に直接全身タイツを身につけていた私は、人形プレイで当たり前に爆発した興奮で思いっきり濡らしていたそこをじっくり撮影してしまっていた。  そのシーンは支援サイトのロングバージョン限定になったんだけど、それによってどうやらある程度エロに振っていない人たちの目にも留まったようだった。私たちのアカウントとしては露骨すぎるくらいの性的アカウントであることを、改めて強調しておくことになったほどだ。  おまけに支援サイトのほうのコメント欄にも「わかる感じがいい」とか「ご馳走様です」とか、ファンからの受けもよかった。わかりやすい拘束はない分、普段からのファンからの受けは今回はさほどでもないと思っていたんだけど……垣間見えたモノは満足いただけたらしい。  …………いや、そりゃもう、とんでもなく……下手をすると丸出しの回よりも恥ずかしいんだけど。 「こういう雰囲気のも、今度もまたやろうね。次は黒で……どんな服がいいかな」 「んっ……ぁ、! …………」  それを思い出したのと、承認欲求が健康によくない満たされ方をしてしまったのと……胸と割れ目を外からぐにぐに弄り回されたことで、私は絶頂してしまった。全身を固くして痙攣させて、伸びて喉を鳴らしてとバレバレだったけど、こういう致し方ないものならセーフというルールだから何も言われない。  それどころか構わず続けられるせいでなかなか降りてこられない中で、囁かれたもう一度を想像してまた興奮が増してしまった。真っ黒な全身タイツはよりフェティシズムを誘う気がするから、どんな姿になれるか私も楽しみだ。……濡れてもわかりづらいから、他のどんな辱め方をされるかだけちょっと怖いけど。  ひとつわかっているのは、私は確実にそれも楽しめるということだけだった。  その翌日の午後八時頃。私は全身を頭まで覆うインナースーツで包まれて、既に視界は塞がれている状態で待機させられていた。  スーツはミスト・スランバーが会員限定販売しているもので、お高めな代わりに長時間着用に向いているらしい。それを着せられているということは、つまり。 「はい、あーん」 「あー……ん、ぐ…………ぅ」  声が出ないような大きめの猿轡を噛まされた。今回はハード志向らしく凶悪なディルドギャグだけど、その中に細い管が通っている。鼻は塞がっていないから、これは呼吸用ではない。  続けて腕を取り上げられると、無抵抗の私の肘を畳んでからまとめて包帯で巻かれていく。マミフィケーションは初めてではないけど、以前とは素材と感触が違った。今回はこの外側にさらに身につけるものがあるから、ストレッチフィルムだと暑いだろうという判断だ。  半分の長さになってしまった腕の包帯をしっかり留めれば、反対側も……ただし、こちらは手の中に小さなリモコンを握らされた。それを巻き込みながら同様に。それから一度仰向けに倒されて、両脚も巻かれてしまった。……このスーツは割れ目のところが開いているから、この姿勢はかなり恥ずかしい。 「一回押してみて」 「ん」  寝転がったまま右手と右肩がくっついたところを軽く触れられた私は、指示通り握り込む形で添えられている指でリモコンのボタンを押した。……少し離れた位置で、短く水が流れ出るような音が聞こえる。  私は事前に今回使うものを全部見ているんだけど、このスイッチは押している間だけ水が流れる仕組みだ。確認と披露が終わったらボタンから指は離しておく。  続けて、曝け出していたところにリモコン式の玩具を取り付けられていく。つけられるところには片っ端からつけられてしまっていて、全く容赦がない。  それから腰を軽く持ち上げられた。爪先で転がされているベッドから体を浮かせて手助けしてから戻ると、腰の下には何かが敷かれているのがわかった。股間部を玩具ごと覆うように装着されていく。これ、大人用のおむつだ。  露出したままと大差ないくらい恥ずかしいけど、そんなことはお構いなし。短くなっている四肢を真上に向けるように整えられてから、私の上に大きく柔らかい一方で形がしっかりしているものを被せられた。 「…………っ」  触れて感じるのは柔らかいクッションだけど、それぞれ用意されたスペースに入れられた四肢は大幅に可動域が狭まった。ばたつこうとしても緩やかに手を振るくらいの動きにしかならないほど。  それごとひっくり返されて、一度首を曲げて潜り込むようにして頭もスペースの中へ。これの中は今の私の格好と同じ形をしていた。  しっかり入ったら頭のあたりにご主人様の手が潜り込んできて、猿轡に何かが繋げられる感覚。再び右肩を叩かれたからボタンを押すと……口の中、というよりは喉の奥に直接、水が流れ込んできた。  OKを示すサインとして大きく縦に頷けば、手は離れていった。要はこれは給水装置だ。こんなものがあるということは、それが必要な長時間のプレイになる。 「じゃあ、楽しんでね。くまさん?」 「ん……」  背中側でファスナーが閉まっていく。お尻のあたりから首の後ろまで上がったそれは、カモフラージュに隠されつつ小型のロックを掛けられた。どちらにせよ私は自力で出られはしないけど、これで事故で開いてしまったりもしない。  そう、ご主人様が言った通りだ。私は今、大きなくまのぬいぐるみの中にいた。全身をふわふわに包まれて、いつも以上にモノに貶められて……そして外から見たら、中に人がいるとすらわからないようにされてしまっている。  完成してからではわからないから、今回は作成過程を動画として撮影されていた。こんな願望に塗れた、ちょっと気軽にはできないほど本格的なプレイを、ファンに見てもらえるらしい。  ……嬉しい。目覚めたきっかけになった少女アニメでのシーンがまさにぬいぐるみだったから、ちょっとした夢だったのだ。  こうなってからだと、もう起こされてしまえば本当にわからない。妙に重かったり、触れば感触が変だったりはするけど、それだって誤魔化しは効いてしまうだろう。  完成してすぐはやってもいいと許可を得ているから、このままカメラの前で動いてみる。といっても畳まれた脚では歩くどころか立ち上がれるはずもないから、まともに動くのは腕だけだ。それも、ふりふり、なんて効果音がつく程度でしかない。 「……っ」  あまりの無力さにぞくりときた直後、ご主人様に手を取られた。といっても握られたのはぬいぐるみの手で私の肘のところなんだけど、そのまま緩く振るようにされれば私はなすがまま。抵抗はやろうとおもえばできるけど、やるつもりもない。傍からは本当にただの人形にしか見えないはずだ。  そのまましばらく遊ばれていると……インターホンが鳴った。 「お邪魔します」  入ってきたのは心ちゃん、最近いろいろあって仲良くなった大学生の女の子だった。今日はこの時間に約束していて、うちでお泊まり会をすることになっていた。  そして私はその間、明日の朝までこのまま。今日はご主人様と心ちゃんのお泊まり会で、そこに私は含まれていない。 「うわ、よくできてますね……」 「でしょ。好きに触っていいからね」  ちなみに、このプレイのことは隠す気はなかった。ないものとして扱ってこっそりぬいぐるみの中、というプレイも考えはしたんだけど、冷静に考えてバレないわけがなかったから。なにしろ相手は心ちゃん、彼女は兄の彼女とレズSMを嗜む同好の士だ。  そもそも私の存在と関係や嗜好を知っている上に、やたら大きいぬいぐるみが鎮座ましましていれば気付くなというほうが無理がある。わざわざ事前に伝えてはいなかったけど、カメラは回されっ放し。案の定即座に見抜いていた。  そんなわけでこれから一晩の間は、マゾ人形が封入されたぬいぐるみと一緒にサド女二人がお泊まり会。何が起こるかは今更想像するまでもないけど、それでもあくまで徹底的にぬいぐるみとして扱うのがルールとなるだろう。私も何をされても、ぬいぐるみのままでいなければならない。  私はこのために早めの夕飯を済ませてあるけど、二人はまだ。遅めの晩餐会が聞こえてくる間、これだけ期待させられた私は完全に放置でお預けを喰らっていた。  これも予定通りの流れで、ぬいぐるみらしい扱いだ。そもそも玩具に過ぎないのだから、遊ぶ時以外は見向きもされなくて当然だから。当然この間も容赦のないカット編集が前提とはいえ撮影はされている。 「お湯いただきました」 「うん、しばらくくつろいでて」  先にお風呂に入ってきた心ちゃんが戻ってきて、入れ替わりでご主人様が出ていく。わかってはいたけど、心ちゃん一人きりの時間も生まれてしまった。  彼女のパートナーから聞くに、この心ちゃんは悪戯っ子系のけっこう遠慮のない責め方をしてくるらしい。それが私にも向くかはわからないけど……何も見えない私の前に、正面から抱きついてくるような感触があった。 「ふわふわ……」 「……」  なんでもない、ただ大きなぬいぐるみに埋もれるような普通の扱いだ。あとで見たところによれば可愛らしいネグリジェに加えてちょっとした地雷系のような黒い布のマスクを着けて、全身でぬいぐるみに甘えてくる。  だけど、私と動画の視聴者にとってはそれはそんな単純なものではなかった。そのくまさんは人が封じ込められた背徳的なぬいぐるみなのだ。画面越しにどう見えているかもなんとなくは想像がつくし、私は柔らかい綿クッションの向こうに小柄な体を感じる。  だけど、心ちゃんはお構いなし。少し硬めの芯のような感触はしているだろうに、全く普通のぬいぐるみのように扱って抱き締めてくる。楽しそうに、日常のストレスから解放されて甘えるような仕草で。  当然だけど、甘えられる側の私にできることは何一つない。撫でることもできやしないし、そもそもそんなことを試みて動いたらお仕置きは間違いない。ただ変なところに触れた感触に反応してしまって、ひとりでにぴくぴくと震えるくらいだ。  とにかく、ぬいぐるみであり続ける。……やたら嗅がれているような気がするけど、雌の匂いはしないはずだ。たぶん。スーツとおむつで全身を覆われているし、少なくとも自分の嗅覚には今のところおむつから漏れてきた匂いなんかも届いていない。体臭なんかもインナースーツで遮断されている……と思うんだけど。 「ふぅ……あ、これ」 「ん…………っ」  ぬいぐるみの足の間に膝を立ててカメラの方へお尻を突き出す姿勢だったり、そのぬいぐるみの開いている足のさらに外を跨ぐように座ったり、心ちゃんも感触から想像するに際どいポーズをしている気がする。小悪魔系とはいえまだまだ少女らしさの残る容姿の彼女だけど、自縛に失敗していた同居中の兄彼女へ迷わず迫ったという話も聞くし、案外大胆なのかもしれない。  そんな心ちゃんはしばらく抱き締めて楽しんでいる様子だったけど、やがて傍らの座面に置かれていたリモコンの存在を思い出すように手に取った。そこにあることはわかっていたから覚悟はしていたけど、いざ遊ばれるとなると身構えてしまって……ずっと興奮しっ放しで期待していた体は、弱振動で早くも跳ねてしまった。 「おおお……」 「……、……っ」  決して大きな動作ではないものの、密着していた心ちゃんには当然ダイレクトに伝わる。中に入っているモノとそれが受けている仕打ちを理解したのか、わずかに戸惑いつつもすぐに感心したように、次いで楽しそうに声を上げた。  乳首の、それにクリのローターに、膣に深々と宛てがわれたバイブ、それに……。いくつもあるリモコンはそれぞれに対応していて、細かく調整して反応を楽しめる玩具になっていた。それを受けて必死に動かないようにしながら反応させられる私としてはたまったものではないけれど、やはりサドの血が疼くのか好き勝手弄り始める心ちゃん。口が塞がっている分荒くなる鼻息も至近距離なら感じられるからか、気配だけで楽しそうだとわかる。 「……あ、これいいかも」 「ん、ぅ…………!」  しばらくするともっと楽な体勢を取りたくなったのか動き始めたものの、密着から離れる様子はない。くっついたまましばらくもぞもぞ、結果的に堪能される形となって……やがて、ぬいぐるみを背もたれにして座る形で落ち着いた。  ぬいぐるみの方に抱かせるように短い腕を動かされて、心ちゃんの肩を押さえる形になる。凭れかかってくる重みがしっかり感じられたけど、成人女性としても軽いそれは私にとってもどこか心地いい。 「ふぅ……こんなことする歳でもないけど、けっこう……」 「……っ、ん…………ぁ、!!」  ただ……そこまで落ち着いても、細かくリモコンを操作し続ける遊びは収まらなかった。むしろ密着部位が増えたからかどこがどう動いているのかわかるのが楽しそうで、操作はより細かく、振動はより強くなっていく。  最終的にはさもマッサージチェアのように、胸のローターから届くほんのわずかであろう振動を肩に、バイブからのさらに弱いはずのそれを腰に受けて気持ちよさそうにする始末。  完全拘束に加えて徹底的にモノに貶められて、玩具扱いされながら椅子にまでされて、ぐっと押し付けたクッション越しにも届くような振動で責め立てられたマゾが耐え切れるはずもない。私はさほど時間をおかず本気でイってしまったけれど……伝わらなかった。心ちゃんは気付く様子すらなく楽しみ続けていて、これでは動画でも伝わるかどうか。  結局そのまま強い範囲内で振動を変化され続けて、ご主人様が長風呂から帰ってくるまでそれが止まることはなかった。そこそこ荒い呼吸をしても許してもらえたのは、それがなかなか重労働だったことを察してのことだったのかもしれない。 「…………よい、しょっ、と」 「軽いですね……」 「そうなんだよね」  そのまましばらく二人がかりで遊ばれ続けて、ときに振動すら止められて放置もされて、そろそろ深夜にも近い時間……のはず。たった今まで流れていたテレビの音から推測しただけで、そもそも視界がないぬいぐるみに正しく時間を知る術なんてない。  予想はしていたけれど、やはり二人はぬいぐるみと一緒に寝るつもりのようだった。私が人形しとして生きていることもあってこの部屋にはキングサイズ一つきりのベッドへ、二人がかりで抱えて運ばれることとなった。こんな姿勢での拘束の中、ぬいぐるみの皮ごと持ち上げられるのは少しだけ不安になるような浮遊感がある。  体型は人形として見栄えするくらいを保っているけれど、私の体重が軽いとはご主人様には常々言われている。心ちゃんがどこか羨ましそうに、羨ましがる資格もないだろうに呟いているけど……生憎、ちょうど私はそれどころではなかった。 「…………っ」 「ん? なんか震えてるような」 「あー……ふふ」  あまり、直接的な言葉は使いたくない。私は今回十二時間かそれ以上をぬいぐるみとして過ごすことになっているし、給水器もつけられてさっきの遊びの後は使っていた。それに、愛液対策でもあるとはいえぬいぐるみの中にはおむつを穿いている。  初めてではない根源的な屈辱と生理現象に震えてしまった私を、ご主人様は見逃してくれた。わかっていない様子の心ちゃんに答えることはなく、ベッドの中央まで引きずってから私を横倒しにしてくる。  いいものであるらしいおむつはその前に大量の愛液も吸っているはずだけど、それでもまださらさらのままだから気分以外は気にならない。それが水分を吸い切るまでの時間を稼ぎつつ、新たな引きずられる屈辱を与えてくれたのはわざとかどうか。  仰向けではなく横倒しなのは私の負担のためだろう。このぬいぐるみは関節部は案外動かないから、仰向けだと腕はともかく脚が立ったままで休まらないのだ。 「じゃあ、そろそろ寝よっか」 「はい。おやすみなさい」  そのままご主人様が後ろから抱き締めてきた。これだけプレイが続いても、純粋なぬいぐるみ扱いはまだまだ新鮮な興奮を誘ってくれる。こうして抱かれるのが一番幸せなのはやっぱり、ご主人様のことが好きだからだと思う。  続けて心ちゃんは正面から、今度は楽な姿勢で抱きついて顔を埋めてきた。そろそろ純粋にふわふわのものが好きなのだとわかってきた彼女も、こうして心置きなくくっついて遊んでくれるのは私としても嬉しい。腕枕にされているから痺れそうだけど、そのくらいは構わないし。  さすがに寝かせてはくれるようで玩具は止まっている。やはり自然にしているよりは負担なのか、私は興奮の中でも二人とさほど変わらない速度で眠りに落ちた。  ただ……止まっていても装着はされたままだとすっかり失念していた私は、リモコン操作で間抜けな姿を晒しながら起こされることとなった。そのまま一番恥ずかしい開封と後処理を心ちゃんに手伝われた挙句、お仕置きとして翌日の人形プレイを心ちゃんにも遊ばれてしまったけど、それも楽しかった、かな。次は心ちゃんのパートナーも一緒に、と私から言い出して約束したくらいには。

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ヒューマンファームの日常風景

 休憩時間の終わりが近付いてきて、わたしは待ちきれずにうずうずしてきた。  あと少しだけ待てばここから出られて、また馬車に繋がれて遊んでもらうことができる。そう思えばわたしは、外からどう見えているかはわからないけど待ち切れない。  ここは大手アダルトグッズ製造業のミスト・スランバーが運営する大型マニアックフェチテーマパーク、『プロジェクト・ヒューマンファーム』。SMプレイの中でもいわゆるヒューマン・アニマル・ロールプレイ、それも家畜プレイに類するものに特化した挑戦的な施設だ。ペットプレイの区画を新設するとも聞いたけど、結局ここの畜舎を出たがりもしない大半の所属家畜にとってはあまりよく知らないことだった。  わたしはそこで馬、ポニーガールとして飼育されている。体裁上はあくまで労働契約だから人権を喪失したりはしていないのだけど、わたしたちの方がむしろ没入してしまっているものだった。当然持っている人間としての名前よりも、首輪に刻まれている「ベルフラワー号」というポニーとしての名前の方が自覚的なくらいだ。……もっとも、わたしとしては馬名として個性づけられているポニーより、番号管理がされている雌牛たちのほうがこの点では羨ましいけど。 「…………っ、ふぅ、ン」  わたしは今、休憩室にいる。体力を使う役目を果たせるよう、ポニーは休憩をおろそかにすることを許されない。この部屋の中には今も勝手に疲れないよう、何頭ものポニーが休息状態で拘束されていた。  向こうのすらっとした子は尻尾を通す穴がある椅子に縛り付けられているし、こっちの筋肉質な子は涼し気な薄布で簀巻きに。あの小柄な子は横向きに丸まったまま箱に収まっているし、わたしは上半身を前に倒した姿勢で柔らかいクッションに身を預けて吊られていた。  その休み方はそれぞれの好みだけど、わたしにとってはこれが一番よかった。柔らかいから痛くないし、脚が少し浮くから一番大事なところが休まるし。着けたままの馬具に変な力が一切かからないのもいい。それに、胸の部分はクッションが穴になっているから苦しくならないし……部屋の手前側に位置するから、たくさん見てもらえる。  実はこの休憩室、一面がガラス張りになっていて順番待ち中のお客様が見ることができるのだ。わたしのいる場所はその視線が集まりやすくて、それだけでぞくぞくする。以前参加したあるイベントのせいか、わたしは人間らしくなくなった姿を見られるのがとても好きになっていた。 「ベルちゃん、出番だよ。おいで」 「んっ……むぅん、うーっ!」 「やる気だね。じゃあ、こっち」  わたしは体はしっかり休めつつ、恥辱マゾの興奮はずっと味わうのがちょうどよかった。それが終わると飼育員さんが来て、拘束具を外してくれる。馬銜から垂れ下がる手綱を持たれたら、準備万端を示すためにお尻を振ってみせる。  そうすると手綱を引いてくれるから、合わせて外へ歩いていく。わたしは染み付いた腿上げのパッサージュで続いた。  ヒューマンファームのポニーガールにはいくつかの種類の仕事があって、それぞれ主に希望するものに就いている。もちろん途中で、または定期的に切り替えることも可能だ。わたしもせっかくだから全て順番に手を出している。  園内のさまざまな移動馬車や荷車を牽く、実用の馬車馬。畜舎と放牧区で馬らしい仕草をして見世物になる牧場馬。それからスタジアムで行われるポニーレースを走る競走馬と、アトラクションの一部として奉仕する体験馬だ。わたしは今はこの体験馬として過ごしている。  どの馬でも装備の基準は同じだ。全身を締め上げるボディハーネスと手綱付きの馬銜を携えたヘッドハーネス、それに腕と脚に嵌めたポニーグローブブーツ、お尻に挿入するか腰から垂らした尻尾。わたしはラバースーツは着ずに裸を見せたまま、前脚の拘束は休憩室の出入口でアームバインダーにしてもらっている。  水平まで腿を上げながら歩いていった先では、一頭立ての人力車に近い馬車と、二人組の女性客が待っていた。まずはまっすぐ立ち止まって、つんと立った乳首と濡れた股を見せながら鳴いて挨拶。 「こちら、本日お客様の担当をさせていただくベルフラワー号です。どうぞよろしくお願いいたします」 「んぅっ……!」 「おお……よく躾けられてるし、気持ちよさそうですね」 「よろしくね、ベルフラワーちゃん」  中には少しポニーの扱いが雑な人なんかもいて、そういう人の場合はすぐにまた休憩に回されてしまうのだけど……今回はそうではなさそうだった。代わりに明らかにポニーだけでなくマゾ女としても見られていて、向けてくる視線がどこか艶かしいけど、わたしはそういうのは歓迎だった。だから宛てがわれたのかもしれない。  サービスも兼ねて近いほうの、ボーイッシュな方の人に擦り寄ってみる。これはポニーに認められた媚びのひとつで、こうされたらお客様はポニーのことをマゾとして触ってもいいことになっている。二人がかりで撫で回したり、主張した乳首を転がしてくれたりして……あ、まずい。軽くイってしまう。 「ん、ゥっ!!」 「ベルちゃん、どうやらお客様のことが気に入ったようです。早速お乗りになってみますか?」 「そうします。……どっちからにする?」 「玲華にお手本を見せてもらおうかしら」 「わかった」  浅ましい幸福感でふわふわしているわたしを置いて、とんとん拍子でアトラクション開始まで進むことになった。どうにか気を取り直して所定の位置に立ったわたしのハーネスに、馬車の前方へ左右二本伸びた支柱からベルトを繋げていく。  玲華さまというらしいボーイッシュな方のお客様が背後に回って、馬車に乗り込んだ。この馬車は乗ると手元にポニーの操作方法が書かれた表示板があるから、それを見ながら動かす形になっている。 「お手元の表示のように扱っていただければ、ポニーはその通りに動きます。自意識の挟まれない乗り物の一部となったポニーを、是非ご堪能くださいませ」 「はい。ええっと……まずはこうか」 「んっ……!」  直前までぽわぽわしてしまっていたのは、むしろポニーらしさを演出する上ではよかったのかも、と思ったのは終わってからのことだ。わたしは調教で身についた癖で直立へ姿勢を正していたところから手綱を打たれて、考えるより先に体が動いた。  馬銜の両端から繋がっている手綱を、ぴんと張った状態から緩められて、改めて軽く引かれる。これが「進め」の合図で、わたしたちポニーはこれを受けるとほとんど無意識に歩き出してしまうところまでしっかり調教されていた。……この自分の固有性を失うほどの調教こそ、私が雌牛ではなくポニーになろうとした最大の理由だった。 「本当に動いた……」 「んっ、ふ……ぅ」 「じゃあ、次」 「んぅ」  ポニーは調教中に乗り手の気持ちを理解するためとして御者側もさせられるのだけど、自分が言葉にもしていないのに動作での命令ひとつで思い通りに動くのはどこか全能感を抱くものだ。本物の馬では違うのだろうけど、これが人間のポニーだからこそ支配が心地いい。意識的に従っている、従わされている屈辱的な存在が目の前にあるから。  手綱を左側だけ引かれたら、左への旋回。角度は馬車が詰まらない範囲内で、引く強さ次第で変わるように調教されている。  ポニーにとっては、こうして自分以外に体を操られるのがとても心地いいのだ。勝手に動かされている、まるで自分の体のリモコンがあるかのような感覚が、剥奪であり献上としてどうしようもなく興奮する。そういう感覚を持てるマゾでないと、ポニーガールは長続きしない。  馬銜ごと左に引っ張られるような感覚も、その強さも意識しない。体に染み付いているから、それに明け渡して委ねる。自分自身が他者のモノ、本物の馬にも失礼なほど何も考えていない馬車の一部、ただの道具になっている。それに興奮して、内腿をさらに濡らしてしまう。 「……どうだったの?」 「不思議な感覚だよ。車のハンドルみたいに、こう動かせばそう動くのが当たり前みたいな。何の違和感もなかった」 「は、ふ……っ、ぅ……」 「へえ……それでこんな興奮のしかたなんて、よっぽどの優秀なマゾ馬なのね。楽しみになってきたわ」 「うん。美紗希は特に気に入ると思うよ」  しばらく優しく乗り回されて、最後は手綱を引かれる。これに対してゆっくり、馬車が追突しないように減速して止まる方法も、ポニーには染み付いている。  ポニー冥利に尽きるような言葉を浴びながら興奮が収まらないわたしを見たもう一人こと美紗希さまは、玲華さまよりも幾分かサディスティックな視線を向けながら微笑んだ。 「じゃあ私もよろしくね、ベルフラワー号」 「んむっ……ぅ」  その美紗希さまが変わって乗り込んできた。騎乗ができたことの合図は、垂らされた手綱を軽く張られることだ。ポニーは後方なんて見なくていいし見えないけど、こういう細かいところで伝わるようになっている。  手綱を軽く打つと、ポニーの肩から背中にかけて鞭よりだいぶ軽い刺激がくる。これはポニーのもうひとつの歩き方、休憩室から出る時にも行ったパッサージュの合図だ。しっかり腿を上げて歩くとどうしてもウォークよりもだいぶ遅くなるけれど、実用的な意味のない大振りな動作は見世物らしくなって恥ずかしい。  この場では関係ないけど、パレードなんかでは前から見られたときに股を開いた様子を見られるという副産物もある。 「風を感じるのね、可愛い。そうやってこれだけで浸れるの、凄いわ。……だけど、ポニーにはちゃんと運ぶ力もあるんだったわね」 「んッ……!」  そのまま少しだけ歩かされた。背後から声が届くように、ヒューマンファームはドーム状のはずなのにそよ風が吹く。そう設計されているのだそうだけど、目的はもちろん家畜たちの肌に感じさせて屋外のように感じさせることだ。効果は少なからずある。  練り歩きには満足してもらえたのか、次の合図があった。ぺちん、と音を立てながら、右のお尻に打たれたという感覚が届く。ほとんど痛くはないそれは、早歩きを示すトロットの命令だ。これ以上の指示のため、御者席にはSM用の乗馬鞭が用意されている。  それまでの腿上げはやめて、少し前傾姿勢になって速く歩くように。実は園内の乗合馬車にはがっちりフレームバーで固定されていることもあって電動アシストがあるけど、ベルト接続のここの一人用にはないからポニーの速度がダイレクトに届く。こうして加速したときに御者に得られる感覚は、このアトラクションのアピールポイントであり人気要素だった。……玲華さまはやらなかったけど、大丈夫だっただろうか。 「わあ……いいじゃない、凄いわ。だけど、ポニーなんかになったんだから、もっと無様に人間やめたいのよね?」 「ふっ、ふ……むンっ」 「そうよね。……じゃあ、やりなさい!」 「ぅぐぅぅっ!?」  決まりとして、稼働中のポニーはお客様に話し掛けられても返答しなくていいことになっている。だけど、美紗希さまのこの発言はすごく刺さった。つい応えてしまうほどに。……その通りだ、わたしは人間じゃなくなりたくてここに来た。無個性な「何かの中のひとつ」になりたくて、厩舎にいるたくさんのポニーの一頭を選んだのだ。  美紗希さまはそのあたりが深くわかるサドだったようで、返答に嬉しそうに笑うともう一度鞭を振るった。今度は強めに、反射的に悲鳴が漏れてしまうほど痛く。だけどこれでも怪我や痣にはならないような鞭になっていて、わたしたちにとってはこの鞭さえ日常だ。わたしたちをただの乗り物へと貶めてくれる、設計通りの規格品のアクセルでしかない。 「凄い、凄いわ! とっても爽快!」 「ふっ、ふっ……んぐぅ、っ!」  キャンター。より強く地を蹴って、駈歩をする段階の合図だ。たとえば高校生が部活でランニングをするような、まめな人が日課のランニングをするような、そのくらいの長続きする走り方。  本当はこの上にもう一段階、両方のお尻を叩くことで命じられるギャロップという全力疾走があるんだけど、これは制御しきれない可能性もあるから体験では行われない。使うのはポニーレースのときくらいで、席の操作方法にも記されていない。  強めに打たれた鞭はけっこう痛いから、このくらいの駆け足はしないと痛みをごまかせない。繋がれたポニーは脚しか動かせないし、そういう躾けかたをされていた。あとは手綱を片方引かれれば旋回をして、両方が引かれるまで足は緩めない。  たまにこの状態のままさらに叩いてくるお客様もいるけど、美紗希さまはそうではなかった。わたしたちがこれほどの鞭は一発で満足なのだとわかっているのかもしれないし、必要以上の操作など乗り物には必要ないとわかっているのかもしれない。  実際、ポニーはもう打たれなくても何も考えずに走るしかない。頭を空っぽにして、手綱のハンドルに身を任せて、安全な曲がり具合さえ体に染み付いた通りにしか動かない。それでいいところまで調教が染み付いている。  …………ああ、気持ちいい。わたしにとってポニーは間違いなく天職のひとつだった。上手な乗り手のもとでキャンターまでしてしまえば、走りながら軽イキしてしまうくらいには。  ……少し苦しくなってきたくらいのところで、軽く手綱が後ろへ引かれた。美紗希さま、初めてとは思えないくらい本当に上手だ。疲れ始めると無意識に出る緩みを感じ取ったのかもしれない。  安全装置はあるとはいえ、自分で牽いていた馬車に追突される可能性はある。飼育員が乗る馬車にはあるブレーキも、お客様に急に踏まれると事故になるからここにはない。ゆっくり緩めていって、止まるまで自然な減速に任せていく。  ウォークの速度まで戻ったら、そこからは元の場所へ戻っていく。到着して強く手綱を引かれたら、そこで停止だ。 「ずいぶん走ったみたいだけど、どうだった?」 「思ってた以上に最高だったわ。プレイ自体は知ってたけど、ここまで良いなんて」 「さすがにフロアでは無理なのが残念だけどね。……ありがとうベルフラワー号、とても楽しめたよ」 「ふぅ、ふぅ……むぅんっ!」  これだけしっかり走れば、当然ながら息は乱れる。美紗希さまが降りてからも繋がれた位置のまま肩で息をしている間に、横からはとても満足気な会話が聞こえてきた。  わたしとしても幸せになる言葉だ。こうしてポニーをやっている以上、安くない入園料を払っているお客様を楽しませられるのが何よりだ。 「汗、拭いてあげましょっか」 「んっ……ぅ、ふぅぅっ……!」 「……へえ、今、愛撫なしで深イキできるんだ。凄い」 「ベルフラワー号は特に行き届いていて、ポニーの悦びで絶頂してしまうことが多いんです」 「最高じゃない、こんなの……ほら、ここも拭いてあげるからもっと脚開いて」  涼しめに空調の効いたドームの中で半裸とはいえ、ここまで走れば暑くもなってしまう。飼育員さんが手渡したタオルで浮かんだ汗を拭ってくれて……わたしはそこで、絶頂してしまった。ポニーの本分を果たせた悦びに満たされて、ぷし、と締めつけた膣から愛液を吹いてしまう。  こうしてノータッチでマゾイキできるのは、ポニーとしては好評らしい。お客様も見て楽しんでくれるし、飼育員さんや運営部からも好意的だった。おかげでわたしは優良馬として扱われている。 「さて、それじゃあ行こうか。ここまでで一番楽しめたけど、そろそろ他も行かないと今日中に回り切れない」 「そうね、向こうはまだだし。……じゃあベルフラワー号、またね」 「うーっ!」  そんな浅ましい愛液まみれの股も拭いてもらえて、わたしは興奮が収まらないままお客様方を見送ることになった。馬車から外されないまま、区画の出口へ向かう二人を見送る。  わたしは飼育員さんの確認を受けて、もう少し落ち着けばまだいけると態度で伝える。次の休憩までにもう一組、お客様を担当することになる。   ◆◇◆◇◆ 「あ、雌牛さん。一杯くれる?」 「ンム、ンゥ」  園内をゆっくり歩いていると、横合いから声をかけられた。  私はそちらに振り返ると声の主に近付いて、横向きになって身を差し出す。小柄なお客様のときは膝立ちになるけど、今回は立ったままだ。  お客様は私が背負っているものに取り付けられている紙コップを取ると横についている注ぎ口へ宛てがって、投入口に硬貨を二枚入れてボタンを押した。するとそこからは甘い匂いがする白い液体が流れ出て、ちょうどそのコップ一杯分で止まる。  何か話し掛けられたりしなかったから、それで成立だ。手を振ってくれるお客様に頭を下げてから、また元の道を歩き出す。 「……あの、あれ何ですか?」 「あれって?」 「ほら、あのタンク背負った雌牛さん? みたいな」 「ああ、あれね。……雌牛さーん、次こっちー」  ところがすぐにその道を歩いていた別のお客様の目に留まって、今度は疑問げに見られた。女性の二人組で、様子からしてそのうち一人だけがリピーターさんらしい。  私がやっていることを教えるためとばかりに呼びつけてくれたお客様のもとへ、蹄ブーツを響かせながら向かう。本当は「もお」と鳴きたいけれど轡でできないから、代わりに「むぅ」とでも鳴いてから今度は片膝立ちになった。  何度も呼ばれている通り、私は雌牛だ。何かの蔑称ではなく、本物というわけでもなく、ヒューマンファームの中の存在として。  以前はコンプレックスだった大きな胸だけを丸出しにする、足裏に蹄のついた牛柄のスーツを着て、頭には轡付きのベッドハーネスを着けて噛み締めている。首輪にカウベルをつけて、耳にはイヤリングの代わりに耳標を提げて、両腕はこちらも蹄付きかつミトン型で、邪魔にならないよう後ろ手に固定されていた。 「こういう雌牛さんって、あっちの牛舎にいるものなんじゃないんですか? 少なくともプレオープンのときはそうでしたけど」 「これは移動販売雌牛だよ。最近始まったサービスで、雌牛がこうやってタンクを背負って園内を売り歩いてるの」 「へえ……なんか、形だけなら野球場のビールの売り子みたいですね」 「発想はそれだったみたいだよ」  初来園ではなくプレオープンのときのことは知っているらしい小柄なお客様の言う通り、ここまでは牛舎に繋がれている雌牛の装いだ。だけど、今の私はもう一人が説明したように新しいサービスの最中。そのままだけど、移動販売雌牛と呼ばれている。  元々の雌牛の装いに加えて胴体にはボディハーネスを締め、それに大きめの機械を背負う形で取り付けてある。これは自分から搾っているミルクを貯蔵する小型タンクで、丸出しの胸の先についている搾乳器から直に溜まるのだ。  この格好で園内を歩き回って、家畜の姿を見せながら搾りたてのミルクを売り歩いている。上の人の思いつきの発想で始まったそうだけど、道中でもヒューマンファームらしい家畜を馬車馬同様に見ることができて、外に出荷する際は殺菌や加工が必要になるミルクを生で飲めると好評だった。生の牛乳は飲んではいけないけど、これは曲がりなりにも人の乳だ。  そして私たちからしても、より多くのお客様に見られて恥辱を感じられる上に移動販売の設備として牛舎とはまた違った尊厳破壊があって、しかも直接お客様の喜ぶ様子を見られるから歓迎だった。私は二日に一度も志願してしまうくらい気に入っている。 「ここからコップを貰って、代金を入れたら……」 「まるで自動販売機ですね。そういうモノ扱いにもなると……」 「んッ……ぅ、ふ……ンく」 「へえ、減ってきたら搾乳が強まるんだ。よくできてますね」 「直搾りじゃないのも管理されてる感があっていいよね」  背中のタンクが軽くなってきていたのは私もわかっていたけど、ここで二杯買ってもらったことで基準量を割ったらしい。その通りである程度減ると自動で搾乳が激しくなるから、搾られることには慣れている雌牛でもつい鳴いてしまう。毎回起こるものではないから、ある意味ちょっとレアでリピーターを誘う要素にもなっているのだとか。  そんな機構もあるのに常に少しずつは搾られているのは、練り歩いている最中も乳を出し続けているという惨めさを演出するためで……私はこれも好き。 「あ、美味しい。プレオープンのとき飲めなかったので赤ちゃんのとき以来ですけど、こんなに甘いんですね」 「私も自然なものは物心ついて以来飲んでないから、雌牛用の母乳薬が何か作用してるのかもしれないけどね」 「……あれ、なんでしょうこれ」 「ああ、それはチップボタンだよ。気に入ったら押してあげるもので、押されたら……」 「んっ、ぁ、んぅぅ……!」 「なるほど。こういうご褒美があるんですね」  ……そう。タンクの側面にはもうひとつボタンがあって、チップの要領でそれを押してもらえることがある。雌牛にはそれを強請ることは許されていないんだけど、いざ押してもらえるとさらなるサービスをすることになる。  これ、股に装着されている玩具の起動スイッチなのだ。押されると一定時間、クリや膣に振動が届く。私たちはこれを押してもらえるよう、そしてたくさん売り上げて飼育員さんにご褒美をもらえるよう、目の前に人参を吊るされた状態で売り歩くのだ。  搾乳とも重なったせいで、私はそこに跪いたまま絶頂までしてしまった。間抜けに腰をへこへこさせて、周囲の注目を集めてしまう。……ただ幸い、そのおかげでこの場での売上はかなりのものになった。  チップボタンもたくさん押してもらえて、半ばストリートショーのようになった場所からようやく離れてしばらく。予定外に時間がかかったから行くつもりだった寄り道は行けなくなったけど、牛舎に帰る道すがらにちょうど見つけたものがあった。 「……あ、移動販売来てるよ」 「おお、ちょうどよかった」 「ンゥッ!」  豚畜舎前に停まって出発時間を待っているところの乗合馬車だ。この手の馬車はある程度運行時間が決まっているから、こうして畜舎前の停留所では止まっていることがある。  早くに乗り込んでいたお客様は暇をしていたようで、通りかかると呼びつけてくれた。私は応じて後方の乗り口に向かったんだけど、どうやらその馬車は噂には聞いていた新型だったようだ。 「しかし、ここまでするんすねぇ」 「これだけあって豚を選ぶ子はそのレベルのマゾだってことだよな。こう書いてあることだし、ちょっとくらいは踏んでやろうぜ」 「なんかちょっと怖いっすけど……」 「ングッ、ブゥ……!」 「ほら、悦んでる。このくらいの強さでよさそうだな」  その馬車は靴を脱いで乗る形式で、床がラバーでできていた。左右に内向きに設置された長椅子型の席に挟まれて、中央部には人型の盛り上がりがある。  バキュームベッド馬車だ。一部の希望した豚の子が、床に設置されたバキュームベッドの中に囚われている。無様姿勢で固定されたまま、お客様に可愛がる程度の強さで足蹴にされている。馬車内に「優しく踏んであげてください」と掲示があって、乗務員の見守りのもとでこんなことになっているらしい。  恐る恐るお腹を踏み押しているお客様に構ってもらえて、興奮した様子で悶えている。……ほんの少し羨ましい気はするけど、私にはこうなるほどの勇気はない。 「ほら、雌牛さん。こっち」 「ンゥ? ……アゥ、っ」 「ンッ……?」  それを横目にお客様へミルクを出していた私だったけど、なにやら思いついたようで楽しそうな様子のお客様に手招きされる。馬車の中ほどに座ったまま出てこず、私に向かわせるつもりらしい。  もちろんそういうときもご要望に応えるのが私たち家畜なんだけど、何か意図がありそうだ。蹄で傷つけないよう、少しだけ砂のついた膝を別のお客様に払ってもらってから馬車の中へ膝立ちになった。  そのまま膝で歩いて、がに股になった豚さんの脚はお客様に支えてもらいながら跨ぐと……辿り着いたところでお客様に、そっと肩を押し下げられる。  さすがにわかった。私も一緒になって悪戯心が芽生えてしまって、そのまま腰を落とす。 「ンッ……?」 「それじゃ、一杯くださいな」 「ンァぅ」  私が股を下ろした先は、ちょうど仰向けになっている豚さんの股間のところ。明らかに足裏ではないものをおっぴろげた恥部に押し当てられて、豚さんは不思議そうな声を漏らす。  そのまま私は首謀者のお客様へミルクを買っていただいて、一口飲むまで待機。……周りのお客様ももうほとんどが理解している様子で、すっかり注目を集めていた。中にはよく見るために奥の席に移るお客様も。 「うん、美味しい。……それじゃ、チップをあげないとね」 「ンっ……ぁ、んぅぅっ!」 「ムグッ、ォ、ァッ!? ンゥ、ゥーッ!!」  ……そう。そのまま、チップボタンを押してもらった。  私はいつも通り、ご褒美の快楽責めを受けて喘ぎ浸るだけ。だけど、床の豚さんは違った。玩具などついておらず、快楽なんてもらえないはずで馬車の床になったのに、いきなり股間に強い振動を与えられたのだ。それも何も見えず聞こえない、バキュームベッドの完全拘束の中で。  あっさりイってしまったのか腰が跳ね上がってくるのを感じつつ、構わず座り込んだまま私も悶え散らす。悪戯の片棒は担いだとはいえ、私もヒューマンファームの家畜である以上どこで何をしていてもお客様の見世物だ。 「ふっ、ふっ……ン! ぁふ、ンゥ───っ!」 「ォッ、ンゥ、ゥ! ムグゥ、ゥゥゥッ!!」 「……お疲れ様。いいもの見せてもらったよ、ありがとね」  私がその場で思い切り仰け反ってイき果てると、床さんも同時に本気で悶え尽くしてがたがたと震えてみせた。……同時絶頂で不思議な連帯感を残して、チップのバイブがぴたりと止まる。  自分も自分で負けず劣らずの無様さだと実感しながらのろのろと馬車を降りると、見ていたお客様からは口々にお褒めの言葉を掛けられた。私はそんな惨めな扱いと身分に浸りつつ、馬車に礼をして離れた。……ずっと繋がれたまま声だけを聞いていた三頭のポニーが羨ましそうに見てくるけど、私にはどうしようもない。悪いけどグルーミングまで待つしかないだろう。  もっとも、それなりに響いていたようで……すぐにまた声をかけられた。列までできているからこの調子だと牛舎に帰るのは少し遅れてしまいそうだけど、売上は間違いなく過去一になりそうだ。

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ドーラードールに包まれて

「そちらの方々を離せ!!」 「聖女様を攫っただけでなく、そんな姿にして死よりも辛い仕打ちをするだなんて……絶対に許さない! 討伐してやる!」  ワタシの前には今、激昂して武器を構える二人の男がいた。ワタシを殺すためにわざわざこんな洞窟の奥まで来て、誰も得をしないことをしようとしている。……この子たちの気持ちなんて、想像したこともないクセに。  まあ、男には興味はない。たとえこの子たちみたいに目覚めたとしても、ワタシは拾うつもりはなかった。この子の護衛騎士がなんだ、幸せどころかむざむざ限界まで追い詰めておいてそんなものを名乗る資格はない。   「ん、ぅ……っ、」  ほら。現にこの子は、追いかけてきた二人と話そうとする素振りどころか、動かない体で必死に隠れようとしている。ワタシはそれを見て、おおよそこの子が彼らをどう思っているかわかった。  真っ黒で艶やかなワタシのラバーに全身を包まれ、髪の形もそのままに膣穴と尻穴を拡がった穴にされている可愛い飼育物。いっさい無抵抗に手足を伸ばしたまま囚われて永劫をワタシに遊ばれて過ごすことを選んだ、人間に絶望した可哀想な人形たちのことは、ワタシは手放す気はない。  だからやはり話を聞く余地などない、あとはどう帰らせるか……。 「聖女様! さあ、こちらへ! 本日分の授業と業務が残っております! あと5時間分は残っております、早くしなければ夜が明けてしまいますよ!」 「聖女様は歴代でも修練が遅れております、我々は聖女様のためを思って来ているのです! これ以上手を煩わせなされぬよう!」 「これは聖女としてお生まれになった以上、必ずなすべきことなのです! さあ!!」 「…………ッ」  なんとなくわかってきた。コイツらはこの子のことなど少したりとも考えていない。聖女だとか、そういう記号でしか見ていない。  そしてこの子は、それに耐えかねて逃げてきたのだ。聖女という、魔物とは相反する存在でありながら。魔物であるワタシ以外に頼る先すらなく。 「浄化を待つ令息が……」 「あまり遅れると我々の評価も……」 「ウルサイなぁ。この子はアンタたちと、もう何も話したくないってこれだけ全身で表現してるのに」  ならもう、いいか。このまま聞かせていても誰も幸せになるまい。魔物の前でこれだけ無防備な隙を晒しているのだから、命をもって支払う羽目になっても文句は言えないだろう。   ◆◇◆◇◆  時は少し遡ります。  わたしは屋敷を抜け出して、ひたすら森の奥の方へ走っていました。  逃げているのです。魔物からではなく、人間から。聖女の責務から。  それも、この先にいるという噂の魔物を目当てとして。わたしにはもう人の世にちゃんとした居場所がありません。だから、人を殺さずに生け捕りしてそのまま飼うとされる魔物に縋るしか。  人として生きられずとも、そんな普通なら「終わり」としか言いようのないところに身を投げるしかない……いいえ。そのほうが、ましなのです。  わたしは5年前に突然、聖女だと呼ばれてそれまでの人生の全てを奪われました。 もちろん、最初はいい気分になっていました。だって、聖女というのは人々を魔物から守るため祈り戦う存在。そんな素晴らしいことがわたしにもできなんて、と舞い上がっていました。  ですが……実態は、ぜんぜん違いました。聖女なんておためごかしで、貴族のご機嫌と教会の対面のためだけの存在でした。人々を守りなんてしません、貴族邸宅にしか結界なんて張りません。それだけならともかく、組まれているお勉強もほとんど全部が貴族と司祭へのご機嫌取り。実用に足ることなんてほとんど何も教わっていません。  それでも頑張りました。違うことをしたほうが絶対に魔物から人を守れると知りながら、言われた通りのことをやり続けました。だけど今、わたしは関わる全ての人々から怒られ、失望され、憎まれています。……顔を合わせた貴族令嬢が、開口一番に私の顔が気に入らないと癇癪を起こしたからです。  そんなこと、わたしにはどうしようもありません。それでも平謝りはしました。令嬢は余計に当たり散らしました。それでわたしは、貴族様を怒らせた厄介聖女になりました。迂闊な使用人の噂話で、明日になれば準備ができて塔に幽閉されるとまで聞きました。  厳しすぎるスケジュールも、聖女に見出されたからとほかの全てを奪われて消されたことも、丁寧なフリをして高圧的な護衛騎士も、辛いけれど耐えられました。だけど、今回ばかりは。  もう味方なんてどこにもいません。だから、逃げるのを決めることはとても簡単でした。 「……どうしたの、こんなトコで。アンタ、聖女でしょ?」  そうしてわたしは、出会うことができました。今のわたしを守ってくれる救世主、永遠を捧げることのできるご主人様に。 「ドーラードールさん、ですよね。……わたしを、捕まえてください」 「は?」 「…………と言いたいところだけど、さすがにもう驚けないわね……」 「え?」 「え? じゃないんだけど聖女。自分が言ってることがそーとーヤバい自覚はあるんじゃないの」  ドーラードール。人形系の魔物で、ほかの人形を操るという特徴を持ちます。人形でありながら人形を操り、また人を人形にして捕まえ精気を啜るのだとか。  ただ、その人を人形にする方法が特徴的で。 「ワタシに捕まるってコトは、コレになるってことだよ。いいの?」 「ン、ぅ……んむ、んぅぅ……」  コレ、と指さして見せられたのは、既にこのドーラードールに捕まっている人。……全身をぴっちりとした黒い膜に完全に包まれて芋虫のようになった、人型の何かです。  そう、これです。ドーラードールは人をこんな姿にして飼います。この謎の膜はドーラードールの強みで、この世の何よりも丈夫なのだそう。この膜を液体にして自由自在に操れるから、守りに入れば貫く手段は何一つとして存在しないそうです。勇者様の剣でさえ傷一つつかなかったという伝説すら残っています。  そして、一度囚われてから生還した人によると……気持ちいいのだとか。いえ、それはいいとして。これは魔物に捕まる中では最も安全で、快適で、扱いがよく長く持つのです。  なぜなら、ドーラードールは捕まえた人間を愛でて飼うから。自然と回復する分の魔力や精気しか吸わないようにして、気に入った獲物はずっと飼い続けるのだそうです。……そう、居場所のないわたしにとっては、たぶんこれが一番まし。 「構いません。たぶんそれが、一番いいから」 「………ちょっと事情を聞かせて」  ところがこのドーラードール、魔物でありながらわたしの話を聞いてきました。やっぱり彼女たちは魔物で一番人間に寄り添うという話は、本当だったようです。 「…………ん、だいたいわかった。そういうコトなら、ここにいなさい」 「いいんですか!?」  事情を説明し終えると、ドーラードールはあっさり受け入れてくれました。しかも優しい顔をして。なんだか、魔物のイメージそのものが崩れる気がします。ここのところ関わったどの人間より優しいから。  ただ、理由はあったようです。 「実はね、アンタと同じようなの、もう二人もいるんだ」 「…………え?」 「ね」 「……ん、はい」 「ぷは。実はそうなんです」  同じようなのがいる。つまり、わたしが初めてではなかった。それはどうやら、今このドーラードールに捕まっているこの塊が、わたしと同様に人間の生きる世界の外に救いを求めた果てということのようです。  抱き締めていた芋虫の口元が開いて、喋り出したかと思うとそのまま頭部があらわに。とても可愛らしい、小動物のような愛嬌を感じさせる女の子でした。……こんな子がたった今まで、あんな格好で甘ったるい声を漏らしていたんだ。しかもわたしの声が聞こえても、惜しげもなく。  ……だけど、あれ? 今、二人いると言ったような。しかも返事も二つあった、先に聞こえたほうの返事は目の前の子ではないようです。  不思議に思っていると不意にドーラードールが立ち上がりました。何事かと思っていると……座っていた真っ黒な椅子が、四足歩行のように動き始めて。 「もう一人はここ。……驚かせてしまって悪いけど、この子はこうされるのが好きなんだ」 「はっ、は、ふ……すぐには興奮、収まらなくて……」 「え、え……!?」  どうやらそれは人で、もう一人だったようです。抱かれていた子と同じように頭部が見えるようになると、こちらも美少女に。まるで人形のような、綺麗だけど大人になりきっていないような姿でした。  それがまるで獣のような四つん這いで……たぶん、手足をそれぞれ折り畳んだまま包まれています。ドーラードールはたった今まで、その背中の上に座っていたようです。 「私もこんな趣味は、ご主人様に拾われるまでは思いもよりませんでしたが……今となっては、普通に可愛がっていただくのと同じくらい気持ちいいの」 「そ、そうなん、ですか……」 「あなたもここに救いを見出せたなら、多かれ少なかれわかりますよっ! あたしもけっこう、わかりますもん」  恥ずかしいのはきっと恥ずかしいのでしょう、二人とも顔は真っ赤にしてもぞもぞとしています。どちらも人型でなくなってわかりづらいですが、先端や割れ目がわかるほど体の形が浮き出ているので無理もありません。  ただ、それが気持ちいいのだと。……わたしはまだ他に救いがなかっただけですが、わたしにもそれがわかる日が来るのでしょうか。 「そういうわけだから、ワタシはアンタのことを、この子達と同じように扱う。飼育物を満足させてこそワタシの目的は満たされるのだし、梱包以外は嫌なコトはしないから安心して」 「えっと……はい」 「ま、楽にして。ワタシは誰より硬いから、何が来ても守ってあげる。ソレは保証するよ」  でも、もしそれがわからないままでも構いません。もともとどんな形で捕まって辱められるのかはしっかり知った上で、それでも最善だと確信してここに来たのですから。あのまま何も救えず誰かの操り人形にだけなって、聖女扱いを望んでもいなかったのに貶されて痛めつけられる日々が終わるなら。  恥ずかしいだけなんて、どれだけ楽か。そんなことすら今のわたしには想像もつかないのですから。 「そういえば……アンタももう、自分の名前も捨ててしまう?」 「アンタも……ですか」 「うん。この子達はもう、それまでとは断ち切った」  そこで初めて、わたしはこれからずっと一緒にいる仲間たちの過去を知ることになりました。名前を捨てるほどですから思い出したくもないのでしょうに、「盗み聞きみたいになってしまったから」と共有してくれたのです。  椅子になっていた方がより先輩で、今の呼び名はアイン。元はわたしと同じ国出身の貴族の庶子だそうで、無理やり使用人扱いで連れ込まれて奴隷同然の仕打ちを受けたあと、政略結婚として遠い領地の悪徳老貴族に嫁がされそうになっていたとか。その直前に薪取りに放り出されたとき、偶然出会ったそうです。  芋虫のほうはツヴァイ、安直な名付けではありますが……意味のある名前なんて自分たちには必要ない、と。こちらは隣国の田舎の寒村で平穏に暮らしていたところへ、飢えた盗賊団に襲われて壊滅。ひどく陵辱されて隙を見て逃げ出し、ちょうど近くに来ていたところへ鉢合わせたと。 「ご主人様には敵討ちまでしていただいて……」 「目障りだったから潰しただけ。ツヴァイをワタシだけのモノにしなければいけなかったし」 「……ふたりとも、わたしよりもひどい目に」 「似たようなもの、それどころかあなたの方が大変だったと思いますけれど……」 「そうでしょうか……? でも、そういうことなら……わたしも」 「わかった。それじゃあ今日から、アンタはドライだよ」 「ありがとうございます、ご主人様」  そうしてわたしは、けっこうあっさりドライという名前に変わりました。このときは悪聖女として流布してしまった名前を捨てるためでしたが、少しずつその名前が好きになっていくのはこれからのこと。  そうして前置きが終わって……いよいよ代償を払う時間。 「さっそくだけど、ドライ。服を脱いで」 「……わかりました。わたしはご主人様の所有物、ですもんね」 「そう受け取るならそれでもいい。どちらにせよアンタを守るためにはそうする必要があるし、ワタシは女の子の体が好きだから」  なんだかようやく、ご主人様の魔物らしいところを見た気がしますが……こんなところまで最後の助けを乞いに来て、いまさら人間らしく居続けたいなんてワガママは通りません。わたしは意を決して、身につけていた一応聖女らしい修道服を脱ぎはじめました。  どうすればいいかわからず、ひとまず脱いだものはそのまま床に落としましたが……外で、しかも視線の前で裸になるのがこんなに恥ずかしいだなんて。ご主人様はもちろん、椅子のままのアインと一度そこに座らされたツヴァイの目もとても気になってしまいます。 「もう人間には戻らないのだし、これがあると思い出してしまうよね。だから、こうするんだ」 「あ……」  裸のまま投げ出されたわたしをよそに、修道服はご主人様が手足の延長のように出して操る黒い何かに捕まれると、そのまま洞窟のこの部屋の入口付近まで投げ捨ててしまいました。  すると……ほどなく、スライムたちが寄ってきました。なんでも布などの繊維を好む種類だそうで、ああしてしまえば溶かして食べてしまうとのこと。……さようなら、聖女の、人間のわたし。 「それじゃ、ワタシに染めてしまうよ」 「はい、んっ……ひゃ、ふ……んぅ」  続けてその黒い何かが流体になって、わたしの足にまとわりつくと。そこからじわじわと這い上がりながら包んできて、わたしの素肌に密着して感触を与えながら外気の感覚を消していきます。  それが恥ずかしい大事なところや、お尻も包み込んだあたりで声を抑えきれなくなってきました。お尻の形や女の子の割れ目、それどころこお尻の孔までぴっちりと張りついてきてしまえばなおさら。  いろいろ形はあるようですが、ひとまず体の横に揃えて下ろしておくと手ごと包み始めました。手が太ももを直接触る感覚はありませんが、そうしているともう腕を離すことすらできません。気付けば脚ももう開かなくなっています。 「心地悪くはない?」 「ん、ぁっ……大丈夫、です。ぴちぴちして、ぜんぶ張りついて……たしかに、ちょっと気持ちいい、かも」 「あ、素質のある子だ! やった!」  くすぐったい感触が続きながら胸まで包まれて、そこまでの自身はない形や大きさはもちろん先っぽの突起までぜんぶ丸わかりにされてしまって。首の半ばまで同じもので包まれると、そこで一度止まりました。  それまで流体だったはずのものが、気付けば薄い膜になっていて……液体やぬめりがまとわりつくのではなく、肌を優しく擦ったり張りついたりしながら確かに梱包されてしまったようです。もうわたしは今、一本の棒のように立ち尽くすことしかできていません。  だけど……独特で初めて感じるようなものばかりで、違和感も凄まじいですけど、それがなんだか心地よくて。 「作り替える必要もあるし、一度全部包んじゃうから。もう人間なんかじゃない、魔物の餌で所有物だってじっくり自覚しな」 「わかりました……っ、ンぷ!?」  一度落ち着いて感覚を実感する時間を与えてくれてから、いよいよ頭まで包まれてしまいました。そんなことをしてくれるあたり、やっぱりご主人様はわたしたちがどう感じるかをとても大事にしているようです。  髪はないみたいに目立たなくさせることもできるそうですが、最初はわたしの長い髪も大まかにそのままの形で薄く包まれたようで背中に感触があります。目は何も見えなくなりましたが音は少しくぐもるだけで聞こえていて、口は開けませんが鼻呼吸はできるようです。見えてはいませんが、これがツヴァイと同じ格好なのだとしたらとても惨めで、それでいて個性は保たれた恥ずかしすぎる格好。 「んんっ、んぅ……」 「大丈夫そう。それじゃ、長くワタシの養分になれるよう調整するから……ここも一度開けるよ」 「わぁ……ドライ、すっごく綺麗! こんな仲間ができて、あたしも嬉しいなっ」 「んふ、ぁっ!? ……っ、んー……!」  わたしはそんなこと想像もできずじまいでしたが、こうした時点で恐怖に支配されて暴れ回るような子もいるそうです。そういう子は飼われることはなくそのまま搾り尽くされるようで、やはりご主人様は魔物なのだと実感するところでした。  聖女だったわたしにとっては許し難い蛮行のはずでしたが……どうしてでしょう、そんな気持ちももはや。魔物が人を狩ることを咎めもしないなんて、わたしは悪い子です。悪聖女なんてのも、陥れられたのとは別の意味で正しかったのかも。  それからわたしは全身を包んだ膜を用いて、ご主人様の飼育物として適するように作り替えられることとなります。何をするのかは詳しくは聞いていませんが、「搾り取れる栄養分となる淫らな情動を保つため、永遠に若いままにする」そう。  それが寿命まで若い体のままということか、それとも権力者が望む不老不死なのかはわかりませんが……わたしにとってはもはや、どちらでも。ご主人様のもとで玩具となり、今感じている気持ちよさに溺れるだけのものですから。  それから、その途中に……女の子の穴と、お尻の穴。その両方の中にいきなり、膜を構成していたはずの流体が流れ込んできました。それが穴の内側の壁に張り付くように広がっていくと、そこは中を覗けてしまうほどぽっかりと開いた穴になってしまいました。  恥ずかしくていくら締め付けても閉じてくれず、わたしは全身を一本の棒にされたまま恥ずかしいところに本当に穴を開けられた姿。ツヴァイもここまではされていなかったので、思わずうろたえてしまいます。 「大丈夫、すごく可愛いから。ここがソウイウ場所なんだって、教えるための人形みたいで」 「ぅっ、んん……!」 「あは、そんなに気に入った? じゃあ、普段からこのままにしてあげてもいいよ」 「んぅぅっ!?」  まるでそこに太い何かが挿入されたままのような感触で、特にお尻は落ち着きません。ですがそこからさらに奥に向けて流れ込み続けているようで、たぶん内側から体を作り替えられている最中。わたしが人間の食事などをせずに保管されていられるようにしていると思うと抵抗はできず……しかもいつの間にか足の裏が地面にくっついていて、倒れようとしても戻されてしまうようになっていました。  本当にわたしの体の操作権の全てを握られているんだと、そこで初めてわかりました。当然かもしれません。この膜を構成する、ご主人様たちはラバーと呼ぶらしい物質は、感覚を受け取ることもできるご主人様の体の一部のようなものだそうですから。  ずっとこんな開いた穴のままだなんて、恐ろしい宣告をされて嫌がるような呻き声を出してしまいましたが……そういうことですから、わたしの前の穴が今なぜかひどく濡らしていることなんて手に取るようにわかるのでしょう。  結局いつまで経っても穴は閉じてもらえず、必要なとき以外は本当に開きっぱなしにされてしまいました。 「わ、すっごくヒクヒクしてる……ほんとにそれが興奮するんだ……なんか、いいな」 「信じられないほど恥ずかしい格好で、しかも……」 「ふっ、ン……んぁっ!?」 「こんなふうに、ちょっと撫でられるだけでおかしくなるような弱点を丸出し。いい人形になってきたよ、ドライ」  わたしの興奮は外から見てもわかるようで、ひくつかせて穴のラバーを締め付けているところをツヴァイにも見られて。ご主人様にもそれを指摘されて、しかも穴の中を撫で回されて鳴かされてしまいました。満足気なご主人様の人形として無事にモノになれた一方で……わたしは単に指を入れただけの感覚よりも敏感になっていることに目を白黒されていました。薄膜越しに触られるとより敏感に感じるということ自体、初めて体感したところでしたから。  そうしして新しい悦びを覚えて、しばらくしてからようやくわたしがご主人様の実利を兼ねたモノであることを思い出して。慌てて身を捧げようとしたのを、「今ももらっている」と言われることで……わたしのこの興奮こそがご主人様の糧なのだと教え込まれて。  そのまま好き勝手されたことで立ったままイって、いよいよ頭の中がピンク色ばかりになってきたところで、招かれざる客の足音が響きました。 「……ふん、ドライ狙いかな。ま、適当にあしらうよ。だからほら、ワタシの腕の中にいなさい」 「ん、っ…………」  だけど、ご主人様もアインとツヴァイも、動じる様子もなくて。ご主人様はわたしの地面への固定を外しながら抱き寄せてくると、そのままアインに座り直しました。アインは心底幸せそうな呻き声を漏らして……ツヴァイはというと、操られたような不自然な動作で立ち上がってぴょんぴょん跳び、ご主人様に頭を向けながらお尻を突き出す形で突っ伏しました。  ご主人様に操作されたらしきツヴァイは、お尻に遠慮なく足を置かれてびくりと跳ねました、……これを見るにたぶん、アインほどでなくても似たような変態感覚は持っているのでしょうか。これまで使われていなかったのは、そうするとご主人様の抱くものがなくなるから。  わたしはそこにちょうど収まる形で、優しく抱き締められながら胴体を撫で回されはじめました。なんだか煽るような手つきがどうにも心地よくて、自然ともっとと甘えるように擦り寄ってしまいます。  それと、耳の穴にも流体のラバーが入ってきて埋めつくしました。内側を刺激するように愛撫される一方で、外の音は何も聞こえなくなって。くちゅくちゅ、というどこか甘ったるくもぞくぞくする音に支配されたわたしは、ツヴァイのいる方向へお尻を向けてご主人様に縋るばかりになるしかありませんでした。   ◆◇◆◇◆  結局あの後、どうなったのかをわたしは長らく知ることはありませんでした。それを教えてくれたのは、閉ざされた環境もあって時間感覚を失うほど長くご主人様に飼われた末に転機があってから。  血の匂いがしなかったので単純に手に掛けて終わりではなかったとは察していましたが……。 「そうそう、聞いたことはあったんだよね。真っ黒で間抜けな姿になった護衛が戻ってきて、二度と脱げなくなったままひたすら懺悔の言葉を繰り返していた、って話」 「んむっ、んぅぅ……」 「ん、ぁっ。んふふ……っ」 「あの国の今の聖女が言うにはその騒ぎで初めて王宮まで話が伝わって、以降は聖女への扱いが改められたって。それまで気付かなかった王宮も大概ってことであんまり表沙汰にされる話じゃなくて、私が関わった今のあの国は別物ってくらい綺麗になってたよ」  そう教えてくれたのは、絶対の硬さを持つはずのご主人様を根負けさせて自分の屋敷へ招いた人物。勇者と呼ばれていたという、レミアという少女でした。  レミアさまは自身もとんでもない変態でありつつ、性質的に変態になってしまうという魔物娘を保護している立場。ご主人様は魔物娘とは少し違うのだけど、レミアさまはその性質を見出して発情した魔物娘の相手を提案したのです。つまりこの方は、ご主人様がいかにえっちな存在であるかをわたしたち以外で初めて理解した存在でした。  ご主人様は当初はわたしたちだけで充分と断りましたが、レミアさま自身を含めて拒まれない限り好きなだけ食べ散らかしていいという条件と、ご主人様の力が必要だという言葉で口説き落とされてここに来ました。このうち前者は屋敷全体で当たり前のことだとわかったのは、実際に来て見てからのことですけれど。  最初はわたしたちを他に触らせなかったご主人様でしたが、今ではご主人様の所有物であることは前提でけっこう好きに遊ぶようになってきています。遊ばれるわたしたちを見るのも楽しいと気付いたとかで、わたしたちも魔物娘の力を活かした様々な遊び方をさせていただいています。  なので今、わたしはツヴァイと一緒にいつも通りのラバー人形のままレミアさまに愛撫されています。代わりにご主人様は妖精のアヴィさんを包んで弄り回していて、アインはベンチの上に張られるような形でご主人様とレミアさま両方の下敷きになっていました。考案者のレミアさまは“バキュームベッド”と呼んでいる、ご主人様の力を活用した新しいやり方です。 「でも、そんな酷い目に遭ってきた子達がこうして今を楽しめてるなら、月並みだけどよかったよね。私も立場さえなければこうなるのもいいなって思う質だから、ちょっとわかるかも」 「ひぅん! んっ、ぁ……きゅぅ、」 「レミアも勇者を厄介払いされた後、全部捨てて来てたら一緒にしてあげてたかもね。でもアンタは違ったし、こんなに多くの子達を幸せにしてる。ワタシも尊敬してるよ」 「……っ、んぅ! ふっ、んむ、〜〜〜!!」 「ぁっ、む、んふ……んきゅ、ぅぅっ!」  そんなレミアさまとご主人様がまったり話している一方で、わたしたちは手遊びのモノとして責め立てられていました。  アヴィは芋虫にされたままぐにぐにと指で弄られた末、アインのおまんこへ足先から挿入されて性具扱い。ぴくりとも動けないまま二つのお尻に踏まれて幸せそうなアインの膣圧に刺激されて、わたしたちよりもマゾなのではというほどラバーに塞がれた口で喘ぎ散らしています。  わたしとツヴァイは、抱き合った格好でまとめて包まれた二人でひとつの塊になっていました。柔らかい素肌や胸をくっつけられて、唇も重ねたまま離せずに貪り合って。舌を入れ合って求め合っていることも、きっとレミアさまは気付いていることでしょう。  胸は潰れるほど押し付け合っているだけですが、下半身はもっとひどくて。双頭ディルドという両側へ挿入できる玩具で繋がれて、締め付けるだけで相手に伝わる恥ずかしい状態です。そんなありさまでレミアさまの足の間に抱えられて、ラバーの尻穴をそれぞれの手でほじくり返されて絶頂を繰り返しています。 「この子達も、よく躾けられてる。よっぽどいい具合に気持ちよくしてあげてるんだね」 「素質があるだけだよ。ワタシはシたいようにシてるだけだし、それで精気が出てくるからね。自慢の飼育物さ」 「んっ、ふ、んく……」 「んぁ! ……ん、へ……ちぅ」  わたしたちは今日もまた、尊厳を奪われ辱められることに興奮しては玩具として弄ばれています。わたしたちにとってはそれはとても楽で幸せなことで、それだけでいいのかとも思ってしまいますが、そう不安がってはご主人様に口を塞がれたことは数え切れないほど。今ではこれでいいとわかっています。  だから今ももう一度、可愛い可愛いツヴァイと抱き合って舌を貪り合って、双頭ディルドを締め付け合って……どちらからともなくまた絶頂して、びくびくと無様に腰を跳ねさせるのです。

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いろいろなバキュームベッド、集めました

「また大規模なことになってるねぇ」 「そのくらいの方が納得感はあるけどね」 「さすがはボクたちが惚れたミスト・スランバーだねー」  ボクたちはこの日、二つあるバイト先のうち後から雇われた方に呼ばれてとある場所に来ていた。  所在地は都内の某展示場。特に絵画系のイベント展覧会がよく行われるところだ。あれこれやりたいからとガラスケースの展示エリアを必要としたいつぞやのSM博物館とは、期待感は似ていても場所は全くの別。  ここでは今日と明日の夜間、ミスト・スランバーによってある展示イベントが行われる。ボクたちは不定期テスターとして所属しているそっちに呼ばれて、貸し切っているフロアロビーではそろそろ受付準備が始まったくらいの頃合に展示エリアの入口にいた。  手にはカメラ、着ているのは飾りのないハイレグのエナメルレオタード。ボクたちは今回、ここで展示の案内ムービーを担当することになっていた。 「というわけで、今回はボクたちシロとクロが、この『バキュームベッド展示体験会』の紹介をしていきますっ」 「現在は配信形式となりますが、展示終了後はアーカイブを削除し編集した上で再投稿させていただきます。ご了承ください」  これはアダルトグッズ、特にボンデージグッズの大手メーカーであるミスト・スランバーが主催する、成人向けの展示会だ。過去の類似イベントは会員限定だったり、SM全般を取り扱うために外部のイベント会社の力を借りたりしていたけど、今回は一般開放もされていつつ自社での開催に漕ぎ着けた。  会員限定だったよりディープなイベントをきっかけにミスト・スランバーと巡り会ったボクたちに言わせれば、どれも一長一短だから使いようだと思う。今回はこうできた、くらいだ。  では何をメインにするのかというと、バキュームベッドだ。マニア向けの全身拘束具の一種で、主にラバー製の薄い膜の間に体を入れてから中の空気を吸い出すことで、膜の可動域と気圧によって身動きを封じる。  昨今はバリエーションも増えてきて知名度も少しずつ上がってきているのだけど……ちょっと問題もあった。それが適切でないプレイ方法などによる事故の発生、それに伴うイメージ低下だ。たまに布団圧縮袋なんかで似た行為が行われることもあるけど、それによって窒息事故が起こる度にどうしてもレッテルを貼られる。とはいえ事実危険ではあるから、やり方はしっかりしないといけないプレイなのだ。  それもあってか、今回は呼吸制御に類するプレイは一切行わない。それはそれでボクたちは楽しめるけど、あくまで外向けのプレビューを兼ねる以上は仕方ない。  加えて、ミスト・スランバー的には当然だけど安全な自社製品の販促も兼ねている。会員サイト以外のアダルト映像サービスにも配信や動画を残し、会員サイト内でも登録なしで見られるように設定するのはこのあたりが関連しているらしい。 「というわけで、さっそく見ていきましょう」 「まずは……普通の、一番よく見るタイプのバキュームベッドですね! 四角いフレームを覆うように二枚のラバーシートが張られているやつ」  これは展示会だから順路にそってじっくり見られるように設置されている。たとえばこの最初のエリアは、通路右側はバキュームベッドが壁に掛けられていて額縁のようになっている。  もちろんこれら全てに人が入っていて、呼吸音や呻き声を出したり、ぎちぎちと音を立てながら楽しんでいる。バキュームベッドごと壁に吊るされるなんて簡単にはできないから、多少慣れている子でも飽きずに楽しめるはずだ。 「こんなふうに隙間に入れられて空気を抜かれるだけで、本当に動けなくなってしまいます。どのくらい動けないのか、ちょっと試してみましょう」 「展示物には撮影やお触りの可否が添えられてるので、しっかり確認してその通りに扱ってくださいねー。……あ、この子触れるよ」  通路の反対側へ振り向くと、こちらは寝かされた状態で設置されているバキュームベッドたちが並んでいる。床に柔らかいマットレスが敷かれた上に置かれているから、背中側も痛くはならないだろう。  そして壁掛け側もそうだけど、ひとつひとつにマークと注意書きが並んだ看板が用意されている。そのうち「呼吸経路を塞がないでください」や「硬いものや鋭いものを当てたり引っ掻いたりしないでください」という当たり前のものは全てに共通して書かれている。  違うのはそれら以外だ。「触らないでください」とあるものが半数以上ではあるけど、「係員の指示のもと優しくお触りください」に置き換わっているものがあったりする。ボクたちはそれを見つけて、この通路一体を見ていた係員を呼びながら展示物の脇に陣取った。展示品ナンバーは……3番ちゃんだ。 「ちょっと触ってみると……」 「んぅーっ!? ふっ、んぅ」 「こんな感じで。おそらくしっかり悶えているところですが、ほぼ全く身動きが取れないのがわかるでしょうか?」  ラバーでつるりとした細いお腹を掌で撫でてあげると、驚いたような反応をしながら逃れようともがく3番ちゃん。しかし枠を少し持ち上げたり体がわずかに浮いたりするくらいで、可動域は前後にちょっとだけ。左右への動作や姿勢の変更は一切できていない。  完全に密着して自然な状態より猶予のなくなったラバーシートを、気圧の影響で完全に連動した外枠が固定しているのだ。密着した部位とシートその部分から離れなくなるからもちろんシート自体にも拘束力はあるけど、このタイプのバキュームベッドを完全拘束たらしめているのは枠のほう。  こうなっていると中にいる人はシートのわずかな可動域以外では、硬い枠ごと動くことしかてきなくなる。しかし関節まで開かないように固定されている状態で、体をすっぽり覆う枠ごと動くことなんてほとんどできない。 「このように、体の大部分がシート越しとはいえ開かれた姿勢で固定され、より恥ずかしい姿勢や見せつけるような形で拘束できてしまうのがバキュームベッドの魅力のひとつです」 「膜越しにしかならない点は難点でもありますけど、ぴっちり張り付いていることで 肌はとても敏感になるんです。こんなふうに」 「んふぅっ!?」  せっかく触ったから、この子にはもう少しだけ見本になってもらおう。ある程度持ち場は選べるようになっていると聞いたから、お触り可の中で一番手前にいる以上は覚悟もしているはずだし。  上下に震えている赤いラバー越しの体をじっくり撫でてあげると、面白いほど反応して跳ねた。頭まで覆われて目隠し耳栓状態なのも、完全拘束で動けない分さらに敏感なのもあるだろうけど、それにしてもただ性感帯でもない場所を撫でただけとは思えない反応だ。  ラバーシートを持ち上げるほど乳首が勃起しているのも、横から映してあげるとわかりやすい。その突起を指先で弄ってあげれば、余計に反応してすっかり喘いでいる。  ちなみに……お触り可の看板がある子は、もうひとつアイコンが用意されている。ローターや電マの絵に、玩具使用不可の子は斜線が引かれているんだけど……この子の注意書きにはそれがない。 「このアイコンをご確認の上であれば、玩具の貸し出しも行っております。欲しがっている悪い子には、ちょっとしたご褒美をあげてもいいかもしれませんね」 「消耗していたら係員が止めますから、ご遠慮なく……ふふ、欲しい? じゃああげるねー」 「んっ…………ぅ、ん~~~~~~ッ!!」  呼ぶまでもなく用意してくれていたローターのスイッチを入れて、弱振動で下腹部に当ててやる。すぐに理解して身構えるような仕草をしたから、お望み通りそれをお股に当ててあげた。だいたいのクリトリスの位置を探り当てて、その上から優しく。……普段よりしっかり刺激が強いから、少しずつやってあげた方がいい。  すると3番ちゃんは少しの間必死に悶えてから派手に腰を跳ね上がらせた。絶頂してしまったようだから、ローターを離して代わりに撫でる。……このあたりは普通と同じだ。バキュームベッドという道具を使っているだけで、あくまで人間同士の拘束プレイなのだから当然だ。今回は展示品になっている特殊な状況で、中にはより深いプレイの中にいる子もいるとはいえ。  びくびくと跳ねながら少しずつ落ち着いて快楽の余韻に浸る様は、それがえっちな行為だと突きつけるよう。展示物は肌が見えないプレイだけど、このエロティックはきっと伝わることだろう。  係員はローターを受け取ると……3番の注意書きの一部を捲って「お触り不可」に切り替えた。代わりに6番を「お触り可・玩具不可」に変えて、元の場所に戻っていく。……負担を分散し休憩時間を作って、少しでも楽に気持ちよくするための仕組みだ。  実は今回、展示物の大半が外部の希望者なのだ。展示物側も楽しませてこその展示会ということだった。  さて。触り方は紹介したけど、展示方法のほうがまだだった。 「このように、展示物たちは様々な様子で設置されています。一口にバキュームベッドといっても、この意外なほどの自由度の高さも魅力のひとつです」 「いくつか見てみましょう! たとえばこの1番は、黒ラバーでがに股にされて寝かされています。頭まで覆われて呼吸はチューブ越し、特によく見るパターンかもしれませんね」 「2番は緑色で、脚を伸ばした上で口元はそのままただの穴になっています。1番よりは緩そうに見えますが、これでもかなり厳重なのがこの器具の魅力です。それに、地に足は着いていません」 「こっちは3番、目を引くM字開脚ですね! こんな姿勢でもしっかり固定できて、絶妙な無様さも演出できたりするんです」  このあたりはオーソドックスなバキュームベッドを素直に使ったものしかないけれど、それでも全く同じものがないほどバリエーション豊かだった。もちろん寝かされているか掛けられているかもあるけど、それ以外にも。  たとえば色。光沢のある黒はもちろん、赤や青、緑や黄色、果ては白なんてものまで。好きな色を選ぶことができるし、色や明るさ、光沢の有無などでけっこう雰囲気や見え方は変わってくる。  頭の処理もいくつか種類が用意されている。大きく分けると外に出ているか包まれているかの二つで、前者なら頭を出す穴が辺にあるか面にあるか。後者なら呼吸孔が直に空いていたり、チューブ越しになって極限まで外と隔絶されていたりする。特に壁掛けのチューブからは、時々涎が垂れてしまうことも。 「吊るしても問題のない金具が必要で普段はハードルが高いですが、やはり壁掛けのほうが無様感が出るかもしれませんね。……こちらの4番は、絵画用の額縁の中に嵌め込まれています」 「額縁と画題のアクセサリーは特に強いかも。全体的にそういう需要の器具ではありますけど、すっかりモノになっちゃいたい人にはオススメの装飾です」  次の通路へ。ここはより美術品的なニュアンスの強い展示になっている。大半が左右ともに壁掛けで、その多くが額縁つきだ。画題には……「メイド」や「競泳水着」など、中には「魔法少女」のように特定のキャラクターを示唆するものも。  違いは一目でわかるだろう。 「こちらは透明ラバーエリアですね。衣装やコスプレをしながら封入されて、より作品らしくなっているものもあります」 「中身が見えてしまう透明度の高いものもあるので、こんな形で使ったりもできるんです」  わざわざこちらを選んで、しかもおめかしまでして入っているわけだから、当然見られたい人が多い区画だ。ひとつずつじっくり、カメラも近づけながら鑑賞してしまおう。  とはいえ意匠や雰囲気は様々だ。まっすぐの姿勢で文化展示のような趣の制服、平泳ぎの途中を切り取ったような水着、惨めに潰れた姿勢で敗北を現したような変身ヒロインのコスプレ、といったように。  中には着ぐるみ娘も。出した頭に被って、中身は肌タイの上から衣装だったりと、本当にいろいろある。  それこそ、中には裸で透明ラバーに囚われる勇気のある子もいた。一応スルーもしやすい角付近に配置されているのは、さすがに忖度が働いたのかな。二人ほどいるけど、片方は頭だけ全頭マスクだから余計に背徳感があった。 「それ以外の部分は手前と同じですが、こちらも色がいくつかありますね。うっすら青かったり、飴色だったり……無色透明だったり」 「透明だからといって拘束力が弱まったりはしませんので、ご心配なく」  それ以外の違いがあるとすれば、ちゃんとした衣装の子はお触り禁止が多い。裸のうち片方は躊躇なく身を差し出しているし、むしろ汚してこそ完成するとでも言いたげに開いた股を晒す魔法少女レオタードの子もいるけど。  あとは、一部がつけている幅広で平べったいゴーグル。これがあると、頭までバキュームベッドの中でも外が見えるようになる。 「そして次ですが、このコーナーは全員がお触り可のようですね」 「より遊べるよう、いやらしい形で飾られた子達です。これだけお尻を突き出してくれれば、遊べちゃいますよね」 「んぁうっ!?」  さっきの裸に透明の二人は、あれでも一応美術品のほうに扱われていたらしい。次の区画はより卑猥になっていて、近道の形でスルーできる経路も用意されている。  とはいえ、どれも露骨なエロではあるけど見応えはあった。うつ伏せタイプのものに入って寝かされ、黒ラバーのお尻を惜しげもなく突き出してみせる25番は、ご丁寧に「スパンキング可」のアイコンまであった。叩いてみると、嬉しそうなマゾの声。 「先ほどは膜越しが前提といいましたが、こちらは穴も使えてしまうようです。展示会全体の注意事項にもありますが、爪を短くした手でお触りください」 「んっ、ン、っふ、ぅ……ぁ、!」  クロが見つけた19番は、壁際ではなく少し離れたところ、裏側にも人が通れる位置に吊るされたがに股の子。股間部分に薄く小さな袋がついていて、その袋を穴の中に挿入することでラバー穴を使えると。……「性交不可」なんてアイコン、他のものには当然ない。  あんまり物欲しそうだったから前後から指で触ってあげてから、次の20番を見つける。……まだまだ展示物はあるはずなんだけど、本当に多いね。そっちも希望者だから少額とはいえ体験料を取れているとはいえ、よくこれだけの数を用意したものだ。 「なるほど……さっきの14番と15番が向こうだったの、こういうこと」 「皆さん、たくさん触ってあげてくださいね」  中には穴も使えるどころか、特殊な形状でラバーシートにダメージを与えないクスコで穴を拡げて、奥まで密着させている変態さんまで。黒ラバーで中身がバレない展示物まで貶められると、ここまで振り切ってしまう子までいるようだった。  ここまではフレーム枠に囲まれた平面のバキュームベッドを見てきた。それが基本とはいえ、実は他にも種類がある。 「ところで、バキュームベッドには新型が普及しつつあることをご存知でしょうか」 「エアマットタイプですね! より空気が抜けにくく、体の負担も少なくなっています」  既存のもののシェアを全て奪うほどではないにせよ、これは初めて見た時には素直になるほどと思った。  枠がない代わりに、エアマットに張り付けて拘束するタイプだ。エアマットの外側に人が入れる層があって、そこに入った状態で空気を抜く。するとエアマット部分が平たいままになって、フレームに近い役割を果たすのだ。 「収納も楽で、入っている間も背中が柔らかくて、拘束力は似たようなもの……普段使いならこれまでのものよりお勧めかも」 「特別に乗ってみていいそうなので、マットとして使ってみましょう。体格や相手のわからない恐怖感などもあるのでこの場ではお控えいただくことになりますが、もちろんご購入しての使用の際はこのようなことも……柔らかい」 「ぅぐ、っ……」  この21番の子には事前に話を通してあるそうで、中身ごとマット扱いする行為をクロが試しにやってみせることに。人型の上にうつ伏せになると、21番が少し苦しそうに呻いて……すりすりと触ってみせながら、クロがぽろっと零すように一言。たぶんエアマット部分に対して言ったんだろうけど、女の子の体に言ったようにも聞こえるよ、それ。 「ここまでのバキュームベッドは平面、いわば二次元でしたが……」 「これは一次元。バキュームチューブっていいます。……これ、ボクたちもやったことないよね。動画になるからって頼めばやらせてもらえるのかな」  だんだん私欲が出てきたけど、許してほしい。ボクたちは純然たるリバ、つまり半分はマゾだ。これだけいろいろ見せられたら、される側のことも当然想像してしまう。  もちろんサドではなくリバを紹介役にしている理由はあるんだけど、関わったことのないものは当然気になるもので。  バキュームチューブ、名前の通りチューブ状になっている。つまり枠がなくなって筒の形で包み込んでいるわけだ。  姿勢はほぼ固定されるけど、比較的手軽かもしれない。そんなバキュームチューブだけど、大きく分けて二種類あった。 「こういうの、確か前に上がってたスウツでもあったよね」 「ヘビがそうでしたね。ボディサックのような形で体を収めるだけのもので、今回の展示品の中では比較的動ける方です」 「首から爪先までで、入れて空気を抜くだけ。でも肩も股も全く開かないから、転がることしかできない」  ひとつがこの形、どこかに繋がったりしていないもの。首までと頭の上までの二パターンあるけど、爪先のあたりに吸引口が繋がっているのは同じだ。  これは拘束具としては厳重だけど、バキュームベッドの中では可動域が広い。腰や脚を曲げることはできるから、それこそヘビのように這うことくらいはできる。そのせいか、ひとつずつ仕切りの中に閉じ込められていた。  その時のものだろうか、しれっとヘビスウツが混ざっていた。これ、案外人気なんだとか。 「こっちは……なんかコレクション感増すねー」 「実験施設や保管所に並べられているような。数あるうちのひとつとして並びたい方にはお勧めです」  もうひとつがこれ。上下がどちらも機材に繋がっていて、本当にチューブの形から圧縮されている。こちらは立てられているものもあって、研究施設の備品じみたモノ感があった。展示物どころかただの保管物といった趣で、体のラインを晒されながら整列している。加えてこちらの場合、腕を上げたものが混ざっている。  このイベントは一般客も短時間の体験ができることになっているんだけど、そのためなのかまだ入っていないものも並んでいる。バキュームベッドの区画も余りのエリアがかなりあったけど……ねえ、このイベント定員とか大丈夫? 「このように、チューブにも色のバリエーションはあります。形状の都合上、他の部分はパターンが少なめですが……」 「代わりに上下の部分のデザインだったり、柄だったり。ご購入の場合はオーダーメイドがあるので、ぜひご検討を。……あちこち触りやすいのは利点だね、これ」 「ふぅっ……!?」  バキュームベッドはどうしても側面のあたりがシートに阻まれて触りづらいけど、チューブはぐるりと360度触り放題だ。撫でやすいし、くすぐることも。そのせいか、ここのお触り可能品はくすぐりの可否もオプションづけされている。  オールオーケーの子がいたから試しに抱き締めて撫で回してみた。お尻を揉んであげたら気持ちよさそうな反応……これ以上は止まらなくなりそうだから次。 「一次元と二次元があるってことは……」 「三次元もございます。バキュームキューブ、などと呼ばれたりしますね」  フレームが立方体、または直方体になった立体的なものだ。体を開いて見せることは難しくなった代わりに、奥行きと安定性を得ている。  これはミスト・スランバーでは見たことがないかもしれない。というのも、これは意外と応用性が高くなくて。姿勢の自由度も上がると思いきや、余ったシートがまっすぐになろうとする力でどうしても限られるらしい。 「ただ、普通に立った状態で入ることもできます。比較的初心者向けかもしれません」 「ん、っ。はい、私、こういうの初めてなんですけど……無理なくできて、気持ちいいです」  そのせいか、形によっては展示物としての恥ずかしさが控えめだからか……喋って使用感を教えてくれる展示物も。簡単な全頭マスクだけ着けた30番ちゃんは、その一般客に近い感覚や展示の緩さを活かしてこうしてお話や記念撮影を担当してくれるのだとか。……いや、基本的に多くの展示物で撮影は可になっているけど。  これはチューブと打って変わって、ほぼベッド同様のバリエーションがある。さすがに穴がずれてしまうのか、口元が開いて頭まで入れるものだけないけれど。  頭出しの有無、色と柄と透明度……あとはこれ独自なのは、サイズかな。膝立ちなどで入る立方体と、立って入れる縦長の直方体があった。今の子は特に楽な直方体だ。 「ただ、そんなキューブにも上級者はいて……これ、凄いですね」 「できる姿勢の中なら、恥ずかしいのもできるってことだね」 「ふーっ、ふー……ンっ」  33番はなかなか凄まじい格好だった。本来呼吸チューブは手前の面にあるんだけど、前後を逆にして……まんぐり返しの姿勢で収まっている。お触り可の看板の横でこれでもかと突き出している股を遠慮なく撫でてやると、さすがというべきか嬉しそうに反応していた。  ……ただ、これにはちょっとだけカラクリがある。それはこの33番がいる、次の通路との角の配置にも関係していた。  次が最後の展示エリアだ。ここにはこれまでに含まれない、ちょっと特殊なものが集まっている。ミスト・スランバーもオーダーメイド限定販売としている、いわば創作バキュームベッドだ。 「あー、ここまで来るとウズウズしてくるね」 「はい。私たちもそろそろ、我慢できなくなってきた頃合です。……次はこちら」 「完全にオブジェ扱いで、外からの責めは度外視。ただ置かれていたい子や、SMバーのような場所やパーティ向けかも?」  試しに作ってみたという、テント型のものだ。正方形の枠が敷かれているところまではベッドと同じなんだけど、ラバーシートが四角錐状になっている。中央に座って、頭を出して吸い付かれる格好だ。  設置すれば動けなくて無様だけど、股は下面になるから弄ってはあげられない。より人間に近い姿勢で飾ることに特化している。 「このへんは箱詰めとの複合? 面白そうだけど……」 「開閉には負担がかかるので、五分に一度のみとさせてくださいませ」  なんとなくボクとクロで分担ができてきたね。普段からサド役で表に出るボクはフランクに感想を、マゾ役を見せるのに慣れているクロは説明と注意を。……じゃなくて。  二つ横に並んでいる。箱の中に丸まって入って、その中でバキュームされているものがひとつ。バキュームがなくても全く動けない中に押し込まれていて、外側はガラス箱になっているからどの角度からでも見放題。そして箱に拘束を一任しているからか、バキュームそのものは袋状だった。呼吸はホースが出ている。  もうひとつは、トランクケースの形で観音開きになっていた。その中でバキュームベッドになっていて、肘と膝を直角にした姿勢で囚われている。このトランクケースが中身ごと開け閉めできて、閉じると手どうし、肘どうし膝どうしと体の前で合わせられる姿勢になると。実現のためにラバーがかなり柔らかくなっていて、しかもすぐに空気が入ってしまうから実用性は微妙だとか。  さて、最後のふたつだ。どちらも試作品にしてはなかなかいい出来と聞いていたけど……なるほど、確かに。 「ヒトイヌとの複合のようです。拘束の部分をバキュームベッドで行いつつラバースーツのようにして、無個性で真っ黒なワンちゃんが出来上がっています」 「空気弁がお尻にあるのもなんだかいいですね、かわいい。尻尾みたい」 「撫でていいそうなので、ぜひ可愛がってあげてください」  言ったままだけど、言うなればバキュームパピーだろうか。ヒトイヌ型ラバースーツによく似た姿だけど、拘束方法にバキュームを採用してみたと。吸引ホースがお尻から機材まで繋がっているのが滑稽で、それとは別に首輪に繋がる紐が金具に留められている。  そもそもドギースーツとの差別化が難しいとのことだけど、ボクは好きだ。本当に可愛いけど……きっとこれから沢山の来場者に撫でてもらえるだろうから、お預けして最後。 「こちらは人間家具の発想ですね。椅子にバキュームベッドを仕込んで、人を座った形で入れています。展示物としては着席はお断りさせていただきますが、許可を受けておりますので見本として」 「……っ、ぅぐ、っふ……!」 「なんというか……背徳感と、嗜虐感がぐっと満たされる感じ。やってることはほとんど、ただ膝に座ってるだけなのに」  うちのパブでも人間家具はやったことがある。ボクたちは木馬になっていたから関わっていないけど、ほかの子がやっていた埋め込み型の椅子と同じ発想だった。  座ってみると……背中から呻き声が聞こえるのが、すごく背徳感を煽ってくる。クロじゃないけど、柔らかいし……。今回はこれだけだけど、オーダーメイドでは余った部分をエアマットのような形で柔らかくすることもできるとか。……いるのかな、これ買う人。  現時点で存在する展示はこれで全て見終えた。だけど、これだけではない。  ボクたちは犬と椅子の間を通り抜けてその奥の部屋へ。表面にラバーシートが緩く張られて、下側にひとつキャスターがついた観音開きの扉が、外されたまま二つ寝かされていた。 「お疲れ様。全部紹介できた?」 「はい。38個、確かに」 「じゃあ……覚悟はできてる?」 「もちろんっ。むしろ、待ちきれなくて!」  そうして、体験コーナーとなる展示会の残り半分の区画で待っていたオリさんのもとへ。同い年とのことで、意気投合もしているから気安いものだ。  だけど……まだ最後の仕上げが残っている。ボクたちはその場で、着ていたエナメルレオタードを脱いで裸になった。 「じゃあ、39番。入って」 「はい」  クロが先に鼓膜保護の耳栓をつけて、体験コーナー入口に寝かされていた扉の片方へ。ついていたラバーシートの内側に潜り込んで手足を伸ばした。  するとその隙間を閉じられてから、吸引器の音がしばらく響く。それが納まった頃には、バキュームベッドでできた扉にはグラマラスでいやらしい体をした女が浮き出ていた。  そう、本当の最後の展示物はこれだ。体験コーナーへ入る時に開く仕切りのドア。体験せずに帰る場合は横の通路から出口に向かうことになるし、これこそが展示物とお客様を分ける境界線となる。  そしてそのドア、39番と40番はボクたちだった。ここまで一緒に見てきた、弄る側にも回っていたボクたちがこれ以上なく無様な扉に貶められることで、人間とバキュームベッドの境界線をかき混ぜつつ分ける。ここから先では、これらと同じように非日常を楽しめるのだと、知らしめることができる。 「40番も。展示品として、扉としてたっぷり楽しむんだよ」 「はいっ。よろしくお願いします……では皆さん、バキュームベッド展示体験会を、楽しんでいってくださいね!」  相方が物言わぬ扉に成り果てるまで持って向けていたカメラをスタッフへ預けて、最後の挨拶をしてからもう片方の扉へ。コードネームに合わせられたのか、ボクが入る方は白ラバーだ。  ボクはクロと違って小さいから、それを活かしつつインパクトで負けないように。内側はマウスピースになっている呼吸チューブに口を合わせて、肘と膝を90度に曲げた無様ながに股になった。ボクとクロはもともと対照的なのが売りだから、こうして何もかも真逆にするのがきっといい。  耳栓をつけているからもうよく聞こえないけど、準備完了を示すために手の甲で軽く扉を二度叩いてから目を閉じる。するとスタッフが入口を閉じてくれて、ほどなく空気が抜けていく風が裸体を撫でた。そのままラバーシートが張り付いてきて……自分がいかに惨めな姿勢をしているか実感させる感触とともに、ボクもぴくりとも動けなくなった。背中側に硬い扉があるから、普通のバキュームベッドよりも動けない。  ずっと見てきて、ずっと欲しかった被虐に浸ることができる。ボクたちはリバだけどけっこう節操がないから、ひたすら様々な展示物たちを見て回りながらサド側に回り続けるのは少しだけ大変でもどかしかった。だけどそうしてマゾ欲を溜めきったから、今から閉場時間まで扉として貶められ続けることを楽しめる。  落ち着いているのを確認する程度の時間が経ってから、扉ごと縦にされた。それから蝶番を付け直されて、閉じた位置に合わせられる。人一人が封入された扉なんて本来なら蝶番では支え切れるか怪しいけど、そのためにキャスターまでついている本気度だ。  左隣にクロの気配がわかった。ボクたちは今、無様なバキュームベッド扉にされて晒されている。そんな39番と40番の近くにお触り可の看板が置かれて、正面から映した絵を最後に配信が終わった。  だから、ちょうど向こうでは展示会が始まった頃だ。予定時刻通りとはいえパブリックビューイングまでしながら待たせていたのは、そこまで含めた展示会というひとつの作品が完成する様を見せるためだ。  ここは一番奥だから、お客様が来るまではもう少しかかるけど……そのときはきっと、ボクたちには一切予測できないままに胸やお腹、股を遠慮なく触りながら扉を開けてくれることだろう。それが楽しみで仕方なかった。

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ヒトペットになれたら

「では、最終確認です。音葉さんは本日をもって、ヒトペット制度の対象者となるということですね」 「は、はい」 「本制度の対象者となった場合、一部の人権を契約者へ譲渡することとなります。当然、これまでのような生活は不可能になりますが、よろしいですね?」 「……はいっ」 「では、こちらにサインを」  わたしは今、大切なパートナーに立ち会ってもらいながら人生最大の選択をしていた。ヒトペット、つまり人間でありながらそうあることを捨てて、ペットになるための手続きだ。  わたしはパートナー、これからは飼い主になる幼馴染の真夜と一緒に、そのために役所に来ている。 「はい、確かに。では本日この瞬間から、ヒトペット制度を適用致しますね」 「っ……! ありがとう、ございます」 「手続きと一年間の猶予を経れば解除することは可能ですが、いくつかの弊害が残ることはご了承ください」  この国にはヒトペット制度と呼ばれるものがある。これが制定された経緯には国民の充足度とか、性犯罪の件数とか、本当にいろいろあったみたいだけど、実際のところは単純だったと思う。  最近の調査によると、現代の文化発展も相まって、こと先進国では人口の実に一割がマゾヒズムを有しているという。このうちのさらに何割かは、人間として普通に生きるよりも他者のペットとして飼われてしまうほうが幸せになれるとも。これを受けて施行されたのがヒトペット制度だ。  ヒトペット制度の対象者は人権の一部を停止……正確には必ず登録されるパートナーへ預けて、その分だけあらゆる面で人間としての扱いが受けられなくなる。そのほとんどはパートナーである飼い主に向けられるもので、基本的にヒトペットは飼い主に対して拒否権を持たない。  ただしその代わり、ヒトペットはさまざまな面で守られる。飼い主の行い次第では助けを求めることもできるし、愛玩動物と人間の間を取ったような形で人権ではない権利が保護される。  それ以外にも、人間には許されないことが許されることもある。たとえば、人間なら公然わいせつになってしまうこと。ヒトペットは人間ではないから、公共の場で裸や卑猥な格好を晒すことができるのだ。  いろいろと決まりはあるけれど、基本的にはこれはヒトペットを貶める制度ではない。マゾヒズムの生き方を補助しつつ、同等程度の割合で存在するとされるサディズムを抱えた人々との生活を保証するものなのだ。  施行当初は人権剥奪と勘違いされたそうだけど、実態は真逆。一段下の権利を保証することで安心してヒト未満になることができるシステムだった。拒否権はないと言いつつ、飼い主側も強制する権利はない飾りのようなルールだ。お互いにルールだからと隠れ蓑にするための。 「おめでとう、音葉。これでやっとヒトペットになれたね」 「ん……ありがとう、真夜」 「違うでしょ? 私は、ご主人様」 「あぅ……ご、ご主人、さま」 「よろしい。……可愛いよ、オト」  手続き書類の写しと登録証を受け取って窓口を離れたら、ずっと隣にいた真夜……ご主人様が呼び方を変えてきた。わたしがずっとヒトペットになりたかったのを知っているから、一緒になって喜んでくれている。  ヒトペット制度は曲がりなりにも性に関するものだから、実際の登録には両者が成人している必要がある。その前から志望していること自体は勝手だし、昔はともかく今ではそれを咎められたり嘲られたりすることもないけど。 「それで……私は、さっそくだけどヒトペットらしくなって欲しいなあ?」 「ぅ…………わ、わかりました……っ」  それからすぐ近くには他の人がいない、空いているベンチに移動してから、ご主人様はそんなことを言い出した。わたしは当然恥ずかしいんだけど、それを拒むことはできない。そういうルールだから。  まずは登録証を身につける。これはヒトペットであることの証明で、役所で照合して確かにヒトペットであると確認するためだけの数字が刻まれている。デフォルトだと金具で繋ぐことができるだけのものだけど、認可を受けたお店でならプレートを新調することもできる。わたしはひとまず事前に用意してきた首輪にそれをつけて、ご主人様に嵌めてもらった。  それからわたしはその場で服に手を掛けて、そのまま脱ぎ始めた。……公共の場で全裸どころか下着丸出しにすることも人間には許されていないけれど、ヒトペットならむしろ裸で当たり前だ。 「…………っ、ぅ」 「よくできました。これが今後の“いつもの格好”なんだから、慣れること」 「は、はい……」 「うん。隠したりしなくて偉いよ」  実際、街中では裸で飼い主と一緒にいるヒトペットをよく見かける。みんな恥ずかしそうにしているけど嫌がってはいなくて、そして全員が必ず恥ずかしいところを隠していなかった。……これは制度にルールとしてあるわけではなく、実のところ暗黙の了解として浸透している非公式のルールだ。  それを知っていたから、わたしも脱ぎ終えたら両腕を下ろした。まっすぐ気をつけをするのが、前も後ろも見えるから望ましい姿勢ということになっている。ヒトペットは飼い主だけでなく、他の人間の皆様にもたくさん見てもらうのが幸せなのだ。  …………視線を感じる。せいぜい中の下くらいだけど形と柔らかさには自信のある胸にも、ヒトペットの身だしなみとして綺麗に脱毛した股にも、昔から真夜に揉まれるのが好きだったお尻にも。経験がないくらい、信じられないくらい恥ずかしくて……興奮してしまう。 「じゃあ、帰ろっか。帰りに駅前でオトの大好きな拘束具も買ってあげるから、それまではいい子にしてるんだよ?」 「は、はいっ!」  本音をいえば、すごくゾクゾクしていて、お腹の奥が熱くて、気を抜けば触られてもいないのにイってしまいそうだ。だけど今はご主人様に従う。興奮はしてもイきそうなのは我慢して、拘束もリードもなくても隠さずにご主人様について行って、たくさん恥ずかしいところを見せて回る。  市役所の出口に向けて歩き出したら、肌色が動いて目立ったのか余計に視線が増えた。だけどそれはヒトペットだから、視線はみんな微笑ましげで少しいやらしいだけだ。……これがずっと続くと思うと、なんだか爆発してしまいそうだった。 「…………ぁ」 「ふふ。お外だね。お日様にはだかんぼを見せつけるの、どんな気分なのかな」 「っ、は、ふ……あぁ、っ……!」 「わ。……そんなに?」  それから、建物の外に。……ぜんぜん違った。たくさん人がいる前に丸出しにはもうしていたはずなのに、屋外は全くの別物だ。開放感も、恥ずかしさも。  春先にしては暖かい日だったから、外で裸でもちょうどいい気温なんだけど……全身に感じるそよ風と日光は格別だった。背徳的すぎて、人間として本当にダメな、終わっちゃったことをしている気分になって。反射的に隠してしまいそうになった手は、ご主人様の肩にしがみついて無理やり隠せないようにするのがやっとだった。 「ごめん、なさいっ……気をつけ、できない……っ」 「わかった。じゃあこのままくっついてていいよ。……拘束してぜったい隠せなくなっちゃったら、どうなっちゃうんだろうね?」  幸い、ご主人様は許してくれた。ご主人様の腕を抱きしめて、言うことを聞かなくなりそうな腕をそれだけにして誤魔化して、そのまま歩き出す。  だけど、そんなわたしの行き先はヒトペット用具店。わたしは今、自分を追い込みに行くために歩いている。 「ほら、見て。仲間がいっぱい」 「わあ……あの子たち、すごいんだって、今ならわかる……」 「なりたてのペットは不完全で当然だってみんな言ってたから、大丈夫だよ」  市役所の隣は広場になっていて、そこは人々の憩いの場になっている。子供たちもご老人もいるけど、今のわたしたちにはそこにいるヒトペットたちが特に目立って見えた。  だけど今のわたしには、それの真似はまだできそうにない。裸で恥を晒すのが当たり前といった様子で矯正もされずに見せつけて、尊厳を投げ捨てた遊び方で恥ずかしそうにしながら興奮しているのだ。しっかり手を洗った子たちに全身を撫でられている子や、横にベンチがあるのに息を荒くしながら四つん這いになって飼い主を乗せている子や……中には相当慣れているのか、フリスビー感覚で投げられたディルドを自ら穴で咥えて戻ってくる子まで。  それが性教育の一環であり、恥じらいの感情を自覚させつつ思いやりなどの精神的成熟を促す作用があることを、そう育ったわたしたちはよく知っている。だけど、自分もそうなると思うと少し別だった。……今だって、不慣れな姿が目立って微笑ましげに視線を集めているだけで、顔から火が出てしまいそうなのだ。 「そろそろ行くよ、オト」 「はいっ」 「ごめんね、この子はペットになったばっかりだから。また今度会ったら遊んであげてね」  寄ってきた子たちにご主人様が断りを入れながら、今はまだ腕を抱き締めさせてくれる。裸で外にいるだけでぐちゃぐちゃになってしまいそうなわたしを、優しく育ててくれているのだ。  そのまま引き下がってくれた子たちの視線を感じながら、丸出しのお尻を振って広場を後にする。今のわたしにはそれだけでも充分なくらいだった。 「着いたね。道中、どうだった?」 「すごく新鮮で……わかってはいても、心細くて……どきどき、してます」 「楽しそうで嬉しい」  広場と大差はなかったけど、道中も無視できないような新鮮な体験だった。通行人には当たり前のものを見る目で見られるだけだけど、それがまた自分がもう人間じゃないのだと自覚させられてぞくぞくする。車がすれ違う風が体を撫でたり、街中で写真を撮る人たちの背景に映り込みそうになったり。  改めてペットの身分になってみると、街中にあるペットのためのサービスを提供している店への見る目が変わるものだ。どれもただマゾ心的に気になる、くらいだったものが、細かくここは惹かれるとか意外と怖さが勝るとか、心なしか違いを感じるようになってきている。 「ほら、入るよ」  ここもそうだ。何の変哲もない、人間の遊びとしてのボンデージやSMも並行して扱うヒトペット用品店だけど、ショーウィンドウだけでペット目線で作られた理解の深い造りだとわかる。  ご主人様に連れられてそのまま入ると、そこには数人の客と二人の店員がいた。ただ、当然ながら客は全て飼い主とペットの組み合わせで……何より特筆すべきなのは、どうやら店員の片方もヒトペットのようだった。全裸にナンバー刻印つきの首輪と股上丈の短すぎる前掛けだけの格好だから、すぐにわかってしまう。 「いらっしゃいませ! ……お客様、なりたての新人ちゃんでしょうか?」 「うん、そうなの。まだ少しずつ慣らしていくところからなんだけど……とりあえずペット用品と、まだ自分から晒せないみたいだから拘束具が欲しくて」 「かしこまりました! では……お先に、拘束具のほうをご紹介しますね!」 「ありがとう、コロちゃん」 「わふっ」  声をかけてきたのは、そのペットのほうの店員さん。両方の乳首にピアスがついていて、片方に「認定職業ヒトペット」、もう片方には「STAFF コロ」と書かれた札が垂れ下がっている。コロさんはわんこ気質であるようで、ご主人様に頭を撫でられると尻尾を生やしたお尻を振りながら犬っぽい鳴き声をした。  ヒトペットは登録したときに改めて名前がつけられるのだけど、その名前には大きく分けて二つの傾向がある。わたしのように元の名前から取ったものと、コロさんのように本当にペットにつけるようなものだ。  わたしの場合はご主人様が「ただのヒトペットじゃなくて、音葉だから飼いたい」と言ってくれたからこうしたけど、コロさんのような積極的なペットの振る舞いも良さそうでちょっと惹かれてしまう。 「本当に全く不慣れな子なら、このあたりの手枷あたりから始めることも多いですが……見たところ、けっこうしっかり拘束されたい子じゃないですか?」 「ついさっき登録してきたばかりで、それまでは聞いたりしてなかったんだけど……どう?」 「確認してみましょっか。ちょっと触りますね」  わたしは、たぶん拘束されたい方だと思う。さっきからずっと、「人間じゃないから仕方ないよね」を盾にヒトペットの振る舞いをぎりぎりできているだけだから。  しかしそれを言う前に、コロさんがわたしの背後に回った。優しくわたしをご主人様から引き剥がして、手首を両方取って背中側でくっつけさせてくる。 「わ……」 「私もそうなんですけど、けっこう真似っ子くらいのやり方でも好みってわかっちゃうもので」 「んっ……」 「ほら。きつめの方が好きそうですね」  それから後ろで伸ばさせられた両腕をまとめて抱き締められて、より動けないようにしつつ胸を張らされる。それに反応してしまったのが、あまりにも簡単にバレた。コロさん、こういうことはよくやっているようだ。  自分の感覚と恥ずかしさもそうだけど、腕にコロさんの肌や名札の感触がしたのもその材料だった。この子も自分と同じで、自分もこれからこうなっていくものの先輩なんだとと思うと。 「となると……初めてにしてはハードですが、こちらのアームバインダーあたりがいいかもしれませんね。コンパクトで姿勢は固定できて、扱いやすいです」 「オト、どう?」 「ん……確かに、これすきかも」 「じゃあこれにしよっか」 「よろしければ、もうお着けになりますか?」 「うん。オト、このままお買い物なんて絶対耐えられないもんね」 「ぅ」  ばっちり見抜かれている。その通りで、わたしにこの自分を辱めるものばかりの店をちゃんと歩ける自信は全くなかった。コロさんに腕を抱き締められたまま、自分からその場に跪いてしまうくらい。  そのまましていたら、本当にあっさりアームバインダーを着けられてしまった。下から三角の袋を被せられて、上まで紐が通されていて引っ張るだけで調節できる簡易編み上げ式の仕組みでしっかり拘束されて。肩ベルトを交差するように固定されたら、もうわたしは腕なんてなかったようになってしまう。背中側でぱたぱたするくらいしか可動域がない。  ……もうご主人様の腕に縋り付くこともできなくて、サイズはともかく形は自慢の胸も、この日のために全部綺麗にしてきた股も、もう隠せない。 「は、ひゅ」 「わあ、とっても素質のある子ですね! 商品モデルにほしいくらい……」 「ありがとう。そういうのもあるの?」 「はいっ。うちはペットのものはペットの感覚で、が基本ですので! ……では、今度は飼育用品をご案内しますね!」  ……それから、今後わたしを飼うにあたって必要なものをたくさん買った。もうご主人様の家にこれまでの私物は引っ越しとして送ってあるけど、ペットじゃないと使わないものはこの日買う予定だったのだ。  その間、わたしもたくさん連れ回されて、どれが好きか、どれが良さそうかをたくさん聞かれた。餌皿を床に置いて顔を突っ込まされて、どの柄の皿がかわいいかはご主人様が選ぶのを付き合わされたり。 「オトちゃん、ちょっと失礼しますね」 「ひぁ!? ゃ、ンっ……あっ」 「これからは触りたいって言われたら触られるんだから、オトも慣れて」 「ふむ……すごく柔らかいですけど、狭くて締まりがいいですね。これなら小さめ……このくらいのオモチャでも充分満足できると思います」 「なるほど。……ちなみに、コロちゃんは?」 「私はある程度慣れてますが、どうしても体が小さいので。私もこれくらいですね。……私みたいに体質によってはいくら可愛がってあげてもサイズが変わらない子もいますけれど、もし物足りなさそうにし始めたら買い替えをご検討ください」  こんなふうに、店内でいきなりコロさんに前後両方の穴をまさぐられて、中途半端に気持ちよくさせられながらサイズを確認されたり。ここまでの羞恥でひどく濡れているのもバレて脚に愛液が伝ったけど、ペットならそんなのは普通だからと拭いてももらえない。  やっとのことで買い物を終えて、撫でられて喜ぶコロさんを横目に飼い主であるらしい店主さんのもとでお会計。ペットたちを見るのがとにかく好きだとかで、アームバインダー姿で股を濡らしているわたしのことも微笑ましげにしていた。 「アームバインダーのタグ、お切りしますねっ」 「お品物は普通の袋にお入れすることもできますが、オトちゃんがご主人様に尽くすことが好きな子なら……こちらの袋を装着して、荷物を運ばせることまできますよ」 「そんなのもあるんですね……私も新人飼い主なので知らなかったです。オト、どっちにする?」 「……持たせて、使ってくださいっ」 「いいよ。好きなだけ奉仕して、惨めな気分を楽しんで」  さすがは専門店というべきか、わたしたちの知らない細やかなサービスはたくさんあった。その最後のひとつとして、わたしはアームバインダーの先端に繋ぐ形で買い物袋を持たせてもらう。補助紐を肩に通されているから、負担がかかりすぎる心配もない。  ……ああ、わたし、ただのペットじゃなくて荷馬にまでなっちゃった。でも、そうやってご主人様の役に立てるのが、どうしようもなく嬉しい。 「はっ、ふ、うぅ……!」 「……いいペットですね。ご大事になさって、ぜひまたご来店ください」 「ありがとうございます。また入り用になったら真っ先に」 「わ、わ……私も、いてもたってもいられなくなってきちゃった」  そのままご主人様について店を出る。アームバインダーのほかに、買ったばかりのリード紐をつけてもらっているから、どんどんペットらしくなれてきている。  ……なんだか、周囲からの視線の色がこれまでと違う気がする。ただかわいいだけの犬や猫を見るものから、役目を果たせているいい子を見るような……気のせいかもしれないけど、気持ちいい変化だった。 「じゃあ、ちょっといろいろ見て回ってから帰ろっか。……オトも、しばらくこのままお馬さん気分でいたそうだし」 「はいっ……それがいい、ですっ」  ご主人様、ほんとうにわたしのことをよくわかっている。このまままっすぐ帰るにはちょっと物足りないな、って思ってしまった矢先にこんな提案をしてくれるのだから。  リードを引かれて、最初だけわざと引っ張られてつんのめるまで待って、それから歩き出す。逆らう気なんて最初からないけど、逆らうことなんてできないのだと突きつけられたくてそんなことまでしてしまった。わたしには止まっている自由すらない、荷物を持たされて裸拘束で外を引っ立てられるしかないのだ。 「ふっ、ふっ……」 「気持ちよさそうだね。私にくっついてるのと、どっちが好き?」 「うっ……くっついてるのも、すきだけど……これ、すきだから……」 「うんうん。ペットらしくていいね。オトは可愛い子だよ」 「んぐっ!? ……ぁ、えへへ」  アームバインダーには確かな重みがあって、それが今の自分が家畜のようだと常に自覚させてくる。それといい腕に縋り付くことすらできないことといい、お店に入る前とは大違いで被虐感は大幅に増していた。それがこんなに興奮するだなんて、やっぱりわたしはヒトペットになって正解だったと思わされる。  ご主人様もそうあることを歓迎してくれている。その一方でくっつくのを名残惜しそうにしていてくれるのも、愛されているのだとわかって嬉しいのだから手に負えない。どっちに転んでも幸せだなんて。  ヒトペットはそういうものだと知識としてわかっていたけど、いざそういう扱いを受けてみるとマゾ心を完璧に擽られるものだった。リードをくいっと引かれてなすすべなく前傾姿勢になりながら近寄らされたと思ったら、そこを狙って頭を撫でられたのだ。ヒト以外のペットにそんなことをしたら怒られるけど、ヒトペットはむしろこうされると喜ぶ。わたしも例外ではなかった。 「着いたよ。初めてだし見るだけだから、ここくらいがちょうどいいと思う」 「ん……そうかも。人だった頃もそうだったけど、今はまた別のどきどきが……」  足を運んだのは商店街だ。アーケード街の道の中央に一定間隔で台座が置かれてあって、それらに空きもなく一人ずつヒトペットが固定されている。  ヒトペットには、前日までに予約をすれば街中の指定の場所でオブジェとして晒されることができる仕組みがある。ここはそのひとつで、景色の一環やちょっとした客寄せとして商店街によって台座が設置されていた。  もっと人が多いところだと、駅前や構内にも台座があったりして、たくさん見られる場所として人気になっている。他ではこの街には専用の美術館が存在していて、精緻に作り込まれた台座や額縁とヒトペットが一組の作品として展示される観光名所になっていた。  だけどわたしはまだペットになったばかり。こうして仲間の先輩たちを見るだけにしてもそれらは刺激が強いということで、ご主人様は比較的溶け込んでいる商店街に連れてきてくれたようだ。 「んぅ……」 「あ、『爪を整えた綺麗な手で優しく触ってあげてください』だって。この子は触っていいみたい……オト」 「へっ!? で、でもわたし、手なんて使えない……」 「そんな子のために、この水道があるんじゃない?」  そうして展示されているヒトペットたちは作品としておさわり禁止になっているものも多いけど、触ってもらう前提でそれしか気持ちよくなる手段が用意されていない子もいる。このあたりは個々の好みにも左右されて、そもそも触れないようショーケースに入っていたりしなければ利用する主従が決められる。  一番手前は何もないけどおさわり禁止で見られるだけ、二番目はバイブが固定されていたけど、三番目は触っていいと注意書きがあった。近くに水道があって、そこで手を洗ってからという動線だ。  とはいえわたしの手はアームバインダーの中。これでは触ったりできないとご主人様に──もちろん外して欲しいなんて微塵も思わずに──答えたけど、返ってきたのは水道の形への指摘だった。確かに、一番上が公園にあるような水飲み場形式になっていたのだ。 「じゃ、じゃあ……んっ」 「ひぅ! ……ん、ぅ、っぁぁ……」 「んむ、ちぅ、ぅ」 「それ……そこ、もっと……はぅンっ!?」  ご主人様からの提案は命令に変わったから、しっかりうがいをしてから開かれた脚の間に潜り込んで口をつけた。丁寧にじっくり奉仕の練習台になってもらったら、ずいぶん気持ちよさそうに愛液を垂らしてくる。……ヒトペットは登録前から定期的に検診が必須にされているから、それ同士でこうして触れ合うことは問題ない。  一度深イキしてくれるまで続けて、ぴくりとも動けない姿勢固定フレームの中で辛そうなほど痙攣したから余韻を引き伸ばすために離れる。……ちょっとやりすぎたかと思ったけど、大丈夫そうだ。 「楽しそうだったね。……よく練習してるね、いい子」 「はいっ……んへ」 「だんだん反応もペットらしくなってきた。……じゃあ、そろそろ帰ろっか。帰りにペットランでも見ていく?」 「あ、見たいですっ」  そのまま、飾られていた子の愛液を拭くことも許されないまま再び引っ立てられて、自分も同じものを垂らしてしまいながら帰り道へ。帰り着いたらいよいよペットとしての暮らしが始まるのだけど、ここからご主人様のおうちに向かう途中にはゲームセンターと併設されたアミューズメント施設がある。  そこにはいくつかのヒトペット向けの娯楽も用意されていて、そのうち最もメジャーなのがペットランだった。見学自由とはいえわたしは歯止めが利かなくなりそうで見に行ったことはなかったんだけど、これから連れて行ってもらえるらしい。いざペットになった今なら、それも遠くない未来の予習だ。 「歩くのも慣れてきた?」 「なれてきたけど、恥ずかしいです……」 「でもそれがいいんだよね。もうおつゆ止まってないもの」 「うぅ」  ペットとしての街歩きの楽しみ方がわかってきてしまったわたしを、連れ回して遊ぶのに味を占めつつあるご主人様。楽しそうなのはわたしも嬉しいから、いよいよwin-winだ。  そっちに集中していたらあっという間に施設に着いて、そのまま屋外ペットランへ。半分は形式自由でただ遊べるだけのエリア、もう半分はヒトイヌ専用でコースを競走できるエリアだ。オモチャの貸し出しなんかはあるとはいえ前者はあくまでオマケのようなもので、目玉は当然後者。 「オトはあれ、興味ある?」 「はい……これまで、我慢するためにずっと見に来てなくて。こんどやりたいです……っ」 「そっか、わかった。落ち着いたら真っ先に来ようね」  ずっと我慢してきたわたしにとっては、壮観そのものだった。ミニ四駆のそれを大きくしたみたいな緩やかな障害物競走のコースがいくつかあって、ヒトイヌ一匹が余裕を持って収まれるくらいの横幅に入った何匹ものペットが一緒に走っているのだ。  ヒトイヌは急いでも遅いから早歩きくらいの見た目だけど、当人たちは本気で競走して人としてはみじめな様子をみせている。ぺたぺたてとてと、必死に進むさまはペット目線ですら可愛らしい。近くからの観戦のためだけに入場料を払う価値は確かにある。 「じゃあ、家でもヒトイヌがいいかな?」 「いろいろ試してみたくて……ヒトイヌもやってみたいです」 「うん。春休みのうちにできることはやっておこうね。私も可愛いオトのいる生活、楽しみで仕方ないんだ」 「そ、そんなこと言われたら、もっと濡れちゃう……」 「いいんだよ。地面にたくさんシミ作っちゃって。……ほら、帰るよ」  これはどうせそのうち見るし、きっと自分もやるものだけど、わたしもご主人様も今日からの新生活へのモチベーションが上がった気がする。さっきまではここまで露骨に可愛がる言い回しはされていなかったし、こんなに脚を伝わずにワレメから垂らしてもいなかった。  これから待ちに待った生活が始まるのだ。最高の飼い主のもとで、ずっと幸せに。わたしもご主人様を少しでも多く楽しませられるように、意気込みでうずうずしてアームバインダーを鳴らしたのだった。

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お狐さまはラバーがお好き

「お狐さまー、遊びにきたよ!」  社の外から元気な声がした。最近よく遊びに来る子等じゃ。新品の制服をまだきっちり着こなして、大きな鞄を肩にかけながら嬉しそうに駆けてくるこ奴らは、最近では常連となりつつある可愛い来客であった。  しかし、その表情だけは年相応とは呼べないものとなっておる。相変わらずませておる、悪い子等じゃ。 「おお、茉白に杏か。よく来たのぅ、ほれ、上がるとよい。ちゃんと裏からの」 「えへへ、お邪魔します」 「なに、気にするでない。わしも暇だったところじゃ」  わしは社の屋根でのんびり陽を浴びておった。もう五百年はこうしておるが、人というものはどんどん変わってゆくのだから面白いものじゃ。  多くの人々には認識できぬが、わしのような存在はどこにでもおる。それらとわしの違いを挙げるとすれば、わしのことは見える者がそこそこおることと……やはり、人間が異国より持ち込んだ文化に興味があることじゃろう。  昔はこうしておるときも、いわゆる狐神らしく和装をしておった。じゃが今は違う、わしは自分の好きな格好をしておる。  たまに掃除をしに来る者に靴やらで気取られぬよう、手水舎で手を洗った茉白と杏は社務所の裏口から回って入ってくる。わしはそれを迎えるため、ラバースーツ一枚のみに包まれた体を翻し屋根を降りた。 「さてと。……まあ目を見ればわかるが、いつも通りかえ?」 「うんっ! ことしからちょっと門限が伸びたから、五時半までできるの!」 「うむうむ、4月じゃしのう。その調子で、ここでの楽しみ以外は良い子になるのじゃぞ?」 「はい。そのためにも、息抜き。これからもたくさんさせてくださいね?」  わし自身と連動させておる、わしが見える者にしか認識できぬ社務所の一室まで迷わずに来た二人は、もう待ちきれぬという様子で自分たちから服を脱ぎはじめた。全く、悪い子等じゃ。  恥じらいはしておるくせに、期待丸出しですっぽんぽんになりおった二人。わしがいつも通り二人に向けて妖術を放つと、現れた黒い液体が二人の首から下を薄く覆った。……これがわしの今の趣味であり、ここは来る子等のお目当て。わしもずっと着ておるラバースーツじゃった。 「んっ……やっぱり、これすき……」 「はふ、っ……ありがとうございます、お狐さま」 「二人とも、似合うておるぞ。ほれ、これも着けよ」  背徳感と呼ばれる感覚については、わしもよくわかる。まさに今感じられるもので、悪い子になる良い子のみに許された気持ちよいものじゃ。現に茉白も杏も、液体から固まったラバーに全身を包まれただけでぞわぞわしておる。  すりすりとラバー越しにおのれの体を撫でておる二人には、わしのお気に入りの証であるまじないの品を貸してやるのが常になっておった。カチューシャと呼ばれておった西洋由来の髪飾りに、わしと揃いの狐耳飾りをつけたものじゃ。 「ん……〜〜〜っ」 「茉白、ちょっと支えて……ん、ひぁ、ふ」 「うむうむ、やはりこれじゃのう。わしはこれが至高じゃと思うておるが、二人はどうじゃ?」 「わたし、もっ……!」 「できれば、ずっとこれがいい、くらいです……っ」  それを着けた二人の頭に飾りが同化して、一時的にじゃが体の一部になる。さらには腰からは狐らしく愛い尻尾が一本生え、それがそのままラバーに包まれ締め付けられた。二人が鳴いたのは尻尾にも感覚がついて、これが気持ちよいからじゃろう。  わしにはわかるのじゃ。なぜなら、わしも同じ格好をしておるから。揃いになった二人を見て、わしはやはりラバー狐こそが至高じゃと改めて思うのじゃった。 「お狐さま、あそんで」 「うむ。……じゃが、茉白と杏が来るなれば……少し待っておれ」 「はぁい」 「……ほれ、藍里。時間じゃ。名残惜しかろうが、そろそろ起きよ」 「んぅ…………っ」  小狐二匹の愛らしいおねだりを暫し待たせ、わしは別のものへ振り返る。……実はこの部屋におるのはわしら三人だけではない、より変態な先客が何人もおった。  そのうち一人……というよりは一つ。頭までしかとラバーに包まれ、四肢も胴体にまとめられておった真っ黒な塊を抱き起こす。気が乗らなそうに呻き身じろぎをするそれの頭を露出させれば、艶めかしく蕩けた大人の雌が現れた。 「ん……もう夕方ですか……?」 「うむ。夜にはしばし時間があるが、寝過ごさぬよう起きてはおれ。物足りねば、この曜日の今はじきに……」 「お狐様ー」 「ほれ、恵が来おった。いつも通り遊んでもらえばよい」  藍里は昨晩からずっとこうしておる変態で、毎週一日ここに来てはストレスを発散しおる。その方法はもっぱらこのようなもので、週の貴重な休日を半分も注ぎ込む物好きじゃった。  そして慣れた様子で直に裏口へ来おった恵は、そんな変態共を可愛がりたがる趣味じゃ。未だ体は囚われたままの藍里には丁度よかろうと、あとは恵に任せて藍里を転がし直した。 「待たせてすまんの、二人とも。さて、何をして遊びたいか言うてみよ」 「うんっ! いつも通り、さわってほしいの。すっごく、うずうずしてるから……っ」 「それと、その……藍里さんがされてるようなの、されてみたいです」 「……悪い子じゃな。あれは変態マゾのための悪い遊びじゃが、なれば試してみるとよい」  改めて構うこととした二人は、興味を持ってしもうたらしい。二人ともとうにラバーの沼には引きずり込んであるが、これはそれだけに限らぬ被虐に手を出すこととなるが……まあ、同じ空間におるのじゃから無理はなかろう。試させてやるのがわしの責任じゃ。 「ぁ、あとねっ。ふたりでいっしょに、ひとまとめにされてみたいの」 「ふむ。仲がよくて良いのう、もちろん構わぬぞ。なればひとつの塊にしてやろう」  ずっとも、などと言うのじゃったか。茉白と杏はそれほどの親友で、何をするにも一緒の間柄じゃ。わしはこの社でしか知らぬが、少なくとも片方だけ来たことは一度もない。そればかりか別々のことをしたがることすらないのじゃから、筋金入りじゃ。  健気なことを言い出す二人を正面同士から抱き合わせて、密着した部分のラバーを癒着させてゆく。ラバー拘束は他で味わえぬと人気じゃが、構造は単純じゃ。試しにと剥がそうとする腕が全く動かぬ様子を確認すれば、二人はそのままこちらへ体を預けてきよった。何するかと思えば……。 「ん、っ……ほんとに、うごけない……!」 「くっついてる……うれしい、茉白……っ」 「うん……このままじゃ、さわってもらえないよね……っ!」 「主ら……随分と素質があるようじゃな。自分たちでやったのじゃ、恥ずかしくともやめさせぬぞ?」 「ぁっ……!」  わかりやすく好き合うて浸る二人は、互いにいわゆる「だいしゅきホールド」とやらの形となった。互いの腰を脚で抱え合うようにして片方ずつ上から被さり、下から見てしまえば恥ずかしい開脚を二つ密着させておる。  自分たちから取ったその姿勢もラバー拘束で固めてやれば、さらに興奮が一段増したらしい。雌の芽生えを感じさせる興奮顔を零距離で突き合わせる二人を、わしはそれごと横から抱きしめてやった。 「ほれ、ここを触って欲しいのじゃろう? 恥ずかしくおっぴろげおって」 「ひぁん!? は、はいっ……そう、です……っ!」 「それ、もっとっ……!」 「全く、仕方のない子等じゃ」  わしは胡座をかいた脚の上にソレを載せ、下から手を潜り込ませた。そのまま尻を撫でざまに股間へ触れなぞってやれば、ぴっちり写し出されたソコを震わせながら甘ったるく鳴きおる。向こうで恵に好き勝手されておる手本は気をつけにしておったというに、自分達から股を開いたのじゃから期待しておったのじゃろう。  とはいえ、こ奴らはラバーの魅力に溺れただけで色狂いではない。しばらく膜越しに撫で回し、ついでにくっきりしておる尻穴も軽くつついてやれば、充分に満足して互いを貪りはじめた。 「ぁっ、あっ、ひぁ」 「んぅ……んっ、あれ!?」 「この、感触……っ」 「ラバー同士が擦れるのも良いが、主らはもっとひとつになりたいのじゃろう。ほれ、境界なぞなくしてやろう。くふ」 「ぁ……、茉白、茉白っ……!」 「んっ、きもち、ちょっと、まっ……!」  そのまま暫し手を貸してやる。それぞれに片手ずつ、欲しがりな股間をそれぞれ弄り回せば嬉しそうに鳴きおるのじゃからわしとしては面白い。素質があるのじゃろう、ろくに開発もされておらぬ尻穴を外から捏ねてやるだけでこの有様じゃ。  それにこの二人は、互いの関係性でもわしを楽しませるのじゃから良い子らじゃった。間にあった二枚のラバーを全て消してやり、一枚のラバー膜の中で裸で抱き合う形にしてやればこの通り……不自由な体で抱擁を強めながら、触れ合うこととなったおめこを必死に擦り合うておる。 「んむっ、ぁっ、んぅ〜っ!」 「ふっ、んっ……杏、すきっ……」  こやつらは外ではただの友のようにしておるが、その実本気で好き合うておる。今の世間は昔よりもそれに厳しいようじゃが、ここはわしだけが見る隔絶された空間じゃ。好きなだけ欲しがり合うても、誰も咎めなどせぬ。  深い口付けまで交わして腰を擦り合い、二人だけの世界に溺れていきおった二人をいつも通り床へ転がして、わしは他の子を見ることにした。なに、毎度のことじゃ。わしはわしの欲を満たしつつこ奴らの幸せを与えてやり、ついででこのような面白いものを見られればそれでよい。  わしは元々、大昔に神力を芽生えさせた狐神じゃった。八百万の神々にはありふれた経緯で、ほかにも狐神はおったから何も特別なことはあるまい。  しかし最近……百と五十年ほど前じゃろうか。この国は大きく変わりおった。風景も文化も技術も、何もかもが。神への信仰は増したようじゃが、さらに何十年か経てばそれも薄れ始めたものじゃ。  そうして他と同じように稲荷神社で忘れ去られていくこととなったわしには、しかし転機があった。静かさを利用してか、どこぞの変態が恥ずかしい格好で夜の散歩に来おったのじゃ。その女はぴちぴちのラバースーツを身につけ、鳥居の影でコートを脱ぎ落として徘徊し始めた。  わしはそれに釘付けになり……その女に気付かれた。あやつがわしを見ることができたということは、少なくとも信仰心はあったということになるが……どうせ、これを見てくれる誰かがいたらいいのに、程度の思いじゃろう。  しかしそれが弱みになりうると知ったわしは、薄れゆく信仰や存在感をどうにかする機会も兼ねてあやつを取り込むことにした。なに、吐かせた欲を満たして変態行為を繰り返してやっただけじゃ。最終的には犬の格好で放尿して善がる、どこに出しても恥ずかしい雌となり果てた。  そして代わりにとこの社を広めるよう言い含めたまではよかったのじゃが……あやつは何を思うたか、同好の集まりに「遊びに付き合ってくれるお狐さまがいる」などと吹き込みおった。それがこの社がラバーフェチの溜まり場となった瞬間じゃ。  もっとも、その頃にはわしもラバーの魅力に取り憑かれておった。妖術でラバーを再現し、液状にもして応用できるようにした上であれこれ遊ぶばかりか、自分でも常に着込むようになっておったのじゃから人のことは言えまい。  それからはわしの方から迎え入れては遊んでやり、この部屋のような環境も整え、さらには素質のある子をわしの方から引きずり込むようなことまで始めた。茉白と杏も恵もそのクチじゃ。……なに、曲がりなりにも神たるわしにとっては素質の有無を見分けるなど容易いことじゃ。  自惚れでも自己愛でもないが、やがてラバー狐こそが何よりも愛いものという考えにも至った。そこで貪り合う小狐のようなものを鑑賞するのは、今のわしの大きな楽しみじゃった。どうなるかはわからぬが、いずれは望む者は眷属にしてやるのもよいかもしれぬな。  とはいえ、今はもう手ずから勧誘はしておらぬ。そんなことはせずとも勝手にこ奴らが新入りを誘って来おるから、あまり増やせば手が回らなくなりかねんのじゃ。全く、この国の女は存外変態が多いらしい。わしも含めてな。  暇潰しに吊るされたラバー繭の女をつついて呻かせておると、やがて外からまた新たな常連が転がり込んで来た。 「お狐様!」 「おお、侑香か。よく来たの」 「はい! ……それと、今日は友達を連れてきてて」 「友達とな。素質のある子等とは違うのかえ?」  侑香は最初にここに来た変態で、わしにラバーの素晴らしさを伝えた張本人じゃ。当然遊んだ回数も誰よりも多いのじゃが、それ以外にもひとつ特別に与えたものがある。輪を広げて楽しめるようにと、わしが元々持っておった素質の有無を見分ける力を分け与えておるのじゃ。  仲間がそれなりに増えてきおったゆえ、わしが探しに出ておる間に暇をする子がおると。自分は結局その恩恵を受けぬというのに、探し誘う役に名乗り出た奇特で仲間思いな子じゃ。  しかし、そのような際にはこやつは「仲間」と呼ぶ。友達と言い出したのは初めてなのじゃが……。 「はい。見た感じ、素質は五分五分でわからないんですけど……勇気を出して。変なの見せるけど、興味なくても引かないとは言ってくれたので」 「なるほど、よい友を持ったのう」 「はいっ。じゃあ、呼んできますね」  それがどれほど難しいことか、わしにもわかっておるつもりじゃ。茉白と杏のように傍におる者が同じ素質を持つ例は希少で、多くの場合は連れ立つうち一人といったところじゃから。誘うにも解散したところを狙っておった。  多くの者の素質は、侑香が言うように五分五分。つまり知るまでわからぬという状態じゃ。世に広まっておらぬ趣味にしては受け入れられようもあるものなのじゃとわしも驚いたくらいで、むしろこれは高い方じゃろう。  それでも侑香は、素質を置いてただ友ゆえに連れてきたという。受け入れられずとも友を失うわけではないとはいえ。大した勇気じゃが、それほど受け入れられれば大きいということじゃろう。 「うわぁ……なにここ、なにこれっ」 「ここに神社があるのは知ってたけど、こんなところがあるのね」 「うへー、なんか異文化ってカンジだわ。ちょっとおもろいかも」  侑香が連れてきた友は三人じゃった。  まずは天真爛漫とばかりにふわふわとした様子の子。この手の娘はなんでも先入観なく楽しめることも多い、見せ方次第じゃろう。  続けて真面目そうな、聞いた言葉を借りれば委員長とやらのタイプか。あまり適性のない子も多いが、たまに見かけによらぬ娘もおる印象じゃ。  そして軽い雰囲気の、いわゆるギャルとやらにしてはしかとしておりそうじゃが。この手のは特に思いよう次第じゃから、いかに興味を持たせられるか。掴みは悪くなさそうじゃな。  仲良し四人組だそうじゃが、随分と特徴が分かれておる。人間は似た者で集まると思っておったが。 「それで侑香ちゃん、ここにはお稲荷さま……神様がいるんだよね」 「あちらの方かしら。……神様だなんてにわかには信じ難いけれど、あの尻尾、動いているわね……」 「はじめまして! 神様ですかー?」 「も、もうちょっと礼儀とか言葉遣いってものが……」 「うむ、いかにも。すぐには信じられぬかもしれんが、千年近くは生きておるぞ」  なかなか賑やかじゃが……思いのほかすぐにわしへ興味が向いたのう。我ながらなかなか奇特な部屋になっておると思うし、あちこちで楽しむ子等の中にはまだ仲間と限らぬ客に固まる子や恥じらう子も多かったが。  やはり現代、神やら何やらと科学の外にあるものには弱いのかもしれぬ。まあ、望まれるようならそれも応じてやってもよいじゃろう。 「で、えっと……これは?」 「うん。実はここ、同じ趣味を持った……ラバーフェチってやつの巣窟で」 「ってーと……見てわかっちゃいたけど、エッチなやつだよね? 侑香っち、こーゆーの好きだったんだぁ」 「う、うん……」 「早く言ってくれればいーのに」 「そうね。恥ずかしいでしょうけど、隠されていたのは心外だわ」 「そうそう。それにこんな秘密、ずるいよ侑香ちゃん」  ……なるほど、引かないなどという口約束に心配しておったのは杞憂じゃったか。この光景を見て一様に興味を持つとは、やはり人は見かけによらぬか。  改めて見れば、確かに四人とも素質ありへと変じておった。そしてその内容は……ふむ。 「さて。ではまずは、侑香の着替えを見てみるとよい。……ほれ、いつも通り準備せい」 「あ、そうだった。侑香ちゃんがこうなるのも、見れるんだよね」 「どんなカンジなのかなぁ?」 「は、はいっ。……うぅ、いつもとは比べ物にならないくらい恥ずかしい……」 「主が連れてきたのじゃろう? いつもより惨め願望を満たしてやってもよいのじゃぞ」  あれこれと見たいものもあるようじゃが、やはりまずは友である侑香を見せてやるのがよい。三人に囲まれて恥ずかしそうではあったが、観念した侑香は大人しく脱ぎはじめた。  やがて裸にはなったが……しおらしくも手であれこれ隠しておる。らしくもない。 「ほれ、いつも通りにせい」 「ひゃっ……うう、ぅ……いつもより、きついじゃないですかっ……」 「わぁ……」 「これ、思ってたよりだいぶやらしーわ……」  侑香は最初に着ておったラバースーツも自前で持っておるが、ここではもっぱらわしのラバーを使っておる。その方があれこれ使いやすいからじゃったが、おかげでこうして着替える際にも絵になるというものじゃ。  継ぎ目のないラバースーツに包まれ、人間の品では難しい乳首や股までくっきり浮き上がらせた侑香を見た三人は、それぞれ興味津々の様子で見つめておった。顔を真っ赤にしながらじっくり見てから、おもむろに手が伸びる。 「ひぅ!?」 「へえ、いい感触ね。……こんな格好をわざわざ見せるために連れてきたのだから、覚悟くらいできているのよね」 「そ、れは……してきた、つもりだったけど……揉まな……ンっ」 「すごい声……気持ちよさそう。わたし、これ興味あるかも……」 「わかる。ちょい試してみたいわ。にしても侑香、こんなやらしー体してたんだ」 「ふッ……、ちょっと、はなし……ぁっ、ぁ」  胸を揉まれ、後ろから抱き着かれ、おまけに尻も揉まれと。くんずほぐれつで箍が外れそうな三人に閉じ込められて可哀想なことになっておるが、とはいえこれを望んだのは侑香自身じゃ。助けなどは必要なかろう。  それに、今日は侑香ばかりが楽しむ日ではなかろ。悪いが少し待っておってもらうとするかの。 「ひぁ!? ま、待って、そこはっ……はぅっ、ぐ」 「……ん? これは……」 「なに、ちぃと拘束しておくだけじゃ。侑香は暫しそのまま待っておれ」 「ああ、触れ合ってるところ同士がくっついているのね。そんなことまでできるなんて信じがたいけれど、さっきの様子を見れば操れて当然なのかもしれないわ」 「へーぇ、じゃあ侑香っち、今はほんとに立ってることしかできないんだぁ」  外から見れば首から下を全てラバーに包み込まれ締め上げられたような形じゃ、藍里と違い頭は出ておるが恥ずかしさに違いはあるまい。俗にラバー拘束などと呼ばれておるが、人間の手ではバキュームチューブでもなければ再現できなかろう。  もともとできておらなんだ抵抗が完全に封じられた侑香に興味津々の三人じゃが、ここはこちらを向いてもらうとするかの。欲しがればではあるが、わしからプレゼントじゃ。 「三人とも。ここまでを見てどう思うた。……ラバースーツ、着てみたいとは思わぬか?」 「! 着られるんですか!?」 「もち! すぐ脱ぐから、ちょーだい!」 「もう、二人とも……でも、私も興味はあります」 「そうじゃろうそうじゃろう! では着せてやるとするかの!」  三人してこの反応じゃった。侑香はまたお手柄じゃな、わしもいよいよ気分が乗ってきてしもうた。  三人にはまず服を脱いでもろうたが、より恥ずかしい侑香を見ておるからか案外平然としておる。が……それぞれぴっちりと体を黒ラバーに包み込んでやれば。 「んっ……なんだろ、ちょっと、きもちぃ……」 「あは、これはけっこー、恥ずかしいカモ?」 「……不思議な気分ね。なぜか体が熱くなってくるわ」 「えいっ……!」 「きゃ!? お、驚かせないでちょうだい!」  三者三様、それぞれに独特の魅力を文字通り肌で感じたようじゃった。向こうでぎしぎしと藻掻く侑香をよそにそれぞれが、自分の体をラバー越しにすりすり。恥じらい気持ち良がる様子をしばし見せたあと、さらに貪るように抱き着いて擦り寄りあう。……うむ、わしから見ても眼福じゃ。興奮しておるとはいえ軽率に抱き合うとは、よほど仲がよいのじゃろう。 「こんなのをずっと独り占めしてたなんて、なんか侑香っちにムカついてきた」 「えっ!? い、言わなかったのは謝るけど、引かれるかもってずっと悩んでただけでっ」 「引くわけないでしょう。私たちを信じなかった悪い子には、お仕置きが必要よね?」 「ひぅンっ!? ま、まってっ、いま、びんかんで……ふぁ、!」 「侑香ちゃんかわいい……でも、今日いっぱいは許してあげないよ?」  やがて三人は侑香のもとへ戻っていきおった。誰かしらはマゾの方に目覚めるかとも思うたが、少なくとも今日のところは侑香を三人がかりで苛め倒すつもりらしい。  より容赦のなくなった三人は、三方向からそれぞれラバー2枚越しにサンドイッチをはじめたばかりか、くっきり浮き出ておる割れ目を指先で撫で始めた。元々はそのような一線は越えておらぬよき親友であったように見えたが、誰もが悦楽を貪るこの部屋と初めてのラバーに浮かされておるようじゃ。……もっともこの分じゃと、時間の問題ではあったじゃろう。機会があっただけで、おまけにその機会を作ったのは侑香のほうじゃ。 「はっ、はっ……まだまだ、イケるよねっ……!」 「ん、っ……もっと、気持ちよくなりたいよぉ……」 「お尻の穴まで気持ちいいのに、それすら隠していたのね。さっき隠し事はなしって思い知ったでしょうに……まだお仕置きが欲しいのかしら」 「ひンっ!! も、わかんにゃい、よぉっ! よにん、ぐちゃぐちゃ、で……ふぁ!?」  結局あの4人はそのまま、急にお泊まり会をすると連絡を入れて居座りはじめおった。今はリクエストがあって渡した、真っ黒な狐の着ぐるみ型ラバーマスクを全員が被っておる。  おかげでもはや区別がつかぬ……かと思いきや、生えておる尻尾が侑香のものだけアナルプラグになっておった。今はそれを抜き差しされてお仕置きを受けておるところじゃ。ここならばとわし相手には変態を隠しもせずに開発を許しておったのが裏目と出たのう。  ラバー狐こそが何よりも愛らしいと思うておるわしにとって、全身全てがラバーでできておるあの狐たちは至高の品じゃ。いくらでも見ておれる。  帰り際だという娘に極薄ラバー越しの股を舐めさせて奉仕を許しておったわしは、結局4人が力尽きてくっつき合い眠りに落ちるまでずっとそうしておった。慣れぬことや執拗なお仕置きで体力を使ったのじゃろう、早めの時間に寝入りおったから明朝は問題なかろ。朝餉くらいはわしが作ってやる。 「さてと……わしも寝るとするかの。今夜の抱き枕は……」 「んっ、んぅっ!」 「ふンっ、ぅー……!」 「はっ、はっ、ぁう、ぅーっ……!」 「うむ、これにするかの」  わしはいつも、定期的にこの社を寝床にしたがる不届き者を抱き枕として寝ることにしておった。見えもせぬであろうラバー塊たちがしきりにアピールをしてきおるから、その中からなるべく均等になるよう選んでやるのじゃ。  今日も一匹を吊るされておった天井から収穫して、この部屋の隅に布団を敷き潜り込む。特別などはないが、普通ではない日常じゃ。なに、神などそんなものじゃろう。

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シェアハウス犬の幸せな休日

 わたしたちの朝は、ベッドから始まるとは限らない。 「ん……ふぁ。おはよ、ムギ」 「うん、おはよモカ」  今日は二匹とも檻の中での起床だった。ただし本当にただ檻の中というだけで、それ以外に拘束とかはない。  もう何年もこのシェアハウスでペットとして暮らしているわたし、ムギと親友で仲間のモカは、とはいえいつもヒトイヌのまま寝ることはできない。慣れてはいても体に負担があるから、ヒトイヌ就寝は週に一度だけ、しかも前後にしっかりケアをするというルールなのだ。  だけどわたしたちはペット。普通に人間としてベッドで寝ることもあるけど、それ以外の寝方もある。……というか、わたしが欲しがって制定してもらった。  基本的には三つだ。普通にベッドで就寝、ベッドで負担のない拘束をしてもらってシェアハウスの誰かの抱き枕、そして今回のようにペットケージでの就寝。  だけどわたしたちペットに専用のベッドはないから、普通に寝る時も誰かのベッドにお邪魔することになる。まあだいたい女性陣が争奪戦をするんだけど、それはそれで楽しいものだ。すっかりペットとしての身分が性に合ってしまっているわたしたちにとって、そうして欲しがられるのはすごく嬉しい。  一方でケージの場合は、ペットルームに置かれた大型犬用のケージの中で掛け布団に包まる。足を伸ばせる広さはないから、その狭さを心地よく感じながら眠るのだ。……見た目異常ではあるけど、感覚としては押し入れで寝る特別感に近い。今でもそれを感じてしまうあたり、これだけやってもわたしたちは人間ではあるんだけど。 「……っ、ぅ」  だけど、それ以外に普通ではないことがふたつ。このケージ、外から鍵をかけられている。だからわたしたちは、誰かが迎えに来てくれるまでケージから出られない。そんなところでささやかなマゾ欲を楽しんでしまう自分には正直どうかとも思うけど、最近は当たり前に同じものを味わっているモカがいるから罪悪感も薄い。  そしてもうひとつ……わたしたちはケージの中ではオムツを着けている。これは単純な話で、夜中トイレに立ったり朝起きてすぐ行ったりできないから。我慢できなくておねしょになるよりは、恥ずかしさを忍んでオムツを着けておくほうがいいとなったのだ。  起きた時点でギリギリまで溜まっていたわたしは、ケージの中で静かにオムツにおしっこをした。とはいえこんなのは後でバレるし、モカにもわかるだろうから隠す意味はないんだけど。でも、起きているのにオムツにするのは恥ずかしいの。 「おはよう、ふたりとも」 「おはようございます」 「おはよ、琴音さんっ」  しばらくすると、予定の時刻に一番近くに起きた人が鍵を持って迎えに来てくれる。はじめは最初に起きた人だったんだけど、やりたくて早起きした光さんに対してわたしがまだ寝てたことがあって以降こうなった。だからほとんど運次第だ。  今日のお迎え役は琴音さんだった。運が悪い……ううん、いいかも。だって、恥ずかしいから。 「じゃあ、まずはオムツからね。ふたりとも、お股開いて」 「……はい」 「うぅ……」  わたしたちが割とどうしようもないマゾだってことは、琴音さんが一番よく把握してくれている。だから彼女が担当の日は、容赦なく赤ちゃんと同じ姿勢でのオムツ確認を求められる。二人並んで仰向けになって、股を開いて曲げる格好だ。腕の位置は指定されていないけど、だいたい恥ずかしくて胸元で握っている。  先にオムツを脱がされて確認されたモカは出していなかったようで、そのまま下半身裸で四つん這いになって待機。続けてわたしのを開かれて……しっかりおしっこを受け止めたそれが露わになった。 「たくさん出したね」 「はい……」  とはいえ叱られたりはしない。所定通りの役目を果たしたオムツを回収されて、念入りにウェットティッシュで拭かれるだけだ。それが恥ずかしいんだけど、とはいえすぐにモカと同じ四つん這いにならせてくれる。  それから着替えなんだけど……朝は裸であることが多い。 どうせ大学に行く日はほどなく着替え直すからペット服を着るのが手間だし、休日も午前中からヒトイヌでいることはあまり多くない。改めて振り返ると意外と人間でいる時間もしっかりあるのだ。  というわけでそのくらいはと自分で上半身は脱いで、順番にヒトイヌにしてもらっていく。革拘束具で手足を畳んでいって、頭にカチューシャ。朝は尻尾も省略しがちだ。 「ん……ありがと、琴音さん」 「よし。それじゃ、行こ」  わたしは犬耳、モカは猫耳。気分で変えることはあるそれぞれの性格にも合ったペットとして簡易ではあるけれどなれば、ようやくペットルームから出ることができる。琴音さんのゆっくりの足取りに続いて、わたしたちは短い四足歩行で廊下に出た。いつも通りの非日常感を存分に楽しみながら、みんながいるリビングへ。 「おはよう、ムギ、モカ」 「おはよっ、はるねえ」 「二匹とも、ご飯の準備できてるよ」  今日は土曜日。わたしたちの起床時間は少し遅めに設定されていて、リビングには入居者の大半がいた。暁さんがわたしたちの餌の用意をしておいてくれている。  だけどまだだ。少しの間モカと戯れていると残りのひとも起きてきたから、それを合図にわたしたちは餌のもとへ向かう。定位置はダイニングテーブルからある程度離れた床だ。 「いただきます」 「いただきまーすっ」  なぜなら、休日の朝は明らかに寝過ごしているひと以外全員の前で食べる決まりだから。わたしたちはペットだから、恥ずかしくてみじめでかわいいところを飼い主さんたちに見せるのは当たり前なのだ。  しかも、朝だけはわたしたちの餌はドッグフードになる。なぜかミスト・スランバーが売っている、ドッグフードの形をした完全栄養食だ。味は再現より快適さを重視したのか、けっこうちゃんとおいしい。 「ん……はぐ、んむ」 「んふふ……ぁむ、あぐ……」  餌皿に盛られたドッグフードに顔を突っ込んで、当然手なんて使えないから口で直接食べる。この犬食いの屈辱感と、それを上からみんなで見られている感覚がたまらない。もっと見て、もっと恥ずかしくして、ってお尻を振りながら、頭を上げもせずに餌を食べていく。  やがて底が見えたら皿底の角までしっかり舌を這わせて掬い上げて、綺麗に完食。隣に置かれたお茶もストローで飲み干した。 「ごちそうさまでしたっ」 「お粗末さま。ほら、拭くから動かないで」  昼と夜は横に口元を洗うための水も置いてあるけど、朝にはない。ドッグフードだからそれが必要になるほどは汚れなくて、食後に拭いてもらうだけで充分だから。  飼い主志望カップルの彼氏こと裕介さんに顔を差し出して、ドッグフードのかすで汚れた顔の下半分を綺麗にしてもらう。その間じっと四つん這いのまま止まっていて、大事な顔を自分では触れもしないまま差し出すのはそれだけでけっこうクるものもある。無力感というか服従感というか……ペットらしさともいえるこの感覚が、わたしは大好きだった。  朝食が終わったら、わたしたちはヒトイヌを解いてもらう。モカは後でもいいのにわざわざペットトイレにおしっこしていた、ヒトイヌなんて知らなかった数年前から思うとなんだか感慨深い。  しっかり人間の服を着て、午前中は普通に人間として過ごす。これが朝のヒトイヌが簡略化された理由であり、わたしたちとしては大切ではありつつもどかしい時間だ。午前中にヒトイヌでいられるのは週に一度まで、というのもここでのルールだから。  この日ははるねえと一緒に買い物に行った。帰ってきてからは勃発していたレースゲームを見ながらひと休み……というのも、こういう時でもわたしたちは家事を手伝ったりさせてもらえない。ペットは体力を使うから、体力を温存しておくのも仕事らしい。たぶん、庇護欲なんだと思う。  ゲーム全般が上手なモカ……萌果が他の3人をボコボコにしている様子を眺めていたら、決着とほぼ同時にお昼ご飯となった。ただし、ここにもこのシェアハウスの奇妙なルールがある。昼食を作った二人だけ先に食べるのだ。 「さ、ワンちゃんニャンちゃん、元の姿に戻ろうね」 「わんっ」 「にゃあ」  その二人が食べているとき。わたしたちはこのタイミングでヒトイヌに戻る。ぱぱっと服を脱いで、お世話係たちが用意した今日のおべべに着替えてから四つん這いになった。これは自分でも選べるけど、普段はだいたいお任せにしている。  今日はモカは分厚めラバーのドギースーツ、わたしはバニーガールだった。こういうわかりやすいコスプレのほうが裸よりも恥ずかしく感じてしまうのは、ちょっと普通じゃないかもしれないけど。  そのままヒトイヌ拘束……今日のモカはラバースーツそのものがヒトイヌ型だからそのままで、わたしはお気に入りの革のやつ。この方が人間のかっこうより安心してしまう手遅れなわたしたちは、尻尾も取り付けて完成の証に首輪をつけてもらうと抱き上げられた。 「はい、あーん」 「あー……む」 「ん、おいしい!」  そして休日のお昼ご飯の特徴、ひいては昼食担当が争奪戦でゲームをしていた面々がじゃんけんの負け組である原因がこれ。先に食事を済ませたひとの膝に座らされて、最初から最後まで食べさせてもらうのだ。  この日はきつねうどんだった。わたしは咲月さんの膝に跨って前脚でテーブルの縁を押さえて姿勢を安定させたまま、咲月さんの箸ですくい上げられたうどんに息を吹きかけて食いつく。そのまま飛び散らないように押さえていてくれる麺を啜るのだ。麺類ならこうだけど、たとえば炒飯やドリアならスプーンを差し出してもらえるし、光さんが気合を入れてピザを焼いたりした時なんかはそれにかぶりつく。  これが可愛いって評判だから、土日はいつも争いが起こる。今日はじゃんけんだったみたいだけど、パーティゲームをものすごく真剣にやっていることもあったりする。ただなんのプライドなのか、運要素の強いものであることが多い。 「ごちそうさまでしたっ」 「はーい。それじゃ、こっちだよ」  それだけではない。朝はすぐに解かれるから自分でするけど、昼はヒトイヌのまま歯磨きだ。当然自分では歯ブラシも握れないから、これもお世話してもらえる。……たぶんここの6人の入居者の共通項、ペット好きというよりはお世話好きなんだと思う。たまにわたしたちですらついていけないこともあるし。  洗面台の前に椅子が置かれて、そこに座らせてもらう。これもまた向こうでなんやかんやあって決めた担当のひとが後ろに立って、ペット用の指サック歯ブラシを着けた。……この形を作るならもう普通の歯ブラシでいい気はするんだけど、やりたいらしいから仕方ない。 「じっとしててね」 「んぁ、ぁぅ……」  わたしたちとしては、けっこう恥ずかしい。念入りに指で歯磨きされていって、口を開いて閉じて。歯に限らずだけど、おかげでここに来る前より綺麗な気がするほどだ。  人の指が口の中に入ること自体が普通はあんまりなくて、それこそちょっと歪んだえっちなことをするときくらいな気がするけど、わたしたちは少なくとも週2でこれだ。夜はお風呂ついでに済ませてしまうことも多いけど。  ともかく、庇護欲のヘンタイさんも六人寄って変態ペットを二匹抱えれば満たされるというわけ。……いまさらだけど、よくこんなところにモカも馴染めたよね。もともとマイペースで猫っぽい子ではあったけどさ。 「じゃ、いってきます」 「行ってらっしゃーい」  午後。ここからはけっこうその日次第だ。わたしたちに何か用事や外の友達との約束があったり、やりたいことがあればそれを優先させてもらえるけど、そうじゃなければ大きく分けて三種類ある。  そのうちひとつは、住人の誰かの手伝い。わたしたちは普段甘やかされている分困っている様子があったら積極的に手伝いに行くようにしている。要件はさまざまで、たとえば萌果はクリアできないゲームの手伝いなんてのもあったり。  ふたつめはアルバイト。今日のモカはこれだ。わたしたちはミスト・スランバーの直営店で看板犬として働いているから、だいたい週2のペースでそっちに向かう。お客様に狙わせないためにシフトは不定になっていて、わたしたちの希望も交えて相談と適当で決まる。  普段は一度人間に戻って自分の足で向かってから向こうでヒトイヌにしてもらうんだけど、住人の誰かが暇なときは送ってもらうこともある。今日はそれで、身バレ防止の全頭マスクを被ったモカはそのままペットキャリーに入った。裕介さんと咲月さんのカップルが二人がかりで送迎しつつ、ついでに店を見てくるらしい。  ……さすがにカップルということで、あの二人は他の寝室から少し離れてペットルームを挟んだ二人部屋でたまにやることをやっている。ペットルームには聞こえてくるし、たまーに舐め犬として巻き込まれることもあるんだよね。その時に使うものを見繕うのだろう。 「ねえ、ムギ。実はちょっと試してみたいものがあるんだけど、よかったら付き合ってくれない?」 「ん、いーよ。なんだろ……」  そして最後のひとつが、ただペットとして過ごすこと。ただまったりして過ごすところを見せていることもあるし、誰かのお部屋やペットルームで可愛がってもらうこともある。あとは必要なときは片手か両手だけ解いてもらって課題やレポートなんかをやることもあるかな。  わたしは今日はこれだと思っていたんだけど、はるねえと光さんが声をかけてきた。わたしも暇だったし二つ返事で応えて、二人のもとへぺたぺた。そういうことなら、今日はこの二人の遊び相手だ。その試したいもの次第ではお手伝いの性質もあるかもしれないけど。  わたしが主役になるようなことをするときはペットルームに移ることが多いけど、今日はリビングでやるらしい。小机を脇にどけたカーペットの上に移動して待っていたら、はるねえが何かを持ってきた。  えっと……ハサミと、テープのようなものを二種類だ。片方は透明で、もう片方が黒。黒いほうはビニールテープかな。 「ちょっと手間がかかるから普段からはやりづらいんだけど……今日はマミーヒトイヌを試してみましょう」 「まみー……?」 「ヒトイヌの形で、手足をミイラみたいにぐるぐる巻きにするんだよ。マミフィケーションっていう拘束法」  なるほど。ヒトイヌ拘束具は手足を畳んだところに外から締めつけて固定するけど、これをテープのぐるぐる巻きでやるってことか。なんでわざわざそんなことをするのかはわからないけど……いや、思い出した。この透明のテープ、バイト先にも置いてある。そう使うものだったんだ。  マミフィケーションはまた調べてみるとして、実際に受けてみることにした。まずは片方の前脚を差し出したら、そこだけ拘束具を外された。 「まずはこのストレッチフィルムで巻いていくの」 「このままの形で、動かさないでね。手のひらは肩に添える形だよ」 「……試しに肘を開いてみて」 「ん……っ、あれ、もう動かない」  ちゃんと肘を畳んだままにしていたら、まずは透明のテープを巻きつけられはじめた。粘着力はなくて、言われてみれば確かにフィルムという感じ。ラップにも見えるけど、手触りはちょっと違うかも。  だけどこれ、拘束力はすごい。まだ真ん中あたり、幅にして半分くらいしか巻かれていないのに、普段のヒトイヌ以上に動かないのだ。すごく柔らかそうに見えるしストレッチなんて名前なのに、がちがちだ。 「梱包用に使われるものでね。フィルム同士が静電気でくっつくから、巻くだけで固定できるのよ」 「へえ……ん、どんどん固くなる……」 「このまま肩まで巻いていくから、一旦床につけて」  つまりわたしの右前脚はいま、荷物みたいに包まれてしまっているんだ。静電気ということはある程度重ねて巻くほど固定力が上がるのか、二重三重にして上まで巻かれていく。肘にも薄めのクッションを挟んでから素肌が床に触れなくされていく。  そのまま手も巻き込んで肩までしっかり固めてしまって、どうしても手か手袋が見えてしまいがちなところもすっかりなくなってしまった。まるで完全に一体化して、本当にただの一本の短い棒になってしまったみたいだ。 「……でも、これだけで固定できちゃうなら、こっちのテープは?」 「ストレッチフィルムだけだと半透明で、巻かれ方が透けてるでしょ? 好みではあるけど、上からビニールテープで見た目を整えるの」 「もう一回横まで挙げてね」 「はぁい……ん、あれ、なんか動きづらいかも……」  なんとなく納得はいった気がする。しっかりした一色で染められる方が綺麗な気はするし、一応の補強にもなりそうだ。最初からこっちでやらないのは、たぶんテープの粘着力を直接肌に巻いたら大変なことになるから。  ただ……そのためにさっきと同じように水平まで前脚を挙げたら、なんだか突っ張るような引き戻されるような抵抗があった。たぶんこれ、肩まで巻かれたストレッチフィルムが四足歩行の姿勢を自然とした形になっているからだ。  動かないように梱包するためのものだから、このくらいでも動いてしまわないように固める力がある。肩を巻く前にわざわざ床につく形に戻されたの、このためだったみたい。 「わ……これ、すごい……ぜんぜん動かない……」 「マミーヒトイヌは拘束力が高いって聞いて、試してみたかったのよ。上手くできてるみたいでよかった」 「大丈夫だったら、このまま全部巻いていくね」 「うん……おねがい」  すごく新鮮な感覚だ。いつもの拘束は肘をがっちり固めてはいたけど、基本的に肩は自由だった。背中側でクロスするように四つの拘束具がベルトで繋がるタイプのもあるけど、それでもちょっとぎちぎち感があるな、くらい。  だけどこれはぜんぜん違う。まるでそもそも四つん這いで立つ形以外は有り得ない姿勢であるみたいに、これ自体がこれまでよりさらにわたしを貶めてくる。すごく、心地いい。 「ん、ぁ……はふ、ん……」 「ずいぶん気持ちよさそうね」 「ぅん……よけーなもの、ぜんぶなくなって……ほんとのワンちゃんに、なったきぶん……」 「ふぅん。時間のある時のご褒美には、今後もしてよさそう?」  脚もそうだ。踵を外にして土踏まずをお尻につけるような形で、徹底的なくらい固めてもらった。爪先すら外気に触れていないし、外から見ても出っ張っているところはない。  普段よりちょっとだけきつい体勢ではあるんだけど、そうとは思えないくらいしっくりくる。わたしが元々こういう形の生き物だったみたいな感覚で、立っているだけで気持ちいい。 「ね……ちょっと、あるきたい……っ」 「わかった、いってらっしゃい」 「わふっ……!」  そうあるだけで気持ちいいだなんて、わたしでも初めての経験だ。もうすっかりヒトイヌには慣れきって新鮮なこともないと思っていたのに、こんなの全然知らない。  普段通りに過ごすには主張が強すぎて、興奮せずに生活するならいつもの方がいいけど、こんなのを覚えてしまったらたまにはやりたくなってしまう。毎日ヒトイヌで人間じゃなくなる屈辱感を楽しんでいる変態ペットなのに、それがより強まってしまっているのだ。  このままだとすぐに尻尾を振ってえっちを誘ってしまいそうだけど、さすがにちょろすぎる気がするからもうちょっと耐えたい。少しでも発散するために動きたくなって、一匹で家中を歩き回ることにした。シェアハウスを作ることにした時に格安で買った訳あり物件に元々ついていたとかで、三階建てながらエレベーターもあるから移動には困らない。  これは増設されたヒトイヌにも届く位置のボタンを押して、好き勝手歩き回ることにした。ほとんどの扉にペットドアをつけられている本気仕様のつくりで、そこにロックがかかっていない部屋はわたしとモカはいつでも好きに出入りしていいことになっている。  入ったのは琴音さんの部屋。あのひとは健康志向なところがあるから、この部屋にはあれが……あった。 「はっ、はっ……」  ルームランナーだ。足でボタンを押すタイプだからヒトイヌでも動かせるし、初期設定がゆっくりだから一匹でも歩行訓練ができる。ふつうは躾としてやることだけど、今はとにかく動きたかった。それに、軽くいじめられているようなことをすれば少しは発散できると思って。  このマミーヒトイヌ、相性がよかっただけかもしれないけどわたしは歩きやすかった。外側へ気持ち程度に引っ張られる力があるから、外を経由して足の裏を引きずらずに足を出す歩き方がしやすいのだ。  調子に乗って一段階だけ速くしてしまって、そのまましばらく夢中で歩く。……歩くのがこんなに楽しく感じたのはヒトイヌに慣れる前以来だし、心地いい拘束感がずっと続くせいでむしろ興奮は収まらない。結局疲れてきて後ろに流されて、ルームランナーの後ろで転がってもまだ疼きっぱなしだった。 「……新しいのを試したとは言ってたけど、そんなに気に入ったの?」 「ぁ……う、うんっ……!」  しかもそんなところを後ろから琴音さんに見られていた。気づかなかった、恥ずかしい……。  面白そうにルームランナーを止めてから起こしてくれた琴音さんに……わたしは、お尻を振った。ペットルームでえっちしようよ、という意味の、しっぽふりふり。無意識にやっていて、もう止まらなかった。 「悪い子。……まあさすがに気が引けるし、悠さんと光も誘うよ。変態ペットには三対一だから、覚悟して」 「ぁ……わぅっ!」  琴音さんがわたしに首輪リードをつけてくれる。調教中の証で、わたしは発情中の変態ペットです、という意味になる。  琴音さんは部屋に引っ込んでいた暁さんをわざわざ呼びに行ってしまったから、さらに追加で視線がひとつ増える。リビングのふたりも嬉々としてついてきて、ほんとうに三対一……それ以上になってしまった。 「ほら、早く全部持ってこないと、どんどん気持ちよくなっちゃうよ?」 「っあ!? わ、わんっ、ゆるして、んぅっ!」  それからはひどいことをされた。部屋の向こう側に何個も転がされたボールを全部咥えて持って帰ってくるまで、時間ごとに少しずつナカに挿れたローターが強くなっていく躾とか。色とりどりのリモコンローターをたくさん押し込まれて、ひとつずつ起動されたり目盛りをひとつ回されたり。  わたしが元々そうだったマゾの度合いをひとつ上げてしまったとバレたあとは、もっとすごかった。ちくびに鈴をつけられて、一分間音を鳴らさずにいられるまで“まて”の訓練とか。しかも最後も、はずかしいセリフを目を見て言いきらないと触ってもらえないし……前からドSだと思っていた琴音さんが、これまでどんなに抑えてくれていたのかを身をもって知ることになった。  その後も、感覚もマゾの味も忘れられないまま夜の餌を食べて、帰ってきたモカにはもう外してお風呂も入ってあったのにすぐバレて。結局明日はモカだけがマミーヒトイヌになることになったり。  それでもまだご立腹だったモカに仕方なく「なんでもひとつ言うこと聞く」と言ったら、それまでモカが被っていた全頭マスクを脱ぎざまに被せられたりした。 「入っていいよ」 「ん……わふ」  今は土曜日の夜。週に一度の、ヒトイヌのまま寝られる日だ。結局わたしはモカのにおいも温もりも残っていた全頭マスクを脱がせてもらえないまま、目の前のケージの入口を開かれていた。  頭ごとモカに染められたような感覚でわからせられているわたしを見て、モカは期限を直してくれたどころか楽しそうだ。わたしとしても満更でもないんだけど……こんどモカが何か抜け駆けしたら、同じことをやってあげようかな。それとも、交換を提案してみるのもいいかな? 「それじゃ、おやすみ」 「おやすみなさいっ」 「おやすみなさい、悠さん」  檻に入って入口に顔を向けると、閉じられた入口にしっかり鍵をかけられた。その鍵はリビングの机の上に置かれることになるから、わたしたちはもう出ることもできない。  けさと同じようにオムツもつけているけど、ヒトイヌのときのオムツはマナーウェアと呼ぶらしい。なんだか少し形も違って、尻尾を通す穴まであってオムツなのにおしりの穴は隠れなくて、ほんとうにペットがつけるのを模したプレイ用なんだとか。どっちにしても恥ずかしいけど。  しばらくそのまま立ち尽くして味わっていたけど、やがてわたしたちはどちらが先ともなくうずくまった。わたしはモカのほうを向いての横倒し、モカはよくやっている香箱座り。わたしはそのまま頭をタオルケットに突っ込んで、モカのにおいを飽きもせずに堪能してしまう。  すぐそこにヒトイヌで檻に閉じ込められて楽しんでいる変態ペットがいる。だから余計にわたしもそうなんだと突きつけられて、気持ちよくなってしまうのだ。今のわたしたちには自分で触るどころか、擦りつけることすらできないのに。  だいたい毎日こんな感じ。それを飽きもせず何年も、わたしたちは貪り続けている。……そう簡単に普通の人間に戻れる気はしないし、このシェアハウスがなくなったらなんて考えたくもない。だけど、はるねえみたいに楽しんでくれるひとがいれば、わたしは……。

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ボンデージチェスの駒たちは

 広い私有地とAVという新たなパターンを得たミスト・スランバーは、これまでよりぶっ飛んだことを実現できるようになって止まらなくなりつつある。この日は運動会のときと同じ競技場を使って、似たような形で企画もの系統のAVを撮ることになっていた。一般向けには必要な部分や顔にモザイクをかけて販売しつつ、会員サイトにも普段の動画や配信のように公開する形式だ。  競技場を使うということで、今回もやはり普通のプレイではない。正直なところシェアハウスで普段からやっているプレイでも充分ニッチなものとして扱えそうなものだけど、「手を伸ばせば他のメーカーでもやりそうなものは出さない」のだそうだ。  では今回は何をするのかというと……それは競技場に既に設置された、巨大な白黒の遊戯盤が全てを示しているだろう。  今回の企画は、ボンデージチェス。一マスに一人が余裕を持って収まれるサイズのチェスボードの上で、チェスの駒に扮した参加者たちが実際に動かされて試合を行うというものだった。 「……ほんとどうやって思いついたんですか、こんなの」 「最初はポーンから入ったんだ。いわゆる無個性化をうまく使えるプレイを考えて、ただの戦闘員じゃありきたりで……人間将棋の話を聞いて」 「怒られますよ。……それで、全種類分考えて作りまでしたと」 「運動会がね、リリース前なのに口コミで評判なの。現時点でもそれなりに反響が見込めるから、流れを作ってしまおうって」  まあ、おかしな話ではない。この感想そのものがずいぶんミスト・スランバーに毒されている気はするけど。  チェスということで両軍合わせて32人、さらにプレイヤー役2人を合わせて総勢34人という大所帯だけど、なんとこれは独自の伝手による募集で集まったという。おかげで今回はなんと、あたしどころかいつもの面子が全員運営側としてプレイそのものには不参加になっている。  まあ、これは実はあたしたちが開発段階で各装備や衣装などのほうに参加していたから。つまりテスターの仕事をしっかりこなしていたからだ。集められた駒たちはみんなここで初めて身につけるどころか実物を見るのだから、ある種の初々しさや不慣れさも出てくると予想されるんだけど……そこにもう慣れてしまったあたしたちが混ざったら、そもそものコンセプトである駒の無個性さが薄れてしまうのだ。  だからカナとミカは黒子に扮して各陣営の駒たちの手助け、あたしはオリさんと一緒に全体の進行を確認する監督や演出のような立場に入っている。その他にも知り合い、つまり経験豊富な人たちはスタッフ側ばかりだ。全容を知っているから言えるけど、これは駒には慣れすぎていない志望者ばかりを起用しているからだった。テスターの役目がなくても、あたしたちはあそこには混ざれていなかったことだろう。  チェスボードの両側には少し高く作られた部屋のような場所があって、プレイヤー役はそこからチェスを打つ。全ての駒は番号で管理されていて、それぞれの形で命令を受け取るようになっている。  そして取った駒は、取ったプレイヤーの手元に送られる。それは試合終了までプレイヤーが好きに使うことができるそうだ。大抵のことなら駒に拒否権はなく、プレイヤーは取った駒のぶんだけ好き勝手遊ぶことができるのだ。  ……ただし、その代わりとばかりに負けたプレイヤーには罰ゲームが待っている。それがあるからプレイヤーも決して相手のことを考えもせずに乱暴できるわけではない。 「始まりましたね」 「うん。……私たちはよっぽどのことがない限り画角には入らないから、気を抜いても大丈夫だよ。円滑に進むように細部も詰めてきたし」 「まあ、それはあたしたちが普段着なのを見ればわかりますけど。でも、たぶん見入っちゃう」  あたしたちと、カメラのほうについて動かしているシノさんは衣装を用意されていない。これは今回不意にすら映るようになっていないということで、実際あたしたちはどの角度から撮っても入らないように別室からモニターと窓越しに控えている。  これは映る可能性があるカナとミカとは対照的で、あっちは頭だけ黒子の頭巾を被りつつ首から下は黒のラバースーツになっている。あれも表通りには出づらい格好だけど、今回の絵面はあれが一番ましなほどだ。  ある程度経験のあるあたしたちが誰も入らず、全員が素人で進行して大丈夫なのか、とはスタッフ陣も心配していたけど……これは大丈夫だと思っている。  実は今回、プレイヤー役にだけは棋譜と台本を用意してある。そしてこの二人だけ趣味の合うAV女優を起用しているのだ。だから来るだけ来て出番も満足もなく帰る子はいないし、罰ゲームを恐れるどころかお互いが負けたがることもない。  ただ、二人には駒の番号振り、つまり配置を相談の上で行う権限を与えておいた。おまけに取った駒の扱いについては完全にお任せしてある。女優でもしっかり楽しませる、というオリさんの意向だった。 「……やっぱり、面白いですね。当然ですけど、見たことない」 「あとは参加者とカメラ、何より演者次第だね。映える舞台は用意したつもりだけど、どのくらいモノになるかな」  画面ではポーンのうちひとつが動かされ、あちこちがアップにされたりしながらゲームの序盤戦が進行していた。ぎこちない動作で進む様子はオリさんの思惑通りのようだ。  あたしも惹き込まれるような魅力を感じていた。あれは確かに、今のあたしたちにはできないや。   ◆◇◆◇◆  始まってから少しの間、わたしはじっと持ち場に立っていた。もどかしくなるかとは思っていたのだが、駒とはそういうものだと思えてこれ自体も案外悪くない。  わたしはフェティッシュなイラストや動画を見て楽しんだりはしていたものの、自分自身での経験はたいしたものはなかった。そんな伝手も勇気もなかったよくいる隠れマゾで、就職も控えていたからそのまま現実にする機会もないまま生きていくものだと思っていた。  ターニングポイントはやはり、先日見に行ったSM美術展。一人でこっそり来て、ガイドも連れてひととおり楽しんで……そのガイドに見抜かれた。ようやく手に入れた機会を逃すことは怖がりなわたしにもできず、展示期間の途中からはたまに入るようになって……そろそろ終わりという頃に、主催をしていたイベント会社の連絡先とともに渡されたのがこの企画の募集要項だった。  そのイベント会社というのもそれなりの頻度で今回のようなあまり大声では言えない企画をしているもののようで、とはいえ一般に悪名(といっては失礼で語弊もあるけれど)があるような会社ではない。そちらに求人があることも当然確認したが、それよりもこのAV企画だ。ミスト・スランバーという聞き覚えのある名前が主導していて、一方でとてもそうとは思えない挑戦的な内容。はっきり言えば、名も知れていないインディーズ系がやるようなものだ。  わたしはさほど迷いもしなかった。AVに出るなんて思ってもいなかったし緊張もするけれど、何年も夢見ていたが無理だと思っていたものがすぐそこにあったから。  わたしは今、ポーンのうちひとつになっている。白の3番と番号を振られて、動くことも許されずに初期位置にじっと立っていた。  全てが一体化した真っ白なラバースーツに身を包んで、頭まで全て覆われている。ポーンの駒を思わせるようなシリコン製の飾りが首元と膝のあたりについていて、膝を開くことは一切できない。まさにポーンといった格好に貶められた上で、両腕は後ろで束ねられている。 「…………」  そんな格好で他のポーンたちと並べられて直立したまま、わたしは静かに興奮していた。  わたしはSMそのものもそうなのだが、無個性化、というものに特に興奮するのだ。全身の全てからその人らしさを奪い去って、一見誰ともわからないような格好を強いる。頭から足までのっぺりした、隣と全く同じ姿をして、いち個人としては見られることなく集団の中の一部まで貶められることを何度も妄想してきた。  たとえば戦闘員化……某特撮の雑魚敵のような。自分が自分であることから解き放たれるようで、美術展でも入口付近のショーケースを志望したりしていた。イベント会社の人がこれを回してくれたのも、今思えば熱量がありすぎたその希望を覚えていたからかもしれない。  いざなってみると、やはり気持ちいい。経験の浅いわたしにはその原因が個性からの解放にあるのか、それとも尊厳剥奪や他の何かにあるのかはわからないけれど。ただとにかく、ここで自分ではない「白の3番」にされて並べられているだけで、絵を見て自分で慰めるよりも何倍も昂ってしまっていた。 とはいえ、わたしは駒をただの置物ではないから、ずっと突っ立っているだけというわけにはいかない。 「……っ、ン……!」  ラバースーツの中に仕込まれていたリモコンローターが振動し始めたのだ。これは駒を動かすための命令装置で、ポーンの場合は乳首とクリトリスにローターが用意されている。これが全体で管理されていて、プレイヤーが持つコントローラに選択されるとボタンひとつで責め立てられるのだそう。  気付けば周囲には、うっすらとだが人の気配がする。動かされる駒となったわたしを映すため、撮影班がカメラを向けているのだろう。全身だけでなくローターの浮き出た胸と股のあたり、さらには口を開くこともできない真っ白な頭もアップにされているかもしれない。その恥ずかしさも興奮を煽った。 「…………っ、ふ……!」  このローターはわたしが動くまで止まらない。事前に聞かされたところによると、ポーンの場合はローターのオンオフが全て。クリトリスが振動している間は何も考えずに前に進んで、止まったらすぐに足を止めろ、という命令を与えられている。……確かポーンは最初だけ2マス進めるから、それだけ多めに歩かされた。  前に少ししか進めないポーンだからこれだけだけど、もっと広く動けるほかの駒ならどうなってしまうんだろう。そんなことは考えてしまうが、わたしにそれを知ることは今は許されていなかった。  太腿は束ねられたまま動かないから、膝から先だけで小刻みに前に歩く。ただでさえ興奮していたところに研ぎ澄まされた快感を受けて、なかなか平然とはしていられないけれど。不格好に、間の抜けた全身を見せるのも無能なポーンの役目だ。  ポーンの頭には鼻にある呼吸孔以外の穴がないから、目も塞がれていて何も見えない。どうせ進める方向が正面しかないから、ポーンにはそれで充分なのだと実際に動いてみてわかった。 「……っ、ぅ……」  なるべく声も抑えて、従順に前にだけ動いて……不意にローターが止まったから、その場で足を止める。それで一度目の出番は終わりのようで、周りから人の気配が離れていった。  このとき、もしマス目を少し行き過ぎてしまっていてもポーンにはわかりすらしないのだ、と気付いた。もしかしたら前や左右にズレているかもしれない、だけどそれすらどうでもいい。そのくらいどうでもいい、たくさんある駒のひとつなのだ。  わたしは再び直立しながら、それ実感して静かに興奮していた。みんな好き好んでこんなところに来た素人仲間だと聞いたけれど、ほかの駒たちも同じものを感じているのだろうか。  次に動かされるのはいつなのか、そもそも機会があるのか、取られてしまうことはあるのか。展開や台本など渡されていない駒にはわからない。……一度動かされる味を知ってからの待ち時間は、それまでよりずっと心地よかった。  それから少しして、もう一度動かされた。二度目で少し慣れたこともあってか、その様子がじっくり撮られていると今度はより深くわかった。ただのポーンが何もないマスに進むだけだから十中八九カットされるのだけど、それでも自分にとってはまたとない体験だ。  その頃にはきっと、こうなっているのは自分だけではないのだろうと思えるようになっていた。何も見えないしそれが聞こえるわけではないけれど、なんとなく他にもわたしのように興奮しっぱなしの駒がたくさんある気がするのだ。途中で真後ろにほかの駒……蹄のような音がしたからおそらくナイトが立ったけれど、息遣いはわたしより激しかった。 「んッ……」  次の変化は、自分ではなく正面。小刻みな足音をさせながら、すぐ近くに駒が立った。……斜め右前に黒のポーン、位置的に5番だ。  ポーンは一つ前にしか進めないけど、斜め前に敵の駒がある時だけはそこに動きながら取ることができる。つまり今のように斜めに向かい合ったポーンは、次にどちらかが動いたときまでには片方が取られる可能性が高い。それに気付いたのだろう、わたしと黒の5番の呼吸が同時に荒くなった。  次は白の手番。つまりわたしが動かされれば黒の5番は取られる。そうなる場所にわざわざ送られたということは、黒の6番はいわば捨て駒だ。「取られた駒は敵プレイヤーに好きに使われてしまう」というルールはプレイヤーにとっては関係ないから、捨て駒だって当たり前に発生するだろうし……それどころか、このルールとこれがAVであることを加味すれば、本来のチェスよりも積極的に駒を取り合うほうが自然ですらある。  つまりこうなった時点で、黒の5番はもう終わりだ。ポーンとはいえ、白のプレイヤーが欲しくないわけがないのだから。どうやらこのルールは、ポーンの命は特に軽い。 「んぁっ……」 「……っ」  案の定。次に動いたのはわたしのローターだった。それもほとんど悩むことなく、これだけの状況整理をわたしが終えてすぐ。……右の乳首のものが一緒に。これが一緒に動いたら、動いた方の斜め前に動けという命令だ。  わたしが小さく喘いで、黒の5番が息を呑む。だがこの時点で、もう覆ることはない。駒を取るときは取られる駒を倒すのだと聞いていたから、わたしはより小刻みに歩いてゆっくり、そこにいるであろう黒の5番に優しく体当たりした。 「ん、ふっ……!」 「ぁっ……!?」  向こうもわかってはいたのだろう。ポーンは動きが単純だから、取る側も取られる側も視界が塞がれていても気がついてしまう。ほかの駒は目隠しをされていないのは、複雑な動きで事故が起こらないようにだ。  胸を張ってそっと小突くと、すぐに向こう側へ離れていった。力など込めてもいないのに、むしろ向こうから真後ろへ尻もちをつく。すぐに黒子さんが起こしたのか、立ち上がり歩いて離れていった。きっとそのまま、プレイヤーの部屋へと連行されていったのだろう。  わたしは……自分でも不思議なほど、快感を得ていた。自分と同じ立場にあるポーンを取って、罰ゲームともいえるプレイヤー部屋送りにして、気持ちよくしまったのだ。わたしにはS性はないと思っていたのに。  だけど、その理由はすぐにわかることとなった。  簡単なことだ。このゲームでポーンの価値は低い、むしろ積極的に取り合いが起こる。それは黒の5番だけでなく、わたしにも適用されるのだということである。それに気付いた。  そう、わたしもこの後、すぐに取られてしまうのだ。わたしはもう3回も進んで、ほとんど敵陣まで割り込んでいる。そんな敵陣の中に、格好のターゲットであるポーンがひとつ。  白の3番は誘い出されたのだ。……いや、最初からこのつもりで交換された、といったほうが正しいか。 「…………ん、っ」  ほどなく、斜め左前から来た……おそらくビショップ、黒の11番がわたしにそっと触れた。それだけで伝わるだろう、という優しい触れ方で、たった今逆の立場にいたばかりだったわたしは当然それだけでわかった。  わたしはその場で尻もちをついて、数秒してから背中に触れてきた黒子さんの腕を頼りに起き上がる。そのまま不自由なままチェスボードを降りて、牢屋である黒のプレイヤー部屋へと向かった。  そしてそこでわかった。さっき黒の5番を取って気持ちよかったのは、向こうもそれを望んでいたからだ。だって、今こうして罰ゲームに向かうわたしもまた、そうとは思えないほど期待に興奮しきりなのだから。 「白の3番です」 「そこに並べておいて」  そして連れてこられたわたしは、何も見えなくて奉仕もできないポーンらしくプレイヤーの視界に入るところに戦利品として並べられた。聞こえてきた呻き声からするに、どうやらわたしは3個目の取られた白のポーンらしい。やはり普通のチェスのゲームよりもポーンの消費速度が速い。  所定の位置に立たされて、時折視線が向くのを感じられるようになった。このままゲームが終わるまでずっと並べられたまま、プレイヤー一人に鑑賞され続けるのが取られた駒の役目だ。  プレイヤーのほうからは、何か微かな水音が聞こえる。プレイヤーから時折微かな嬌声と、「14番、もっと丁寧に」と飛んだ命令からしか想像できないが、おそらく先に取られていた白のビショップがプレイヤーの股の間で奉仕させられているのだろう。  しかしそれを感じて、ただ並んで置かれていただけのわたしたちポーンも、楽にしていられるばかりではなく。 「「「んんっ……!?」」」 「油断したでしょ。取った駒は全部プレイヤーのものだから」  すっかり気を抜いて楽しんでいたところに、不意打ちでローターが起動した。それは全くの同時だったようで、ポーン3個分の嬌声が完全に重なって、わたしたちに違いは本当にないのだと実感させてくる。  つまり、取られた駒に仕込まれていたコントローラ代わりの玩具は、全て取ったプレイヤーが好きに操作できるということ。それを気付かされたたった今が、わたしたちが置物でありつつ黒のプレイヤーのための楽団になったのだと自覚した瞬間だった。   ◆◇◆◇◆  ゲームが始まってしばらくが経った。やっぱりこれは普通のチェスとはまるで違うようで、ポーンや積極的に動かされた駒から順に次々に取られていく。ゲーム自体への勝利が最優先ではない、プレイヤー様の私欲に塗れた駒取りゲームだ。  私達駒は何も知らずに動かされているけど、見ている感じではやはり台本はあるのだろう。一度も動かされずに取られる駒がひとつもないから。ということはおそらく、プレイヤー様を信じるということですらなく全ては事前に決まっている。配役が確定した時点で、どう動かされていつ取られてどれだけ敵プレイヤー様のオモチャにされるかは定まっているのだろう。……そしてプレイヤー様方の勝敗、つまりどちらが罰ゲームを受けるのかも。  ただ、私はそのあたりにはあまり関係がなかった。なにしろ私は黒の12番、キングだから。  今回は駒のデザインがそれぞれ与えられているけど、その中でもキングは装飾も辱めも少ない。陣営の色のラバースーツを着て後ろ手に拘束され、王冠と穴のないボールギャグをつけている。それから双頭バイブになっているペニスバンドを股につけて、乳首にローター、お尻にもバイブを仕込まれていた。  体のラインが出るラバースーツを着て、しかも男の人のように股間から立派なものを生やしているというだけでも恥ずかしいけど、これが揺れるだけというのは駒としてはとても緩い。なんでも胴体に他の装飾が何もないのは、裸の王様という意味なのだとか。  そういうわけで、重度のマゾなら物足りないし他の駒になりたがるものだ。だけど私は敢えてキングになった。……不人気だったというのもあるけど、私は他の参加者よりもプレイの経験も願望も浅かったから。  なんとなくマゾ願望はあったけど、それはあくまでちょっと拘束されて責められてみたいという程度。そこをよりしっかりしたマゾである友人に誘われて、気付けばここにいたのだ。……いざやってみるとすごく新鮮な感覚で、嬉々として黒の9番、ルークになった友人には感謝しているけど。 「ン……ぁ、っ」 「むぅぅっ!?」  そうしてしばらくはじっと初期位置から眺めていた私にも、ついに命令がきた。動かされては取り取られていく駒たちを見てさしもの私も疼いてきた矢先だったから、屈辱的なことをさせられるというのに少し嬉しい。  キングの命令の場合は、ペニスバンドの内側が振動したら前。乳首なら横で、お尻は後ろだ。加えて斜めなら2箇所が同時に動く。  今回の場合は左の乳首だけだから真左。ただ、9番も一緒に鳴かされていた。ということはこれはキャスリングだ。まだ動いていないキングとルークがいるとき、キングが2マス動いてルークと位置関係を入れ替えることができる、というルールである。 「ん、むぐ……っ」 「ふっ、ふっ……うぅ、」  まずは私が左に2マス動く。それから9番が私とすれ違い、2マス動いて私の右隣に止まった。その間、お互いの恥ずかしい格好と惨めな動きをじっくり見つめ合う。……ここまで見越して友人はルークになったのかもしれない。  そのルークだけど、これは駒の中でもトップクラスに凄い格好だった。逆ビキニアーマーとでもいうのだろうか。全身を軽いレプリカではあるものの黒い鎧で固めておきながら、ちょうどビキニにあたる部分だけくり抜かれていて丸出しなのだ。アニメなんかで出てくるビキニアーマーと、ちょうど真逆である。  それだけでも滑稽そのものなのに、しかもその上から樽の形をした透明なプラスチックに胴体を閉じ込められている。両手首は樽の天井に固定されていて、樽の底は前後の穴に挿入されたバイブの尻を支えていた。これ、どうやって思いついたんだろう。  駒が人格を出す必要はないということなのか、全ての駒が共通して言葉を発することができないようにされている。ルークの場合は詰め物ありの布猿轡だ。玩具は膣のものがただのバイブである以外は私と同じだけど、振動が止まるまでその向きに進み続ける命令となっている。今は右胸のローターが振動していた。  ほかの駒も凄い。処置の厳しさでいえばキングとポーンがこれでも楽だけど、ポーンは無個性になる尊厳破壊があるからやはりキングが一番楽だ。 「ぁぐっ、んぅ!?」  たとえばナイト。ほぼただのポニーガールだから見覚えはあるけど、ぎちぎちに締め上げられてバイトギャグを噛まされている上に命令が難しそうだ。乳首のローターで左右を指定して、クリが振動したら2マス前。膣なら一マス前で、乳首だけなら一マス後ろ。お尻が責められたら2マス後ろだ。 「んぉ、ぉっ……!」  次にビショップ。レオタードのようなハイレグラバー修道服を着せられて、ネックバイオリンをつけられている。準備のときに見たところ、口につけているのはそれによく合った、そしてビショップには冒涜的なペニスギャグだ。  見ていたらわかったけど、駒の動かし方は前後の穴と乳首のローター。斜めの方向に合わせてどれか二つが動く、ルークの斜め版だ。 「あぅ、ンっ……」  そしてクイーン。肋骨の端っこが見えてしまうほど凄まじいハイレグのエナメルボンデージの上で胸は丸出しで、腕はアームバインダー、口は穴あきのボールギャグで囚われている。頭にはティアラが被せられていて、命令はルークとビショップの両方を合わせたもの。  ……と、こんな感じの駒が総勢32個も並べられていたのだ。今は減ってきたけど、プレイヤー様の部屋に並べられているから総数は同じ。素人の私には想像もつかない大掛かりな企画だった。  試合はしばらくして、私達黒が劣勢になった。黒のプレイヤー様がどうやら私欲でかなり無理に駒を取って、そこから守りが崩れたのだ。私が動かされることも増えて、すっかり攻められっ放しになってしまった。  時折黒も攻めるものの、手数不足であっさり逃げられてしまう。私は何度も小刻みに動いて、すっかり気持ちよくされてしまっていた。 「む、ぁ……」  実際に立ってみてわかったのだけど、どれだけ追い詰められているかというのは自分がキングになっているとよくわかる。逃げても逃げても近くに敵の駒が襲ってくるのは、チェスごっことはいえ焦燥感が凄い。  それに何より、周りの駒がどんどん減っていくのだ。白が果敢に攻めて、肉壁として立たされた駒が取られていき、取ったほうの駒も誘い込まれた形で取り返される流れができてきている。二度目あたりでみんな察したのか、周りを認識できていないポーン以外は誰もが怯えたような様子をしながら操られていた。でも抗えない、私達は駒だから。上位者であるプレイヤー様に次の贄として指名されても、リモコンの示すままに動いてはコレクションに加わっていくしかないのだ。  もう視聴者目線では勝敗はほぼ決して追い詰められるキングを楽しむパートに入っているのか、ずっと私に向いているカメラも出てきている。案外大事な役割を任されてしまっていたようだけど、私はもはや演じるまでもなく追い詰められてきているから迫力も大丈夫そうだ。  少し攻めの手が緩むと返す刀で黒も攻めるが、これが王の守りについていたルークと相討ちに。どうにか後詰の駒を取った白のキングも、安全地帯とはいえ孤立状態の裸の王になって心許なそうだ。そのまま最終局面、数的にも不利になっている黒のキングがいよいよ集中砲火を受ける。 「んッ……ぁふ、んぐ……!」 「んぅっ……!」  クイーンがチェックをかけてきて、残っていたナイトがキングの二つ隣に盾として割り込まされる。これを取ってきたクイーンに対して……黒の9番、私の友人が扮するルークがついに生贄にされた。  だけど、9番はどこか嬉しそうだった。……十中八九これからの短いコレクション扱いを期待しているのだろうけど、それは追い詰められた私には自己犠牲の精神のように見えた。もしかしたら私自身、体験し続けることでキングに感情移入しつつあるのかもしれない。  クイーンに取られて倒された9番が連行されていって、その次は私が動かされる。隣りあった……つまりついに捨て駒にされたクイーンをキング自ら取って、SMの女王様のようでありながら最初から囚われの身だったクイーンがプレイヤー様のもとへ。  だけど、わかっている。最強の駒であるクイーンをむざむざ捨てたということは、今の一手は値千金。誘い出されてしまったキングの裏を、次に動いた攻めのルークが睨んだ。近くの斜め列はビショップが睨んでいるから、私の逃げ道はもうほとんどない。 「んんっ」  白のポーンが私の斜め前に。ポーンはチェックメイトはできないけど、チェックならできる。……けど、何もわからずに進むことしかできないポーンは今の状況も把握できていないのだろう。今でも序盤のそれと変わらず、雑兵として使われ取られるのを待っている。……少し羨ましい。  しかもこれは釣り餌だ。キングはこのポーンを取る以外に生き残る道がないし……向こうの駒がどう役割を持っているか、私は気付いていた。 「……ん」  私が取ったはじめてのポーンだ。ペニスバンドで軽くお腹のあたりを突いてやると、待ってましたとばかりにそれは倒れた。やはりルーク以外だとポーンになった子が一番進んだマゾだという話は本当なのかもしれないけど……せっかく取られた後コレクションになる暇はないとわかったら、この子は残念がるのかな。  そうして動いた先を、白のナイトが咎めた。……もうポーン以外の誰もがわかるだろう。これは、チェックメイトだ。 「…………私の負け、ね」 「ぁふっ……ングっ、んむぅぅっ!?」  黒のプレイヤー様が部屋から出て降りてきた。彼女は私の肩を掴むと、そっと倒し転がす。当然ながら拘束されている駒である私は、なすすべなく尻もちをついて倒れ込むしかない。  私は両手を挙げて悔しそうな顔をするプレイヤー様を見上げながら、チェックメイトをかけてきたナイト……ポニーガールの蹄にペニスバンドの上から下腹部を踏みつけられた。そしてその瞬間、勝利者メニューでも発動したのか、全ての黒の駒が喘ぎながらふらつく。全ての玩具が最大で震え出したのだ。  他の生き残っていた駒たちも、好きにしていい場面だと察してそれぞれ動き出した。キングを睨んでいたルークとビショップは黒のプレイヤー様を体で挟み込み、それ以外の白は悶える黒を倒しては馬乗りになっている。何もせずにいたのは白のポーンだけだった。  決着がついたから、後処理に入った。まずは敗者である黒の駒が全員玩具を止められないまま集められて、その中央にプレイヤー様が放り込まれた。全裸に剥かれて開脚ホグタイに縛られ、刃のないギロチン台に設置されている。  これで一度記念撮影。私は命令を受けて、プレイヤー様の膣をペニスバンドで貫かされた。覆いかぶさったら気持ちよさそうだったから、小刻みに腰を揺らして快感を貪ってしまう。  それから、白のプレイヤー様と駒たちが画角に入ってもう一度撮影。あちらは玩具なしで、普通に立って後ろに写る。  そして、各々が身動きのとれない黒の駒たちを襲いはじめた。私のもとには白のキングが来て、ラバースーツの股間ジッパーでお尻の穴あたりだけを開かれた。そのままアナルバイブを引き抜かれて……代わりにペニスバンドで犯されてしまう。白のプレイヤー様は黒のプレイヤー様の固定された頭のほうへ回って、舌を摘んで遊んでいた。  白のポーンたちもそれぞれ黒の駒がいるところへ誘導されて、徹底的に黒の完全敗北が強調される形で最後の写真撮影。しかしもう誰一人として写真を意識しておらず、戦勝の宴が負け犬たちの喘ぎ声で染まる様子でシーンが締められた。 「お疲れ様でした、これで全ての撮影が終了となります。……白の駒の皆様は、ご希望なら拘束の解除ができますが、どうなさいますか?」  スタッフさんがそんなことを告げてきたけど、そもそも駒は32駒全てマゾだ。こんな場でまだもう少しだけ駒でいられるのだから、誰一人希望することはなかった。  ……そして、負けた黒の駒は撮影が終わっても白みんなに許されるまで自由の身に戻れないようだった。そんなことを言われてしまったら、ただでさえ終わらない宴がさらに伸びるだけなのに。  薄々察しはついていたけど、後日この後夜祭をオマケパートとして収録する許可を求めるメールが届いた。拒否権は全員にあったようだけど、さらに後になって届いた献品にはしっかり収録されていた。

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博物館イベントに行ってきました!

「楽しみねー」 「う、うん……」 「む、微妙な反応。冬花、実はそんなでもなかったりする?」 「そ、そんなことないよ。ちゃんと楽しみ」  入場列に加わってしばらく。もうすぐ入れるというところで、咲樹がまた繰り返した。実際すごく楽しみなのだけど、もう列に並んでからだけで3回目だ。咲樹はあまり考えてものを喋るほうではないから、こういうこともままあるんだけど。  それを自覚しているのかいないのか、少なくとも私のことをわかってはいる咲樹はひとまず納得はしたようだった。だけど、気になることは私の方にもあった。 「でも、ここでいろいろ見て……その後どうするの? 見ただけで満足できる?」 「たぶんできない。だけど、物販もあるから」 「それは知ってるし、お金も持ってきてるけど……どう使うの? 私たち、どっちもマゾだよ」 「まあそこは、交代でやってみるとか……それに、ここで出会いとかもあるかもしれないじゃない」 「まあ、こんな機会なかなかないのはわかるけど。ここで出会い目的をする人なんて、それこそ怖いよ」  親友の女2人で来ている私たちだけど、パートナーというわけでもなく両方マゾである。同じ風俗サロンで調教されている仲間でもあるんだから、当然なんだけど。  だからここで何を見て買ったところで、満足できるような体験ができるかは不透明だった。それでも行きたいと言うのだから何か考えがあるのかと思ったけど、別にないらしい。  まあいいか。常設ではなくイベントだから今しかないし、確かに深く考えず見に来ておくべきかもしれない。咲樹の言う通り何か機会があるとしたら、サロンは料金の都合で月に一度行けるかどうかなせいで欲求不満がちな環境にも変化があるかもしれないのも事実だ。  私たちはそのまま列に導かれて、期間限定展示イベント『SM博物館』に入った。あまり後のことは考えず、ここでは楽しめるだけ楽しむことにしよう。  ものがもの、というか露骨なアダルト系だから宣伝ルートは限定的だったけど、なかなか気合いが入っているイベントらしい。週末の夜限定の開催で今日で3日目だけど、先週ここに来た人はSNSで口々に絶賛していた。曰くSでもMでも楽しめた、曰く入場料が破格すぎる、など。  この手のイベントで入場料3000円は、成人向けで人を選ぶ内容ということを差し引いても安いというわけではない。それでも格安と呼ばれる理由を、私たちは入ってすぐに理解することとなった。 「…………凄い」 「壮観ね……これ、全部人なの……?」  入ってすぐに見えたのは、展覧会にはありがちな大きなショーケース。その中にいくつものマネキンが並べられて、それぞれが拘束具を装着している。そして手前のショーガラスや看板に説明文が用意してあった。  ただ……そのマネキンたちが、動いているのだ。肌色の全身タイツで頭まで覆って顔は隠しているけれど、拘束されたまま人間だと隠しもせずに動いている。  当然そうすれば拘束具がどれだけ動きを制限しているのかがわかる。手枷だけのものは手を振ることもできているけど、アームバインダーのものは腕を上下にぱたぱた振るくらいしかできていない。そういう意図の展示なのだろう。  だけど、単純にそうと受け止めるには情報量が多かった。ショーケースの中に人が入れられて、展示されているのだ。それもショーツのような形のスタンドに固定されたまま。その異常性にばかり意識が向いて、単純な拘束具のほうへあまり意識を割けない。  彼女たちもそれはわかっているのか、たまにスタンドから逃れようとする動きも見せてくれる。ただそちらは拘束具などとは比べ物にならないほど、びくともしていなかった。 「……ねえ。あれ、スタンドの中どうなってるのかしらね」 「え?」 「だって、あんな形で腰を固定しておいてさ、こんなことするイベント運営がそれだけで済ませる? ショーケースで音も届かないのよ?」 「…………あの中にオモチャとか、入ってるかもしれないってこと?」 「ええ。あの人たちはそれにひたすら耐えながら、モノとして展示されて楽しんでるかもしれないわ」  さすがにトンデモだ……と言おうとしたけど、確かに有り得なくはない気がしてきた。分厚いガラスのせいで誰かが喘いでも、振動音がしても聞こえないのは確かだ。表情も見えないし……悶えるような動きはしていないけど、それも拘束具でそう見えなくされているだけかも。  想像するだけならタダ、というだけではあるけど。もはや妄想の領域だけど、そういう楽しみ方もあるのかもしれないし。  次のエリアもショーケース展示だったけど、少し形が変わってきた。勘繰ることのできたスタンドはないけれど……それはつまり、スタンドが必要ないほど拘束具のほうがしっかりしていることを意味する。 「さっきのは気軽に手を出せるものの見本、って感じだったけど……こっちは完全に展示品ね」 「ちょっと歴史上の、まっとうな展示みたいにも見えるけど、マネキンはちゃんと人だね」 「まあ、中世の拷問展とかやるとしても、普通ならただのマネキンを使うわよね」  たとえば拘束椅子とか、首と手を固定する晒し台とか。磔は脚を閉じた中世式も釘ではなく縄での固定になっているけど、やっぱり脚を開かせた日本式のほうが恥ずかしそうだ。  火をつける前の火炙りらしき柱への括りつけとか、竹を三角にして首を固定した時代劇で見かける晒し緊縛とか。珍しいものだとガミガミ女のバイオリンなんかもあった。首と手を固定するところは同じだけど、手首が首の前に縦に並んでいるものだ。手の配置が男性器への奉仕のように見えるため不貞を働いた女性への刑罰だった、とのことだけど……マネキンが手をわきわき動かしてくれたから、確かにそう見えてきた。  ……こうしてみると、人間をマネキンとして使うことに意義が見えてくるのが憎らしい。いやらしくて見応えがあるだけでなく、その拘束がどんなものなのか、どういう使われ方をしたのかが目に見えてしまうのだ。  とはいえ、さすがに普通の展覧会でできることではないだろう。ここだけの特別な展示品ということで……確かに、安くない入場料を払った甲斐はある気がしてきた。ただ、パンフレットによるとまだショーケースの区域だけでも半分も見ていない。その後には……体験コーナー、と書いてある。それはもう楽しみなんだけど、だからといって手前のここを素通りする気にはならなかった。 「これがマミフィケーション……やっぱり相当動けないのね。気になってはいるんだけど、機会がないのよ」 「これ、SMなのかな……そうといえばそうなのかもしれないけど、さっきから拘束中心な気がする」 「最近話題の国産拘束具工房も協力してるって話だもの。それにSMで展示となると、動かさずにショーケースで飾っておけるのは拘束になるんじゃない?」 「まあ、確かに。他のはこの先のコーナーなのかな……っと、展示はここまでみたい」  展示コーナーの後半はボンデージ衣装を着て文字通りのマネキンにされたものや、現代のニッチなプレイで使うようなものが並べられていた。女王様系のボンデージだけはスタンド以外の拘束をされていなかったけど、それがかえって物足りなそうに見えたのは気のせいだろうか。  そこを抜けるとようやく開けた空間に出た。実際の博物館でもありがちな構成だ。そしてそこで最初に見えたのが……。 「本日はSM博物館へお越しいただきありがとうございます。もしこの先で体験コーナーをご利用になるのであれば、我々ラバードールガイドがご案内させていただきます。いかがなされますか?」 「凄い……じゃあ、お願いします」 「かしこまりました。お客様方は私、8番がご案内させていただきます。よろしくお願いいたします」  これ。頭までラバースーツに身を包んで、目と鼻と口しか露出していないスタッフさんだ。しかも自分たちをラバードールと自称した上で、番号で区別され名乗っているという凄まじさ。ついさっきまでは展示内容はともかく来場者のいる場所は博物館そのものだったのに、一気に非日常感が増してきた。  しかも番号管理を裏付けるように、待機所には同じ格好をして番号以外で見分けがつかないラバードールガイドが2人ほど控えている。……スーツのお腹部分に大きく数字が書かれているのも、人間なのに備品らしさを強めていて背徳感を煽る。 「ではお客様方、どこからご覧になられますか?」 「えっと……全部見ていくつもりなので、近いところからお願いします」 「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」  ここから先はケース展示と体験コーナーが併設されていて、順路らしい順路もなく好きに回れるようになっているようだ。……この手の博物館にしては珍しく、混雑防止の列に並べば最初に戻ることもできるようだから、結局どれも好きに見ることはできるけど。  ただしケース展示は体験コーナーと同じ内容になっていて、体験するなら見る必要がないらしい。あくまで見に来ただけの人やあまりSMプレイに慣れ親しんでいない人たちはガイドをつけずにそちらを見ているようで、ガイドを連れているかどうかはまちまち……見たところ半々くらいだった。これに意外だと思ってしまうあたり、私もけっこう染まっているのかもしれない。  最初に向かったのは、この大部屋の一部を仕切ったブース。外に比較的たくさんのショーケースがあるそこに入ってみると、なるほど視線を遮る理由がわかった。  用意されていたのは、壁に並んだお尻。用途別に上下を用意されている、壁尻というものだった。一部はラバースーツを纏っているけれど、これまでと違って裸のものもある。こういう生々しいものを見たくない、距離を置いたただの展示として見に来た人も楽しめる設計になっているわけだ。ブースの外ではラバースーツはともかく、人の裸は見ずに済むようになっている。 「こちらでは玩具の体験が可能です。こちらでは壁尻への装着と鑑賞を、そしてあちらではお客様ご自身での着用を受け付けております」 「なるほど……」 「それなら、試してみてもいいかしら?」 「はい。ただし生身となっておりますので、合図がありましたらお手を止めていただきます。……ご説明いたしましようか?」 「いえ、身をもって知ってるから大丈夫よ」  なんとこの壁尻、一部の玩具を実物で試すことができるらしい。ガイドがついていないと入れない上に触るには使い捨て手袋を着けなければいけないから滅多なことはないとはいえ、思い切った展示をする。  そして咲樹も、思い切ったことを言う。ちらりと背後の空間も見ながらだから意思表示も兼ねたのだろうけど。あとは、おそらく音は聞こえるであろう向こう側にも聞かせる意図もあったのかも。  一番手前は普通のバイブだ。もちろん前の穴のほうに使う。……気付いたけど、この壁尻はどうやら全部剃毛している。展示品としての清潔感のためだろうけど、妙に幼く見えて背徳的だ。  咲樹がバイブをゆっくり沈めていくと……壁の奥から小さな喘ぎ声が聞こえた。それに、びくりと小さく跳ねるお尻と体の反応。私たちには見覚えもある。これは本物の反応だ。いくつかはお尻が引っ込んでいて休憩もあるようだけど、こんな役目をやっている人ってどういう経緯でこうなったのだろう。壁尻に限らず、マネキンもガイドも。これがボランティアならそれこそ知らない世界だし、お仕事ならいよいよ知らない世界だ。少し……興味はあるかも。 「わ、出てきた。休憩ってそんなふうにするんだ……」 「これ……お尻に使うのよね?」 「はい。アナルフックですので、肛門へ挿入していただいて、こちらの金具へつけていただけると」  大半が知っているものだったけど、単純に楽しかった上に見たところ壁尻がみんな期待しているようだったから順番に軽く試していった。こんな展示なのに疲れている様子のものも少ないし、案外やる人は少ないのかもしれない。  ひととおりやった後、まるで焦ったかのように出てきたお尻に注目。アナルフックというと……お尻の穴にフックの先を引っ掛けて引っ張るのか。実際に試してみて、ゆっくり挿入したフックを尾骶骨の上あたりにある金具へ向けて引っ張ってみると……。 「ん、ぅっ、ぁ…………」 「………凄いですね、これ。こんなふうに見えるってわかっちゃうと、特に」 「うわ……これやってみたいかも。体験、いいかしら?」 「もちろんでございます。ではこちらに……」  お尻の穴が少し縦に開かされて、深く食い込んでいるのがよく見える。確かにこれは自分で着けてみるだけではなく、着用した様子を見るのも大事だ。誤解のしようがない現実を見せつけられて、自分で着けたとしてもこうなるのだとわかるせいで一気に興味が増す。  それを知っているのか向こうからの声は他のよりも恥ずかしそうで、それになけなしの嗜虐心を擽られたのか咲樹はフックを繋いだまま手袋を外して体験のほうに行ってしまった。しかも8番さんもそれにあっさりついて行ってしまったから、私も迂闊に触れなくなっている。……たぶん、私たちがここを離れるまでこのまま、ってことだよね。  一応、あの壁尻は定期的に向こうで並びも入れ替わっているそうだから、ああいうことをしても開きすぎたりなんて心配はないそうだった。確かに、そうでないと混ざっていた鞭の担当なんかは体がもたないだろう。  ……だからといってあのまま15分も放置はかわいそうだったし、外す頃には何もないほうの穴もとろとろになっていてすぐ引っ込んでしまったけど。  ともかく、そろそろ次のへ向かうことにした私たちは、今度はペットプレイのブースへ入った。……まあ、アダルトトイのブースがあれだったから、何があるかはなんとなく想像がつく。  その想像に違わず、中は博物館というよりは動物園だった。 「やっぱり……いいわね、こういうの」 「ちょっとやってみたいかも……」  本来ならジオラマ展示などのためのケースだろうか。奥行きのある箱の中で、それぞれ違った装備をしたペットたちがくつろいでいる。オーソドックスな……といっていいのかわからないけど、いわゆる普通のヒトイヌが寝そべっていたり。後ろ足だけが同じで前足は肉球のついたミトンを被せられているだけの猫がボールを転がしていたりする。  SMプレイの範疇といっても責め立てられているわけではない、制限だけを与えられている状態は私たちにとっては未知の領域だ。よくは知らないけど興味はあるかもしれない。  しかもここ、こうして見るだけではなくふれあいコーナーも用意されているようだ。全体で5匹ほどいて、うち2匹はそちらに出ているらしい。……このイベント、何人スタッフがいるんだろう。 「かわいい……あたしたちもこんな風になれるのかな」 「んぅ、ぅっ、んむぅ……んんっ!」 「なれるって? ありがとうね、頑張ってみるよ」  これがまた人懐っこくて、思っていた以上にすごく可愛らしい。ペットに人間のえっちなんて不要とばかりに貞操帯を穿かされているけど、尾骶骨のあたりにあるスイッチを素手で叩いてやると中に入っている玩具が動くようになっていて、自分たちではできないそれをねだりに寄ってくる。  徹底的にスタッフの顔を隠しているこのイベントらしく美少女着ぐるみの頭を被ったものから、ちょっとニッチに犬の形をした全頭マスク(ドギーマスクとか呼ぶらしい)を被ったものまで。正面からもたれかかってじゃれついてきたり、膝の上に横たわって撫でられたがったりと色々だけど、不思議とどれもちゃんとペットっぽいのだ。 「この子たちは簡単な芸もできますので、ぜひお試しになってみてください」 「そうなんですか? それなら……おすわり」 「んっ」 「お手」 「っふ……」 「いい子。……えっと、ご褒美あげなきゃね」 「んぅっ!? むん、ぅぅ……!」  8番さんに促されたからドギーマスクのヒトイヌさんにやってみたけど……これもいい。芸なんてやらせてしまうと、一気に屈辱的になって恥ずかしそうになる。これは確かにSMプレイだ、どこか身近になって心惹かれてしまう。  ただ咲樹はともかく私は本当に責めの経験がないから、物欲しそうに上目遣いにされてやっとご褒美をやることに気付いた。こういう仕草も様になるのと、ペットは人間の言葉を使えないから喋らなくていいのは特徴かもしれない。 「来る前からわかってはいたけど、こうして見てるとどんどんやりたくなってくるわね」 「わかるけど、融通のきく責め様を見つけてからでしょ?」 「……失礼ですが、お客様方。パートナーをお持ちというわけでは……」 「あ、ないんです。調教サロンに通ってる仲間ってだけで」 「なるほど……不躾を申しました、お許しくださいませ」  私も咲樹もどんどん本音が隠せなくなってきたけど、これに意外なことに8番さんが反応した。単にガイドというだけなら何もおかしなところはないけど、自分たちをラバードールと自称するような立場のひとが私たちのプライベートに興味を持つとは思わなかったけど。  答えを得てからすぐに引き下がったけど……何か考えているように見えるのは、気のせいだろうか?  名残惜しくも次のお客さんが来たところでふれあいコーナーからも離れて、次のブースへ向かうことにした。  残るメインブースは2つ、そのうち近い向こうのところに……と、ふと会場内の時計に目を向けた8番さんが声をかけてきた。 「お客様方。まもなくショーの時刻となりますので、順番を変更してショーブースへご案内してもよろしいでしょうか?」 「もちろん。時間が決まってるのがあるならそっちを先にしましょ、見られるものは全部見たいもの」  ということらしい。30分に一度のショーに時間を合わせるため順番変更をすることになった。  このショーも2人で楽しみにしていたものだった。負担が大きく常設展示にできないような、ハードなものをまとめているというのだから自然とそうなる。  このショーブースは演者と観客に距離ができるからか、例外的にガイドを連れていなくても入れるらしい。これも博物館にはよくあるシアター設備の流用で、映像を流す代わりにプレイを見せるようだ。 「皆様、拷問ショーブースへお集まりいただきありがとうございます。これより17時の公演を始めさせていただきます──」  もう入場から3時間以上が経っていたらしい。しかしそれに驚く暇もなく、すぐにショーが始まった。ここでは初めて見たかもしれない明確なS側のキャストさんが、1人ずつ出てくる様々な姿の展示品たちを次々と彩っていく。……そう、ここは主に拷問に使われたような行為を中心に披露する場所だ。  アイマスクで顔を隠したひとに縄を走らせ、その道では素人の私にもわかるほどの早業で的確に縛り上げては綺麗な吊りを完成させたり。全裸に全頭マスクという背徳的な格好のひとを台の上に転がして、玩具ブースには置けなかったのであろう蝋燭を垂らして悲鳴を響かせたり。 「ぅ、ぐっ、ぁぁっ!? むぐ、っく、うぅ……!!」 「あれが……」 「初めて見た、というか、これもプレイとして成立するんだね……」 「駿河問いは見た目ではただの吊るしとあまり変わらないようにお見えになるかもしれませんが、全ての関節が極められて非常に苦しいものもなっております。今回は負担の都合上割愛させていただきますが、背中に錘を置いたりすることも……」  薄手の着物を着て手ぬぐいで目隠し猿轡をされているひとの手首と足首に縄をつけて、それを背中側にまとめるように吊るす。一見するとシンプルで、海老反りの形で吊るしているだけだ。だけどこれは日本の有名な拷問で、石抱きなんかよりもよほど厳しかったらしい。  ただ、そんな駿河問いを受けているひともどこか気持ちよさそうな声色が混ざっているのがさすがだ。そのくらいの本物のマゾだからこそできるプレイでありショーなのだと伝わってくる。 「拷問といえば三角木馬は有名なのではないでしょうか。見かけに反してそうは耐えられる痛みではございませんので、この場ではこのように柔らかいウレタン素材のものを使用しておりますが……」 「……っ、あ!? ぃぎっ、さっ、さけちゃっ、!?」 「この通りでございます。……もっとも、これの場合は数分程度で壊れたりはしませんが」  続けて三角木馬にレオタード姿のものが跨らされた。特に相性のいい衣装に見えるわけではないけど、、食い込み方がよく見えてどれだけ厳しいものなのかわかりやすい。頂点部分の表面だけ指が沈むほど柔らかい素材になっているのに、そんなものは気休めにしかならないとばかりの悲鳴が聞こえてきた。  脚は畳んだ状態で縛られていて、木馬の側面は腿で挟めないようにかつるつるにコーティングされて光沢を放っている。あれは……いったいどれだけ苦しいのだろう。仕組みも部位もわかっていても、想像が正しいのか自信がない。私が思っているよりもよほど痛そうな反応をしているのだ。 「……なんでもありね、ここ」 「なんでも見れるね……耐えられるひとをこんなに、どうやって集めたんだろ」  それからもしばらく拷問ショーが続いた。舞台端には単なる吊り責めを残しながら、やはり厳しいのか数分と経たずに説明が終わるごとにすぐに解放されて次々と入れ替わっていく。無理もないのかもしれない、これだけのことを一時間おきに一日に何度もやっているのだ。  水車責めが回る様子を見ながら、ここでもいいものを見られたと8番さんにも目で伝えようとして……しかし彼女がいないことに気がついた。  すぐに視線を戻していると気付いたら戻ってきていたけど、ガイドがふらっとどこかに行くなんて考えにくい。……このとき何が起こったのかは、すぐにわかることとなった。  それから残りも全て回りきって、そろそろ会場を出ることになった。あとは外の物販だけだ、何を買うかが一番迷うのだけど。  しかし、出口の手前になって、8番さんがふと立ち止まった。 「最後になりましたが、お客様方には特別にひとつプレゼントをご用意しております。よろしければこちらを開かずに、あちらのゲート内におりますものにお手渡しくださいませ」 「え? ええ、ありがとう」  手渡されたのはごく普通の封筒だった。私と咲樹の合わせて二通ぶんあって、手触りからして中身は紙が一枚か二枚ほど。8番さんのラバーマスクの奥からは、真面目くさったような期待するような瞳が覗いている……気がする。  そういうものもあるのかと一瞬だけ思ったけど、ちょうど別のガイド連れが横を素通りしていった。彼らは封筒なんて持っていないから、本当に誰にでも渡すものではないのだろうか?  その場では何も教えてくれなかったし、開かないままと言われているものを見られながら開くわけにもいかない。ひとまず持ったまま歩き出したけど、どうせ会場外に出る前に誰かに手渡すならどうしてこんなまわりくどいことをするのだろうか。  と思っていたら。 「では、本日はご来場、およびご利用ありがとうございましたまたお越しくださいませ」 「……こんなところまで徹底してるのね」  8番さんは出口ゲートの中で所定の位置に立つと、上から降りてきた黒い筒にすっぽり覆われた。足元で筒が固定されて、口元に出た呼吸用の管を咥えると……管から空気が抜けて、気をつけをしたまま圧縮されてしまった。バキュームチューブというやつのようで、外からはもう数字すら見えずに女の人の形だけになっている。  それがそのままコンベアで運ばれていって、暗幕に隔てられた向こうの部屋の中に消えていく。そこで気付いた、位置的にはあの向こうは広間の入口だ。ということはガイドはここで物のように回収されると、そのまま次の出番が来るまでバキュームチューブで待機させられるのだろう。とことん想像と背徳感を煽ってくる、好き者をよくわかった演出だった。  ……それで。封筒を手渡す相手は……すぐに見つかった。ゲートエリア内の端っこのほうに、何か事務作業中らしき白衣の女性がいたから。もはやそちらのほうが変にさえ思えてくる、入口外の案内役以来のまともな格好だ。  よくはわからないけど、8番さんは私たちの何かを見て常にあるわけではないこれを用意した様子だった。それが一体なんなのか、確かめずに帰るほど私たちの熱は冷めていない。声をかけてみることにした。 「あの」 「はい? 何かお困りでしょうか?」 「あたしたち、これをもらったんですけど」  封筒を差し出すと、白衣の女性の目の色が変わった。手招きされるままに近寄って手渡し、取り出された紙を覗き込むと。 「……紹介状?」 「どうやら、8番はお二人に当館のスタッフとしての適性を見出したようですね」 「スタッフの適性って……まさか」 「いかがでしょう? 当館に存在するあれやこれ、自分もなってみたいとは思われませんか?」  まだ、ここの形態が実際にどうなっているかとか、どんな条件で迎え入れてくれるのかとか、そんなのは何一つ聞いていないけど。  示し合わせる必要もない。二人同時に、一も二もなく頷いたのはもはや言うまでもないだろう。

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マゾペットたちの拘束運動会

「宣誓! 私たちは、スポーツマンシップとマゾヒズムに基づき! 正々堂々と戦うペットとなることを! 誓います!」  …………某日、先日ついにミスト・スランバーがプレオープンしたヒューマンファームにて。まだ常用されていない競馬場予定の広いスタジアムエリアを使って、私たちはある企画の撮影をすることになった。  正直、参加している私からしてみても馬鹿みたいな企画だ。だけど、ここ十数年で急激に性に寛容になり文化として大きく認めるようになったこの国では、希望した人間を家畜として飼って観光資源にするテーマパークが大真面目に成立してしまっている。それを思えば、これもありえないことではないのだろう。  これはミスト・スランバーのテスター組によって行われる、ペットプレイ運動会。たまたま居合わせた幸運な来園者の観覧を認めて、今回はなんと会員サイト以外にもマニアック物のAVとして発売することになっている。ただ、そちらで使う映像では後ろ姿やモザイクが駆使され、そもそも本編中は全員がそれぞれ全頭マスクのたぐいを被るから顔は映らない。  そうして販路を広げて巡りをよくすることで、予算を増やしてより大掛かりなことができるようになるとヒューマンファームで学んだのだろう。私たちとしては、学生生活を終えて正式に社員になるまでの生活に支障さえなければ気にしていなかった。  それで、ペットプレイ運動会は何をするのかというと……まあだいたい字面通りだ。これから私たちはそれぞれの姿に拘束され人ではないペットになって、運動会でやるような種目で戦う。2つのチーム、4つのゲームでそれぞれ一騎打ちが行われて、総勢8人による競技のあとチーム勝敗が決まる。……罰ゲームがあるとは特に言われていないから、負けたチームにはそんなに重くない何らかの罰ゲームがあるのだろう。今回も企画進行であるご主人様とシノ様のコンビの考えることは、私たちには想像がつく。  まあ選手宣誓はほとんど悪ノリで撮ることになっただけの場面だから、さっさと競技に移ってしまおう。  第一競技。犬による借り物競争だ。まずは出場するカノンさんを拘束していく。 「つけてきますね。痛かったら言ってください」 「うん」  まずは元々着ていた露出控えめのボンデージを脱がして、一気に全裸にしてしまう。種類によって格好はそれぞれ違うようだけど、犬の場合は拘束具しか着けてはいけない。  カノンさんはそういう経験がなかったようで、屋外の会場で裸になるのは恥ずかしそうだった。ただそこは比較的ベテランのテスター、すぐに深呼吸で上がった息を戻して、マットの上で四つん這いになる。  私たちはそこに一つずつ、ヒトイヌ拘束具をつけていく。この過程もしっかり収録して、どうなっているのかを初見の人にもわかるようにするのだとか。  後ろ脚を曲げてもらって、畳んだ膝の上から拘束具を被せる。アームバインダーの要領で三角形の革拘束具へ脚を入れると、外側を周るベルトを締めていく。これで膝が伸ばせなくなるから、こうして短い脚を四つ作るのだ。  脚が完成すると、我慢しきれないのかカノンさんは息を荒くし始めた。私たちは拘束を続けて、より外れにくいよう背中側に伸びるベルトをX字になるよう繋げる。 「挿れていきますね」 「うん……ん、ぁっ」 「こっちも」 「んぁー……ぁぐ」  続けてお尻の穴に尻尾プラグを挿入。私たちは日常的にあれこれプレイをやっている変態だから、ほんの少し解すだけでプラグは入ってしまう。  そして、いつだかに使ったことのある犬マスク。顔全体を耳飾り付きのベルトで拘束しながら猿轡を噛ませて、犬の顔の形をしたマスクを顔の下半分に。猿轡部分を噛めばマスクが開くけど、それをサボるとマスクが完全に閉じてしまって息ができなくなる、というやつだ。今回はこれを改良して、物を咥えられるようになっていた。  そこまで装着が済めば、カノンさんは自力で運営本部まで歩いていく。向こうからも同様に犬が歩いているけど、このよたよた歩きも観客や視聴者を楽しませるものだ。  丸出しの秘部を隠せず、胸と尻尾を揺らしながら、増えてきた観客も見える大きなビジョンに映されて恥ずかしそうに歩いていく。本部に入って少しすると二匹とも出てきたんだけど……気のせいでなければ、さらに少しふらついているような。 『ルールを説明します。グラウンドに置かれたゲートに到達した犬は、待機メンバーの出す芸をこなすとゲートを通れるようになります。そこで体のどこかに隠された探し物を取ってもらい、それを借りて中央まで先に持ってきたほうの勝利です』 『では、はじめ!』  借り物競走と呼ぶには少しスタンダードではないけど、見せ場を増やすためだろうか。中央に向かう時より素早く歩いてみせたカノンさんは、競馬場にあるようなゲートの前に辿り着くとこちらを見て止まった。……このゲートは、ここでポニーガール競馬をやる予定で作ってあったものだろうか。  スタッフさんから手渡された芸を記した紙にあったのは……「おまわり」。ただ、声は正確に届くかどうか微妙だ。 「ジェスチャーの方が伝わりますかね?」 「うん。……こう、かな」 「あ、伝わった!」  チームメイトのメルさんが腕を掲げて回してみせると、それでカノンさんにも伝わった。これ、本物の犬にも通じることがあるジェスチャーなんだっけ。  くる、くる。自分のしっぽを追いかけるように3回回った犬の前で、ゲートは開いてくれた。向こうは……しっぽふりふり、らしい。カナも楽しそうだ。  カノンさんが歩いてくる。…………こう見ると、すごく背徳的というか。そもそも私たち全員がイケナイことをしている感がすごい。ポニー合宿のときは必死だったし、5人しかいなかったからわからなかったけど、開けた場所でのこういうプレイって、思っていたよりもずっとクるものがある。自分がやる側だったら、なおさらなのかな。  少しして、なんとか犬が到着した。けど……探し物というのがどこにあるのか、それどころかどんなものなのかもわからない。 「………んっ、んぅ!」 「えっと……おしりの方?」 「んぅ……っ、」 「もしかして、ここ……?」  ただ、これは本部で仕込まれて知っていたカノンさん自身が必死に教えてくれた。後ろの方というジェスチャーで見てみると……ワレメがアピールするように動いている。それに気付かれてすぐ、恥ずかしそうにやめてしまったけど。  気持ちはわかるからスルーして、試しに膣の中に指を入れてみると……あった。 「はい、これ! 行ってきて」 「うぅ……」 「これ……ひどいですね」  アナが呟くけど、私もそうだと思う。だって、カノンさん、自分が今膣内から出産した、パーク内の鶏たちがいつも出している卵代わりのピンポン玉を犬マスクに挟まれているのだ。自分の愛液に塗れたまま、外からも見えるように。  挟まれたピンポン玉のおかげで閉じなくなったから、猿轡を噛む必要はなくなったけど……競走とはいえほとんど走るくらいカノンさんが早かったのは、きっと屈辱だったからだろう。  ただ、 『勝者、カナ!』  向こうも全く同じだった。恥ずかしすぎて必死に走ったカナがタッチの差で勝って、私たちは黒星スタートに。少し厳しくなったけど、第2試合のメルさんならきっと大丈夫だろう。だって、次の試合は……。   ◆◇◆◇◆  第2種目はヒトネコのしっぽ取り。私にとっては少し自信がある。  というのも、四つん這いで細かい動きをすることが得意なのだ。私は平然系と呼ばれるちょっとした隠し芸があるけど、それが役に立たずとも問題ない。  まずは拘束。犬とは打って変わって、猫はそこそこ面積のあるボンデージを着ていられる。それはどちらでもいいんだけど、拘束も緩いのだ。前脚はひとまず拘束もされずに手袋をつけるだけ、頭にもつけ耳くらいで口枷もない。  競技の鍵として用意されたのが、3本の猫尻尾。これを順番にお尻に挿入して、相手に引き抜かれたら負けだ。ただ、一度勝つごとに前脚の拘束が厳しくなるそうだから、おそらく最後まではもつれるだろう。さすがの私も、たとえばヒトイヌ拘束で前足が自由な相手に勝てはしないだろうし。 『では、一本目を』 「いきますよ」 「ん……っ」  一本目の尻尾。一番抜けやすいやつだ。私たちにとっては物足りないくらいの、指一本程度の細いディルド。ミカに挿入してもらったけど、やはり心許ない。  でも、一番の新参であるミアに負けるつもりはない。 『はじめ!』 「いただきっ、」 「甘い」 「ひぅんっ!?」  やはり緩すぎるからか、勝負は一瞬でついた。即座に攻めてきたミアを正面から受け止めて、受け流すより先に自分の下半身を外に逃がす。向こうの手が届かなくなったところで流して、カウンターで尻尾を掴めば終わりだ。  可愛らしい声で尻を刺激されて喘いだミアから尻尾を奪って、一度戻る。一勝した私は前脚をより不自由にしなければならない。 「これ?」 「はい。付け替えますね」  どうやら手袋が肉球付きのミトンに変わるらしい。これだと今のようにはものを掴めないから、方法を変えなければならない。  向こうからは少し顔が赤いミアが戻ってきて、第2ラウンド。 「ふっ……!」 「ん……気持ちよくなっちゃ、だめ……っ!」 「ふにゃっ!?」  先手は取って手を伸ばしたまではよかったものの、掴めないからそれだけでは尻尾に逃げられてしまった。その間に体を差し込まれて、向こうはまだ手袋だった前足であっさり取られてしまう。  ……いくら平然系といっても、不意に刺激されても反応しないほどマグロではない。不覚ながら変な声が出て、腰が跳ねてしまった。  尻尾を失って自陣に戻ると、次に着けるのは……直径3センチほどのアナルパール。これなら確かにさっきのミアのように我慢はできそうだが……過信できる太さではない、か。  第3ラウンドは条件が同じになったから、なんとか機動力で勝って背後に回り両手で尻尾を掴んで勝ち。たださらに拘束を受けたその次は、全く勝負にならず簡単に負けてしまった。  ルールを聞いた時点でなんとなくわかっていたが、これは最後に勝った方がそのまま勝つ戦いだ。ここまでの4戦はせいぜい、私たちの体力を削りつつ見世物になっただけ。……その見世物が最重要だから、意味はあったのだが。 「…………これ、か」 「はい。力抜いてください」 「ん……ぁ、ふ、んぐ……!」  そして3本目の尻尾は、直径7センチとある極太プラグだった。こんなのは普通に引っ張られても抜けない気がするが、抜けないなら抜けるまで戦いが続くだけなのだろう。ここまでで解れていたおかげもあって、さほど追加で解すこともなく挿入はできた。  そして向こうでは、ミアが私と同じように前脚までヒトイヌ拘束をされている。第一競技の犬はマスクしか外してもらえずにヒトイヌのまま陣で見ているから、今この会場にはヒトイヌが四匹もいる。たぶん私たちも競技が終わってもこのままなのだろう。  準備が終わって、完全装備になった二匹が相対する。……これが最初から想定されていたのだろう、そう思えるほど背徳的で惨めな光景をしている。  ただ、私たちがすることは善がることではなく勝つこと。見栄えなんて副産物だ。 「んっ、はっ、はっ……これ、ぜんぜん違います、ねっ……!」 「うん。だけど、悪いね」 「あっ、」  まだプラグに馴染んでいないせいで響く上に抜けやすいのは私のほうだが、ミアはその分ヒトイヌに慣れていない。私は気持ちよくなりすぎておらず、ミアはヒトイヌで疲れていないともいうが。  どちらが有利なのかはわからないが、とにかく。やはりそもそもの動作で、私のほうが少し上手ではあるようだった。しばらく前脚で攻撃しあっていたが、隙を見て前脚を外側に払ってやるとバランスを崩して、大きめの隙を見せた。  だが。 「そんな気は、してましたっ!」 「なっ……まずっ、」 「勝負、ですっ」  そのまま仰向けに転がしてしまうつもりだったのだが、踏みとどまって数歩ふらついたミアは私の背中に払われた脚を下ろした。これで私も体勢が崩れてしまって、結局仰向けになったミアに誘導され真上に。つまり、シックスナインの形になってしまう。  やはり考えることは同じだったらしい。ヒトイヌで手が全く使えないまま極太プラグまで抜こうとするなら、尻尾を口で咥えるしかない。お互い迷わず口で掴みかかった私たちは、同時に互いの尻尾を咥えて引っ張り合うことになった。 「ぁぐ、んぅ……っ、ふ、んぐ……!」 「んむ、うぅっ、んぉ、ぁっ!?」  そのまま我慢比べになったのだが……上を取れた優位性と、武器である平然がここで活きた。体で押さえつけて動きを封じたことで私だけが反動を使えた上に、この状況で尻尾を引っ張られるのは「わかっている刺激」だ。私が得意の我慢をしている間に、肛門を裏から擦り上げられて喘いでしまったミアが口を離した。 「ふっ、ん、う!」 「ぁっ、だめ、いっ、────っ!?」  そのまま一気に引き抜いてしまうと、ミアは明らかに絶頂して転がったまま起き上がれなくなった。抜いた尻尾を咥えて戻る私に尻を向けて振られながら、無様に転がって痙攣してしまったミアの様子とぽっかり開いた穴が、じっくりカメラに映されていた。  ともかく、これで一勝一敗。前半の私とカノンはヒトイヌのままで戦力外……それも私は極太の尻尾を抜いてもらえないままだから、あとは後輩たちに任せるしかない。  確か次は、アナの出番だったはずだ。   ◆◇◆◇◆  先輩たちはどうだったかわからないけれど、あたしは開始前からすっかり興奮してしまっていた。その原因は、あたしと対戦相手の子が担当する動物。……蛇だ。  拘束そのものは単純だ。裸から直接、鱗のような特殊な肌触りの蛇スーツを着るだけ。ただこのスーツが曲者で、手も足も当然のようにない。それどころかジッパーすらなくて、完全にただの袋である。  ではどうやって着るのかというと、一度裏返してからローションをまぶして、少しずつひっくり返しながら履いていく。腰まできたら腕も真横にぴったり揃えて内側で固定して、そこからも引き上げてもらうのだ。最後は唯一の入口である蛇の口に丸呑みされるような形で頭まで覆えば、バキュームチューブですらないシンプルな蛇スーツ拘束の完成。  伸縮性はかなり高いけど、腕は同じ素材の拘束リングに手首を固定されるから中で動かして脱いだりはできない。それどころか足だけはつま先まで伸ばすよう強制してくる力が強いから、立っていることすらできない。今だってコースのスタート地点までわざわざ 運ばれてきた。  そう、コース。あたしと、こないだのスウツ試験でミスト・スランバーに入ったペットのうち一人は、 ヒトヘビ障害物競走に臨むのだ。 『よーい、スタート!』 「……っ、ふっ、ん……!」 「ふっ、ぐ、んぅ…………」  人数合わせで打診したら参加してくれたというこの子は、普段は兎として羞恥系をやりながら社員さんに可愛がられている。ただ今回は来る時からずっと全頭マスクを被っているし、素顔はあたしでも知らない。一応まだ学生で、あたしたちのように割り切って慣れたりもしていないから、卒業して本格的にペットになるまでは身バレの可能性を可能な限り減らしたいのだとか。  なんにせよ、あたしはこの子に負けるわけにはいかない。これでもテスターとしてもマゾとしても先輩だし、あたしはあのスウツ品評会のときに玩具役として蛇になって参加もしていた。ヒトヘビとしての動作にかけても、一日の長くらいはあるのだ。  基本の動き方は、こう。うつ伏せから脚を前に引き膝を立てて、お尻を突き出すように持ち上げながら膝で蹴るように上半身を前へ滑らせる。ずっと地面を這い蹲るから他のどれよりも屈辱的だけど、そこで妥協して上半身を浮かせたりするとすごく遅くなる。  ところが兎しか経験のなかった向こうはまんまと起き上がる動き方をしていたから、最初の直線で少し差がついた。すぐに気づいて真似してきたけど、リードがあるのは安心感がある。 わざわざ蛇のために作られたコースはおもちゃのようなプラスチック製で、少し滑るから人が上を競争するような素材ではない。そういう細かいところでも人間ではないことを思い知らされてくれる。ヘビにとっては体を滑らせやすく、しかし膝も滑りやすいから気をつけなければいけないか。 「ふ、っ……このまま、っ」  このコースには三つの難関がある。最初のコーナーを曲がったらまずはひとつめ、網潜りゾーンだ。よく人間の障害物競走でも置かれるものだけど、ヘビにとってはより難しい。手で掻き分けたり網を上にずらしたりできる人間と違って、ヘビは頭から突っ込むしかないから。  かなりの屈辱を味わいながら頭から網の入口をくぐって、そのまま前に……進もうとしたところで気がついた。 「う、ぐっ……!?」  あたしのここまでの進み方は、上半身を引きずりながらお尻を突き上げるものだった。これが恥ずかしい代わりに速かったんだけど……ここでは上に網があるから、ほとんど真上にお尻を上げるときに重い網ごと持ち上げないといけなかった。お尻も中途半端に上がって止まってしまったところが、きっと追従カメラにしっかり映されてしまっているだろう。  すっごく、恥ずかしい。この格好や進み方も、そこから元に戻すように膝を下げながらお尻を下ろす無力すぎる動作も。  とにかく、別の進み方をしないと。といっても、ヘビ拘束は本当にまともに動けない。マミフィケーションよりは曲げ伸ばしできるからましかな、くらいの感覚で、手も足もないまま動くしかないのだ。  しばらくもがいて、やっぱり脚と膝を使わないと前に動けないと再確認したあたしは、横向きになって膝で地面を掴み這う形になってようやく突破した。ただ、それまであたしのことを後ろから見ていたことで這い方を覚えた相手にかなり距離を縮められてしまった。横向き這いもすぐに真似られてしまって、向こうは網での足止めがほぼなかったのも大きかった。  それでも網さえ抜ければ、まだ普通に這う速度はあたしの方が上だった。追いつかれないまましばらく進んで、やがて到達したのは……折り返しの第二関門、上り坂と下り坂。  下りはともかく、上りはかなり大変そうだ。ところどころにちゃんとスポンジの出っ張りが用意されているけど、それを上手く使わないと麓まで滑り落ちてしまいそう。プラスチックコースの滑りやすさが憎い。  試しに行ってみるけど……かなり、体力を使う。出っ張りのないところを選んで上半身を滑らせ、出っ張りの上に横へズレて引っ掛ける。それから膝を別の出っ張りへかけて……あっ。 「…………う、うぅ……!」  みじめだ。すっごく。皆に、映像に、それにそこそこ入ってきている観客にヘビとして這う姿を見せるだけでも、そのためにぴっちり張り付いたスーツのお尻を何度も突き出すのは本当に恥ずかしいのに、そうしてまで上ろうとした、人間として歩けば二歩で終わるような上り坂でずるずる滑り落ちて無様にお尻を見せつけている。  あまりの屈辱で、あたしは少しの間動けなかった。だけど、それは半分は興奮で……床にくっつけて起こせなかった顔は、あたし自身も驚くほど熱い吐息を漏らしてしまっていた。  2回目でも登りきれずに滑り落ちて、ついに追いつかれてしまった。恥ずかしすぎて、それでも追い抜かれるほうが嫌で、3度目でなんとか登りきる。向こうはそれから1回目は滑り落ちていたから、また縮んだもののまだリードはしていた。だけど、次が問題で。 『さあ、いよいよ最後にして最大の関門、ローション地獄エリアに突入します』 「…………はーっ、はぁっ」  第三関門がこのローション地獄。なんてことはない、ただコースの床にローションを大量に撒いただけなんだけど、あたしたちヘビにとってはあまりにもわけが違う。そもそもあたしたちは、滑るスーツとコースでもなんとか摩擦を保てる膝で体を押してきたのだ。だけどローションなんて撒かれたら、絶対に膝なんて立たない。今度は網くぐりのときの横向きなんてものすら通用しない、正面からいってみっともなく這いずるしかない。  しかも。……わかってしまうのだ、こんなのぜったい気持ちいい。ただでさえ惨めでどうしようもないヘビ拘束のまま、全身ローションまみれになって床を滑ったりしたら。  ……ほら。実際に入ってみたら、スーツ越しのローションの感覚だけでも気持ちよかった。どうしても興奮してしまって、もどかしい滑り方は乳首やクリを的確に焦らしてきて……でも、決定的な快感には届かない。  ここからはいわば床オナだ。あたしはこれからゴールまで、ローションまみれで中途半端な床オナをひたすら続けるさまをこれでもかと晒すのだ。……だけどそんなどうしようもない恥すら、それなりに気持ちいい突起でふやかされている。  もちろん、這い方も。思っていた通りここまでの這い方では進めなくて、膝がつるりと滑って、びたん。……わかってはいたから力を入れてもいなかったけど、一度はこの間抜けな姿を見せておかないと、あたしとしても動画としても納得がいかなかった。  思っていたよりイイ屈辱だったけど、そればかりしていたら進めない。……だんだん興奮や気持ちよさとレースの意識がぐちゃぐちゃになってきているけど、とにかく進まないと。  ではどう進めばいいのか……もうそこに答えなんてない。とにかく適当にバタバタして、少しでも進む。進めたらそのときの動きを再現しようとして、何度も滑りながら少しずつ。 「ふっ、ふっ……!」 『2匹ともなかなか進めません。やはりここが鬼門だったか』 『気持ちいいんでしょうね、息が上がってきています。これが見たかったんですよ』  まあ、実際そうだと思うし……一応サドでもあるあたしも、外から見ていたらそうだと思う。ただ、やっている身としては屈辱的すぎてそんな場合ではない。  顎でも胸でもなんでも使って、少しでも前に……前に進みさえすれば勢いで一気にいけるからそれを狙うんだけど、逆に間違って後ろに動いてしまうと止まらない。ほどなく追いついてきた子と二匹で頑張りはしたが、もうレースとすら呼べないほどぐちゃぐちゃだった。  これは後で聞いたことだけど、最初からこれを狙ってヘビスーツにはローションを纏いやすい加工をしていたらしい。そのせいであたしたちは、壁を蹴って進もうもしてすらそれで滑ってしまって、いよいよ進行不能になってしまった。  ……ああ。気持ちいい。どこまでいってもあたしはマゾでもあるんだって思い知らされてしまう。なんだかもう、レースの意識が……。   ◆◇◆◇◆  ……ヘビの障害物競走は結局、そのまま終わらなくなって強制終了となった。二匹ともずいぶん楽しん……じゃなくて頑張ったけど、ローションエリアに入ってすぐのところから進みもしないまま二匹ともぐったりしてしまったのだ。  ローションを洗い流して拭いて、それでも脱がされはしないまま戻ってきたアナは、まだ興奮冷めやらぬ様子のまま観客席もとい陣営に。正直かなり羨ましいし、これと比べるとちょっと大人しくすらあった犬と猫は明確な羨むような目を向けていた。  勝敗はほとんど誤差のような位置で止まったこともあって引き分け。一勝一敗のまま最終種目になって、これに勝ったほうの優勝になった。……もともと4種目だったせいで最終結果で決着がつかない可能性があったから、これはこれでよかったのかもしれない。  それで、最終種目はというと。 「私もご主人様に着けてもらえるんですね」 「もう着けられる人がいないからね」 「私たちは気にしないけど、カナはちょっと可哀想かも」 「こればっかりはそれぞれの希望種目だからね。カナが犬で、ミカが馬だっただけだよ」  馬、つまりポニーガールだ。今回の種目で唯一ここで実際に飼われているもので、私はここで試したこともあるものだ。  実のところ、この企画が撮られることとなった理由でもある。今使っているこの簡易スタジアムも、ここのポニーたちで競馬をするために考えられているのだ。さすがにいちアダルト会社にそこまでの財力はないから、各方面から支援を受けてもちょっとした公園の運動場程度だけど。 「さ、着けてくよ」 「はい……んっ、く」  というわけで、私はポニーの装具をつけてもらう。少し迷ったけど裸のポニーにした私に対して、どうやら向こう側のカナンさんはラバーポニーらしい。どちらがいいかはわからないけど、遠目からも見分けやすいのはいい。  最初にハーネスを締められる。胸を絞り出して胴体を飾るように身につけていって、股間は今回はハーネスベルトを縦に一本。ぐっと食い込まされて、隠れているとは言いがたいのに露出もできずそれ以上の責めもできないようにされた。 「ほら、腕出して」 「はい……んっ、はふ」 「もっと走りやすそうな拘束のしかたもあったのに、これでよかったの?」 「これが、慣れてる……ので、っ」  次に腕。私は以前お試しをしたときと同じく、後ろ手に縛り上げられる格好にした。人間として走るときと離れた姿勢になってしまうけど、私は慣れてしまったのかポニーとして走るならこれしか考えられないのだ。  続けて脚だ。ポニーブーツに足を通して、爪先でしか立てなくなる。これもポニーガールを象徴しているようで私は好きだった。 「お尻は……解れてるね。尻尾入れるよ」 「んぁ……ぅ!」 「それで、最後。ほら、あーん」 「んぁー……あぐ、んふぅ」  尻尾も選ばせてもらえたけど、踏ん張りやすさにかかわると知っていたから締める部分は細めで、抜けないよう留まる部分は太いプラグを挿入してもらう。しっかり尻尾を生やしてもらえば確認がてら尻尾を振ってみた。……こうやってお尻の動物尻尾を振るの、惨めで好きなのだ。犬でも猫でも、馬や豚でも。  そして最後に轡。開いた口に押し込まれた馬銜を合うところでしっかり噛んで、ヘッドハーネスを少しきつめに締めてもらった。気合い……というよりは興奮で口の端から涎が垂れてしまったけど、これで準備完了だ。  手綱を引かれてスタート地点に向かうと、向こうからはラバーポニーのカナンさんが歩いてきた。なんでもしっかり練習してきたそうで、慣れないとまともに歩けない蹄ブーツでもふらついてもいない。  全身ラバースーツでハーネスのデザインも違い、腕というか前脚は蹄グローブを嵌められた上でヒトイヌに近い形で肘を畳んだまま固定されている。確かにこの方が、腕を前後に振ること自体はできるから走りやすそうだ。  でも、私も勝つつもりであの時とほぼ同じ形にしている。たとえなんでもできるカナン先輩が相手でも、負けるつもりはない。  ポニーガールにはなったけど、形式はとても単純な徒競走だ。馬車がついていたりもしないから、あまり深く気にすることはない。  さっき犬を止めるために使っていたゲートに入って、あの時と違って急発進する必要があるから準備しておく。といってもスタートの姿勢をとることすら難しいし、ゲートに体重をかけるのはさすがに怖い。単に転ばない程度に足を開いて、いつでも蹴り出せるように待つだけだ。  ……視線を感じる。私たちにとっては慣れてしまってもいるけど、人間としてはあまりにも恥ずかしい格好を、走るためだけの不自由な格好をさせられているところを見られている。私たちは今、見世物としてわざわざ馬を模した姿で走らされる家畜だ。  ここで予定通り競馬が行われるようになったら、その子たちはこの感覚を毎回味わえるんだろうな。少し羨ましい。 『用意……』  やっていることは紛れもなく背徳的で卑猥な見世物だけど、それは人間様から見ての話。私たちの存在意義は走ることだけなのだから、考える必要なんてない。……ないのだ、だから今二頭とも興奮でおかしくなりそうなのは、本当はいけないこと。  それでも躾のなっていない駄目な家畜ではないから、走りに支障はきたさない。あの時の体験で最終的に得た知見は、ポニーガールが浮かれたいならせめて歩きや走りをおろそかにせずこなしながら、という当たり前のことだった。  ゲートが開いた。私とカナンさんは同時に走り出して、片付けられていくゲートを尻目にトラック一周のレースへ向かう。事前に測ったところ、普段の足の速さはほぼ同じ。だからこのレースはポニーとしてどちらが上手いかで結果が出る。  ただ、いざ走ってみると私のポニーガールとしての一日の長は微妙だった。あの時とは何もかも違うのだ。重い馬車を牽かずに全力疾走するから、パワーよりもスピードが大事なのは当然。何よりも背後に手綱や鞭を操ってくれる御者さまがいないから、完全に馬車の動力パーツとなって何も考えずにトランス状態になることはできない。 「ふっ、ふっ……!」  だいたい、互角。結局のところお互いただ走るだけになっているから、元々の脚力以上の差がつかない。さすがにカナンさんもポニーブーツで全力疾走くらいはできるようにしていているし。  ただ……スイッチは、意外なところにあった。 「…………っ!?」  後半のカーブに差し掛かるあたりで、正面に見えたものがあった。飼育員に誘導され固められたままこちらを見ている、たくさんのポニーたちだ。おそらく競走ポニー志望の子たちが、デモンストレーションであるこのレースを見学しにきていた。  他のポニーに見られたことも一緒に走ったこともあった私は、これで何か歯車が噛み合った。もっと見てほしい、ポニーらしく役目を果たして走る以外の全てを忘れてしまったところを、目に焼き付けて真似てほしい。それで不思議と完全に手綱に意識を委ねたあの時のような感覚が蘇ってきて、余計な意識がすっと抜け落ちた。  残ったのは、走れという単純な命令と深い本能的な興奮だけ。お尻に鞭を受けたような気分になって、轡を噛み締めて、目の前に見えるコースの内側の線だけを頼りにさらに歩幅を開く。きっとそれまでよりも目を惹くフォームになったし、ベルトが股縄のように擦れて気持ちいいけど、もはやそれすら関係ない。 『なおも逃げる、伸ばして、伸ばして、そのままゴール!! 勝ったのはミカー!!』 「ふっ、ふっ……ぁ、ふ…………っ!」  気付けばゴールを跨いでいた。沸いた会場を聞いて意識が落ち着いてきて、すぐには転ばず止まれないからゆっくり減速しながらシノさまの方へ。体が思い出したのか、ぷしゅ、とベルトの内側から液が溢れた。……私、また走るだけでイってしまったらしい。気持ちよすぎて歩きながら腰が前後に揺れてしまって、わかりやすい絶頂をしっかり会場中に見届けられてしまった。  シノさまにタオルで汗を拭いてもらって、ひとまずそれだけでまたクールダウンに歩く。他と同じように、種目が終わっても拘束は解かれないようだから。入れ替わりで歩いてきて、視線で称えてくれるような様子をみせたカナンさんに轡越しの鳴き声で返した。 「……やっぱりミカ、ポニー似合ってるよね、走りながらイけるあたり、才能もこれ以上ないくらいあるし」  陣営に戻って、ヘビの厳しい拘束を改めて堪能しているアナに言われたのがこれだった。自覚はあるけど、自分も自分で何よりも合ったもので楽しんでいるアナには言われたくない。ただ、ヒトイヌ拘束に極太プラグまで挿れているのにやはり平然とした顔のメルさんといい、テスターでは古参なほうのはずなのにイヌになるとべたべたに甘えてくるカノンさんといい、やっぱり皆これでいつも通りだ。  勝敗としては私たちの勝ちだけど、最後にみんなでこの格好のまま写真撮影をするときにはわだかまりなど何もなかったし、なんならみんなそろそろ興奮が限界だった。集合写真は4種8匹の発情ヒトペット一覧になってしまったのは、まあ無理からぬことだろう。

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看板ヒトイヌと一日ラバーマネキン

「……いいですね、これ」 「でしょ?」 「…………っ」  某日、駅前のロリータ専門ブティック『Dolores Dolls』にて。わたしたちはオリさんに連れられて、閉店直後あるものを見学しに来ていた。  それが、これ。……マネキンだ。 「すごい……確かに、よく見たら入ってますね。でも、それがパッと見じゃわからないくらい止めてあるのも、ストッパーじゃ止めきれないはずの細かな動きもほとんどないのも、すごい」 「うわ……これ憧れちゃいますね、あたしもやりたい。けどサイズがない……」 「アナちゃんはどうしても、器具を作らないとだからね……」  このマネキン、当然ながらただのマネキンではない。中に人が入っているのだ。  アナがよく完全拘束テストのときに来ているインナースーツを改良したものを着た上から、肌色の全身タイツを重ねてマネキンの素体を作る。さらにそこへ以前ミアが使ったという、球体関節デザインの関節拘束具で姿勢を固定しながら外からは動かせるように。その上から改めてディスプレイする服を着せて完成だ。  中の人はフロアスタッフと兼任で、常に2~3人が店内中央に加えて外向きの展示になっているらしい。なんとも挑戦的だが……店長の趣味なのだとか。 「もともと店長さんとは知り合いで、器具の開発と卸しは請け負ってたんだ。ただこないだ改めて会って、すごく素質のある子が入ったから見に来ないかって誘ってもらったの」 「それが、これですか」 「そ、これ」 「……!」  少しだけ震えた。オリさんとアナに立て続けに「これ」呼ばわりされたのが効いたらしい。こんなことを好んでやっている子がマゾの気を持っていないわけがないし無理もないけど、アナもだんだんサドが板についてきたものだ。  そんな有望な新人マネキンだが、なんだか不思議だ。ほとんど完璧なマネキンとして入っているだけなのに、いやらしい目で見なくても普通のマネキンよりも魅力的に見えるのだから。それは人間マネキンそのものが持つ力なのか、それとも中の子達が上手なのか……。 「それで……オリさん。こんなの見せて、ハイ終わりってわけじゃないですよね? 今度はなに企んでるんですか?」 「ミカも言うようになってきたよねぇ。……実はね、ここの発想を借りてウチの直営店でちょっとした企画をやろうと思ってるの」 「企画……? というか、ミスト・スランバーに直営店なんてあったんですね」 「けっこうあるよ。市内のを含めて、全国に5ヶ所」  底空市は日本有数の政令指定都市の隣にある街だから、その都市との境目付近にあるのだとか。わたしも行ったことはないが、存在を聞いてはいた。  しかし、このマネキンを見た上で企画、それもミスト・スランバーの直営店でとなると……だいたいどんなことをやるのかは、想像がついてくるかもしれない。  そして企画は通ったようで、後日。 「今回は配信はしないよ。動画を編集してサイトに出すけど」 「別にそれ慰めにならないですよ」 「そもそもわたしたち、一般の方の前に見せるのは初めてなのですが」  それなりに賑わっている直営店のバックヤードにて。道具の用意までは整えたわたしたちは、これから準備を始めるところ。  直営店でやるということは、一般客と同じ空間に出るということ。わたしたちにその経験はなかったから、配信とはまた違ったものとして身構えておかないといけない。  ただ、それをいざ始めようというとき。フロアと繋がる扉のほうから、ぎい、と音がした。 「みなさん、始めるんですね……!」 「ああ、コムギちゃんか。うん、ちょうど始めるところだよ」  入ってきたのは、女の子……というにはすごく特異的で、しかしわたしたちにとっては見慣れた格好の子だった。 「しかし、凄いですねここ。看板犬までいるだなんて」 「看板娘の代わりにヒトイヌを雇おうだなんて、よく考えたよ。先に思いつかなかったのが悔しい」 「あ、いえ。じつは、言い出したのはわたしなんですっ」  この店に二匹勤めているという看板ヒトイヌの片割れ、コムギちゃんだ。わたしたちがこれから始めることがとても気になるようで、興奮に満ちた視線を向けてくる。  ……まずは看板ヒトイヌとはなんだという話だが、お店……というよりは旅館などによくいる看板犬を、ヒトイヌが担うものらしい。店内をヒトイヌ拘束で自由に闊歩して、その姿を見てもらってイメージを伝えたり、簡単な接客をして癒したりするのだとか。  これはわたしから見てもありそうでなかったもので、珍しく発想力で先を越されたご主人様は本当に悔しそうだった。……が、コムギちゃんは凄いことを言い出した。 「わたしと同じく看板犬のモカは同じシェアハウスなんですけど、普段からけっこうヒトイヌとして暮らしてて……このお店のことを知って、ここならヒトイヌのまま働けるんじゃないかって応募したんです!」 「……世の中にはすごい子がいるものだね」 「まさか年下にこんな変態がいるだなんて……」 「えへ、それほどでも」  さらっと流されたが、とんでもないことを言っている。シェアハウス自体がヒトイヌの入居をさせていて、日常からヒトイヌをしていて、しかもアルバイトの希望条件に「ヒトイヌで働けること」というふつうならおよそ満たせないものを打ち出したのか。しかも二匹も。おまけに年下、つまり大学一年生に。  それで実際に見つかって働けているのも、都合よくそんな凄まじい家とミスト・スランバーが遠くない場所にあるのも信じがたいことだった。その上この看板犬のどちらかがいる日は売上がいいというのだから、世の中わからないものである。  そんなコムギちゃん、さすがに身バレをある程度防ぐためか完全装備だった。全身黒のラバースーツの上から革のヒトイヌ拘束具をがっちり着けて、さらにボディハーネスと犬の頭の形の全頭マスク。耳と尻尾もしっかりつけて、とてもよく慣れた様子で歩いている。それと印象的なのは、「看板犬 コムギ」と書かれて首輪から提げた名前プレート。  どうやら休憩時間は多めに取られているようで、専用の休憩場所らしき区画で体を休めはじめた。胴体をちょうど乗せて効率よくヒトイヌを休息させられるデザインの、喩えるなら両方凸の乾電池のような形のソファだ。外部の家具メーカーも巻き込んだ、本物の犬用として開発中の試作品であるらしい。 「あ、わたしのことはお構いなく……ん、いえ、よければ休憩のあいだ、見てていいですか?」 「もちろん。展示品としての予行演習にもなるし、二人もいいよね?」 「……そんな言い方されたら、断れないです」 「わたしも構いませんよ。一応先輩みたいなものですし、見せつけてあげないと」  外には見せないのがもったいないくらい可愛らしいコムギちゃんがソファに沈む姿を見ていたら、逆にこちらのことも見られることになった。ミカは少し消極的だが、渡りに船だろう。視線があればわたしたちはより興奮できるのだから。  というわけで、それぞれメイクアップ開始だ。  それぞれ別の商品をつけてマネキンをすることになっているけど、共通するものもある。 「二人とも、着れた?」 「はい。……マスクとかじゃなくて頭まで覆うの、なんか別の屈辱感ありますね……」 「マネキンっぽさ出てきたでしょ?」 「これ、今度また使いたいです」  まずはラバースーツ。今回はラバーマネキンとしてやるから、インナースーツではなくラバースーツを着てそのままだ。肌タイなどは着用しないし、普段のスーツと違う点もある。セパレートのラバーマスクではなく、スーツが頭まであるのだ。  それぞれ背中にジッパーがあるけど、このラバースーツ自体が商品だからそこを疑われる心配はない。今回着るのは鼻の呼吸孔のほかに目元に視界確保の小さな穴があるタイプだけど、鼻にしかない完全ラバードールモデルもある。  そしてコルセット。これはスーツそのままだとさすがに呼吸によるお腹の動きが隠せないということで、それを隠すためのものだ。代わりに締めつけられて苦しくはなるけど、それは必要経費であり被虐になる。 「わ。もうこの時点で、すごい絵面ですねぇ」 「コムギちゃん、鏡見る?」 「? 犬しか映りませんよ?」 「この子もしかして感覚麻痺してる……?」  まだ軽口を叩く余裕がある。このモデルが初めてだというだけで、私たちにとってラバードールくらいなら珍しいというほどでもない。  というわけで、次。まずはわたしから。 「着けるもの自体はそこまで凄いのじゃないよ。あくまで充分買われそうな商品だから」 「んっ……そう、みたいですね」  アームバインダーを嵌める。特に捻ったところはなく、よくある背中側での三角型。ただし見本として見栄えがよくなるよう、少しきつめに締め上げる。  普段からやっているおかげで体は柔らかいほうとはいえ、拘束感に酔えるくらいには厳しめだ。引き絞られた肩から押し出されて胸を張る姿勢になり、あまり大きくない胸が強調されてしまう。  移動式の台座に上がって、同じシリーズのレッグバインダー。両脚を揃えて入れ、これも引き絞って固定する袋だ。全く脚が開かなくなれば膝は曲げて、膝立ちで待機。  それから後ろに支えとなる器具を置いて、アームバインダーの先端を持たれてしまう。それを引っ張られれば、わたしはなすすべなく仰け反らされた。 「……よし、カナはこれで完成。ちゃんと体重は掛けられるようになってるから、楽にしていいよ」 「はい……」  その先端をレッグバインダーのほうの先端とベルトで繋がれてしまえば、思い切り胸を張った膝立ちで身動きのとれないオブジェが完成した。  背中が支えのパーツで安定しているから見た目より長持ちしそうだ。なかなかやらない姿勢ということもあって、突き出したような形で見せつけている胸と鼠径部を意識してしまう。 「次はミカだね」 「は、ふ……はいっ、お願いします」  公平を期すためか、ミカの作成もわざわざわたしに見せながら行われた。まずはコルセットを少しきつめに締めて、ミカの魅力でもあるなかなかのサイズの胸を強調する。  それから用意されたのは、一つの支えと二つの拘束具。数と支えの形は同じだけど、向こうは拘束具も金属製の棒状だ。  金属製の首輪の左右に二の腕とほぼ同じ長さの棒がそれぞれ伸びて、その先端に同じく金属の手枷がついている道具。確か、ヨークと呼ばれるものだ。これを装着されると、腕を横に向けてから真上に曲げる無防備な姿勢を強要されてしまう。姿勢的な辛さはないものの、どうやら重さがあるようで動くとふらつきというかブレが見える。  その格好で台座に座らされると、背中を支えに預けさせてM字開脚。恥ずかしそうに閉じかける膝を無理やり開かされて、ヨークと似た形状ながらより長い棒に足首も拘束されてしまった。こちらは珍しいというほどではないスプリットバーだけど、鎖ではなく棒と金属枷が直接繋がっているから可動域がない。マネキンの振りをするのだから、ない方がいいのだけど。 「ミカもできたよ。辛くはない?」 「大丈夫です……はふ」 「お股、前に突き出しちゃって恥ずかしいね?」 「うぅ……」  アナは煽るようなことを言ってくるが、これは無視するしかない。とにかく力を抜いて、拘束に身を任せて動かないようにするのだ。  あのブティックと違って関節パーツなどがないから動けばバレるし、そもそも今回はバレさせるためのことをされている。わたしたちは必死に抗った上で、どちらかがお客様の前で人間だと知られてしまうのがそもそもの役目だった。  せっかくだからと休憩終わりに先導してくれることになったコムギちゃんに続いて、わたしたちが乗った台車がフロアに運び込まれる。小さな車輪から届く振動がモノ扱いを実感させてきて、前方にはぺたぺたと四つ足で歩くコムギちゃんのお尻が見える。やはり挿入されている様子の尻尾が人目を引くように振られて、たまにやる程度のわたしたちとは比べ物にならないようなヒトイヌへの慣れが見て取れた。  先にわたしが壁の近くに配置されて止まるが、コムギちゃんはまだ止まらずに向こうへ。今度はすぐ後ろにミカを引き連れてぐるりと半周すると、ミカがわたしと反対側に設置された。それぞれ店内がよく見える位置に置きつつお互いがよく見えるようにして、さらに位置を離してどちらが先にバレたかわかりやすくする狙いだろう。 「コムギちゃん、これは?」 「新しいマネキンです! ディスプレイとして臨場感と魅力をよりよく見せるために、マネキンにラバースーツを着せて使ってるんです」 「へえ……」  さっそく近くにいたお客様が寄ってきた。わたしを正面からじっと眺めては、一周してこちらに戻ってきていたコムギちゃんに聞いてくる。わたしは前面は拘束具よりもラバースーツの体が占めているから、形がはっきり出た胸や股をじっくり見られるとそれだけで恥ずかしい。……一応、わたしたちはそういう恥の感覚は失っていない。  それにしても、同じ人未満として店にいるコムギちゃんにただのマネキンとして扱われるのは思いのほかクるものがある。それを店頭という生きた場でされるのは、視線はあっても画面越しである普段とは全く違う感覚だ。  お客様がえっちな目を向けてくるのがよくわかる。あくまでマネキンだから下卑たものではないのはいいのだが、代わりにまさにモノを見る視線だから屈辱はひとしおだった。わたしは、きっと向こうのミカも、いつもの遊びでポゼッションプレイをしたときのご主人様やシノ様が向けてくるモノを見る目は、その実「モノになった女を見る目」だったことを知った。 「それにしては拘束具が前じゃないような……」 「これを使えば、こんな恥ずかしい形にできちゃいますよ、という使用例だって店長がいってました」 「なるほど。確かに、ここの紐の長さなんかは変えられるしな」  それにしてもコムギちゃん、日常的にヒトイヌだという常軌を逸したマゾエピソードの割にはツボを押さえてくる。多頭飼いだとは言っていたから、お互いを煽り合う慣れでもあるのだろうか。  マネキンの商品ディスプレイに見せかけた中身への辱めという部分をうまく隠しつつ、姿勢が恥ずかしいこと自体は積極的に肯定してくる。しかも拘束具をしっかり主体に話しているから、気になったお客様はわたしが把握できない後ろからも回り込んで見てくると。  マネキンの役目からすれば当然なのだが、いざ後ろから見られてみればそちらも恥ずかしかった。引き絞られた背中とお尻をしっかり見られるというのはともかく、自分を引き立て役にした拘束具のほうをまじまじと見られるのは楽だと思っていたのにそんなことはない。一般への展示プレイというのはわたしも初めてだったのだけど、これはもはやどこをどう見られても恥ずかしい。自分が展示品であると自覚した時点で、もう責めとして成立していた。  そして当然、マネキンの振りをバレないようにするのも簡単ではなかった。アームバインダーとレッグバインダーを繋ぐ紐は目立たない位置の代わりに動くとわかりやすいから、特に後ろにお客様がいるときは指先ひとつ動かせない。もうぎちぎちに拘束されているはずなのに、その意識が上からもう一段拘束してくる。  それに何より、いくらコルセットがあるとはいえ、あまり目に見えてお腹を収縮させたらその時点でバレてしまう。つまりこんなに辱められて興奮しているのに、深呼吸で落ち着くことすらできないのだ。その上ガラスケースに入れられているわけでもないから音も立てられず、それは短い呼吸を多く繰り返すこともできないということになる。あまり大きくない呼吸を静かに続けていないと、すぐにでもわかってしまうくらい厳しい。  これはたぶん、向こうのミカも同じなのだろう。呼吸については姿勢で見えやすさの差はあれど同じだろうし、向こうはアームバインダーのような袋に覆われていない手足の指も不意に動かさないよう気をつけないといけない。ヨークも安定はしていないから揺れてはいけない。  形は違えどどちらも長時間もたせるように作られていないから、勝負の結果に文句は言えない。わかりきっている限界の前に我慢比べをして、負けた方はお仕置き。しかもお仕置きなんてされたいくらいのマゾ同士なのに、勝負だから避けようと努める。それもまた調教であり我慢比べだった。  それでも自分たちでさえ意外な粘りでしばらく耐えていたわたしたちだが、均衡は意外な人物の手で崩された。 「あ、いらっしゃいませ!」 「…………え? えっと、なにこれ……?」 「ああ、ごめんね。この子、初心者なものだから」 「なるほど! わたしはコムギ、ここの看板犬です! この、ヒトイヌという拘束具で、お客様をご案内したりご覧いただくのが役目です」  慣れた様子の女性と、初心者だというわたしたちと同じくらいの女の子。ヒトイヌを初めて見るようで、コムギちゃんが紹介するのを熱心に聞いている。さすがに独特の形態に困惑を隠せないようだけど、しばらく触れ合って撫でたりしていると慣れてきたようだ。……いや、慣れてきたというよりは押し切られたという方が正しそうだが。  その子は見覚えもなく、初心者でいきなりここに連れてこられた少し可哀想な子と思った程度だったのだが……問題はそれを連れてきたほうにあった。あの人は見覚えがあるのだ。 「へえ、お客様、あのお店の! いいお店だなとは思ってたんです!」 「うん、そうなんだ。こっちの蘭ちゃんもうちのスタッフで……あ、コムギちゃん。これの着用感、コムギちゃんで試して見ていいかな」 「はい、どうぞ! ……んぁぐ、むぐ、ぅ……」 「こ、こんなに気軽に着けるんですね……」 「ここの看板犬は会員の間では話題になり始めてるんだ。……そうそう、うちの店は実はね……」 「むぐぁっ!? んぅぅ、んーっ!?」 「まあ、そうだよね……驚くよね」 「これ、秘密ね。店の外で知ってる人は少ないから」 「ん、んっ!」  コムギちゃんはあのヒトイヌ姿で試せるものに限って、店の商品を試させてくれる。わたしたちと大差ないドMのようで何をされても喜ぶから、時にはスーツの股間を開かない範囲でなら鞭や電マすら試用するとか。  猿轡を噛まされてその姿や声の塞がれ方を試されながら、何かを囁かれて素で驚くコムギちゃん。興奮気味に見上げて後ろ脚で立ち上がろうとし、前半身をぴょんぴょんと上げてアピール。それから秘密と言われて必死に頷いている。  ……あの人、先日見に行ったゴスロリブティックの店長さんだ。十中八九、教えたのはマネキンの中に人がいる事実だろう。それを反射的に聞き返されないための道具としてうまく猿轡を使って、その呻き声の質を聞いた周りのお客様が目を光らせた。あれ、どうやら宣伝になったらしい。  そして着いてきている蘭ちゃんとやらはスタッフだという。わたしたちが行ったときには見かけなかった顔だったが……わたしたちもいい加減、ご主人様がたの考えることはわかる。きっとあの子、わたしたちが見たあのマネキンの子だ。  というか、そうでなくともマネキンになっていることはほぼ間違いない。なにしろあのお店、ホールスタッフはみんな交替でマネキンになっているらしいから。あんなに純朴そうな顔をして、マネキンとして展示されて苦痛になっていないのだ。 「えっと、これは……?」 「それはアナルフックです! そっち側をお尻に入れて、こう、紐かなにかに繋いで……ぐいっと」 「……上級者向けだってことはわかりました」 「ここは総本山といってもいい場所だからね、上級者向けのものも多いよ。会員サイトには使った動画もあったはずだけど、規約で会員外には見せることもできないんだよね」 「…………試しに入ってみようかな」  完全に姿勢を固定されて、生き物としての個性も徹底的に消されて、商品を魅せるための土台として展示される。そんな扱いを嫌がらず、むしろ積極的にやりたがる。涼しい顔をしている蘭さんだが、言うまでもなく変態なのだ。  ……わたしたちのように。  完全に姿勢を固定されて、生き物としての個性も徹底的に消されて、商品を魅せるための土台として展示される。あのお店から着想を得たプレイなのだから当然だが、これはまさに今わたしたちがされていることだ。  少なくとも日常的にそれをしている子と、その場を一から作った人を前にすると、その自覚が強まってしまう。これ以上興奮したら隠しきれなくなりそうなのに。 「それで、さっきから気になってたんですけど……これは? すごい格好ですけど」 「新しい試みとして今日から展示している、ディスプレイ用のラバーマネキンです! このヨーク……腕の拘束具、今日だけでご注文が3件もあったんですよ!」 「おお……いいね、これ。ウチもたくさんマネキンを置いてるけど、いろいろ参考になるよ。それに、もしかしたら…………」  やがてフロアの端っこに辿り着いた二人は、初めてである蘭さんについておくことにしたコムギちゃんの案内を受けながらラバーマネキンのもとへ。向こう側でミカを囲んで観察している。  あの格好で初心者の子にじっくり、それも普段からマネキンになっている子に見られるのはただ鑑賞されるだけでない恥ずかしさがあるはずだ。ミカも鈍くないから、そこまではわかっているはず。  そしてわたしはここで、この後起こることをほぼ完璧に予感して、 「……いえ、店長。これ、ほんとに人間ですよ」 「え?」 「ほら、よく見てください。握った指先がちょっと動いてます。それに、じっくり見たらお腹も動いてる」 「…………ほんとだ」 「……っ、ぅ」  先に向こうに行ってしまったことを、本気で残念に思った。  わたしたちの擬態は完璧ではない。もともと本気で疑ってかかればバレてしまうくらいには不完全な形で作られていて、しかもそれがもう数十分は続いているのだ。集中も保っていられない中で、マネキンになる感覚をこれ以上なく知っている子に見られてしまえば、見破られないほうが無理だ。  現に蘭さんはわたしたちが隠しきれないことを自覚していた二箇所をしっかり言い当ててみせた。これには他のお客様も驚いたように視線を集めて、人間マネキンを毎日見てはいる店長さんもすぐに気づく。それで敗北が確定したミカが動いたことで、恥ずかしい格好で飾られたままのラバードールが人垣に囲まれた。 「すごい、ほんとに当てちゃうなんて!」 「……ということは、もしかして」 「え、店長? って、まさか!」 「…………」 「…………こっちもだ。ほら、ここの紐、よく見ると動いてる」 「ほんとですね……!?」 「……っ、はっ、はっ……!」  たぶん事前に全て、当てられそうな人を送り込んだということまで聞かされていたことを飲み込んだらしき様子のコムギちゃんをその場に置いて、今度は店長さんがヒトイヌでは追いつけない小走りでこっちに。一応わたしも最後まで全力でマネキンを演じたが、見事に見抜かれてしまった。  ミカと同様に囲まれたわたしはもう限界で、拘束と支柱に身を任せて動き出してしまう。興奮を全く隠せないまま身をくねらせてしまって、鼠径部を突き出した姿勢のままアームバインダーを鳴らしてさらに注目を集めた。見てもらえるのが気持ちよくて仕方なかったのだ。 「はい、ゲーム終了ー! 検証、『直営店にマネキンとして人間を置いたらどのくらいバレずに済むのか』、結果は43分25秒でした!」 「そして勝負はミカの負けね。準備ができ次第ミカのお仕置きに移りますので、皆様しばしお待ちください」  と、そこで出てきたご主人様とシノ様がネタバラシ。これが企画であり勝負だったこと、中身が会員にはわかるわたしたちだったこと、これからお仕置きを行うことを明かして、わたしたちの乗った台車を回収に来た。……かと思いきや、写真撮影は待たれた。マネキンの時点から撮影を禁止していないから仕方ないし、わたしたちも不思議なほど興奮しかしていないし、人相なんてわかったものではないから気にすることはないが。  そこで店長さんと蘭さんも経緯を理解したようだったけど、こと店長さんはものすごく嬉しそうだった。蘭さんのほうは顔を赤くしていたから、やはりあのときのマネキンで間違いなさそうだ。直接知ってもない初心者が、わたしたちのやることがわかった段階で反応するのは不自然だから。  そして見抜いたお客様という体で、バックヤードに運ばれるわたしたちと一緒に連れてこられた。やはりご主人様は性格が悪い、わたしと話させるつもりなのだろうから。 「……ご主人様。呼びましたね?」 「もともと知り合ってて、しかも店長さんがウチのサイトの大ファンだっていうから、せっかくだと思って。だけど、『面白いものが見られる』とまでしか言ってないからね。見抜いたのは自力だよ」  勝った方、つまりお仕置きを受けない方であるわたしは、拘束を解かれただけでラバー人形のままにされた。実はこれ、うなじの隠しジッパーの取っ手を取り外されてしまっているから自力では脱げない。  てっきりこのままの格好でお仕置きを見守ることになると思っていたのだが、どうやら違うらしい。ご主人様はどちらを見ればいいかわからない様子の二人の前で、ちょうどミカから外したところのヨークをわたしのもとへ持ってきた。 「これ、気になってたでしょ。つけたげる」 「ん……ありがとうございます」 「けっこう重さがあるから、気をつけて恥ずかしくなってね」  ミカばかり珍しい拘束具を使ってもらっていたことがずるかったということになったらしい。確かに気になってはいたし、どちらかというとお仕置きそのものがずるいから、さも任意とばかりのご褒美扱いだったが大人しく受け取っておくことに。  首に取り付けて奴隷に相応しい重さを吊るされた後、その左右にそれぞれ手首を捕らわれる。まるで降伏するように手を挙げたまま動かせなくなったばかりか、構造からわかりやすい拘束具はこうして単体になると晒し者としての側面が強く出た。首のところにリード紐までつけられれば、わたしはもう引き回されるしかない。 「……すごい、ですね。こんなのをそんなに気軽に」 「慣れてるからね。この子たちはいつでも、こんなコトされたら興奮しちゃう」 「そう、ですね……正直なところ、何もなく終わりじゃなくて嬉しいです」 「へぇー……こうしてみるとすごくマネキンっぽいし、私たちがやってることとも連なってるのかなぁ……」 「そうだね。個人差はあると思うけど、みんな素質はあると思うよ。マネキンのまま固められて平気な時点で、拘束フェチなところは多かれ少なかれあるはずだし」  ほぼ間違いなくこのままフロアを連れ回されるであろう格好を、やはりあのときのマネキンだったもいう蘭さんにまじまじと見られてしまう。わたしがいいとは言ったのだが、さすがに恥ずかしい。  ただ、その蘭さんはどうやら自分の中にあるはずのマゾの素質、その手前の拘束フェチを前向きに受け止めているようだ。とても興味ありげにあれこれ聞いてくるものだから、ご主人様はもう目を輝かせている。 「蘭ちゃん、それならちょっと試してみる? せっかくの機会だし、店にある拘束具なら貸せると思うよ」 「本当ですか? それなら、ちょっと試してみちゃおうかな……えっと、さっきまでカナさんがつけてたのとか」 「へえ、アームバインダーにいくんだ。チャレンジャーだね?」  テンションが上がってきたご主人様に即座に捕まって、蘭さんが貸し出された露出控えめのボンデージにアームバインダーを合わせたあたりで、どうやらお仕置きの準備が整ったらしい。顔を赤らめて心地よさそうに革を鳴らしている蘭さんのアームバインダーを見ながら、リードに引っ立てられてわたしもフロアへ戻ることになった。ここからのわたしは脇役だが、それでも気分は惨めな家畜か咎人だ。  ヨークの重さに少しだけ上体が揺れる様もばっちり鑑賞されながら、後ろからお仕置き展示が運ばれてくるのを見届ける。当然ながら、その恥ずかしさはわたしのものとは比較にならない。 「こちら、お仕置きの敗北バキュームベッドです。振れさえしなければ問題ございませんので、皆様どうぞたくさん鑑賞してあげてください」 「…………うぅ」  どうやらお仕置きはバキュームベッドだったらしい。真っ黒で光は全く通さないものの、とても薄い生地でできているのか普段使っているものよりもずいぶん体の形がよく出ている。ここまでくっきり乳首や割れ目が写し出されてしまっていれば、囚われている本人にも感覚があってわかるだろう。  顔や色合いは徹底的に剥奪されて無個性にされながら、女としての特徴でもある恥ずかしいところの形は下手をすると裸のときよりも見せつけている。おまけにひくついているところまで丸わかりだ。羨ましい。  それだけではない。わざと左右対称ではない整っていない形で圧縮されて、より無様さと敗北感を強調されている。ダンジョンのトラップに不意にかかってしまった、とか、そのようなイメージが垣間見える。それでいて口元は空気が入りにくく長持ちするマウスピース型の呼吸孔になっているのが、コレは自分からこのポーズで固められたのだと示すのだ。  そしてそれを、豪勢に飾りを入れた額縁に収められてしまっていた。極めつけにはその額縁の下、作品名を入れるようなところに『敗北ラバーマネキン・ミカ』の文字。 「すごい……」 「それでは皆様、こちらの絵画と……見事勝利して引き回しのご褒美を手にしたラバーマネキンを、どうぞご堪能ください」 「んっ……ぅっ!?」 「こんな格好で晒し者にされるの、カナにとってはご褒美でしょ。ほら、楽しんでね?」 「んぅ!? あ、カナさんが飼い主様ってことですね! えへへ、たくさんお散歩しましょっ!」  そうしてミカは展示品と化したのだが……それだけではなかった。少し期待していた通り、わたしのことももっと辱めてくれるらしい。  まずはわたしのヨークの首元に、何やら小さなプレートを吊り下げられた。わたしには見えないが、おそらく名札だろう。『勝利ラバーマネキン・カナ』とでも書いてありそうだ。  そしてわたしのリードを、コムギちゃんの首輪に繋げられてしまった。一見するとわたしが犬の飼い主のように見えなくもないが、これはお互いが離れられず連れ回し合うことになってしまう凶悪な仕組みだ。コムギちゃんは飼い主付きの散歩を実感させられて、わたしは看板犬として精力的に動くコムギちゃんにひたすら連れ回されて晒され続ける。  他のお客様がたに話しかけられて試着の輪を広げはじめた蘭さんを尻目に、わたしはとても嬉しそうなコムギちゃんにさっそく引っ張られた。目指すは入口付近の、ちょうどはいってきたばかりのお客様。  そうしてこの日は店舗史上最高の売上を記録することとなった。だがこれを聞いたコムギちゃんの相方がひどく嫉妬して、その子の日に合わせてもう一度わたしたちが飾られるイベントが発生することになるとは、まだ誰も思っていなかった。

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ヒューマンファーム見学レポート

 この国のアダルト産業は昨今それなりに発達しているほうで、中でもどの企業が一番とは言いがたい。ただし、ことSMやボンデージ系のジャンルに限れば誰もが口を揃えて言うだろう。ミスト・スランバーほど規模も大きくマニアックへ余念のないところはないと。  そんなミスト・スランバーが、つい先日とあるテーマパークを作ると話題になった。敢えて人里離れた立地に作り、未成年が触れる可能性のある場所には広告ひとつ出さず、一方で外国に向けても一定の発信をして、徹底的に必要な人にだけしっかり届くよう気を配っている。当然それに興味のある私は見逃すことなく、プレオープンに合わせて訪れることにした。……本当はその前の時点でスタッフなどの募集があったそうなんだけど、ちょっとそこまでは勇気が出なくて。  そんな8月初頭、学生最終年の身分たる私にとっては夏休みに差しかかった頃。現実逃避というわけでは断じてないけれど、予定通り他の全てを忘れて試験稼働中のテーマパークへ遊びに来たのだった。  ここの名前は『プロジェクト・ヒューマンファーム』。……その名の通り人間を家畜として飼い、その様子を観光資源として公開するという凄まじいコンセプトのアダルトテーマパークである。  廃ゴルフ場を買い取ったという孤立した平地に大きなガラスドームを作って、その中を牧場の形に整えた場所だ。なんでもマジックミラーのような光を内側にだけ通す形態と、太陽光発電ができる形態を兼ねた新素材らしい。冬は陽の光を取り込み、夏は遮光してほどほどの冷房を回して快適に過ごせるように作ってあるのだとか。  それはこのパークのテーマ上とても大事なことなのだと、私が参加したツアーの案内役さんは語った。確かにそれはそうだと思う。 「少なくとも、裸の人が運動しても快適でいられないといけないですもんね」 「ええ。様々にケアは施しておりますが、それでも牧場全体の気温は厳密に管理しております」  私たちは今、馬車に乗っていた。三頭立ての小さな馬車に、10人ほど乗り込んでいる。  しかし屋根のない馬車はとてもゆっくりだ。なぜなら、引いているのが馬ではなく人間だから。  ポニーガールやポニーボーイと呼ばれる存在で、この牧場では馬として飼育されている。細部はそれぞれ異なっているものの、全身をハーネスに締め上げられて轡を噛まされ馬車に繋がれて歩かされていた。  中央に全頭マスクを被りラバースーツを着せられたボーイが、左右に美しい裸体を晒したガールが馬具を車に固定されて、ガイドさんに鞭を打たれながら進んでいる。速度はせいぜい普通に歩くより少し遅い程度なものの、3人……もとい3頭とも漏れる吐息は色っぽい。 「まずはこの子達を畜舎に送り届けながら、ポニーについてご紹介させていただこうと思います。……このツアーで、皆様の理想の家畜が見つかれば幸いです」  ……このツアーはただの観光ではない。まだプレオープン直後のパークが募集した、同好の士のための見学ツアーだ。  ここに乗っている見学者は、全員がこのパークでの飼育に興味を持っている。ここで実際に見て回って、まだまだ足りていない家畜たちのうちどれかに仲間入りするかどうかを決めるのだ。 「では……走れ!」 「「「んぐぅっ!?」」」  最初の目的地は厩舎らしい。同類である私たちに背中を見られるだけならともかく、一般の観光客に通りすがりにまじまじと見られて恥じらっていたポニーたちは、三頭それぞれ背中やお尻に鞭を受けて走り出した。  普通に歩くだけなら裸で馬車を牽くくらいはし続けられるよう調教されているようだけど、やはり走るとなると体力的に長続きはしないらしい。人が小走りするくらいの速度にはなった馬車で、ガイドさんは命令なしでは走ることすら許されないのだと説明してくれた。その言葉に全員が息を呑んで、中でも一部は明らかに反応している。 「パーク内は写真撮影は禁止とさせていただいておりますが、ツアー中はどうしても人目が集まることが予想されます。他のお客様の視線が向く可能性がありますが、ご了承ください」  三頭分の手綱をまとめて握るガイドさんはもう、それ以上の鞭を入れもしない。見世物として歩くときはサービスとして鞭も見せているが、走らせている間は負担が大きいから必要分だけになるのだとか。こういうところ、ただ責め立てるだけではなく家畜として長続きさせるようにできているらしかった。  少しして、手綱を引かれた三頭はゆっくりと減速を始めた。急に止まれば慣性の残る馬車に追突されてしまうから、そう躾けられたのだろう。ブレーキが存在しないからこその様子もまた、こうして見てみないとわからないところだ。  馬車を適切な位置に停車させた三頭は、ハーネスを馬車から外されて別のスタッフさんに連れられていった。どこか誇らしげに、仲間同士で目配せをしている様子だったのは、やはり自分たちから望んでポニーをやっている証左なのだろう。 「厩舎は後からお見せいたしますので、まずはこちらへどうぞ」 「あれは……農耕馬、ですか?」 「はい。足元の蹄ブーツが少し大きいのがおわかりになるでしょうか」  と、馬車に繋いで走らせるプレイはポニープレイでは有名だが、それだけで終わらないのがこの牧場の凄いところ。なんとここでは農耕馬としても使役が行われていて、しかも実際にその労働力を用いて農業を行っているのだ。  当然ながら本物の馬と比べれば作業効率は落ちるものの、会員向けの高級品としては好調らしい。清潔に徹底されたポニーの汗や体液が土に落ちていることを評価するのは、なかなかレベルの高い話だと私たちも思うけど。  土を掘り返す耕耘に精を出すポニーボーイから、種まき用の器具を引いてゆっくり歩くポニーガールまで。そのどれもに共通しているのが、きつく拘束されて辛い労役をさせられているはずなのに嬉しそうなところだった。体力作りや筋トレに効果があるのか筋肉質なポニーが多いけど、そんな力自慢である以前にやはりマゾなのだろう。よくもまあ、そんな人を牧場ができるほどの数集めたものだ。 「ポニーは馬車や農耕のほか、施設の備品運搬やショーに用いられます。ただし、それぞれ事前に希望を取っておりまして、やりたくないものには配属されないよう回されております」 「……なんだか、バイトのシフトみたいですね」 「究極的には、パークの家畜そのものがそのようなものだとお考えいただいて問題ありませんよ」  ……なるほど。確かに仕事扱いとなってお給料も出るという話だし、やることはともかくシステムだけならよくあるものなんだ。  なんだか急にハードルが下がったような気がする。元々本気で考えてきているけど、それならより気楽に飛び込めるかもしれない。 「そしてこちらが厩舎と、併設の放牧エリアとなります。こちら側の区画は触れ合い広場も兼ねておりますが、これも希望制です」 「……なんか、思いのほかラフにエロいことしてるんすね」 「ふれあい広場に入る際にはお客様にも清潔を徹底していただいておりますし、あそこまで許容し望むポニーも存在します。首に掛けている札に許容範囲が記されておりますので、細かく指定も可能です」 「なるほど……」  ふれあい広場の形式そのものは、普通の動物園とさほど変わらない。柵に囲まれた空間にお客さんが入って、パークや馬自身の許容する範囲内での触れ合いが行われる。  単に歩いているところに近づいて撫でるだけのこともあれば、背中に鞍がついていて騎乗できるようになっている馬もいた。お尻を叩かれて嬉しそうなポニーガールが目立つ一方で、中にはカバーを外されて露出した性器を扱かれて悶えるポニーボーイも。よく見れば確かに、何が可能かによって身につけているものが少しずつ異なっている。  装具の違いはそれだけに留まらず、裸を見せたくないポニーはラバースーツに身を包んでいたり、顔を隠したいポニーは全頭マスクや馬マスクを被ったりとさまざま。どこまでの変態かはポニー側が定義して、客が趣味が合うように選ぶ形が取られていた。 「もちろんふれあいを希望しない馬もおりますので、それらはこちらの区画に。放牧地でくつろいで遊んでいるところを鑑賞することも可能です」 「まるで動物園みたいですね……」 「家畜の望む形での被虐を見せる施設ではございますが、あくまで見世物としてではありますので。どれだけ隠しても構いませんが、見世物にはなっていただくことになります」  それは確かに、そうだ。労役をこなしていてもここの主目的はあくまで観光地であり、家畜が養われ報酬も出るのは展示物だから。そこは従わなければならない線引きなのだろう。  もっとも、それは募集の時点で大きく明示されていた。嫌であればそもそも応募していないから、見学者は見世物扱いを苦にしない、それどころか興奮する変態ばかりだった。  畜舎はというと、全てのポニーの休憩場所であり固有空間だった。広いとはいえない小部屋にそれぞれ入れられて、寝転がっていたり立ったまま壁についた玩具と戯れたりしている 。  しかし鑑賞ルートは存在するから、この中にもお客さんは入ってくる。少なくとも開園時間中は、ポニーたちに誰にも見られない方法は与えられていなかった。 「その他にコースを設営しての競馬や、他の家畜を交えての品評会なども計画しておりますが、まだ試行段階です。数も足りてはおりませんので、皆様のご参加をお待ちしております」  馬車を牽いていたポニーは畜舎に帰ったから、ここからは徒歩でのツアーとなる。続いての目的地は隣接している牛舎だ。  表の放牧地では、ポニーとほぼ同じ拘束を受けた牛たちがのんびり。ポニーとの違いはいくつかあるけど、わかりやすいのは首元のカウベル、必ず露出している胸、全身の牛模様だ。模様は肌に描いているものもいるけど、大半が牛柄のラバースーツになっている。  それと、こちらは雌しかいないらしい。プレイの上ではアソコを搾られる雄牛というのも聞いたことはあるけど、ここは牧場だ。精液では畜産物足りえないと、あまりにも当然で惨いことを言われていた。 「中には農場での奉仕も希望する牛が存在しますが、多くはこちらの畜舎にて乳を出すだけの存在となっております」 「……うわ、すごい光景」 「甘い匂い……」  畜舎は馬のそれよりもずいぶん整然としていて、そこが搾乳場も兼ねていた。生活空間であろう小部屋から出てすぐのところに固定台が存在して、その台へ水平にお腹を乗せる形で拘束されている。垂れ下がった乳房に搾乳器をつけられて搾られていて、牛たちは嬌声をあげながら人間では有り得ないほど絶えず乳を噴き出し続けていた。  搾られた乳は一定量がその場に溜められてお客さんが飲めるようになっていて、それ以外は大きなミルクタンクに送られている。そこで殺菌処理をして、ミルクとして販売しているのだとか。甘い匂いはそのタンクから漂っているらしい。 「牛たちには独自開発された特殊な薬を投与しておりまして、牛のように大量の乳を出すようになっております。健康への害や後遺症はございませんので、ご安心を」 「…………ミスト・スランバーはとんでもない技術を抱えてるって、ほんとだったんだ」 「すごい……」  通路は牛たちの前後にあって、前側の通路から搾乳の様子が、後ろ側の通路からは突き出されたお尻が鑑賞できる。スーツに覆われていたり単に丸出しだったり、玩具が固定されていたり尻尾が生えていたりとまちまちだけど、ここも傍に掲示されている希望内容さえ守れば好きにいじっていいらしい。そこかしこからスパンキングの音が聞こえたり、水音が響いたりしていた。  健康診断の真似事なのか、時にはずらりと並んだ雌牛のお尻へ順番に指を入れてかき混ぜて回る飼育員さんもいる。稀に希望しないとしてお尻をガラスケースに守られている牛もいるけど、全体的にポニーと比べるとずいぶん気持ちよさそうだ。 「搾乳そのものが快楽を伴いますので、それだけでは物足りないという牛は玩具を身につけたりお客様を誘ったりしております。気持ちよくなり続けたい女性の方には一押しの家畜です」  また、この牛にもふれあいコーナー……というよりは乳搾り体験コーナーが用意されていた。形式は同じなものの、搾乳器がつけられずに大きな乳房が垂れ下がっていて手搾り用になっている。  容器目掛けて搾るお客さんも楽しそうで、牛のほうも気持ちよさそうな声をあげていた。轡も噛まされていないのに、もおもおと情けない鳴き声しか許されていないようだけど。  なんというか……他の場所とは違う倫理観が醸成されているというか、独特な世界観ができあがっている。マゾ的な憧れと興奮とは別に、面白いと思ってしまったのは変だろうか……?  まだ敷地は余っているようだから後から増える可能性もあるとのことだけど、この牧場には大きく分けて4種類の家畜がいる。次で3種類目だ。 「こちらは鶏舎となります。ただし、鑑賞で楽しむことが前提のものとなっておりまして、特に羞恥好みの方にはお楽しみいただけるかと」 「羞恥……確かに、放牧エリアの時点ですごいですね」  馬、牛ときて、次は鶏。ただ、乳はともかく卵は人には産めないだろうという感覚は正しかったようで、より観光資源に寄った性質になっているらしい。  羞恥、恥ずかしいという感覚に注力したエリアということもあってか、自由行動が許される放牧柵の中にも凄い格好の子たちが晒されている。  両腕は後ろで拘束されて、脚は曲げて畳んだ状態で束ねられてしまっている。少したりとも膝を伸ばすことができず、可動域のほとんどない足はひょこひょこと小さく歩くことしかできなくなっていた。  しかもその上で、全ての個体に共通して股間が丸出しだ。どうやら隠すことは許されないようで、性器もおしりの穴も丸出し。しかも脚の状態が状態だから、股は強調するような姿勢になってしまっている。 「産卵が役目である鶏は、股間を隠すことを許されません。産卵時に改めて露出させることも手間ですし、オスの不要なぶら下がったものであっても見世物くらいにはなりますので」  確かに合理的ではあるんだけど、やはりとても恥ずかしそうだ。こんなところに自ら望んで入るくらいだから、オスは例外なくがちがちにして揺らしている。  そして羞恥が原因なのか、他よりもマスクを被っている割合が多い。デフォルメしても可愛くなりづらい鶏の頭を嫌ってそのままの子も、メスを中心に多いようだけど。  家畜同士の交尾は禁じられているようで、耐えきれないほど発情した家畜たちは常駐している飼育員のもとへ列をなすかふれあい客に擦り寄るか。当然こんなところのお客さんなんてサドかマゾしか来ないから、下手なことをされないための監視さえあれば悪いことは起こらないようだ。やっていることがことだから、入園料がそれなりにするのも理由かもしれない。  それはさておき、ここまでで一番自信ありげなガイドさんに続いて鶏舎の中へ。そんな得意げな態度に違わず、私たちは揃って感嘆することとなった。 「こちらとなっております」 「うわぁ……」 「これは……壮観ですね……」  馬や牛のそれと違い、体の向きを変えたりという最低限の余地すら残されていない狭い空間。部屋というより箱のほうが近いそれが、鶏一羽ずつに与えられた空間だった。  表の鶏と同じ拘束をされた上で、全身のあちこちをぎちぎちに繋がれて姿勢を変えることすらできない。思い切り開いた股の下は便器のようにお尻だけを乗せる椅子があって、その中央に開いた穴の下からはちょうどお尻と膣穴を分ける位置に頂点がある山の形の斜面が前後の溝まで続いている。産み落とした卵はここに転がり落ちて、溝を伝って集められるようだ。  そしてそんな股下には、オスには一本、メスには二本の謎の機械。何かと思って近くの雌鶏のそれを見ると、ちょうど動き出すところだった。 「うぅ……んぁっ!? あぅ、んぅ……そ、そんなに、みないで……」 「この棒は卵を装填する装置です。前回産み付けた個数の産卵を確認すると、こうして上がってきて挿入され、先端から卵が穴の中へ植え付けられます」 「すごい……これでずっと卵を産まされているんですね……」  棒が縦に上がってきて、ちょうど空になったらしきおしりの穴に挿入。中から小さな音がして、雌鶏の反応から察するに何個かの卵を植え付けられた。こうして奥まで装填されて、それを産んでの繰り返しをする場所のようだ。  ちょうど産み落とされた卵を拾ってみてみると、愛液に塗れた卵状のプラスチックボールだった。さすがに紛い物のようだけど、こうして形とサイズは同じものをひたすら産まされる屈辱は計り知れない。 「ご覧の通り羞恥は最も激しい家畜となっておりますが、希望者は最も多くなりました。ここに繋がれている鶏たちは、どれも尊厳を奪われて恥を晒し続けるだけの見世物となりたがった変態でございます」 「……いい、ね」 「いいですね、これ……」  確かに、見方によっては馬や牛よりひどい。労役やミルクで役に立てるそれらと違って、鶏のすることはただ偽物の卵を産み続けるだけ。一応産んだそれの一部はお土産になっているようだけど、見た目の恥ずかしさも見世物の比重も段違いだ。  しかも、もうひとつ。ここでちょうどアラームが鳴った。 「ぅ……んっ、はぐ、んむ……」 「……これは鶏用の飼料です。見た目はこうですが、味も栄養も人間の食事並みになるよう調整されております。皆様も少しどうぞ」  鶏舎は足元に卵を集める機構があるほかに、顔の少し下にもレーンがあった。そこにフレーク状の固形飼料が流れてきて、鶏たちはそこに顔を突っ込む。これしか与えられないから食べるしかなく、それがどんなに恥ずかしい姿であっても選択肢などないそうだ。もちろんお客さんがいてもお構いなしだそう。  姿勢をほとんど固定されているのがわかる頭だけを下げた姿で貪る鶏たちを見ながら、レーンから数粒を拝借。食べてみると……確かにすごく美味しい。しかも毎食味が変わるそうで、あくまで有効な被虐以外は快適に過ごせるようにしているとわかる。そのほうが長く飼うことができる、だとか。  もちろん食餌中も産卵は止まらない、というか出てきてしまうようで、食べながら卵を産んでいるものも多かった。ただしお尻の穴を産卵に使われている都合上、食後には腸内洗浄を課されているようで排泄の自由すら存在しない。しっかり繋がれたチューブで浣腸されてから、綺麗な直腸にまた卵を産み付けられる様をひととおり見学させてもらえた。  餌というと、ポニーと雌牛は専用の細長い固形餌を轡を外して手ずから与えてもらえるらしい。餌やり体験もまたアクティビティとして用意されていた。  どちらのほうが屈辱的かはなんともいえないけど、少なくとも興奮はしている様子。でないとこんなところに入らないだろうから、当たり前ではあった。  そして、もうひとつ。最後の家畜も見学してから、その日は併設されたホテルに宿泊した。ツアーは2泊3日で、明日は希望した家畜を体験させてもらうことができる。実際にやってみて、入舎するか決められるのだ。  しかし当然、こんなツアーに申し込んだ私たちのような変態は止まれるはずもなく……。  そんなツアーから時が経って、私は正式に家畜としてパークへ収容された。体験を終えて帰宅してからもずっと、何ヶ月も悶々が止まらなかった変態には相応しい場所だろう。  体験のときは一通り全て試させてもらって、自分に一番合う家畜がどれかを確かめた。実のところどれも最高で、応募するときにはどれを第一志望にするか本当に迷った。馬車に繋がれて走る屈辱はそれまでの性経験など簡単に塗り替えたし、がっちり固定されたまま乳を搾られるのは部品にされているような興奮があった。鶏はそれらよりも恥ずかしくて、何度も見られるだけで産卵イキしてしまったほどだ。  だけど、私は最終的にはどれも選ばなかった。本当にどうしようもないマゾだった私には、最後のひとつが一番心地よかったのだ。  それが、これ。他の家畜たちからさえ尊敬されながら見下される、牧場の最底辺。 「ほら、いってこい!」 「んぶぅぅっ!?」  豚だ。この牧場の飼育物としては当然真っ先に候補に挙がったであろう、無様さなら一番の四種目の家畜。私は最終的に、誘惑に抗えずこれを選んだ。  それぞれ希望による個体差はあるけれど、姿形はけっこうシンプルだ。私の場合は胸と股間の穴が丸出しになるショッキングピンクのラバースーツに身を包んで、蹄つきのヒトイヌ拘束具を履かされている。四つん這いから起き上がることはできないが、一応歩いて身動きは取れるから鶏よりは束縛度は少し控えめ。 「んぶっ、ふすっ、ふっ……」 「んぁ……んぐ、ぶるるっ!」  ただし、それは首から下の話だ。豚は胴体こそただのヒトイヌ拘束なものの、強いられる羞恥や惨めが激しいものが多い。ラバースーツは着るならば色はピンク固定で、艶やかな黒や他の色なんて許されない。上質な豚は今後黒豚にするかも、という話は聞いたけれど、今のところはまだ。  それに一番の特徴として、鼻フックが必須になっている。今も私は上方向にしっかり鼻を潰されて、無様な豚鼻を放牧地に晒している。さらにはお尻の穴に挿入された尻尾プラグも、短く巻かれた豚のそれ。馬のような長い尻尾と比べると、ぴょこぴょこと主張して私はこっちのほうが恥ずかしい。一応鼻は豚鼻そのもののような飾りで隠すこともできるけど、私は迷わず丸出しにしていた。 「よし、偉いね。ご褒美だよ」 「んぶっ、うぅっ……!」  その上で口は、豚の鳴き声に近づけるためなのか猿轡に塞がれる。これは種類を選べるから、私はフェイスクラッチマスクとバルーンギャグにした。適度に圧迫感があって、よりぶぅぶぅ言いやすいからお気に入りだ。  そんな豚の役目はいくつかあるけれど、今やっていたのは牧羊犬代わり。追い立てたのは馬で私は豚だから、牧馬豚といった方が正しいかもしれなけど。  放牧している他の家畜に四つん這いで近寄って、追い立てたり先導したりして畜舎へ収容する労役である。家畜たちは豚を見たら一緒に畜舎へ向かうよう躾けられているから、さほど難しい仕事ではない。  ただ、家畜は一頭ずつ連れ立たなければならないし、それぞれに一度ずつ思い切り豚面を見せつけなければならない。その上で尻尾と尻を見せつけながら振るか、より遅い四つん這いの惨めさを噛み締めるかのどちらかとなる。 「よし、それじゃ戻りなさい」 「んぶぅっ!!」  全ての家畜を戻したあと飼育員さまがご褒美をくれるかはまちまちだけど、ご褒美の内容は豚にとっては嬉しいことだ。頭や尻を撫でられたり、鼻フックを上へ引っ張られたり。豚にとって一番のご褒美は、自分が豚なのだと深く実感できる行為だから。  豚のもうひとつの特徴として、単独でパーク内を歩くことがある。畜舎でどこの手伝いをしてくるか命令されて、自分で四足歩行でそこまで行って、役目を済ませたら自力で畜舎まで戻るのだ。GPSがつけられているから迷子にはならないけど、あんまり遅すぎるとお仕置きもある。  そしてそれはつまり、お客様と同じ空間に存在しうるということで。 「お、豚ちゃんだ」 「帰りかな?」 「んぶっ」 「お疲れさまー」 「おーよしよし、ブザマで可愛いなぁ」 「んぅ、っぶ、うぅ……」  すれ違ったお客様には、豚が帰りだと認めた際だけ撫でるところまでは許されている。だから出張する牧畜豚は、帰りのどこで撫で回されるかわからない。勃った乳首を擦るように胸を撫でられることも多いし、お尻も毎回のように叩かれてしまう。それで悦んだ反応をしてしまう豚が悪いのだけど。  そんな調子だから、いくら会員制で民度のいいパーク内とはいえ散々もみくちゃにされて帰ることになる。股間こそ触らないよう案内されているけど、後ろ脚やお尻や胸を撫でられ続けるだけでマゾ豚は発情が止まらなくなるものだ。畜舎に戻った頃にはふらふらが常だった。 「はい、できましたよ。……おまえはよく励んでいるみたいですし、新企画があったら薦めておきますからね」 「んぶっ、うぅ!」  豚に限らず、家畜のスケジュールは三日に一度程度の休みがとられている。いつも拘束されて体に負担をかけているから、人間より少し多いくらいの休息くらいはないとよろしくないのだ。休日は家畜どうしでマッサージをしあって、あとは好きなように生活することができる。……それくらいは人間に戻さないともたないとテストでわかったそうだけど、一体だれがどんなテストをしたのやら。  その休みが明けて、今は拘束具をつけて豚に戻ったところ。大抵の家畜は休日のほうを疎みがちで、私も「休日は拘束など体に負担のかかることをしてはいけない」というルールにもどかしくなるほうだ。だから着け直したときは興奮して、鼻や尻尾を強調して飼育員さまに甘えてしまう。優秀だと褒めてまでもらえたのだから、今日はなおさらだった。 「よしよし。では、今日はふれあい広場です。行ってきなさい!」 「ぷぎゅっ!!」  お尻を強めに叩かれて、私は大人しく踵を返した。これで畜舎待機の日だったら少し寂しいけれど、ふれあい広場ならお客様に甘えればいい。  四つん這いで広場に出ると、今日もたくさんのお客様。こんなニッチな趣味でよくぞとは思うけど、海外からの観光客も多いおかげでこの牧場は繁盛している。私はとりあえず、まだ近くに豚がいないお客様のもとへ駆け寄った。 「お、きたきた」 「うわ……改めてみると、すごいね。ちょっと憧れちゃうな」 「おや、冬花もずいぶん染まってきたじゃない。同意見だけど」 「ぶ、ぅぅ……」  お客様は若い女性の二人組で、珍しいことに二人ともマゾらしい。私のことをじっくり見下ろして観察してきて、あれこれ感想を言い合っている。  実のところ、私はこういう扱いをされるのが一番好きだ。せっかく近寄ったのに触れられもしないでたくさん見られて、恥ずかしい要素をつらつら並べ立てながら勝手に盛り上がられてしまうことはけっこう多い。  とはいえ、そんなお客様方もせっかくの実物と触れ合える場所にわざわざ来ているわけで、そう長く我慢していられるものでもない。尻尾の間抜けさを褒められた私がお尻を向けて振っていると、お客様の片割れがしゃがんでラバー尻を撫でてくれた。 「大丈夫、たくさん触ってあげるからね」 「おお、他のマゾの気持ちがわかっておられる。調教の成果ね」 「咲樹だって同じでしょ。……お腹も撫でていいんだ」 「んぶぅ……ぷひっ」 「ほら、ここ撫で上げられるの好きでしょ。豚だものね」  聞くに二人とも一緒に他の誰かに調教されている関係のようで、だからこそ他のマゾの気持ちを理解できるようだ。お尻を撫でられるのが一番好きだと、振っていたおかげかすぐに伝わった。 休まずお尻を撫で続けられながら背中をなぞられて、無防備にしていたらお腹も撫で回してくれた。手つきも優しいから信頼できると思って、私は芝生へ仰向けに寝転がる。冬花さまはお尻とお腹、咲樹さまは頭と喉をたくさん撫でてくれる。  これではまるで犬だなと思った矢先に、まるで心を読んだかのように豚だと自覚させてくれる。牧場や家畜とのふれあいはは初めてなようなのに、あまりに上手い扱いに撫でられた豚鼻をひくつかせてしまった。  そう、豚が一番悦ぶのは、豚らしく扱ってくれたとき。広場の入口で教えてもらえるそれを忘れていなかった様子の二人は、私を見る目がだんだん妖しくなってくる。  ……試しに、お尻をぐっと持ち上げてみる。 「確か、豚にとっては叩かれるのも撫でられるのと一緒だったよね」 「んぶっ、ぁ!?」 「それに、丸出し……手も洗ってきてるし、こんなの触れと言っているようなものよね」 「ぷぎゅ、っ、んぅぅ!!」  ばっちり伝わった。少し浮かせたお尻には、冬花さまから綺麗なスパンキングが入る。私はあまりに気持ちよくて、撫でられるよりひどい反応をしてしまった。  その一方、鼻を弄び続ける咲樹さまは丸出しの乳首を捏ね回してくれた。牧場に出てきてからずっと硬くしていたから、ちょうど欲しくて乳を揺らしていたところだった。 「不器用な子もいますが……なんて言われてたけど、嫉妬するくらい甘え上手じゃない。口も塞がれてるのに、何されたいのか一目でわかるんだもの」 「ぁぶ、んきゅ、うぅ……!」 「ほんとに。おまんこ掘り返されるより、お尻叩かれながらポルチオこねられる方が気持ちいいんだもんね?」 「ぁっ、ぷぎぃ、ぶぅぅっ……───ッ!!!」  もう手篭めだ、なんにもできない。読み取ってほしくてアピールしていた私の弱い全部が責め立てられてしまって、私は破裂音と水音を立てながら地べたで跳ねるどうしようもない生き物になってしまっていた。  お互いへの奉仕を課されているとかなんとか言いながらサド顔負けの手管で私を踊らせて、しばらくするとようやく手を止めてくれた。私は大の字になって息を整えながら追加の恥を晒していたけど、聞き馴染んだ音に慌てて起き上がる。 「ほら、餌あげるね。栓も抜いてあげるから、じっとしてて」 「おお……こんなに膨らませて入れてあるのね。後で膨らませなおしてあげるから、安心なさい」 「んぶぁ、っ、……あぅ、ぁ……」 「ふふ、よく飲めました。ほんと可愛いなぁ……」 「それじゃ、お食べ」 「あぅっ! ……ん、ぁっ」  餌だ。ふれあいの一環として販売されているヒトブタ餌のペーストを、餌皿へ出す音が聞こえた。空腹をアピールする方法は周知されているとはいえ、豚は基本的にお客様から餌をいただくから朝はお腹空っぽなのだ。  私の轡はフェイスクラッチマスクになっていて、栓を外すと一体化しているバルーンギャグも抜けるようになっている。入っていたバルーンの大きさに驚かれつつ、栓についた穴から吸わされることもできる水を飲ませてもらった。少しこぼしてしまいながら喉を潤して、合図とともに皿へ顔を突っ込む。  他の豚はいざ知らず、私は餌を開口マスクのまま食べる。それができるように餌はペーストになっているし、開口マスクの豚はしっかりトレーニングをしているエリートだとか説明がされている。  顔を汚しながら舌で餌を掬いあげて、あまりにも遅い食餌をする私をお客様は見守ってくれた。あちこち撫で回しながら感想を言い合って、自分たちもやりたくなったことを話したりしながら。 「はっ、はっ……」 「よしよし、けっこう食べられたわね」 「あとは食べさせてあげるから、ちゃんと舐めてねー」  しかし開口マスクで舌だけだと、どうしても盛り上がった部分しか食べられない。これ以上は自力では無理となったら、汚れた顔を見せつけながら待機姿勢を取るように躾けられている。そうするとお客様は顔を拭いて、残りをスプーンでかき集めて食べさせてくれるのだ。  執拗に鼻を押し上げるようにしながら顔全体を拭き取られて、スプーンを口の中でひっくり返される。舌でスプーンの凹んでいる側を舐め取れば、綺麗に食べられて餌付け体験もできるという寸法だ。お客様がやりたければ、もちろん最初から全部こうして餌付けされることもある。  どう作られているのかこの餌が美味しい上に、三食くらいはもらわないと足りないから豚は餌やりを嫌がらない。全部綺麗に食べられたら、人工芝へ五体投地で人間様への服従と感謝を示すのだ。 「よくできました。……それじゃ、私たちは行くね」 「楽しかったわ。ちゃんと豚らしく、この後も励むのよ」 「んぶぅっ」  宣言通り大きめにバルーン栓を入れ直してもらって、他のエリアを見に去っていく二人へ尻尾を振りながら見送る。それから次のお客様を探そうかと思ったところで、脇腹に何かが擦られた。 「んぶっ」 「うーっ、んむぅ!」  近寄ってきていた他の豚だ。豚が他の豚の体に鼻を擦りつける行為は、助けを求める意味を与えられている。振り返ってみると、どうやら6人組を二匹で相手しきれなくなっていたところらしい。お客様がたくさんの豚どうしの絡み合いを見たいようだ。  私はすぐに頷いて、二匹連れ立ってそちらへ向かった。同じような悦びを持つ豚仲間と一緒に遊ぶのは、私たちとしても楽しいのだ。  辿り着くや否や、一緒に来た豚を柔らかい芝へ押し倒した。その上に乗っかって体を擦りつけて、ラバーの擦れ合う豚どうしの戯れを見せつけてみた。  向こうは盛り上がってくれたけど、優位は長続きしない。もう一匹の豚が助けるように横から突き倒してきて、私は二匹に乗られてしまった。頭とお腹に股間が乗せられて、もう自力では逆転もできない。  だけど、こちらに気づいた四頭目の豚が向こうからこっそり寄ってきている。あの子に助けてもらえれば、四つ巴の乱戦に持ち込めるはずだ。私はお客様の歓声に辱められながら、鼻でオナニーをしてくる豚の攻撃を耐えることにした。  ……少しして、お腹に座った豚で見えない丸出しの股間に、豚鼻らしきものが押しつけられる感触がした。あれ、もしかして三対一!?

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広げて吊るしてフレーム展示

 某日、ミスト・スランバーのテストルームにて。 「……なんか、今回やたらと搬入物が大掛かりですね」 「ちょっと新しいことを試してみることになったんだ。体格ごとのテストもしたいから、今日はアナちゃんもマゾ側ね」 「わかりました。こないだのでちょっとマゾ欲も来てましたし……そもそもあたし、サドやるとは言ってもマゾやめるとは一言も言ってませんからね」  どうやら今日は新しい商品のテストをするらしい。最近はシェアハウスでの会員サイト配信にもしれっと新商品が混ざっていたりするけど、その手のやつと違って本格的だ。  シェアハウスでやるのは気軽に配信できるもので、わざわざテストルームに来てやるものはそうではない。綿密なモニターが必要だったり、大掛かりな仕掛けだったり、まだ外に見せたくないものだったり。 「というわけで、今回はこれ」 「……金属フレーム?」 「ええ。金属加工会社と提携をつけられてね。フレームバインダーを作れたのよ」  フレームバインダー、確か人をフレームに拘束してしまう珍しい……というか現実では再現も保管も難しいタイプの拘束具だ。見た目的にはプラモデルのランナーに近いかもしれない。  そこに人間を入れて、しかも支えるのだから生半可な素材では作れない。それこそ金属でもないと無理で、だからこそわざわざ金属加工会社にパイプを使って作ってもらったらしい。 「少しずつ形の違う試作品を用意したから、それぞれ試してみてどれを商品化するか決めていくよ」 「よく理解のある工場を見つけられましたね……」 「受注生産まで請け負ってくれるところを探すのは大変だったよ」  とりあえず3箱が運び込まれてきたから、私とカナ、アナをそれぞれ拘束するのだろう。何やら外のほうがまだ騒がしいから、なんとなく嫌な予感はするけど。  ともかく、さっそく始めていくことになった。長時間拘束を目指しているそうだから、準備は早く済むほどいいのだ。  とはいえ装着には少し手間もかかるから、一人ずつ順番にやることになった。じゃんけんで順番を決めたところ、カナ、私、アナの順だ。もちろん勝ったのはカナである。  最初に揃って全裸になってしまって、順番待ちをしている間は手伝いもする。ボンデージ衣装のご主人様方を裸の私たちが手伝う様子は、それだけでも立場の差を明示していて期待を煽る。 「はい、ここに寝て。それから手首をここ、足首をここ」 「はい。……こう、ですね」 「ええ。これは恥ずかしさが控えめな代わりに、拘束感というか吊るし感が強めの形ね」  カナはこう見えてどちらかというと羞恥耐性がないほうなのもあってか、案外まともな姿勢での拘束だった。後ろ手に肘抱きで固めて、脚は自然な開き方。ただ膝を後ろに畳んで、コンパクトな形で体のあちこちを鉄パイプフレームで受け止めて支える形式になっている。  頭にも顔面拘束ベルトを施されて、その頭頂部にも支えのベルトを繋ぐ。まだボールギャグ部分だけ外しているけど、これでもうカナは本当に一切動くことができない。 「それじゃ立てるわよ。……はい、どう?」 「すごい、拘束力で……んん、このままで、いたいです……」 「痛くもなさそうだね。うん、いい感じ」  そしてフレームバインダーの真骨頂、フレームごと吊るされてしまった。なすすべもなく吊られながらすっかり蕩けた様子のカナは、設計がうまくいっているようで辛そうな様子もない。惨めで厳しい拘束に浸ってしばらく戻ってきそうにないから、そのまま部屋の隅に飾られてしまった。  次は私の番だ。確かに見比べると明らかに違う、こちらのほうが大きく開いた形のフレームバインダーに合わせて、期待丸出しで寝転がる。 「ミカは恥ずかしいの大好きだもんね。しっかり開かされて恥ずかしい形にしてあるよ」 「はい……っ、この姿勢、いい……」 「腕はそこ、脚はもう少し曲げて……そう。それじゃ、閉じるわよ」 「ん…………ぁは、はふ、うぅぅ……!」  手は頭の横に開かされて、直角に近い形で曲げられた肘は二の腕側も固定される。そして脚はがに股よりも曲げられて菱形にされてしまって、思いっきり開いた股も丸出しで太腿と足首を縦に二箇所で拘束されてしまった。  胴体には何もないけど、だからこそしっかり固定できている様子がわかる露出的な形だ。カナのものと比べるとずいぶん心もとないけど、これでもぴくりとも動くことはできない。  拘束の閉じ方もややシンプルで、半円状に開く部分を嵌め込んで留める方式。たったそれだけなのに、私はもうこんな恥ずかしい開脚姿勢をやめることすらできない。 「うん、やっぱりフレームバインダーといったら無様開脚だよね」 「確かにそうも思うけど、私はコンパクトな形も好みね」 「あ、あぁ……ぜんぶ、見られちゃってる……うぅ……!」  そのまま吊るされる。丁寧に作られた拘束具は重力の向きが変わっても全く問題なく、広めに面積を取られた接触部が負担を分散してくれるおかげで見た目よりもずいぶん着け心地はいい。……どちらかというと着けられている側だから、着け心地という言い方が合っているかはわからないけど。  お股も丸出しでおっぴろげて、ゆらゆらと揺れてしまいながら吊るされてしまう屈辱は、ちょっと他では味わえないものがある。これはなかなか……モノ扱いされた上で固定の中にも情けないたぐいの遊びがあるというか、さもたくさんあるコレクションや備品の中のひとつにされてしまったような感じだ。 「ふふ、大丈夫。その妄想、後で現実にしてあげるからね」 「ひとまず、次はアナね。アナはまた少し違ったアプローチをしていくから、覚悟はできた?」  フェイスベルトを着けられているのに惚けた声が面白いからと猿轡だけお預けのカナと、こんな完全拘束を受けているのになるべく裸を見せようとばかりに余計な部分のないものに囚われているミカを尻目に、ついにあたしの番になった。最近の家でのプレイは全部サド側だったから、マゾとして遊ぶのはけっこう久しぶりだ。  最初に運び込まれていた3つの箱は、明らかにひとつだけ小さい。そして飛び抜けて小柄なあたしには当然、その小さい箱が残されていた。 「このモデルももちろん通常サイズも作る予定だけど、テストプレイ時点では小さいほうがいいと思ってね」 「……これって」 「車輪付き携行型フレームバインダー、仮称バインダーカートよ。アナもマゾ欲が溜まってる頃でしょうし、今日はしっかり辱めてあげる」  二次元の中でしか見たことのないようなプレイを実行することが少なくないミスト・スランバーだから、あたしも加入してからはそういう創作物によく目を通すようになっている。だからその一環でフレームバインダーはそれなりに知っていたんだけど……その中でもこれは、一度か二度見たことあるかどうかのレアものだ。名前も定まってないくらい。  基本的にはフレームバインダーそのものなんだけど、あたしでもぎりぎり収まる程度のコンパクトなそれには2種類の異物がつけられている。直径40センチくらいのタイヤが2つと、反対側に取り付けられたコの字型の持ち手だ。 「ほら、ここに寝て。脚はミカちゃんみたいに開いてね」 「はひ……っ」  あたしは当然、とんでもなく興奮していた。  そもそも二つも裸のまま手伝って見てきたフレームバインダーに自分も拘束してくれるというだけで、極端な拘束フェチであるあたしにとっては待ちきれないほどだったのに。こんな人間1人でも簡単に持ち運べてしまうカートを見せられて、何をされるかわからないはずもない。  ほら、極端な羞恥フェチであるところのカナが羨ましそうにこっちを見ている。あたしはそんなミカによく見えるように、思わず閉じそうになる股をしっかり開いてフレームバインダーの上に寝転がった。  タイヤの上で股関節はほぼ真横になるほど開いて、腰も支えになるフレームに乗せて楽にする。負担を減らすためか二本あるそれはあたしの体の形によくフィットしてくれている、これを作るためのオーダーメイドなのだろう。  首も疲れないようにか緩めにある支えに乗せ、腕は開いて挙げて手を頭の後ろに。ちょうど頭の横あたりを通って持ち手が伸びているから、そこにある窪みに二の腕と上腕を嵌める。  ここまでやっていれば、もうわかる。あたしのバインダーカートは、まだ後ろ半分しかない。では残りはというと……。 「じゃあ、閉じるわよ。挟まれそうだったら言って」 「ん…………大丈夫です」 「おっけ。じゃあこのまま……よし」 「ふぁ……あぁぁ…………」  あたしの視点で上から、後ろ半分とほぼ同じ形のフレームが降りてきた。ホットサンドメーカーのように挟み込まれて、よりシンプルで強固な仕組みで拘束されたあたしはほとんど動けなくなってしまった。そのまま足元あたりで留め具を嵌められてしまえば、あたしは誰かに外してもらえるまでずっとこのカートの一部だ。  いつものように拘束されるだけでイってしまったあたしを先輩二人が見下ろしてくれて、腰もぜんぜん動かないせいで長引いた絶頂を待ってくれる。まだ蕩けたままながらなんとか落ち着くと、シノさんが頭上すぐ上あたりにある持ち手を握って待ちあげた。  少し斜めのままタイヤに支えられて立てられてしまい、その独特の感覚にまた酔いしれる。そして全身を撫で下ろした空気を実感して、このまま動かされることの意味を理解した。これ、思っていたより、見かけよりずいぶん凶悪だ。 「……大丈夫? 苦しくない?」 「ん……はい、だいじょぶ……」 「それじゃ、このまま散歩しよっか。社員のみんなにたくさん見てもらおうね」 「ふぁ……!!」 「二人はこのまま待ってなさい。無力にぶらぶら揺れながら、備品であることをたっぷり自覚してね」  そうして、このまま社内を引き回しにされてしまうのだ。ここは応接室が一階にあるから二階以上には連絡がない限り関係者しか入れない。だから心置きなく、晒されて興奮できるというわけだ。  あたしは散歩刑を言い渡されたときに思わず吹いた潮をわざとそのままにされて、なすすべもなくカートを引かれてプレイルームの外へ。恥ずかしすぎる格好で全身に拘束と空気を感じさせられながら、廊下でさえ胸が高鳴って仕方なかったのに躊躇なくエレベーターへ乗せられてしまった。  行き先は二階。つまり、下から順にくまなく巡って見せつけるのだ。 「ちょっとお邪魔するねー」 「あ、ご令嬢。お疲れ様です」 「って、えっと……そっちは?」 「うぅ…………」 「テスト中の新商品候補。せっかくだから見てあげて、ちょっと確認してみて」  二階の女性用玩具開発部。あたしを引いて軽い調子で入ってきたオリさんに、皆さん驚きつつも落ち着いていた。きっとこうして入ってくるのも珍しくないのだろう。  ただ、オリさんが片手に持っていたモノ……つまりあたしには、物珍しそうに一同が興味津々。すぐに取り囲まれてしまって、これでもかと視線を浴びることになった。 「こ、こんにちは……あぅ」 「凄い、ですね……」 「でもちょっとかわいいかも」 「これ、3階と4階の連中の担当じゃないっすか?」 「この後行くよ。ここにはセット売りするときに合わせるオモチャを考えておいてほしくて」  猿轡をされていないから、一応は同僚として挨拶しなければならない。こんな格好で囚われていながら、さも対等みたいに言葉を交わさないといけないのが意地悪なところだ。オリさんとシノさんのことだから、ただ忘れているわけでは絶対にないだろう。  あたしもこんな環境に置かれてもう一年近くになるから慣れてきているし、みんな最低でも理解が、多くは同じ趣味も持っているひとたちだと知っているし、何よりおかしなことはやり出さない大人だとわかっている。丸出しのおっぴろげで社員さんたちの前に引きずり出されても、犯されたりいじめられたりなんて心配はない。下卑た視線すらない。  ただその代わりに興奮くらいはぶつけられるし、職業病なのか冷静に観察されてしまうことがとても多い。正直そっちのほうがよっぽど恥ずかしい、自分が人間ではなく実験動物として扱われている気分になってしまう。 「この形だけなんですか?」 「ううん、これは持ち運べる特殊モデル。普通の吊るす形もあるし、バリエーションは豊富だよ」 「それなら……ここに取り付けるような電マとか」 「よさそうですね。この後テストルームで大人数での各種テストを行うので、いくつか取り付け器具の試作をお願いできますか?」 「おう、任せてくれ。調整できるように作っておく」 「それと、集団テストの参加者も募集してるの。希望者は15時半までに6階ね」 「これのかぁ……行こっかな」 「男性のほうも小規模ですが隣でやりますので、そちらも」  そんな感じで、晒し者になっているあたしの周りでどんどん話が進んでいく。どれだけ見られても脚を閉じることも、腋を下げることすらできずに姿勢を固定されているあたしの姿に、それぞれ創作意欲は刺激されている様子だ。それは何よりだけど、股下に「このへんに電マ」ってジェスチャーをされるのは、実際に当てられるよりも屈辱的だ。思わず皆さんの前で濡らしてしまうのも許してほしい。  ついでに副目的の志願者集めもやりつつ、各部屋を回って上の階へ。……最初の部屋だけでもたまらなかったけど、次々に連れ回されるとその度にカートそのものになっている自覚が増して興奮してくる。 「おぉ……アナちゃん、着用感はどんな感じなの?」 「体重分散はうまくいってるか?」 「変に動いちまうトコとかあったら言ってくれ、設計図を修正するから」 「あ、あはは……だいじょぶです、とっても気持ちいし……」  中でも大変だったのが、3階の拘束具開発班。ミスト・スランバーの看板の一角ということもあって精鋭揃いで、しかもフレームバインダーとなれば専門だから明らかにテンションが上がっている。実際に体験しているあたしへの質問攻めが始まってしまって、あたしは疼く体をなんとか鎮めながら冷静な感想を言う羽目になった。  あたしが良いと言ったんだけど、ついでに実際どのくらい動かないのかなどの触診までしてくれる。とにかくきつい拘束が大好物であるあたしにとっては心の友であり欲しいものをくれる恩人たちだから、今回ももちろん全面協力だ。 「さてと。それじゃ私も行ってくるかな」 「あ、体験するの? わたしも行く」 「シノちゃん、インナースーツ着たままでも大丈夫?」 「ええ、どの素材でも。変な噛み方をしたら困るので、ひとまずぴっちり系だけですが」  そして希望制のフレームバインダー体験テストの参加者も、当然ともいえるもののここが一番多かった。あたしを見て改良に余念がないか、自分も使ってみたくていそいそと準備を始めるかのほとんど二択のようになっている。  あたしの近くに残った一人のお姉さんに前方へ剥き出しの内腿を撫でられて、反射的に出てしまう動きがどれだけ阻害されているかを確認してくる。あたしとしてはそんなことをされても抵抗できない実感と、本当にほとんど動かない拘束力をどちらも楽しめるから大歓迎だった。  大人数の体験で人手も必要ということで、結局体験希望と手伝いで全員となった。あたしは背中を斜め下にしてスーツケースのように転がされるんだけど、この部屋を出た時に後ろへ向けられたあたしの視界には無人になった拘束具開発班の部屋が映っていた。  アナが帰ってきて少しすると、たくさんの社員さんがテストルームに集まってきた。私たちの隣にカートのまま持ち手を吊るされるアナと気さくに話していて、すっかり熟成されていている私たちのこともじっくり眺めてくれている。  おおよそ普段の格好のままの人と、裸か全身スーツのようなものしか着ていない人とで分かれている。このうち後者のほうにはよく見ると、私たちと同じテスターも混じっている。 「ここまで大掛かりなのは初めてで、不安な人もいるだろうから……まずはテスターからやっていこっか」 「うん、お願いねー」 「こんなの楽しみにならないわけないじゃん……」 「え、2人一緒に?」  そういうことになったようで、あちこちでテスターがフレームバインダーに囚われはじめた。私たちはそれを空中から見届けて興奮することしかできない。 「うん、すごい拘束力。とっても恥ずかしいし、いろんなポーズでされてみたいな」 「あんまりそうは見えないですけど……やっぱりすごいな」 「なんだか不思議な感じ。一人で固定されてるみたいなのに、後ろにカナンがいるのわかるよ」 「うん……けっこう、いいかも。カノン……」 「ひゃ! お尻、擦れてるよっ」 「擦りつけてるから……」  しかもテスターだからこそということなのか、一部はアナのように特徴的な形になっている。平然系で体も柔らかいメルさんはそれを活かすようにとことん恥ずかしい形の、足首が頭の後ろに来るコンパクトな無様開脚。普通なら暴れてしまうほど屈辱的なポーズでも、メルさんは顔色ひとつ変えずに着け心地を話している。  同様に双子であるカナンさんとカノンさんは、こちらはなんとひとつのフレームバインダーに二人を拘束されていた。背中合わせで私と同じ姿勢を取らされて、基礎となっているフレームの表と裏にそれぞれ固定される。どちらが上ともなく寝たままでは装着できないから、どちらも蹲踞で立ったままだからその分も余計に楽しめた様子だ。  三人がさらに私たちの近くへ吊るされて、特にカナンさんとカノンさんは明らかに反応を強めた。わかります、宙ぶらりんになっているのが一番無様で恥ずかしいですよね。  きっとこの無力感が一番の魅力なのだ。ただの拘束であるはずなのにどうしようもなく人扱いから外れてしまう、間の抜けた見た目以上に強い屈辱感が。 「ムグ……ンゥ、ァ」 「もう少し上……よし、いい子」 「うわ……立てられるの、これはこれで恥ずかしすぎますね……っ」  それ以外のテスターも順次並べられていく。単に吊るす代わりにスタンドで立てられてしまう子もいれば、頭まで覆った尊厳剥奪スーツのまま囚われるこの間のスウツテスト出身のペットもいた。  数人のそれが済めば、いよいよ自発的に寄ってきた社員さんたちの番だ。おのおの裸やテストスーツなどの姿になって、顔を隠したい人は全頭マスクを被って、慣れてきたオリさんたちや手伝いの人達の手で次々にオブジェへ変えられていく。  初期出荷分となるものを含めてか結構な数の試作品を用意していたようだけど、それぞれ少しずつ形や機構が異なっている。私たちにそれぞれ試されたような各拘束機構や手を固定する位置、腰を閉じ込めるフレームの有無に脚の形からフレーム全体の形まで。全て大まかには同じ拘束なのに、それぞれ少しずつ違う組み合わせで作られていた。  そうして完成したテストルーム……いや、備品保管室のような様相を呈した部屋は、その中央にいる私から見ても壮観だった。きっとより外側からみればなおさらだろう。  女体とうめき声と雌の匂いが充満する非現実的な部屋はあまりに独特な雰囲気を醸し出していて、オリさんはテスター以外の顔は写ってもモザイクをかけると約束しながらあちこちで写真を撮りはじめた。中でも中央の私たちテスター組は重点的に撮られていて、正面からも後ろからもしっかり写真を残されることになった。しかもいちいち角度を調整されるから、まだ見ていないうちの体感だけど写りはいいはず。  それに飽き足らず、拘束されていない全員を外に出して動画撮影までされてしまった。入ってくるところから一人称視点でぐるりと回って鑑賞され、恥じらう女たちを次々に辱めていく。  螺旋を描くように外周からひととおり見終えたカメラは、このためになのか明確に一区画に固められていた私たちのもとへ。そこからまた一周、舐めまわすように逃げられない裸体を撮影されて。  努めてカメラマンの存在を意識した素振りを見せないよう浸っていた私の股に、どこからともなく取り出した電マを押し当てた。そのままスイッチを入れて……。  同時に録画を終了したことにさえ、私は気づくことができなかった。

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