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雪中アヤメ
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ヒトペットになれたら

「では、最終確認です。音葉さんは本日をもって、ヒトペット制度の対象者となるということですね」 「は、はい」 「本制度の対象者となった場合、一部の人権を契約者へ譲渡することとなります。当然、これまでのような生活は不可能になりますが、よろしいですね?」 「……はいっ」 「では、こちらにサインを」  わたしは今、大切なパートナーに立ち会ってもらいながら人生最大の選択をしていた。ヒトペット、つまり人間でありながらそうあることを捨てて、ペットになるための手続きだ。  わたしはパートナー、これからは飼い主になる幼馴染の真夜と一緒に、そのために役所に来ている。 「はい、確かに。では本日この瞬間から、ヒトペット制度を適用致しますね」 「っ……! ありがとう、ございます」 「手続きと一年間の猶予を経れば解除することは可能ですが、いくつかの弊害が残ることはご了承ください」  この国にはヒトペット制度と呼ばれるものがある。これが制定された経緯には国民の充足度とか、性犯罪の件数とか、本当にいろいろあったみたいだけど、実際のところは単純だったと思う。  最近の調査によると、現代の文化発展も相まって、こと先進国では人口の実に一割がマゾヒズムを有しているという。このうちのさらに何割かは、人間として普通に生きるよりも他者のペットとして飼われてしまうほうが幸せになれるとも。これを受けて施行されたのがヒトペット制度だ。  ヒトペット制度の対象者は人権の一部を停止……正確には必ず登録されるパートナーへ預けて、その分だけあらゆる面で人間としての扱いが受けられなくなる。そのほとんどはパートナーである飼い主に向けられるもので、基本的にヒトペットは飼い主に対して拒否権を持たない。  ただしその代わり、ヒトペットはさまざまな面で守られる。飼い主の行い次第では助けを求めることもできるし、愛玩動物と人間の間を取ったような形で人権ではない権利が保護される。  それ以外にも、人間には許されないことが許されることもある。たとえば、人間なら公然わいせつになってしまうこと。ヒトペットは人間ではないから、公共の場で裸や卑猥な格好を晒すことができるのだ。  いろいろと決まりはあるけれど、基本的にはこれはヒトペットを貶める制度ではない。マゾヒズムの生き方を補助しつつ、同等程度の割合で存在するとされるサディズムを抱えた人々との生活を保証するものなのだ。  施行当初は人権剥奪と勘違いされたそうだけど、実態は真逆。一段下の権利を保証することで安心してヒト未満になることができるシステムだった。拒否権はないと言いつつ、飼い主側も強制する権利はない飾りのようなルールだ。お互いにルールだからと隠れ蓑にするための。 「おめでとう、音葉。これでやっとヒトペットになれたね」 「ん……ありがとう、真夜」 「違うでしょ? 私は、ご主人様」 「あぅ……ご、ご主人、さま」 「よろしい。……可愛いよ、オト」  手続き書類の写しと登録証を受け取って窓口を離れたら、ずっと隣にいた真夜……ご主人様が呼び方を変えてきた。わたしがずっとヒトペットになりたかったのを知っているから、一緒になって喜んでくれている。  ヒトペット制度は曲がりなりにも性に関するものだから、実際の登録には両者が成人している必要がある。その前から志望していること自体は勝手だし、昔はともかく今ではそれを咎められたり嘲られたりすることもないけど。 「それで……私は、さっそくだけどヒトペットらしくなって欲しいなあ?」 「ぅ…………わ、わかりました……っ」  それからすぐ近くには他の人がいない、空いているベンチに移動してから、ご主人様はそんなことを言い出した。わたしは当然恥ずかしいんだけど、それを拒むことはできない。そういうルールだから。  まずは登録証を身につける。これはヒトペットであることの証明で、役所で照合して確かにヒトペットであると確認するためだけの数字が刻まれている。デフォルトだと金具で繋ぐことができるだけのものだけど、認可を受けたお店でならプレートを新調することもできる。わたしはひとまず事前に用意してきた首輪にそれをつけて、ご主人様に嵌めてもらった。  それからわたしはその場で服に手を掛けて、そのまま脱ぎ始めた。……公共の場で全裸どころか下着丸出しにすることも人間には許されていないけれど、ヒトペットならむしろ裸で当たり前だ。 「…………っ、ぅ」 「よくできました。これが今後の“いつもの格好”なんだから、慣れること」 「は、はい……」 「うん。隠したりしなくて偉いよ」  実際、街中では裸で飼い主と一緒にいるヒトペットをよく見かける。みんな恥ずかしそうにしているけど嫌がってはいなくて、そして全員が必ず恥ずかしいところを隠していなかった。……これは制度にルールとしてあるわけではなく、実のところ暗黙の了解として浸透している非公式のルールだ。  それを知っていたから、わたしも脱ぎ終えたら両腕を下ろした。まっすぐ気をつけをするのが、前も後ろも見えるから望ましい姿勢ということになっている。ヒトペットは飼い主だけでなく、他の人間の皆様にもたくさん見てもらうのが幸せなのだ。  …………視線を感じる。せいぜい中の下くらいだけど形と柔らかさには自信のある胸にも、ヒトペットの身だしなみとして綺麗に脱毛した股にも、昔から真夜に揉まれるのが好きだったお尻にも。経験がないくらい、信じられないくらい恥ずかしくて……興奮してしまう。 「じゃあ、帰ろっか。帰りに駅前でオトの大好きな拘束具も買ってあげるから、それまではいい子にしてるんだよ?」 「は、はいっ!」  本音をいえば、すごくゾクゾクしていて、お腹の奥が熱くて、気を抜けば触られてもいないのにイってしまいそうだ。だけど今はご主人様に従う。興奮はしてもイきそうなのは我慢して、拘束もリードもなくても隠さずにご主人様について行って、たくさん恥ずかしいところを見せて回る。  市役所の出口に向けて歩き出したら、肌色が動いて目立ったのか余計に視線が増えた。だけどそれはヒトペットだから、視線はみんな微笑ましげで少しいやらしいだけだ。……これがずっと続くと思うと、なんだか爆発してしまいそうだった。 「…………ぁ」 「ふふ。お外だね。お日様にはだかんぼを見せつけるの、どんな気分なのかな」 「っ、は、ふ……あぁ、っ……!」 「わ。……そんなに?」  それから、建物の外に。……ぜんぜん違った。たくさん人がいる前に丸出しにはもうしていたはずなのに、屋外は全くの別物だ。開放感も、恥ずかしさも。  春先にしては暖かい日だったから、外で裸でもちょうどいい気温なんだけど……全身に感じるそよ風と日光は格別だった。背徳的すぎて、人間として本当にダメな、終わっちゃったことをしている気分になって。反射的に隠してしまいそうになった手は、ご主人様の肩にしがみついて無理やり隠せないようにするのがやっとだった。 「ごめん、なさいっ……気をつけ、できない……っ」 「わかった。じゃあこのままくっついてていいよ。……拘束してぜったい隠せなくなっちゃったら、どうなっちゃうんだろうね?」  幸い、ご主人様は許してくれた。ご主人様の腕を抱きしめて、言うことを聞かなくなりそうな腕をそれだけにして誤魔化して、そのまま歩き出す。  だけど、そんなわたしの行き先はヒトペット用具店。わたしは今、自分を追い込みに行くために歩いている。 「ほら、見て。仲間がいっぱい」 「わあ……あの子たち、すごいんだって、今ならわかる……」 「なりたてのペットは不完全で当然だってみんな言ってたから、大丈夫だよ」  市役所の隣は広場になっていて、そこは人々の憩いの場になっている。子供たちもご老人もいるけど、今のわたしたちにはそこにいるヒトペットたちが特に目立って見えた。  だけど今のわたしには、それの真似はまだできそうにない。裸で恥を晒すのが当たり前といった様子で矯正もされずに見せつけて、尊厳を投げ捨てた遊び方で恥ずかしそうにしながら興奮しているのだ。しっかり手を洗った子たちに全身を撫でられている子や、横にベンチがあるのに息を荒くしながら四つん這いになって飼い主を乗せている子や……中には相当慣れているのか、フリスビー感覚で投げられたディルドを自ら穴で咥えて戻ってくる子まで。  それが性教育の一環であり、恥じらいの感情を自覚させつつ思いやりなどの精神的成熟を促す作用があることを、そう育ったわたしたちはよく知っている。だけど、自分もそうなると思うと少し別だった。……今だって、不慣れな姿が目立って微笑ましげに視線を集めているだけで、顔から火が出てしまいそうなのだ。 「そろそろ行くよ、オト」 「はいっ」 「ごめんね、この子はペットになったばっかりだから。また今度会ったら遊んであげてね」  寄ってきた子たちにご主人様が断りを入れながら、今はまだ腕を抱き締めさせてくれる。裸で外にいるだけでぐちゃぐちゃになってしまいそうなわたしを、優しく育ててくれているのだ。  そのまま引き下がってくれた子たちの視線を感じながら、丸出しのお尻を振って広場を後にする。今のわたしにはそれだけでも充分なくらいだった。 「着いたね。道中、どうだった?」 「すごく新鮮で……わかってはいても、心細くて……どきどき、してます」 「楽しそうで嬉しい」  広場と大差はなかったけど、道中も無視できないような新鮮な体験だった。通行人には当たり前のものを見る目で見られるだけだけど、それがまた自分がもう人間じゃないのだと自覚させられてぞくぞくする。車がすれ違う風が体を撫でたり、街中で写真を撮る人たちの背景に映り込みそうになったり。  改めてペットの身分になってみると、街中にあるペットのためのサービスを提供している店への見る目が変わるものだ。どれもただマゾ心的に気になる、くらいだったものが、細かくここは惹かれるとか意外と怖さが勝るとか、心なしか違いを感じるようになってきている。 「ほら、入るよ」  ここもそうだ。何の変哲もない、人間の遊びとしてのボンデージやSMも並行して扱うヒトペット用品店だけど、ショーウィンドウだけでペット目線で作られた理解の深い造りだとわかる。  ご主人様に連れられてそのまま入ると、そこには数人の客と二人の店員がいた。ただ、当然ながら客は全て飼い主とペットの組み合わせで……何より特筆すべきなのは、どうやら店員の片方もヒトペットのようだった。全裸にナンバー刻印つきの首輪と股上丈の短すぎる前掛けだけの格好だから、すぐにわかってしまう。 「いらっしゃいませ! ……お客様、なりたての新人ちゃんでしょうか?」 「うん、そうなの。まだ少しずつ慣らしていくところからなんだけど……とりあえずペット用品と、まだ自分から晒せないみたいだから拘束具が欲しくて」 「かしこまりました! では……お先に、拘束具のほうをご紹介しますね!」 「ありがとう、コロちゃん」 「わふっ」  声をかけてきたのは、そのペットのほうの店員さん。両方の乳首にピアスがついていて、片方に「認定職業ヒトペット」、もう片方には「STAFF コロ」と書かれた札が垂れ下がっている。コロさんはわんこ気質であるようで、ご主人様に頭を撫でられると尻尾を生やしたお尻を振りながら犬っぽい鳴き声をした。  ヒトペットは登録したときに改めて名前がつけられるのだけど、その名前には大きく分けて二つの傾向がある。わたしのように元の名前から取ったものと、コロさんのように本当にペットにつけるようなものだ。  わたしの場合はご主人様が「ただのヒトペットじゃなくて、音葉だから飼いたい」と言ってくれたからこうしたけど、コロさんのような積極的なペットの振る舞いも良さそうでちょっと惹かれてしまう。 「本当に全く不慣れな子なら、このあたりの手枷あたりから始めることも多いですが……見たところ、けっこうしっかり拘束されたい子じゃないですか?」 「ついさっき登録してきたばかりで、それまでは聞いたりしてなかったんだけど……どう?」 「確認してみましょっか。ちょっと触りますね」  わたしは、たぶん拘束されたい方だと思う。さっきからずっと、「人間じゃないから仕方ないよね」を盾にヒトペットの振る舞いをぎりぎりできているだけだから。  しかしそれを言う前に、コロさんがわたしの背後に回った。優しくわたしをご主人様から引き剥がして、手首を両方取って背中側でくっつけさせてくる。 「わ……」 「私もそうなんですけど、けっこう真似っ子くらいのやり方でも好みってわかっちゃうもので」 「んっ……」 「ほら。きつめの方が好きそうですね」  それから後ろで伸ばさせられた両腕をまとめて抱き締められて、より動けないようにしつつ胸を張らされる。それに反応してしまったのが、あまりにも簡単にバレた。コロさん、こういうことはよくやっているようだ。  自分の感覚と恥ずかしさもそうだけど、腕にコロさんの肌や名札の感触がしたのもその材料だった。この子も自分と同じで、自分もこれからこうなっていくものの先輩なんだとと思うと。 「となると……初めてにしてはハードですが、こちらのアームバインダーあたりがいいかもしれませんね。コンパクトで姿勢は固定できて、扱いやすいです」 「オト、どう?」 「ん……確かに、これすきかも」 「じゃあこれにしよっか」 「よろしければ、もうお着けになりますか?」 「うん。オト、このままお買い物なんて絶対耐えられないもんね」 「ぅ」  ばっちり見抜かれている。その通りで、わたしにこの自分を辱めるものばかりの店をちゃんと歩ける自信は全くなかった。コロさんに腕を抱き締められたまま、自分からその場に跪いてしまうくらい。  そのまましていたら、本当にあっさりアームバインダーを着けられてしまった。下から三角の袋を被せられて、上まで紐が通されていて引っ張るだけで調節できる簡易編み上げ式の仕組みでしっかり拘束されて。肩ベルトを交差するように固定されたら、もうわたしは腕なんてなかったようになってしまう。背中側でぱたぱたするくらいしか可動域がない。  ……もうご主人様の腕に縋り付くこともできなくて、サイズはともかく形は自慢の胸も、この日のために全部綺麗にしてきた股も、もう隠せない。 「は、ひゅ」 「わあ、とっても素質のある子ですね! 商品モデルにほしいくらい……」 「ありがとう。そういうのもあるの?」 「はいっ。うちはペットのものはペットの感覚で、が基本ですので! ……では、今度は飼育用品をご案内しますね!」  ……それから、今後わたしを飼うにあたって必要なものをたくさん買った。もうご主人様の家にこれまでの私物は引っ越しとして送ってあるけど、ペットじゃないと使わないものはこの日買う予定だったのだ。  その間、わたしもたくさん連れ回されて、どれが好きか、どれが良さそうかをたくさん聞かれた。餌皿を床に置いて顔を突っ込まされて、どの柄の皿がかわいいかはご主人様が選ぶのを付き合わされたり。 「オトちゃん、ちょっと失礼しますね」 「ひぁ!? ゃ、ンっ……あっ」 「これからは触りたいって言われたら触られるんだから、オトも慣れて」 「ふむ……すごく柔らかいですけど、狭くて締まりがいいですね。これなら小さめ……このくらいのオモチャでも充分満足できると思います」 「なるほど。……ちなみに、コロちゃんは?」 「私はある程度慣れてますが、どうしても体が小さいので。私もこれくらいですね。……私みたいに体質によってはいくら可愛がってあげてもサイズが変わらない子もいますけれど、もし物足りなさそうにし始めたら買い替えをご検討ください」  こんなふうに、店内でいきなりコロさんに前後両方の穴をまさぐられて、中途半端に気持ちよくさせられながらサイズを確認されたり。ここまでの羞恥でひどく濡れているのもバレて脚に愛液が伝ったけど、ペットならそんなのは普通だからと拭いてももらえない。  やっとのことで買い物を終えて、撫でられて喜ぶコロさんを横目に飼い主であるらしい店主さんのもとでお会計。ペットたちを見るのがとにかく好きだとかで、アームバインダー姿で股を濡らしているわたしのことも微笑ましげにしていた。 「アームバインダーのタグ、お切りしますねっ」 「お品物は普通の袋にお入れすることもできますが、オトちゃんがご主人様に尽くすことが好きな子なら……こちらの袋を装着して、荷物を運ばせることまできますよ」 「そんなのもあるんですね……私も新人飼い主なので知らなかったです。オト、どっちにする?」 「……持たせて、使ってくださいっ」 「いいよ。好きなだけ奉仕して、惨めな気分を楽しんで」  さすがは専門店というべきか、わたしたちの知らない細やかなサービスはたくさんあった。その最後のひとつとして、わたしはアームバインダーの先端に繋ぐ形で買い物袋を持たせてもらう。補助紐を肩に通されているから、負担がかかりすぎる心配もない。  ……ああ、わたし、ただのペットじゃなくて荷馬にまでなっちゃった。でも、そうやってご主人様の役に立てるのが、どうしようもなく嬉しい。 「はっ、ふ、うぅ……!」 「……いいペットですね。ご大事になさって、ぜひまたご来店ください」 「ありがとうございます。また入り用になったら真っ先に」 「わ、わ……私も、いてもたってもいられなくなってきちゃった」  そのままご主人様について店を出る。アームバインダーのほかに、買ったばかりのリード紐をつけてもらっているから、どんどんペットらしくなれてきている。  ……なんだか、周囲からの視線の色がこれまでと違う気がする。ただかわいいだけの犬や猫を見るものから、役目を果たせているいい子を見るような……気のせいかもしれないけど、気持ちいい変化だった。 「じゃあ、ちょっといろいろ見て回ってから帰ろっか。……オトも、しばらくこのままお馬さん気分でいたそうだし」 「はいっ……それがいい、ですっ」  ご主人様、ほんとうにわたしのことをよくわかっている。このまままっすぐ帰るにはちょっと物足りないな、って思ってしまった矢先にこんな提案をしてくれるのだから。  リードを引かれて、最初だけわざと引っ張られてつんのめるまで待って、それから歩き出す。逆らう気なんて最初からないけど、逆らうことなんてできないのだと突きつけられたくてそんなことまでしてしまった。わたしには止まっている自由すらない、荷物を持たされて裸拘束で外を引っ立てられるしかないのだ。 「ふっ、ふっ……」 「気持ちよさそうだね。私にくっついてるのと、どっちが好き?」 「うっ……くっついてるのも、すきだけど……これ、すきだから……」 「うんうん。ペットらしくていいね。オトは可愛い子だよ」 「んぐっ!? ……ぁ、えへへ」  アームバインダーには確かな重みがあって、それが今の自分が家畜のようだと常に自覚させてくる。それといい腕に縋り付くことすらできないことといい、お店に入る前とは大違いで被虐感は大幅に増していた。それがこんなに興奮するだなんて、やっぱりわたしはヒトペットになって正解だったと思わされる。  ご主人様もそうあることを歓迎してくれている。その一方でくっつくのを名残惜しそうにしていてくれるのも、愛されているのだとわかって嬉しいのだから手に負えない。どっちに転んでも幸せだなんて。  ヒトペットはそういうものだと知識としてわかっていたけど、いざそういう扱いを受けてみるとマゾ心を完璧に擽られるものだった。リードをくいっと引かれてなすすべなく前傾姿勢になりながら近寄らされたと思ったら、そこを狙って頭を撫でられたのだ。ヒト以外のペットにそんなことをしたら怒られるけど、ヒトペットはむしろこうされると喜ぶ。わたしも例外ではなかった。 「着いたよ。初めてだし見るだけだから、ここくらいがちょうどいいと思う」 「ん……そうかも。人だった頃もそうだったけど、今はまた別のどきどきが……」  足を運んだのは商店街だ。アーケード街の道の中央に一定間隔で台座が置かれてあって、それらに空きもなく一人ずつヒトペットが固定されている。  ヒトペットには、前日までに予約をすれば街中の指定の場所でオブジェとして晒されることができる仕組みがある。ここはそのひとつで、景色の一環やちょっとした客寄せとして商店街によって台座が設置されていた。  もっと人が多いところだと、駅前や構内にも台座があったりして、たくさん見られる場所として人気になっている。他ではこの街には専用の美術館が存在していて、精緻に作り込まれた台座や額縁とヒトペットが一組の作品として展示される観光名所になっていた。  だけどわたしはまだペットになったばかり。こうして仲間の先輩たちを見るだけにしてもそれらは刺激が強いということで、ご主人様は比較的溶け込んでいる商店街に連れてきてくれたようだ。 「んぅ……」 「あ、『爪を整えた綺麗な手で優しく触ってあげてください』だって。この子は触っていいみたい……オト」 「へっ!? で、でもわたし、手なんて使えない……」 「そんな子のために、この水道があるんじゃない?」  そうして展示されているヒトペットたちは作品としておさわり禁止になっているものも多いけど、触ってもらう前提でそれしか気持ちよくなる手段が用意されていない子もいる。このあたりは個々の好みにも左右されて、そもそも触れないようショーケースに入っていたりしなければ利用する主従が決められる。  一番手前は何もないけどおさわり禁止で見られるだけ、二番目はバイブが固定されていたけど、三番目は触っていいと注意書きがあった。近くに水道があって、そこで手を洗ってからという動線だ。  とはいえわたしの手はアームバインダーの中。これでは触ったりできないとご主人様に──もちろん外して欲しいなんて微塵も思わずに──答えたけど、返ってきたのは水道の形への指摘だった。確かに、一番上が公園にあるような水飲み場形式になっていたのだ。 「じゃ、じゃあ……んっ」 「ひぅ! ……ん、ぅ、っぁぁ……」 「んむ、ちぅ、ぅ」 「それ……そこ、もっと……はぅンっ!?」  ご主人様からの提案は命令に変わったから、しっかりうがいをしてから開かれた脚の間に潜り込んで口をつけた。丁寧にじっくり奉仕の練習台になってもらったら、ずいぶん気持ちよさそうに愛液を垂らしてくる。……ヒトペットは登録前から定期的に検診が必須にされているから、それ同士でこうして触れ合うことは問題ない。  一度深イキしてくれるまで続けて、ぴくりとも動けない姿勢固定フレームの中で辛そうなほど痙攣したから余韻を引き伸ばすために離れる。……ちょっとやりすぎたかと思ったけど、大丈夫そうだ。 「楽しそうだったね。……よく練習してるね、いい子」 「はいっ……んへ」 「だんだん反応もペットらしくなってきた。……じゃあ、そろそろ帰ろっか。帰りにペットランでも見ていく?」 「あ、見たいですっ」  そのまま、飾られていた子の愛液を拭くことも許されないまま再び引っ立てられて、自分も同じものを垂らしてしまいながら帰り道へ。帰り着いたらいよいよペットとしての暮らしが始まるのだけど、ここからご主人様のおうちに向かう途中にはゲームセンターと併設されたアミューズメント施設がある。  そこにはいくつかのヒトペット向けの娯楽も用意されていて、そのうち最もメジャーなのがペットランだった。見学自由とはいえわたしは歯止めが利かなくなりそうで見に行ったことはなかったんだけど、これから連れて行ってもらえるらしい。いざペットになった今なら、それも遠くない未来の予習だ。 「歩くのも慣れてきた?」 「なれてきたけど、恥ずかしいです……」 「でもそれがいいんだよね。もうおつゆ止まってないもの」 「うぅ」  ペットとしての街歩きの楽しみ方がわかってきてしまったわたしを、連れ回して遊ぶのに味を占めつつあるご主人様。楽しそうなのはわたしも嬉しいから、いよいよwin-winだ。  そっちに集中していたらあっという間に施設に着いて、そのまま屋外ペットランへ。半分は形式自由でただ遊べるだけのエリア、もう半分はヒトイヌ専用でコースを競走できるエリアだ。オモチャの貸し出しなんかはあるとはいえ前者はあくまでオマケのようなもので、目玉は当然後者。 「オトはあれ、興味ある?」 「はい……これまで、我慢するためにずっと見に来てなくて。こんどやりたいです……っ」 「そっか、わかった。落ち着いたら真っ先に来ようね」  ずっと我慢してきたわたしにとっては、壮観そのものだった。ミニ四駆のそれを大きくしたみたいな緩やかな障害物競走のコースがいくつかあって、ヒトイヌ一匹が余裕を持って収まれるくらいの横幅に入った何匹ものペットが一緒に走っているのだ。  ヒトイヌは急いでも遅いから早歩きくらいの見た目だけど、当人たちは本気で競走して人としてはみじめな様子をみせている。ぺたぺたてとてと、必死に進むさまはペット目線ですら可愛らしい。近くからの観戦のためだけに入場料を払う価値は確かにある。 「じゃあ、家でもヒトイヌがいいかな?」 「いろいろ試してみたくて……ヒトイヌもやってみたいです」 「うん。春休みのうちにできることはやっておこうね。私も可愛いオトのいる生活、楽しみで仕方ないんだ」 「そ、そんなこと言われたら、もっと濡れちゃう……」 「いいんだよ。地面にたくさんシミ作っちゃって。……ほら、帰るよ」  これはどうせそのうち見るし、きっと自分もやるものだけど、わたしもご主人様も今日からの新生活へのモチベーションが上がった気がする。さっきまではここまで露骨に可愛がる言い回しはされていなかったし、こんなに脚を伝わずにワレメから垂らしてもいなかった。  これから待ちに待った生活が始まるのだ。最高の飼い主のもとで、ずっと幸せに。わたしもご主人様を少しでも多く楽しませられるように、意気込みでうずうずしてアームバインダーを鳴らしたのだった。

Comments

個人的に、どれだけ慣れて楽しめるようになっても反応や恥ずかしさだけは失わない子が好きで。きっとこの子もいつまで経っても濡らし癖のなくならないいい子のままであることでしょう。

雪中アヤメ

えっちな世界観で、マゾな女の子が拘束されて幸せになる描写、とてもステキです… ペットとしてあたりまえのことをするたびにドロドロにおまたを濡らしちゃうおとちゃんがすごくかわいい…!

ぶーメらん


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