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雪中アヤメ
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天使の羽も捕まえて 2

 ところ変わって天界。私は、なぜか縛られたままだった。 「……ねえシィエル、そろそろコレ外してくれない?」 「なんで?」 「なんか恥ずかしいんだけど」 「みんなわかってるんだから、別に恥ずかしくもないじゃんか」 「なんとなく気になるのよ……」  私を捕らえた天使──シィエルの様子がおかしい。普段なら天界に着いた時点で解いてくれるんだけど。  とまあ、このやり取りからわかるように、私は本当の堕天使ではない。……というか、堕天使なんて本当は存在しない。  先ほどまでの地上での一幕は、いわば寸劇だ。正真正銘の天使が羽を染料で染め、極悪人を処分した後にもう一人の天使が堕天使役を捕まえて引き揚げるという茶番だった。  実はこれ、主から直々に与えられた大事な仕事だ。二人一組でダークヒーローと勧善懲悪ごっこをして来いという、およそ人間が知ったら卒倒しそうな壮大な小芝居なのである。  もっとも、当然これには理由がある。主こと神様でさえ配慮しなければならないだけの重大な必要がなければ、わざわざこんなことはしない。  というのも、人間による信仰の一節に、このような文言があった。 『曰く、神は人を善悪貴賤で区別せず。因果応報は冥土の領分なり』  つまり、現世の善悪には天界は干渉できないことになっている。勧善懲悪は死んでからだということだ。  ところが、この条項が主にとっては邪魔だった。多くの人の安寧を脅かす巨悪ですら、天罰を与えられないのだから当然だ。  そこで私たち「堕天使役」というわけ。神の手から離れた反逆者ということにして悪を除き、反逆者を捕え更生させるということにして信仰も補強する。そういう仕組みが出来上がっていた。  ……だから、天界に戻ってきた以上は私を拘束し続ける理由はない。……はずなのだが。 「ねえ、どういうつもり……?」 「まあもう少し待っててよ。悪くはしないからさ」  結局、奇異の目を向けられながら運ばれ続ける羽目になった。視線を向けられていたのは、主にシィエルだったが。 「ただいまー」 「まさか縛られたまま帰ってくるとは思ってなかったわよ……」  さて、これも「実は」なのだが、私とシィエルは同棲している。もっといえば付き合っている。この仕事で組んでいるシィエルは、つまり私の彼女だ。  この、付き合う、という概念は地上から流れてきたものだ。天使たちにも感情はあるから、案外すんなりと恋愛も定着した。それでいて天使に生殖能力などないから、性別の壁なんてものもない。私とシィエルは女同士だが、何ら不自由なく一緒になることができていた。  だから天界にある同じ家へ帰ってきて、一緒に時間を過ごすことが通例になっているのだが……。 「……よし、と」  あろうことか、シィエルは私をそのままダブルベッドに転がしてしまったのだ。  さすがに私もおかしいと思って、原因を考えだして……思い出した。 「ねえ、もしかしてこれ、この間言ってたやつ?」 「うん、DIDっていうんだって。人間って本当に色んなこと考えるよねぇ」  つい一昨日のことだ。地上の娯楽小説を持ってきたシィエルが、主役級の女の子が敵に捕まって窮地に陥る場面について力説していた。ヒロインピンチ、あるいはDIDと呼ばれるらしいこの場面に、なんだか妙な良さがあるのだと。  適当に聞き流していた私だが、今思えば止めるべきだった。確かにこの偽装堕天使任務、私から見れば終わり方はDIDそのものだ。 「やりたいってこと?」 「レシエルは嫌?」 「…………わかった、付き合うわよ」  とはいえ、シィエルがやりたいのであれば私に否やはない。大人しく従うことにした。  私とシィエルは付き合い始めてそれなりに長いから、当然もろもろの経験もある。その経験から、私は服を脱ごうかと問うたのだが、 「ヒロインが服を着ていることに意味があるの」  とのこと。結局私は着替えもしないまま、ベッドの上で大の字に拘束されてしまった。  ただし、邪魔になるからとショーツだけは脱がされている。足を閉じることもできないし、なんだか変な感じだ。 「いい格好だな、堕天使さん?」 「や、やめ……ひゃっ」  手始めとばかりに腋の下まで服を上げられ胸が露出して、スカートを捲り上げられて恥部も丸見えに。服は着ているはずなのに、隠すべき場所は出されている。その上でお腹を撫でられたりするものだから、妙に恥ずかしくてたまらない。  それと、遊んでいる間は堕天使の演技をしろとのお達しもいただいた。まあ、確かにそうでないと前提が成立しない。 「我らが主を裏切ったからには、相応の報いを受ける覚悟はできてるんだろうね?」 「なっ、何をされても、私の考えは変わらな──っ!?」  精一杯の抵抗を見せるために、なんとか動く胴体を捩る。といってもほとんど動けないから、簡単に捕まってしまうのだが。  現に今めいっぱい引いた腰は、シィエルの手とベッドに挟まれてしまった。何度もいじめられた股ぐらが、もう逃げられない状態になっている。 「ぁ……や、っ……」 「しっかりごめんなさいして元の色に戻れるように、私がしっかり躾けてやるから」


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