かわいい人魚達を眺めるだけ(仮) 1
Added 2019-10-09 14:36:04 +0000 UTCカレンダーが捲られた。これで今年6度目だ。早いものでもう七月である。 いよいよ暑くなってきて、学生には華の夏休みも近い時期になってきた。今年から社会人となった私たちにこれまでほど大きな夏休みはないけれど、幸いにも昨今稀に見る超優良企業であるところの我が社はお盆休みがけっこう長かったりする。通常業務でのお給料も文句などまず出ないくらいは出ているし、職場環境もいい。文句を言う社員がただの一人も見当たらないというのは、なかなか珍しいのではと思う。 株式会社ミスト・スランバー。相変わらず綺麗な会社だった。 いきなり閑話休題というのもあまり聞いたことのない構成だけど、これは今回まったく関係ない話だから置いておこう。大事なのはもっと前、いよいよ暑い時期になってきたというところだ。 夏といえば何だろうか。山? キャンプ? バーベキュー? 避暑といえば何だろうか。アイスクリーム? スイカ? それともエアコン? どれも間違っていないだろう。夏といえば、で日本人が連想するものはけっこう多岐にわたる。 ただ、今回私たちが目にしたものはこの中にはなかった。なにしろ真っ先に挙がるべき物のひとつをあえて挙げていない。 いま、私たちの目の前には、巨大なプールがあった。 ……これだけなら、なんてことはない。テーマパークに併設された大型プール施設にでも行けばこの一文は得られるだろう。 だが、そうではない。そうではないのだ。 「ねえ、オリさん」 「なんですか、カナンさん」 私──ミスト・スランバーの社員兼テスターであるカナンと、双子の妹であるカノンは、社長令嬢である霧宮莉緒に連れてこられた部屋で絶句していた。 「……どこから手に入れたの、これ」 私たちの目には、水族館でしかお目にかからないような巨大なプール……否、水槽が鎮座していた。 ◆◇◆◇◆ 「というわけで見てもらえればわかると思うけど、今回はマーメイドボンデージです」 「わかるのかな……」 「このサイトの会員である変態紳士淑女の皆様ならわかると信じましょう」 「疑いようのない真実ではあるけどね……普通に言っちゃうんだねそういうこと」 「問題になったりしないように会員を厳選しているわけだからね、多少はいいの」 今回は最初からカメラが回っている。AV女優……とは全く別物だけど、転載がそもそも不可能なサイトとはいえ私たちはとうに顔を出している。流出防止にミスト・スランバーが本気すぎてキャプチャすら撮れないように処理されているから、私たちとしても安心なのだが。 現在ミスト・スランバーの有料制会員サイトでは、私とカノンの他に、社長令嬢オリの息がかかった学生テスターを含む数人が活動している。その中で私たちは時間の融通がききやすいことを理由に、時間の必要な企画を優先的に回されていた。 「今回は『ラバーマーメイド四時間耐久配信』ということで、会員の皆様には事前告知をしていたわけですが」 「ええっと……マーメイドボンデージというのは、両脚を揃えて人魚のようにする拘束のことで……はい、こんなのです」 フォローに回ったカノンが説明に苦心していると、市販の水泳用マーメイドテールがスタッフから受け渡された。脚を揃えて、下半身をすっぽり包んでしまうタイプのものだ。 実は私たちはこれを使ったことがある。今回のために練習した、というだけだが。当然ながら着けたままでは歩けないからいろいろと注意が必要な代物ではあるが、これ自体は普通に使うことができるものだ。 「見ての通り、これだけでは割と健全なものです。自力で脱げなくすれば一応拘束にはなりますが、正直なところ、これだけでR指定はつかないかと」 「これだけでも好きな人は好きだと思うけど、競泳水着とかと同じような段階ではあるよね」 確かに、これだけではエロとは言いがたい。フェチズムとエロティシズムは必ずしも一致しないわけで。 ミスト・スランバーの場合、そういう時は組み合わせで両方を担保することが多い。つまり、人魚拘束とは別の部分で性的な責めがあることは想像に容易い。 ……なんとも嫌な予感がする。自分の表情が苦々しくなるのを自覚しつつ隣を見ると、カノンも似たような顔をしていた。