ガール・キャット・ロールプレイ 1
Added 2019-07-26 14:35:45 +0000 UTC創作物において突然の来客というのは、予想外のものを見られてしまう展開に繋がることが多い。バタバタして下着姿なんかを見られたり、隠していたものが暴かれたりといった具合だ。もちろん当てはまらないことも多々あるけれど、ひとつの予定調和として成立している感は否めないだろう。十八禁的な展開ではなおさら。 その日は前日の晴れから一転、梅雨に相応しい長雨が朝から降り注いでいた。おかげで誰一人として外に出たがらず、5人揃ってリビングに篭ることとなった。 普段の行為を振り返るとそうは見えなくなりがちだが、私たちとて本当に毎日性的快楽を追求しているわけではない。環境と人数と経験と若さが極端に集まっているせいで頻度は多いが、それでも平均して2、3日に一度といったところである。試験期間ともなれば二週間誰一人として言い出さないこともあるし、逆に長期休暇に入ったりすれば数日がかりの荒唐無稽なプレイが実行に移されることもある。ポニーガール合宿なんかがいい例だ。 今日はそのどちらでもない、普通の「2、3日」の“やらない方”だった。そういう日は各々が勉強なり趣味なり、それぞれの時間を使うことも多々あるのだ。 そのようにして思い思いに午前中を過ごしたが、午後も特筆することはない予定だった。せいぜい私が莉緒さんの仕事の軽い手伝いを頼まれたくらいだ。コスプレ用の肉球付きミトン猫手袋の着け心地を試しただけ。しかも単体で。 そんな緩やかな昼下がりを終わらせたのが、冒頭のような突然の来客。ベタな創作物を思わせる鮮やかな流れだった。 ほかの三人より少し近かったから、突然のインターホンに応対したのは莉緒さんだった。 ……「たぶん宅急便か何かだろう」と高を括ったのはたしかに私だ。私だとも。だから私はミトンの手首を締めるベルトを放置されてもさほど動揺しなかった。 が、玄関のほうからはそれらしき音は聞こえてこない。私の目の前にあるシャチハタを取りに戻ってくる気配もない。そのまま数十秒が経ってまた扉が開閉。結局莉緒さんは特に急いだ様子もなく戻ってきた。 ……のだが、何やらおかしい。足音が二つある。それに気づいた私の刹那の危惧は、およそ考えうる最悪の形で実現した。 「どうぞ、入って」 「お邪魔しまーす」 当然のように入ってくる女性。私の状態をわかっていてそれを野放しにする莉緒さん。そして両手首より先を拘束されたまま、呆然と立ち尽くす私。 目が、合った。 「久しぶり、澄歌ちゃん」 「……なんでここにいるの」 家主の客人の顔を見ただけで絶句した私を許してほしい。莉緒さんとは直に接点がなかったはずの高校時代の親友がいきなり現れたのだ、誰だって驚くだろう。 しかしよく考えてみて、すぐに気づく。そういえば彼女、すなわち上城亜未は同居人にして莉緒さんの親友たる彩乃さんの後輩だった。そこから知り合うことは、確かにありえないとは言いきれないか。 「実は私ね、莉緒さんとは中学が同じだったの」 「なっ」 なんというか、私の周囲はよくわからない接点が多すぎやしないか。私の知らない縁を後から知らされるの、つい3ヶ月ほど前にもあった気がするのだけど。 「妃菜ちゃんも久しぶりー」 「ほんとなんでもアリだよね、莉緒さんって……」 「今回については、むしろ順序が逆なんだけどね?」 さすがに今回の件は妃菜も知らなかったようだ。彼女がああも無防備に驚いた顔というのも案外珍しい。 一方でなぜか奏が愉快げな顔をしている。なんかむかつく。 「亜未……ううん、“ミア”はね、わたしの先輩でもあるのよ」 私の視線に気づいた奏、今日最大級の爆弾。コイツ今なんつった。 しかし向こうではにこにこと微笑む、しかも私の手への視線を隠そうともしない亜未の様子。 頭痛が痛い。 「つまり、まとめるとこういうことか。あーちゃんは中学の時点で莉緒さんの手で変態に染められていて、あたしたちとの高校三年間ずっとそれを隠し続けた。大学に進んでから立て続けに後を追ったスーちゃんやあたしに驚いたのはむしろあーちゃんの方だ、と」 「一部表現に意義は申し立てたいけど、概ねその通りだよ」 場を整えて──当然、私もようやく手袋を外してもらって──改めて裁判、もとい会議。亜未が語った内容は、極限までかいつまむと妃菜の言った通りだった。 中学生の頃、最初は彩乃さんと演劇部の先輩後輩として仲良くなった亜未は、ちょうどその頃親の職業を見抜いて色々と知りつつあった莉緒さんの影響をもろに受けた。パートナーとなった彩乃さんから色々と漏れて莉緒さんとも知り合い、軽くではあるがその時点で調教も受けたと。 そして驚くべきことに、高校に進学した亜未は二年の頃にある男子と秘密の関係を始めた。小野寺という地味系ヘタレイケメンと二年の夏休みに付き合い始めたことは聞いていたけれど、本当は春頃から既に貞操帯を管理される仲だったらしい。以降二年間、彼女は生活のほとんどを貞操帯を着けたまま生活していた。挙句には小野寺君と背徳的な行為を繰り返していた。それに私たちが感づくことは、ついになかったのだが。 「……それで、ここからが本題なんですけど」 「うん。どうしたの?」 それまで私たちへの語り口だった砕けた口調が、ここで丁寧語になる。莉緒さんか彩乃さん、あるいはその両方に向けた言葉だ。 次に彼女が発する言葉を、私はなんとなく予想していた。 「例のカプセルホテルを視察に行ってから、今日はそのまま来ているんです」 「ってことは、今日は着けてないんだ」 「大学に入ってからはさすがにそう自由にもいかなくて、着けてない日も多いですけどね。 ……それで、その」 「思い出しちゃった?」 「……実は、今日は“ご主人様”からも許可を貰っているんです」 最初は貞操帯を管理させるだけの、どちらかというと主導的な立場だったらしいが、小野寺君と亜未は今やずぶずぶの主従関係らしい。貞操帯の正しい使い方とも言えるか。 しかし今日はその主から許可がある。これほど明確なものもそうはないだろう。 とどのつまり、亜未は今日、最初からこの家で責められるために来たのだ。 「わかった。それじゃ、ちょうど試したいのがあるから……結構ニッチなのになっちゃうけど、いいかな?」 「もちろんですっ」 亜未の目がぱっと華やいだ。というか蕩けた。やっぱり彼女も、根本的に私たちと同じ種類の人間なのだった。