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雪中アヤメ
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まぞ妖精さんは弄ばれたい(仮) 1

 この国では長い間、妖精族に人権が与えられていなかった。  妖精族は翅が生えていて空を飛べ、人間より上手に魔法が使える。それ以外は大きく人間と変わらない彼らの境遇を決めたのは、体の大きさというどうにもならないものだった。人間の頭の大きさの約半分。あるいは人間の掌で握ることができる程度の体躯。当然、身体能力もそのサイズに見合ったもの。  その数と文明で世界を支配してきた人間たちから見てとても小さく、可愛らしかったと。ただそれだけの理由で彼らは古くから「庇護種族」であると一方的に断定され、過剰なまでに保護を受ける代わりに自由を奪われてきた。  言語による意思疎通が可能なペット、程度の扱いにひたすら甘んじて数百年。妖精への暴力や殺害は人間へのそれよりも重い刑罰が課されるが、法的に誰かの所有物であることが明確になっている。それは見方によっては悪くない、むしろ良い扱いと呼べるものだっただろう。自主性さえ捨ててしまえば、人間たちが望んでも得られない恵まれた立ち位置なのだから。  だが、そう思わない者もいた。主に妖精族に、そして少数ながら人間たちにも。  当代の王もその一人だった。彼は自らの妖精と良好な関係を築きながらも、妖精たちにも生き方を選ぶ自由があるのではないかと考える先見的な人物だった。……ああ、過去形にしているが存命である。過去なのは彼ではなく、周囲のほう。  ──そんな時、事件が起こった。遠い昔に地底へ封印されていた魔王の力が何者かによって解き放たれ、影響を受けた各地の魔物が暴走するというものだ。このとき特に強い影響を受けた一部の魔物が少女の姿になるという副作用も現れたが、これは今回割愛するとして。  王国はひどく混乱したが、すぐに騎士団や警備隊を動かした王の迅速な判断によって被害は最低限に抑えられた。しかし彼らにできたのは群れを抑え込むことまで、倒せど倒せど湧いてくる魔物たちを撃退することはできなかった。  そしてわかったのは、この魔物たちは誰かに操られているということ。魔力の封印を解き、魔物たちを操って人々を脅かしている黒幕がいるということだった。  そこで王は考えた。騎士団と警備隊が各地の魔物を抑えている間に、国で最も期待できる戦力を送り込んで黒幕を倒してしまおうと。そうして選ばれたのが後に英雄と呼ばれる少女魔法使い、レミア・グレイヤードだった。  ここで話を戻そう。レミアを送り出すことを決め、本人および侯爵家である実家からも了承を得た王だったが、ひとつ心配なことがあった。彼女は魔法使いでありながら剣を使わせても達人級、本職の魔法では無類の強さを誇る凄まじい存在なのだが、ひとつだけ弱点があった。彼女には土地感があまりにもなかったのだ。  国内の地理こそ頭に入っているが、地図と現実を結びつける能力があまりにも欠けている。そんな彼女を見かねて補助役をつけようとしたところで、王はひとつ思いついた。  彼女の相棒たる案内役を、能力に優れた妖精族にやらせよう。  そしてあわよくば、黒幕討伐の暁にはその功績をもって妖精族を解放しよう。妖精族にそれだけの能力があると知らしめれば、民衆もきっと理解してくれることだろう。  そうしてレミアの傍につけられた志ある妖精の名は、アヴィ・イグナット。何を隠そう、このあたしである。  結論から言うと、その企みは成功した。あたしは方向音痴のレミアを度々助け、時に斥候によってその命を救い、最終的に黒幕の男を倒しこの国に平和を取り戻す助けをした。  その事実はすぐに王国中を駆け巡り、王はやがて沸き上がった妖精解放論を待っていたかのようにあたしを表彰した。そして前約束の通り、妖精族の解放と人権付与を宣言した。ついに歴史書の新しいページに載ったという『妖精解放宣言』である。  そしてさらに手筈通り、その場であたしからひとつ要望を奏上。「今の暮らしが気に入っている妖精たちのために、人権を尊重しながらこれまでと同じ生活が続けられるような制度を作ってほしい」。これは二つ返事で了承を受け、『家族登録制度』と呼ばれる古くも新しい在り方が妖精族に与えられた。  さて、先にあたしのことを「志ある妖精」と形容したが、これは一般の認識だ。その言葉が示す通り、その話を引き受けた時のあたしは妖精の境遇に不満を持っていた。あたしだってもっと自由に、自分のしたい生き方をしてみたい。そう思ってのことだった。  ……過去形である。もうお察しいただけただろうか、今のあたしはそう思っていない。なぜなら、命や身分、自由すら捧げてもいいという相手が見つかったから。  無論、レミアのことだ。派閥抗争を避けるため国から与えられた一生遊んで暮らせる報酬を手に田舎へ隠居したレミアに、あたしはついて行った。そこでしばらくほとぼりを冷まして、ひっそりと家族登録をしてしまったのだ。立会人を引き受けてくれた王様には生暖かい微笑みを向けられてしまったが。  だから、今のあたしはレミアの家族。無事にミイラ取りはミイラとなったわけで、社会に出て華々しく活躍していく仲間たちをレミアの傍で見届けたのだった。  のんびりと隠居生活を送ることになったあたしたちだったが、レミアはまだ使命を残しているようだった。  そのレミアなのだが、旅の途中で聞いたことには、彼女は前世の記憶を持っているらしい。この世界よりもずっと文明の進んだ世界で暮らし、趣味で絵を描いていたのだとか。特に魔物の意匠を持った少女が好きと言っていた。何を隠そう、この世界で少女化した魔物に『魔物娘』という呼称をつけたのはレミアである。  その話をしている時のレミアが嬉しそうことにあたしも気を良くして、「もし魔物娘たちが大人しくなったら一緒に暮らせたりしないかな」なんて言っていた。  で、田舎に腰を落ちつけるに前後して。王国各地で記憶を失って倒れた魔物娘たちが奴隷商たちに捕まって、闇市で競売にかけられるのだという噂が耳に入ってきたのだ。  レミアはお手本のような対応を見せた。既に捕まっていた魔物娘たちをひとまず買い上げ、あたしにその奴隷商たちから情報を引き出させたと思えば流れるように国に突き出し、挙句の果てには国中の魔物娘たちを保護してしまった。  それだけの人数に加えて使用人も住み込めるだけの広さの屋敷を建て、魔物娘たちの心をケアして仲を深め、そして今に至る。  本当に尊敬する。彼女こそが英雄と呼ばれるに相応しいと、あたしはしみじみと感じたのだった。   ◆◇◆◇◆  前置き終わり。長かったが、ここまでが過去にあったことだ。あたしたちは現在、魔物娘たちと一緒に屋敷で暮らしている。  今日も特に予定はなく、レミアとのんびりする予定……だったのだけど。 「……ねえレミア、それなに」 「作ったの。せっかくだから使ってみようかなーって思って」 「せめてもーちょっとムードのある誘い方ないの?」  嬉々としてあたしに迫るレミアの手には、明らかに妖精サイズの大人の玩具。ちなみにこの屋敷に妖精族はあたししかいない。  ……待ってちょっと待ってじわじわにじり寄ってくるのやめて怖いからねえちょっと。  ここまでは触れてこなかったがこの少女英雄、実はとんでもない変態なのである。それも同性しか愛せないという少々困った御仁。政争で弾き飛ばされた彼女を実家が庇わなかったのは、このあたりにも理由があったりする。  しかも彼女、元来モノづくりの魔法が非常に得意。《道具作成》という魔法にかかれば、材料と魔力が簡単に彼女の想像した道具になる。使いようによっては世界が傾いてしまうだろう。しかしレミアはそんな規格外の能力を意義あることに使おうとはしない。……というか、今やその能力はほぼあたしたち向けの淫具を作るためにしか使われていない。哀れなり超魔法。 「つーかまーえたっ」 「まずはその魔王みたいな醜悪な顔をやめましょうか」  ……捕まってしまった。ものの見事に胴体を手のひらで握られた。あたしが痛くないようにしっかり配慮した握り方に、あたしも逃げる気が失せてしまう。そもそも本気で逃げたいのなら手が届かないところまで飛んでしまえばいいのだ、そうしない時点でたかが知れている。  あたしがいつも最初は嫌がるのは予定調和でしかない。ただの様式美であって、あたしの照れ隠しだ。そんなことは互いに熟知していた。 「はい、そういうわけだから脱いで」 「だからムード……わかったわよ、もう」  だからこの通りだ。あたしはつかまる時ちゃんと翅を畳むし、レミアも捕まえたらすぐに離す。あたしは軽い調子で指示されても逆らうことなく服を脱ぐ。  あたしは机の上で一人だけ全裸だ。当然恥ずかしいけれど、そんな恥ずかしささえレミアの求めるものだと思えばあたしは喜んで味わってしまう。レミアも大概だが、あたしも影響されたのか充分に末期である。 「それじゃ、いつも通りここに寝て」 「ん……」  いろいろと試した結果、あたしとレミアにはある好みがあることがわかっている。  あたしはというと、身動きが取れないように拘束されて責められるのが興奮する。それかレミアの手でゆっくりと解すように蕩かされるか……いや、これはいい。置いておく。  拘束プレイはレミアも好物なようで、彼女はそんなあたしの拘束を日常に使われるもので作製するのが好きらしい。あたしの小さな身体を活かして、人間なら別の使い方をするものをエッチに使いたがる傾向があるのだ。  今こうしてあたしが寝転がっているのは、あたしの腕より少し太いくらいの木材を十字に組んだものの上だ。レミアは「ワリバシをイメージした」と言っていた。おそらく前世の道具か何かだろう。少なくとも本来はこんな使い方しないはずだ。  長い方の棒に背を預けて、短い方に合わせて両腕を伸ばす。レミアはあたしの位置を調節して、糸で手首を木材に括りつけた。木材には切れ込みが入れてあるから、縛りつけてしまえば外れることはない。もう片方も同じように。  この木材は普通の十字ではなく、あたしの足のあたりにもうひとつ横棒が組まれている。恥ずかしさをこらえて自分から脚を広げると、大股開きになったあたりでレミアがあたしの足首を縛り上げてくれた。 「大丈夫?」 「うん、おっけー」 「立てるね」 「ん、ぅあぁ……」  そこまで済んで、レミアはあたしの磔を立てた。縛られたまま持ち上げられたあたしが興奮するのをにまにまと見つめてくる。とはいえ、そんな視線でも昂りを強めるあたしも似たようなものか。  この磔にはいくつか仕掛けがしてある。脇の下から肘の手前あたりまで、二の腕の下に支えがあって体重を支えられるようになっていたり。その支え木や木材の反対側にされた細工のおかげで、何かに引っ掛けて立てることもできたり。  あたしは裸で磔にされたまま、本立てに据え付けられてしまった。こうなったあたしは、レミアの気が済むまで弄ばれる玩具だ。


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