ザプンと音を立て水しぶきと海面の揺れを残して、大柄な影が海中へと潜る。
影の数は2つ。大柄な肥えた身体の鯱獣人と、同じく肥えた小麦色の肌の少年。
大柄で脂肪持った少年の身体は、太い尻尾を巧みに動かし潜水する鯱と異なり、海水では存分にその浮力が力を見せる。
しかし、海水に潜ること1拍、少年の小麦色の肌を青白い光が回路を描くように浮き上がり、おでこの部分で円形の幾何学模様に文字のようなものが刻まれると、少年を包むように、肌の模様に似た色の淡い光が、まるでシャチのような形態をとりはじめた。
水中の中で硝子のような水晶のような、光を通して輝く鯱が、その尻尾をしならせると、少年ごと水底へと舵を進めた。まるでそれは潜水艦のようでもあった。
能力名称:水晶鯱(クリスタライズ・キラーホエール)
他に同様の能力使用者がいないため、新規能力にして仮名。
現時点で猫野塚学園にて能力検証中の不明能力。
唯一の効果は、使用者を包むシャチのような構造体と使用者の水中での呼吸機能の付加。
水中呼吸の継続時間は18時間。この時間は能力の限界時間ではなく使用者が睡眠や食事をとれていなかったため、健康状態を鑑みて試験中止した際のものである。
おそらくはベール状に展開された幕が水から空気を作り出していると判断している。
「水中で呼吸する力、水晶鯱、不思議な力だなぁ」
大柄な鯱が水中で口を開けず、少年声をかける。
これはシャチの能力エコーロケーションを複雑化させ、対象に言葉を伝えることができる能力。
「先輩だって潜るの得意じゃないっすか」
小年は地上と同様に会話ができ、それを海中に伝えることでシャチの耳を刺激することでシャチは会話を理解できる。
「シャチだからなぁ……」
「……」
「どうした?」
考えるそぶりをした少年は少し苦笑する
「……他にもいろいろあるぞって言ってるみたいっす」
「え、ソイツしゃべんの?」
「っす。なんとなくっすけど、コイツには意思があるような気がして……」
「……自分の能力と会話できる、場合によってあると聞くが……」
「っす……直近の目標はコイツと話すことっす」
少し楽し気に語る少年。
「オレ。昔、こいつに助けられたことがある気がして……」
少年に眠る昔の記憶。
暗く深いどこか、だれもいない場所で、自身を助けてくれた、見知らぬ誰か。
大きな体で安心させるように抱きしめてくれた。黒と白の誰か。
「伝えたいことがあるっす。」
猫野塚学園都市に自身の能力と引き換えにきた少年は、自身を助けることで壊れてしまった水晶の鯱を助けたかった。あの抱きしめてくれた温かさを取り戻して、もう一度伝えたかった。あの時伝えられなかったありがとうを。