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隣人は虎おっさん!#03『買い物に行こうや!』文字のみ




さて、何から話すべきだろう。


春から大学生になったおれ一文字命(いちもんじみこと)は、初めての一人暮らしをスタートさせる。

幸運にも?隣人はタイプど真ん中。筋骨隆々な虎獣人のおっさんだったわけでそこは良い。


ひょんなことからその隣人虎おっさんこと宇津木マタタビさんとゲームをしたり食事をしたりして少し仲良くなるのだが、このおっさんやたら距離感が近くて心臓に悪い。


おまけにちょっとした事故でそのおっさんのアナニー動画まで見ることになってしまう。……事故だよな?


そんな隣人虎おっさんに誘われ、今日は買い物に連れて行ってもらうことになった。


ここまでがこれまでのあらすじ。


一体おれ、これからどうなるんだ?


👦🏻🐯


「すいません!ちょっと顔洗ったりするんで座って待っててもらえますか?いまお茶出しますね」

「ありがとお!」


一緒にゲームして食事してちょっとした事故でアナニー動画を見てしまった翌日の朝、宇津木さんが唐突にうちの呼び鈴を押したのである。

あんな動画を見てしまって気まずいなと思っていた杞憂はその笑顔で一瞬にして吹き飛んだわけだが…。


宇津木さんにとっては少し手狭であろうワンルームへと案内する。

まだ真新しい部屋に自分以外の人を入れるのは初めてのことだ。


「あれ?」

「ん?どうかしましたか?」


ワンルームということは寝床がそのまま居住スペースになっているわけで、つまり一目でおれの生活の全てが丸わかりということ。まだそんなに荷物が多いわけではないし、散らかっているわけでもないから見られてまずいものがあるわけではないと思うが……。いまの「あれ?」は一体なんだ?


「ボクちゃん、もしかして恋人いる?」

「は?」


思いもよらぬ疑問を投げかけられ、つい素っ頓狂な声が出た。

上京してまだ間もない……いや、それは言い訳にすぎないが、陰キャで非モテなおれに恋人なんているわけがない。

いつもいわゆる出会いアプリを眺めながら溜め息をもらしているくらいだ。

自分で言うのも情けないが、それが事実だ。


「え?だってダブルベッドやから誰か一緒に寝る人がいてるんかな思て」


「…………」

「……え?なんかあかん事聞いた……?」


死ぬほど恥ずかしい。

しかし図体がでかい訳でもないおれは、ダブルベッドを使う他の理由を見つけることができず正直に吐き出してしまった。


「……それは……都会に……出て……恋人ができることを……夢見て……奮発しただけで……いま現在そういう仲の人が………いるわけでは決して……ありません……」


顔から火が出るほど恥ずかしいというのはこういうことか。穴があったらいっそ死にたい。

などと慣用句の無茶苦茶な魔改造を脳内でして恥ずかしがっていると、宇津木さんはニコーっと笑いはじめた。


「なーんや!よかった!」


良かった!?何が!?

もしかしてバカにしてますう!?

恥ずかしさで半泣きになりながらおれは黙って耐えていると、宇津木さんがニコッとこちらを向く。


「なあなあ、ちょっとダブルベッド寝転がってもええ?上着は脱ぐし」

「え、良いですけど」


そう言うと上に羽織っていた薄い半袖のシャツをするすると脱ぎ、簡単に畳んで被っていた帽子と共にベッド傍の机の上に置いた。

ガサツそうに見えるけどこういう何気ない所作が丁寧なんだよなあ……。


「わー新品やからふかふかやねえ。気持ちいい」


ダブルベッドが珍しいという訳でもないだろうけど、広いベッドを見るとゴロンとしたくなる気持ちは解る。

無邪気にゴロゴロする姿はさながら大きいネコチャンだな。なんて思いながら、おれは冷蔵庫から取り出したペットボトルの麦茶をガラス製のコップに注ぎ机に置いた。宇津木さんがゴロゴロしてる間に玄関とワンルームの中間にある洗面所で洗顔と歯磨きを済ませる。整髪は……ええい。この癖毛をしっかり直すには宇津木さんを待たせ過ぎてしまう。もう今日は帽子にしよう。

宇津木さんの前で着替えるのは恥ずかしいから洗面所で着替えよう。いったん着替えを取りに洗面所から部屋に戻る。

ここまでの所要時間7分。いえ、ちゃんと洗顔も歯磨きもしましたとも。不潔なんかじゃない。


パタパタと部屋に戻ると、ベッドの傍の窓から爽やかな初夏の日差しを受け止めきれずに少し膨らんだカーテンをバックにして、ダブルベッドに寝転んだ宇津木さんがこちらを見ながら微笑んだ。

今まで行ったどの美術館にも飾ってはいない、人生で初めて見惚れてしまう様な画に思わず固唾を飲む。


ほんの数瞬、目と目が合った。


穏やかな眼をした隣人は、やっぱり初めて見る表情でこちらに向かって両手を広げる。


「おいでー」


普段なら絶対恥ずかしくて拒否するけれど、その光景に陶酔していたのかもしれない。

それか宇津木さんには人を惹きつける何かがあるんだろう。


吸い込まれるように腕の中に収まった。


「へっへっへ。捕まえた❤️」

「……お出かけ、しないんですか」

「するよお。でも急がんでも大丈夫」


いつもの元気いっぱいな宇津木さんとは違う、おれにだけ聞こえれば良いくらいに調節したボリュームの穏やかな声だ。

すっぽりと腕の中に収まったおれを、まるでやや子をあやすように撫でている。

宇津木さんのふかふかの毛皮はまだ春を引きずった空気を含んで暖かい。甘さの相まった男のニオイを鼻腔がくすぐる。

ああ、宇津木さんの部屋ってこの匂いだったのか。不快な臭さとは違う宇津木さんのニオイだ。

おれは一人勝手に納得した。


「いいこいいこ」

「……赤ちゃんじゃないですよ」

「んー?じゃあ……命くん命くん」

「なんですそれ」


初めてボクちゃんじゃなくて名前で呼ばれて少し嬉しかった。


「へっへっへ。ぎゅーっ」

「うぷっ」


いや、あのですね、む、むむ、胸が…。

雄っぱい呼ぶに相応しい、その豊満で柔らかな胸におれの顔を押し付けるようにして強めに抱擁される。


ここが天国かぁ。


ではない。い、息ができない。雄っぱい窒息死も悪くはないが、おれの生存本能が酸素をもとめる。


「むーっむーっ!」

「あ、ごめん」

「ぷはっ!し、しぬかとおもった……」

「ごめえん。俺の双子山が……」


上手いこと言おうとするんじゃないっ!

おれは抗議しようとするがニコニコした宇津木さんの顔を見てやめた。

どうにもこの笑顔に弱い。


昨日の朗らかにゲームをしてた宇津木さん、少年の様にカレーを頬張っていた宇津木さん、人には見せない痴態を晒していた宇津木さん、そして今のこの穏やかな宇津木さん。


どれが本当の宇津木さんなのだろう。


おれは少しだけ自分が宇津木さんに惹かれ始めていることを自覚していた。


穏やかな穏やかな時間だった。


❤️👦🏻🐯


「さーて!じゃあ行こっか!」


乗り込んだ車のハンドルを握りしめアクセルを踏み込む宇津木さん。

都会の暮らしでは車はそんなに必要無いとネットとかで見ていたけれど、趣味で乗るには少し大きいような気もする。いや、車には詳しくないからそれが普通なのかもしれないけれど。


「車お好きなんですか?」

「ん?まあね!車というか運転はすきやで〜。それに車でしかできへんこともあるしな❤️」

「ああ〜確かに大きい買い物とかある時は電車移動はなかなかしんどいですもんね」

「そういうことじゃないけど、まあいっか!」

「?」


出発前にゆっくりしてしまったとは言え、時間はまだ正午にもなっていない。

雲一つない快晴の空。まさにドライブ日和だ。


「そういえば、どこに連れてってくれるんですか?」

「ちょっと郊外になるけど、家具屋とか安い食料品店とか入った大きめのモールがあってー。そこ行くよー」

「うわー!嬉しいです!こっち来てから遠出もあまりしてませんでしたし」

「おれは料理はあんませえへんけど、インスタント食品とかも安いしドライブがてら結構行くんよ」

「へえー!」

「ボクちゃんお金ちゃんとあるか?」

「休み前におろしてきたのでバッチリです」

「よっしゃ。ボクちゃんはバイトとかしてるん?」

「バイト探し中なんですよね。何か良いのがあると良いんですが」

「親御さんからの仕送りは?」

「いまはしてもらってます。今日は初期投資用にってまとまったお金をもらってたんでそれをありがたく使わせてもらおうかと」

「ほーか。ほなまぁ大丈夫そうやな!」


他愛のない会話をしながらも正面を見つめる宇津木さんの横顔はいつもよりも少し真剣で、また宇津木さんの新しい顔を見た気持ちになった。


「お昼どうしますか?」

「お腹けっこう空いてるな〜!マクドのドライブスル−でも寄ろか!ニンジャマック食べたい」

「あ。関西のヒトって本当にマクドって言うんですね」

「バカにしてるう!?言うよお!」

「いえいえそんな。マッキントッシュはマキトですか?」

「やっぱりバカにしてるなあ!ふふふ……ボクちゃんの命はいま俺が預かってるねんで……」

「ヒエッ!謝ります!でもマック、車にニオイつかないですか?」

「あらら気配り上手。結構まめに洗車と掃除してるし大丈夫やで〜」

「そういうもんですか」


宇津木さんと雑談を交わしているとカーステレオから軽快な音楽が流れてくる。


「れっつごーごーあそびにいこっ♪はんさむなじーてぃーでっ♪」


音楽に合わせて楽しそうに歌う宇津木さん。

そんなに上手ってわけじゃないけど、楽しそうな歌声が心地いい。

ドライブにはぴったりだ。


その後もドライブは続く。途中、ドライブスルーで購入したマック……マクドを食べつつ、車は軽快にアスファルトを噛んでゆく。

ナゲットあげる。だの、ポテト食べさせて〜だの言いながらハンドル操作をする宇津木さん。


あれ?なんかこれ付き合ってるみたいだな……いやいや、何を言ってるんだおれは。

いくら宇津木さんの距離感が近かろうが、よくしてくれようが、それとこれとは話が別だぞ……!


それに、宇津木さんに恋人がいないとは限らないし……。

そうだ。昨日のあの動画だって、誤送信だって言ってたし……。


あ、なんかちょっと落ち込んできた。

やめやめ。折角宇津木さんがこうして誘ってくれたんだから楽しもう!


小一時間ほど走ると目的地が見えてきた。

東京からそれだけ走ると流石に風景も田舎じみており、視界に緑が増えてくる。


「先に家具から見ようか〜」

「はいっありがとうございます」


宇津木さんは車を駐車場の隅の方に停めた。

施設までは少し遠いし、連休中とは言え物凄い混雑というわけでもないのにこの位置に停めたことを少し不思議に思ったが、まあ好みの問題かな?と思い特に追求はしなかった。


足取りも軽くアレコレと家具を見るおれと宇津木さん。


大きい家具はネットショッピングで買うこともできるが、サイズ感などはやはり実物を見ないとイメージしにくい。

デカいカートに半透明のシェルフなどを入れる。ああ、これで洋服をしまう事ができる……。感謝。


「そういえば昨日も言いましたけど、宇津木さんの部屋ってすごく綺麗ですよね。何か掃除のコツとかあるんですか?」

「コツは……なるだけゴミを出さない事と、出たらすぐに片付けることかな……。ゴミ箱は部屋毎に複数置くと楽。あとはとにかくほんの10分でもいいから毎日部屋の美化を習慣にすると自然と綺麗になる!」


ドドン!と言い切る宇津木さん。なんかカッコイイかも。

おれが感心して見習おうと思っているとあっ!と声を出した。


「なあ見て見てこれ!」


宇津木さんが指を差したのは飲み物などを注ぐカップのコーナーだった。

その先にあったのは……


「これ、ボクちゃんっぽいと思わん?」


黒猫の尻尾が持ち手になっている可愛いカップだった。


「ええ……。宇津木さんの中のぼくってこんな感じなんですか?」

「えー、違うか?嫌やった?」

「嫌じゃないです。なんか意外だなと思っただけでって…あっ」


その隣に並んだカップを見て驚いた。

黒猫のカップと同じ様なデザインの虎バージョンだ。


「これ。宇津木さんっぽいですね」

「ぶっ!ええ……確かに虎やけどお……こんな間抜けな顔かオレぇ」


思わず吹き出した宇津木さん。不服を訴える。

確かに癒し系というか、脱力系というか、気の抜けた表情をしているように見える。

でも宇津木さんの変に飾らないところを象徴しているようにも見えた。


「……なあボクちゃん。これ両方買おうか!」

「えっ」

「オレの部屋に置いとくからさ〜。またご飯一緒に食べるとき使おう!」

「……良いですよ」


なんか。


なんかそれって、本当に付き合ってるみたいじゃないか。

宇津木さんのことだからきっと他意は無いんだろうけど。

でも宇津木さんとの繋がりを感じられるような、なんだか心がフワフワする提案で……。

そう思ったけれど照れくさくて口に出せず、肯定するだけで精一杯だった。


「へっへっへお買い上げ〜❤️」


黒猫と虎とカップは仲良く並んで買い物かごに入れられた。


その後、宇津木さんからひとり暮らしに必要そうなものを教えてもらい参考にしながら買い物を済ませた。

ひとり暮らし慣れしている人と一緒に行ったせいか思ったよりも短い時間で家具は買い終わった。


「んじゃ次は食料品でも見ようか〜。まあ途中服とかでも気になるとこあったら言うて」

「はいっ!」


荷物をいったん車に積み込んだあと、そんな雑談をしながらモールを歩いていると若い女性数人のグループとすれ違った。


「あれっ?セン……」


女性グループの一人がすれ違いざまこちらを見てそんなことを言った。

セン…?なんだろう?

宇津木さんの方を見ると、口元で人差し指を立てている。静かにしてね。と言わんばかりに。

女性は何かを察した様にそのまま通りすがっていった。


「いまの女の人、お知り合いですか?」

「ん?気になるぅ?」

「…いえ別に」


まだ仲良くなって2日目の相手だ。

知らないことの方が多いに決まってる。

いくらこの2日で宇津木さんの色んな表情を見たからといって、それは宇津木さんのほんの一部でしかないのだ。

気にならない訳ではないが、簡単に踏み込まない方が良いことだってきっとある。


「つれへんな〜。なんてな。まぁその内わかるんちゃうかな!」

「はぁ」


おれは曖昧な相槌をうっておいた。

その内わかるってどういうことだろう。


「そういえば、晩ごはんってどうしますか?簡単なものでよければ作りましょうか」

「ふあ!ごめんなあ僕ちゃん。俺今日の夜も用事あんねん〜!」

「あっそうなんですね。大丈夫です」


夜に予定をよく入れるのかな。

まあ、あんな動画を送りつける相手がいるくらいだものな。恋人かな。

そう思ったが、口に出しては聞けなかった。


「せや!明日の朝ごはん一緒するのはどう!?」

「いいですよ!サンドイッチでも作りますよ」

「えっ!サンドイッチも作れるん!?僕ちゃんもしかして、料理の達人か〜!?」

「大袈裟ですよ!サンドイッチなんて誰でも作れますって」

「そおかなあ……」

「……カップ、早速役に立ちますね」

「お!せやな!」


サンドイッチに好きな具を挟んで、合わせて買ったカップに牛乳でもオレンジジュースでも注ぐ。

その光景は想像するだけでも、ずっと昔にあった両親と妹とおばあちゃんとの幸せな日曜日みたいだった。


「じゃあサンドイッチに挟むものでも買いましょう!」

「やったー!ハム買お!」


そんなこんなで買い出しを一通り終え、車に戻ることにはもうすぐ日が暮れ始める時間だった。

とは言えまだ全然明るい。


自販機で買ったお茶とコーヒーを飲みながら車に向かう。


「おっちゃんちょっと疲れたから少しだけ休んでもええ?」

「あ、はいもちろんです」


おれは別に疲れたというほどでもなかったが、運転するのは宇津木さんだ。

ソシャゲの周回でもしながら待っていよう。


「後ろ広くするわ〜」


そんなに大量の買い物をしたわけでもないから、車の後部にはまだ余裕はある。

宇津木さんは手早く車の後部座席を倒し寝転がれるようにした。

横からくるくると丸めたクッションシートを広げるとゴロンと寝転がる。

広めのタオルケットまで持ち出し準備が良すぎる。


「なんか…めっちゃ準備良いんですね」

「まあな❤️」


意味深な笑みを不思議に思いつつも助手席に乗りこもうとすると宇津木さんが不満そうな顔にコロッと変わる。


「こっちおいでやあ!」


ポフポフと座席を手で叩く素振りを見せる宇津木さん。いやいや……今日の朝は確かにそんな感じになりましたけどお!


「大人しく俺の抱き枕になり」

「はい……」


恥ずかしい、恥ずかしいけれど、どうにもこの虎おっさんの要求に弱い。

おれは多少不本意なポーズを見せつつも、後部座席に乗り込んだ。


「へっへっへー。素直でよろしい」


まあ、別に抱き枕にされててもソシャゲの周回くらいならできるし……。



などと思っていた自分が甘かった!



朝はその場の空気感で気にしてなかったけど、この虎おっさん色々デカいんだよ!


む、胸が……!腹が……!おれを抱き枕にしている腕が脚が……!

こんな状況でソシャゲの周回なんてできるか!!!!


文字通り、おれのすぐ背後で寝息を立てている宇津木さん。


心なしか何やら尻のあたりに気持ちのいい弾力性のあるものが当たっている気がする。

ちょっとずつ硬くなっている様な気がする!!!


無防備っていうか!なんですかこれ!!!


おれは心の中で大声で独白しながら気が気ではない。

童貞の敏感な身体は正直なもんで、そんな状況ではミコトくんのミコトくん。

つまりおれの愚息が情けないくらいに主張をしていた。

せめて宇津木さんにこれだけは気づかれませんように……。

と願いながら、おれは幸せな……もとい、悶々とした時間を過ごしていた。


30分ほど経った頃だろうか。


宇津木さんが目を覚ました。


「うーん。今何時?」

「30分くらいしか経ってないですよ」


後ろからなので表情が見えなかったのが幸いだった。

おれはなるべく平静を装いつつ答える。


「ほーか。結構スッキリしたわー。うーん僕ちゃんの肌すべすべしてて気持ちええなあ」


宇津木さんがおれの首筋にぐりぐりと鼻を当てる。


「ちょ…くすぐったいですから」

「えー……ごめんごめん」


普通に考えたら美味しすぎる状況ではあるが、やはり心臓に悪いので早く解放されたい。


その時だった。宇津木さんが、その股間から何か硬いものをグリッとわざと当ててきた。

起きてるんだから、明らかに不可抗力ではないだろう。


「ちょ……」

「なあ、昨日の動画見てどうやった?興奮した?」

「え…いや……その……」

「僕ちゃんにスケベなところ見られたと思うと、オッチャンたまらんかったわ」


耳元で囁くように言われる。朝の穏やかな声とも違う、なんとも艶のあるくぐもった声。

宇津木さんの言うことは何となく察している。

だって、その時の声まる聞こえだったし……。


「あの……昨日、声、聞こえてました……」


しどろもどろになりながら答えると、くつくつと笑いだす宇津木さん。


「わざと聞こえるようにやったって言ったらどうする?」

「!?!?」


わざと?

確かに新築でそんなに薄い壁でもないから、そんな声が聞こえてくることは不自然ではあるがわざと?なんのために?


「動画もほんまはわざと間違ったフリしたって言ったらどうする?」

「いや……あの……」


どうもこうも、どうしたらいいんだよ。

なんのためにそんなことするんだよ。


「動画みたいなこと生で見てみたくない?」

「……」


ごくり。と生唾を飲み込む。


おれのすぐ背後でもぞもぞ動き出す宇津木さん。

なにしてる?


「いま下ぜんぶ脱いだけど、あと10秒振りむかんかったら履き直すわな❤️」

「!」

「でも、振り向いたら昨日の動画みたいなことぜんぶ見てもらうで❤️10……9……8……」



どうする?どうするのが正解だ?


「7……6……5……」


見たいよ!見たい!

でも、仲良くなって昨日今日の相手のそんな……!


「俺のちんちん、ビンビンで見てほしがってるわ……4……3……2……」


も、もうどうにでもなれ……!


「1……。むふ❤️」


振り返ってしまった。

宇津木さんは下はズボンこそ脱いでいたもののしっかり下着はまだ着けており、別に股間もいわゆるビンビン状態ではなかった。


「ず、ずるいですよ……!」

「え〜?なにが?ビンビンのちんちん見たかったってこと?すけべ❤️」


さっきゴリッと当ててきたのは腕か膝だったのかな……。


「さて❤️じゃあ俺のすけべなとこ、僕ちゃんに見てもらおうかな❤️」


ゴソゴソ衣服を脱ぎ始める宇津木さん。

え!?ここでですか!?いくら車の中とは言えまだ明るいですけど!?


「大丈夫やって。端っこに停めたし、それに俺、見られるの好きやし❤️」


そういう問題だろうか?

おれの疑問をよそに宇津木さんはあっという間に全裸になってしまった。

っていうか初めからそのつもりで駐車場の隅に車を停めたのだろうか……。


宇津木さんの全裸を生で見るのは当然初めてな訳で、なにやら罪悪感がある。

またもごくりと生唾を飲み込んだ。


「えーと確かここに……」


何かを車の座席の後ろに置いていた箱から取り出す宇津木さん。

四つん這いの体勢で、その……!ケツと玉裏が丸見えなんですけどお!


「うん?どうしたん僕ちゃんジロジロ見て❤️おっちゃんのオメコ気になる?❤️」

「い、いえっそんな……」


アナル。とかケツの穴。とかじゃなくてオメコ……確か関西弁で女性器のことだとネットで見た記憶がある。

とにかくその女性器を自称するということは、その穴をその用途に普段から使っていると言っているのと同義な訳で……。


「もっと見てや❤️」

ふりふりとケツを揺らしながらこちらを見る宇津木さんの表情は目尻が下がり、ああ本当にこの人はスケベが好きなんだなと一目で解る。揺れるケツに追尾する様にたわわに膨んだ金玉とぶっとい尻尾が遅れて揺れた。


扇情的すぎるその光景に、おれの愚息はもうずっと主張しっぱなしだ。

きっと先はヌルヌルになっている。


少しの間、オメコを自称したケツの穴を見せつけたあと、宇津木さんはあるものを手にしていた。


「そ、それ……」

「ディルドやで❤️昨日の動画で見たやろ?いまからオッチャンのオメコにこれ挿れるからマバタキ禁止な❤️」


うっとりと陶酔した表情でぶっといディルドに頬擦りをする宇津木さん。

そのディルドの太さと言ったらおれの腕くらいはありそうだ。まあおれはそんなにガタイが良い方ではないが。

それでもいわゆるオメコに挿れるには十分すぎる程に太い。


「い、いつもそんな太いの挿れてるんですか……?」


意味不明な質問をしてしまう。目の前の光景はあまりにおれにとって情報量過多だ。


「せやで❤️最初に言ったやろ❤️これで前立腺コンコンコーンってすると、ビュービュー精子出てごっつ気持ちええねん❤️」


つまり今からその様子を見せてもらえると……。

もうこうなったら黙って見届けよう……。


宇津木さんはディルドに粘液性の液体を塗してゆく。ローションだろう。

さらに掌にローションを追加し、和式便所に跨る体勢で“オメコ“にも塗り込んでゆく。


グッチュグッチュと卑猥な音が車内に響く。


ディルドを挿れているシーンだけでなく、準備のシーンまで見せつけられているのだ。


「へへへ❤️恥ずかしいわあ❤️」


本当か?恥ずかしいなら見せなきゃいいのにと思うがその回答はすぐに返ってくる。


「オッチャン、恥ずかしいと興奮してまうねん❤️ほら、ちんちんビンビンやろ❤️」


確かに。

いや、確かにと冷静に納得している場合ではないのだが。


元々質量のある宇津木さんの股間は、更に質量を増し天を向いている。

血管が浮き出て立派にズル剥けたそれは、今から“オメコ“に挿れるそのディルドと同じくらい太いし長い。

こちらまで匂い立つような雄性のシンボルで同じ男としては羨望を覚えてしまう。

本来なら、こっちを使えば悦ばない相手はいないんじゃないだろうか?などとも思うが、どうやら宇津木さんの好みは“オメコ“を使う方の様で……。


「よいしょ」


などと言うところはやはりおじさん性を少し感じてしまう。

クッションシートの上に横たわりこちらに向けてカエルの様に脚を広げるその虎の姿は、情けない姿とも紙一重で普段のヤンチャで快活な姿からは想像もできないほど官能を体現しており、こちらの情欲をそそる。


「すけべな眼してるなあ❤️オッチャンそんな眼されたら堪らんわ❤️」


この虎はもしかするとマゾヒストなのかもしれない。

ふとそう思った。


「ほな挿れるからな❤️よう見ててや❤️」


ぐいっとおれは顔を近づけてみる。


「おほっ❤️僕ちゃんエエ勘してるやん!❤️おもちゃのちんぽでオメコめくれるとこ近くで見てや!❤️❤️」


思った通りだ。おれはサディストではないが、宇津木さんが気持ちよくなるなら協力したい。

ツプッという小さな音を立てて、宇津木さんの“オメコ“の肉ヒダが一枚一枚開いてディルドを飲み込んでゆく。


「すげえ……。やらしい……」

「あはぁ❤️❤️僕ちゃんに見られてる……❤️」


快感を体現するように虎がその言葉を発した瞬間、全身の毛皮が逆毛立ち、元々ぶっとい尻尾がいっそう太くなる。

ディルドを挿れた時にびくんと跳ね上がった男根の先からは、ジワリと透明な液体が滲み出た。

本当に気持ちいいのが視覚的にも見て取れる。


ズブズブと、男根を象ったおもちゃを慣れた手付きで自ら“オメコ“に沈めてゆく。


「お゛っほ……全部入ったぁ❤️」


信じられないがあんなに太く長かったディルドをほぼ根本まで飲み込んでしまった。


「宇津木さん、気持ちいいんですか?」

「おうっ❤️気持ちええよ❤️ほら見てや、ちんちんの先っぽから我慢汁どくどく出てるやろ〜❤️❤️もうたまらん❤️」


確かにさっきよりも透明の液体が出ており、男根を滴って金玉を伝いディルドまで流れている。

これじゃあもうローションで滑らせる必要無いんじゃないか?

ローションと自身の我慢汁が混ざり合ってディルドがテカテカと光っている。


「動かすから見ててな❤️お゛っほ゛ぉ…❤️❤️」


概念上の“ちんぽ“を“オメコ”に出し入れし始める宇津木さん。

その姿はおれにとってはエロスを塗り固めた存在そのもので、表情からはもう射精のことしか考えられないのが見て取れるほど弛緩し、紅潮している。


ヌッポヌッポと情けない音が宇津木さんの“オメコ“から響く車内は、宇津木さんから発される汗で湿度が上がり宇津木さんのニオイで充満している。

朝感じた甘さを含んだようなニオイではあるが、今はほんの少し酸っぱさを含んだ男くささの割合の方が勝っている。


腋から、首筋から、股間から、足からニオイ立っている様に思えた。


「お゛っ❤️ほっ❤️お゛!❤️」


“オメコ“に“ちんぽ“を出し入れする度に、雄くさい汚い喘ぎ声をあげる。

手出ししようかとも思うが、真に見られるのが好きだとしたらそれはポリシーに反するかもしれないと思い、やめた。

この卑猥で雄性の全てをかなぐり捨てた情けない姿を最後まで見守ろう。


「あ゛っ❤️僕ちゃん❤️やっぱエエわ❤️最高っ❤️」


いよいよローションの量を上回ったんじゃないかと思うほどに、宇津木さんの本来の役目を果たしていないであろうちんぽからは我慢汁が時おり勢いを付けて溢れ出てくる。

もし本当に宇津木さんがそのちんぽを挿入に使用していないんだとしたら、いま目の前にある概念上のちんぽことディルドの方がちんぽとしては役目を果たしていることになる。


ただの卑猥な液体発射器官でしかないそれは、白濁の割合が増えた自らの卑猥な液体でコーティングされ、俺は快楽の為だけの存在です。と言わんばかりに余計にその卑猥さを主張させていた。


最初からそうは言っていたけど、宇津木さんがこんなヒトだったなんて。

本気で失望するわけじゃないけれど、変態マゾ虎ならばと勘を働かせてみた。


「あひっ❤️僕ちゃんっ❤️その眼…❤️」


蔑んだ表情をわざと見せてみた。


「最高っ❤️お゛ーっ!❤️たまらんっ❤️オメコじんじんしてまうっ❤️」

「僕ちゃんに情けないとこ見られてるっ❤️❤️❤️❤️❤️❤️」


卑猥な言葉で自らを盛り上げているのがわかる。


「宇津木さん。最初に会った時に乳首と金玉感じるって言ってましたよね。見たいです」

「はひっ❤️❤️見て❤️❤️乳首摘んで尻尾で金玉いじってオメコずぽずぽしながらちんちんイジってるとこ見てぇ❤️❤️」


そう言うと大股を開いた体勢で、片手で乳首を摘み片手で役立たずちんぽを扱きながら、言ってた様に尻尾で金玉を弄り始める。ディルドの方は足を使い出し入れさせ始めた。

いくら快感のことしか頭に無いとは言え、ここまでやるか?器用なことだ。


「これいつもやってるやつなんですね」

「そうっ!❤️❤️❤️これいつもやってるぅ❤️❤️これでいつもしゃせいしてるっ❤️❤️」

「じゃあ最後まで見せてくれるんですよね?」

「うんっ!❤️❤️俺の恥ずかしいしゃせい見てっ!❤️❤️やらしいとこ全部見て❤️❤️せいしびゅーびゅー出すから❤️❤️❤️❤️」


宇津木さんは自分の言葉に陶酔している。

目尻はだらんと下がり、瞳はハート型になっている様に見えた。


「お゛ーっ!❤️❤️で、出るっ!❤️❤️ちかくで見て❤️❤️汁出すとこ❤️❤️見て❤️❤️お゛っ❤️❤️

ほ゛っ❤️❤️」

限界が近そうだった。


「うわ変態」


その言葉をトリガーにする様に、宇津木さんは大きくのけぞった。


「ひっ❤️❤️ぐ❤️お゛ほぉっ❤️❤️お゛ーーーっ!!!❤️❤️❤️出てるっ!せーし出てるっ❤️❤️」


大射精と言っても差し支えは無いだろう。

びゅるっ!!!!びゅくっ!!!!という音がはっきり聞こえるくらいの幕切れだった。


第一射はなんと車の天井まで届くほどの勢いでそのあと宇津木さん自身の顔を、胸を、吐精の度に汚していく。


「あっ❤️❤️やば❤️❤️止まらんっ❤️まだ❤️漏れっ❤️❤️あっん❤️」

「すげー…やらしい……」

「やっ…まっ…は、はずい…❤️」


一旦射精して少し頭が冷えたのか、見せつけて恥ずかしがるのとは一味違う、本当に恥ずかしがって隠したがっている様子が見えた。

いや、これもエロい。


精子が出なくなった後も、宇津木さんのちんぽはびくんびくんと跳ね上がり、徐々にその跳ね上がりも小さくなっていった。

その頃には宇津木さんの顔も腹も精子まみれでベトベトになっていた。


「はぁ…はぁ…め、めっちゃ出た……ここ最近で一番出たかもわからん…」

「カッコよかったです」

「か、カッコよかったって…わーもう。恥ずかしい!」


なんだこの人。あんなに自分から見せつけてきたくせに、そのギャップはあまりにもずるい。


「ごめえん。ちょっとそこにティッシュあるから取ってくれへん」

「はいっ」


おれは傍に置いていた箱ティッシュを取り何枚か取って宇津木さんの身体を拭く。


「わー、ええよええよ。ばっちいで」

「ばっち?」

「汚いよって」

「汚くないですよ」

「ほ、ほーか……」


そこで宇津木さんのケツにディルドが挿さりっぱなしなことに気付く。

手をのばしててみた。


「わっ……ええよ!自分で抜くからぁ!」

「じゃあ抜くところ見たいです」

「……さっきも思ったけど僕ちゃん結構ノリ良いよな…」

「嫌ですか?」

「好きやで❤️…んっ❤️」


そう言って、“オメコ“から引き抜かれたディルドはさっきまでの痴態を証明するようにヌラヌラとしていた。

さっきまでディルドが入ってた穴はぽっかりその口を開けておりいやらしい。


「へっへっへ❤️めーっちゃ気持ちよかったわ❤️僕ちゃんありがとうな❤️」

「いえ!こちらこそ。ありがとうございました」


この場合ありがとうございましたで良いのか?


「へへっ。おもろい子やな❤️また見てな❤️」

「はいっ」

「そろそろ日も暮れそうやし。帰ろうか!」

「はいっ!」


同じ場所に出かけて、同じ場所に帰る。

隣人ならではの利点だろう。


宇津木さんの知らなかった一面を見て、また仲良くなれた様な気がした。

どういうつもりでおれに接してくれているのかはわからないけれど、宇津木さんが魅力的な人物であるのは間違いない。

春からの鬱屈したひとり暮らしは、宇津木さんのお陰で少しずつドキドキする様な毎日に変わっている。



間違いなくおれは宇津木さんに惹かれていることを、この後一人で夕食を食べている時に寂しさと共に実感するのだった。


ああ、早く朝にならないだろうか。


早くあの距離感の近い、心臓に悪い、賑やかな虎に会いたい。


早く、並べた虎と黒猫のカップを使いたい。


早く。


ー続くー


隣人は虎おっさん!#03『買い物に行こうや!』文字のみ 隣人は虎おっさん!#03『買い物に行こうや!』文字のみ

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