「オッチャンと友達になろうや!」
隣人の虎おっさんこと宇津木マタタビさんのそんな一言から、おれの前途多難な生活は始まった。
ゴミ出しを終え、一度部屋に戻ったおれは着替え、歯磨き、洗顔などの身支度を整える。
癖っ毛は完璧には直らないけれど少しでもマシにして春からの住処を出た。
……とは言え、目的地は廊下で繋がれた数メートルしか離れていない。
そう、隣人のすけべな……いや、すけべな見た目であることはこの際置いておこう。
とにかく隣人の部屋が目的地だ。
「ウチおいでやぁ!一緒にゲームしよ!」
というお誘いを受けたのだ。
意外にゲームなんてするんだ。と正直思った。
推定30代後半ってとこだから、いわゆるファミコン世代ってやつなのかな?
知らない男……というわけでもないが、出会って間もない男の部屋に行くのは生まれて初めての経験でいささか心臓に悪い。
覚悟を決める前に目的地の前まで来てしまった。
当たり前だ。なんせすぐお隣なのだから。
それでもなんとか気持ちを落ち着かせるために、胸いっぱいに酸素を吸い込み一気に体内の二酸化炭素を吐き出す。
よし。
呼び鈴に指をかける直前だった。
「いらっしゃーい!」
「うわぁ!!!びっくりしたあ!!!……って!うわあああ!!」
「わっ!」
ドッシーン!
という音と共に、マンション前の木立から鳥が羽ばたいた。
急にドアが開いたもんだから……。
そう、これは不可抗力だ。不可抗力なのだ。
不意打ちで驚かされたおれは脚をつんのめり、バランスを崩し宇津木さんに倒れかかる。
宇津木さんも普段ならその太い胴体でおれを支えるくらいは訳ないだろうが唐突な出来事だったせいだろう。そのままおれ諸共倒れ込んでしまった。
問題はそこじゃない。
ああ、なんか顔に柔らかくて生暖かくて少しじっとりしたような感触。
心なしか雄の匂いを凝縮したような芳醇でいい匂いが……。
「わ、わああああっっ!!!」
なんと嬉しいことに…ではない。
あろうことか宇津木さんのコリモツ?男根?オペニス?いや、この際呼び方なんてどうでもいい。とにかくその股座から立派に生えたシンボルに顔面着地を決めてしまったようだ。
いくら布越しとは言え薄着だから、“宇津木さんの宇津木さん”の質量を感じるには十分すぎた。
「す、すいません!その…わ、わざとじゃあ…!」
「んふ❤️もうえっち❤️そんなにガッツかんでも❤️」
まんざらでもない反応をするなっ!
このおっさんどこまで本気なのかな。
怒ってなさそうなのは何より。
しかしおれにとってはラッキースケベと言っても差し支えが無い。
いや、申し訳なくは思っている。思っているがしかし。だ。
「す、すいません……。大丈夫ですか?」
「だーいじょぶだいじょぶ!頑丈にできてるねんな〜これが!」
にゃははと朗らかに笑う宇津木さん。
どうやら本当に怒ってはなさそうだ。
「へっへっへ。そろそろ来るころやと思ったで❤️」
「もう。心臓止まるかとおもいましたよ……ドアの穴から見てましたね?」
「バレた?だーってお友達が来るの待ちきれんかったんやもーん!」
見た目だけじゃなく行動まで心臓に悪い、この人懐っこいのが大学生活始まってからの初めての友人である隣人の虎おっさんこと、宇津木マタタビさんだ。
👦🏻🐯
「上がって上がって〜!」
玄関先でスリッパを出された時点で察すことができたかもしれない。
新たな友人の部屋はそのガサツそうな見た目と行動は裏腹に使いやすく“一見”綺麗に整頓されているようだった。
何のニオイだろう?お香でも焚いているのか少し甘い匂いがする、綺麗に磨かれた床の特に何も出しっぱなしになっていない廊下、なんなら廊下の壁に小洒落た額縁に縁取られた絵画が掲げられていた。……これ何の絵だ?
「あ、それ美術の先生の友達にもろてん。何の絵かよーわからんけど綺麗な色やなー言うたらくれて!」
「へー……」
美術の先生の知り合いなんているんだ。意外な交友関係。
とにかくそんな本人のキャラクターとは裏腹に綺麗に磨かれた廊下の先の居住スペースへ通される。
さっき”一見”と言ったその理由が問題だった。
「あ、あのお!下着が……!」
「え?下着?パンツのこと?パンツがどうかした?」
窓際にあまりに無防備に吊るされた下着類。
一瞬しか目に入らなかったが紐みたいなやつとか、とにかく布面積が少ないものだった。
「しゅ、羞恥心とか無いんですか!」
「ええ?男同士でパンツ気にするとかあるかあ?僕ちゃんもしかして逆に興味ある?❤️」
からかう様な意地悪な顔でニヤリと口を歪めている。
「何言ってんですか!とにかく仕舞ってください!」
「はあい。若い子は敏感やなあ〜」
不本意な顔でぶつくさ言いつつ、隣人は手際よくパンツ類を取り込み洋服類の棚へ仕舞った。
ていうか乾いてるなら仕舞っておけよ……もしかしてわざとか!?わざとなのか!?
「さてさてさって〜、ジュースとお茶どっちにする?ジュースはオレンジジュースとコーラあるよ」
「あ、じゃあお茶いただきます」
「はーい」
部屋の壁を四角く繰り抜いた窓の奥のキッチンから、とぷとぷと液体を注ぐ音が今立っているリビングまで聞こえてくる。
あれ?
そこで気付いたがこの部屋うちと間取りが違う。
玄関から繋がった廊下部分は同じだが、この間取りはその先がリビングになっており、更に廊下側から見て横側にスライドドアを挟んでもう一つ部屋があるようだった。いまは閉じられていて見ることができないが恐らく寝室だろう。
「はいどーぞ!」
「あ、いただきます」
「どしたん?座って!」
「あ、はい。うちと間取り違うなとおもって。ぼくのところはこのリビング部分だけしかないので」
リビングの中心に鎮座した4人がけのテーブルに腰掛けながら、渡されたガラス製の涼しげなコップに口をつけた。氷で冷やされたお茶で喉が潤う。
「え?そうなんや。お隣でそんなことあるんや。僕ちゃんのお部屋角部屋やからかな?」
「ですかね?普通角部屋のが広そうな気もしますけど」
「そっちの部屋は寝室にしてるんよ。そっち側が僕ちゃんの部屋と隣合わせになってる方やんな。見るー?」
「い、いえ遠慮しておきます……」
ニコニコとフランクな顔を見せてくる。
さっき下着が吊るされていたことを考えると寝室に何があるかわかったもんじゃない。
も、もしかしたら、そういうオモチャとか……そんなの目に入ったらどうリアクションしていいかわからないじゃないか。
このオモチャでいつも夜な夜な気持ちいいことしてるんですか?なんて聞けるわけない!
「そっそういえばゲームって何するんですか?」
すけべな妄想を振り切るように少し強引に話題を変えてみる。
すると少年の様な顔をしながら楽しそうに答えてくれた。
「最近、昔やってたゲームにまたハマってて!便利な世の中になったよなー!インターネットから昔のゲームをダウンロードしてできるんやで!知ってた?」
「あー知ってます。でもあんまやったことはないですね」
「初代のマリオカートやったことある?」
「無いです。何年か前に出たやつはやったことありますけど」
「しよしよ!」
「宇津木さんはファミコン世代ですか?」
「ええ〜……そこまでおっさんやないよ。オレはスーファミ世代」
不本意そうにブーイングを喰らったものの申し訳ないがファミコン世代とスーファミ世代の違いがわからない。大体同じくらいの年代のじゃないのか?
「超魔界村とかー、聖剣伝説2とかー、ボンバーマンとかー、友達で集まってたのしかったなぁ」
「へー、魔界村とかボンバーマンは今でも新作出てますよね」
「昔のゲームはムズかった…。いまは救済措置あったりして良いよな!」
思い出話をしつつゲームの用意をする宇津木さん。
ルンルンという擬音がおあつらえ向きといった様子だ。
部屋が綺麗だったり意外とゲーム好きだったり、結構見た目とギャップあるなこのおっさん。
「そういえば、下着はともかくお部屋きれいですね」
「あはは!逆に言うと部屋汚そうやなって思った?」
「あっいえそういうわけじゃ……」
失言だった。
さすがに失礼だったかなと思ったが、宇津木さんは特に気にしていない感じでいつものようにニコニコしている。
「さすがにひとり暮らし長いからな〜。いい大人やし片付けくらいできるよ!僕ちゃんはこの春からひとり暮らしなん?」
「そうです。それこそまだ慣れなくて、何を買うべきかとか全然わかんないですよね」
「ほーん。ほなら今度一緒に買い物でも行くか。車出すし」
「え!すごくありがたいです……。良いんですかそんなにしてもらって」
「ええよええよ運転すきやし」
「お言葉に甘えます!」
などと言っている間にマリオカートが起動し、黄色いタイトル画面に軽快なBGMが流れる。
「はい、コントローラー」
手渡されたコントローラーは別売りの黒いやつだ。
宇津木さんのデカい手だとデフォルトのものでは小さすぎるのかもしれない。
「誰選ぶ?オレノコノコ〜」
気づけばキャラクター選択画面になっていた。
「ん〜最初だからマリオで。あれ?」
「あ、それもっかい押して」
「はーい」
おれはマリオ、宇津木さんはノコノコでゲームが始まった。
スタートダッシュは不発に終わり黒い煙をあげるマリオ。
無事に走り出したものの……
「えっ!まっ……なにこれ慣性どーなってんの!?」
「むふふ❤️スーファミゲームの洗礼を受けなさい❤️」
「むっっず!いやいや!」
思うようにマリオが動いてくれず、操作になかなか手こずってしまう。
ドット絵のゲームって簡単な印象だけど、そんなことは全然無いようで結局宇津木さんのノコノコに惨敗してしまった。
「むずかし〜!」
「せやろ❤️でもすぐ慣れるよ〜もっかいしよ!」
「次は勝ちます!」
「むふふ❤️かかってきなさい❤️」
その後も四苦八苦しながらマリオカートをやり込みつつ、それ以外のゲームも楽しんだのだった。
👦🏻🐯
「いやー楽しかった!やっぱ誰かとゲームやるのは楽しいわあ!」
のびーと猫化らしい動きを見せる宇津木さん。
「あんまり勝てなかったけど、宇津木さんが小さいときやってたゲームできてぼくも楽しかったです」
「……」
少しの沈黙に一瞬戸惑ったが
「僕ちゃん、ええ子やなあ!❤️❤️」
無防備に抱きついてくる宇津木さんに驚いた。
やっぱり、このおっさん距離感が近いんだよ!
「ちょ!ち、ちか……!」
モフっという毛並みの感触と男らしいがどこか甘さを含んだ匂いを間近で感じながら、本当は不本意ではないが心ばかりの抵抗を試みる。心臓に良くないのは事実なのだが。
ぐうう〜
その時、宇津木さんから低い唸り声のような音が聞こえた。
「腹へったなあ!昼飯にしよか!」
「あ、はい」
そう言って宇津木さんはキッチンに足を運ぶ。
おお……やっぱちゃんと部屋を綺麗にしてる大人の男だし、きっと料理もお手の物なんだ……。
ニンゲン、見かけだけで判断するのはやっぱ良くないな……。
なんて思っていると、ガサガサと馬鹿でかいビニール袋を引っ提げ戻ってきた。
「どれにするう!?」
色とりどりのカップ麺が並べられる。
ズコー!という擬音が正しい表現だろう。
カップ麺かい!いやカップ麺も美味しいけど!むしろ貴重な食糧を分けてくれるだけ優しいけども!
「あとチャーハンでも作ろか!」
なんか急激に不安になってきた。
初手カップ麺出してくる男にチャーハンが作れるのだろうか。
いやそもそもカップ麺とチャーハンの食い合わせ……!
「あ、あの……」
「ん?」
「カップ麺ももちろん美味しいですし、ぼくも好きですけど、もし良かったら昨日ぼくカレー作ったんでそれで良ければ持ってきましょうか……?」
おずおずと、あくまで宇津木さんの機嫌を損ねないように最大限気を遣ったつもりだが、返答やいかに。
「……まじ?カレー作れるん!?すごい!食べたぁい!」
目をキラキラ輝かせてこちらを尊敬といったような眼差しで見つめてくる。
予想以上に良いリアクションにホッとした。
「山形の実家から野菜送ってもらってるんですけど、それでサラダも作ってきますね。ちょっと待っててください」
「うわー!ほんま!?ほんま!?ええのん!?めっちゃ嬉しい……!ありがとお!」
「むしろ1人だと野菜使いきれないんじゃ?と思ってたくらいなのでこっちもありがたいです。結構食べますよね?」
「うん!ごはん食べるの好っき!」
よかった!おれでも宇津木さんに何かできることがあって。
むしろ自分がそのリアクションの良さに喜んでしまった。
おれはパッと自分の部屋に帰り、手早く料理を用意して宇津木さんの部屋に戻った。
隣人同士だと、こういうときめちゃめちゃ便利だな。
カレーを宇津木さんのキッチンで温め直し、持ってきたご飯を用意する。
とろとろになったルウがきらきら輝きながら、あつあつの熱に艶めいたご飯と一体になってゆく。ほくほくのじゃがいも、にんじん、ルウに溶けた玉ねぎは実家から送られてきたものだ。宇津木さん、お肉好きそうだから鶏肉を多めによそってあげよう。
香辛料のスパイシーな匂いが漂ってきて食欲をそそる。
サラダにはレタスを手でちぎり、薄くスライスした玉ねぎとちょうど買い置きしてあった豆腐を崩し入れ、カリッと焼いたベーコンを細かく切り、少々の塩とオリーブオイルのみをドレッシングにしたものを用意した。
「お待たせしました!」
「おお……!」
さっきよりも瞳をきらきら輝かせてた宇津木さんが感嘆の声をあげる。
わかりやすいなーこの人。でもそういうとこ好きかもしれない。
「すご!天才!ひとり暮らしって野菜おざなりにしがちやから嬉しい〜!」
「ひとり暮らし長いんじゃなかったんですか」
少し意地悪を言ってみる。
「あ!意地悪言うた!そんなん言うならオレも意地悪するからなあ!」
「あはは!すいません!」
今日の朝まで、なんならちょっと苦手かも……とすら思っていた相手とこんなに楽しく会話してるなんて自分でも信じられなかった。
いいヒトだな。宇津木さん。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます!」
「んん〜!美味しい!」
「ありがとうございます」
なんだろう。お世辞とかそういうのじゃなくて心から言ってるのが解る。
裏表が無さそうっていうか。関西の人ってみんなこうなのかな?
「僕ちゃんお料理上手なんやなあ!若いのにえら〜!」
「いえ、そんなに上手ってわけでは……ただうち両親が共働きだったんで、少しでも親が助かればと思って妹とばあちゃんと一緒に料理したりしてたんですよね」
「ほーか……ちょっと寂しい話やなあ」
「そうなんですかね。でもさっきの宇津木さんみたいに美味しいって言ってくれたら、こんな自分でも誰かを喜ばせられるんだなって思えるから料理は好きなんですよ」
「ほんまにええ子やねえ」
そんな他愛ない話をしながら食事をする。
せいぜい二ヶ月程度しか一人暮らししていないけれど、こんな風に誰かと和やかに食事を摂るなんて久しぶりのように感じた。
また宇津木さんに自分が作った料理を食べてもらいたいな……。
そして食事が終わったあとは、またゲームしたり途中休憩して少しだけお互いの話をしたりする。
宇津木さんは大阪出身で、大学卒業と同時に上京してきたらしい。
「え?何のお仕事してるかって?……それはまだ秘密❤️」
何か人には言えない仕事でもしているのだろうか?
そういう風には思えなかったけれど、あまり深くは追求しなかった。
楽しい時間はすぐに過ぎ、日が暮れ始める。
「僕ちゃんごめんなあ。今日は夜は外で人と会う約束があって」
「いえ!今日はたのしかったです」
「せや!ライン交換しよ!」
「はい!」
宇津木さんと手早くライン交換をした。
普通に名前欄は宇津木マタタビで、アイコンは車の画像だった。
これが宇津木さんの車なのかな?
「へへ。いつでも連絡してきてな❤️」
「はい!宇津木さんも」
おれは持ってきた食器類などを抱えながら、宇津木さんの部屋を後にした。
連休の始まりとしてはとても爽やかで、とても充実したものかもしれない。
この時はそう思った。
それが、あんな事が起きるなんて、この時のおれに予想できるわけもなかった。
👦🏻🐯❤️
あんなにゲームではしゃいだのは、小学生以来かもしれない。
宇津木さんとゲームを楽しんだあと自室に戻って課題をやりながら今日の出来事を反芻していた。
課題をそこそこに済ませ生活に戻る。
夕食を終え、風呂も済ませ、連休中なわけだから明日も別に早起きする必要もない。
サブスクリプションサービスで気になっていた映画でも見ようかね。と思っていた矢先に事件は起きる。
ピロリン
簡素な通知音がスマホから鳴った。
どーせ出会いアプリの何の意味も無いイイネとかだろうな。と思いつつロックを解除した。
「あれ?ラインか」
最初にも言ったがおれにラインを送ってくるような友達はいまのところほぼいない。
「あっ。宇津木さんか」
さっきのカレーのお礼とかかな?別にいいのに。と思っていたら……。
「なんだ…?動画…?」
宇津木さんとのラインの会話画面に動画を示す三角マークがついたサムネイルが表示されている。
サムネイル自体は黒っぽくて何の動画かよくわからない。
なんだろう?
なんとはなし、軽い気持ちで再生ボタンを押した。押してしまった。
「!?!?!?」
動き出したスマホの小さな画面に映っていたのは宇津木さん本人。
だが、問題はその内容。
ぬちゅ。
ぬぷっ。
湿った音を立てながら、切なげな表情で男根をガシガシとしごいている宇津木さんの姿がクッキリ映っていた。
全裸で股を大きく開き、正面からのアングルで男根も腹筋も胸も顔も。ハッキリ言って全部が丸見えになっている。
たわわに膨らんだ胸にぷっくりとした乳房がついているところまで鮮明に見えた。
騎乗位の様にM字に開いた股の中心、つまり尻穴には今朝言っていたように床に置かれた極太のディルドを出し入れさせている。男根の先っぽからは、ディルドの出し入れのタイミングに合わせてとめどなく透明の汁が溢れ出ており、本当に尻穴で快感を得ているんだということが一目瞭然だった。
わざわざそんな痴態を撮影して興奮の材料としているのか、その表情は肉欲に支配されたように陶酔しきっている。
弛緩しきった鼻の下とだらしない口元、目は虚でおれ、つまりカメラとはどこか上手く視点が合わず、快感しか捉えていない様に見えた。
「ちょっ……」
それをおれに送ってくる意図が全くわからないままに、動画がほぼ終わるくらいにメッセージの追撃が来た。
《ごめん!送り先間違えてもうた!見た!?まだ見てなかったら見ないまま消して!》
送り先を間違えた?
つまりこれを見せたい相手がいるってことか?
わざわざこの痴態を撮って見せつける相手が?
なんだよそれ。
……なんだよそれっていうのもおかしいかもしれないけど、あんな距離感近くて、エッチなハプニングにもまんざらでもなさそうにして、なんならちょっとこっちを誘ってるのかみたいな態度しておきながら、きっちり相手がいるのかよ。
カレー、喜んでくれたの嬉しかったんだぞ。
妙にムカムカしてしまったせいだ。
そうじゃなかったら、いつもの自分ならこんなの無かったことにしたはずだ。
『すいません。見ちゃいました』
意地悪な気持ちが芽生えた。
少しの間のあとメッセージがまた送られてきた。
《あちゃあ!見られたか〜!恥ずかし〜!笑》
《まあいいや!僕ちゃんが良かったらオカズにつこうてもええで❤️🐯》
なんだよ。見られてもそんな大したことじゃないみたいに。
こっちはさっきからおれ自身がおれの身体の中心でうるさいくらいに主張しつづけてるのに。
本気でムカついた。
本当にオカズにしてやるからな。
もう一度動画を再生する。
さっきは音量が小さめだったのでわかりづらかったが、宇津木さんの低い唸りにも似た喘ぎ声もバッチリ入っている。
極太ディルドと手淫している手が上下するごとに情けない声を出す宇津木さん。
昼間の朗らかで明るい態度とは裏腹なその表情が、おれの興奮を駆り立てる。
おれは悲しいほどにいきりたつ愚息に手を伸ばした。
お“ーーーっ❤️お”ーーーーーーっ!❤️
だんだん快楽が増してきたのか声もよく聞こえる。
……ん?
あからさまに動画と合っていない声。
いや、この声スマホからじゃない。
壁の方から聞こえる。
も、もしかして……。
おれは壁に耳を当ててみる。
お“ーっ❤️❤️
壁の奥、つまり宇津木さんの部屋から雄の性を愉しむ呻きが聞こえてくる。
間違いない。いまお楽しみ中なんだ…!
宇津木さん、いつのまにかもう帰ってきてたんだ…。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が耳に移動したんじゃないかってくらい脈動の音がわかる。
自分の脈動の音と、壁越しに聞こえる宇津木さんの喘ぎ声が混ざり合う。
新築だしそんなに壁が薄いわけじゃないのに、なんならいつも聞こえてくるわけじゃないのにどうして?
そんな瑣末な疑問は、性欲の前には全く無力に押し流されてしまう。
見たい。宇津木さんの痴態。宇津木さんのおまんこに男根の模造品が出し入れされている光景。
あまつさえそれを無理やりやられているわけではなく、ただ自分の欲望を満たす為に自らやっている光景を。
片手はスマホ、もう片手はちんぽ、耳は壁につける。
「お゛っ❤️…んモノちんぽ欲しい〜❤️」
本物ちんぽ欲しいって言ったのか?
宇津木さん、おもちゃだけじゃなくてやっぱり本物のちんぽもおまんこに出し入れするんだろうか。
そしてそれをさっきの動画の本来の送り主に委託してるんだろうか。
何かモヤモヤする。これはもしかして嫉妬なのだろうか?
出会って間もない、仲良くなって1日の相手に対しての嫉妬するなんて馬鹿げている。
だが、それもこれも射精欲求への興奮材料になってしまう。
真横の部屋でまさに自慰行為に耽っている宇津木さん、スマホの中で痴態を晒している宇津木さん、おれの脳内でおれの知らない男に抱かれている宇津木さん。
どの宇津木さんもおれの劣情を催すには十分すぎる。
あんな男の要素を全部兼ね備えた見た目をしている男が、尻穴だけで快楽を追いかけているなんて!
だんだん壁に当てた耳も慣れてきて、宇津木さんの声が聞き取れるようになってきた。
「あ゛っ❤️どうしよう❤️お隣の僕ちゃんに、オメコ弄ってるの見られてしもた❤️でもたまらん❤️」
「恥ずかしいっ❤️でも恥ずかしいの好きやから興奮してまうっ❤️❤️」
「あ゛はぁっ❤️❤️次会った時軽蔑されたらどうしよ❤️ちんちん濡れてまう❤️」
「オメコ気持ちいー❤️頭おかしなるっ❤️❤️オメコにちんちんハメられたいっ❤️❤️」
「お゛っ❤️出るっ!オメコ弄って、精子出てまうっ!❤️ああ゛ーっ❤️」
「あはぁっ❤️…ぁ゛っ…❤️きもちい…いっぱい出てる…❤️まだ漏れ…❤️」
卑猥な言葉で自分を盛り上げて宇津木さんは果てた様だった。
静まったお隣。余韻にでも浸っているのだろう。
おれも気付いたらいつもよりも大量の精子をぶちまけてしまっていた。
後片付けが大変だ……。
というより、次からどんな顔で会えばいいんだろう。
オカズにしました!ありがとうございました!
とでも言えばいいのかな。馬鹿げている。
おれは隣人との関係性に一抹の不安を抱えながら、再度シャワーを浴び、身を整えることにした。
シャワーの熱湯がこの不安ごと洗い流してくれたら。と思いながら。
しかし、そんな不安こそ馬鹿馬鹿しいものだったということがすぐにわかることになる。
👦🏻🐯
ー翌日ー
ピーンポーン
部屋に鳴り響いた呼び鈴で目を覚ました。
昨日はシャワーのあとベッドに倒れ込んでそのまま眠ってしまったらしい。
疲れていたのか時計を見たら時刻は11時をさしており、いつも起きる時間よりだいぶ遅かった。
寝ぼけ眼のまま玄関に出る。
なんかアマゾンで注文でもしてたかな?
「はーい……」
「お!ねぼすけさんおっはよう!❤️」
「うわーーーーっ!」
玄関先にいた宇津木さんが、おれの姿を見るなりまた抱きついてくる。
だから!そんな!近づかれると!
ドッシーン!
という音と共に、マンション前の木立から鳥が羽ばたいた。
「いてててて……もう!宇津木さん!急に抱きついてこないでくださいよ!」
2人して倒れこんでしまい、側から見ると巨漢の男に襲われてる人みたいになる。
「へへへごめぇん!」
「もう……。どうしたんですかこんな朝から」
「朝?もう昼近いで。あ!そうそう!今日空いてる?オレ今日暇なんやけど、昨日言ってた買い物今日行かん?ドライブがてらさぁ!」
……この人、ほんとよくわかんない。
気恥ずかしさとか、気まずさとか感じてたおれはなんだったんだ。
「はあ〜〜……」
昨日感じていた不安は溜息と共に全て体内から出ていった。
「え!嫌やった!?ご、ごめんな……オッチャン、僕ちゃんと遊びたいな〜思て……」
「ぷっ……。嫌なわけないです。準備するんで中で待っててください」
今度は不安げに覗いていた宇津木さんの顔が一気にパァッと晴れやかになった。
「やったー!❤️❤️天気も良いしお出かけ楽しもうな!」
初夏の爽やかな陽気の日だった。
ーつづくー
號ゆうごう
2021-07-01 14:01:30 +0000 UTCこのた
2021-07-01 12:59:11 +0000 UTC