巨大ヒロインだったママの力を使って学校に復讐する話
Added 2025-04-18 12:32:03 +0000 UTC可もなく不可もない。立地も特筆すべき点の無い、値段の割には三人が暮らすには十分すぎるアパートに二人の親子が暮らしていた。夕暮れ時のそよ風を感じながら、慣れ親しんだエプロンとはち切れそうなジーンズとシャツを身に纏う女性。人生の第一フェーズを終えようかという年の彼女はそのアパートへと、買い物を終え、帰路に就いていた。 愛する旦那を亡くし、女手ひとつで息子を育てる彼女であるが、専業主婦に従事しながらも短時間で、高くはないが十分に暮らしていけるだけの賃金を得ていた。それは平凡な昼の仕事や、無理をする夜の仕事とは一線を画すモノであった。 防衛軍の最高戦力としてこの国、ひいてはこの星の平和を守るという大役であった。 ただの一介のおばさんに見える女性。由香子という名の入った防衛軍ライセンスを常に携帯する彼女が、その職に就いているのには当然理由があった。 後天的な自然発生の巨大化能力の持ち主であるということ。 若かりし由香子が、光に包まれる夢を見たその日に、初めて存在を現した怪獣に潰されそうになったところから彼女の人生は変わった。 本能的に巨大化し、流されるまま戦い勝利を収めた時から十数年。正義や使命感によって人々を守っていたものの、慣れが生み出した、惰性の怪獣退治は心に余裕と、それによって現れた不満などが積もっていくばかりであった。 戦いの中で、その鬱憤を少しずつ晴らし、爆発しないようにコントロールしていたが、その中の一因として、愛する存在を守るという絶対的な気持ちがあった。 残された最愛の一人息子、ケイの存在である。だが、それによって全てが崩壊するとは人類誰もが理解していなかった。 日もようやく落ち始めようかという刻、平凡なアパートの一室で学校の制服姿のまま、気力が消失した表情で、ただひたすらテレビのニュース映像を見つめていた。 「ただいま〜。あら、ケイちゃん? 帰ってたの?」 金属質な鍵の音が二回もなり、ガチャガチャと響く音を立てながら扉が開く。由香子は靴を脱ぎ、ふと顔を上げると、廊下の奥のリビングにて無機物のように座る息子の姿が映った。常に優しく微笑むような表情をしている彼女が、さらに笑みを強めたのも束の間、その笑顔が曇った。 「あれ? ケイちゃん。今日は部活じゃなかったの?」 「うん……ちょっとね」 少年は声の方へと一瞬向こうとするも留まり、テレビの光を浴びるように顔を画面に向けていた。少年の横に座った由香子は、その姿を見てさらに表情に陰りが見え始める。掛ける言葉を脳内で模索する彼女は、無意識に愛息子の手を握るように、そっと添えていた。 「ケイちゃん……何かあったら私に……!」 「凄い……かっこいいな~」 由香子の言葉に被せるようにケイは言葉を零す。それは、わざとではなく、彼女の手の温もりによって落ち着いた結果漏れ出た感情であった。 その言葉に釣られるように、由香子も息子の視線の先へと顔をやる。そこには、数日前の自身の”仕事”の映像が映されていた。 分厚い外皮を持ち直立する、爬虫類の化け物のような存在に引けを取らない圧倒感を持つ、赤いボディスーツに身を包む女性フォルムの巨大な女神。胸や臀部の大きさはそのままに、服の上からでは見えない十分な筋肉が、守護神としての絶対的な安心感と存在感を訴えていた。 両社の戦いは終始、女神優勢に見えた。だが、不自然なほどに女神の動きは大きく大胆で、攻撃を食らった瞬間もあり得ない倒れ方で街の被害を増やしているようにすら見えた。だが、映像やキャスターは毎回のように強大な存在に立ち向かう守護女神として、美化していた。 「ね、ねぇケイちゃん……何をそんなにじっと見てるのかな~、ほ、ほら、ケイちゃんの為にさっきスーパーで……」 由香子の動揺を他所に、避難ラインの奥から向けられるテレビカメラの先には、漆黒に光るブーツの靴底が小刻みに揺れていた。一瞬逃げ遅れた人らしき数人の集団が見つかると、カメラは意図的にそらすように、二人の巨神たちによる戦いを見上げるような構図となった。 「まだ人が……」 赤に輝く腕の隙間から、ゴツゴツした腕らしきものが直撃する。激しい音が街を揺るがした後、明らかにワンテンポ遅れてから、女神の巨体が動き始めた。地面を一瞥したであろう動きの後に、彼女のブーツが宙に浮いた。次の瞬間、巨柱が地面に突き刺さった音と衝撃波で、映像が乱れる。次に復帰した画面の中では、その巨柱の姿はどこにもなく、一瞬映った避難民が映っていた歩道は、周囲の建物ごと瓦礫と巨大なブーツの足跡だけを残す場所へと変わり果てていた。 「け、ケイちゃん……」 恥ずかしさと、最初に息子が漏らしたかっこいいという言葉に、内側から湧き上がってくる強い感情を抑えながら、平穏の為にこの状況を終わらせようとリモコンを探す。だが、その間も映像は更なる自分の本性を晒してしまっていた。 「あ、蹴りでビルが……」 戦いはまだ続き、画面端の映るかギリギリの場所に聳えていた赤の巨柱が、勢い良く持ち上がり、足の近くにあったビルの角のような先端部分の灰色が、次の画面では消失しているのが見えた。だが、映像は怪獣を倒した正義の女神をひたすらに賛美していた。 「でもこれ……絶対にわざとだよね……でも、それがいいかも……」 リモコンを必死に探す彼女の耳に、内に秘めて、更に隠していたはずの感情が最愛の子に肯定され、その動きが止まる。その視線の先には、無表情に見えた息子の目だけが輝いており、その視線の先の画面には、倒れた怪獣を見下し、一区画が崩壊した街に聳える女神に扮した自らの姿が立っていた。その時の不完全燃焼感が今の由香子自身とリンクし、彼女は揺ら揺らと息子の元へと歩き出した。 「すごい……すごくいいよ……ボクにも、こんな力があれば……いや、自分になくても、こんなに無慈悲で強い女の人が近くに居たら……ボクももっと……んぷ」 窒息してもおかしくない大きな胸と力強い腕で抱擁されるケイの最後の言葉に由香子の最後の安全装置となっていたものが完全に外れる。 少年は最初は驚いている様子であったが、五感全てを支配するような温かさと、頭の上で優しく動く大きな手が、彼を落ち着かせていた。 「ケイちゃん……誰にも言わないって約束できる?」 聖母のような優しい問いかけに、胸に挟まれた顔を上下に伝わる様に動かす。いつもの優しい微笑みを纏う表情へと戻った由香子はゆっくりと話始めた。 「実はママね、アナタが生まれる前からずっと正義の巨大ヒロインとして頑張ってきたの。さっき画面に映ってたのがわたし」 抱擁を解いた彼女は、ジーンズのポケットから一枚のカードを取り出す。それは、防衛軍のライセンスであった。 「これって……ママの顔写真に名前だ。特殊兵科所属巨大戦士……って」 少年はライセンスに書かれた内容を読み上げると、再度顔を上げる。そこには、いつもの表情に見えて、目だけは冷たい冷酷さのようなものを宿していた。 「でもね、あの力を好きに使いたいっていうのがママの本当の姿なの。怖い? 幻滅した?」 少年はもう一度手繰り寄せられた腕と胸の中で、今度は全力で左右に振る。すると由香子は小さく笑みを浮かべケイの耳元で、低く艶のある声色で呟いた。 「そう……ママね、最近気づいたの。この力で街を守るだけじゃなくて……破壊する……怪獣みたいに好き放題する快感にね♡ ビルを蹴ったり踏み潰す感触……ブーツの下で感じる彼らの存在……とっても気持ちいいってことが分かったの♡」 思い出に浸る様に目を瞑る彼女の横顔を、胸の隙間から飛び出した顔で見つめる少年。 「ボク……ママがそんな……すごい人だったなんて知らなかった……でも! ……優しいママも好きだけど、悪いママもカッコいいと思う......! 実はボク、この巨大ヒロイン……ママのニュース映像大好きで……わざとらしく街を壊してるところとか……興奮してた……」 その言葉に由香子は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその冷酷かつ興奮したような目力と変わらぬ微笑みでケイを見つめ返した。 「まあ……嬉しい♪ ケイちゃんもママと同じ気持ちなのねぇ♡」 由香子は更に目に残酷な、どす黒さを感じる炎を灯すと、喜んでいる表情で胸から離した息子の頬に両手を添えた。 「ケイちゃん元気ないみたいだし、トクベツに♡ なんでも言う事聞いてあげるわ♪ ちっさいころにケイちゃんママにくれたでしょ? 何でもしてあげる券って、お返し♡」 「じゃあ……ボクだけの巨大ヒロインになって! ……欲しいです」 ニュース映像を見ていた時の輝きの表情がケイに戻ると、好きな玩具を告げる子供のように語気を強くして発言する。だが、その後すぐに現れた、年相応の思春期的な感情によって、無邪気な態度は消し去られてしまっていた。 「じゃあ、特別に見せてアゲル♡ 明日、街に出かけましょう♪ ママがブーツでビルを踏み潰すところ…人間たちを蹴散らすところ…全部見せてあげるわ♡」 予測していたと言わんばかりに息子の欲求を聞き終えると、その顔は残虐性を少し残し、興奮と妖艶な雰囲気によって彩られていた。少年に添えられた大きな両手が優しく動き始めると、またも感情の波に耐えられなくなった由香子の動きによって抱き寄せられていた。 「実はね……ボク、学校でいじめられててさ……部活動でも……それがもう耐えられなくなって……帰ってきちゃった」 唐突な最愛の息子からの最も忌々しい内容の告白に、由香子は目を見開いて驚きを浮かべた後すぐに、守護的衝動から激しい怒りと加虐心が表情に現れる。 「えっ…学校でいじめられてたの?どうしてママに言わなかったの?」 「これ以上ママに心配かけたくないって……思って……それで」 彼女は、抱擁を強く深くすることによって心を鎮めながら、声色に強い感情がでないように言葉を続けた。 「ケイちゃん……辛かったわね……それに、よく言ってくれたわ……もう大丈夫。ママが守ってあげるから……あっ」 全てが解き放たれるような温かさと包容力、そして圧倒的な安心感によって、少年は十年ほど過去に戻ったような気分になり、そのまま眠りについていた。由香子は、それに気づいた後も頭を優しく撫で続けると、浮かべる柔らかな聖母のような表情からは聞こえるはずのない、残虐的な言葉を零した。 「ゆっくりお休み。明日は……ママのブーツで、あの学校を……校舎諸共みんな粉々にしてあげる。ママの可愛いケイちゃんを虐めたたちの悲鳴を聞きながら、ゆっくりと踏みつぶして……全てを終わらせてあげるわ」 由香子は、体格は十分に成長した我が子の体を軽々持ち上げるとソファに寝かせながら、いつもの顔つきに戻った微笑みを向けていた。 「ケイちゃんのためなら、何でもしてあげる。明日は特等席で見ていてね♡」 その甘い一言に反応するように、ケイのスヤスヤといった眠り顔が更に解れていた。そんな少年が次に目を覚ましたのは、いつもより強く感じる太陽の光と、清々しいまでに広がる青空の下であった。 寝ぼけ眼を擦り上半身を起こす。公園の原っぱのような優しい肌ざわりで、身を包むような柔らかさを持つ地面は、大地のものではなかった。少年が一面に広がる赤色の柔軟なゴム質の大地を触り見渡していると、後ろからいつもより低い威圧感が在りつつも安心する聞きなれた声が全身を揺らした。 「あら、起きたのケイちゃん♪ おはよ~♡ もうすぐ学校の始業時間よ~? 楽しみね♪」 「ママ……ここってもしかしてママのヒーロースーツの上……?」 由香子はケイの質問に笑顔で答える。彼が見つめる先にある巨大な顔は、ニュース映像で見ていたフェイスマスク姿ではなく、紛れもなく母親の優しいいつもの顔であった。 「ええ、これが私の戦闘スーツよ♪ 宇宙で作られたってだけで、ただ伸び縮みするだけなんだけどね♡」 彼女は豊満な体にぴったりとフィットした光沢のある赤と黒ラインの入ったスーツを誇らしげに見せるようにポーズを取る。筋肉質な体のラインが強調され、胸の谷間が深く刻まれていたが、少年にはその全体像が途方もなく巨大であるという事しか分からなかった。 「そろそろこの辺りかしらね。ケイちゃん♡ ママの強い姿、見せてあげるわ♡ こっちにいらっしゃい♡」 少年の耳に微かに届いていた、地響きのような低い音が鳴りやむ。それと同時に片乳の中央付近にいる粒を優しく浮かせると、胸の谷間の奥にある、ペンダントのようなガラス張りのクッションで埋め尽くされた場所へと優しく入れた。 「そこに居れば何があっても安心よ♡ 本当はママのおっぱいの上でくつろいでくれてるのが一番嬉しいんだけど……見えないだろうし、危ないからここで我慢して頂戴ね♡」 そんな遥か上空で行われているやり取りを、登校してきた人間全員が校舎から見上げていた。高層ビルやタワーのように巨大な存在を前に、圧倒されつつも怯えている人間は誰一人としていなかった。ほとんどが、怪獣が来ていないのに、という純粋な疑問を抱いていたが、校内は有名人がやってきたとでも言わんばかりのお祭り騒ぎであった。 「ママ……こんな力も使えるんだね! ここは……目の前のガラスに衛星写真で見たような学校が見えるね……もしかしてこれ、ママの目線?」 「ええ、そうよ♡ これなら一緒に楽しめるでしょ? ママの声もいつもみたいに聞こえるはずだし、絶対安全な場所よ♪ さぁケイちゃん。今日からケイちゃんだけの巨大ヒロインなんだから何でも命令してね♡」 夢の延長のような現実味の無い状況に、少年は次第に興奮の感情を強める。彼にとっても大好きで大切な存在で、ずっと憧れであった最強の女性と、特別な関係と状況におかれていることに少年は心の感情を爆発させ始めた。 「ママ……! ……潰して! 学校を……ボクを虐めた奴らに正義の力を見せてやって!」 「仰せのままに♡ ケイさま~♡」 冗談半分の言葉と微笑みを返した巨大ヒロインは、その太陽に輝く巨体を動かし、校舎を楽々飛び越えて、ブーツでグラウンドを埋め尽くす。その瞬間、巨影が校舎全体を覆い隠すように包み込んだ。 「皆さんこんにちは~ケイちゃんの母です♪ 可愛いケイちゃんを虐めてくれたムシケラ共がいるらしいので~正義の力で駆除しに来ました♡」 突然の言葉に理解できずに固まる校舎内の全員。突如として学校に静寂が訪れると、窓の奥から見ていた一人の生徒が、破壊された校門の残骸と血だまりらしきものを見つけ叫んだ。 「確かケイちゃんは五組だから……こっちの方なら潰しても良さそうね♡ ゆっくりと、じっくりと♡」 たった数秒で正の感情による騒がしい校舎が、同じ騒音を奏ではじめる。だが、それは負の感情による阿鼻叫喚であった。由香子は、ブーツをそっと持ち上げると、校舎の壁に添えるように押し付け始める。コンクリートが砕け、鉄骨を軋ませながら、崩壊した校舎の隙間から漏れ出る生徒や教師の悲鳴に耳を済ませた。 「あぁん……♡ この感じ、たまらない……ケイちゃんも聞こえる? ケイちゃんがいいよって言ってくれたら~♡ ママがこの子たちを踏み潰してあげるわ♡」 甘い誘いに釣られて、興奮状態の彼は、迷うことなく潰して欲しいと零した。 ミシミシ……グシャグシャ!! ズンッ! 「んんっ♡ ……建物が潰れるこの感触。それに……人間が潰れるのって、やっぱいい♡ 怪獣退治に紛れてじゃなくて堂々と、ムシケラにしか感じない小さな命潰すの気持ちいいわぁ♡ ケイちゃんも感じてくれる?」 彼女は残虐な笑みを浮かべながら、校舎の中から逃げ出そうとする人々を、ブーツでひとまとめにしてゆっくりと踏み下ろす。悲鳴とともにブーツのシミとなり、地面に鮮やかな赤い液体が飛び散って広がっていた。 ブーツを象ったように玄関付近の校舎が消滅する。足を元の位置に戻した彼女は、息子に見せつけるように屈んだ。 「ちょっと足を乗せるだけで、学校が潰れちゃったわね♡ それじゃあそろそろメインを……」 そう言って立ち上がろうとした巨大ヒロインの脳内に、少年の声が響く。 「瓦礫の奥で誰かが腰を抜かしてる……あれも生徒かな?」 ケイはただ見えたものを声に出しただけだった。だがその一言は、無慈悲な巨大生物から逃れる可能性のあった一人の近い年の少年を殺すこととなっていた。 「まあ……誰か残ってたのね? フフッ♡ ただの生徒かどうかなんて、ママには関係ないわよ♡」 巨大な顔を遥か上空に返した巨大ヒロインは、太陽に照らされて輝く漆黒のブーツを瓦礫の真上にそっと置く。次の瞬間超人的聴覚を持つ彼女ですらも、聞こえるか分からない小さな悲鳴を残し、シミすらも瓦礫の土埃に消されて消滅したのであった。 「さてと♪ まだまだ終わらないわ♡ 次はどんな感じで潰してやろうかしらね♪」 満足そうに瓦礫を見下ろし、目には残酷な冷たい炎を宿す巨大ヒロインは、最も感じる次の破壊方法を模索していた。そんな中、二人の親子の視界に、先ほどの強い踏みつけによって平らになった場所から、一人のジャージ姿の男が飛び出してきた。 「あら……」 彼女はその場でブーツを持ち上げ、そのまま力強く地面を踏み鳴らす。地面が大きく揺れ転倒する存在を見て、生徒ではないと分かると、怒りの混じった悪魔のような笑みを浮かべた。 「逃げられると思った? 小さなムシ如きが……」 「そいつ……担任だよ! ママ、絶対に逃がしちゃダメだよ!」 巨大ヒロインが認識した瞬間、少年の見るガラスにもハッキリと地面の存在が映される。フラッシュバックした強い気持ちを声色に乗せると、それを聞いた彼女は現在の表情をさらに闇に染めた。 「もちろんよ♡ ママはね、ケイちゃんを傷つける者は許さないの。それがどんな小さなゴミムシでも……!」 立ち上がろうとした教師の隣、潰さないギリギリの場所にブーツを叩き付ける。一瞬宙を舞い、地面に叩き付けられた小さな人間は、怯え切った様子でその漆黒の巨塊を見上げた。 その姿を見て、少年の気持ちにいくらか平穏が訪れる。だが、巨大ヒロインの彼女には興奮が募っていた。 「生徒をほったらかしにして一人だけ逃げるなんて……そうだわ♡」 何かを思いついた彼女は、ゆっくりとその重々しいブーツを持ち上げ、小さな教師の前にかざした。 「ほら見なさい。このシミなにかわかるかしら? これが生徒や先生だったものよ? 大事な生徒も~同僚や上司の先生もみ~んなグチャグチャ♡ 無関係な何人もの小さな命が失われたのは誰のせいかしらね……♡ 」 冷たい、冷酷な声色で問い詰める。だが、その行為はただひたすらに興奮に従って行うただ楽しむためだけの行為にも見えた。 その肉体やゴツゴツした顔つきからは想像もできない震え方をしながら見上げるだけの小さな教師。血痕と瓦礫の土が混ざり合った泥と、隙間に見える人が潰されたのだと分かるくっきりとした痕跡を見つめながら、失神寸前のところを耐えていた。 「フフッ……どう? 怖い? でも逃げられないわよ♡ ケイちゃんを傷つけた罰、大人としてどう償うつもりかしら? 動かないならとっとと踏み潰してしまおうかしら?」 甘く残酷な声で問い詰める巨大ヒロインの由香子に対して小さな教師は、最後の全力を振り絞って体の向きを変えると、ただひたすらに頭を地面に擦り付けながら命乞いをしていた。 「あら、謝るだけかしら? 今さら? それじゃあ足りないわねぇ……舐めなさい。私のブーツを綺麗にするの。ほら、早く! さもないと……」 ブンッ! ズシャァ! 言葉を途切れさせた彼女は、寸止めしていたブーツを下し、反対の足で校舎を蹴りつける。瞬く間に、今度は削り取られたように校舎が消失すると、続けて音を立てて校舎の一部が崩壊を始めた。 「こうなりたくなかったら……フフッ誠意を見せたら、優しいケイちゃんなら許してくれるかもしれないわよ♡」 飴と鞭の如く甘い言葉に尻を叩かれた小さな教師は、飛びついてブーツの先端に奉仕し始める。その姿を一瞥した彼女は、両手を胸に乗せるとペンダントをその巨大な指で撫でながら甘い声を漏らした。 「ケイちゃん、見ててくれてる? ママがしっかり罰を与えてるところ♡ この小さなゴミムシの命は……ケイちゃんの言葉一つ次第なのよ♡ ケイちゃんの命令で~ママの足は喜んで動くんだから♡」 「ママは足元のそいつ……どうしたいの?」 「ママに聞かなくても、アナタのしたいように言ったらいいのよ? でもそうねぇ~ママはケイちゃんを傷つけたんだから、命をもって償うのが当然だと思うな~」 人が変わったように、微笑みが消え残忍な表情が地面に向けられる。側面を舐めていた教師が軽く持ち上がると、簡単に地面に振り落とされ、また靴底に付いたシミを見せつけながら強い語気で放った。 「何してるのかしら? お前にはこのゴミムシどもの残骸……汚れを綺麗にするように言ったつもりだったのだけど? 早く舌で血やゴミを綺麗にしなさい! それが最低限の誠意でしょ?」 激しい震えでまともに立つことも不可能な教師は、ギリギリまで近づけられてもまだ遠く感じる、ゴツゴツ異形の様相を纏った靴底に顔を近づけるなど物理的に不可能であった。 「やっぱダメだわこのゴミムシ。ねぇ♡ ケイちゃん~♡ 決まったかしらこのゴミの最後♡ 特に無ければこのまま踏み潰しちゃうわね♡」 彼女の肯定の言葉と、嬉々とした問いかけ、そして同じ大きさの存在に対する圧倒的態度の違いに、少年は一時的に冷静になっていた感情を解き放ち、興奮に任せた発言を始める。その明らかに変わった明るい様子に、巨大ヒロインの興奮状態と気持ちは最高潮に達していた。 「うん! ママが踏み潰すのも、もう一回見たいけど……! あの怪獣を倒すときの必殺キックでやって欲しいな~!」 「分かったわ♡ ママ、ケイちゃんの為に張り切っちゃう♡ 残念ねゴミムシ。お前の助かる道は無くなったわ。このわたしの蹴りで死ねるのだから、光栄に思いなさいね」 二重人格を疑う程に、声色と表情を向ける相手によって変える彼女は、脚全体にパンプアップするほどの力を込める。その脚が助走がないとは思えないほどの速度で持ち上がると、巨大ヒロインの渾身の蹴りがグラウンドに炸裂した。 ブォォォォン!! プチッ……ズシャァァァァ!!!! 激しい土煙が舞い、衝撃波で、残っていた校舎の端を消滅させる。人類が兵器をもってしても敵うことのない怪獣に止めを刺すことのできる巨大ヒロインの一撃をゼロ距離で食らった小さな教師は、残骸や血痕すら残すことなく、ブーツの先端に掠った瞬間には既に弾け飛んでいたのであった。 「どうだったかしら♡ 巨大ヒロインの……ママのキック♡ ちょっと張り切っちゃったわ♡」 褒められるのを待っている犬のような甘える声で伺う彼女に、少年は目を輝かせながら感想を次々に発した。 「うわぁ〜! やっぱりすごいよママのキック! 強いしカッコいい!」 放射状に広がる衝撃波の後に未だ釘付けの少年は、思い出したように残りの主犯格へと話題を切り替える。しかし、それは最早彼にとって復讐の気持ちよりも、巨大ヒロインの力を見るための獲物を探しているように見えた。 「ねぇママ! 次の、残りの奴らもお仕置きして……潰しちゃって! まだ、ボクを虐めた本人たちがクラスに残っているはずなんだ。さっきチラッと窓が見えた時に居たから、間違いないよ」 「もちろんよ♡ ママ、ケイちゃんが積極的になってくれて嬉しいわ♡」 再度校舎に向きなおした巨大ヒロインは、潰さないように配慮して残しておいた、息子と同じ学年組がある校舎の残りの前に屈む。窓を覗き込んだ彼女は、悪い笑みで口角を歪めると、最初は優しく徐々に威圧的に命令し始めた。 「こんにちは♡ みんな授業参観以来かな~? 五組のみんなには屋上に上がってきて欲しいの♪ 階段は潰さないようにしたから出来るわよね?」 一同恐怖に震え、動き出す気配はない。 彼女はさらに機嫌を損ねた冷たい表情と声色を作ると、左手で校舎を上から挟むように握った。 「ほら、早く言うこと聞かないと~潰しちゃうわよ♪ もしかして、校舎ごと握り潰されたいのかしら?」 そのまま拳を作るように指を閉じ始める。巨大ヒロインの赤い光沢のグローブは砂粒でも触っているかの如く校舎の窓ガラスを割り、コンクリートを粉々に砕き始めた。手の間でこだまする阿鼻叫喚の声が、隣の唯一生き残っている五組の教室へ響き渡る。その瞬間から本能的に生徒が全員階段めがけて走り出していた。 「偉いわよ~ムシケラ共の癖に♡ ケイちゃん見えるかな~? どれがいじめっ子なのか教えて頂戴♡」 目を閉じて微笑む優しさを生徒たちにも向ける巨大ヒロイン。屋上に上がった生徒の誰もが目の前の女神が自分たちを好意的に見ていないと分かっていたが、誰一人として逃げ出すことは出来なかった。 「う~ん待ってねママ……中心にいたのは、一番後ろの二人だよ」 「分かったわ♡ こいつらね♡」 巨大な指が伸びていき、繊細な動きで奥に立つ二人の男子生徒だけを摘んでみせる。胸元の安全な場所にいる息子の前に持っていき、見せつけると、巨大な手のひらの上に落とした。 「屋上までご苦労さん、他のムシケラたち♪ お前たちも同罪なんだから潰しちゃうけど、特別にお尻で潰してあげるわね♡ ケイちゃん、いいかしら?」 「ママがそうしたいならいいよ」 許可を貰った彼女は悪い笑みを浮かべ、わざと臀部を突き出すような体勢になったのちに振り向く。影でほとんど見えない巨大過ぎる赤みがかった二つの隕石を見上げ、怯えることしか出来ない生徒たちは、そのまま最後の時を迎えた。 ズゴォォォン!! 片尻で十分カバーできる校舎の残りを叩き潰す勢いで腰を下した巨大ヒロイン。校舎は大きさに比例して柔らかいはずの彼女の臀部の肉にすら、当然耐えることが出来ずに塵へと変えられていた。その上に居た生徒はその余りにもの重量と圧力に、シミにすらなることもできずに消滅していった。 「さて、このゴミムシをどうしてやろうかしら……いえ、どうしたい? ケイちゃん♡」 尻に轢かれ壊滅した校舎のことなど既に頭にない巨大ヒロインは、最も冷たく恐ろしい目を向ける。だが、次の時には首を横に振り、胸元へと問いかけていた。 「デコピンなんてどう? あいつらの中で流行ってたんだ。ボクはまだ一回もやってないから……ママが代わりにやってあげて」 「いいわね♡ 弾ける感じが楽しそう♡ じゃあ、胸元に持ってきてあげる♡ これなら直接見えるでしょ?」 先ほどまでの調子に戻った彼女は、二人の生徒が気絶寸前で座り込む手のひらを胸元のガラスの前に戻す。不気味な笑い声と共に、もう一つの手の指が彼らの前に突き刺さり、小さな巨人のように聳えると、踏み付けるように、二人を弄り始めた。 「フフッ♡ どっちから遊ぼうかしら……ケイちゃん♡ リクエストあるかしら?」 彼女の言葉にガラスの中の少年も悩む素振りを見せる。その様子に気付いた巨大ヒロインは、 「まだ玩具はいっぱいあるし……♡ ケイちゃんがどうでもいいなら、どっちでもいいわ! とっとと死になさい♡ ふんっ♡」 その言葉が鳴り響く中、巨人として聳え立っていた指は、上空で甘い握りの拳のような形に変化する。右のへたり込む少年の前にその拳が現れると、隣で首を動かすのがやっとの左の少年も本能的にその様子に視線が吸い寄せられていた。 パチュン! クシャ! 何万トンという力で抑え込まれていた、少年の数倍もある中指が解き放たれる。ほぼ放たれたと同時に体に接触した指は、その体をバラバラに弾き飛ばし、血痕で軌道を描きながら残骸を指先に乗せた。 「あら、案外楽しいのね♡ ブーツで潰したり、握り潰したりするのとはまた違った感触で♡」 嬉々とした表情で興奮を強める彼女の胸元で彼は、本来であれば目を背けたくなるようなグロテスクな惨状を生で目撃する。だが、目の前で起きたその事実は、復讐心など超越した最愛の存在が絶対的な力を持ち共にいる感覚を更にハッキリと分からせるだけの演出に見えていた。だが、当然同じものをほぼ同じ距離で見ていた、獲物の方の少年は、気が狂ってもおかしくないほどの恐怖に襲われていたのであった。 そんな矮小な手のひらの存在を他所に、興奮状態をさらに加速させる親子は、残る一人をどう楽しもうか話し合っていた。 「最後のこれも、デコピンで処分する? 思った以上に楽しかったし同じ方法なら、ケイちゃんにカウントダウンして欲しいな~って♡」 「分かった! それじゃあいくよ……さーん、にーい……いけっ!」 獲物の矮小な生徒は最後の力で抜けた腰を引きずって離れようとしていたが、指から離れられるほど移動できるはずもなかった。 息子の声のカウントダウンが巨大ヒロインの脳内で響く。カウントダウンを終えずに、号令がかかる声が響き、彼女は反射的に指を離していた。 パチュン! クシャ! 再現映像のように同じ動きで、肉片を生み出した巨大ヒロインの指先。残骸の付着した指を妖艶な動きで舐めとった巨大ヒロインは胸元のガラスを撫でながら、嬉々とした声色で感想を漏らしていた。 「あはっ♡ 流石ママの息子♡ ケイちゃんもセンスあるわね♡ ママも楽しめたわ♡」 立ち上がった彼女は、瓦礫すらも潰された残骸の広場となった学校を、直接見せるように腰を屈めた。 「どう? ケイちゃん♡ ケイちゃんに危害を加えた価値のないゴミムシ共の末路は♡」 「す……すごい……最高かも……ママ」 背中に得も知れぬ高揚感と背徳感を感じ言葉を漏らす少年。その様子を成長を感じる聖母のように優しく微笑みで見つめた由香子は、その圧倒的な巨大ヒロインの姿を街の方へと向けた。 「今日からはケイちゃんだけの巨大ヒロインよ……! そしてこれからは……怪獣の代わりに人類が敵なのよ!」 たった一つの巨影を街に落とし、仁王立ちで宣言し始める巨大ヒロイン。高層ビルをも見下ろし、その巨体に掲げられる豊満な胸を誇らしげに張り、筋肉質な四肢を太陽の光によって輝かせながら、残酷な笑みを浮かべた。 「聞きなさい、ムシケラども! 今日からこの街は私とケイちゃんのものよ! 長い間、私は怪獣から人類を守ってきた……」 彼女の声は雷鳴のように街中に響き渡りつつも理解することが出来る声と内容に、人々はパニックに陥る。 「でも、もう終わり……これからは私が怪獣になるわ。ケイちゃんだけのための怪獣に...♡」 蟻のように逃げ惑う地面の存在を無視して、黒く輝くブーツを持ち上げると、宣戦布告の一撃と言わんばかりに、叩き付けるように踏み下ろしたのであった。 そこにはかつての正義のヒロインの姿はなく、圧倒的すぎる力を息子との快楽の為に使う人類最大の敵の姿があった。 人類は成すすべなく、玩具として蹂躙される運命を辿ることになってしまうのであった。