高校1年生になって、初めての文化祭が訪れた。 俺がいる高校の文化祭はそこそこ規模が大きく、クラス単位の展示を生徒が主体となって1か月かけて準備していく。他の高校の生徒も訪れるような、有名な文化祭だ。 今日はその文化祭の、クラス展示の内容を決める話し合いの日。 「じゃあ、何か意見はありませんかー?」 教室の壇上に、男子の学級委員と女子の学級委員が一人ずつ。それぞれが男子たちと女子たちに呼びかけて、展示のアイデアを募り始める。 うちの高校では、男女それぞれで企画を行うのが定番となっていた。特に学校のルールとして決められているわけではないのだが、何となく男女で分かれる伝統が昔から続いているらしい。そんなわけで、俺たちのクラスでも男子と女子で分かれて話し合いを行っていた。 「食いもん系がいいんじゃないか?」 「脱出ゲームとかやってみたいなあ」 男子チームでは、たこ焼き屋、メイド喫茶、ゲームコーナーなど、文化祭としては比較的ベタな案が次々に挙げられた。高校初めての文化祭とあって、これぞ文化祭というような展示をやってみたいという雰囲気が強く。突飛な発想が出るわけではなかったが、無難な案に落ち着きそうではあった。 屋台系の展示をやってみたいな、と何となく思っていて、ふと。女子チームがクラスの反対側で盛り上がっているのが聞こえてきた。 「縮小スプレーとか上手く使ったら面白くないかな?」 「来た人に縮んでもらって、お化け屋敷するとか?」 「面白そう!」 聞こえてきたワードがあまりに文化祭という概念から遠すぎて、思わず聞き耳を立ててしまった。 …縮小スプレー。 犯罪対策のため数年前に開発されたそのスプレーは、今や女子高生や女子大生、OLたちの必須アイテムとなっていた。スプレーは男性のみに効く仕様で、どんな屈強な男でもスプレーを吹きかけられたらたちまち身体が縮んでしまう。吹きかければ吹きかけるほど縮小が進む仕様はなかなかに過激で、しかし痴漢や暴漢を退治する重要なアイテムとして、規制されることは一度もなかった。 「縮んだ人になら、めっちゃ広いお化け屋敷作れるんじゃない?」 「でもお客さんに男の人しかこないんじゃ…」 「私は面白いと思うー!」 クラスの女子たちは、お化け屋敷に招くお客さんを男性に絞り、縮んだお客さんに対するお化け屋敷を作ろうと言っているのだ。 …危なくないのかなあ。 女子たちの盛り上がりを小耳にはさみながら、何となく心配してしまう。縮小スプレーが開発されてから、スプレーを乱用した遊びが全国の女子中高生の間で見られ、ちょっとした社会問題になっていたりするのだ。 縮小した人間と普通の人間の力の差は、もう圧倒的で。一度遊び半分で縮小されたら、復帰スプレーを大きな人間にかけてもらうか、1時間経過しないと元に戻らない。それまでの間、大きな人間に生き死にを握られているといっても過言ではないのだ。…いくら文化祭の企画とは言え、女子たちに対して全く抵抗できない体格まで縮められるというのは、ちょっと怖すぎるのではないか。 …まあ、俺は行かないからいいか。 そんなことを思っていると、 「じゃあお化け屋敷で決定ね!」 どうやら本当に決まってしまったらしい。 女子側でそんな縮小スプレー関連の企画が行われようとしていることに怖さを感じつつも。…もし縮められたらいつも見ている女子たちはどれくらい巨大に見えるのだろう、と変に妄想してしまう。 黒板の前に立って意見を集めていた委員長の橋野が、ビルのように巨大になった姿を想像する。身長は160cmも無くて、ほとんどの男子よりも背が小さい。そんな橋野がどの男子よりも巨大になり、ふくらはぎの太さよりも俺たちの身体が小さくなってしまったら。…何故か、胸がざわつくような、ドキドキするような、そんな気持ちが心の中に芽生えていた。 「女子側は決まったようだな。男子側はどうだ?」 「こっちはたこ焼き屋でーす」 「そうか。じゃあどちらも決まりだな」 女子たちが縮小スプレーを使うことに対して、先生からのお咎めは特になく。女子側の企画はお化け屋敷で決定したようだった。 ------ そして、女子と男子で分かれた文化祭の準備はどんどん進んでいき。 気づけば、当日まであと1週間となった。 「看板大きすぎないか?」 「今日中に終わるかなあ」 一通りレシピの検討とたこ焼きの試作が終わった男子チームは、今は教室の一角で大きなたこ焼き屋の看板を作っていた。 ガラガラッ… 「あ、男子たちいた」 「………?」 突然開けられた教室のドアの方を見ると、同じクラスの女子の冬野が顔を出していた。女子たちは隣の空き教室でお化け屋敷の内装を作っているはずだが、何の用だろうか。 「お化け屋敷、とりあえず完成したんだけどさ。誰か試しに入ってくれない?」 ケロッとした顔でそう頼んでくる、冬野。言われた男子たちは互いに顔を見合わせる。 「俺、ちょうど絵具塗ってる途中だから無理かも」「この後すぐ部活だからなー」 周りの男子が色々理由を付けて辞退していく。…あれ、少し嫌な予感がする。 「そっかー。…城永くんは?」 残念そうな表情の冬野が、俺の方に視線を向ける。 「あー、…看板、塗らないといけないし」 「別に一人抜けるくらいいいんじゃないの?」 一人の男子が余計なことを言う。いや、俺は行きたくないんだけど…。 「城永くん、来てくれない?そんなにかからないからさ」 「う、うん…。スプレー、かけるってことだよね?」 「そうだよー」 正直、縮小させられることに気が進まない、というかちょっと怖い。しかし思い切り直接頼まれた状況で断っては、空気が悪くなってしまうだろう。そうなるのも少し怖かった。 「…分かったよ」 「お、ありがとー」 冬野は安心したような表情を見せると、 「じゃ、こっちね」 隣の空き教室に向かって、俺を誘導する。…すぐに、窓が黒幕で隠された空き教室が見えてくる。おかげで中のお化け屋敷の構造は一切見えない。 俺は空き教室のドアの前に立たされた。 「じゃあ、この中に入ってね」 冬野はガラガラッ、と空き教室のドアを開く。そこには、段ボールで作られた電話ボックスのような空間が待ち受けていた。段ボールで塞がれていることで、教室の中の方の様子は全く見えないようになっている。 「今からドアを閉めるから、しばらくそこで立ってて」 冬野は俺を段ボールのボックスの中に誘導すると、自分は入らず、教室のドアを再び締め切った。狭い空間に閉じ込められた俺は、やや不安な気持ちを残したまま待機する。 (大丈夫なのかな…うわっ…!) パチンッ… いきなり教室の電気がオフにされたかと思うと、次の瞬間、 プシュゥゥゥゥ…!!! 暗闇の中で、スプレーが四方から吹きかけられているのが分かった。何だか殺虫剤を巻かれているような感覚で、いい気分ではない。…縮小スプレーをかけられる人生初の体験に、緊張して鼓動が早くなる。 …と。少しづつ、自分の意識が遠くなっていくのを感じる。 縮小が、始まっているのか…?でも周りが真っ暗で、自分のサイズも分からない。…訳も分からないまま、どんどん意識が薄くなる。 「「成功したかなー?」」 完全に意識が落ちる前、冬野の声がどこか遠い所から響いてくるのだけが聞こえていた。 ------ 目が、覚める。…俺は仰向けの状態で、何か固い地面に寝かされていた。 「っ………」 先ほどまでの記憶は鮮明だ。意識が落ちたと言っても、ほんの数十秒くらいかもしれない。目を開けても辺りは真っ暗で、目が慣れていない状態ではほとんど何も見えない。 「よっ…と……」 俺はゆっくりと立ち上がる。その直後、自分の身体が制服を未だ纏っている感触に気づいた。自分の服もそのまま縮小されている。…事前に聞いていたことだが、やっぱり不思議だ。人の身体と同時に、身に着けていた服まで縮小されるなんて。 (…………) きょろきょろと辺りを確認する。まず自分が立っているこの地面。暗くてよく見えないが、木目調で表面がすこしツルツルしている。それでいて、だだっ広い。直感的に、生徒が使う机だと思った。俺は、いつも使っているあの机に対してここまで小さくされたのか。 そして、周りは何か黒いもので覆われていて。半円状のトンネルが、向こうの方までずっと続いている。段ボールで作ったトンネルを黒いビニールシートで覆っているのか、ところどころビニールがたわんでいるのが手作り感を思わせる。段ボールで簡単に作ったトンネルがこんなに広く大きくなるなんて。確かに、普通の大きさの人向けに教室でお化け屋敷をやると広さに限界があるが、縮小した状態ならかなり長いお化け屋敷コースを作ることができる。その点は企画として面白いかもしれない、と素直に思った。 しかし。心がざわざわする。…このトンネルの外側に、巨大な女子たちが存在しているかと思うと、どうも落ち着かない。しかも、今自分がどれくらい縮んでいるかも分からないのだ。ビルのように巨大な女子たちが、トンネルの外から俺を驚かせるために機会を伺っているかと思うと。…底知れない恐怖を感じる。気味の悪いことに外からの音が何も聞こえないのが、それを物語っていた。 普通サイズの人間に驚かされるお化け屋敷では体験できない、何か異形の物に怯える感覚。この怖さは、文化祭レベルのものではないかもしれなかった。 「……進もう」 とにかく、ちゃっちゃと進んで終わらせよう。そしてすぐに身体を元に戻してもらおう。…恥ずかしながら少しだけ怖くなってきた俺は、足早に段ボールトンネルの奥の方へ進み始めた。 …と、その瞬間。 バンッッ!!!! 「ぎやあっっっ!!???」 突如上方から鳴り響いた爆音に、たまらず大絶叫してしまう。 「な………」 天井部分の段ボールが、こちら側に大きく凹んでいる。…外にいる巨大な女子が、手のひらで段ボールを思い切り叩いたことは明白だった。結果、縮小された人間には大きすぎる爆音がトンネル内に鳴り響いたのだ。 こんなの、怖すぎるに決まっている。 「やりすぎだろ…こんなの…!」 見えてはいないが、俺を容易に圧し潰せるような巨大な手のひらで段ボールを叩いたのだ。いくら脅かしているだけとはいえ、女子の手のひらに絶対に勝てない状況を見せつけられたような気分だった。 俺は耳を塞ぎながら、震える足でトンネルを進んでいく。…また段ボールを叩かれたらたまったもんじゃない。あんな単純なことで怖がらせられるなんて…。 「………?」 びくびくしながら十数メートルほど進むと。段ボールの右側から、少しだけ光が漏れている箇所があるのに気づいた。半径一メートルほどの光の輪が、うっすらと壁に映し出されている。 (ここだけ、素材が違うような…) その円形の部分だけ、周りの段ボールの素材とは違って見える。なんかざらざらしてて、真ん中に線みたいなものが入っている…? 「「…………」」 ギロッ……!! 「うわあっっっ!!!!」 突然見開かれた、大きな大きな瞳。完全に不意を突かれた俺は、あえなく尻餅をついてしまった。そんな俺を、こちらの身体よりも大きな目がじっ…と見つめている。 (こ…わ………あ……) 巨大な人間に見つめられ、何故か身体が動かせなくなる。誰かは分からないが、クラスの女子の瞳がじっとこちらを射抜いてくるのだ。圧倒的な質量の視線にさらされる、あまりにも初めての感覚。何か得体の知れない、歯向かえない途方もない存在に見張られているようで、息が詰まって呼吸が浅くなる。 「はあっ…はあっ……」 腰を抜かしたまま動けない俺を、ただただじっと見つめる瞳。これは作り物でもなんでもなく、クラスの女子の目でしかないのだ。…そう考えると、これほどまでにねっとりと視線を送られ続けていることが何だか恥ずかしくなってくる。みっともなく腰を抜かした俺の様子を、この女子だけが間近で観察し続けていたのだから。 ぱちっ…… その瞳がまばたきをするだけで、トンネル内に音が響き渡る。人間のまばたきの音なんて、まともに聞いたことすらない。信じられない体格差がそんなか細い音を果てしなく増幅させ、小人の耳を響かせるのだ。 (い、行こう……) いつまでもこちらを見つめる瞳から逃げるように、俺はなんとか立ち上がって再び歩き始める。…あの瞳の持ち主は誰なんだろう、と考えながら。 「はあっ…はあっ……」 そこから十数メートルは進んだだろうか。これまでの仕掛けで疲弊していた俺は、怖さも手伝って歩みの速度が著しく下がっていた。数分くらいかけてトンネルを進んだのに、まだまだお化け屋敷は終わる気配が無い。…ここが一つの教室の、しかも机の上に作られただけの空間であるなんて、全く想像がつかない。 (…暑い……) それにしても。残暑の季節とはいえ、トンネルを歩いていくごとにどんどん暑さが増している。気づけば汗だくになっていて、俺はカッターシャツの袖をまくりながらふらふらと歩く。どちらかと言えば、湿度が高すぎるのだ。むわっとした熱気が段ボールのトンネルの中に満ちていて、それがどんどん濃くなっているように感じる。 それだけではなく…今までは段ボールの匂いがしていたのに、だんだんと生々しい、濃い何かの匂いに変わっているのだ。何の匂いかはよく分からなかったが、有機的な、生きているものが発する特有の匂いに感じていた。…正直、ずっと嗅いでいて気分の良いものではなかった。 そんな熱気と匂いに気を取られ、漫然と前を見ながら歩いていた俺は。 「「ふうぅぅぅぅーー……」」 「んぐあっっ!!???」 突然横から吹き付けられた突風に、おかしな声を上げながら飛び上がってしまった。 「「ふうぅぅぅぅーー……♪」」 「なっ………」 風が吹いてきた方を見ると。段ボールの壁の一部分が楕円状に切り取られ、そこに…巨大な人間の唇が顔を出していた。 (く……くちびる……) その異常なデカさに唖然とする。唇の横幅だけで、俺の身長より大きいなんて。ふっくらと綺麗な形をした唇がすぼめられ、細かいシワが寄っていて。その中から、 「「ふぅぅー……♪」」 女子高生の生の吐息が放出されているのだ。 (あ………) 熱気で火照った体に、やや涼しい吐息が浴びせられ。気持ちいい、と感じてしまう。女子の唇から放たれたとは思えない大量の風が俺の身体を包み込み、ほんのりと香る唾液の甘酸っぱい匂いに包まれる。その匂いがクラスの女子のものだと気づいた瞬間、いよいよおかしな気分になってくる。 にちっ……♡ 涼やかな吐息を放出した唇は、そのぽってりとした上唇を下唇に合わせ、ぴっとりと閉じてしまう。すこしだけ唾液に濡れた唇同士が密着し、みちっ…♡ぬちっ…♡というリアルなリップ音が、普段では絶対に聞こえないような小さい音が、はっきりとトンネル内に鳴り響く。 俺は無意識に、その大きすぎる唇から目が離せなかった。巨大な人間の唇という見たこともない光景に驚いているのもある。ただそれよりも、見知ったクラスの女子の唇がこんなに巨大になって目の前に鎮座していることが、激しいドキドキ感を与えていた。 (女子のくちが…こんなにでっかく……) クラスに明確に好きな女子がいるわけではないが、可愛い女子や多少気になる女子がいないわけでもない。ただ、目の前の唇は、間違いなくクラスの女子の誰かのもので。男子たちが気になっている女子の、誰にも触ることができないぷにぷにの唇かもしれない。そんな唇が今、目の前にある。手を伸ばせば触れてしまえる距離。この張りのある上唇に手をうずめたら、どんな柔らかさなのだろうか。…こんな巨大な唇にキスされたら、どうなってしまうのだろうか。 にちゃっ…♡ 「え……?」 脳がぐるぐる回って考えていた俺は、目の前の唇がいやらしい音を立てて開け放たれたことに、一瞬気づかなかった。 「「はぁぁぁーーー……♡♡」」 むわあっっ♡♡ 「っっっ……!!!」 今度は、容赦ないほどに蒸れ蒸れの、生暖かい吐息が容易に浴びせかけられる。先ほどの涼しい吐息とは打って変わって、ごまかしようもないよだれの濃い匂いがふんだんに混じった空気がトンネル中に充満する。クラスメートの女子の口内の匂いを思い切り嗅いでしまい、何かいけないものを嗅いでしまっているような、一種の罪悪感すら覚えてしまう。 この女子は、俺に吐息を嗅がれることを何とも思っていないのだろうか。 「「はぁっ…♡♡」」 追撃のように熱々の吐息を吐き出す唇。あまりの湿度に一歩、二歩下がってしまうが、足元の机も吐息の蒸気でじっとりと濡れてしまい、思うように歩けない。もはや段ボールの壁は、大質量のよだれの水滴でびしょびしょに濡れてしまっていた。それも全て、 みちっ…♡ 目の前で閉じられたむっちり唇が全て吐き出したものなのだ。女子の口一つで、小さい人間の世界はこうもめちゃくちゃに支配されてしまう。こんなにも広いトンネルの空気を塗り替えられ、女の子の匂いに染め上げられる。 俺が感じたのは恐怖ではなく、クラスメートの女子に支配される興奮だった。 「はあっ……はあっ……!」 知らぬ間にギンギンに固くなった股間を抑えながら、俺はトンネル内を走り始める。こんな所にいたら、頭がおかしくなる…!クラスの女子がみんないる教室の中で、こんなにも興奮させられて。もし女子たちにこの気持ちを気づかれたら、クラスの中での俺の居場所は無くなってしまうかもしれない。 早く脱出しないと。そう思い、焦りながら、果てしない段ボールのトンネルを走っていく。 ずぼっ!! 「うわあっっ!!」 走る俺のすぐ後ろに、段ボールの壁を突き抜けて巨大な手のひらが侵入してくる。俺は絶叫してもんどりうち、2回3回と床を転がってしまう。巨大で分厚い、それでいて柔らかそうで可愛らしい手のひらは、広いトンネルの中をぐねっ、ぐにっ、と指を開閉させながら暴れ回る。 そんな様子にさえ。俺は興奮していた。 (女子の手……でっかいっ……!) 誰の手かは分からない。でも、あの巨大で柔らかな女の子の手で優しく握られたら、きっと気持ちいいかもしれない。男子には絶対に力で勝てないはずの女子の手が、今圧倒的な体格差を持って俺に恐怖を与えようとしているのだ。…支配されたい。ぎゅっと握られたい。指や、手のひらに触れてみたい。 クラスメートの女子の手に興奮し始めた自分に気づき、俺はかぶりを振って再度走り始める。おかしい。何か、自分の性癖が歪められるような、そんな危険を感じる。ここにいてはいけない。 (早く、出口はっ…!) 焦って出口を探していた俺は、段ボールトンネルの壁の一部に、縦の切れ目が入っているのを視認した。光の筋が縦に伸びていて、外の様子までは見えないが明らかに段ボールの外側の世界に行けそうだった。 …明らかに、段ボールトンネルには続きがありそうだったのに。焦っていた俺は、そこが出口だと早合点し、狭い隙間から無理やりトンネルの外に出たのだった。 そこには。 肌色の巨大な壁が、目の前にそびえ立っていた。 「あ……え……」 一瞬、何が起こっているのか分からなかった。急に明るい場所に出たことにより、目が眩んでいたせいもあった。 しかし、目が慣れてきたタイミングで、その肌色の壁の正体を知ることとなった。 (これ……ふともも………) 明らかにそれは、人の肌の表面で。よく見れば、肌色の巨大な柱が2本、そびえ立っているのだ。俺が立っている机よりもさらに下の方から生えてきている、人間の脚。少し視線を上げれば紺色のミニスカートの裾がひらひらと肌色の柱を隠していて。それは明らかに、クラスメートの女子高生の巨大な太ももだったのだ。 普段思わずちらちら見ているような、女子の生太もも。スカートを短く折り曲げる女子もいて、そんな女子が椅子に座ったり脚を組んだりするのを、目のやり場に困りながらも盗み見たりしてしまうものだった。 そんな太ももが、今目の前いっぱいに広がっているのだ。想像を絶するほど柔らかそうな内ももは白く美しく、肌の表面は少しざらついていてリアルな質感を想像させる。こんな性的な太ももという部位が、自分の全身を簡単に挟み潰せるようなスケールで存在していることが、あまりにえっちだった。 思わず、上空に伸びるビルのような巨体を見上げれば。 「「…………」」 (っっ…!!冬野……) 先ほど俺を教室まで連れてきた、冬野の顔が見えたのだ。 「「そっちどうー?」」 上空から鳴り響く、冬野の声。その声は教室にいる別の女子に投げかけられたものらしく、冬野の視線は全くこちらには向いていない。まさか段ボールの隙間から出てきた俺が太ももの傍にいるとは思っていないらしく、こちらに目をやろうともしない。 冬野の顔と、目の前に鎮座するむちむちの太もも。圧倒的な光景に、興奮を抑えきれない。 特別、冬野のことが好きなわけではない。気になっていたわけでもない。今まで普通にクラスメートとして自然に接してきて、さっきも話していて特に何も感じなかったはずなのに。 神々しくそびえ立つ冬野の太ももに、あまりにも興奮している自分がいた。 「「………ふう」」 ズンッ…!! みちぃ…♡ 冬野が息をつきながら、わずかに身じろぎをすれば。スカートの布が白いカーディガンの裾と擦れたのか、太ももの肉が下着に擦れたのか、大きな音が股下の小人に襲い掛かる。巨体が奏でる音ですら、スケールが違いすぎる。常に制服同士が擦れる音が聞こえ、少し足を踏み直せばその地響きと音が低く反響して止まない。 さっきは同じ身長で、いや、俺の方が背が高くて、冬野の身体は細くて小さかったはずなのに。目の前の太ももはあまりに強く、神々しく、むちっ…♡と降臨しているだけで小人の戦意を喪失させてしまうほど。目の前に立たれているだけで、支配される。恐怖も、興奮も。こちらに気づいてもいないクラスメートの一つの部位に、骨抜きにされる。メロメロにされる。 「「あははっ…♪」」 ズンッ…!! ふわっ……♡ 他の女子の会話に何気なく笑った冬野。その身じろぎがスカートの裾を揺らし、甘い香りを階下の小人に降らしていく。先ほどの吐息の生々しい匂いとは違い、スカートから放たれた柔軟剤の爽やかな良い香り。そこに交じった、女の子特有の太ももの甘い匂い。普段絶対に嗅ぐことのない、冬野の脚の匂いを嗅いでいる。嗅がされている。そんな背徳感が、俺を狂わせる。 (だめだ…だめだ……) 思わず股間に手を伸ばしそうになった自分を、必死で律する。クラスメートの太ももをおかずに自慰行為をするなんて、ましてや教室でそれを行うなど、人として最低の行為だ。 …でも。 がさっ…… 再び段ボールの隙間からトンネル内に入った俺は、隙間から顔だけを出し、外の様子を覗き込む。冬野の太ももがそこからでも強烈に見えていて。 「くっ……ああっ……!!」 耐えきれなくなった俺は、トンネルの中に身を隠しながら、冬野の巨体を見て自慰行為を始めたのだった。 「「………」」 ズンッ!!ズンッ!! ぷるんっ…♡ぷるんっ…♡ 「あああっ……!!ああっ……!!」 冬野が何気なく足を踏み下ろすたび、ぷにぷにの太ももの肉がえっちに揺れる。それが太ももの柔らかさをこれでもかというくらい強調し、目が離せなくなる。段ボールに隠れて自慰を行う俺の視点からは、冬野の顔は全く見えない。冬野の太ももとスカート、カーディガンの裾だけが見えている状態で、性の感覚を支配される。さっきまでただのクラスメートだった冬野に対する被支配感が、ありえないほど興奮する。 あの太ももに、挟まれてみたい。圧し潰されたい。柔らかくてあったかい、良い匂いのする冬野の裏ももにむにぃ…♡♡と抱きしめられたい。 「「あー、ちょっと疲れた」」 ガタンッ…… 不意に、冬野の下半身が少しだけ浮き上がる。 「あ………」 ズンッ!!! むにぃぃ……♡♡ (っっっ……!!!!) 突然机に半分腰かけた冬野の太ももが、いきなり俺の眼前に迫りくる。そのまま机の表面に押し当てられた太ももは、むにぃぃ……♡♡と変形して机に密着する。急激に接近した太ももの可憐な匂いが段ボールトンネル内にも容易に充満し、お化け屋敷の中は冬野の甘い香りで満たされる。 女神の太ももがみちぃぃっ…♡♡と机に密着する、果てしなくえっちな光景に。 「ああああっっっ……!!」 愚かな男子高校生は、耐えられるはずもなかった。 ------ 「はい、出てきていいよー」 「う、うん……」 あれから、身体をふらふらさせつつも何とかお化け屋敷の最後までたどり着いた俺は。再び電話ボックスのような空間で不意にスプレーを吹きかけられ、気づけば元の身体のサイズに戻っていた。 ドアの外からの呼びかけに応じて、空き教室から脱出する。 「あ、出てきた。どうだった?」 「っ……!あ、えっと……」 俺を出迎えるのは、元のサイズに戻ったいつもの冬野だった。…しかし、先ほどあんな行為をこっそりやってしまっていた俺は、まともに顔も見れない。それどころか、 「んー?」 (っっ……) 冬野の太ももをちらと視界に入れるだけで、心臓のバクバクが止まらない。この太ももが、あんなに大きかったんだ。今見ると華奢で可愛らしい太ももが、女神のように太く美しくて。 もう、冬野のことを以前のように見れない自分がいた。 「あ、いや、怖かったよ…」 「ほんと?良かった~。また本番でも来てねー!」 「う、うん」 男子チームの方へ戻る俺を、ひらひらと手を振って見送る冬野。 (本番、も……) 俺は既に、文化祭当日にこのお化け屋敷を訪れることしか考えていなかった。 ---続く---