「ふう…疲れた~」 一人暮らしの自宅に帰ってきた私は、一日中聞いていた大学の講義の疲れで、部屋のソファにドサッと倒れ込んだ。そのままだらしなく仰向けに寝転びながら、スマホでSNSを適当に閲覧する。 ピピッ、ピピッ…… と、リラックスタイムに入ろうとした瞬間、あらかじめセットしておいたスマホのアラームが鳴り響く。そのアラーム名は「職業安定講習」と表示されていた。 「やばっ、もう19時じゃん」 私はソファから跳ね起きると、部屋の隅に置かれているクローゼットを開き、急いで着替え出す。大学に着て行ってた私服のTシャツやスカートを脱ぎ、黒色の女性用スーツに着替えていく。スーツは私の身体をぴっちりと締め付け、否が応でも気持ちが切り替えられる。髪をフォーマルにセットし直し、リップクリームを塗りなおす。 「ん…これで大丈夫かな」 私は全身鏡に映った自分の姿を確認する。しっかりとしたOLのスーツ姿。まだ大学2年生の私だが、何度も着ているスーツはそろそろ様になってきているようにも見えた。まだ少しあどけない顔はさすがに社会人のそれには見えないけれど。 着替え終わった私は、自分の作業机の方に向かっていく。そしてゆっくりと椅子を引くと、あまり大きな音や振動が出ないようにそーっと腰を下ろす。 ギィィ…… 椅子が軋む音と共に着席した私は、机の端に置いてある、正方形の箱型のオブジェのようなものを机の正面にゆっくりとずらす。大きさにして、大体30cm×30cmくらいだろうか。大きめの贈り物のお菓子の箱のような大きさと言ったらイメージしやすいかもしれない。高さは10cmちょっとくらい。 「……ふぅ」 私は少しだけ気持ちを入れるために、軽く息を吐いた。そして、目の前の箱の天井部分に付いている小さな取っ手に指をかけると、ゆっくりと持ち上げていく。箱の天井部分の面だけが私の手に持ち上げられ、箱の中にあるものが見えていく。 …箱の中からは、3cmサイズの小さな人間の形をしたものたちが、こちらを見上げていた。 「皆さん、こんばんは!就職教育の時間です。自分の席に着席してくださいね」 私は箱の中に向かって、ビジネスライクな丁寧口調と笑顔で優しく語り掛ける。その声に呼応した箱の中の小人たちは、学校の教室のように並べられた机と椅子に次々に着席しはじめた。…お菓子の箱サイズの空間で動いている30名ほどの小人は、間違いなく人間そのものだった。姿や形が人間に似ているだけではなく、実際に私と同じ"人間だったもの"。 「皆さん着席しましたね。…それでは今日は、体格の小さな方向けの新しい求人をご紹介し、その面接対策をしていきます」 私は小さな教室の箱の上から、丁寧な口調で話しかける。着席している"体格の小さな方"たちは、私の言葉に頷いたり、緊張した顔でこちらを見上げていたり、興味無さそうに俯いていたりと、反応は様々だ。 「それでは最初の求人です。A市にある印刷会社さんの求人ですね。これは…」 何故私が小さな人たちに就職教育の授業をしているかというと。大学で入っているボランティアサークルの活動の一環だからだ。 20歳を超えた成人男性や成人女性が稀に発症する、身体縮小症候群。この病にかかってしまえば、身体そのものが数cmサイズまで縮んでしまう。治療法はまだ見つかっておらず、縮小した身体を元に戻す方法は今のところ存在しない。 それまで普通に社会に出て働いていた人でも、身体が数cmになってしまえば同じような働き方はできない。外を歩いて営業をすることは出来ないし、PCを使ってプログラムを書くことも出来ないし、工場で部品を組み立てることだって出来ない。指先程度の大きさの人間を労働力として認めてくれる職場など、ほとんど存在しないのだ。 しかし、それでは縮小症候群にかかった人は自立して生きていけない。そこで、色んな大学のボランティアサークルが"小人向け就職支援教育"を無償で実施しはじめた。小人でも働けるような求人を全国からかき集め、その紹介をしたり面接で受かるための教育を行ったりするのだ。 「業務の内容としては、故障した機械の内部に入っていただき、その原因を特定するというものです。普通の体格の方には見えづらい箇所なので、皆さんの体格を活かして調査していただく、という業務ですね」 私の話を聞いている30名ほどの小人は、みな20~30代の成人した男女だ。全員が私よりも年上であるため、講義をするのは少し緊張すると共に変な感じがする。しかし縮小症候群にかかった人は小人向けの就職の仕方など何も知らないし、調べることもできない。そのため、小人向け就職について勉強済みの学生ボランティアが教育してあげることが必要なのだ。 「この求人について、何か質問がある方は手を上げてください」 教室の真ん中あたりの小人が、その小さな手を上げているのが見えた。 「はい、そこの方どうぞ」 私はそう言うと、手を上げた小人に向かって、自分の耳をゆっくりと近づけていく。私が普通に座っている体勢では、小人の声など小さすぎて聞こえない。限界までこちらの耳を近づけてあげて、ようやくその声が聞き取れるのだ。…私は自分の顔で小人たちを潰してしまわないように、注意を払って耳を至近距離まで近づける。教室の半分以上を埋め尽くしてしまうほどの私の顔が、小人たちの上空5cmまで近づけられる。 (…印刷機械についてあまり詳しくないのですが、それは大丈夫なんでしょうか?) か細い小人の声が私の大きな耳に届く。あまりに微かなその声は成人した人間のそれとは思えず、こんな人が本当に社会に出て働いていけるのか、心配になってしまう。 「はい、大丈夫です。採用条件にはこう書かれていて…」 小人向けの縮小教育は、30名ほどの小人を一単位として、各ボランティアメンバーに割り当てられる。メンバーには小人用の教室の箱が支給され、そこで無職状態の小人を生活させながら、週3で講義を行っていくのだ。それぞれの自宅で教室の箱を設置し、いわば小人たちを住まわせながら教育を続けていく形だった。 (次の講義は明後日の19時から1時間だよね…明日のごはんは何にしよっか……) 私は講義を続けながら、明日からの予定について頭の中で確認する。ボランティアが行う仕事は2つ。週3で行う講義と、小人たちへの食事の支給。小人たちは就職が決まるまでは教室の中でずっと生活することになるので、食事は全て私が用意してあげなければいけない。これが結構大変で、ある程度栄養バランスを考えてあげながらもごく僅かな量だけ支給することになるので、毎日食事内容を考えるのがやや負担だった。 そんなことを考えながらも、いつものように1時間の講義をこなし。 「それでは、今日の講義は以上としたいと思います。ありがとうございました」 私は丁寧な口調で締めくくると、笑顔を作って軽く頭を下げた。小人たちもそれに合わせ、各々頭を下げる。…その姿を見ながら、私は教室の箱のフタをゆっくりと閉めた。 「…ふぅー……」 私は大きく息を吐き、椅子の背もたれに向かって倒れ込む。1時間講義をするというのは中々に疲れるものだ。…しかも相手は全員年上の元社会人。まだ大学2年生の私にはやや緊張する時間だった。 それでも、何故ボランティアをやっているのか。元々は大学で何かをやりたくて、ボランティアや慈善事業には割と興味があって。それで今のサークルに入った。そんな中、小人の就職支援のボランティアがあることを知ったのだ。 縮小症候群については知っていた。実際に見たことは無かったが、小人になって働き口が無くなったというニュースやドキュメンタリーを見て、そんな可哀そうな人たちを助けてあげたいという気持ちが大きくなっていた。 …いや、ボランティアをやっている理由は、それだけではないかもしれない。もちろん最初は慈善の心で始めたのだが。3cmほどの小さな人を自宅に住まわせ、毎日食事のお世話をしているうちに、どこか愛おしさ、可愛らしさのようなものを感じ始めたこともまた事実だった。自分より年上で社会経験もあるはずの人たちが、まだ社会を知らない学生である私に生活も就職も頼りきりになっているのだ。講義をすれば私の話に耳を傾けてくれて、時々か細い声で頑張って質問してきてくれる。…そんな姿を見て、私は時折充足感のようなものを覚えていた。 「お風呂入ろっと」 一仕事終えた私は、そう言って風呂の脱衣所の方へ向かう。…ちなみに今の声は教室の中には聞こえていない。教室の箱は完全防音となっていて、私の部屋で発生した音は全て遮断されるのだ。当然、私の部屋の様子も見えるようにはなっていない。教室の天井を開けたとしても、私の部屋の天井と私の顔しか見えていないだろう。 …それでも、何となく教室と同じ空間のリビング内で服を脱ぐのは気が引けた。私はこのボランティアを始めてから、毎回風呂の脱衣所で服を脱ぐことにしていた。 ------ しかし、たまに気が緩んでしまうことはある。 「よいしょっと…今日も疲れた~」 今日も今日とて大学の講義から帰ってきた私は、リビングのソファにカバンをドサッ…と落とし、 「あっつ~…」 その流れでTシャツとホットパンツを脱ぎ捨てる。身体に汗で密着していた服たちを脱いだことで、素肌に心地よい空気が当たって気持ちいい。 「気持ちいー……あっ……」 下着姿でリビングに立ち尽くしていた私は、そこでようやく机の上に置いてある教室の箱の存在を思い出した。 「やば……」 思い切り下着姿で教室と同じ空間に立っていることに気づき、にわかに焦る。…いや、そもそも教室の中からは見えていないんだから、問題ないはずだ。 それでも、ちょっと恥ずかしい。普段スーツというフォーマルな恰好で、丁寧な口調で講義をしているわけで。見えていないとはいえ、30人もの人間が入っている箱の横で下着姿になっているというのは、恥ずかしさというか、罪悪感というか、何か変な気持ちになってしまう。 「………」 私は机の上の教室に近づき、ちゃんと蓋がされているかどうかを確認する。大丈夫だ。しっかり密閉されている。…今もこの中で、30人の小人たちが生活しているのだ。 「ほんとに小さいな……」 改めて、小人たちの小ささを認識する。こんな小さな箱の中に30人も入っているのだ。教室の箱は、下着姿で立っている私のちょうど股間部と同じ高さで。白のお気に入りのショーツに比べて、そのスケール感はほとんど変わらない。ショーツから少しはみ出た豊満なお尻も、そこから下に伸びるむちむちの太ももも、小人たちの住処に比べてあまりにもデカすぎる。もし私が教室の上に腰かけようものなら、この大きなお尻で小人ごと圧し潰してしまうだろう。 もしこの状態で教室のフタを開けたら、小人から私はどう見えるのだろう。あまりに大きな下腹部が目の前に現れて、怖いだろうか。年下の女子大生の下着を見て、嬉しいだろうか。いつも丁寧に講義してくれる女の子の下着姿を見せつけられて、困惑するだろうか。教室の中から注がれるたくさんの目線を想像する。 「………」 その時の私は、どこか変だった。 スルスルッ…… 心臓をドキドキさせながら、ショーツの端に手をかけ、ゆっくりと降ろしていく。絶対に人には見せてはいけない股間部が露わになる。露わになった女性器とお尻に外気が当たり、ひんやりと気持ちいい。 「………」ズンッ…… 下半身裸になった私は、教室の箱のすぐそばに仁王立ちしてみる。何十人もの人間の居住スペースの前に、巨大な私の女性器が接近する。私の股間部よりも、この中にいる小人たちの方が遥かに小さいという事実。異常な体格差があることは分かっていたはずだが、こうして大きさを比べてみると衝撃を受けてしまうと同時に、変なドキドキが生まれてくる。 「はあっ…はあっ……」 自分の太ももに手を当て、むにぃぃ…♡と柔らかな肉をへこませながら上にスライドしていく。どうしてだろう。私、露出趣味なんてないはずなのに。毎日講義してあげている小人たちの教室の前でこんな姿になっているという事実が、大きな背徳感を生んでいる。そして私の下半身との残酷なまでのサイズ差が、小人たちへの憐憫や愛しさをより増幅させていた。 「……っ…私、何してんだろ……」 ふと、我に返った。就職のために頑張っている小人たちに、なんてことをしているのだろう。私は急に罪悪感に包まれ、急いで下着を履き直して風呂場の脱衣所に向かったのだった。 ------ その2日後の、夜19時。また講義の時間だ。私はいつも通りフォーマルなスーツ姿に着替え、机に向かって着席する。…実際は小人たちからは私の胸元より下は見えていないので、下半身までスーツ姿にする必要はないのだけれど。何となく、全身をスーツ姿で固めたかった。 19時ぴったりに、私は教室のフタをゆっくりと開ける。 「皆さん、こんばんは。時間になったので、着席して下さいね」 思い思いの体勢でくつろいでいた小人たちが、私の号令で一気に自分の席に向かっていく。私の一言に皆が従ってくれるのがなんだか嬉しかった。 「それでは、今日の話ですが……」 いつも通り、小人就職の講義を始める私。しかし、今日は頭の中に変な思考がまとわりついて、どうにも集中できない。 (ほんと…ちっちゃいよね……) 私の小指の長さにも満たない、3cmサイズの小さな身体。全員私より年上のはずなのに、私の身体との体格差はあまりにも大きい。どれだけ屈強だった人間でも、今の体格差では私の小指一本で簡単に組み伏せられてしまうだろう。手も足も頭も、全てがちっちゃい。私が何をしようと、この人たちは抵抗することが出来ないのだ。 (………) 2日前、ショーツを脱いで教室の傍に立ったことを思い出してしまう。普通サイズの私の身体との、圧倒的なサイズ差。私の下腹部は教室を簡単に潰せてしまう程に大きくて重い。人より少し豊満なお尻や太ももは、小人たちからしたらビルのように大きな凶器にもなり得るのだ。それを意識しながら、眼下の小人たちに向かってしゃべり続ける。 「ん、そこの方、質問ですか?」 途中で、手を上げた小人がいた。何か質問があるのだろう。私は前かがみになり、その小人に向かって耳を近づけようとする。 (っ……これ…怖かったりするのかな…?) 私の顔は、小人からすれば建物のように大きく見えるはずだ。だって、彼らは3cm。私の顔全体どころか、顔のパーツ一つ一つの大きさにも勝てるかどうか微妙な所なのだ。そんな圧倒的なデカさの顔が上空から至近距離まで落下してくるのだから、毎回怖い思いをしているのではないか。そんなことを考えてしまう。 それでも、小人の声を聞くにはそうするしかない。 「よっと……」 私は、小人たちの上空数センチまで顔を降ろし、小人よりも大きな耳を思い切り近づけた。 が、少々勢いよく顔を近づけすぎたようで。 (キャッ…) 微かに、小人の女性の悲鳴が聞こえてきた。あ、怖かったのかな。そうだよね、こんなにおっきな顔が勢いよく近づいてきたら、潰されちゃうかと思うよね。…でも、そっか…これだけのことで、悲鳴あげちゃうんだ…。 耳を下に向けつつも、目線を小人たちの方へ移す。私の顔の下で、自分の身体を抱きながらぷるぷる震えてしまっている女性がいた。怖がりながらも、私の巨大な顔を見上げて講義を何とか聞こうと頑張っている。…その弱さと健気さに、何だか"可愛らしい"と思ってしまう。 小人からの質問はちゃんと聞き取ることができた。目的を終えた私は、近づけた自分の顔を元に戻そうとする。…しかし、未だぷるぷる震える女性の姿を見てしまって。 何だか、少し悪戯したくなってしまった。 私はいつも、顔を遠ざけてから質問への回答を話し始める。小人たちにとっては、私の声はあまりに大きすぎるだろうから。でも…今回はそうしなかった。 「「そうですね、そのことについては…」」 (キャァッ!!) 私は顔を近づけた状態のまま、いつもどおりの声量で話し始める。口元にいる小人からすれば、目の前の巨大スピーカーから爆音が急に鳴り響いたのだ。耳をつんざくような私の声のボリュームに、口元にいた何人かの小人は耳を塞いで身体をびくつかせてしまっていた。…先ほど悲鳴を上げていた女性は、思わず椅子から転げ落ちてしまったようだった。 (普通に喋っただけなのに…) 小人って、こんなにもか弱いのだろうか。ただの女子大生が普通のボリュームで喋っただけで、こんなにも驚いてしまう。直接、その身体に触れなくても。もし私が容赦なく大声を出してしまったら、小人たちの鼓膜は容易に破けてしまうだろう。もしかしたら、びっくりしすぎて気を失っちゃうかも。…そんな姿を想像すると、ちょっと滑稽に感じてしまう。 私の爆音の回答を何とか聞いた小人は、まだ質問があったようで、続けて喋り始める。私は、もう少しだけ悪戯したくなった。 小人の声に耳を傾けながら、私は無意識を装って、唇をゆっくりと開ける。小人の身長よりも大きな唇が、むちゃぁっ…♡と音を立てて開かれる。口元の小人たちからは、私の舌や歯が見えていることだろう。ちょっと、恥ずかしい。 そして、あくまで無意識を装いながら、 はぁぁぁっ………♡♡ 生温かい吐息を、口元近くの小人たちに浴びせかけた。 (あはっ……びくびくしてる……) 突然の熱風に驚いたのだろうか、吐息を浴びせかけられた小人たちは身体をよじらせたり、手で顔を塞いだり、恐怖で縮こまったり、思い思いのリアクションを取っていた。 なんだか、ゾクゾクする。 年下の女子大生の、生の吐息。恐らくよだれの匂いも混じって、決して良い匂いではないはずだ。そんな吐息を一方的に浴びせかけられ、怒るどころか、怖がって縮こまるだけなのだ。私よりも社会経験がある人間たちなのに。…私のこと、どう思っているのかな?悔しくないのかな?それとも、私の顔が大きすぎて年下っていう感覚もないのかな? 唇に一番近い場所に座っていた男の人が視界に入る。最も近くで巨大女子大生の生々しい吐息を浴びせられ、自分の身体を抱えてうずくまってしまっている。男の人なのに、何だか情けない。でも仕方ないよね。だって…私の唇よりも小さいんだから。私がこの顔を少しずらし、この人に巨大な唇を乗せるだけで、この人は全身埋もれて動けなくなっちゃう。女子大生の唇という、どちらかというと成人の男性が喜びそうなものに触れているのに、実際は全身圧迫されて呼吸すら難しくなってしまうかもしれない。何なら、唇の重量だけで圧し潰せてしまうだろう。 (っ……ダメダメ……) 講義中に変な想像を巡らせている自分に気づき、私は気を引き締め直す。私はこの小人たちにとって、丁寧で優しいボランティアでなければいけない。全員をちゃんとした職に就かせてあげることが、私の仕事なんだから。 「では、講義の続きを行いますね」 私はようやく顔を上げ、また上空から見下ろす形で講義を続けるのだった。 …そして、その日の講義がつつがなく終わり。 「次の講義は3日後の19時からとなります。では、ありがとうございました」 講義を締めくくり、小人たちに向かって上空から会釈する。小人たちもこちらに向かって頭を下げる。私は教室のフタをゆっくりと閉め、小人たちの空間を遮断する。 「あ~、今日も疲れた…」 私は椅子から立ち上がると、クローゼットの方に向かって歩いていく。ジャケットを脱いでソファに放り投げると、スカートのジッパーを降ろそうとする。…そのタイミングで、何となく教室の箱の方をちらと見た。 (あっ…壁が倒れちゃってる…) 教室の箱の側面部が、外側に向かって倒れてしまっていた。教室を取り囲む壁のうちの一つが完全に倒れ込んでしまっている状態。…フタを閉めた衝撃で取れてしまったのだろうか。今、教室の中からは私の巨大な部屋が見えている状態となっていた。もちろん、着替えようとしていた私の姿も含めて。 (あっぶなー…) スカートを脱ぐギリギリのところで気づくことができ、安堵する。と共に、プライベートの姿を少し見られてしまった恥ずかしさが押し寄せてくる。普段小人たちにはスーツ姿で丁寧語で話す姿しか見せていないのだ。気を抜いた瞬間を見られただけで、少し顔が赤くなる。 …そんなに気にしなくても良いか。この小人たちは、もう元の大きさに戻ることはできない。就職出来てからも、あくまで今の体格で社会を生きていくのだ。だとすると、ちょっとプライベートな姿を見られただけで、そこまで気にしなくても良い気がする。 「………」 そう。そんなに恥ずかしがることではない。 じゃあ…今、このスカートを降ろしてしまったら、どうなるのだろう? (いや…ダメでしょ……) 心臓がバクバク鳴り始める。今スカートを降ろしたら、私の下着が30人の小人たちに見られることになる。友達でも恋人でもないあくまで他人の人間に、下着とそこからはみ出るお尻や太ももを見られるのだ。そんなこと、やってはいけないに決まっている。 でも…見られたからどうなるというのだろう。この小人たちはスマホも弄れないから、ネットへの発信力は0。誰かにそれを話すとしても、小人の中だけで話すしかない。普通サイズの人間の世界で、私が下着を見られたという事実が広まることなど絶対にない。いわば、ペットに着替えを見られるのと大差ないのだ。 (何考えてんだろ…私…) 小人たちをペットに例えた自分に罪悪感を覚える。しかし、心臓のバクバクは止まらない。脱いでみたい。あの小人たちに、下着を見せつけてみたい。女子大生の生着替えを見せつけられてもどうすることもできない小人たちの、可愛らしいリアクションを見てみたい。…いいよね。だって、私の部屋だもん。あの子たちに見られようと、私の人生には関係ない。 そして。私は教室の壁が外れていることに気づいていないフリをしながら、教室に背を向け、スカートのジッパーを降ろした。 パサッ…… スーツスカートが床に落ち。私は、白いYシャツと白いパンツだけの格好になった。 (やっちゃった…やっちゃった……♡) 他人に見せたことのない、ましてや男の人になんて絶対に見せたことのない下着姿を、こんなにも堂々と、たくさんの人の前で、露わにしてしまった。それが、私に異常な興奮を感じさせていた。 今、みんなに見られているのかな。特に、男の人たちは。年下の巨大な女子大生の、大パノラマの生着替え。純白のパンツからは、真っ白で柔らかなお尻がはみ出していて。そのお尻が教室の面積よりも大きいという事実を、どう感じているんだろう。…私の下着姿に、興奮している子もいるだろうか。いるかもしれない。でも、だからといってどうすることもできない。えっちな私の巨体に、3cmの矮小な身体では何もすることが出来ないんだ。可哀そう。可愛い。どれだけ興奮しても、私の巨体を遠くから眺めることしかできないんだよね。…私は挑発するように、豊満なお尻の肉に手をうずめ、むにっ♡むにっ♡と何気なく揉みしだく。こんなこと、小人たちにはできやしない。 「はあっ…はあっ……」 頭がぼーっとして、息が乱れる。私に、こんな露出趣味があったなんて。…普通サイズの人間に対しては無理なのに、小人たちに対してはこんなにも大胆になれる。それが何故なのか、もう頭では理解していた。この子たちを、ちゃんとした人間として見ていないからだ。 そのままの勢いで、白いYシャツのボタンに手をかけ、ぷち、ぷち、と外していく。そして全て外し終わると、 バサッ…… 躊躇せずにYシャツを両方の手から抜き取り、ソファへと投げ捨てた。 (ブラまで…見られてる……♡) 私は教室に対して横方向に身体を向き直し、ブラジャーに包まれたおっぱいを横から見せてあげる。同年代の子よりはやや大きめのおっぱいは、小人たちの教室に入りきらないのではないかと思うほど豊満で。少しだけ自信のある横乳おっぱいとお気に入りのブラジャーを、30人の小人に見せつける。完全に下着姿になっているのに他人に見られているという異様な感覚に、股間が疼く。 (サービスしちゃおっかな…♡) 私は机の方にズンッ、ズンッ…と歩いていく。その歩行に合わせて、少しだけ教室の箱が揺れているのが見える。私のただの歩行ですら、小人たちの住処を激しく揺らす天災になりかけているのだ。今まで全く気付かなかった。私という巨体が生み出す振動は、知らぬ間に小人を恐怖に陥れていたのかもしれない。その事実にすら、今の私は興奮していた。 ズンッ!! 私は、机に置かれた教室の箱の目の前に立ち、机の奥に置かれている小物をわざと整理し始めた。教室の中からは、私のショーツが至近距離で立ちはだかっているのが見えるはずだ。これ…やばすぎる…♡みんなの視線が、私の股間に向けられているのが分かる。みんなが住んでいる教室よりも大きなショーツを、大パノラマで見せつけているのだ。なんてはしたない行為なんだろう。でも、これが嬉しい人もいるでしょ?今頃、私の股間部の匂いが教室の中に充満し始めているかも。さっき講義中に汗かいちゃったから、蒸れて濃い匂いになっているだろう。嫌かもしれないけど、この中にいる子たちは私の匂いを大人しく嗅ぎ続けるしかない。だって、弱いもんね。私の股間にすら敵わないんだから。 (はあっ…はあっ…♡) 気持ちが昂って、思わず股間に手を伸ばしそうになる。 (っ……ダメ…ここまで…) あくまで小人たちは、これは私が無意識にやっている行為だと思っている。偶然教室の壁が取れて、それに気づかずに生着替えを見せてしまっているのだと思い込んでいるはずだ。その状態を崩してはいけない。あくまで私は、小人たちにとって丁寧で親切なボランティアなのだから。 私は机から離れると、部屋着のゆったりとしたTシャツと短パンに着替えた。その後も教室の壁が外れていることに気づかないフリをして、いつも通りの私生活を送った。…そして夜に電気を消し、小人たちが教室の中で眠りに入ったころを見計らい、何気なく壁を元に戻したのだった。 ------ そして、次の講義の日。私は、小人たちの変化に気づいていた。 「今日は、体格の小さな方が採用されるための必要スキルについて話していきます」 フォーマルなスーツ姿で上空から話しかける私のことを、小人たちは通常通り見上げながら話を聞いているように見える。 でも、私からは教室の隅々まで小人たちの様子が手に取るように分かる。あの席の男の人、さっきから私の胸元にしか目が行ってない。あの隅っこの席の男の人は、ずっと自分の股間部を隠している。前の方に座っている女の人は、私が顔を近づけるたびに必要以上に怖がっている。数日前の大声がトラウマになっちゃったのかな? (………♡) そんな、私の巨大な姿に集中できていない小人たちを見ると、愛おしさが増してくるのだ。私は普通に真面目に講義をしているだけなのに、顔を近づけただけで怖がっちゃって、無意識の吐息に翻弄されちゃって、生着替えに惑わされちゃって…。私の一挙手一投足に弄ばれる小人たちの様子が、面白くって。 「必要なスキルは、全部で5つあります」 ぶんっ!! キャァッ…!!アアッ…!! (あははっ…手をかざしただけで怖がってる…♡) 私の悪戯は、少しづつエスカレートしていくのだ。 ---続く---