船見の体操ズボンの中でこっそり太ももにイかされ、再びツイスターのシートの上に摘み降ろされた俺は、もう何の体力も残っていなかった。次の指示に対して体が動かず、あっさりと負け。2日連続の罰ゲームを受けることになったのだが…。 「…………」 暗闇に閉じ込められて早3時間。外からはペンの音やテレビの音がかすかに聞こえるが、一向に暗闇に光は差し込んでこない。 「一日、佐伯のリップクリームとして過ごすこと」が今回の罰ゲームだった。三原の悪ノリで決まったこの罰ゲームに、しかし佐伯は乗り気ではないように見えた。「えー、なんか気持ち悪いし…」とストレートな暴言を吐きつつ、嫌そうな顔で俺をバッグに入れたのが最後。そこから佐伯が家に帰り、夜ご飯を食べ、風呂に入り、勉強を始めてもなお、バッグの中の俺への干渉はなかった。 「……さすがに暇すぎるな…。ただの監禁じゃないか…。」 罰ゲームでいいように扱われるのも大変だが、ここまで無関心を貫かれると少しだけ傷つく気持ちもある。確かに、俺たちのサークルに入ってきたときから感情の薄い女子だとは思っていたが…。バッグの中の小人の様子をちらと伺う気概さえないようだ。さっきからペンを走らせる音がずっと聞こえている。おそらくこのバッグは勉強机の端に置かれていて、佐伯は講義の課題でもこなしているのだろう。 しばらくするとペンの音が止み、頭上から「ジーーーーッ」とバッグのチャックを空けるけたたましい音が鳴り響いた。チャックの割れ目から巨大な手が侵入してくる。暗闇であることもあり、少しホラーチックだ。 バッグが開け放たれ、数時間ぶりの光が差し込んでくる。まぶしい。…目が慣れてくると、佐伯の机の上の景色を視認することができた。机に向かって座った佐伯が、こちらを見つめている。無表情のまま、こちらに手を伸ばしてくる。 まさか、と思い心拍数が急激に上がる。罰ゲームの恐怖なのか、何かの期待なのかは分からない。襲い来る手のひらに対して反射的に頭を伏せると、「がさがさっ」と隣で大きな音がしただけで、手のひらは遠ざかっていった。佐伯の手の中には、さっきまで俺の隣にあったリップクリームが収まっていた。消火器程のサイズだったのに、佐伯は2本の指で軽々と支えている。 …佐伯は罰ゲームを無視し、普通に私物のリップクリームを使うつもりだ。 「………。」 佐伯は無言でリップクリームのふたを開け、唇に当てて塗り始めた。綺麗な色と形の唇がふに、ふに、とわずかに形を変えながら、リップクリームの動きを受け止める。…もし俺がリップクリームとして使われていたら。そんな想像をどうしてもしてしまう。体のどの部分を唇に押し付けられたのだろう。顔だろうか。足だろうか。それとも…。 そんな想像をしながら佐伯の顔を見る。無表情で何を考えているか分からないくせに、やたらと整ったその顔。二重でとろんとした目に、筋の通った鼻、綺麗な桃色の唇。ショートボブの黒髪はつやがあり、部屋の照明でキューティクルができている。 …何を後輩の顔をまじまじと見つめているのだろうか。別に、あんな無表情の女に惚れているわけではない。男子を人とも思ってい無さそうな態度に腹が立っているくらいだ。何故かそう言い聞かせる自分がいた。 唇の手入れを終えた佐伯が、ぞんざいな手つきでリップクリームをバッグにしまいに来る。「うわっ!!」ガサッ!とすぐ隣にリップクリームが押し込まれる。中にいる俺に気を遣わなさすぎである。先輩として抗議しようと顔を上げた途端、 「ジーーーー」 無慈悲にもチャックは閉じられたのだった。直感的に、明日佐伯がサークルに顔を出してバッグから俺を出すまではこのままだろうな、と感じた。 「……」 隣に押し込まれた、消火器程のサイズのリップクリームを見る。さっきまで、佐伯の唇に押し付けられていたリップクリームだ。…いやいや、さすがにそんなことはしない。ただの変態じゃないか。歳下の後輩の使用済みリップクリームなんて、興味がないこと甚だしい。…だが、この巨大なリップクリームのヘッド部分がどうなっているか見てみたい。うん、そこに興味があるのだ。少しだけ、見てみよう。 リップクリームのキャップを力を込めて外すと、半透明のヘッド部分が現れた。瞬間、さわやかなリップクリームの香りと、それに混じった唾液の匂いがあたりに充満した。予想以上に佐伯の存在感を感じ、思わず股間が反応する。「……。」ぴと、とヘッド部分に手のひらを当てる。ここに、あの唇が当たっていたのだ。 「………………。」 頭の中を様々な思考が駆け巡った後、我に返った俺はすぐさまキャップを元に戻し、バッグの中でリップクリームから距離を取った。こちらに無関心な女子に一人で性的興奮を覚えるほど、惨めなことはないだろう。頭の中の煩悩を振り払い、俺はバッグの固い底に体を横たえ、無理やり眠りについた。 ーーーーーーーーーーーー 「今日は美桜ちゃんの体登りゲームをしまーす♪」 「え……聞いてない……。」 「あはは…」 はつらつと、今日の企画を発表する三原と、露骨に嫌そうな顔をする佐伯。苦笑いしながらも楽しそうな船見。どれもよく見る表情だった。対する男子勢はサークルの主導権を完全に奪われ、苦笑いすらできずまごついていた。女子たちがサークルに来てから3日間、男子同士の会話も無くなっていた。常に意識が巨大な後輩たちに向いてしまうせいだ。 「美桜ちゃんに部屋の中央に立ってもらってー、先輩たちが頑張って体を登るの。頭のてっぺんまでついた人が優勝ね♪」 「ちょっと面白そうかも…でも結構簡単に登れちゃうんじゃない?」 そう言って船見は、膝に手を当てて足元の俺たちを覗きこむ。 「じゃあこういうのはどう?」 三原は用意していたかのように、小ぶりなスプレーを取り出す。その見た目にぎくりとする。縮小スプレー。人間のサイズを一時的に小さくするスプレーだ。犯罪者撃退用に女性の間で使われているものだが、もともと小さい男子に使うなど聞いたことが無い。 「チェックポイントにたどり着くたびに、ちょっとづつ小さくなるっていうルール。最後の方はこーんなに小さくなった先輩たちが、美桜ちゃんの顔を登ってくの。どう?」 親指と人差し指で小さな空間を作りながら、愉快そうに三原が提案する。 「わあ、それはかわいいかも♪先輩方、それでもいいですか?」 船見に丁寧な言葉で語りかけられると、嫌そうに拒否するわけにもいかない。俺を含めた男子達は曖昧に頷くしかなかった。 「私の意見は……無視……?」 あきれたような表情で佐伯がつぶやいた。 ーーーーーーーーーーーー 目の前に自動車サイズの素足。サンダルを脱いだ佐伯の足が、男子達を待ち受けている。 「よーい、どん!」 三原の掛け声とともに、男子達が一斉に佐伯の素足に手をかけ、登り始める。一応罰ゲームが怖いので、みんな本気だ。足の甲に上った男子が、足首に抱き着いて登り始める。後輩の素足にへばりついて登る先輩男子の姿は、客観的に見たらかなり滑稽だろう。 「ひゃっ、くすぐった…!」 突然足場がぐらぐらと揺れ、2人の男子が床に振り落とされる。足首にしがみついていた俺は無事だった。佐伯がもぞもぞと足を動かしただけで大変なことである。再び足が動かないうちに、俺は足首からふくらはぎに抱き着きながら登っていく。否応なしに、佐伯の肌に全身を密着させることになる。女の子の肌の感触と匂いをあらゆる神経で感じとらされる。ただのふくらはぎなのに、このサイズ差では何かこう生々しいのだ。 変な気持ちにならないうちに膝に到達し、さらにその上に手を伸ばす。広くきめこまかい肌に手が触れた瞬間、俺はあることに絶望した。ヘンな気持ちにならないのは絶対無理だ。膝の上の、太ももと呼ばれるエリアに入った瞬間に、こんなにも手触りが違うものだろうか。むに、むに、と手が沈み込み、掴みづらい。落ちそうになって必死で抱き着くと、顔が太ももの壁にむにゅう、と抱きしめられる。匂いもふくらはぎの時とはまた少し違い、女の子としての良い匂いがさらに強まっている。言葉を選ばなければ、この太ももエリアはあまりにもエロすぎる。あのぼーっとした後輩の体だとしても関係ない。…おもむろに佐伯の顔を思い出し、何故か股間がさらに元気になってしまう。何故だ…! 「ちょっ、本当にくすぐったい……!」 「美桜ちゃん、がまんがまん♪」 「この子だけ登るの早いね~」 しがみつく太ももがぷるぷると小刻みに震え、俺を無意識のうちに落とそうとする。全身太ももに密着させて耐える。そして佐伯がくすぐったさに慣れ、震えが止まった瞬間に俺はラストスパートをかけた。そしてついに、デニムのショートパンツの裾に手をかけることができた。 「よし…!」ここまできたら、あとは登りやすい。デニム生地をぐっ、ぐっ、と掴み、佐伯の右脚の付け根を登っていく。ショートパンツなので高さはそこまでない。すぐに、その上の白パーカーの裾に手をかけることができた。その瞬間だった。 ぷしゅうぅぅぅぅぅぅ……… 「!?」 あたりが一瞬で白い煙に包まれる。間違いない、三原が俺の後ろから縮小スプレーをかけたのだ。逃げようにも、佐伯のパーカーの裾にしがみついている俺にはどうすることもできなかった。ひたすら落ちないように、虫のように服にしがみつくしかなかった。 やがて白い煙が晴れ、上を見上げると… 「でっか…………!」 そこには、ビルのように巨大な佐伯の上半身が見えた。パーカーのふくらみで、佐伯の顔は見えない。ただ、何倍にも増したパーカーの面積が、その持ち主の巨大さを物語っていた。 「3cmくらいになったかな?じゃあ君は美桜の上半身ゾーン、スタート!」 「がんばれ~♪」 いや、無理だろこんなの…!あまりの高さに体の震えが止まらない。先ほどまでは落ちてもちょっと足が痛いくらいの高さだったが、今の佐伯の腰の高さはビルの4~5階ほどもあろうかという位置。今パーカーの裾から手を滑らせたら、まず助からないだろう。後ろで見物している女子2人が助けてくれる保障などどこにもなかった。 絶対下を見ないようにして、裾のさらに上へ手をかけようとする。しかし、パーカーの生地が思ったよりも滑らかで、上手く掴むことができない。 「裏地の方が登りやすいんじゃないですか?」 船見が気軽そうに提案してくる。 「え、入ってくるの…?気持ち悪いんだけど…。」 虫が服の中に入ってくるのを嫌がるかのように佐伯がつぶやく。が、落ちないように必死でそんな言葉もろくに聞こえていない俺は、パーカーの裏地に必死で手を伸ばす。ガシッ、と生地を掴むことができた。確かにこっちの方が登りやすい。 「ちょ…ほんとに入ってきちゃった…。」 佐伯のリアクションを努めて無視し、俺は佐伯のパーカーとTシャツの間に入り込み、上へと登っていく。この極限の状態では背に腹は代えられない。 (今美桜ちゃんをぎゅーってしたら、先輩つぶれちゃうのかなあ♪) (やめてあげてよ~。先輩頑張って登ってたんだし) 佐伯のパーカーの外から聞こえる後輩たちの言葉が、今の俺と温度感が違いすぎてゾッとする。こちらは命の危険を感じて震えながら登っているというのに。 パーカーの半分くらいの高さまで来ただろうか。佐伯の服の内側でこもった空気が熱を持ち、俺の体力を少しづつ奪ってくる。丁寧に洗濯されたパーカーから柔軟剤の良い香りがすると同時に、背後のTシャツから甘い匂いが漂ってくる。何気なく後ろを振り返ると、 「これが…佐伯の胸……なのか…?」 Tシャツの大きな2つの膨らみは、視界に一度に入りきらないほどだった。足元から見上げていた時はそこまで大きく見えなかったのに。いや、実際そんなには大きくないのだろうが、今の俺のサイズでは佐伯の胸は暴力的なまでに大きく見える。胸の重さだけで簡単につぶされてしまうだろう。 ハッと我に返り、再び一心不乱に登り始める。こんなところで胸に見とれていたら、力尽きて落下してしまう。後輩の胸の大きさに翻弄されて死ぬなんて、笑えなさすぎる。 ーーーーーーーーーーーー 「ぜえっ、ぜえっ、……」必死で佐伯のパーカーの裏地を上り詰めた俺は、佐伯の肩の上で息を切らして休んでいた。 「わあ、先頭の先輩が肩まで着いてる!」 「すごーい、体力あるんですね♪」 三原と船見の声の大きさに体がビクッと反応する。この高さまで上がってきたことで、女子たちの声の発生源にも近くなっているのだ。3cmにも満たない俺の体では、女子の遠慮ない声量は刺激が強すぎるみたいだ。 「じゃあ、最後はもう少しちっちゃくなろっか♪」 え……?嘘だろ…? ぷしゅうぅぅぅぅぅぅ……… 無慈悲にかけられたスプレーが、俺の体内に入り込んでくる。世界が膨張する。目もくらむような佐伯の高さが、さらに伸びていく。さらに小さくなる自分の体と世界の大きさのギャップに、自然に恐怖が倍増していく。 …気づくと、俺は運動場ほどもあろうかという佐伯の肩の上で呆然と佇んでいた。 「あ、ちょっとかけすぎたかも…。今5mmくらい?」 「千絵ちゃん、そんなに小さくしちゃったら、ここから上に登れないんじゃない?」 すごく遠くの方から声が出ているはずなのに、その音量は耳をつんざくような大きさ。必死で耳をふさいでガードする。声が大きすぎて、後輩たちが何を言っているのかはもはや聞き取れなかった。 「先輩、登れるところまで移動してあげるので、乗ってください」 「うわあぁぁぁぁ!!」 トレーラーのような大きさの肌色の物体が高速で近づいてきて、目の前にずん、と降ろされる。それが船見の小指の腹であることに気づくのに時間がかかった。これが、人の小指?振り下ろすだけで人を何人も潰してしまえそうな、この物体が? 「早く乗ってくださいよ~」 裏向けに差し出された巨大な小指が、ずん、ずん、とバウンドする。可愛らしく催促してるつもりなのかもしれないが、その動作は俺を恐怖で突き動かすには十分な迫力だった。機嫌を損ねると潰される。その恐怖一点に縛られ、必死で船見の小指に体をへばりつかせながら登った。 「じゃあ、案内しますね~♪」 上昇する船見の小指が、その上でしがみつく俺に莫大な重力を与える。景色が信じられないほど速く動き、気づけば目の前に肌色の壁が鎮座していた。これは、まさか佐伯の肌なのだろうか。 「はい、到着です~。先輩、そこから美桜ちゃんの顔にしがみつけますか?」 爆音で浴びせられる後輩の言葉に恐怖で従うしかなく、目の前の肌と思われる壁にしがみつく。途端、足場となっていた巨大な小指がどこか遠くへ離れていった。下の方に視線をやると、現実味のない高さが目に飛び込んできた。スカイツリーの外壁にしがみついているような状況だろうか。高度が高すぎて、万が一落ちたらどうなるのか想像すらできない。これが、立っているだけの後輩が生み出す高さとはにわかに信じがたい。 半ばやけくそ気味に、肌色の壁を登りはじめる。恐怖を通り越して、頭がぼーっとしている。耳鳴りがして他の音が聞こえづらい。爆音で女子たちの声を浴びせられたことで耳がおかしくなってしまったのかもしれない。 ふと、登っている壁がだんだんこちら側に反り返ってきていることに気づいた。肌をつかみ損ねたら地上まで真っ逆さまだ。しかし、躊躇すればするほど落下の危険性が高まると感じ、そのまま体を肌に張り付かせながら登っていく。そして反り返りが終了し、壁の色と質感が異なるゾーンに手をかけた。 うすうす気づいていたが、俺がいたのは佐伯の唇の真下のちょっとした反り返りだった。ということは、今俺はしがみついているのは、唇本体。高さだけで3階建ての建物くらいはありそうな巨大な唇は、この距離、サイズ感で見てもきめ細かく、瑞々しい桃色の唇だった。しっとりと濡れた唇からは、リップクリームの清涼感のある匂いと唾液の匂いが半々で混じった匂いが発せられ、空間を支配している。 前日佐伯の部屋で遠巻きに眺めていたあの綺麗な唇に、今全身でしがみついている。今佐伯が自分の唇を舌で何気なく舐めとれば、ゴミのように張り付く俺は簡単に口内に引きずり込まれるだろう。足場の下唇と頭上の上唇の間には少しだけ空間が空いており、その奥は暗闇で見えない。佐伯は普通に唇を閉じているつもりなのだろうが、今の俺のサイズでしか見えない隙間が空いていた。 見たこともない景色と倒錯的な状況。それに気を取られ、唾液によって少しづつ体が滑っていることにすぐには気が付かなかった。それも、唇の奥側に。 「お、落ちる…!」 慌てて手を伸ばして下唇の外側に這い出ようとするも、ずる、ずる、と全身が口内側に滑っていく。まるで食虫植物のように、這い出る俺を逃がさない。唾液で手を滑らせているうちに、下唇の角度が少しづつ急になっていく。「ひ、ひいっ…!」落ちるのを耐えられる角度の臨界点を超え、ずる、と足を滑らせたのが最後だった。全身を下唇に擦り付けながら、一気に落下する。2回から飛び降りたような衝撃を全身に浴び、転げまわり、固く白い壁にぶつかって停止する。それは、佐伯の巨大な歯であった。俺は、佐伯の下唇と下の歯の間の空間に落ちてしまったのだった。 ーーーーーーーーーーーー 「あれ…美桜の顔登ってた先輩、いなくなってない?」 「ふいおああ、おひひゃっはんはへお……」 「口の中落ちちゃったの!?出せそう?」 「……(フルフル)」 「無理そうか…変なとこ入っちゃってるのかな」 「舌で出して上げられればいいんだけど…」 ーーーーーーーーーーーー 「「口の中にいるせんぱーい、聞こえますかー?」」 狭くじめじめとした佐伯の口内で立ち往生していた俺は、外の世界からの声に気づいた。 「「自力で出られないんですよね?美桜が出してあげられるように、舌が届くところまで移動してもらっていいですかー?」」 舌。まさか、佐伯の舌のことか?先ほどから、歯を挟んで向こう側の空間に鎮座している巨大な肉の塊。味蕾のつぶつぶがはっきりと見えるほどの大きさの舌が、意思をもってうねうねと動くその様は単純に怖い、と感じる。あの舌に絡みつく唾液の量だけで簡単に窒息死させられるだろう。唾液の糸を引きながらぺちゃ、ぺちゃ、と口内でうごめく佐伯の舌には、本能が近寄るなと警告している。 しかし、既に自力で口内を脱出できるとは思えていなかった。口内から下唇を登ろうとしても、壁がぬるぬるでとても登れない。この巨人様の舌でどうにか出してもらわないと、そのうち不意に噛み潰されるか、舐め潰されるかして終わりだ。 佐伯の下の歯には、矮小な俺から見れば小さな隙間が空いていた。その隙間を何とか通り抜けて、歯の内側、佐伯の舌のテリトリー内に足を踏み入れた。瞬間、眼前いっぱいに広がる赤い肉の絨毯がうねったかと思うと、歯の根元にいる俺の方まで一気に近づいてきて、絶望的な質量が俺の全身に押し当てられた。 「………!!!!!」 熱い、と感じるほど熱を持った巨大な舌によって全身が圧迫され、空気が自然と吐き出されてしまう。だが圧迫感よりも俺に衝撃を与えたのは、その感触。ぬるぬる、ざりざり、一つの言葉では形容できないような、今まで感じたことのない感触が全身を包み込む。濃厚な唾液の匂いがむせかえり、全身の肌から佐伯の唾液が染み込んでくるような気さえしてくる。 にちゅちゅちゅ……… 巨大な舌が少し動けば、全身がその方向に引っ張られる。強制的に顔の向きを変えられ、首の骨が軋む。手足があらゆる方向に引っ張られ、あやつり人形のように好き勝手動かされる。「げほっげほっ!!」油断して開けた口にちょうど唾液の塊が飛び込み、しこたま飲んでしまう。佐伯の体液に内側から犯され始める。 何度も何度も、巨大な肉壁が俺の体を下から舐め上げ、持ち上げようとする。佐伯が舌を使って、歯の根元にいる俺を口の外へ出そうとしているのだ。しかし佐伯の唾液で全身がふやけた俺は上手く舌に引っかからない。そうこうしている間に、巨大な舌の上下運動は俺の小さな体にとって強すぎる刺激を与え始めていた。 にちゅっ、くちゅっ、にちゃっ、ちゅっ…♡ 「ぐっ、はぁっ、うぐっ………!!」 全身をくまなく舐め上げる巨大な舌は、下腹部にも等しく摩擦を与える。舌の動きによって股間があらぬ方向へねじ曲がっていく。舌の質量による圧迫と味蕾が擦れる刺激は、暴力的な愛撫となって快感を与えてくる。全身はぞりぞりと舐め上げられ、鳥肌が止まらない。 ぐちゅっ、にちゅっ、ちゅぱっ……♡ 「「「んんー………」」」 口内の小人がなかなか舌に引っかからないことに困惑する佐伯の声がこだまする。いらいらしてきたのか、少しづつ舌使いが荒くなっていく。 「やめ……お願い……」 逃げ場所のない快楽責めに加え、耐えがたい圧迫の苦しみ。誇張ではなく、巨大な舌に本当に舐め潰されるのではという恐怖に苛まれる。情けなくも涙が出てくるが、その涙も一瞬のうちに舐めとられ、唾液で塗り替えられていく。後輩の女の子に飴のようにねぶられ、このまま存在ごと溶かされていくような感覚に襲われる。全身から味を絞り出され、佐伯の舌を喜ばせるだけの存在となっていく。 気づくと、腰まで唾液の海に浸かっていた。「ひぃっ……」佐伯の舌は、俺を食べ物と認識しているみたいだった。みるみる分泌される唾液の中に全身沈められては、1秒後に引きずり出される。自分のタイミングで呼吸ができず、息も絶え絶えになってくる。 やがて…ようやく俺の体を捉えた佐伯の舌は、惨めな小人を舌先にくっつけたまま口内を上昇していった。舌先を少し上げただけでも、俺の視点では2階ほどの高さになって怖い。必死でしがみつく。しがみつくことで舌の表面と股間の間に摩擦が生じ、こんな状況でも気持ちいいと感じてしまう。快楽と恐怖に頭を支配されておかしくなった俺は、佐伯の舌に一心不乱に股間を擦りつけていた。と、そのとき、 「「「んーー………ごっくん♡」」」 佐伯の喉の奥のほうがとてつもなく大きな音を立てた。舌の裏に溜まっていた唾液を一気に飲み込んだのだ。それだけなのに、なんという迫力だろうか。人を何十人、何百人と飲み込めてしまいそうな喉が、大量の唾液を飲み込む瞬間。普段なら絶対に見ることのない光景を、女の子の口の中に入り込んで目の当たりにしている。何故、この光景に俺は興奮しているのだろうか。 「くっ、………!!」 後輩女子の舌先にへばりつきながら、射精した。佐伯の暖かな口内の空気に包み込まれ、俺は多幸感に浸っていたのだった。 ーーーーーーーーーーーー 「んえー……」 「あ、出てきた…。…うわっ、先輩よだれまみれじゃん。生きてるー?」 ティッシュの上に唾液ごと吐き出された俺は、体を痙攣させながら300倍女子が天空から発する声を聞いていた。 「もー、先輩が美桜ちゃんの唇に気を取られてるからですよー。」 佐伯の口内で死の危険すら感じていたというのに、あまりにも能天気な台詞。しかし腹が立つどころか、上空の後輩たちの巨大な姿と声の大きさに、謎の興奮すら覚えていた。 「先輩…なんか勃ってないですか…?」 「うわ……変態じゃん♡美桜の口の中で興奮してたの?」 船見と三原の、軽蔑しながらも楽しそうな声色が聞こえてくる。 「まあ先輩たちには休んでもらって、私たちで遊んどこ」 「待って…ちょっと口拭くから……」 ティッシュの上に吐き出された虫への興味が薄れたらしく、平然とトランプを始める巨大な後輩たち。ほっといてくれるならいいや、休憩しよう、と思ったのだが、そのトランプが地獄への始まりだった。 ーーーーーーーーーーーー 「うわ…負けた……」 「わーい、美桜の負けー♪罰ゲームは何にしようかな~」 「じゃあさ…」 三原のもったいぶった声が聞こえる。 「そこの変態さんを持ち帰って、家で10回イかせてこないとダメっていうのは?」 …え? 「えー…面倒くさいんだけど…。」 「ほらほら、この先輩は美桜の体に興奮してたんだから、簡単でしょ♪」 まさか、俺のことを言っているのだろうか。佐伯への罰ゲームなのに、俺の都合は全く考えられていなかった。 「わかった…。じゃあ、持ち帰るね」 やはり気だるそうな声色で、佐伯は俺が乗っているティッシュをくるくると丸めて、自分のバッグに放り込んだのだった。 ーーーーーーーーー続くーーーーーーーーーーー