XaiJu
myht
myht

fanbox


かしゅ

なんで、なんで、なんで、私ばっかり…




======================

今日は警報も鳴ることなく、実に平和な一日だったな。


司令官に頼まれた書簡を工廠に届けた帰り、渡り廊下で沈み始めた陽を見ながらそう思った。広い鎮守府は施設の行き帰りの移動だけでもそれなりの時間が掛かる。


私が提督室に着く頃、あのグズ司令官は仕事を終わらせているだろうか。

人に背中を突かれながらでないと中々仕事を片付けられないたちの彼だ、五分五分といったところだろう。

もし終えていたなら今日は定時で上がって一緒に夕餉にしよう。

その後は、…少しだけ甘えたい。ゆっくり、のんびりと。


………普段より少しだけ、歩くのが早くなっているのに気づいた。



………



提督室のドアを開けると、窓辺で遠くを見ながらお茶を啜る司令官の姿があった。

「あら、珍しいわね。今日はもうおしまい?」

「はは、今日は本当に何もなかったしな、書類の相手だけで済んだ。毎日こうありたいもんだ」

そのまま持っていた湯呑をくっと飲み干す。


「霞は終わったのか?」

「ええ、貴方のお使いで最後よ」

「そうか、ありがとう」


ちらりと時計を見やると定時まで後5分足らずだ

「ふむ、たまの定時だ。街の方に飯でも食べに…」

司令官がそう言いかけた時だ。

スピーカーに電気が走る。


「───秘書官の霞さん、工廠までお願いします。繰り返します、秘書官の霞さん、工廠まで──」


司令官と目が合うと、わざとらしく目をぱちくりさせておどけていた。

「ふー残念ね、少し残業みたい、行ってくるわね」

「工廠だったらさっき行った時に、ついでに言えば良かったのにな」

「本当ね。ふふ、嫌味の一つでも言ってやるわよ」

「…はは、程々にな」


これも仕事だ。仕方がない。

少し緩んでいた気持ちを切り替えて、先程の往来をまた戻る。

せめて文句の一つだけは言ってやろうと自然と早足になる。


………



平和な今日は鎮守府全体に作用した様で、工廠の殆どの整備員も定時で皆帰宅していた。

ドアが開きっぱなしの作業所にはいると、残っているのは3人だけのようだ。

脇の休憩所で缶コーヒーを片手に談笑していた。

会話の中心になっている男に話しかける。


「来たわよ、何かあったの?」

「あ、どーも霞サン、終業間際にわざわざすみません」

「それを言うなら、さっき来た時についでに言えば良かったでしょう?」

「あー…そうですねー……あーでも、どうでしょうかねー…」

「?」

へらへらとした笑顔を浮かべながら、どこか煮え切らない返答だ


「やー、なんというか…お仕事終わったあとの方が良いかと…」

そう言って男は他の二人に視線を送る。それを受けた二人は肩を竦めたり、苦笑を浮かべた。何なのだろうか。


「…で、用件は何なのよ?」

「…あー…………いやね、ちょっと聞きたい事がありまして」

そういうとポケットから携帯端末を取り出した。

男が携帯を開き操作をしながら、合間にこちらの顔をまじまじと見る。

機嫌を伺うような、もしくは値踏みをするような目線は正直不愉快だ。


「…で、なに?」

次に曖昧な返答をしたら容赦なく噛みつくぞ、そう言った雰囲気の怒気を少しだけ込めてもう一度尋ねた。

男は取り繕った笑いを浮かべ、観念したように操作していた携帯をこちらに向けた。



………



画面を見て、思考が停止する。



─────っ!!!!



止まった思考が再び開始されると同時に、男の携帯に手が伸びていた。

しかしその手は空を切る。

男が危ない危ないと行った様子で携帯を頭上に掲げる。

身長差があるので、そうされると携帯は奪えない。


「…それを寄越しなさいっ!!!」

今度は明確に、ありったけの怒気を込めて言った。

今すぐ噛みついてやろうか、そんな剣幕。


だが男は、先程と変わらないへらへらした態度だ。

「まぁまぁ霞サン、そんなに怒らないで下さいよ、落ち着いて落ち着いて」

こちらの怒りにたじろぐ様子は微塵もなく、むしろ逆撫でする余裕すら感じる。


「で、聞きたいんですけど。これって何してるんです?」

「………っ……!……何って……!」


言いたくなかった。

言う必要もない。

それが何をしてるかは、誰でも一目で分かるからだ。


「……っ………!」

言葉が出ない

状況が整理できない。

出てくるのは自然と目尻浮かぶ涙だけだ。


「そう睨まないで下さいよ、とりあえず最初の質問に答えてみましょー。…これ何してるんです?」

私の手の届かない範囲で、もう一度携帯画面をこちらに向ける。

そこには動画が流れていた。


「…っ…………何……って…………その……」

男は言葉こそ発さないが、とぼけた顔で首を傾げて答えるのをしつこく促してくる。



「……っ………セッ……クス……」

「お、ようやく答えてくれましたね、じゃ次、これ誰ですか?」

もう一度画面を見せてくるが、画面には目を向けず男の顔を睨む。


男が肩を竦めて視線を受け流す。

問い詰め続けるのを諦めたのか質問の仕方を変えてきた。

「……これ、霞サンですよね?」


「……っ…………そぅ………ょ……」

否定しても意味がない

どこからどう見ても私だ


「良かった、良かった!人違いじゃなくて…」

男が白々しく戯けるように続ける

「…で、本題なんですが、霞サンと致してるこちらの男性。どちら様ですか?…提督じゃないですよね」


「…………」


「…………」


無言のにらみ合いが続く。

…いや睨んでいるのは私だけだ。

埒が開かないと思ったのか先に折れたのは男だった。


「これ元帥ですよね。この間来てたお偉いさんでしょう?」

「…………」


そんなの聞かなくても動画を見れば分かる話だ。一体何がしたいのか。


「で、更にお聞きしますが、これって同意の上ですか?」

「………はぁ……!?」


誰が好き好んであんなクズとするか。

すぐに否定しようとして、思いとどまった。


なんとなくこの男のやりたい事が分かった気がして口をつぐむ。


男はわざとらしい胡散臭い笑顔を作ってから切り出した。

「…いやね、無理やり関係を強要されてるんなら、第三者からの通報で憲兵に突き出すことも出来るんじゃないかなーっと」


願ってもない。あんなクズ、法で裁けるなら一片残らずきれい消し飛ばしてもらいたい。

……けれど、それは出来ない。

「………」


「…なんだったら今からタレ込んで、しょっ引いてもらいましょうか?証拠になりそうな動画もありますし、」


「……………やめて…」


「……ふむ、ってことは強○じゃなくて、一応合意の上って事で良いですか?」


「………………えぇ」

答えて否定しなければ、すぐにでも通報に行きますと言わんばかりの勢いだ。


この段階でなんとなくこの男の落とし所が見えた、…いやこの男「達」の…か。


「…なるほど、じゃあこの動画については、もう聞くことは無いです。…が、お二人の関係って提督はご存知なんですか?」


「……………知るわけないでしょう」


「…でしょうね、提督の性格で仮に知っていたらとっくに元帥は豚箱でしょう」

男がまた笑顔を作る。


「…それとは全くの別件なんですが、うちの鎮守府の任務達成率や作戦成功率って、精々中の下くらいだと思うんですが、それからすると、予算や軍備が不自然に多い気がするんですよねー」


「…………」


「最初は提督が元帥の後輩って事で、パイプがあるから目をかけられてるのかなと思ってたんですが…」男のヘラヘラした笑顔は変わらない

「霞サンの方が”太いパイプ”で繋がられてたんですね」


「………」

下らない冗談に最初の怒りはとうに消え失せていた。


「…で、あんたは………いや、あんた達は………なにがしたい訳?」


要求される事は大凡予想がつく。


自分を売り、予算・軍費を得る私。

そして金で私を弄ぶクズ元帥。

言うなれば利害の一致した共犯。

この関係は司令官にバレない事が大前提の歪んだトライアングルだ。



蚊帳の外の第三者のこの男達からすれば、提督に密告しようが、憲兵に通報しようが、マスコミにタレ込もうが痛手は無い。


それをわざわざ私に言ってくる意味。

そして、黙っていて欲しい私が、差し出せるもの。


最初に、この男達を見た時のヘラヘラと歪んだ笑顔を思い出す。

…私を組み伏している時のあのクズと一緒だった。



かしゅ かしゅ かしゅ

Comments

犯される前の怒りと羞恥が混ざったような表情も良いですね! こういう表情が段々と出来なくなっていくと思うと今からそそります!

042


More Creators