「…なんだ、さっきから全然減ってないじゃないか」
そう言われて渋々、グラスに手を伸ばす。
「これれも、だいぶ…飲んでる、ほうですよ、普段はあまり飲まないですから」
少し呂律のあやしくなった口調でなんとか答えてから、グラスに口を付ける。
「……」
二口ほど飲んだフリをしてから、グラスをまた置こうかと思っていたが、口元に元帥の視線を感じ、やむを得ずそのまま全て飲み干す。
「…うむ、良い飲みっぷりだ」
満足気に頷きながら、自分のグラスを一息に飲み干して言う。
「君は昔から、酒はあまり強くなかったな」
「元帥と比べたら、誰だってそうれしょう…」
恩師であるこの人には、士官学校時代から皆飲まされて来たが、誰一人として最後まで付き合える者はなかった。
おそらく今日もそうなる事は、ぼやけてきた視界と思考で容易に予想できた。
もはや元帥の顔を見るよりも、机に突っ伏している時間の方が長い。
このまま酔いに任せて寝っ転がれたら、どんなに気持ちいいか。
そんな事を思っていると、横から声が掛かる。
「ねー、司令官顔が真っ赤っかだよぉ……だいじょうぶ?」
ふっと目だけで見やると、心配そうに覗き込んでくるのは、嫁の皐月だ。
なんとか返事をしようと口を開けた途端、胃から逆流してくる気配を感じ、机に突っ伏して必死に手のひらだけで「大丈夫」と返す。
「……もー、全然大丈夫じゃないじゃんかぁ」
「元帥さんも!司令官弱いんだから、あんま飲ませ過ぎちゃダメっていったでしょー?」
もはや顔を上げることも億劫で、耳だけで会話を聞く。
多分唇を尖らせているであろう皐月に対し、おそらく、肩をすくめているであろう元帥が言う。
「ふふ、久々に飲めるのが嬉しくてつい飲ませすぎてしまった。すまんね」
「もー」
「……それに、彼が潰れても君が相手をしてくれるのだろう?」
「……………もし、司令官が寝ちゃったらね」
何か変な間が、あった気がした。
……けれど、もうどうでもよかった。
まぶたは泥のように重く、もはや開ける気も起きない。
ふわふわと心地よい気だるさに、ぐにゃりと溶けた意識の縁で、何度か皐月に肩を揺すられた気がしたが、それを思い出したのは朝起きてからだった。
上司と部下の、よくある交流の一幕でした。