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鷲花葬
鷲花葬

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雨の記憶

嫌な気分になるほどの黒い天気だった。

空が泣いている。

激しい雨音しか聞こえない、そんな天気だ。

オレには十分な黒色をした傘を持って、扉を開けた。

傘に雨が跳ねる。

靴に雨水が染み込んでいく。

歩くたびに泥になった土が沈み、足跡に水溜まりができる。

自分は今、どんな顔をしているのだろう。

ちゃんと焦っている顔ができているのだろうか。

自分の不安を誤魔化すためにいつも笑い続けていたら、いつのまにか気味の悪い笑みが顔に張り付いてしまった。

でも、それでよかったのかもしれない。

もう醜態を晒したくないから。

あの人はいつも同じ場所にいる。

もう慣れてしまったこの暗闇を、ただ真っ直ぐあの人の元へ突き進む。

あんなに怯えていた暗闇が、何故か平気になった。

まあ、慣れたんだろうな。

トラウマを克服したわけではない。

無理矢理にでも慣れなければ、この先生きていけないからな。

…ああ。誰に話しかけているんだろう。

自分にだろうか。

そんなことを考えているうちに、あの人の姿が見えた。

彼は必ずここにいる。

天井が崩れ、白い花が咲き誇る教会に。

びしょびしょに濡れて、膝を抱え込んで座っていた。

「寒いだろ。帰ろう」

オレは彼に視線を合わせようと、しゃがんで話しかけた。

怖がらせないように、この場の雰囲気に合わない明るい態度で。

彼は顔を上げなかった。

彼がもう雨に打たれないように、もう一つ持ってきた傘をさす。

「風邪ひいちゃうよ〜」

無言の空気。雨音が強い。白い花は雨に濡れ、輝いているようにも見えた。

「…」

…そしてそのくすんだ金髪も、雨に濡れて美しく見えてしまった。

「アンタが大丈夫になるまで、オレもここにいるからさ」

彼が入るように傘を立てかけて、オレは立ち上がり煙草に火をつけようとする。

湿っているのかあまり火がつかなかったが、なんとか火をつけて口に咥えた。

空を見上げる。

泣いている。

この世界の雨は、どこから来ているのだろうか。

太陽が見えなくなったはずなのに、植物は完璧に育ち、獣は何事もなかったように過ごしている。

魔法の力だろうか。…この世界は知らないことがたくさんだな。

オレが不死身になったみたいに。

「…………ガル」

雨音でほとんどの音がかき消される中、僅かにそう聞こえた。

煙草の日を雨で消して、吸い殻をポケットに突っ込んだ。

オレはゆっくり彼に近づいて、またしゃがむ。

「大丈夫か?」

「……ごめん」

「…アンタが謝ることはないんじゃないかな」

彼は顔を上げないけど、本当にか細い声でそう呟いた。

オレに話しているのかもすら分からない。

「…立てない、んだ。縛られてるみたいに」

「そうか。ゆっくり行こう。焦る必要はない」

オレは彼の手にそっと触れた。

優しく出来ているだろうか?

怖がらせないように、ゆっくり手を繋ぐ。

「出来そうか?」

彼は顔を上げた。

酷い隈と、泣きすぎたのか赤く腫れている。

雨なのか涙なのか分からないほどに顔がぐしゃぐしゃに濡れていた。

「……ああ」

「じゃあ、焦らず行こう。オレが支えるからさ」

ゆっくり手を引っ張って、片方の手で彼の体を支える。

本当に、足が地面に張り付いているんじゃないかと思わせるほど、重そうな動きをしていた。

彼は小さく呻き声を上げながら、なんとか立ち上がった。

「……ごめん。また……来てもらって……」

「気にするなよ。お互い様だろ、こういうの」

手を離そうとすると、彼は弱々しく握り返した。

「…手を離すと、お前が消えそうだから」

どうした?と言う前に、彼は訳を話した。

こんな重い空気の中、オレは笑っているんだろうか。

自分がどんな顔をしているのかわからない。

「…じゃあ、このまま帰ろう。いつ化け物が出てくるか分からないからな」

「…」

彼は小さく頷いた。

傘を二つさすと邪魔そうだから、一つだけ傘をさして、二人で入る。

…ああ。なんだろうこれ。

まるで恋人同士みたいだ、と恥ずかしくなった。

「…ガル」

「なんだ?」

「ありがとう」

今度ははっきり聞こえた。

「…そう言われること、してないんだけどな」

独り言みたいに、そう呟いてしまった。

オレは何故か少しだけ寂しくなった。

雨が降り続く中、それからお互いずっと無言だった。

…彼がそっと手を離して、立ち止まった。

「…シア?どうかした?」

「…あの、さ」

声が震えていた。

「……こんなこと言いたくないけど…オレ……もう死ぬんだと思う」

「……」

突然の「死」という言葉に、体が酷く凍りついた。

「…オレは…死にたくないんじゃなくて…化け物になりたくないんだ。お前を……ガルを殺しそうで……」

「…。………ああ、アンタはそういう感じだったな」

自分の顔が引き攣っている気がする。

ああ、こんな時こそ笑って平常心を保たないと。

「……気がついたらいつもあの場所にいる。多分…お前から離れるためだと思う。もう死んでしまうから」

「……」

こういう時、どう返事したらいいのだろうか。


『なあ、ガル。もし腹の子が何か重要な決断をしようとしていたら、本人に任せてほしい』

『…随分と先の未来を話すんだな』

『……オレも、死ぬ気がしてね』

『………。約束するよ、エガ。アンタの頼み事だからね』


ああ、また、オレは守れないのか。

死別は慣れたはずなんだけどな。

「…こんな話してごめん。でも…いつか話しておこうと思ってた。……傷ついたよな」

「…オレのことはさ、気にしなくていいよ。……でも…」

また、オレのせいで死んでしまうから。

「…なんでもない。迷惑をかけそうだ」

ああ、今オレはどんな顔をしてる?

雨の記憶

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