鍵穴小噺 前編
Added 2022-12-24 05:30:00 +0000 UTC最近物騒で、空き巣の被害も増えている。 そんなことがテレビのニュースで流れていて。ふと、うちもどうにかしなくちゃなるまいと、うちの姉貴が言い始めた。 「うちの玄関、割と古いし。新しいのに買い替えましょう!」 「いや、そんな金ないでしょう。うちには」 「そうだぞ姉貴。現実を見てくれ」 もちろん、俺を含めた家族全員が、姉貴をなだめにかかった。が、どの程度でどうこうなるほど、うちの姉貴は弱くなかった。 「もういい! 誰も協力してくれないなら、私が何とかする。今時ネット通販を探れば、それっぽいものの一つや二つくらい……あった! モノに憑依できるペンダント! これさえあれば……」 「何をする気だ姉貴。悪いこと言わないからやめてくれ」 俺の懇願は、間違いなく心からのものだったが。 「ふんだ! この家の玄関が物騒なら、私が見張りにつけばいい、私が玄関のドアに憑依すれば、いつだって私という完璧な見張りがいるということになる!」 『……』 お前だってねるだろうとか、大学とかサークルとか旅行とかはどうするんだとか、言いたい文句を数えればきりがなかった。 それでも、 「任せなさい、私ならどうにでもできる! なぜなら私は、この家のことをよく考えているから!」 ……頭の悪い言葉選びに押し込まれて、もはやどうすることもできなくなっていた。 さて、そんな頭の悪い宣言から、少しだけ日がたった今。 堅苦しい前置きは嫌いなので、結果だけかいつまんで話そう。 モノに憑依できるうちの姉は、防犯イコール見張りだと信じて疑わない、ちょっぴり頭の残念な奴だ。今更だが。 だが、常人離れした行動力も持ち合わせているので、あれからすぐ、彼女は玄関への憑依を実行し、そして、見事やってのけたのだ。 え? めでたしめでたしじゃないかって? いやいや、ほら。 憑依はできたよ。憑依するところまでは。な。 『なあ、ほんとに元に戻れないのかよ』 (ううっ、だってぇ……) そのまま元に戻ることができず、早二日が立とうとしている。 「じゃあ、出かけてくるから、響,留守番頼んだわよ」 「おー。わかった」 両親の結婚記念日。それが今日。 だから、俺たち姉弟は、留守番をきちんとこなすのが習わしだ。 「じゃあ、頼んだぞ。言ってきます」 (んあっ、待って、そんな、挿れないで……ああん!) 鍵穴に鍵を差し込む。そして、回す。 (らめええっ! いやあああっ!) 卑猥な声が頭の中に響くが、仕方がないのだ。 何もしていないのに、謎の罪悪感を覚えた父親は、母親を連れて高級レストランへと出向く。 ……うん、帰ってくるまでには何とかしないといけないな。 (それでっ、どうしてこんなことに……っ、やあっ、やめ、そこはあっ……あんっ! やめ、響っ、かき回さないでぇ……お願いっ) 「やらしい声出さないでくれよ。複雑な気分になるから」 両親が出かけている間に、姉ちゃんの憑依を解除しなければならない。 基本的に時間経過で解ける姉ちゃんの憑依術だが、どういうわけか今回は戻らない。 だから、こういう時は俺が何とかしないといけないのだ。 先ほどから甘ったるい声が耳にまとわりつくが、あえて考えないようにして、ただただ無心で、俺は自分のやるべきことをする。 玄関に何らかの不調があって元に戻れないというのなら、玄関の不調を何とかすればいい。 どうせ古い玄関の扉だ。多少がたもきてるだろう。 (ひびきぃっ、そこ、もっと、もっと優しく、優しくしてぇぇっ……んああああっ、抜かないでぇっ!) 「……鍵を抜いただけだろ。どうしてそんな声出すかなあ」 「……切ないよう、寂しいよう、ああんっ、だ、だって、扉と精神が混ざってて、こうなっちゃうんだもん……ああっ、待って、今はまだ敏感で……あっ、くるっ、入ってくるっ……ひゃああああっ! い、いきなり入れないでぇっ……ああっ!」 扉がガタガタと震える。台風でも来たんじゃないかといわんばかりの乱れようだ。 ううむ。これは面倒くさいぞ。