最近のシェーバーはすごい 中編
Added 2022-08-27 04:00:00 +0000 UTC「なるほどな、これは確かに本物だ。中にボイスを仕込んだ形跡もないし。何よりスイッチを押すたびに……」 電源を入れると、ウインウインと内部の刃物が回転を始め、 (ああんっ、ちょ、や、やめなさいよ! そんな、殻で強引に押さないでっ、ううっ、ややめてようっ、あ、汗臭い手で触らないでぇっ……) 嗚咽と涙声が混ざったように聞こえる。客に媚びるような声でもないし、生々しい。 「……ほらよ、ウエットティッシュできちんと殺菌したし、臭くはないからこれでいいだろ」 (う、うん……ありがとう……ひどいこと言ってごめんなさい) なにより、ちょっぴりだけけいれんしながらそんな声が聞こえるのだから、おそらく仕掛けとは思えない。 「……ちなみに、このシェーバーは?」 声からして女子のようだが、それだけではいまいち彼女の人となりがわからない。まあ、聞いてどうするといわれればそこまでだが、うーん。 「……正直言って、ちょっぴり揺らいでる。俺がこのシェーバーを買えば、半年でこの子は元に戻れるんだろ?」 「はい、それは間違いありません」 なんでも、商品展示ならば二年間このまま。商品として購入されれば、半年で元に戻れるらしい。そうすれば俺は新しい商品を無料でもらえるので、損もないということだ。 「こちらの商品は……ああ。貧乏学生ですね。大学生で今年二十歳になるはずです。まあ、この仕事をする以上、浪人を覚悟してましたが……」 「……とりあえずこれ、買うよ」 (……っ!) 瞬間、うれしいような不安なような、そんな心が俺のほうにまで伝わってくる。 そりゃあそうだろう。 俺に買われるということは、俺に使われるということだ。二年間の拘束が半年に減るのはうれしいかもだけど、見知らぬ男に使われるとなれば、思うところはあるだろう。それこそ、水商売だ。 「まあ、本人も同意の上物品化してますし、お客様が気に病む必要はありませんよ?」 「……そうだな。ちなみに聞くが、ほかの商品は?」 一応だ。さすがに複数買う金はないが。せっかくだ。俺にできることをやっておこう。 「例えば、こちらの赤いシェーバーに関しましては、お金に困った人妻となっております」 「……なあ、お前らそういうの選別して人選してるだろ」 女子大生とか人妻とか、そういうの。明らかに男を釣るように作ってるな? 「そうですが、何か問題でも?」 「……ねえよ」 試しに手に取ってみる。ふむ、こちらは何というか、緊張というより、諦念の感情が伝わってきたような……えいっ 「ウインウインウインウイン……」 (ああんっ、ああっ、だめっ、私っ、ああっ、ああああっ……こんなの、私っ、ダメなのにっ、ああっ……おねがいですっ、もっと、もっと優しくっ……) 「こ、こうですか?」 (そ、そうですっ、ん、んんっ、ふぁああっ……わ、わたしっ、ものになってまで、こんないやらしいことになってっ、ああんっ!) なんだか俺が合わせているようだが、これで何となく雰囲気を理解した。 要するにこの店は、シェーバー専門店を名乗って入るが、その本質は風俗店に近いかもしれない。まあ、喘ぐ女子の姿こそ見えないので、意見が割れるところではあるが。 それでも俺が商品を棚に戻そうとすると、荒い息遣いとともにそんな声が聞こえてくる。 ……まあ、そうだよなあ。 二年とはいえ、人をやめなきゃいけないんだ。者扱いされて半年で済むなら、そっちのほうがいいだろう。それも、人妻なら、新しくやりたいこともあるのかもしれない。 ただ、質の悪いことに、俺には持ち合わせがないのだ。 (ああんっ、そ、そんなに強くっ、ダメ、何これっ、何、これええっ……変になっちゃうううっ……だめえっ、も、元に、戻してええっ……) 呼応するように、ほかの商品棚のシェーバーたちが、スイッチすら押していないのにウインウインとなり始める。 (んあっ、おねがいですっ! わたしをえらんでくださいっ、はああんっ!) (わ、わたし、もとにもどったらなんでもするからっ、お、おねがいっ) (もうモノとして時々いじられるのだけはやだああっ! おねがいっ、わたしをじゆうにしてっ、もう普通のOLに戻らせてっ!) (私っ、私にしてっ!) それぞれが、まるで快楽をかみつぶして、それでも必死に自分をアピールしてくる。 その必死さ。確かにほかの男たちのいろんなところに響くだろう。 ただ、何よりの問題として、全員助けるだけの金はないのだ。 「……ごめんなさい。さすがに全部は買えませんって」 『……』 スイッチが切れたのか、はたまた店員さんに一瞥されておとなしくなったのか、何の声も聞こえない。 「じゃあ、とりあえずこれを、買っていきますので」 「はい、お買い上げありがとうございます」 にこりと店員が笑う。うん、いい商売だ。これはすごく、罪悪感がすごい。 「……はあ、分かったよ。俺の契約先にこういうの好きそうな金持ちがいるから……清潔で丁寧そうなやつらに声かけて、買い占めてもらうよ……」 その声に、シェーバーたちの歓喜の声が聞こえて。 「宣伝、ありがとうございます」 そこまで計算していたのか、店員の笑みも、今までで一番だった。