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性欲の本質 ①

「ね、ねえ……健」 「ん?」 「……ちょっと、話し合わない?」 山崎志乃(やまざきしの)は、彼氏である健の部屋で、こう切り出した。 志乃の彼氏である健は、控えめに言っても優良物件と評価できる彼氏だった。 身長も180とちょっと、顔もイケメン。 ならば性格が悪いのかと言われればそんなこともない。活発なところはあれど、逆に言えば陰湿さのかけらもなく、困っている人がいれば助けてくれる、そんな人間だった。 そのうえで、彼女である自分を大切にしてくれる。浮気も一切しない。 彼女である志乃からしても、大変ありがたい彼氏である。 ……ただ、どこの世にも、完璧な人間など存在しない。 そんな誰もがうらやむような彼氏を連れてでさえ、話し合いの場を設けねばならぬ事情があった。 健の、たった一つの問題点について、何とかしなければと。 自分たちの今後のために、今日こそ切り出さねば、と。 真剣な表情で、正面から見据えたのである。 そして、 「……ねえ、男子高校生の性欲が強いのは分かるけど……このペースで、その、ずっと、致していくと、私の方も限界が近いというか……」 顔を真っ赤にしながらも、とぎれとぎれになりながらも、そう言い放ったのだった。 「ええと、これでも線引きは出来ると自負してたんだけどなあ」 健は、これでも場はわきまえている方だと思う。 やってはいけない場所、やるべきではない日。そういう時に文句の一つでも出たことはない。 「そこは理解してるわよ……あんたはそこのところ真面目だものね。いたわってくれるのはうれしいけど、私の言いたいことはそういうことじゃないわ」 「んん?」 よくわからないといった健に、志乃ははっきりと物申した。 「あんたの性欲、底なしなの……? どうしてあんたは毎日のように私を求めて、全く疲れないのよ……」 「い、いやあ、そりゃまあ、あはは……」 そう言われると、笑うしかないのが健。 「え、ええと、体力的につらいなら言ってくれればきちんと休むし、その辺は……」 「そういう問題じゃないの」 「……ええ?」 困惑する健。ある意味その困惑自体は正しいものだ。 セックスが多すぎて体がもたない、それが志乃の主張ならば、回数を抑えるというのは至極当然な帰結ともいえる。 しかし、志乃という彼女は、案外面倒くさかった。 「……べつに、身体が持たないってわけじゃないし。どうしてそんなに性欲旺盛なのかって、思っただけよ。それにね。ここであんたを休ませて、ほかの子に狙われるってのもちょっと……それも嫌。あんたのことだから浮気もしないんだろうけど、それでもなんか私が束縛してるみたいでちょっと……」 「……ん、なるほど」 しどろもどろで無茶苦茶な話運びではあったが、そこは彼氏。 志乃の言いたいことをなんとなくつかみ取って、ポンと手を叩く。 「要するに、だ。志乃は俺の性欲がちょっと強くて困ってる。ただ、彼女として理解したい気持ちもあるし、迷惑はかけたくない。と」 「……そういうことになるわね」 随分ときれいな言葉にまとめてくれた当たり、気遣いがうかがえる。 しいて言えば、性欲が強いのはちょっとじゃない。かなりという表現が正しい。それくらいだ。 「……だから、何とかしてほしいんじゃなくて、どうするのが二人にとっていいのかを……」 難しい話題だが、これからの二人のために考えたい、そう主張するつもりだったが、 「よし、分かった!」 ……できる彼氏である健は、ひらめいたように笑みを浮かべ、 「体がもたないという問題、俺の性欲を理解したいという問題。どちらも一度に解決できる。当然俺にも迷惑は掛からない。……もしそんな手があるというなら、やってみる?」 そういって、面白そうに提案したのである。 「入れ替わり……ああ、知ってるわ。友達もやってみたって。あのおまじない、本当に入れ替われるらしいわね……え、まって、それじゃあ、私が健になるの?」 「そうだよ」 「そうだよって……」 あっけらかんと言い放つ健に、必然的に困った顔を浮かべる志乃。 「あ、嫌だった? まあ、さすがに男の体になるわけだからなあ……」 「い、嫌ってわけじゃないわよ、あんたのことは信用してるし……」 ただ、当然ためらいはある。 志乃の友達も、彼氏と入れ替わって普段偉そうな彼氏をひいひい言わせてやったと、そんな自慢話がある程度はあったりするのだ。 男の快楽もいいものだと、友人は笑っていたが、正直怖い。 興味はあるけど、ちょっと恐れもある。 「うーん……」 「あはは、まあ、その気になったらためしてみるといいさ。一応俺、今晩ためしてみるから」 と、軽く笑って、この日はお開きになった。 入れ替わりのおまじない。それは、非常に簡単なものだ。 入れ替わる相手のことを頭にうかべて、不思議な絵の描かれた紙を枕の下において寝る。それだけだ。 なんでも、クラス内にいるらしい本物の魔法使いが広めているとかいないとか。学園内の七不思議である。 そして、今まさに眠りにつかんとする女子が一人。 「……よし、やってみよう」 怖いけれど、確かに好奇心もあるのだ。 志乃は、緊張しながらも、素直に意識を手放して、深い眠りについた。


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