良い石の日2022 前夜
Added 2022-11-13 14:16:05 +0000 UTC-1-
ピンポーン
「宅急便です。」
小包を手に、インターホンを押す。
それにしても立派な家だ。
広い庭に、綺麗な建物。
こんな家に住んでみたいな。
とはいえ、高卒で働いている自分には、縁遠い世界だ。
進学校に通っていたとはいえ、高3の時に同級生の彼女と生でして、子供ができてしまった。
それで、卒業と同時に結婚。
高卒で働き出した。
家には、まだまだ若く美人な妻と、可愛い盛りの娘が待っている。
子供と妻を養っていくために、某宅配便に勤める。
休日も働いた方が給料がいいから、日曜日と行っても宅配に出ている。
それでこれが夕方の荷物最後の宅配先。
疲れたけど、これを届ければ仕事は終わり。
早く帰って、可愛い妻と娘に癒されたい。
でも、帰ったらまずシャワー。汗臭いからね。
そんなことを考えていると、扉がガチャっと開く。
「出るの遅くなっちゃってごめんね。」
「あ、いえ、対して待っていな、えっ、あ、いえ、大丈夫です。ここにサインお願いします。」
出てきた若い男が全裸だったので思わずびっくりしてしまった。
しかもツルツルのちんこを勃起させているんだもの。
きっとしていた最中に訪ねてしまったのだろう。
悪いことをした。
「はい、サインしましたよ。」
「ありがとうございます。これ、お届けものです。」
「どうも。あと、これ。」
「はい?うっ、何・を・・・」
荷物を受け取った男が、俺の顔に小型のスプレーを噴射した。
それが顔面に直撃すると、体の力が急に入らなくなる。
膝を着き、手を着き、横たわる。
男が笑みを浮かべながら、「最初の一人目ゲット」と言った声を最後に、そこで俺の記憶が消失する。
-2-
すっかり暗くなっちゃったな。
試合終わった時はあんなに明るかったのに。
サッカーのJrユースに所属している俺は、普段電車で1時間かかるグランドに通って、サッカー三昧なの毎日を送っている。
そして今日は、県外のチームと対外試合。
その試合自体は、まだ日が登る16時くらいに終わったのだが、そこから解散場所となる普段のグランドに帰るのに2時間、乗り換えと電車移動で約1時間。
途中、ちょっと空腹で軽食を摘まむために寄り道したからもう20時だ。
ようやく家の最寄り駅まで着くことができた。
汗でベタベタのユニの上にジャージを着ているから、外見はマシだが、それを脱いだら当然汗臭い。
早く帰ってシャワーを浴びたい。
週末のこの時間は利用客が少ない駐輪場に行き、今朝止めた自分の自転車を探す。
まだここから家まで自転車で10分もかかるのだ。
「やっと見つけた。」
他に人気がないこの駐輪場で、明らかに見つけたとの言葉。
自分に声をかけられたのかと思い、声の主がいる後方へと視線を送る。
振り向くと突然、顔に何かが吹きかけられる。
なんか粟の花のような匂いがスプレー。
それを嗅ぐと、急に体に力が入らなくなった。
膝が崩れ、体はスプレーをかけてきた男にもたれかかる。
「なかなか見つからなかったから、時間が心配になったけど、ギリギリセーフだったな。時間がないから、今打つか。」
「おひ、はにふぉふる」
首に針が刺さった感覚。そして、すぐに冷たい何かが注入された気がする。
呂律が回らない口で尋ねるが何も答えが来ない。
「ん?まだ意識があったのか。まあいいか、すぐに意識がなくなる。さて、車に運ぶか。やっぱこれくらいの年齢の男の子はいい匂いがするなあ。」
力が全く入らず抵抗できない俺は、男に担がれ、運ばれる。
その過程で、俺は意識を手放した。
-3-
562、563、564・・・
日課の素振り。
夕方に日曜の稽古が終わり、夕飯食べ、再びまだ汗で湿り気のある道着に袖を通し、素振りを行う。
日に1000本。
それを目標に振る。
全ては県大会個人優勝のため。
今年の大会では、準決勝敗退。
僕を破った相手は、そのまま優勝して、全国大会でもベスト8まで行っている。
相手は、自分と同学年。中学から何度も県大会でぶつかり、一度も勝つことができていない相手。
それでも、県内で一番楽しい対戦相手として、ライバルだと言ってくれている。
だが、いや、だからこそ、一回でも勝ちたいのである。
もうチャンスは少ないかもしれない。
その少ないチャンスを生かすためにも、日々の稽古に精が出る。
流石に防具を全部つけての素振りはしないが、可能な限り竹刀を握る感覚をズラさないために汗が濃く染み込んだ小手を装着して、竹刀を握る。
「すみません。このホテル行きたいんですけど、道が分からなくて。教えてもらえませんか。」
家の庭で素振りをしていたら、敷地の外から若い二人の男性に声をかけられた。
自分の家の周りは、この時間になると人通りも少ないし、営業している店も少ない。
一応近くに有名な寺院があるため、観光で来る人もいるし、小さな旅館を営業されている。
だから、そこに行きたいのだろう。
そう思って、素振りを中断して、その男たちの元に近づく。
「汗臭くってすみません。とりあえず、行き先の名前か地図とか見せてもらえませんか?」
「匂いはそこまで気にならないよ。むしろ、せっかくの稽古中断させてごめんね。これだよ。」
差し出されたスマホを覗き込む。
だがそれがいけなかった。
その途端、何かを顔に吹きかけられた。
「なん・・・だ・・・」
疲れもあってか、一気に体に力が入らなくなって、その男に向かって倒れかかる。
「よし、これで最後の一人だ。なんとか間に合ったな。坊主に真面目に剣道に打ち込む男子高校生。可愛いし、いい匂いがする。」
「それにしても面倒だったな。2022年だから、22人の15歳から20歳の候補としてリストアップされた男子を、可能な限りユニフォームやら制服を着た状態で捕獲、例の薬を投与しろなんて。」
「金払いがいいからいいですけどね。」
「それに、無料で会場ご招待だから、端正な顔立ちと肉体の若い男子の無様な姿と末路を観れるのもいい。とりあえず、早く車で運んじまおうぜ。」
意識のない俺の体を持ち、男たちは車に乗り、走り去っていった。