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【先行公開】実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~ 10-7

 「同調開始……補機正常、主機出力臨界……いけます」


 「ええと、じゃあヒュペリオン2試験航行を開始します。フェイズ1、周辺安全確認」


 宗教的なイコンなどでゴテゴテと飾り付けられ、艦長席とオペレーター席が豪奢な宗教家仕様にガッツリ造り替えられ軍艦の一室とは思えなくなった第一CICにて、厳かにヒュペリオン2の稼働実験が始まった。


 ぶっちゃけ、前任者が見たら「何だコレ!! 何だコレ!!」とキレそうな勢いで飾り付けられた中央戦闘中枢は、熱信党の者達が祈祷に必要だと考えて行ったことなので、整備面でのアドバンテージがあるそうだから見逃してやって欲しい。


 私もぶっちゃけ軍艦のそこらから抹香の匂いがしたり、辻一個毎に機械聖教の紋章が掛かっているのは如何な物かと思うが、テラ16th由来の現実改変能力に影響があると考えると、軍規がどうこうと口出しするのはむしろナンセンスであろう。


 実際、その恩恵に全力で乗っかることを決めた私がケチを付ける権利はないのだし。


 「全警報発令。センサーに障害物なし。艦長、行けます」


 「りょ、了解」


 私が座る補助席の隣、提督や艦隊指揮官が座る一等大仰な席にねじ込まれたガラテアは、船のコントロールを行うコードが無数に生えたメインオペレーター席に座った――というよりも接続された――ヴァージニアから〝艦長〟と呼ばれて言葉を詰まらせた。


 まぁ、今まで一騎士に過ぎなかった彼女が急に戦闘団の次席指揮艦かつ、ヒュペリオン2の艦長だ。しかも、私の従兵として能く勤めたことをアウレリアに届けた勤怠評価から、勲二等として〝聖騎士位〟まで授かったとあらば、緊張は一入だろう。


 聖騎士とはマギウスギアナイトの敬称の一つで、授かったならば一代ではない爵位を得られる最上の栄誉称号であるらしく、晴れて彼女はダッジ家の四女から、現在選考中の空位貴族位を与えられることになったそうな。


 そして、箔を更に付けるため――騎士の活躍を喧伝せねば、市井に示しが付かなかったのだろう――ヒュペリオン2の試験航行も成功させて、その功績で更に昇進という手筈になっているとのこと。


 「ガラテア」


 「わ、分かってるよ。言葉は詰まらず、濁さず、明白に……」


 指揮官の心得をブツブツ呟く親愛なる我が騎士。私も下士官から尉官になった時は硬っ苦しく、同時に仕官らしく振る舞わねばとカチンコチンになっていたから、それ以上の大出世を遂げた彼女がこの様でも無理はない。


 むしろ、私が同じ立場に放り込まれたら、士官プロトコル抜きに堂々と振る舞える自身はないね。


 「ガラテア、緊急出港時は今の手順を一五分以内に終わらせないといけないから、そこら辺の訓練も忘れないようにな」


 「じゅ、一五分!? き、厳しいなぁ……」


 現在、天蓋聖都郊外に停泊しているヒュペリオン2は簡易修理と仮偽装を負え、数ヶ月後に迫った〝死の渓谷掃討作戦〟に向けての準備中だ。


 聖女から助祭に格下げとなったヴァージニアが一一一戦闘団配下となり、私の直卒となったため、ディドが動けなるような状況も考えて、船の航行に慣れさせる訓練を積むと同時、私が前線に出てヒュペリオン2のお守りまでやってられない状況を考慮しガラテアにも指揮を経験させて慣らしておきたかったのだ。


 まぁ、私達がいるときはディドとセレネに任せるつもりだけど、万が一は起こるからね。それに遠出する予定もあるのだし、お留守番組だけでキッチリやれるよう備えておくことは大事だ。


 後備役の分厚さは軍の継戦能力の高さであり、継戦能力こそが軍隊の強さに直結する。必ず一回の会戦に勝てても、そこで全力を出し切って追撃できないような軍隊は、どれだけ結果を出し続けようが最終勝利を掴むことは能わない。


 必要なのは連戦に次ぐ連戦に耐え、連敗してもすぐに立て直せる屈強な戦闘単位。何時如何なる戦況においても即座に再編成を終え、前線に舞い戻ることができる冗長性に秀でた軍隊こそが戦争を勝利に導く。


 なればこそ、我々は偏執的なまでに充足率と補給率、そして緊密に過ぎるほどの補給デポ網を重視するのである。


 「艦長、周辺要員退避完了。甲板上も人員はクリア。各機体係留完了いたしました」


 「了解。これよりフェーズ2に移行! ヒュペリオン2、抜錨!!」


 「了解。ヒュペリオン2、抜錨します」


 係留用の〝脚〟が半円形の底部に収納され、極大型抗重力ユニットに熱が入り船体が浮動する。


 そして、各所に設置されたスラスターが試験噴射を始め、船体が微動するが、高度な慣性制御機構によって乗っている我々に揺れが伝わることはなかった。


 まぁ、全速を出したら船の中身がシェイクされて無茶苦茶になりますってんじゃ使い物にならないからな。航宙艦ほどではないが、陸上戦艦にも感性相殺機構はちゃんと積んであるのだ。


 おかげで衛星軌道からの攻撃にバカバカ晒されながらの乱数回避機動中であっても、船内では踏ん張っていれば立っていることができるって訳よ。膨大なペイロードを誇るが故、贅沢な装備を満載できる大型艦特有の贅沢だ。コットス級だとこうはいかんからなぁ。


 「ではヴァージニアさ……助祭。経路に船体を乗せて進路七時方向微速前進」


 「進路七時方向微速前進、宜候」


 時速40kmの微速で船が動き始めると、この一大イベントを見ようと天蓋聖徒郊外にやってきた観衆が沸き立つのが方々に備えられた視覚素子を通じて見えた。茣蓙を敷いてお弁当まで持って、観劇にでも来たような風情だな。


 中には態々輿まで持ち込んで見に来ている貴族もいるようで、余程暇なのかと思ってしまう。


 いや、彼等にとっては神々の奇跡が形を持って動いているようなもんだから、時間をとって見に来る価値があるのだろう。暢気なものだと思いつつ、私は落ち着きがない様子で指揮官席に座ったガラテアが目を左右にぐりぐり動かしているのを眺めた。


 恐らく、視覚野に投影されたチェックリストや工程表、各部署から上がってくる報告を眺めるのに忙しいのだろう。もう少し慣れたら、目をここまで動かさなくても全てをチェックできるようになるのだけれど、やっぱり慣れるには時間が必要か。


 「えーと、出航して巡航速度に乗ったから……フェーズ3、直援機発艦! 飛行長!」


 「はっ、各機に伝達、直援機出します!!」


 熱信党の僧籍に復帰した司祭の一人、航空管制の任を受けた者がコンソールと直結している。その先には艦載機補助AIの領域があり、そこから各航空機に指示を出す形だ。


 本来ならば随伴しているコットス級やギュゲス級の仕事であるものの、それらはテミス11を残して全て消耗してしまったので仕方がない。


 いや、しかし既存のプロトコルを流用したが、壁艦がいない今、ヒュペリオン2が自分で面倒を見るために直援機発艦はフェーズ1にズラした方が良いかもしれないな。反省会の時に提案してみるとしよう。


 「101飛行隊から103飛行隊までを順次発艦!」


 航空機は披撃墜率が高いため高度に無人化が施されているため、そのまま運用している。ヴァージルは近寄ってくる巨竜を追い払うために近接格闘機を全て使い果たしてしまっていたが、それも工場で再生産できたので最低数だが充足できた。


 「直援隊各戦隊、発艦準備ヨロシ!」


 「各機、順次発艦!」


 「了解!」


 AI制御の無人機が飛び去っていく。画一的な動きが機動兵器操縦手の経験が鴨も良いところだなと囁いてくるが、質より数で圧殺する対空防護任務にはこれくらいの方が良いのだ。


 使い捨てても惜しくない駒を大量に。それでいて安価に調達する。そして、必要があれば遠隔操作で玄人を使う。人間を二四時間上空に貼り付けておくことは難しいので、これが黄道共和連合の編み出した一番効率の良いやり方である。


 ま、衛星補助や高度な電子戦装備がない今、長距離を無線操作で飛ばすのは無理だから、抗電子戦モードでスタンドアロンにしたAI任せにするしかないとも言えるのだが。


 「三個飛行隊、直援体制に入りました。通信連系良好!」


 「宜しい、フェーズ3完了を認む!」


 カチコチになっていたガラテアも少しずつ慣れてきたのか、肩の力を抜いて座席に体を預けられるようになっていた。さっきまでは常に前のめりだったから、良い傾向だ。


 「えーと、次……各砲座展開! 試験機動! 砲術長!」


 「はっ! 各砲座試験稼働開始!!」


 砲術長は熱信党のイェフダであった。


 この人事には彼の熱烈な希望が叶えられた結果であり、何でも始めてヒュペリオン2を見た時に500mm重対地砲を神が地上にもたらした神罰の具現であると考えたようで、何が何でも自分が操ってみたいとして熱信に希望用紙を提出してきた。


 砲術は非常に繊細な作業だ。計算に次ぐ計算、あらゆる数学と幾何学を同時並行して回してやっと命中する物であり、それは着弾地点に数百m規模のクレーターを生み出す500mm砲でも変わらない。


 この巨砲とて、直撃しなければ陸上巡洋艦ですら一撃轟沈とはいかないのだ。高度な電脳化を施す素養があり、算術への適性が高い人間を砲術長に据えるのは当然の人事であるため、ちょっと熱心すぎて怖いなぁと思ったけれど彼の就任に私は決済印を突いた。


 「試験稼働良好! 全ミサイルハッチ、及び砲座駆動確認!!」


 「よろしい。対空警戒を厳とせよ」


 各視覚素子から伝達される状況から見て、修繕された対空火器は万全に稼働していると見ていいだろう。高速連射が可能な速射レイルガン砲塔がグルグル回り、砲身が上下に可動。ミサイルハッチも試験的に開いていて常に火を吹ける状態にある。


 結構結構。本来なら出航前にやりそうな手順だが、高所にある砲台群は高速移動する際に風の影響を諸に受けるため、実際に稼働するかの点検は出港後にやった方が良い。溶接が甘くて捥げたりガタガタ揺れる砲が一気もないのは、ヒュペリオン2の自動整備能力の高さを褒めるべきか、指示書通りに動いて丁寧に仕事をした工兵隊を褒めるべきか甲乙付けがたい。


 「では最終フェーズ、演習機動用意!」


 「演習機動宜候。増速準備、船内警報発令」


 訓練の締めくくりは、予定航路上を蛇行、じくざぐ走行、急加速と減速を繰り返す戦闘機動の実験だ。


 これには内部要員も慣れておく必要があるため、陸戦要員から後方人員、あと宣伝してもらうための記者団も詰め込んでいる。


 ただ、この船の感性相殺機構にも限界があるので、全速力で乱数回避をやるとGを殺しきれなくて結構面白いことになる。具体的にはコーヒーサーバーの使用制限が出るくらいに。


 今後、竜の山脈を踏破するにあたって回避機動は日常的な物になるだろうから、皆になれておいて貰わないと困るし演習に組み込んだのだ。


 まぁ、それでも荒天時の船よりは揺れないから大丈夫だろう。念のため、各員にエチケット袋も配布しておいたし。


 しかし、普段感じる機会に乏しい横揺れに新規編入された新兵や予備役騎士は――アウレリアは正規騎士不足から、抽出できる人員はこんなものですと申し訳なさそうにしていた――かなり驚いたようで、転倒事故の報告が幾つか届いた。


 ったく、事前にあれほど体を固定しろと言ったのに……廊下にも部屋にもやたらめったら手摺りが備わっている意味をもうちょっと教えておくべきだったな。疑似重力が働いている航宙艦と違って真っ逆さまになることはないとはいえ、回避のため船体が大きく傾くこともあるんだから気を付けないと首の骨を折るぞ。


 これは再訓練が必要だなと考えながらも行程は順調に進み、聖都を一周し終えた後、ガラテアが顎から滴りかけた汗を拭うのが見えた。


 膨大な計算出力を誇る電算機に接続している圧もあるだろうが、大過なく訓練を終えることができた安堵が大きいのだろう。


 「さて、フィナーレだ」


 「そうだね……砲術長! 第二種式典砲弾装填!!」


 「式典砲弾装填宜候!!」


 「甲板要員総員退避! 各機収納!!」


 「甲板要員退避よろし! 係留機体格納完了!」


 これは訓練であると同時にパレードでもある。観衆が大勢やってくるだろうと事前に教えてくれていたアウレリアの助言を受け止めて、ちょっと派手な催しを用意してあるのだ。


 突貫で修復された重対地砲二門が重々しげに砲身を擡げ――私がぶっ壊したのは、派手にやり過ぎて内部機構の修理が間に合わなかった――何もない天を指向した。


 時刻はのんびり進んでいたこと、途中で着艦・収容訓練をやったこともあって夕暮れ。少し早いが、見えないこともないだろう。


 「主砲斉射三連! よぉい!」


 「斉射三連宜候! 通電完了! 暖機完了!」


 船体を通じて微かな振動がCICにまでやってくる。超大型縮退炉から捻り出される膨大な電力を通じて500mm重対地砲に熱が入り、砲身を包み込むコイルが磁場を生んで発砲する準備を終えたのだ。


 甲板上にいれば、旧人類が無防備に突っ立っていれば余波で内臓がぐちゃぐちゃになるだけの威力を発揮する砲が磁励音を立てて青白い光を放つ。


 仕度は整った。ヒュペリオン2最大の武装にして戦略的存在意義の一つ、〝ダインスレイヴ型重対地砲〟は艦長の号令一つで何時でも発砲可能な状態にある。


 ちらりと初々しくガラテアが私を見たので、一つ頷いてやった。


 まぁ、本当なら一々私に確認を取らないでやれるようになるための訓練なんだが、まだ第一回なのだし大目に見るとしよう。


 「てぇっ!!」


 震える声と共に重大砲が震え、あらゆる地上の恒久陣地を陳腐化させた砲が轟く。


 音の壁を割る凄まじい轟音。遮音力場を発生させていなければ数km離れていても鼓膜が破れかねない咆哮を上げて船体が一気に数m地面に沈み込んで、抗重力力場に押された地面に浅いクレーターが生み出された。


 瞬きの速度であっと言う間に高度数万に達した、やろうと思えば地上から衛星軌道も攻撃可能な砲弾が弾け飛び……鮮やかな彩りで咲いた。


 これは実包ではない。式典の終わりに観衆の目を楽しませるための花火だ。


 機械化人と数列自我は花火が大好きなんだ。機体が爆散する時の比喩ではなく、本物の花火が地球時代からの文化で染みついていて、義務教育期間中でも夏の風物詩として愛されていたから、ほぼ例外なく大好きだと言っても過言ではない。


 聖都の方々で式典砲弾が弾けて数秒遅れて到達する、腹の底から震えそうな音に聴衆が驚いていたが、やがて薄ら暗くなり始めた夕刻の空に咲いた華に歓声が上がる。


 主砲斉射による花火の打ち上げが三連続。一基につき九発、計一八発上がった夜空の花園を眺めつつ、CIC要員から力が抜けるのが分かった。


 全行程無事終了。お疲れ様。


 まだまだ反省会で見直すことは多いが、とりあえず動かせるようになったのだから、喜ばしいことだ…………。




【惑星探査補記】機械化人と数列自我は花火好き。これは義務教育期間のシミュレーター内で季節の催しとして夏祭りとセットで行われ、基底現実でも時間の経過を忘れさせないため行うこともあって大勢が親しんでいるからである。


 ただ、一部の歩兵経験がある兵士には重対地砲撃を思い起こさせることもあって、後から苦手になってしまうケースも多々見られる。




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