私こと、鈴川森繁は私立熊滝大学に勤める大学教授だ。文学部日本文学文化学科で妖怪文化の研究と講義を行い、僕のゼミでは「妖怪文化と土地の境界」というテーマで課外プロジェクト学習に取り組んできた。要約すると、日本の地域別に伝承されている妖怪を調べてその特徴から土着文化を知る、というものだ。内容が内容であるのでゼミ生の中には単なる旅行好きな学生も多いが、様々な視点から見えてくるものもあるので動機は問題ではない。 問題は、今の僕の状況にある。 僕は今、秋田県北秋田郡惣台村に来ている。授業のためではなく、怪異観測機関・東河寮からの調査任務としてだ。入りたくて入ったところではなく、『ここに入れば更に詳しい怪異に関する資料を読むことができる』という、探究心をくすぐるような長官の甘言に乗せられ籍を置く羽目になった。 だが、あくまで文化として興味があるけで、怪異そのものを目にしたいと思ったことはない。むしろ、おばけの類は苦手だ。突然流れるホラー映画のCMにも憤りを感じる程なのだ。 「完全に騙された」 「まだ言っているんですか、先生。別に騙されてはいないと思いますよ。こっちの人の『まっすぐ行ってすぐそこ』が、徒歩1時間だったというだけの話ですよー」 間延びした声で僕の独り言に返したのは、同じ東河寮でかつては僕の教え子でもあった中村清太君だ。学生の頃からの癖が抜けないのか、未だに僕のことを「先生」と呼んでいる。 「別にそのことを言ったわけじゃないんだけどな…」と小さく呟いて、改めて眼前に広がる景色を眺める。 季節は春も終わり頃だが、北日本ではこれからが春本番だといわんばかりの咲き誇った桜の木々が山々を染め、ピンク色の山に囲まれた盆地にその村はあった。 「まるで桃源郷みたいですねー」 「そうだね」 感嘆の息を漏らす中村君の言葉に頷く。 「呪いの村には見えませんねー」 「………」 今度は返事をしなかった。目の前の美しい景色に目を奪われたが、本来の目的を思い出したからだ。 この村に来た目的、それは惣台村を含めた5つの村が合併して1つの町になる話が進んでいる。だが、この村を除く他4つの村長が惣台村との合併に難色を示しているというのだ。曰く、「惣台村は呪われている」というのだ。詳しく聞いても的を得ず、仕方なく東河寮に依頼が来たというのが顛末だ。 「もし本当に呪いとかなら、境越祓所の担当じゃないの」 この話が回ってきたときからずっと文句を言ってきたが、中村君が「まあ、市町村合併が大元の話ですからねー」と答えるように、どうあがいても僕達が対処しなくてはいけないらしい。 「完全に騙されたよね…」 「まあまあ、先生。これも研究の一環だと思って」 リュック越しに背中を押され、僕は止めていた重い足をようやく動かした。 ● 「あ~、話は聞いてますよ」 のんびりとした口調でそう言って僕らを迎えたのは、惣台村の村長である夏井勉氏だ。通された村役場内の村長室で、古びた革製のソファに腰を掛け、僕は本題に入る。 「それで、どうなんですかね。この村が呪われているというのは…噂に過ぎないんでしょう?」 一刻も早くこの件を終わらせたかったのと、遠回しな物言いが苦手な僕は単刀直入に尋ねた。隣で中村君が非常識人を見るような目で僕に視線を送っているが気にしない。 僕の問いに夏井氏は困ったように笑い、「さあ、どうなんでしょうなぁ」と言って膝の上で両の手指を絡ませるように組んだ。 「この村では、妙な死人が出るんですよ。毎年」 村長が話した内容は事前情報として既に得ている情報だ。なぜ、惣台村が呪われた村と呼ばれているのか。それは、毎年必ず「奇妙な死に方」をする者が出るというのだ。だが村の外の人間は、奇妙な死に方とは具体的にどういうことなのか、なぜそのようなことが起きるのかは全く分からないのだという。原因の分からない奇妙な死に覆われたような村――それが、現在知りうる限りの惣台村の現状だった。 今こうして村長に確認をしても、その事実は確かだという。 「知事から聞いたんですが、鈴川さんは大学のお偉い先生なんですよね」 「確かに僕は大学で教鞭をとっていますが、教授になったばかりの若造ですよ。偉いことなんて全く」 「いや、先生もうオッサンでしょ。若造は無理ありますよ」 「うるさいな、僕らの世界じゃ40代はまだ小僧扱いなんだよ」 今年44歳を迎える僕の年齢は世間一般には壮年いや中年だろうが、老君が圧倒数席を占める学術会では僕のような者はひよっこ同然の扱いをされる。 それはそうと中村君、他の人がいる場ではもう少し言葉遣いを気をつけてほしい。大学卒業と同時に大学という独特の世界で教職に就いた僕は、世間一般の務め人よりかは常識に欠けているという自覚はあるが、それでもなぁ。 中村君の発言に顔を顰めていると、目の前の老人が楽しそうに笑っていた。視線が合うと「これは失礼。いやね、ここに学者先生がいらっしゃると聞いたもんだから私も期待してしまってね」と返された。 「期待、ですか…」 「ええ、はい」 そう言って、夏井氏は少し躊躇うように間を置き、握った両手にぎゅっと力を込めた。 「鈴川さん、呪いというのは本当にあるんですかね」 「ありますよ」 夏井氏の問いに、僕は間髪入れずに答える。 机の上に並べてある僕と中村君の名刺を指しながら、僕は講義を始めるような口調で語り始めた。 「僕ら怪異観測機関の前身は陰陽寮だったといわれています。夏井さん、『陰陽師』といわれてどんなイメージを持たれますか?」 呪いの存在を断言されて少しばかり面食らっていた様子の夏井氏は、僕の問いかけに我に返ったように思考を巡らせる。 「え、っと…そうですね。こう、不思議な呪文やお札を使って妖怪退治をしたり、呪い返しをしたり…」 身振り手振りでそう伝える夏井氏の言葉に、「まあ、そうですよねー」と相槌を打って中村君はお茶をすすった。 「でも実際の陰陽師は暦学や天文学を研究していたんでしょ」 「中村君の言葉は半分正解だね。元々の陰陽寮の仕事は確かにそうだった。だけど、奈良時代までは実際に国家機関の1つが呪禁道を専門に行っていたというよ。典薬寮というところなんだけどね。だけどそれが危険性を帯びたために典薬寮での呪禁道は禁止され、その知識を持った者達が半分は野に流れ、半分は陰陽寮に引き継がれたらしい」 僕はここで夏井氏の様子を窺った。中村君の横入れについ答える形になってしまい、話が脱線してしまったのだ。案の定、夏井氏は話の流れが読めずに困惑した様子だった。 「つまりですね、夏井さん。陰陽師が呪術専門の妖怪ハンターのようなイメージというのもある種の『呪い』なんですよ」 そう言って、僕は自分の頭を指さす。 「『呪い』の正体は”ここ”にあります」 「頭、ですか?」 「ええ、そうです。人は自分の脳が創り出す世界から逃げられないのですよ。それは自分が勝手に思い込んだり、周囲の情報によって思い込まされたりするものです」 「つまり、呪いの正体は”思い込み”だと?」 「思い込みであり、ときには罪悪感かもしれません。呪いというものが当たり前に信じられていた頃というのは、言うなれば誰でも簡単に人を呪えるほどポピュラーな手段だったんですよ。木簡、藁人形などがごろごろ発掘されていますからね。そして昔は医学的な知識が今より乏しかった。不調が起きたとき原因がよく分からず治療法も見つからない。もしかして自分を呪っている者がいるのかもしれない。心当たりがあるのはアイツか、それともコイツか…みたいな、ね。それが更にストレスを生む負のスパイラルの完成だ。つまり、自分の思い込みによって自分の身体に呪いをかけているんですね」 そこまで淡々と話し「…というのが、呪いの正体だとする学者の言い分です」と付け足した。 「『呪いなんて非科学的だ』とする研究者が、医学的または心理学的な側面から呪いを解体してやろうとしたんですよね。ですが、僕がいう呪いはこれのことじゃないです。呪いは、ありますよ」 「…そ、そうなんですか」 「どうしても、どんなに調べても、解明できない状況というのはあるんです」 怪異観測機関に所属し、嫌というほど見てきた。そして、この機関に所属する人間は誰もが呪いの存在を信じている。いや、「認知している」。なぜなら、その被害に必ず遭う『立場の人間』がいるからだ。 11日前、その報せは突然来た。境越祓所の長官が、”怪異による呪い”で死んだというのだ。僕の直属の上司ではないものの、他の部門にもよく顔を出す気さくで朗らかな性格の人だった。それほど接したことはないけれど、好感を持っていたし人として素晴らしいと尊敬していた。 訃報が届けられたとき、その場にいた同僚達は盛大に悲しむと同時に大いに落胆した。 曰く『彼ほどの人物でも駄目だったか』というのだ。 境越祓所は怪異狩りという異名を持つほど、怪異への処理が苛烈だった。それはその部門の特色というほかないのだが、自我のある怪異存在からすると目障りなことこの上ない。その長官というのは、まさに怨敵の親玉。それゆえに、境越祓所の長官は代替わりが激しい。一般的に見ると「謎の死」を遂げるのだ。 だが、僕達はその原因を知っている。歴代の彼らは、怪異によって命を絶たれたのだということを知っている。 僕は、呪いによって死んだ人を確かに知っているのだ。 だから、呪いはある。 だから嫌なのだ。だから怖いのだ。 この惣台村の呪いの正体とは、一体何であるのか。 「とはいえ、大体呪いとされているもののほとんどが、科学的根拠のあるものだったりするんですけどね。この村のものもそうであるといいですね」 僕は自分の願いを込めて早口に締め括った。中村君、その目で僕を見るのはやめたまえ。 「まあ、先生の希望的観測はどうでもいいんですけど」と、僕の心を見透かしたようなことを言って夏井氏に伺うように視線を向けた。 「でも実際、飲み水に毒素が含まれていたとか、そういうのは有り得ないですかねー?」 「それがですね、5年前に一度行政の調査が入ったんですよ」 夏井氏が言うには、あまりにも通年で不審死が多いために何か理由があるのではないかと、様々な分野の研究者を連れて県知事が調査をしたらしい。水質、土の成分、農作物から山々の植物や気候など、あらゆる角度から人間の身体に害を及ぼすものがないかを調べ尽くした。 「ですが、そのときには何もこれだという原因は見つからず…」 それで最後に知事が頼ったのが『非科学存在を専門に扱う機関』だったのだ。 「とにかく、調べてみましょうよ!ね!」 暗くなりそうだった雰囲気を打ち消すように、中村君が明るい声で場を仕切り始める。 「うん、そうだね」 「どうかよろしくお願いします。ここにある資料はご自由に見ていただいて構いませんので」 夏井氏が村長室の壁一面に並ぶ書棚を指した。 「ただ、村の者には呪いのことは言わないでください。過敏になっている人達もおりますので」 「聞き込みは一切駄目ですか?」 「全員がそうではありません。資料を見て気になる者がおりましたら、直接本人に尋ねずに私に一言頂けると助かります」 「分かりました。そうさせてもらいます」と、僕は答えて立ち上がった。 「では、さっそくここにある村史から読ませてもらいます。中村君は、こっちの死亡者リストを見て不審死した人の居住地に印付けて。はい、これ村の拡大地図」 僕達は目星をつけた資料だけを別室に運び込み、役場の閉館前に伺うといって村長室をあとにした。 ● 2時間後―― 「これは……またえらく無差別ですねー」 中村君は印を全て付け終わった地図を眺めながら、盛大に溜息を吐いた。彼がそう言うのももっともで、不審死した人達の住むエリアは規則性なく散らばっている。 「最初の不審死とされた人は誰か分かった?」 「えーっと……この人です。赤崎フキ、昭和20年10月4日死亡、死因は不明、享年16歳。…若いですねー」 「……昭和20年…、戦後0年か」 「うわぁ…、じゃあもう70年以上前からってことですか」 「72年前ね」 「はいはーい」と、僕の指摘に軽く返事をしながら中村君は「ちなみに村長さんっていくつでしたっけ」と尋ねてきた。 「夏井氏?確か、69歳だと聞いてるよ」 「じゃあ、村長さんが生まれる前かー」 当てが外れたというように息を吐いて、頭の後ろで手を組むと背もたれに寄りかかり窓の外を眺める。その切れ長の瞳に宿るものを見て、彼が何か不穏なことを考えているように僕には思えた。まさか、夏井氏に何か思うことでもあるのか。 中村君に問いかけようとしたとき、コンコンと軽いノック音が聞こえてそちらに反応する。僕が動くより先に軽やかな動きで立ち上がった中村君が「はーい」と言って、ドアを開くと夏井氏とその後ろに女性が1人立っていた。年の頃は20代前半といったところだろうか。 「すみません、作業のお邪魔じゃなかったですか?」 「いえ、どうしました?」と、僕もドア近くまで歩いて用件を尋ねる。 「彼女は佐藤陽子さんといって、うちの役場の事務員なのですが…お見せしたいものがあるとのことで」 そう言って紹介を受けた彼女は、緊張した面持ちで僕達と視線を合わせず深くお辞儀をした。 夏井氏が言うには、まずは役場の職員から協力を募ろうと僕達の来訪の意図を伝えたところ、過去に不審死に遭った友人の遺品を持っているので見せたいと名乗りを上げたのが彼女だった。一度自宅に遺品を取りに戻り、こうして持ってきてくれたのだと言う。 二人を部屋に通して、テーブルを挟んで向かい合うように座った。 「三浦希美ちゃんという子なんですけど、保育園からの幼馴染で…中学2年のときに突然亡くなったんです……」 彼女は俯きがちにそう言って「これ、彼女が亡くなる直前まで使っていた古文のノートです。彼女国語が得意で…私、テスト前に借りていたんですが、結局そのまま……」と、1冊の大学ノートを差し出した。彼女の両親に返しに行ったが、二人の仲の良さを知っていたので形見分けとしてそのまま貰ったというのだ。 「ありがとうございます。でも、このノートに何かあるんですか?」と尋ねながら、佐藤さんの正面に座っていた中村君がノートを受け取ってそのまま僕に手渡してきた。 中村君の問いに、佐藤さんは一瞬表情を固くした。その表情の変化に、僕はノートを開こうとした手を止める。 「あの、…その時はあまり気にしなかったんです。よく分からないことをノートに書くのって、ほら、誰にだってあるし……。それに、当時は辛くてあまり彼女の字を読むのも、無理で。でも、去年…希美ちゃんの七回忌で、私やっと思い出を振り返れるようになったから、ノートを読み返してみたんです。そうしたら、やっぱり、どうしても妙なことを書いてあって」 そう言って彼女が指さすノートを、僕はおそるおそる開く。パラパラとページを捲って見ているが、何の変哲もない古文のノートだと思った。途中から白紙のページが続き、ここまでが彼女の生きた時間なのだと偲ばれた。そうして捲る手を速めて最後にページを開くと、そこに鉛筆で書き込みがあった。 「つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」 在原業平の和歌が書き写されている。その文章に矢印を引っ張り『私もそう思う。』と書かれていた。 その文字の更に下には、何かを修正液で消したような跡が残っている。僕は、それが何と書かれてあるのか気になって、光に透かすようにノートを持ち上げて裏のページから文字を読み解こうとした。 「先生?」と僕の行動に、中村君が声を掛けてくる。 「待って…ああ、分かったぞ…夢、の、人…『夢の人を家で見た。ウソだよね。』って書いてあるね」 ノートを閉じて中村君に渡しながらそう話すと、彼女は先程より青白い顔をして小さく頷いた。 「私が当時変だと思ったのは…その、和歌を習った記憶がなかったからなんですけど」 「これ、どういう意味なんですか?」 「在原業平の詠んだとされる歌でね、訳すと『誰しもが最後に通る道とは以前から聞いていたけれど、まさか自分にとってのそれが昨日今日に差し迫ったものだとは思いもしなかった』といった意味だよ」 「『それ』とは…?」と、佐藤さんの隣にいた夏井氏が尋ねる。 「『死』です」 僕の答えに夏井氏は小さく驚いたように息をのみ、中村君は少し口端を引き攣らせた。佐藤さんは既に和歌の意味を自分で調べたのだろう。先程と同じ様子で、身を固くしたまま椅子に座っている。 「佐藤さん、聞いてもいいかな」と、僕は口を開く。 「…はい」と言って、佐藤さんはそっと顔を上げた。 「辛いことを思い出させて悪いけれど、その…三浦さんはどのような亡くなり方を?」 どう遠回りをしても聞かなければいけない内容だった。さすがに中村君も僕を咎めたりはしなかった。佐藤さんも、聞かれることだと予想していたのだろう。一拍の間を置いて、語り始めた。 「本当に、突然でした。その日は学校が休みで、一緒に図書館で勉強をしようと約束していて…それなのに、待ち合わせの場所に希美ちゃんは来なくて。それで家に行ったら、家の前に救急車とパトカーが止まってて…、私、怖くなってその場で立ち尽くしていたんです。そうしたら、向かいの家のおばさんが、希美ちゃんがベッドの上で死んでいたらしいって教えてくれたんです。それから、どうしたのか…あまりにもショックで、よく覚えてないんです。気付いたら、両親と一緒にお通夜に行って、希美ちゃんは、本当に眠っているみたいで……」 そこまで言うと、佐藤さんは堪え切れなくなったように瞳から涙を零した。隣に座っていた夏井氏が紺色のハンカチを彼女に差し出す。 「村長、すみません……。希美ちゃんのご両親も本当に理由を知らないそうなんです。寝る前まで元気そうだったし…遺体からはどうして彼女が亡くなったのか分からなかったって話していました」 ● ノートを佐藤さんに返し、協力のお礼を言って見送った。部屋にいるのが僕と中村君だけになるのを確認すると、僕は気になっていたことを尋ねる。 「中村君さ、なにか気になることでも出てきたの?」 「あー…えっと、ですね…」と思い出しように口を開くと、一度畳んだ地図を広げる。 「これ、見てくださいよ。ここ、村長さんの家ですよね」 中村君が指さすのは、この村への滞在中に宿泊させてもらう夏井氏の自宅だった。僕が是と答えると、中村君は死亡者リストのあるページを広げると僕に見せた。 「この二人、死亡者リストでは<事故死>ってなっているんですけど、二人とも住所が村長さんの家なんですよね。ご家族でしょうかね?苗字違うけど」 「本当だ…奥田悟さんと奥田千冬さん…か。でも死因が分かっているなら、今回の件とは関係ないんじゃないかな」 「やっぱそうですかねー。俺の気にし過ぎかぁ」 中村君はこの件についてそれ以上追求せず、元の作業を再開した。 「それにしても、『夢の人を家で見た』っていうのは、どういうことですかね?」 「………さあ…」と、答えた僕の脳裏には、亡くなった境越祓所の長官の顔が浮かんだ。 彼も、眠っているときに息を引き取った。 <episode 2に続く>