実話系の怪談を読んだり、人から聞いたりするたびに、いつも感じるのは
「事実は小説より奇なり」
ということです。
どんなに設定や物語構成を練って書いても、それは小説である限り、虚構の世界なのです。
それに対し、本当にあったことを素地にした民話や昔ばなしなど、
祖父母世代や父母世代から聞くような話には、
どこか教訓めいていて、そのときは怖くないと思っていても
ふとした瞬間に心の隙間に入り込んで恐怖心を呼び起こさせるような…
ふしぎで、理由がなく、道理がなく、どこにでもなくて、どこにでもありそうな…
昔ばなしや昔語りの怪談にはそういった「力」があるように感じます。
短くて、起承転結は無いけど、すっと頭に入ってくる情景。
私は幼い頃、アニメ日本昔ばなしシリーズの山姥の回がとても怖くて
今でも記憶に残っています。
泣いている幼子に、母親が注意をするのですが、子供はなかなか泣き止みません。
そんな子供に母親は「悪い子は山姥がきて食べてしまうからね」と脅かします。
それでも泣き止まないでいると、遠くから地響きのような音が聞こえてくるのです。
それは徐々にこちらに近付いて来るように、音が段々と大きくなります。
そして突如、大きな腕が子供を掴もうと床板を破って出てきたのです。
母親が咄嗟に我が子を抱きかかえて部屋の隅に逃げたため、子供は捕まらずに済みました。
母親は、「この子は悪い子じゃありません、この子は悪い子じゃありません」と何度も唱えるように言います。
そうすると、暫く何かを探すように彷徨っていた大きな腕は床から消え、
また音と共にどこかへ行ってしまう。
うろ覚えなので細部に違うところはあると思いますが、ざっとこのようなお話でした。
私は、この回を見たその時はそれほど怖いと感じていなかったのですが、
ある晩、なかなか寝付けなくてぐずっていた時に、
母から「早く寝ないと怖いものが来るよ」といったことを言われて、
あの山姥の話を思い出して、怖くなって布団の中で縮こまっていた記憶があります。
なぜか、窓の外を、大きな鬼のような怪物が、自分を探しに彷徨っているのだと、リアルに想像をしてしまいました。
昔ばなしはきっと昔から、このような作用で子供の恐怖心をうまく起こさせるようなものだったのではないかと、今になってふと思います。
私の周りがそうというだけで、実際は違うのかもしれませんが
東北出身の方は、小さい頃に祖父母や両親からそういった、「その土地に伝わる怪談」などを聞いている機会が他の地域の人より多いような気がします。
私は四国の生まれなのですが、祖父母からそういった怪談を聞いたことは一切ありません。最近になって、私がそういう話に興味がある事を知った両親から、市の歴史の資料本をもらって、伝説の項目を見たところ、ほぼ狸で構成されていました。
さすが四国。狸の本場!(笑)
何かの本で読んで…なんだったか今ちょっと思い出せないのですが、
東北にそういった怪談、特に神隠しなどの子供がいなくなる怪談が多いのは、
貧しい農村地帯が多く、昔は口減らしに子供を山奥に置き去りにしていたという過去があり…でもそういった事実を他の子供や、近所の人たちに言うことは出来ないので、「子供は妖怪に連れ去られた(食べられた)」といった妖怪伝説が多いのだと、読みました。
昔ばなしには、それが語られる「背景」がある場合が多いので、そういった歴史を読み解いていくことも、色々と学びや気付きになるなぁと、感じました。
稲川淳二氏は、怪談蒐集の為に日本全国を歩いておられるとのことで、
多くの話はそれそのものを語っても怖くはないけれど、たくさんの話を蒐集していると、ふと何かの線で散らばった話が繋がり、背景が見えて、ひとつの「物語」としてできあがることがある。それを、怪談として仕上げて語っているのだそうです。
小野不由美先生が書かれた、読者から寄せられた99話の怪談集『鬼談百景』の文庫本のあとがきにも、稲川先生が書かれていましたが…事実そのものの話は「怪談」として成立しないから、それを小説に仕上げるのは凄い苦労だったろう…とのことです。
それでも、事実を素地にした話は、とても短いものでしたが、いくつか本当にぞくっとする話が潜んでいて、ああ…やっぱり何かあるんだろうなぁと思わずにはいられません。
昔ばなしの怖い話なども、何かの「理由」があって、それを隠しに隠して、ひとつの「怪談」「妖怪」としてこの世に生まれているものなのかもしれません。
事実そのものは怖くないけれど、「怪談」になったときに、底知れない恐怖がそこに潜んでいる。
これは一体どういうことなんでしょうね。
「隠したものには何が宿るのか」
「隠したからこそ何かが宿るのか」
完全な作り話にはない、何かの怖さが、
事実を背景とした怪談にはあると、私は感じています。
いま書き始めたオリジナル小説の怪異旅は、
実際に日本全国を歩いて現地の人に現地の怪異譚を聴いて怪談をつくりあげる…
そのような自由なことが実際できない今の私が、精一杯想像を膨らませて書きたいと思ったものを要素として入れようとしています。
「どこかにありそう」「ふとした瞬間に、じんわりと怖くなる」
そんな昔ばなしのような雰囲気を描写できればと考えています。
いつか本当に、怪談蒐集旅ができるといいなぁ。