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虎白
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老齢の龍人と壮年の虎獣人 トラコイSS

寂れた木造住宅街の先に、その店は今もなお佇んでいる。

老齢の龍人が一人で切り盛りする大衆食堂。

閑古鳥が鳴いていようが、年中無休で店をあけている。

道楽のようなものだと本人は言っていたが、その真意はわからない。

ただ、別れの挨拶くらいはしておきたいと思い、俺はここにいる。



油染みの目立つ暖簾をくぐり、年季の入った木製の硝子戸をあけると

老齢の龍人は相も変わらず煙草を咥え、ぼんやりとテレビを見ていた。

「おっちゃん。飯、喰いに来たぜ」

俺は厨房が見渡せるカウンターに座り、ピッチャーに入った水を近くにあるコップに注いだ。

「久方振りじゃねぇかマサ坊。顔を見せてくれなくて寂しかったぜ」

軽口をたたくその姿はガキの頃から変わらない。

「1年振りだったかな……、あれから元気にしていたかい?」

「心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ。こちとら老後の生活を満喫してるっての」

元気そうで何よりだと呟くと、灰皿に煙草を押し付けた店主は厨房に向かい、

俺の注文を聞かずとも、まな板の上で鳥肉を器用に捌きはじめる。

「———あの坊主。あれから何度も食べにきてくれてるんだわ」

「へぇ、それは良かった。俺も紹介した甲斐があったな」

随分と他人行儀じゃねぇかと小言を挟みつつ、長箸でササミを湯がいている。

店主曰く、友人を連れて隔週で来ているらしい。

「大学で噂になっていたので来ましたとか抜かす坊主どもも、最近だと結構いるんだぜ。

笑っちゃうよなあ」

どういう噂をされているんだかとカラカラ笑っているが、内心嬉しいんだろう。

重量感のある尾がゆらゆらと揺れていた。

「やりがいのある老後で良かったね」

「まだまだ現役で頑張れってことなんだろうな。人生これからだって奴だ」

ドンっとカウンターの上にササミ丼が置かれていた。

「ほらよ、ササミ多めにしておいたぜ」



「ご馳走様」

これが最後に食べられるおっちゃんの飯だと思うと、感慨深いものがある。

ガキの頃からお世話になったんだ。一時居候をしたこともあった。

懐かしさがこみ上げてきて、席から立ちあがることが出来ない。

それだけこの空間は俺にとって本当に大切なものだった。

———あいつと共に生きてゆく覚悟をするまでは。

俺は札束が入った茶封筒を付け台の上にそっと置く。

「おっちゃん、何も言わずに受け取って欲しい。俺からの感謝の気持ちだから」

「……マサ坊」

「俺さ、第二の人生って奴を歩んでみたいなと思ってな。だからもう———」

ポンっと大きくてゴツゴツした手が俺の肩に触れた。

「幸せになれよ、応援してるぞ」

俺は目を瞑り、ありがとうと一言告げた。



老齢の龍人と壮年の虎獣人 トラコイSS

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