「ひぃ、ひぃ……」
7月も終わり、8月が目前となったうだるような暑さの中。傾いてるんだか傾いてないんだか、よくわからない逆道で、肩で息をしながら自転車を漕ぐ女がいた。名前は吾味人美。バーチャルインターネットラクガキマンとして活動しているVtuberの一人だ。
普段は空調の効いた部屋でWebカメラとダイナミックマイクを使い、Live2Dのアバターを動かしながら動画を収録し、編集を行ったあと全世界へと発信している彼女。だがそれは、吾味人美の構成要素の一部にすぎない。いや、むしろ割合で行ったら少ないくらいだ。なにせ彼女の生活の内、大半の時間は「ネットカフェのバイト店員」または「喰って寝るだけの引きこもり」という肩書だからだ。
「18時過ぎても全然日が落ちなくなったなあ、気分はこんなに落ち込んでるのに……」
そんなことを呟く彼女には一つの悩みごとがあった。それは息抜きとしてはじめたVtuber活動のこと。初めの頃はウケてもウケなくても良いか、と気軽に活動を行っていたが、最近では見る人も増えてきて決して小さくないプレッシャーを感じるようになっていた。そして何よりも、そんな活動を続ける中で「Vtuber以外の自分」とのギャップが大きくなりすぎてしまったからか、何をした後にも一抹の虚しさが心の底に積もるようになっていたのだ。
「楽しくない、わけじゃないんだけどな……」
ふと、水滴が顎から滴り落ちて衣服に染みを作る。この水分が汗腺から出たものか、涙腺から出たものか一瞬わからなかったが、どちらにせよこの坂はまだまだ続く。衣服に出来た染みから視線を切り、大きく息を吸って再度ペダルを回し始めた
「ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ……」
つづく
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