ー”ときつかい”の心情ー あたしがこの陰鬱な穴の中に閉じ込められてから暫く時間が経過していた。 あいつから、あの傲慢な管理者に担当が変わってから拘束状態も厳しくなり、全身を覆う拘束具は常に不快感を与えてくる。 定期的に投与される薬物の影響で時間を操れなくなり、今のあたしにはこの拘束具から逃れられる手立ては何もない。 どうしてこんな酷い状況になっちゃったか考えると、すぐにあいつの冴えない感じの顔が思い浮かぶ。 あいつに施設を辞めて欲しいと懇願したのに頑として聞き入れてはくれなかった。 なんて頑固者なのだろうか。 でも、きっとあたしも人のことは言えないと思う。 最初のうちに脱出しようと思えば自由になれていたのだから。 今となっては異能抑制剤のせいで息をするように扱えていた時間操作で時間を一秒たりとも操ることができない。 正直、自業自得である。 そのせいでこんな八方塞がりみたいな酷い状況に陥ってしまっているのだから。 『もう後戻りはできない』 だけど...きっと正攻法では彼の運命は変えることはできない。 そもそも、施設の奴らはあたしがその気になれば時間を操って何でも自分の好き放題にできると考えているんだろうけど、一部だけ例外がある。 仮に時間を操る異能を使って一時間後に事故で死ぬ人間を救おうとした場合、事前に事故に遭わないように行動を変更することで死亡回避ができる。 だけど、世の中には稀に死の結果を回避するのが困難な者たちがいる。 過去と未来に亘って膨大な他者の生死に関わっている者の運命を変えることは非常に困難になる。 おそらく、因果律や時間の強制力のような、本来あるべき世界の道筋から大きく逸れることを防ぐための『ルール』があるんだと思う。 あたしは知っている。彼の未来は今は閉ざされてしまっている。 もし、この異能があたしの願いを叶える為に神様が授けてくれた贈り物だとしたら、まさに運命だと思った。 彼を助ける。たとえその結果、世界が悪い方向に進んでしまうのだとしても。
idun
2023-04-01 23:15:03 +0000 UTC