ー悲劇の裏の話ー 男がエルシィに話していなかった事があった。 確かにエルシィが老婆の足を『トリヒキ』で直したことで死期が早まった結果として予定より早く残された財産を巡って争いが起き、その結果として死人が出て一人の子供が孤児となったのは事実である。 ただし、皆が不幸になったわけでもない。 エルシィが足を直した老婆はこの世に生を受けた時より先天的に足の機能が低く、そのせいで苦しい思いも沢山してきた。 ”もしも足がちゃんとしていれば” そう思ったことは一度や二度ではない。 足が悪いながらも精一杯に生きた人生も終盤に差し掛かった老婆は願いを叶えてくれる『悪魔』の存在を知った。 そして藁にも縋る思いで悪魔と『トリヒキ』した老婆の足は文字通りに生まれ変わった。 生まれ変わった足で自由に世界を歩けたことは彼女の生涯で最高の思い出となった。 今際の際に彼女は心の底からエルシィに感謝していた。 そして、もう一人救われた者がいる。 孤児となった子供の両親は彼を虐待しており、いつ殺されてもおかしくない環境であった。 皮肉なことだが強欲な両親が財産争いの結果、この世を去ったことにより彼の地獄のような生活は終わりを告げる。 更に不幸にも親戚にはたらい回しにされて引き取り手のいなかった彼であったが、その後に施設に引き取られて一時の安息を得る。 虐待されていた過去はその後の人生で彼に暗い影を落とすが、周囲の理解者から生きる希望を受け取り、後に逞しく成長して立派に巣立っていくこととなる。 もちろん、この二つの事柄については男も事前に調べ上げていたが、エルシィには絶対に伝えることは無いだろう。 彼の目的は『人造天使』を生み出すことであり、その為にはエルシィには絶望していてもらった方が都合が良いのだから。