【あらすじ】
工事現場でガテン系イケメン・足立雄也と出会った田村拓郎(僕)。田村はある能力を使い、足立との入れ替わりを試みる。足立の身体、記憶、性格のすべてを手に入れた田村は、足立として振る舞い、そして──。
***
「これがヤニ臭ぇってやつか。なかなか悪くねぇな」
僕はそう言って、初めて吸うタバコの味を楽しんだ。胃のなかに煙を充満させて、慣れた手つきで、親指と人差し指で支えて。鏡に映る新しい自分が、いやらしく、誰かに見せつけるようにしてニヤリと口元を緩めた。
*
「なぁ、あの店、今日可愛い新人ちゃんが入るみたいだぞ」
「お、まじ? 今夜絶対行こうぜ。オッパイでけぇかなー」
作業着で紺色のニッカポッカを履き、炎天下で汗まみれ泥まみれになっている、お世辞にも育ちが良いとは言えない日雇い労働の野郎たち。そんな現場で働く男の群れを、僕はずっと見つめていた。頭にキツく巻かれた白いタオルやギラギラと光るネックレス、その一つひとつが男臭くて、柄が悪くて、僕にとっては代えがたいごちそうの光景だ。
「おいそこダラダラしてんじゃねえ。お前、あっちな」
「うっす!!」
物陰で隠れていると、リーダー格らしいイケメン兄貴が現れた。短く金髪で、額にタオルを巻き、口髭と顎髭を生やしたやんちゃそうな兄貴。現場仕事らしく肩周りはムチッと筋肉質。年齢は30代後半くらいだろう。ガニ股歩きで、目つきが悪くオラついた雰囲気だ。
うん、決めた。ターゲットはあの男にしよう。僕は息をこらしてその時をじっと待ち続けた。
「よぅし、それじゃ、午後も長いから各自よく休んでおくよーに」
むさ苦しい汗を流す日焼けした男たちが、続々と休憩に入っていく。すかさず僕はその後を追いかけた。彼が一人になったところで、ついに声を掛けてみる。
「あの、お兄さん」
「あ?」
「よかったら、僕と、入れ替わってくれませんか?」
「入れ替わり? ……なんだ、そんなことか。もちろんいいぞ」
男は一瞬眉をしかめたが、すぐに表情は緩み、威圧感のある顔に爽やかな笑みを浮かべた。
「入れ替わるのにちょうど良い場所があるんだ。ちょっくらついて来い」
「はい、わかりました」
僕の特殊能力、それは好みの相手と、身体を自由に入れ替えられること。物心ついたときから、この人いいなぁ、この人みたいになりたいなぁと思っていたら、本当にその人になれるようになっていた。ちなみに今のこの身体──田村拓郎というサラリーマンの身体も、もともとは別の人のものだった。
「未練はねえが、いざとなると名残惜しいもんだなー」
男は僕を路地裏に連れ込むと、現場で鍛え上がった自身の肉体を見つめ、しみじみと言った。まるで、自分がいつか入れ替わることを以前から知っていたかのような言い草で。よくわからないが、昔から僕が入れ替わりを提案すると、相手は何も違和感を抱くことなく、自然なこととして受け入れてくれるのだ。
「でもまあ、一番気に入ってくれてる奴に使ってもらった方が、この身体も本望ってもんだからなッ。37年間、人生を共にしてきた身体と別れるのはなかなか寂しいが、その方が絶対いいってもんだ」
そう言って、僕より少し背の高いその男は、恍惚とした表情を浮かべ、そっと唇を重ねてきた。僕の顎をゴツい豆だらけの指でくいっと持ち上げ、舌を入れてくる。くちゃくちゃと音を立てる。今日初めて会ったばかりの、同性であるこの僕に。
「なあ、もう我慢の限界なんだが……そろそろイイか?」
「はい、お願いします」
男はニッカポッカを脱ぎ捨て、ケツを突き出してきた。日々の力仕事でプリッと引き締まったケツが僕の顔の前に無造作に突き出されると、僕はそのケツマンにチンポを連結させた。男の口ぶりはノリノリだったが、やはりこういった行為は不慣れなようでなかなかスムーズにいかない。少し痛そうな様子だったが、僕は構わず行為を続けた。
「あ〜。そろそろ、イキますね」
「ああ、容赦なくぶっ放してくれ!」
ガテン系兄貴のケツの中で大量の汁が放出されると、意識がプツッと途切れた。視点が変わる。これまで挿している側だったはずが、挿し込まれている側になる。腰を突き上げている状態が、ケツを突き出している状態になる。チンポから精液を放ったはずが、ケツマンに精液が勢いよく放たれている。
「ん〜......。あぁー......? どうやら、成功のようですね」
視界が定まると、僕は突き出ていたケツを引っ込め、豆だらけの厳つい両手を見つめた。顔の輪郭を撫でてみると、ザラザラと顎髭や口髭の感触がある。
「あれ、俺、ここで何して......って、なんだ、俺!?」
後ろで、僕の姿──というか、田村の姿をした男が、叫んだ。チンポを精液で濡らしたまま、仁王立ちをしている。事を終え、すでに我に返っているようだ。
「あなたのお望み通り、僕たちは入れ替わりに成功しました。今日からあなたは僕として、僕はあなたとして生きていきます。......うん、名前は足立雄也。雄臭くって、いい名前ですね」
「お、おい! どういうつもりだッ!?」
僕は、地面に乱暴に脱ぎ捨てられたニッカポッカを履きながら言った。汗と土の入り混じった現場特有のむさ苦しいニオイが衣服からも、自分自身の身体からもぷんぷん漂ってくる。
「記憶を読み取るんですよ。あなたの記憶、思考、仕草、話し方、すべて読み取ることができるんです......あー、あ゛ー、俺には15年連れ添った妻と小学生の娘がいるが、とっとと別れて、可愛い野郎どもとたっぷり遊んでやるからなッ」
僕は、足立雄也の低く男臭い声で、足立雄也の喋り方で言った。先ほどまで耳にしていた声が、自分の喉元から響き渡ってくるのは、いつもながら違和感があり、快感と興奮がある。そして、もともと足立だった男は、もともとの僕の身体で、激しい怒りをあらわにした。
「ふざけんじゃねえ!」
「あ、何言ってんだ? 思い出してみろ、お前は田村だろ?」
「は? 何言ってんだ、俺は......あれ、僕は......?」
眉間の皺がなくなり、表情が緩んでいく。
「とっととその服履けよ、気色わりい。田村拓郎さんよ」
「僕は、田村……拓郎。そうだ……です、けど、ここで何してたんだっけ? しばらく記憶が......あ、ごめんなさいッ!!」
もともと足立だった男は、急に顔を赤らめ、その顔や身体に似合った困惑した表情を浮かべ、慌ててその場から立ち去った。
僕は額に巻いたタオルを結び直す。
「ついにガテン系、手に入れちまったぜぇ。......にしても、前から思ってたが、同じ組みに確かイケメンいたよな。よし、早速声掛けてみっか!」
僕は、足立雄也の強面をにんまりとさせて、育ちの悪いガニ股歩きで、現場へと戻っていった。
<後編に続く>