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“奪”イーツ (1)

【あらすじ】

後藤裕斗(21)は、デリバリーのバイトに明け暮れている大学生。サッカー部に所属する彼にとって、それはトレーニングの一環でもあった。そんなある日、彼はデリバリー先で、不審な男に目を付けられる……。



===



「んん…!?」


裕斗が目を覚ますと、薄暗い部屋でイスに縛り付けられていた。手首はロープで固く結ばれ、身動きひとつ取ることができない。着用していたTシャツや短パンは脱がされ、アンダーウェア一枚という格好になっていた。


「おう、やっと目覚めたか」


背後から、聞き覚えのある男の声がした。


***


「お待たせしました!×××イーツです」


インターホン越しで、一人の青年が元気よく挨拶した。彼の名前は、後藤裕斗(ゆうと)。大学3年で、サッカー部に所属している。トレーニングも兼ねて、彼はフードデリバリーをアルバイトに選んでいた。街から街を、自転車で漕いで、漕いで、漕ぎまくる。おかげで脚の筋力は維持できるし、体力アップにもうってつけだ。シフト関係なく、好きなタイミングで働けるというのも、部活に打ち込む彼には好都合だった。


「お届け物です。こちらでお間違いありませんか?」


裕斗は額の汗を拭い取り、爽やかな笑顔を浮かべた。彼の魅力はなんといっても、その甘いマスク。一重だがはっきりとした目鼻立ち。黒髪短髪、スポーティな雰囲気で、誰から見ても好印象。サッカーの試合では、いつも黄色い声援を浴びていた。もちろん、デリバリーアプリでの評価も★5.0と人気が高い。


「ああ」


金髪の男が無愛想に答えた。その男は、目が腫れ、唇が厚く、耳や鼻にはシルバーのピアスがぶら下がっている。裕斗を見つめる鋭い目は、どこか狂気を感じさせるものがある。強い香水の匂いが、裕斗の鼻を刺激した。


「またお願いします!」


裕斗は一瞬表情を曇らせたが、すぐに立て直し、笑顔で答えた。何度もデリバリーをしていれば、中には少し気がおかしそうな客もいる。相手がヤクザであろうが誰だろうが、笑顔でさえいれば、しっかり評価は付いてくるのだ。


「失礼します」


玄関のドアが閉まると、裕斗は胸を撫でおろした。何事もなかった……。きっと何か危険な組織に属している男だろう。ただ、少しだけ不可解なことがあるなと感じた。あの男の部屋にちらりと目をやると、小さな人形のようなものがいくつも置かれていたのだ。どれも、人の形をしていた。デッサン用?まさか、あの男にそんな趣味があるとは思えない。それに、ドアを閉めたとき、あの男が少し口元をニヤつかせていたのも気になった。……恐らく、そんなことを考えていても、何も始まらない。彼は気を取り直して、再び次のデリバリーへと向かった。彼の鼻にこびりついた香水の匂いは、どれだけ風を切っても消し去ることができなかった。


「えぇ~そんなことがあったの、気持ちわるっ!」


ベッドの上で裕斗の彼女・亜美は声を荒げた。デリバリーを終えたその日、裕斗は彼女の家にやって来たのだ。大学で同じ学科、付き合ってまだ3カ月ほど。会うたびにセックスをするほど、二人の関係は盛り上がっていた。


「もう、そういうことがあるから、私は裕ちゃんが心配なの」


亜美はそう言い、裕斗の仕上がったカラダを抱きしめた。裕斗は甘いマスクに似合わず、体格は雄らしく逞しいカラダをしている。小学生の頃からずっとサッカーに打ち込み、ディフェンスとして活躍してきたのだ。もともと骨太ではあったが、大学に入ってからはジムでのトレーニングも取り入れて、今では胸板も厚く、肩幅もある。裕斗は、その太い腕で彼女のことを抱き締めた。


「大丈夫。俺は誰が相手でも負けねぇし、そのために鍛えてんだよ」


裕斗は亜美のやわらかく大きな乳輪を指でなぞった。


「んもう、祐ちゃんったら、そうやってすぐ」


若い二人は再びベッドを揺らした。


数週間後。その日は裕斗のデリバリーの日だった。もうすぐ彼女の亜美の誕生日。プレゼントを買うためにも、最近はいつもよりもバイトの数を増やしていた。さて、次の目的地は……と。裕斗がアプリを起動すると、配達先の住所が表示された。


「あれ、ここは……」


表示された住所は、見覚えのある文字の並びだった。一度届けたことがある住所だろうか。この時、もし彼がそのことを思い出し、デリバリーをキャンセルしていたら、きっとその後の人生を変えることができたかもしれない。しかし、その時の彼は思い出すことができなかった。色々な家を回っているのだ。なかなか住所と家を結びつけることはできない。


「あ……」


届け先に近づいたとき、彼はあの建物であることを思い出した。たしか、部屋番号も同じだ。ここまで来てしまった以上は、今さらキャンセルすることはできない……。裕斗は引き返すかどうか迷った。でも、実際にあの男からは何も被害を受けていないではないか。なにも、恐れる必要なんてないだろう。彼はそう思い改め、ゆっくりとインターホンを押した。


「お待たせしました!×××イーツです」


彼は明るく爽やかな笑顔で挨拶した。薄暗い部屋。そこから、あの男が姿を現した。目が腫れ、耳と鼻にピアスを刺した、金髪の男。


「お届け物です。こちらでお間違いないですか?」


男はフードに目もくれず、裕斗の顔を見てニヤニヤ笑った。どこか様子がおかしい。裕斗は身の危険を感じた。


「あぁ、ありがとうな」


ようやく男がフードに目を落とした。裕斗の表情は引き攣っていたが、なんとか笑顔を作り出した。あとは玄関のドアを閉めるだけ……その時だった。


「やっぱりお前にキメたわ。なぁ、ちょっとメシ付き合えよ」


金髪の男が口を開いた。


「え……あ」

「頼みすぎちまったんだよ。なぁ、少しくらい時間あるだろ?」


裕斗は言葉の意味が理解できなかった。お前にキメた?……この男とメシ?ここで逃げ出したら、この男から何か危害を受けるかもしれない。


「すいません。次のデリバリーもありますので」

「あ、お前、俺の言うこと聞けねぇのか?」


男の表情が曇った。まるで獲物を捕らえる野性的な目つきだ。ここは逃げ出したほうが良いか……。


『私は祐ちゃんが心配なの』


その時、裕斗は彼女である亜美のことが頭に浮かんだ。彼女のためにも、ここは男として、舐められるわけにはいかない。こんな細身の男、俺ならきっと。


「うるせえ、俺は次があるんだ……ん゛ッ!?」


突然、裕斗のカラダに電撃のような痛みが走った。力は抜け、意識が遠のいていく。


「お前……何を……」

「手荒なことはしたくなかったんだけどよぉ……ようこそ、新しい人形ちゃん」


玄関に倒れ込んだ裕斗のカラダを、金髪の男は見下ろしていた。



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“奪”イーツ (2)



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