私は今は基本的には商業誌といわれる「漫画雑誌」で漫画を描くことを生業としています。
そして超どうでも良いことなのですが、
私はアナログの作家でした。
「アナログ」とは
「実際の原稿用紙に」「ペンで描き」「シール状のトーンを貼り、仕上げ」「その原稿用紙を出版社に提出する」ことを意味してます。
なんでこんなにしっかり説明しようとしてるのかっていうと、漫画の書き方が人によって大きくことなるからです。
一言で「アナログ」と言っても、実際にはぜんぜん違う作業をしていたりもするんです。
(念の為、先にいいますが、私はアナログ派、デジタル派、という話をするわけではありません。本質的には私はどっちでもいいです。
ただ、私の作品を読んで「描き方」が気になっている人がいたら、私のすったもんだを教えることでなにか得られるんじゃないかと思ってこの記事を書いてます。
もっと言えば、私は本来グラフィックデザインやイラストをやっていたので、Photoshopは高校生の時から触っていましたし、どちらかというとアナログよりデジタルでの作業が得意です)
私は「漫画を描いてみよう!」と思ったとき、まず道具を揃える必要があると思い、会社の帰りに画材屋に寄り、「いくつかのつけペンのペン先」「サインペン」「原稿用紙」「トーン」など、目につく物すべて購入して、家で使ってみました。
ペンを使ったことのある方ならわかると思いますが、初めて金属のペン先をインクに浸し、紙に描いてみたときの「・・・すごい使いづらいけど、みんな本当にこの使い方をしてる?描きにくくない?」っていう感覚を、私も最初に経験しました。
でも頑張って原稿を描いてみて、出版社に送ってみて賞をいただいたのですが、そのとき、初めて「担当さん」という方が私につきました。
その方に最初に言われた言葉をしっかりと覚えてます。
「まだアナログの新人さんなんているんですね」
っていう言葉でした。
これは5年前くらいなのですが、すでに当時、ベテランさん以外の多くの新人さんはデジタルに移行していたのです。
私はそのまま、連載に至るまでアナログで仕事をしていましたが、連載中、どうしても作業を分割しなくてはいけなくなり、最後の「トーンの作業」だけデジタルで仕上げていくようになりました。
なぜアナログのままではだめだったのか。
その時の理由は、完全に「お金が足りない」ということと「時間が足りない」ということでした。
お金が足りない、というのは明快な話しです。
一つの連載、40ページくらいを30日くらいごとに提出するわけですが、毎月1万円以上のトーンを購入していました。
締切の前日の夜になると「トーンが残っているか」「残っていないなら、何時までにお店に行けばいいか」っていうことで少しノイローゼ気味になっちゃってました。
そして「時間が足りない」という理由を説明します。
上のビルの画像を見たらわかると思いますが、アナログでは、一度パースを決めて、描き始めると、ホワイトを使った「線の修正」はできても、パースや構図などは全くいじれません。あたりまえですけどね。
おかげで細心の注意を払い、大きなポカをしないよう下書きも丁寧にして、いざインクをつけていく際には背水の陣で挑む必要があります。失敗しても書き直す時間がないわけです。
ここでいう「大きなポカ」というのは「線はみだしちゃった!」みたいなものではなく「描いてみたらダサかった」という類いのものです。他にも「吹き出しの位置が変だった」とかですね。大幅な書き直しが必要になるので致命的です。
この作業で養われた技術、感覚もあると思います。それは「計画的な作画」「手癖に頼らない作画」とかですね。あと、線の太さ感は大きな収穫だと思います。デジタルだとなかなか線の太さの感覚を覚えづらい印象がありますが、アナログなら「0.05mm」がどれだけのカスレ感で印刷されるか、一本の線の入と抜き、それが何ミリから何ミリの幅で推移するものなのか、その出力の感覚が養われました。ただ当たり前ですが、それはデジタルでしっかり注意深く仕事をする人なら、アナログで学ぶまでもなく、デジタルで学べることですね。ただ私はアナログで学んだよって話しです。
そのメリットは完全に逆のことも言えます。
私は完全にアナログのときは、ペン入れが少し怖かったのです。
数年間、毎日ペン入れをしていても、いざ、本番の線を描く際には、緊張していました。
「キャラのペン入れはバッチリだけど、ここで背景が超ミスってたらおしまいだ」
っていう感覚がずっとつきまとって、毎日本当に怖かった。
仕上げをデジタルにすることで、いろいろ作業を分割し、いざとなったら戻れることが保証されているぶん、気が楽になりました。
そして気が楽になると、作業自体も軽快に進むようになりました。
仕上げをデジタルにしただけで、執筆は楽しくなり、線も少し生き生きとしていったことを覚えています。
上の画像はすべてアナログ作業のときの下書きからペン入れにかけての作業途中の原稿です。
シャーペンでできるだけ正確に下書きしたのち、
キャラクターは「Gペン(ゼブラ)」「丸ペン(立川)」で描き、
背景は「丸ペン(立川)」「ミリペン 0.03mm 0.05mm 0.1mm 0.3mm」「筆ペン」で描いていました。
ミリペンに関しては「かすれ気味のもの」と「しっかりインクが出るもの」の2パターンをそれぞれ準備して描きました。
すべてが万端でなければ描けませんでした。
しかし、その後、
「ペン入れまではアナログ→スキャン→仕上げはデジタル」
になり、
そこから
「ペン入れまではアナログ→スキャン→線画をデジタルで修正→デジタルで仕上げ」
となって行きます。
作業はどんどんスピードアップし、ストレスも減りました。
一人でも月産48ページまでは行けるようになり、少しの誤算ではぶれずに生産しつづける自信もつきました。
しかし、実際にはいろいろ問題が発生していました。
線をコントロールしなくなっていったのです。
上の画像はアナログでペン入れをした原稿、
そしてデジタルに取り込み、線を修正して仕上げを行ったものです。
よく見ると分かるのですが、女性のキャラの髪の毛、そして人物の作画の細部の線画をデジタルで描き直しています。
その際、手ブレをある程度制御するために「手ブレの補正」を行っているのですが、結果、線の軌道への注意はしていても「線の太さのコントロール」がおざなりになっていきました。締切に追われる生活でしたので、なかなか気づきからのフィードバックができなかったのも、とてももどかしかったです。
現在、私のような作家がすべてをアナログで執筆するには「作品性の大幅な変更」「複数人が同じ場所で作業できる作業環境」「潤沢な作業時間」のどれかを達成しなくてはいけないんですが、残念ながらすべてが難しかった。
この作品を、今ページ数の生産スピードで、執筆していくには、ある程度のデジタル化は避けられない。
結果、私は描き方をさらにカスタムしていくことになります。
(次回に続く)