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[Go, Occult Research Club!]イケ!オカケン第四話:Final Stage 「エピローグ」

夕焼けの光が差し込むオカルト研究部の部室。
窓から見える空は、まるで長い夢の終わりを告げるように、穏やかに赤く染まっていた。

島田は冷えたスポーツドリンクを手に、ぼんやりと空を見上げていた。

「それにしても、あのアイヴィーって悪魔……一体何だったんですか?」

島田が険しい顔で問いかける。彼の声には疑念とわずかな恐れが混じっていた。

お玉様がふうっとため息をつきながら答える。

「……あやつは自らを“魂の芸術家”と名乗っておる。己の欲望のままに、魂を練り、呪物を生み出し、あちこちに災厄を撒き散らして回る……迷惑極まりない女じゃ」

「芸術家……?」白銀先輩が眉をひそめる。

「 うむ。あの亡霊車も、遡りの指輪も、呪いの本も……すべては“作品”じゃと豪語しておる。素材は魂。とりわけ、未練や執念に満ちた“濃い魂”を好む……今回のように、“勝ちに執着する魂”などは、あやつにとっては上等な材料じゃろうて」

白銀先輩も腕を組みながら頷いた。

「つまり、彼女にとって涼子さんは、単なる素材ってわけね。自分の作品を完成させるための……」

「最低……」樹里がぽつりと呟いた。

だが、お玉様は静かに首を横に振る。

「ただし、あやつは完全な“悪”とは言い切れぬ。悪びれることなく契約を持ちかけ、代償を支払い、願いを叶える。契約が正しく成立しておる限り、裏切りはせぬ……それが悪魔のやり方じゃ」

「フェアってこと……?」島田が言う。

「そうじゃ。そして“フェア”である限り、こちらも覚悟をもって挑まねばならぬ」

「……つまり、アイヴィーは“ルールに従って”悪魔の仕事をしている。だけど、そのルール自体が、人間にとってはあまりに苛烈ってことね」

お玉様は静かに頷いた。

「その通りじゃ。ゆえに、あやつの力を利用しようとする者も後を絶たぬ。たとえ代償が魂であろうと、願いを叶えたいと強く願う者がいれば、契約は成立する。そして、その契約の末路がどうなろうとも……あやつはただ、それを“芸術”として楽しんでおる。そういう存在じゃ」

「……おぞましいけど、ある意味で筋は通ってるってわけね」樹里の声には苦味が滲んでいた。

確かに、アイヴィーが生み出した「遡りの指輪」がなければ、あの殺人犯が炎で裁かれることはなかったし、指輪の主だった少女の無念も、誰にも気づかれずに消えていたかもしれない。

何を代償に支払ったのかは知る由もないが…

島田は拳をぎゅっと握りしめた。

「でも……だからって、黙って見てるわけにはいかねぇだろ。誰かが止めなきゃ、また犠牲が出るじゃねぇか!」

お玉様は、その真っ直ぐな眼差しに応えるように、ゆっくりと頷いた。

「その意志がある限り、あやつとて容易には手出しできぬ。今回の一件で、おぬしたちは“見える者”として完全に覚醒したようじゃな。あやつが興味を持った時点で、すでにおぬしたちは“世界の裏側”の住人なのじゃよ」

そのとき、部室の扉がギィ、と静かに音を立てて開いた。

「こんにちは」

姿を現したのは蓮華だった。どこか晴れやかな表情が、その顔に浮かんでいる。

「……兄貴が、目を覚ましたの」

そう言って、蓮華はそっと微笑んだ。

「えっ、本当!?」
樹里が思わず身を乗り出す。

「うん。病院に行ったら、ちょうど目を覚ましたところだったの。お医者さんも驚いてたよ。それに、他の意識不明だった人たちも次々に目を覚まし始めてるって」

「そっか……よかったな」
島田がほっとしたように笑った。

「アイヴィーってやつ、負けを認めて魂を解放してくれたのかな。実は、根は悪いヤツじゃないのかも……なんてな」

島田の冗談めいた言葉に、お玉様が小さく首を振る。

「いいや、どうせ飽きて手放しただけじゃろう。悪魔とはそういうもの。“手に入れるほど、満足できなくなる”――あやつは、よう言っておったからな」

まるで家族や親友のように、その本質を知り尽くしているかのような口ぶりだった。
お玉様とアイヴィー――一体、かつて二人の間に何があったのだろうか。

その問いは誰の口からも語られず、ただ部室の空気に静かに溶けていった。

「これも、あの夜が終わったから、かな」

蓮華は自分の手の中にある“キー”を見つめながら呟く。
今はただの金属のかけらのように見えるそれに、どこか温かさを感じる。

「涼子さんの……魂の一部かもね」
樹里がそう呟くと、お玉様はふっと笑った。

「人の想いは、時にモノに宿る。鍵であれ、車であれ、想いがある限り“霊”になる資格はあるのじゃ、全てが呪物になるとは限らん」

蓮華が静かに頷いた。
「でも、もうあの子は成仏した。だから、これはきっと――彼女の“希望”の形なんだと思う」

そのとき、また扉がギィと音を立てて開いた。

「……やあ、みんな」

扉が静かに開き、フェンリルくんが姿を見せた。

その顔はどこか疲れ切っていて、制服の襟は乱れ、髪もわずかにボサボサだ。

部室の空気が一瞬で張りつめる。

「フェンリルくん……!」

樹里ちゃんが引きつった笑みを浮かべる。

――昨日。

意識がこん睡状態のフェンリルくんを半ば拉致同然で連れ歩き、魂を勝手に賭けさせ……

最後は言い訳もできずに病院へ突き出すという暴挙に出てしまったのだった。

「ふふ……みんなの顔を見ると、なんだか安心しますね」

フェンリルは柔らかく笑った。けれど、その目の奥にちらつく影が妙に不穏で、二人は息をのむ。

「ですが……あの夜、僕に一体何が起きたのでしょうか?」

島田はそそくさと視線を逸らす。背中に嫌な汗がにじむ。

「さ、さぁ? 記憶がないなら……きっと夢だったんじゃないかな~?」

「そ、そうそう! あるあるだよ! 疲れてると“幽霊が出た気がする”現象って!」

樹里が慌てて笑いながら話を逸らす。

だがその笑い声は、沈黙したフェンリルの視線にあっけなく呑まれていった。

「……夢、ですか」

かすかに口元をゆがめるフェンリル。

その微笑みが優しいのか、何かを知っているのか、誰にも判別できなかった。

フェンリルくんが穏やかながらも鋭い眼差しで皆を見回す中、白銀先輩が紅茶を差し出して言った。

「ま、とりあえず、おかえり。疲れてるなら、甘いものでも飲んで落ち着きなさい」

「ありがとうございます。どうやら、戻ってきてみれば……この部活は変わらず賑やかで、少々疲れますね」
フェンリルくんは苦笑しながら椅子に腰を下ろす。

笑い声が部室に広がった。
外の空は群青に染まり、静かに、確かに、次の日常が始まっていく。

――ワルハラ峠にまつわる騒動は、こうして幕を閉じた。
だがオカルト研究部に、静かな日は……まだ、遠い。

Comments

さあ、第4章はこれで終わりです! さらに大きな悪役が登場する準備が整ったように見えますが(それとも、彼女はただの気まぐれな自然の力なのでしょうか?) お疲れ様でした!

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