「皆さんこんばんは。今年もそろそろ夏の終わりとなりました。今夜は毎年恒例の『福男裸走り』の様子をたっぷりとお送りしていきます。スタジオからは私、アナウンサーの鈴木チナツがお送りいたします。解説には日本の祭りや伝統行事について詳しい鬼塚ツトム教授にお越しいただきました。先生、今日はどうぞよろしくお願いします」 「はい、よろしくお願いしますー」 「早速ですが、この『福男裸走り』の説明をしていきたいと思います。この伝統行事は江戸末期まで遡り、お盆の時期に合わせて豊作祈願や子宝祈願の目的で行われてきました。今日(こんにち)まで伝統は引き継がれており、毎年この時期になると日本各地から参加希望者が殺到する、とのことなんですが――先生」 「はいはーい」 「『福男裸走り』という名前の通り、男性しか参加できない行事ということは分かるんですが、それ以外にも幾つかの参加条件があるんですよね」 「はい、まず一つは四十歳未満であること。それと、もう一つは子供を授かっているということです。お若いパパさんしか『裸走り』には参加できないんですねー」 「それはまた、どうしてなんでしょう」 「まー、諸説あるんですがね、子孫を残す能力のある男性に限定したいというのが最も有力な説です。乱暴な言い方をすると、男として未熟な者や不能な者、そして旬を過ぎた者を省きたいと、そういうことですねー。子宝祈願も兼ねた行事ですから、致し方ないですね」 「今年は参加条件を満たし、その中でも選び抜かれた総勢四十名の方々が裸走りに参加されます。では、ここで中継に繋いでいこうと思いますが、その前に視聴者の皆さんには当番組について幾つか注意事項があります。まず、本日は番組中に男性器を含む男性の裸姿がモザイク修正無しで映ることが予想されます――お子さんや未成年の方のご視聴はお控えください。そして、本番組の映像や画像をSNSなどで拡散することは禁止されています。視聴者の皆さんには重ねてご理解とご協力をお願いいたします」 「お願いしまーす」 「では、現地に駆け付けている飴宮アナに繋いでみましょう。飴宮さーん!」 ・ ・ ・ 「はーい!アナウンサーの飴宮ソウタです!私は恒例の『福男裸走り』が行われる四ツ神神社にきています。今年は市から特別な許可をいただき、初となる境内からの中継でお送りします。まず、この様な格好で失礼いたします。古くからのシキタリで行事中は衣類を身に付けることは禁止されており、私含め、撮影班共々裸で撮影にあたっています。番組中に更なるお目汚しをしてしまうかもしれませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。 では、ここから『福男裸走り』の大まかな流れを説明していきます。まず、私の後ろをご覧ください。こちらの大きな鳥居から出発し、参加者は神社の敷地内を四周します。それを終えると次はこちらの参道を進み、奥に見える長い階段を本殿に向かって上ります。五百段を超える階段を駆け上がるのはかなりの体力を要し、裸走り最大の難所と言われています。しかし、本殿に着いて終わりではありません。福男になるためには本殿前で行われる『精尽(せいつい)の儀』をいち早く終える必要があります。こちらの儀式についてはスタジオのお二人から説明をしていただきましょう。鈴木さーん!」 ・ ・ ・ 「はい、では鬼塚先生に聞いていきましょう。ずばり、この『精尽の儀』とはどういった儀式なんでしょうか」 「はーい、この儀式では男たちが神様に生命力を授げる、という内容なんですが……言葉だけでは分かりにくいでしょうから、こちらの画像をご覧くださーい。こちらは去年の『精尽の儀』で撮られた写真です」 「えーと、面を被った四人の裸の……男性ですね、が仰向けで脚を持ち上げて、それぞれが四方を向いていますね。この体勢は……なんと言いますか……」 「――まぁ、俗にいうチンぐり返しというやつですかね。お尻の穴を突き出してますねー。彼らは神社で働く者たちなんですが、『精尽の儀』では生けるご神体の役割を担います。四ツ神神社では霊獣の四神を祀っており、この四人は玄武、朱雀、白虎、そして青龍を象徴しています」 「確かに、よく見るとお面にそれぞれの四神が描かれていますね」 「そうなんですねー。最後の儀式では男たちが四人のご神体に精を注ぎ込むことで、神様にその生命力を捧げます。端的に言うと、ご神体のお尻の中で射精をするんですねー。最初に授精ができた四人の男たちが今年の『福男』となり、むこう一年の幸運と繁栄を手にすると言われています。ちなみに、福男になれなくてもご神体に授精するのはとても縁起のいいこととされ、『精尽の儀』は参加者が授精を希望する限り続けられます」 「なるほど、大変よく分りました。こういった儀式は日本国内でも類を見ないと思いますが、少なからず抵抗感を持つ方もいるかと思います。そういった方々には、先生はどういった風に説明をしますか」 「うーん、難しいところですよねー。まず、私が強調したいのは、これはあくまで儀式であり、性行為ではないという事です。男の精液は古来より非常に神聖なものとされてきまして、昔は様々な祭りごとで用いることがありました。『精尽の儀』が特異に見えるのは、そういった祭事のほとんどが途絶えてしまったからなんですね。今の時代でもこのような儀式を行うのは、『福男裸走り』を正しく引き継いでいこうという地元の方々の強い意志の表れだと、皆さんにはご理解いただければと思いますー」 「地元の皆さんは今でも伝統を大事にされているんですね。とても感慨深いです。では、まだ裸走り開始まで時間がありますので、ここでいったんVTRをお見せしたいと思います。初めて『福男裸走り』に参加したのは五年前、それ以来参加を欠かさない一人の男性の思いを飴宮アナが取材してきました。では、VTRをどうぞ」 ・ ・ ・ 「彼の朝は早朝のランニングから始まります……」 『お早いですね……まだ六時前ですよ』 『いやぁ、毎日の事ですから』 『へぇ!毎日ですか』 「明け方のトレーニングを欠かさないこの方、『福男裸走り』常連の鯉山サブロウさんです。鯉山さんは過去五回の裸走りに参加しており、今年も福男になりたい一心で裸走りに挑みます。いったい何が彼をここまで駆り立てるのか。直接話を聞かせていただきました」 『鯉山さんが裸走りに参加されるのは、今年で六度目ということですが』 『はい』 『これまで「福男」になられとことは……』 『ないんですねぇ、これが、恥ずかしながら……』 『でも、去年はかなり惜しかったんですよね』 『そうなんですよ、ホントに後一歩だったんですが……』 「去年の裸走り、鯉山さんは見事一番乗りで『精尽の儀』に挑みました。しかし、授精に至る前に力尽き、敗退を余儀なくされました。柔らかい口調の裏に、今でもその悔しさは深く刻まれていました」 『今年は福男になれそうですか、鯉山さん』 『いやぁ、できることは全てやってきたつもりなので、後はお天道様に任せるしかないです』 『本番のために様々な訓練をされてこられたと聞きましたが、一体どんな訓練を?』 『まぁ、まずは体力作りですよね。毎朝の走り込みはもちろん、週三回は四ツ神神社の階段を駆け上がります。より本番を再現したいので、褌一丁、裸足でやります。さすがに全裸は無理ですから、ははっ』 『へぇ、かなりハードですよね。それは一年通してずっとですか』 『はい、雨の日も風の日も、欠かさずやります。今では神社の職員方に顔を覚えられてしまいました』 「準備に抜かりのない鯉山さん。しかし、真面目な彼には意外と大胆な面も……」 『他にはどういった訓練を』 『うーん、これは訓練と言っていいのか分からないんですが、ゲイ向けの風俗にも何度か通いました』 『ほ、ほー……それはまたどうしてですか』 『やっぱり福男になりたいなら体力と同じぐらい精神力も鍛えなきゃいけないんですよね。去年は慣れない行為に気持ちが折れてしまい、心身ともに萎えてしまいました。次はそういう事がないよう、男性の中に授精する感覚を身に染み込ませてきました』 『非常にストイックなんですね。なにが鯉山さんをそこまで駆り立てるんでしょう』 『んー……実は、僕が裸走りを始めるきっかけは妻の病だったんです。発症当時はかなり深刻な状態で、少しでも神頼みができればと福男を目指して参加しました。その時は福男には遠く及びませんでしたが、それから少しずつ妻の病状は良くなり、今では完治してピンピンしてます。回復はもちろん医療機関の皆様や妻の辛抱の賜物だとは思いますが、それでも僕は四神様にお世話になった気がしたんですね。なので、僕は裸走りを通じて四神様に少しでも恩返しができればと思ってるんです。それで、いざ参加するのなら、全身全霊で挑まなければ失礼にあたるので、毎年福男になるために頑張らせていただいてます』 「福男を目指すのは自分のためではなく、あくまでも神への恩返し。鯉山さんの謙虚な心構えが彼の強さの源なのでしょうか」 『では、ご家族の方は鯉山さんの挑戦をどう見ていらっしゃいますか』 『いやぁ、ははっ、正直大手を振って応援、とはいきませんね。妻の方はある程度理解してくれていますが、ゲイ風俗に通うことには大反対で、顔も合わせてくれない時期がありましたね。中学生の娘に至っては恥ずかしいのでやめてくれと言われますけど、まぁ、もう少し大きくなったら分かってくれると信じています』 『それでも裸走りにかける思いは変わらないと』 『そうですね。ただ、最近ではご近所さんから応援の言葉をいただいたり――そうそう!この前お相手していただいた風俗の方なんですが、彼の父親が過去に福男になったことがあったりと、裸走りを通じて色んな縁を感じていますね。四神様だけじゃなく、色んな人に支えられていると実感しています』 『鯉山さんも多くの方々の心の励みになっていると思いますよ』 『そう、なんでしょうかね……』 『我々も鯉山さんのことを応援していますので、今年も「福男裸走り」、どうぞ頑張ってください!』 『ありがとうございます!誠心誠意、全力で挑みます!』 「取材が終了すると、鯉山さんは再びランニングに戻り、明け方の薄暗闇に消えていきました……」 ・ ・ ・ 「……はい、VTRご覧いただきました。取材を受けてくださった鯉山さん、とても穏やかな方でしたが、裸走りにかける思いは人一倍強いと感じました。やはりこの行事は、多くの方々にとって心の拠り所になっているんですね。鬼塚先生はどうご覧になられましたか」 「いやぁー、まだお若いのに、ここまで真摯に伝統と向き合ってくれるというのは大変喜ばしいことですよねー。まぁね、色々と言う人はいるとは思いますがね、彼にはこのまま自分の意志を貫いてほしいと思いますねー」 「本当にそうですよね。では、そろそろ裸走りが始まる頃かと思いますので、再び中継に繋げてみましょう。飴宮さーん!」 ・ ・ ・ 「はーい!こちら四ツ神神社では着々と準備が進み、恒例の裸走り開始まで残り時間わずかとなりました。あちらをご覧ください――参加者の皆さんが鳥居の後ろに並び、スタートの合図を待っています。夜でもまだ暑いこの時期、裸の男たちは全身汗ばんでいます」 『飴宮さん、飴宮さーん』 「はーい、なんでしょう鈴木さん!」 『参加者の皆さん、全員髪の毛を剃っているようですが、これもシキタリなんでしょうか』 「そうなんです!実は髪だけではなく、参加者は全身無毛でなければなりません。腕や脚の毛はもちろん、男たちは陰毛もしっかりと剃り落しています。ちなみに我々撮影班は裸走りの正式な参加者ではないので、このシキタリからは除外されています。そして注目していただきたいのは男たちのこの堂々とした佇まい――ひとりとして陰部を隠そうとする者はおらず、むしろその肉体をこちらに見せつけているかのようです。参加者の職業は多種に渡り、漁師や警官、酪農家やサラリーマンと様々ですが、家族のために日々汗を流す彼らの肉体はどれもがどっしりと構えていてご立派です! おおっと!なんと、先ほどご紹介した鯉山さんを始め、数名は明らかに勃起しています!これから始まる勝負に興奮が抑えられないのか、それともなにかの作戦なんでしょうか。只今神社の職員の方が参道の脇に捌けました、ついに裸走り開始でしょうか。辺りが急に静かになりました……」 〆 後編へ続く……→ https://teopi.fanbox.cc/posts/6558091