観戦編③→ https://teopi.fanbox.cc/posts/6441363 ~*~ 「ケ、ケンスケ君、久しぶり……」 「……久しぶり…」 「……なんか、成り行きで手伝うことになってね……ゴメンね、練習中なのに」 「別に、大丈夫……」 ケンスケ君は斜め下を向いて目を合わせてくれなかった。こんな格好を久しぶりに会う親戚に、ましてや女に見られて平気なはずがない。私が申し訳ない気持ちで言葉に詰まっていると、武藤コーチは容赦なく切り込んだ。 「なぁ服部、その手はなんだ?親戚の姉ちゃんの前で恥ずかしいのかもしれんが、大会では親戚はもちろん、もっと大勢の前で裸を晒すんだ。だからこそ、練習中は前を隠すなと指導してきたんだ。エースのお前が、まさか忘れたワケじゃないよな」 私はコーチの誘導にギョッとした。 「どうなんだ、服部」 私がコーチを止めようとまごついているのをよそに、一方の従弟は決心をしたようだった。彼はゆっくりと両手を体の後ろにまわし、顔を背けたまま立派な陰部を私の前でぼろんっと出した。 「――キャッ!」 反射的に私は顔を覆ってそっぽを向いた。 「顔を上げて、背筋を伸ばす!しゃんとしろ、しゃんと!」 「はいっ!」 一体なぜこんなことに?私はただかわいい従弟にまた会いたかっただけなのに……!相変わらず顔を隠している私を武藤は鼻で笑った。 「望月さぁん、せっかく服部が見せてくれてるんだから、ちゃんと見てやンないと。さっきも言ったよね、男の裸に慣れないとって。この程度でうろたえてるようじゃあ、大会での仕事もままならないよ。ほら、手を避けて、前を見て」 この武藤と言う男、なんてやつだ。初対面から間もないが、その自信と威圧感から根っからのS気質がにじみ出ていた。傍から見ても部員とコーチの極端な主従関係が手に取るように見えた――強豪校の体育会系部活とはどこもこういうものなのだろうか。いずれにせよ、私みたいなメンタル弱々女がそんなS男に口ごたえできるわけもなかった。 ゆっくりと手を下ろすと、まずケンスケ君の赤面した顔が見えた。コーチに言われて上げた顔は私たちの背後の壁を睨みつけたが、その目の奥には不安と屈辱の色が見え隠れしていた。私はそんな男の人の表情を見るのが初めてだった。 「ちゃんと下も見てやって、望月さん。慣れるための練習だから」 私は完全に観念し、両手を下ろした。心でケンスケ君に謝りながら視線を下げると、さっきはちらりとしか見えなかった男のコの証が堂々とぶら下がっていた。昔、お風呂に入れてあげた時はあんなに小っちゃかったのに、いつの間にこんなに立派に――おちんちんってあまり見たことないけど、一般的にもかなり大きい方なのでは?だって、さっきの二人はもっと小さかったし……。 「服部はねぇ、水泳の成績だけじゃなくてチンコのデカさもエース級なんだ。加えて顔もイケメンとくれば、そりゃあ女子にモテて当たり前だよな。望月さんはどう?格好いいでしょ?」 どう、と言われても……。なんか先っぽにピンクの部分が少しだけ覗いてる……あれって「亀頭」ってやつだよね?彼氏のいたことのない私はおちんちんの事はよく分らないけど、ケンスケ君は皮が被ってる「包茎」ってことだよね。あれ、そういえばおちんちんの毛が全然生えてない……。 「陰毛も無いからチンコが余計デカく見えるよねぇ。これも新しいルールの一つでね、男子選手は陰毛も処理しておかないといけないんだ。まぁ、水泳選手は元々ムダ毛処理するのが当たり前だし、陰毛が加わったところでどうってことはないけど」 それは当事者ではないコーチが言うべき台詞ではないのでは、と内心思ったが、私は口を噤んだ。 「どう、望月さん?今度の大会では大丈夫そう?」 「……あっ、あの、はい……頑張ります」 「ははっ、まぁ幾つも見てたらチンコなんて全部同じようなモンだから、そう気負うことはないさ。服部はどうだ、大会でも物怖じせずに実力を出せそうか?」 「はいっ!大丈夫です!」 「いい返事だ!お前には期待してるぞ!」 「はいっ!頑張ります!」 嗚呼、きっと恥ずかしいだろうに、懸命に声を張り上げて……ホントにゴメン、ケンスケ君……。 「ケンスケ君、じゃなくて――服部くん、今度の大会では私もサポートを頑張るから、よろしくね……」 「はいっ!よろしくお願いします!」 ケンスケ君は武藤に返事をする時と同じように、顔を上げて声を張り上げた。 「よし!もう練習に戻っていいぞ!」 「はいっ!」 ようやく解放されたケンスケ君は再び足早にプールへ戻り、空いたレーンに飛び込んだ。心なしか私自身も緊張から解放された感覚がして、ため息をこぼしてしまった。 「ってことで、当日の諸々に関してはマネージャーの桐島から詳細のメールが届くはずだから、なにかあれば彼女に聞いてくれ。他に何か、俺に聞きたい事とかある?」 「……あ、えっと……いえ、ないです……」 「じゃあ、大会でよろしくね、望月さん」 「はい、今日はどうもありがとうございました。失礼します……」 ~ 「ねぇ、聞いてよお母さーん!」 私はその日、家に帰るなり母にまくしたてた。 「なんだぁ、アカネか。びっくりするじゃない」 「もう、ホント信じられないんだからー!」 私は武藤コーチやケンスケ君とのやり取りの一部始終を母に伝えた。母親に話すようなことでもなかったが、私はとにかくケンスケ君が受けていた仕打ちを、彼を知っている誰かに聞いてほしかった。 「ありえなくない?男のコだけみーんな!すっぽんぽんだよ!」 「あんた、水着禁止ルールのこと知らなかったの?ちょっと前にテレビで話題になってたわよ」 「そんなの知らないよー!」 確かに思い返してみると、ネットニュースで『水着禁止』の単語は目にした気はする。その時は釣りタイトルだと思って記事を開かなかったのだけれど。 「だってさー、大学生っていったら体はもう大人じゃん。コーチのオッサンも横暴でさ、ケンスケ君の裸だってばっちり見せられてさぁ。ケンスケ君がかわいそうだよ……」 「あらま、そりゃビックリね。まぁ、男のコだし、平気なんじゃない?」 「そんなわけないよ!今は昔と違うんだから、小学生の男の子だってプールの時の着替えはマントみたいなタオル使って隠すんだよ」 「へぇ、最近はそんな物まであるのね」 私の切迫感はあまり母には伝わっていないようだった。 「で、ケンスケ君は元気だった?アソコも大っきくなってた?」 「もうっ!お母さんまで!」 「ふふっ、冗談よ、冗談」 めちゃめちゃ立派になってたよ!とはさすがに言えなかった。 「そういえば、お父さんが学生時代にアメリカに留学してたの知ってるでしょ」 「……うん、何回も聞かされたけど」 なぜここで父の話のなるのか分からなかったが、私はとりあえず素直に返事をした。 「もう大分昔よね、確か70年代の初め頃だったかしら?その時にね、地元の人に連れられてプールに遊びに行ったんだって。多分市民プールみたいなトコ」 「うん……」 「その時にね、お父さんが水着に着替えようとしたら止められたんだって。だって女性も子供もいる普通のプールよ?水着を着なかったら裸じゃない?でもね、そのプールは男の人は水着を着ちゃいけない決まりだったらしいのよ」 「え、なにそれ?それホント?」 「ねっ、嘘だと思うでしょ?だからお父さんも最初はからかわれてるのかと思ったらしいの。でも、一緒に行った人たちが裸のままプールに出ていくからついて行ってみたら、本当にプールにいる男の人が皆すっぽんぽんだったんだって!」 「本当に水着禁止だった、ってコト?」 「そうなのよ、ビックリよねぇ」 まさか、外国では昔から男の全裸水泳が行われていた……? 「なんでそんなルールがあったんだろ?」 「うーん、お父さんがなんか言ってたわね……確か、水着の繊維が排水管に詰まるからとかそんな理由だったかしら」 「えー、でもそれじゃあ女性の水着だって同じじゃない?」 「そりゃ、あんた、女が人前で素っ裸になるわけにはいかないでしょ」 「男の人だって、人前で裸になるなんてイヤでしょ」 「まぁ、そうかもしれないけど……まぁ、そういう時代もあったってコト。あくまでも外国の話だけどね」 「ふーん……」 それでも、やはりケンスケ君がかわいそうで仕方がなかった。もちろん、他の男子部員たちにしても。でも、私にできることなんてないわけで、母に愚痴っても心はあまり晴れなかった。 その夜、私は中々寝付けずに裸の大学生たちに思いを巡らせた。おちんちんを人に見られるってどんな気持ちなんだろう?女でもおっぱいの大きさを比較されたりするけど、男はそれ以上にアソコの大きさが本人の評価に直結している気がする。高校の頃、不人気な教師が陰で男子に「短小包茎」呼ばわりされているのを思い出した。 せっかく久しぶりに会ったのに、あんな形での再会ってないよ……。ケンスケ君は早くに父親を亡くしており、子供の頃はよくウチに預けられていた。一緒に遊んだり、一緒に宿題をしたり、一緒にお風呂に入ったり……母親がよく働きに出ていて寂しかっただろうに、ケンスケ君はいつも明るく元気で、笑顔を絶やさない男の子だった。私の脚にしがみついて「おねぇちゃん、おねぇちゃん」と甘えていたのがつい最近の事のように思い出せる。 それが今やケンスケ君もいっぱしの大学生――背はいつの間にか私を追い越し、表情も凛々しくなって、大人びた顔つきになっていた。それこそ、男のコの部分もかなり成長して……って、ダメダメ!私は何を思い出してるんだ! 私の知らないうちに立派に成長していたケンスケ君……私だけが変われずに、未だに昔のまま。あんなに小さくて可愛かったおちんちんも今では……って、だから思い出したらダメだって! 県大会ではどんな顔をしてケンスケ君に会えばいいのだろう?こんなこどおばに裸を見られてしまって、ケンスケ君にしたら耐え難い屈辱だっただろうと思う。せめて私は、試合の邪魔にならないように与えられた仕事をこなすしかない。まだ一週間以上先の大会に向けて不安と緊張を抱えながら、私はいつの間にか眠りについていた。 ~ 大会当日は予想よりも忙しく、目まぐるしく過ぎていった。 「望月さーん、俺の水筒取ってきてくれます?ブルーのデカいカバンの中っす」 「は、はーい!ただいまー!」 私は雑用係としてプール裏の控室で走り回っていた。忙しくはあったが、部員一人一人との交流は最小限に留まり、私にとって好都合だった。何度見ても若い男たちの裸姿には慣れず、仕事に集中することで私は気を紛らわせた。 「はい、柴山くん、水筒」 「ありがとうございます。っていうか、俺の名前覚えててくれたんスね!すごいっす!」 「あはは……ありがとね……」 陽気に話す柴山くんはベンチに腰掛け、首にタオルを巻いていた。もちろん、衣類はまったく身に付けておらず、筋肉質な太ももの間におちんちんをあっけらかんとぶら下げていた。ケンスケ君と同じで包茎だったが、先っぽでより多くの皮が余っていた。彼はそんな自分の格好を全く気にしていないようで、私の前でも隠す素振りを全く見せなかった。そりゃそうだ、試合では何百人もの前で裸を見せるのだから、今更隠そうとするのもおかしな話だ。 何か仕事はないかと辺りを見渡していると、少し離れた場所にケンスケ君が座っているのが見えた。実はあの日以来、彼とは直接言葉を交わしていなかった。このままだと気まずいまま、また何年も会わないなんてこともあるかもしれない……私は勇気を振り絞って彼に歩み寄った。 「ケンスケ君も、水分補給は大丈夫?」 私がペットボトルの水を差しだすと、ケンスケ君は私をチラリと見上げてそれを受け取った。 「……ありがとう」 先ほどの柴山くん同様、ケンスケ君は陰部を隠そうとはしなかった。この前の一件で吹っ切れたという事もあるのかもしれない。でも、さすがにソレが視界に入っているままでは気まずく、私はケンスケ君の隣に腰を下ろした。 「……えっと、その、この間はあんなことになっちゃってゴメンね。私ニュースとか全然疎くてさ、新しいルールのこととか全然知らなくて…」 「べ、別に、ねぇちゃんのせいじゃないよ。俺も変に意識しちゃったっていうか、会うのも久しぶりだったし……」 「ねぇちゃん」と呼んでくれたことに私は胸を撫でおろした。嫌われてはいないらしい。 「おばさんは元気?あれ、ケンスケ君って寮生活だっけ?」 「うん、寮だけど、母さんは元気すぎるぐらい元気。しつこく連絡してくるし」 「ふふっ、そっか、よかった。また今度ウチに遊びにおいでよ、昔みたいにさ。お母さんもきっと喜ぶと思うし」 「うん……後でライン交換しよう」 「オッケー」 声の低くなったケンスケ君の口調は大人びていて、なんだか変な感じがした。 「望月さーん、新しいタオル持ってきてくれる?」 「は、はーい!ちょっと待ってね!」 他の部員に呼ばれて、私は慌てて立ち上がった。 「じゃ、試合頑張ってね!ケンスケ君なら大丈夫!って、私なんかに言われても説得力ないか……」 「ううん、ありがとう。絶対に優勝してくるから、見ててよ」 裸のケンスケ君は得意げにニカっと笑い、二の腕の力こぶを見せつけてきた。私はようやく彼の本心を覗けたような気がした。そうだ、どれだけ体が大きくなろうとも、どんなに大人になろうとも、ケンスケ君はケンスケ君だ。小さかった頃と変わらないその無邪気な笑顔を見て、私は潤む目頭を笑ってごまかした。 〆 これにて【全裸競泳】シリーズは完結です!ここまでお付き合いくださった方々には感謝しかありません!また節目の時にでも制作ウラ話などができればと思います。では皆さん、お疲れさまでした! 追記:書き下ろしの【全裸競泳】シリーズ・番外編「小さい柴山くんと兄弟の話」を含めた【全裸競泳】完全版をBOOTHで出品しています。興味のある方はそちらも覗いてみてください→ https://teopi.booth.pm/items/4839869 。本編とは一味違ったコメディータッチで書いてみました。