練習編→ https://teopi.fanbox.cc/posts/5735028 大会編→ https://teopi.fanbox.cc/posts/5965807 ~ <観戦者①:藤田ミキ、水泳部女子部員> 「間もなく男子200mバタフライを開始します。出場選手は速やかに位置に付いてください」 この半年間、私は一生分以上のチンチンを見た気がする。プールに響く抑揚のないアナウンスを客席から聞きながら、私はそんなことを考えていた。 「あっ、牧田くん出てきたよ、ミキのお気に入りでしょ?ちゃんと見てあげなよ」 隣に座るチームメイトのカナが笑い交じりに耳打ちしてきた。 「練習でイヤと言うほど見たよ。もうチンチンは十分」 半年前、私たちはコーチから初めて男子の「水着禁止令」の説明を受けた。そしてその直後、コーチの命により男子たちはすっぽんぽんでプールに現れたのだった。今でも思い出せる、彼らの屈辱に涙ぐんだ眼差しを……。 「えー、別にあたしチンチンの話なんかしてないよー。泳ぎをちゃんと見てあげたらって意味だったんだけど?」 「ふーん……」 いたずらっぽくはにかむカナをじとりと見返してから、私はスタート台に上がる裸の牧田くんに視線を移した。カナは陽気にまた話し始めた。 「ホント牧田くんって小さいよねぇ、ウチの弟でもあれよりは大きいよ」 「チンチンの話じゃなかったんじゃないの?」 「まぁまぁ、そうマジにならんで」 他の選手を見渡すと群を抜いてデカい選手はいなかったが、その中でも牧田君の小ささは目立っていた。 「弟っていくつ?」 「中学二年」 「っていうか、なんで大きさ知ってンの?」 「事故って脱衣所でばっちり」 「最悪。弟くんかわいそー」 「それがさぁ、昔よりデカくなってて、いつの間にか男らしくなってたわ。皮は被ってたけど」 「他人の弟のチンチンのことなんか聞きたくないんだけど……」 「まぁそれはさておき、男子はホント辛いよねぇ。男なら裸見られても問題ないってことなんだろうけど、こんな大勢に全部見られちゃってさー……あたし女でよかったわー」 「ほんそれ。初めは練習でもかなり気まずかったし」 試合での水着着用が禁止になってしまった以上、それに従わざるを得ないことは理解できた。ただ、いきなり私たち女子の前で陰部を晒せというのはさすがに男子が可哀そうに思えた。そもそも試合だけじゃなく、普段の練習まで裸でやらないといけない必要性があやふやだったし、それを強要するにしてももう少しやり方というものがあったのではないか。あの日の切羽詰まった男子たちの表情を思い出すと少し心が痛んだ。 「男は異性よりも、同性を支配することでこそ最高の優越感を得られる」――あの日のコーチの満足気な表情を思い出すとそんな言葉が思い浮かんだ。そして、そんなコーチの態度に女子部員の大半が影響されたのは言うまでもなかった。彼女たちはそれ以来男子のチンチンについて指摘したり、困惑する男子の反応を楽しんだりした。私にはその面白さが理解できなかったが、女子たちはあの日からしばらく部員のチンチンの話で持ち切りだった。 「あっ、始まりそう」 選手たちは生尻を突き上げ、スタート台の端を掴んでいた。数秒の沈黙の後、電子音と共に選手たちはプールに飛び込んだ。次の瞬間、客席の観戦者たちは騒がしく声を上げたが、私はなぜかチンチンについて思いを馳せていた。 私が記憶している最初のチンチンは父親のものだ。風呂場でよく見た父親のそれは長くブラブラしていて、剥き出しの亀頭部分がやたらと肉厚だった。それを最後に見たのはずっと昔の事なのに今でも鮮明に思い出せるのは、きっとソレに対しての嫌悪感が強烈だったからだと思う。自分や母親にはないその器官が生々しすぎて、私は子供ながらにチンチンが苦手になってしまった。 だが、皮肉にも男子部員のチンチンを毎日見ることでそんな私の苦手意識は徐々に払拭されていった。私は世のチンチンは全て父親のモノと同じようにブラブラして、亀頭が露出しているものだと思っていた。でも、いざチームメイトたちのチンチンを見てみると、そのほとんどが皮被りで、父親よりも全然小さかった。それらはぶら下がっているというより、むしろプルプルと揺れている印象だった。これまでチンチンに抱いていた「気持ち悪い」と言う気持ちは、男子の全裸練習を経ていつしか「なんかカワイイ」にすり替わっていた。 「牧田くーん!がんばれー!」 カナがプールに向けて声援を送った。少し目を離している間にレースは折り返しを迎えていた。首位は牧田くんに見えるが、二番手の選手も近く追いかけてきている。 「がんばれー!」 私もプールに向けて声を上げた。普段はこんなことしないけど、牧田くんは特別。最後の50m、息を呑むデッドヒートに客席は興奮の渦に巻き込まれた。バタフライ泳ぎで体がうねる度に選手たちのお尻が水面から顔を出しては波にのまれた。残り数メートル、首位の選手たちは互いに一歩も譲らない。後、もう少し――! 選手たちは水中の電子版をタッチし、間髪入れずに背後の電光掲示板を見上げた。私たち観客の視線もそこに映し出される順位表示に集中した。 「あぁ、残念……」 「惜しかったね……」 牧田くんは惜しくも二位フィニッシュだった。本人もプールの中で落胆した表情を浮かべている。 「でも、関東大会には進めるみたいだし、よかったじゃん」 カナの慰めに生返事をしながら、私はプールから上がる牧田くんを見つめた。敗北による落胆のせいか、練習の時よりも彼のチンチンは小さく縮こまっていた。ドングリみたいな形の竿部分がピョコピョコと小刻みに跳ね、包皮が余った先っぽから滴った水が飛び散った。 男子が水着を取り上げられる前から牧田くんのことは気になっていた。お調子者に見えて仲間思いなところとか、バカっぽく見えて実はちゃんと考えてるところとか、私が初めに惹かれたのは彼のそんなところだった。でも、牧田くんのチンチンを見てから私は更に彼のことが好きになってしまった。きっと男子部員の中でチンチンが一番小さい牧田くん――でも、私にはそれがむしろ魅力的だった。体は筋肉質でガッチリしているのに、チンチンはまるで子供というギャップが私の興味をどうしようもなく掻き立てた。だからこそ、彼本人が小さいことを気にしている様子を見ると、私はなんだか歯がゆい気持ちになるのだった。 「あれ?見てよミキ。牧田くん、なんか取材受けてるよ」 「えー……ホントだ、しかも裸のまま?」 「コーチの前だから隠せないし、取材してる女の人にモロ見えじゃん」 「あっ、でも今隠したよ。まぁ、コーチでもそのぐらいは許してくれるんじゃない」 「どうだか……」 私は硬い席に沈み込み、ガラにもなく浮かれた声でカナに宣言した。 「デートに誘ってみよっかな、牧田くん」 「マ?自分からは誘わない主義じゃなかったっけ」 「だって、さり気にアピールしても牧田君ってば全然気づいてくれないんだもんさぁ」 「牧田くん陽キャっぽいくせに意外と奥手だよね。皆に短小短小言われてちょっと自信無くしてるんじゃね?って、あれっ、牧田くん逃げた」 「どうしたんだろ、なんかコーチに言われてたみたいだけど」 「なんにせよ、負けちゃって落ち込んでるだろうから、慰めてやりなよ」 「言われなくても」 プールから走り去っていく牧田くんの白い生尻を目で追いながら、私はクスっと笑いをこぼしてしまった。 〆 「【全裸競泳】男子選手の水着禁止令~観戦編②」へ続く……→ https://teopi.fanbox.cc/posts/6441358