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ヒトクイグイ……1

 貴方の周りに不可思議に失踪した方は居ませんか?それはもしかしてたら人食いの仕業カモ!泣き寝入りは悔しい?人食いから守って欲しい?そんな方は我々にお任せを!連絡先には此方へ!お金は要りません!必要なのはただひとつだけ。  連絡先*******まで! 「ようこそ。依頼主の水原さんですね」 ××区の廃ビルの二階。錆び付いた階段を登り、西口の一番奥の部屋。指定されたのはそんな胡散臭い場所。数十年前に破棄された廃ビルの筈だが、その部屋内は新築のオフィスのように整う。 (甘い……匂い……)  革張りのソファに座り、出された珈琲を飲む。 「あ、あまい……」  砂糖がこれでもかと入れられている。正直、甘ったるくて飲めたものじゃない。 「失礼。珈琲は甘い方が好きなもので」  少女を出迎えたのは、意外なことに細身の女性だった。廃ビルの二階で無ければ、ごく不通のOLに見える。女性は少女の対面に座り、同じく珈琲を飲む。よく飲めるなと思いながら、先程から視線に入るなにかに怯える。 「では早速依頼の話に移りますか?」 「あ、えと、その」 しかし、少女の視界に映るそれは無視するには余りに存在感があり過ぎた。 「すやー」  コミカルなイラストの書かれたアイマスクを被り、それは寝息をたてていた。安眠椅子に揺られるそれは白地の拘束衣を着せられている。足も手もベルトで固定され、身動き一つ取れない状態だ。時折、身体をくねらせて気持ちよさそうに寝ている。それが不気味で仕方が無い。 「ああ。まだ気にしなくて良いです。まだ契約は成立していませんし 「はぁ……」 「では改めて依頼の話をしましょうか」 「自己紹介がまだでしたね。私は……え~と」  何故かは分からないが言葉が詰まる女性。しばらくペンを頭に当て考える。 「そうだ『小此木葉子』でした。葉子とお呼びください」 「……水原サチです」  深く追及はしない。そこに踏み込むのは、何か不味い気がした。だから名前を名乗り、本題へと入る。 「弟さんが行方不明でしたっけ?」 「はい……もう二週間にもなります」 「ああ、それはもう亡くなってますね」  気遣いもなにもない葉子の言葉。しかし分かっているとばかりに少女も頷く。 「もう葬式も済ませました。気持ちの整理もつけた日……三日前にこれが届きました」少女はスマフォを取り出し、メールの画面を見せる。画像の送付されたメール。件名は『お姉さんへ』と書かれている。 「ふむ」  学生服の中学生くらいの少年と、目元を隠した長髪の女子高生。女子はピースを決め、一見すると微笑ましいカップルのように見える。しかし少年の顔は困惑、そして恐怖に変わる。その視線は妊婦程に膨らんだ女子高生の腹部。その形は明らかに異物であり、少年はそれに酷く怯えている。  メールは複数件あるようで、開いていく。腹部を膨らませた女子高生が少年に覆い被さる様子。そして、少年が犯される画像が纏めてある。 「ふむ、最後のは動画ですか」  件名は『次は貴方の番』。メールを開き添付された動画を再生する。そこには映し出されたのは先程の女子高生のみ。相変わらず目元は隠されている。少年は何処にいったのか……それに答えるように汚ない音が響く。 『げええっぷう!』  女子高生が巨大なゲップをすると共に、カメラが腹部を映した。異常な程膨らんだ女子高生の腹部。 ぐぎゅるるる~!ぐるるる~!  腹部から蠕動音が響き渡る。歪に歪み、更に激しく蠢く。その女子高生はうっとりしながら、自慰を始める。腹部がアップになり、一瞬だけ顔のような影が浮かび上がる。しかしすぐに収まる。喘ぎ声、蠕動音、秘部を淫らな水音が続く。やがて絶頂した彼女はゆっくりと立ち上がり、カメラに近づく。その腹の膨らみは先程より明らかに萎んでいた。カメラに向かい微笑み、舌舐めずりをする。そして、 『ぐげえええっぷうう!』  再び轟音をたてゲップをカメラに浴びせる。そして服を着始める。その間にも膨らみは徐々になくなる。そこで映像が途切れる。 「ふむ。これはこれは。後で私にこの画像と動画を送ってください」 「……その、この動画の男の子が私の弟です」 「可哀想に。食べられてしまいましたねー」  口とは裏腹に笑顔を崩さない葉子。貼り付けたような不気味な笑顔だ。マネキンを相手にしているようでサチは落ち着かない。 「次は貴方の番ですか。なるほどー。この人喰い女は貴方を次の獲物と決めたようです」 「さて。どうしますか?こんな所まで来たのです。答えは決まってるんじゃないですか?弟さんは生きたまま丸呑みされたのでしょうね。とても痛かったでしょうね。この動画を見てどう思いました?」 「……怖かったです……でもそれ以上に……私の弟を……私は弟を愛していたのに!ビッチが……」  静かに。燻りが火を灯すように。口調に熱が込もっていく。拳を握り、歯を食い縛りながら語るサチの姿は痛々しく見える。 「許せない!許せるはすがない……!だから!あの女を殺したい……弟を犯したあの女の子宮を引きずり出してやりたい!」  大人しそうな少女からは信じられない程の罵声が幾つも飛び出す。それを葉子は眉一つ動かすことなく聴く。 「でも、無理です。きっと相手はバケモノ……非力な私では……かといって警察に話したって信じて貰えるハズがない」 「だからここに着た」  のそりと後ろのそれが動く。 「んん……よき匂い……尊き匂い……恐怖と嫉妬と怒りの混じったぁよき匂ひ……あああたまらないたまらない……」  その異常さにサチが怯える中、葉子だけは笑みを絶やさずにいた。まるでこうなることを分かっていたかのように。彼女は悟った。自分は逃げられないのだと。そして同時に歓喜した。これで弟の仇をとれるのだから。  それはのそり立ち上がる。びちゃりびちゃりと長い舌を出し、唾液で床を濡らしながら。 「まだですよ?ミコさん。契約が済んでません」 「はぁ……辛抱たまらぬ……早く早く早く早く早く早く早く早く……我慢出来ぬ、必要なし!」 唾液を撒き散らしサチに飛びかかる。思わず目を閉じる。 「ひっ!?」 「まだと言ってるんですよ?」  飛びかかろうとしたそれの舌に、葉子は躊躇なくボールペンを突き刺す。 「あ、えええ?」 「ミコさんは犬ではないのですから。待てくらい覚えてください」   そのままそれの顔を掴みテーブルに叩きつける。トマトが潰れるような音が響く。 「な、そ、その人?大丈夫なんですか?」 「いやぁーこれくらいしないと、貴方が死んでしまいますから 「?」  何度か叩きつけるとそれはピクリとも動かなくなる。葉子はテーブルの下からロープを取り出すと、それで拘束する。 「さて、お話の続きですが 「ま、待って!そ、その人……?大丈夫なんですか?」 「大丈夫なんじゃないですか?」  何故か他人事のような葉子。それはテーブルに顔を突っ伏したまま動かない。 「もう大丈夫でしょう。ほらミコさん」  ミコと呼ばれたそれは、ゆっくり顔をあげた。 「いやあん。ごみんごみん♪ついつい興奮(*゚∀゚)=3しちゃってさぁ♪」   にへらっとしたミコにサチはきょとんとする。しかし奇妙なことに鼻血一つ出てはいない。 「まだ我慢しなきゃあね♪とてもよい匂いだからぁ」 「ミコさん。ボールペン返してもらえます?」 「んぎゅ……呑んじゃったぁ(^-^)」   明らかに異常なやり取りにサチは逃げ出したくなる。だが、弟の仇を討ってくれるのは同じ化け物だけだ。 「化け物なんてひどぉい(。´Д⊂)ミコちゃんしょっくー! 「!」  考えてることをぴたりと当てられてびくんと心臓が跳ねる。 「そんなに恐がんないでよぅ(o≧▽゜)o」 「はいはい。もうミコさん黙れ」  ぺちんっと軽い音がなる。どうやら葉子が叩いたようだ。ミコは叩かれた頭を押さえ涙目になる。その様子を笑いながら見ていた葉子は、咳払いをして話を戻す。 「こほん。さて。送付した誓約書ですが。しっかり目は通されましたか? 「はい……」 「その内容を確認の上で……私達にご依頼ですね」 「…………………はい」 「分かりました。ではここに血印を」 葉子は小さなナイフをサチに手渡す。 「……っ」  指先を僅かに斬り、その血で烙印する。 「では祷りを彼女に捧げて下さい。そうすれば代償が提示されます。それを捧げれば契約は完了です。 「…………」  サチは恐る恐る安眠椅子で足をぷらぷらさせるミコに近づく。神への生け贄となる生娘のように膝付く。 「神喰いさま神喰いさま……どうか私の願いをお聞きください。我が一部を捧げます」 涙目に目を閉じ、祈るように告げる。しばらくの沈黙。ミコが口を開く。 「おいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうおいしそうぅぅううう」 「……ひぃ……!?」  ミコの唇から長い長い舌が現れる。大量の唾液を撒き散らしながら、サチの身体を撫でていく。思わず葉子を見るが、笑顔を崩さないまま見守るだけだ。 じっくり爪先から、頭の先まで舐め回される。 「目とじるな」 「……!?」  ミコがそう言うとサチの目が見開かれる。閉じることが出来ないのだ。眼球すら自由に動かせない。 「れろん……」 「……っぅ!」 眼球を滑る舌が何度も往復する、唾液にぬるつく舌は蛞蝓のように、彼女の眼球を這う。しかし目蓋が決して閉じない。視界がミコの舌に染まる。紅い蛞蝓が自らの眼球を這う……その光景から決して目を逸らせない。 「きーめぇた……この『おめめ』お一つくださいな♪」 「……ひ……う……目? 「そう!目!目玉!瞳!眼球!eye!どんより光る貴女の眼球をたべたい! 「……や、やだやめて」 「もう。契約は済みました。なに眼球一つで済むのです。寧ろお安い方ですよ?」 「そ、そんなっ」  少女は金縛りにあったかのように動けない。何か沢山の腕に捕まれているかのように。 「よき匂い……妾好みの良き匂いぞ……」  ミコの美しい桜色の髪が、サチの顔を覆い 被さる。僅かにアイマスクがずれる。そこから覗いたのは――― 「大丈夫♪痛くするから!思い切り痛くするから!  目蓋に舌が捩じ込む。ぐりぐりと奥まで舌が刺さる。ぐるんと舌が回転すると、ぶちんと軽い音が脳に響いた。 「……あ」  脳が目に引っ張られた感触と冗談みたいな軽い音を立て、サチの右目は永遠に失われた。 「ぎゃあああああ!?」  右目の空洞から血が溢れる。喪失感よりも激痛が、少女を支配し絶叫が迸る。 「ん~♡」  ミコと呼ばれた怪物は、視神経がぷらぷらと付いたままの眼球を、さも旨そうに転がす。 「……うああ……いたい……いたいぃい~!」  痛みから無様に転がるサチに対しても、葉子は眉一つ動かさず、 「鎮静剤が要りそうですね。モルヒネの在庫はありましたかね」  そう告げると奥に引っ込む。 「ううう……」  痛みに呻く声と、ちゅぷちゅぷという音だけが残される。幼子のように、無邪気に笑いながら、ミコは彼女の眼球を舐め転がす。 「………う……」  いつの間にか戻って来ていた葉子に、なにか注射器のようなものを刺される。目の痛みが少しも和らぐ。その寸前にミコの顔が迫る。 「……あーん♡」  じゅぷ、じゅぷ、……ぬべぇ♡  長い舌をいやしく伸ばす。 「……私の目……あ……」 「ぐち……ぐち……んふぅー♡」  血まみれだったサチの眼球は、唾液で洗われてぬめりと光る。舌先に乗った自らの眼球を、彼女に見せ付けるとそのまま舌を引っ込める。 「ん♡」 ……ごっくん!  わざとらしいほど大きな嚥下音を鳴らし、少女の眼球はミコの胃袋に収められた。 「一応、応急処置はしてあります。消毒と止血も。義眼も作りますが、少しお待ちを。 「……はい」  麻酔と痛みから気絶したサチの右目にガーゼが付けられていた。 「奥にベッドがあります。事件解決までそこでお休みを。外部への連絡と、外出は一切禁止。分かりますね?」 「………」  案内された殺風景な部屋。ベッドに腰掛け、目を瞑る。 「……!」  ピンク色の肉壁が広がる。まるでそれは何かの体内のようだ。それは失った筈の右目が映していた。 いや。今のサチが右目そのものだ。右目である彼女はあの怪物の腹の中に居るのだ 「あ ……」  肉壁が全身を包む。じっくりと胃袋でも少女を味わうつもりだ。柔らかいが感触に、なにかが垂れ落ちる。  じわじわと溶けていく。サチがミコの体内で溶けていく。彼女の形が胃液に溶け込んで 「依頼主さま。それは気のせいです」 「!!」  葉子の声にサチの意識が戻る。幻覚にしては非常に鮮明で、よく見えた。あの視界は…… 「……私の目……?」 「気のせいです」  失った筈の視界が映したのは、呑まれたその先だ。有り得ない筈の光景だ。 「……葉子さん」 「はい。なんでしょう? 「あの……ミコって人はなんなんですか?」 「ふむ。貴女は人喰いがなんなのかか。分かりますか?」  てっきり黙秘されると思いきや、少し考えて、彼女は質問を返す形で答えた。 「分かりたくないです」 「あれは八百万の神様の血を引いてる人間です」 「は?」 「神様の末裔です。それでミコさんはその神様そのものです」  曰く人は昔神様に食べられる為に作られた生き物だったらしい。  その中でもミコは特に食欲旺盛で、食べ過ぎて他の神からも疎まれるほど。  食べ過ぎて人間が不足した時、彼女は思った。他の神々を食べればもっと食べれるのではないかと。ちょうどその頃人間の中に神葬りが現れており、その人間と手を組み八百万の神を片っ端から食らった。やがて、最後の神となりさぁ人間を食らうぞ。そう思った直後、神葬りの人間が、ミコの四肢と目と舌を裁断し、封印した。ある契約を代価に舌のみが返却されたという。 「それが彼女の正体です」 「……」  正直信じられない話だ。だが、実際目の前で起きたことは現実としか思えない。ならば信じるしかないだろう。 「まぁ嘘ですけど」 「え!?」  あっさり否定する葉子にサチは驚く。今までの話はなんだったのだろうか? 「ただの伝承ですよ。それに仮に本当だとしても関係ありませんし」  確かにそうだ。例え彼女が何者だろうと関係ない。必要なのは彼女の力だけだ。 「とにかく今は身体を休めてくださいな」 「……はい」  サチは大人しく従い眠りにつくことにした。通された部屋は殺風景だが、清潔感のある白い部屋で、窓から差し込む月明かりが心地よいものだった。 「………」  喪った目の奥が疼くような錯覚を覚えながら、サチは眠りに落ちたのだった。


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