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けまり
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少女と消臭スライム1

こんにちは。 いつもご支援ありがとうございます。 今回は小さなスライムと同化させられてしまい、少女の足に奉仕することになるお話です。 長くなってきたので一旦切ります。 次回は月末に直近の投稿のどれかの続編をあげる予定です。 よろしくお願いいたします。 ——この学園は、優秀であることだけがすべてだった。 全国から集められた才能ある生徒たちがしのぎを削り、三ヶ月に一度行われる総合テストで順位を決める。 そして、最下位になった者は……成績一位の者の言うことを、次のテストまでなんでも一つ、言うことを聞かなければならない。 学園に入学時、その契約を結ばされるのだ。 例えば、成績トップに退学しろ、と言われれば、退学するしかない。 この制度の導入されてから、最下位は何としてもとらないよう、生徒が努力することもあり、結果全体の平均が底上げされ、この学園は今まで数多くの優秀な人材を輩出してきたのだ。 俺──相川ユウトも、それを承諾してこの学園に入った。 そして、入学してから、3ヶ月後の、最初のテスト。 ……正直に言う。ナメていた。 「……まさか自分が、最下位を取るとは思ってなかったんだよな……」 掲示板に張り出された結果は、見事に最下位・相川ユウトの文字。 原因は——最近ハマっていたオンラインゲーム。 新シーズンが始まり、気づけば徹夜続きで、試験勉強を碌にしてこなかった。 学園に入るまでは優秀と周りから持て囃され、無勉強でも最下位はないだろう、とたかを括っていたのもあった。 「いや、ほんと……俺、バカすぎない?」 頭を抱えていると、後ろから声がした。 「——相川くん。」 凛とした、小声でも透き通る声。 振り返る前から、誰の声かは分かっていた。 学園の、絶対的トップ。天才にして美少女。 そしてぶっちぎりの成績1位—— 八神アリサ。 入学当時から、話題にはなっていた。 有名企業の社長令嬢だとか、英才教育で既に5ヶ国語話せるだとか、色々と噂されていた。 自分には生涯関わりないだろうと、そんな噂も聞き流していたのだが。 俺がゆっくり振り返ると、彼女はにっこりと微笑んでいた。 「結果、あなたが最下位ね。……つまり、私が言うことをひとつ聞く権利を、私が手に入れたわけ。」 「あ、ああ……分かってる。その、なんだ……カバン持てとか、掃除手伝えとか……そういう感じでいいんだよな?」 まさかいきなり、退学だとか、そんなことも言われないだろう。 俺が期待を込めてそう言うと、アリサは目を細くして笑った。 「ふふ……実はもう決めてあるの。」 「……え?」 彼女は俺の返事を待たずに、くるりと踵を返した。 「話は、放課後に理科室でしましょう。」 理科室。 嫌な予感がした。 逃げようか、という考えが一瞬よぎるが——実際最下位になった以上、逃げたところで状況が良くなるはずもない。 この学園で生活する以上、ここで逆らえば、もっと厄介なことになる。 そう思い、放課後、俺はしぶしぶと理科室へ向かうのだった。 ________________ ユウトが理科室に入ると、アリサは既に待っていた。 窓際のブラインドは半分だけ閉じられ、夕日が細い筋となって床に落ちていた。 「……なぁ、なんで理科室なんだ?」 「決まってるでしょ。実験のためよ。ま、別にここの機材は使わないから、人がいなければ何処でも良いんだけど。」 「じ、実験?」 アリサはうん、とうなづいて、当たり前のように続けた。 「ねぇ相川くん。あなた、スライムって知ってる? ファンタジーじゃなくて、実在のほう。」 「え、あ、うん……何でも取り込もうとする、あのスライムでしょ?一応、授業でも見たけど……?」 「そう。それ。」 数年前に生体研究の副産物として、人工培養されたスライムが誕生した。 危険性は低く、知能も低いが、何でも吸収する習性があるため、今では理科や生物の実験材料として、学校でも普通に扱われている。 アリサはポケットから、小瓶を取り出した。 中には、ぷるん、と震える青いゲル状の生物が入っている。 例のスライムだ。 ……本当に、ゲームに出てくるスライムみたいだ。 「最近、スライムを使った研究が色んな会社で進められているの。特にこれは、うちの会社で開発中の、臭いや汚れを好んで食べて生きるスライムなの。ね、商品化したら便利そうでしょ?」 「へ、へぇ……そんなの、いるんだ……」 俺は自分が呼ばれた意図が分からず、空返事を返す。 するとアリサは、少しだけ眉をひそめた。 「でもね、問題があるの。この子、身体が弱くてね…….例えば、靴の中に入れただけで、数分ですぐ死んでしまうのよ。軽く踏んづけただけでも、すぐ潰れて死んじゃう。」 彼女はスライムを小瓶から取り出して、手のひらに乗せて、指で軽くつつきながら続ける。 「だから、改良しようとしたの。でも——」 「失敗した……とか?」 「そう。消臭スライムまでは作れるんだけど、寿命が短いし、脆い。それに、スライムって知能が低いから、自ら汚れを吸い取るよう動くこともほとんどないの……..」 アリサの声は真剣で、どこか苛立ちさえあった。 「そこで、ある仮説を立てたのよ。」 「……仮説?」 アリサはじっと俺を見つめて笑った。 「そう、仮説。このスライムを人間と融合させれば、生命力を得て、耐久性も増して、長生きするんじゃないか。そして、人間の意思を持ったスライムなら……自分の役割をしっかり理解して、靴の中で積極的に動いて、汚れや臭いを吸い取ってくれるんじゃないかって。」 ——ぞくっ。 アリサのその言葉を聞いて、思わず背筋に冷たいものが走った。 「…………まさか」 「うん。そのまさか、よ。」 アリサは楽しそうに俺を指差す。 「相川ユウト。あなたを、その実験に使わせてもらうわ。」 「はっ!? いや、なんで!? おかしいだろ!?」 「何もおかしくないわ。最下位のあなたは、私の願いをなんでもひとつ聞く義務がある。入学時に契約したでしょ?」 「いやでも——!そんなの!いくら何でも、そんな非人道的なこと、許されないだろ!」 「ふふ、きちんと学園の許可も貰ってるわ。それに…….貴方、テストの点数相当酷かったみたいね。先生もしっかり反省させた方がいいって言ってたわよ。」 彼女は俺に一歩近づき、耳元で囁いた。 「大丈夫——ちゃんと飼ってあげるから。」 心臓が、跳ねた。 「ま、待てってアリサ! 俺まだやるなんて一言も言って——」 「言ったも同然じゃない?」 咄嗟に逃げようとした俺の腕を、白く細い指がつかむ。 「何せあなた、最下位だったんだもの。契約……覚えてるわよね?」 「だ、だとしても、これはやりすぎだろ……!」 アリサは俺の抵抗で乱れた衣服を軽く直しながら、微笑む。 「大丈夫だってば。命に別状はないし、ちゃんと元にも戻せるから。」 「……戻せるのか?」 「ええ。そうね…….じゃあ1週間経ったら、ちゃんと戻すわ。フィードバックも欲しいし。約束するわ。」 ——1週間。 その言葉に、少しだけ救われたような気がした。 いや、実際はスライムと同化する事実から逃れられてはいないのだが、期間限定ということに、縋りたい気持ちが強かった。 ほんとうに、なんで俺は、ゲームなんかやってたんだ……! 「はい、もういいでしょ、決まり。じゃあ、実験の準備をしましょうか。……..これからしっかりと活躍してもらわなきゃね?」 アリサの笑顔は可愛らしく、ただその瞳は、俺を実験素材として扱うことに、一点の迷いもないようだった。 _____________________ アリサは手袋をはめ、一本の透明なボトルを再びポケットから取り出した。 「……それは?」 「開発段階の試験薬。これもうちの会社で作ってるの。肉体変質剤…簡単に言うと、身体を柔らかくして、変化に適応しやすくする薬よ。よくネズミとかに使うんだけど。まぁ大丈夫でしょ。」 「………いや、怖すぎるんだが!?」 「だから大丈夫よ。データだって十分あるし。」 「怖ぇよ!」 だが、アリサは一歩も引かない。細い指で蓋を開け、薬を俺に向ける。 「ほら、諦めなさい。これを飲むの。」 「の、飲むって……!」 俺の手の震えをよそに、アリサは落ち着いて微笑む。 「1週間経てば、戻すから。」 繰り返されるその言葉に、つい心が揺れた。 「くっ……!」 観念するしかなかった。 俺は震える手でボトルを受け取り、中に入った液体を口に含む。 ごくりと喉を鳴らした。 ——苦い。 「ッ……なんだこれ……!」 「だから変質剤よ。すぐに効果が出るわ。そして次はこれ。」 アリサは銀色のケースを取り出した。 透明な注射器のようだった。 それを、先ほど取り出して机に置いていた青いスライムに刺し、中の核をチュッと吸い取る。 「え、それ……まさか——」 「そう。消臭スライムの核。これをあなたの体内に入れて、それとの融合を促すの。」 アリサは俺の肩を掴み、容赦なく袖をまくる。 「ちょっ……待て、アリサ、本気で——」 「はい、力抜いてー?」 針先が触れた瞬間、鋭い痛みが走った。 「っ……!」 どろっとした何かが、俺の体に流れ込む。 腕から肩、心臓を経由して、身体中に冷たい何かが巡っていく。 すぐに体温が奪われるような感覚が広がり—— 「う、あ……!?」 「……始まったわね。」 まず、腕が重くなった。持ち上げられない。 手先の感覚が、無くなっていく。 「お、俺……なんか……変だ……!」 「変じゃないわ。正常よ。データ通り。」 「うう……!」 ついで足の感覚も無くなっていく。立てない。 堪らず床に座り込む。 アリサはその様子を、興味深そうに見つめていた。 「アリサ……本当にこれ……大丈夫……なんだ、よな?」 「ええ、もちろん。」 彼女は微笑んだまま、俺の頬に触れた。 その優しい手つきとは裏腹に、目の奥は観察者のそれで。 「まぁ……もうすぐ人間の形じゃなくなるけど。」 力が入らない。 身体がどんどん柔らかくなり、ぐにゃりと崩れ—— 「ま……待っ、アリサ……!」 俺の視界が下へ、下へと沈んでいく。床に近づく。 皮膚が、青く変色していく。 「アリサ! 本当に戻せるんだよな!? なぁ——」 必死に見上げてアリサに返答を求めるも、アリサはただ微笑むだけ。 ただ静かに、俺の変化を楽しむように見つめている。 「ぐっ…….アリ……..サ……っ……!」 声が出ない。口がなくなり、形が溶ける。 手足が消え、ぷるんとした塊へ。 ——俺は。 ——スライムになっていった。 ———————————— (………ん……あれ、俺、何して..) 気づくと、目の前にアリサの上履きが、建造物のように目の前に聳えていた。 そして俺の身体は、全体が青く透き通っていて、2cm程度のスライムに変わってしまっていた。 相対的に巨大になった彼女がしゃがみこみ、俺を見下ろす。 「ふふ……可愛いー♡綺麗に融合したわね。成功、成功♪」 俺は必死に跳ねて抵抗する。 ぴょん、ぴょん、ぴょん! 「きゅきゅーっ!」 (早く戻せ!俺は人間だ——!) だが、俺の声はもう人間には聞こえない。 せいぜい可愛い鳴き声にしか聞こえないのだろう。 「キュキュ、って声が小さく聞こえるわ。ふふ、暴れてもダーメ。」 アリサの指が俺をひょいっと摘む。 「……きゅっ!?」 (ひっ、やめろおお——!) 俺の全身がぷるぷると震える。 「ふふ……ほんとに可愛い。意識や知能は残ってるはずよ。ユウト、わかる?」 彼女は俺を目の高さまで持ち上げて、いたずらっぽく笑った。 「——これから1週間、あなたはこの大きさで、スライムとして過ごすのよ?覚悟を決めなさい。」 「きゅきゅー!」 (いやだあああああ!!!!) 俺の叫びなど知らないまま、アリサは満足そうに口元を緩めた。 「安心しなさい。貴重なサンプルだもの。ちゃんと飼ってあげるわ笑」 アリサの楽しげな笑い声と、必死に暴れる小さな小さなスライムの情けない声が、理科室に響くのだった。 __________________ ——自分の身体が、自分のものじゃない。 床の上に置かれた感触も、視界の低さも、すべてが現実離れしているのに、夢ではない。 俺は確かに今、透明な青いスライムで、形も、重さも、人間だった頃とはかけ離れてしまっていた。 アリサはそんな俺を床に下ろし、じっと観察するように目を細める。 「さて、ユウト。まずは能力チェックね。」 「きゅる……きゅ、るる……!」 (や、やめろ……もう勘弁してくれ……) 心の中でどれだけ叫んでも、声にはならず、こんな情けない鳴き声だけが出る。 アリサはその声を聞いて柔らかく笑った。 「怖い?そんなに震えないで。大丈夫よ? ただのテストだから。」 俺がビクビク震えているのを楽しむように、アリサは椅子に腰を下ろし、足元を組み替えた。 白く細い指が、上履きを脱がし、ゆっくりと靴下のつま先を摘む。 「ん……ふぅ、やっと脱げた。」 さっきまで、アリサの足を包んでいた、紺のハイソックス。 つま先部分はうっすら湿っていて濃くなっている。 アリサはそれを軽く絞り、つま先を部分に溜まっていた汗をぽたっ、ぽたっと、俺のすぐ目の前の床に落とした。 透明な青の体に、その汗の雫が映り込む。 (……….何してんだ、こいつ……..) しかし次の瞬間、俺の内部で説明のつかない衝動が走った。 (……吸わなきゃ……) 頭では拒否しているのに、消臭スライムとしての本能が、命令してくる。 吸え。 それが食事だ。 それが存在理由だ—— (やめろ……動くな……やめろ……!) しかしそんな願いもむなしく、俺の身体は勝手にずるり、ずるりと汗の雫に向かって動いていく。 「きゅ、きゅるるるっ……!」 人間としての自分の意思じゃない。 ただ、身体の中にある何か本能的なものが、勝手に俺を汗の雫へと押しやっていた。 そして—— ぴちゃ。 「きゅきゅー」 (うあああああああああああ!!!) スライムの表面に触れた瞬間、汗は瞬く間に俺の体内へ吸い込まれていく。 ——しょっぱい。 ——苦い。 ——靴下の繊維だろうか、黒い何かも混ざっている。 頭がおかしくなるほどの情報量が、一気に押し寄せる。 (いやだ……やめてくれ……気持ち悪い……!) 身体をくねくねと動かして、必死にもがくも、一度吸ったものを吐き出すことはできなかった。 アリサはそんな俺の苦悶など一切気に留めず、足元で起きた一連の行動を座りながら見下ろし、興味深そうに笑った。 「——うん。ちゃんと自発的に汚れを吸うわね。これも成功♪」 軽い声が上から降りてくる。 「味はどう?……っていっても、もう喋れないんだった。残念笑」 (味なんて最悪だ!気持ち悪い、早く戻せ、アリサ!!) 「きゅきゅー…….」 返事ももちろん届かない。 垂れた汗は、2滴。 すぐそばにもう1滴があり、そこへまた勝手に動き出してしまう。 (……く、くそ!だ、誰か、助けてくれぇぇぇぇぇ!!) アリサは組んだ素足をぷらぷらと揺らしながら、俺が床に垂れた次の汗を飲み込む様子を、微笑ましく見つめていた。 __________________ 「じゃあ、次のテストね。」 (え……まだあるのかよ……!) 「はい、これ。」 アリサは床の上、俺の目の前に、脱いでいた上履きを置いた。 ———さっきまで、彼女が履いていた上履き。 汗で蒸れているだろう、上履きの内部。 これ以上近づかなくとも、既にわずかにニオイが漂ってくる。 ……..今度はこれに吸い付き、汚れを取れといっているのか。 (いやだ……いやだいやだいやだ……!) 俺は必死に反対側に跳ねようとする。 しかし—— 身体は、上履きのほうへ吸い寄せられていく。 (やめろ!そっちじゃない!違うだろ、俺!!) スライムの身体だからか、意識は俺に主導権があるものの、身体の所有権はスライム側にあるのだろうか。 俺は逆らえず、上履きの方に向かっていく。 ぴょん……..ぴょん……. 「ふふ……見てると面白いわね。ふるふる震えて嫌がってそうなのに、身体はちゃんと上履きへ向かうんだ笑」 アリサは脚をぶらぶらと揺らしながら、引き続き俺のことを見下ろし、観察している。 「ほらユウト、もうすぐよ?」 「きゅ、きゅきゅーっ!!!」 (嫌だ!! 靴なんか絶対嫌だ!!!!) 叫んでも叫んでも、身体はもう止まらない。 「人間を融合したことで、スライムとしての知能が上がってるのね……すごく優秀よ?こんなに早く汚れを見つけて勝手に動いてくれるなんて、想像以上だわ。」 アリサは口元を指で押さえてクスクス笑いながら、感心したように呟く。 そして、ついに俺の小さな青い体が、靴の縁まで到達する。 抗えない。 止まらない。 「きゅ、きゅるるるっ!? きゅううう!!」 (くそ、ここから離れろ! 離れろって!!) アリサが床に置いた上履き。 その外側、特に反り返っていて見える、つま先付近の靴裏の部分は、かなり黒ずんでいて、廊下の埃や細かなゴミが沢山こびりついている。 そして俺は、意識に反して、それにピトッと吸いついた。 (うわああああああああ!!やめろおおおお!!) 瞬間、俺の身体の中に、じゅるりと何かが吸い込まれる感覚が走った。 髪の毛—— 繊維—— 砂粒—— 埃—— その汚れが、すべて味として、突き刺さってくる。 (あああああああああああッッ!!) 吐き出したくても、吐く口なんてない。 体内に勝手に取り込まれ、分解されていく。 「わぁ……すごい。てっきり中に入っていくと思ったんだけど、そういえば最近全然洗ってなかったし、靴の裏とか、すごい汚れてるもんね………そっか、そっちに行くのかー。」 遥か上から、のんびりとしたアリサの声が降ってきた。 「ユウト、今日は上履きで少し外にも出ちゃったから、結構汚れてるかも。髪の毛も砂も……ふふ、ぜんぶ吸っていいわよ。」 (ふざけんなあああああああ!!助けろおおおおおお!!) 俺は必死に跳ねてここから逃げ出そうとするが、身体が上履きの底に貼りついたまま、離れない。 「…….まぁこれはこれで面白いけど、外側は別にいいかな?」 アリサが上履きを持ち上げ、靴裏にくっついていた俺の身体をそっとつまむ。 「きゅるっ!? きゅきゅっ!!」 「こらこら、暴れないの。——あなたの職場はそこじゃなくて——その中だよ?」 アリサは悪戯っぽく微笑むと、そのまま履き口へと俺を運ぶ。 「はい、行ってらっしゃい♪」 俺はなす術なく、そのまま、ポト、と落とされた。 上履きの中は、地獄だった。 落ちた瞬間、むわり、と熱気がまとわりつく。 濃密な湿度や、汗の入り混じった酸っぱい匂い。 中敷にこびりついている、黒い汚れ。 そのすべてが、俺の小さなスライムの体へ、染み込んでくる。 (うぐっ……やめろ、やめろやめろぉぉ!!) 自分の意思では言うことを聞かず、身体が勝手に吸収してしまう。 匂いを、湿気を、熱を、足元の汚れを。 「きゅるるるるるっ!!!」 (やだ……いやだ……もう吸いたくない……!!) 「ふふっ。さ、もう少し奥へ行ってもらおうかな?」 アリサの声が、外から響く。 ゆっくりと、上履きが傾き始める。 「きゅ……きゅるっ……!?」 暗い、行き止まりの方が、徐々に下になっていく。 (落ちる……落ちる落ちる落ちる!!) ずるっ……! 俺の小さな粘塊は、抵抗虚しく、つま先へ転がり落ちていった。 「はい、職場に到着〜♪」 アリサの明るい声とは裏腹に、つま先部分は、濃厚な湿度で満たされていた。 汗が染みこみ続けた、通気性のない、上履きのつま先部分の世界。 足の指に無限に踏みつけられてきたのだろう、足の指の形に、中敷が濃く黒ずんでいる。 そしてその全てが、俺の身体に吸収されていく。 (あああ、ああああッ……!!) 声にならない悲鳴があがる。 身体は勝手に吸い、勝手に仕事をする。 ここが、仕事場。 基本的にはこうやって、これから使われるということか。 考えただけで、絶望が込み上げる。 しかし—— アリサはそれを見下ろしながら、ただ楽しげに笑っていた。 「……うん、すごい。入れてすぐなのに、もう靴の中の臭い、あまりしなくなってきてる。 やっぱりユウト、優秀ね。」 (やめろ……やめてくれ……!!俺はこんなことしたくない……!!) 靴のつま先に転がり落ちたまま、臭気や、そこら中に染み込んだ、汗の酸味を吸い続けて、俺はずっと震えていた。 「じゃあ……そろそろ履いちゃおうかな。」 アリサの軽い声が降ってきた。 (……..!!) 履く。 この世界が、アリサの足で満たされる。 アリサの足がここに入れば、そのつま先に押しつぶされるのだろう。 そしてさらにそこから生まれる汗も、汚れも、全部俺の体内へ入ってくることになる。 (……..もう、やめてくれ……お願いだ……履かないでください……!) しかし、そんな俺の叫びなど届くはずもなく………上履きの中の世界が、ふわりと宙に浮いた。 ダンッ!! アリサが床に上履きを放ったのだろう、その衝撃さえ、俺の小さな身体には爆撃のように響いた。 そして——見えた。 上履きの入り口から、今いる世界を覆うほどの紺色の巨大な物体が、ゆっくりと近づいてくる。 (ひえぇ…….く、……来るなぁ……!) 紺色のハイソックス。 その先端が、俺の今いる場所を覆うように迫ってきた。 布の繊維一本一本が、縄のように太く見える。 そして色が濃くなっているつま先部分の繊維の間には、微細な水滴、汗が沢山こびりついていた。 光が失われていき、代わりに湿気が爆発的に増えていく……… 「……きゅ、きゅるるっ……!」 (やめて……やめてください、入ってくるなぁ……!) つま先部分へ押し寄せてくる、巨大な塊。 その迫力は山が崩れてくるような、そんな圧倒的存在感だった。 そして—— ズンッ!!! 圧倒的な圧が、のしかかった。 「きゅ……っ……!!?」 (がっ……..つ、つぶれる……!! おれ……潰される……!!) 人間の頃なら、即死の圧力。 しかし——スライム化したこの身体は、潰れなかった。 人間の皮膚組織の多さと、スライムの柔軟性を併せ持つこの身体は、幸か不幸か、それぞれ単体では耐えられなかった重さにも、耐えられるようになっていた。 つま先でぐにゃりと押し潰されながらも、粘性のある身体は、その圧に下手に逆らわず、形を変えることで、形を保っていた。 「へぇ〜……以前のスライムだったら、いまので弾けちゃうのに!」 アリサの感心した声が、外から響く。 「やっぱり人間と融合した分、組織が詰まって、耐久力も格段に上がってるのね……..これも成功、と。それに——」 つま先が、俺をぐに、ぐに、と押しつぶすように動く。 ぐにゅっ……ぐにゅ、ぐにゅ…… 「踏み心地も……すっごく良い感じ♪」 (やめろおおおおおおおお、ここから出せぇぇぇぇぇ!!) 俺は届かないと分かっていながらも、必死に叫び続ける。 何とか形を保てるものの、押し潰されて、苦しくないわけがないのだ。 身体を曲げられない方へ思いっきり曲げられているような、そんな痛み、苦しみが繰り返し襲ってくる。 しかし抵抗しようにも、スライムの身体は柔らかすぎて、つま先に何もダメージを与えられない。 押され、潰されれば薄く広がり、指が離れれば、またぷるんと元に戻る。 「……それにね? 汗もちゃんと吸ってくれてるでしょ?」 アリサが俺を摘むように、足指をキュッと丸める。 その動きで、つま先の布の湿った部分が、俺の身体に押し付けられる。 そして—— じゅわぁぁ 靴下に染み込んでいた汗が、体内へどっと流れ込んできた。 (ああああああッ!! しょっぱい……苦い……やだ……!) 人間だった頃の舌の感覚が、スライムの全身に広がったかのように、 汗の味が、身体のすみずみにまで押し寄せる。 その後もアリサは繰り返し、足指を曲げたり伸ばしたりして、俺に何度も靴下に染み込んだ汗を吸わせてきた。 「ねぇユウト、どう?沢山吸えてる?……これからもいっぱい吸うことになるから、早くこの味を美味しいと思えるようになるといいわね。ふふっ」 (ふ、ふざけるなぁぁぁ!!) 「今日は色々動いたし……結構濃いでしょ?」 アリサは今度はつま先で俺をもぞもぞと、足指を押し当てたり離したりしながら、圧力をかけて遊んでくる。 スライムの身体は、何度押されても壊れてくれない。 むしろその度にまた汗を吸い、臭いを吸い、仕事をしてしまう。 (やめて…くれ………本当に、もう……!) 「さぁ——ユウト。今日からいっぱい、そこで働くのよ?」 つま先の圧が、さらに強くなる。 その瞬間、俺の身体は大量の汗と熱を吸い込み、味覚が爆発するような刺激に襲われた。 「きゅるる………..」 (がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!) ——スライムになった俺の悲鳴だけが、つま先の奥の僅かな空間で、虚しく反響するのだった。


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